特許第6406052号(P6406052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6406052
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20181004BHJP
   F16H 57/038 20120101ALI20181004BHJP
   F16H 57/037 20120101ALI20181004BHJP
【FI】
   F16H57/04 F
   F16H57/038
   F16H57/037
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-34192(P2015-34192)
(22)【出願日】2015年2月24日
(65)【公開番号】特開2016-156433(P2016-156433A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】特許業務法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】光石 直生
【審査官】 川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−141651(JP,A)
【文献】 特開2006−200730(JP,A)
【文献】 特開2006−300094(JP,A)
【文献】 実開昭58−009561(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 57/037
F16H 57/038
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合面を介して接合される第1のハウジング部材および第2のハウジング部材によって構成され、底部にオイルが収容されるハウジングと、
ドライブピニオンギヤを有して前記第1のハウジング部材に回転自在に支持され、動力源から駆動力が伝達されるドライブピニオンシャフトと、
前記ドライブピニオンギヤと噛み合うリングギヤを外周部に有して前記ハウジングの内部に回転自在に設置され、前記ドライブピニオンシャフトから伝達される駆動力を左右駆動輪に連結された第1の出力軸および第2の出力軸に配分して出力するディファレンシャル機構を備えたディファレンシャルケースとを含んで構成される動力伝達装置であって、
前記第2のハウジング部材の内部に、前記ディファレンシャルケースの外周部を囲む円弧状の切欠き部を有し、かつ、前記リングギヤの端面に沿って前記第2のハウジング部材の底部から上部に向かって延びることで、前記ハウジングの内部を前記リングギヤが設置される第1の空間と前記第1の空間に隣接する第2の空間とに仕切る隔壁を形成し、
前記第2の空間側の前記第2のハウジング部材の底部に、前記隔壁の延びる方向と直交する方向に延びる天井壁によって前記第2の空間と仕切られるオイル貯留室を設け、
前記オイル貯留室は、前記第2のハウジング部材の前記接合面と反対側に位置する端部に磁石を有し、
前記天井壁を第1の天井壁とし、前記オイル貯留室を第1のオイル貯留室とした場合に、
前記第2の空間側の前記第1のハウジング部材の底部に、前記第1のオイル貯留室に対向し、前記隔壁の延びる方向と直交する方向に延びる第2の天井壁によって前記第2の空間と仕切られる第2のオイル貯留室を設け、
鉛直方向において、前記第2の天井壁を前記第1の天井壁よりも低い位置に形成したことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記第1のオイル貯留室の底部に段差部を形成し、前記段差部を挟んで前記接合面側の底部に対して前記磁石が設置される側の底部を深くしたことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記第2のハウジング部材の前記接合面と反対側に位置する前記第1のオイル貯留室の端部に、前記ハウジングの内部のオイルを排出する排出孔を形成し、

前記排出孔に、前記磁石が一体に取付けられたドレインプラグが着脱自在に設けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関し、特に、オイルに含まれる鉄粉を捕捉する磁石を有する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される動力伝達装置は、左右駆動輪に連結されたドライブシャフトに動力を配分して出力するディファレンシャル機構を収容するディファレンシャルケースがハウジングの内部に設置されており、ディファレンシャル機構は、ハウジングの内部に貯留されたオイルによって潤滑される。
【0003】
また、ハウジングの内部では、ディファレンシャル機構を構成するギヤ同士の噛み合いによってギヤが磨耗して鉄粉が発生し、この鉄粉がオイルに混合される。この鉄粉は、ギヤ同士の噛み合い面やオイルのシール面等に噛み込まれてしまうので、鉄粉を除去する必要がある。
【0004】
従来、鉄粉を除去できる動力伝達装置としては、デフキャリアとデフカバーとから構成されるハウジングを有し、ハウジングの内部に貯留されるオイルに浸かるように磁石が設けられ、磁石の磁力によってオイル中の鉄粉を磁石に捕捉させるものが知られている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭62−60757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような従来の動力伝達装置にあっては、ハウジングの内部においてリングギヤやディファレンシャルケースの回転によってオイルが攪拌されてオイルの強い流れが発生する。このため、この強いオイルの流れによって鉄粉が磁石に捕捉され難くなるとともに、既に磁石に捕捉されている鉄粉が磁石から剥がされてしまい、オイル中に放出されるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、オイル中の鉄粉を磁石で捕捉し易くできるとともに、磁石が捕捉した鉄粉がオイル中に放出されることを防止できる動力伝達装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、接合面を介して接合される第1のハウジング部材および第2のハウジング部材によって構成され、底部にオイルが収容されるハウジングと、ドライブピニオンギヤを有して第1のハウジング部材に回転自在に支持され、動力源から駆動力が伝達されるドライブピニオンシャフトと、ドライブピニオンギヤと噛み合うリングギヤを外周部に有してハウジングの内部に回転自在に設置され、ドライブピニオンシャフトから伝達される駆動力を左右駆動輪に連結された第1の出力軸および第2の出力軸に配分して出力するディファレンシャル機構を備えたディファレンシャルケースとを含んで構成される動力伝達装置であって、第2のハウジング部材の内部に、ディファレンシャルケースの外周部を囲む円弧状の切欠き部を有し、かつ、リングギヤの端面に沿って第2のハウジング部材の底部から上部に向かって延びることで、ハウジングの内部をリングギヤが設置される第1の空間と第1の空間に隣接する第2の空間とに仕切る隔壁を形成し、第2の空間側の第2のハウジング部材の底部に、隔壁の延びる方向と直交する方向に延びる天井壁によって第2の空間と仕切られるオイル貯留室を設け、オイル貯留室は、第2のハウジング部材の接合面と反対側に位置する端部に磁石を有し、天井壁を第1の天井壁とし、オイル貯留室を第1のオイル貯留室とした場合に、第2の空間側の第1のハウジング部材の底部に、第1のオイル貯留室に対向し、隔壁の延びる方向と直交する方向に延びる第2の天井壁によって第2の空間と仕切られる第2のオイル貯留室を設け、鉛直方向において、第2の天井壁を第1の天井壁よりも低い位置に形成したものから構成されている。
【発明の効果】
【0009】
このように本発明によれば、第2のハウジング部材の内部に、ディファレンシャルケースの外周部を囲む円弧状の切欠き部を有し、かつ、リングギヤの端面に沿って第2のハウジング部材の底部から上部に向かって延びることで、ハウジングの内部をリングギヤが設置される第1の空間と第1の空間に隣接する第2の空間とに仕切る隔壁を形成した。
これにより、リングギヤが設けられる第1の空間と独立した第2の空間において、リングギヤの回転によるオイルの攪拌が生じないようにできる。このため、第2の空間を流れるオイルの強さを低減できる。
【0010】
また、第2の空間側の第2のハウジング部材の底部に、隔壁の延びる方向と直交する方向に延びる天井壁によって第2の空間と仕切られるオイル貯留室を設けた。
これにより、ハウジングの内部にディファレンシャルケースが設けられた第2の空間と独立したオイル貯留室を形成して、オイル貯留室でオイルが攪拌されることを防止できる。このため、オイル貯留室を流れるオイルの強さを、第2の空間を流れるオイルの強さよりも低減できる。
【0011】
さらに、オイル貯留室は、第2のハウジング部材の接合面と反対側に位置する端部に磁石を有する。これにより、オイル貯留室の内部で流れるオイルの強さが最も低いオイル貯留室の端部において、オイル中の鉄粉を磁石で捕捉し易くできるとともに、磁石が捕捉した鉄粉がオイル中に放出されることを防止できる。
この結果、鉄粉がドライブピニオンギヤやリングギヤ等の噛み合い面に噛み込まれること等を防止でき、ドライブピニオンギヤやリングギヤ等を保護できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の動力伝達装置の一実施形態を示す図であり、車両後部の平面図である。
図2図2は、本発明の動力伝達装置の一実施形態を示す図であり、動力伝達装置の側面図である。
図3図3は、本発明の動力伝達装置の一実施形態を示す図であり、動力伝達装置の背面図である。
図4図4は、本発明の動力伝達装置の一実施形態を示す図であり、図3のIV−IV方向矢視断面図である。
図5図5は、本発明の動力伝達装置の一実施形態を示す図であり、図2のV−V方向矢視断面図である。
図6図6は、本発明の動力伝達装置の一実施形態を示す図であり、図3のIV−IV方向斜視断面図である。
図7図7は、本発明の動力伝達装置の一実施形態を示す図であり、ディファレンシャルカバーの斜視図である。
図8図8は、本発明の動力伝達装置の一実施形態を示す図であり、ディファレンシャルキャリアの正面図である。
図9図9は、本発明の動力伝達装置の一実施形態を示す図であり、ディファレンシャルカバーの正面図である。
図10図10は、本発明の動力伝達装置の一実施形態を示す図であり、オイル貯留室を流れるオイルの状態を示す図である。
図11図11は、本発明の動力伝達装置の一実施形態を示す図であり、車両が前方に傾斜した車両姿勢においてオイル貯留室を流れるオイルの状態を示す図である。
図12図12は、本発明の動力伝達装置の一実施形態を示す図であり、他の構成のオイル貯留室を流れるオイルの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る動力伝達装置の実施形態について、図面を用いて説明する。
図1図12は、本発明に係る一実施形態の内燃機関の動力伝達装置を示す図である。
まず、構成を説明する。
図1において、四輪自動車等の車両1は、フロントエンジンリヤドライブ(FR)式の車両である。車両1は、車体2を備えており、車体2の後部には動力伝達装置3が設置されている。動力伝達装置3は、プロペラシャフト4および左右のドライブシャフト5L、5Rの間に設けられている。
【0014】
図2図4において、動力伝達装置3は、接合面6A、7Aを介して接合されるディファレンシャルキャリア(以下、単にデフキャリアという)6およびディファレンシャルカバー(以下、単にデフカバーという)7によって構成され、底部にオイルO(図4参照)が収容されるハウジング8を有する。ここで、本実施の形態のデフキャリア6は、本発明の第1のハウジング部材を構成し、デフカバー7は、本発明の第2のハウジング部材を構成する。
【0015】
図4において、デフキャリア6には軸受9を介してドライブピニオンシャフト10が回転自在に支持されており、ドライブピニオンシャフト10の車両1の前後方向後端にはドライブピニオンギヤ10Aが形成されている。ドライブピニオンシャフト10は、プロペラシャフト4に接続されており、ドライブピニオンシャフト10は、プロペラシャフト4と一体で回転する。
【0016】
プロペラシャフト4には図示しない動力源であるエンジンの動力が図示しない変速機を介して伝達されるようになっており、ドライブピニオンシャフト10にはエンジンの動力がプロペラシャフト4を介して伝達される。
【0017】
図4図5において、ハウジング8の内部にディファレンシャルケース(以下、単にデフケースという)11が回転自在に設置されている。
デフケース11の外周部にはデフケース11と一体で回転するようにリングギヤ12が取付けられており、リングギヤ12は、ドライブピニオンギヤ10Aに噛み合っている。ドライブピニオンシャフト10の回転軸およびリングギヤ12の回転軸は、直交しており、リングギヤ12およびドライブピニオンギヤ10Aは、それぞれベベルギヤおよびベベルピニオンから構成されている。
【0018】
デフケース11の内部にはデフケース11と一体で回転するピニオンシャフト13(図7参照)と、ピニオンシャフト13の前後端に回転自在に支持された一対のピニオンギヤ14A、14B、ピニオンギヤ14A、14Bのそれぞれに噛み合う一対のサイドギヤ15A、15B(図4参照)とを備えている。
【0019】
図5において、デフケース11の回転軸線に沿った車幅方向の両端側にはドライブシャフト5L、5Rの一端部が挿入されており、ドライブシャフト5L、5Rの一端部は、サイドギヤ15A、15Bに嵌合される。
【0020】
ドライブシャフト5L、5Rは、それぞれ左右の駆動輪16L、16Rに接続されている(図1参照)。ここで、本実施の形態のドライブシャフト5Lは、本発明の第1の出力軸を構成し、ドライブシャフト5Rは、本発明の第2の出力軸を構成する。
【0021】
ピニオンシャフト13は、その軸線方向がデフケース11の回転軸線に対して直交する方向に向けてデフケース11に取り付けられている。また、ピニオンギヤ14A、14Bは、それぞれがデフケース11の回転時に、デフケース11の回転軸線を中心として公転するとともに、ピニオンシャフト13の軸線を中心として自転するように形成されている。
【0022】
さらに、一対のサイドギヤ15A、15Bは、それぞれがデフケース11の回転軸線と同軸にしてデフケース11の内部に対向配置されているとともに、その回転軸線に沿ってドライブシャフト5L、5Rの一端部をスプライン結合するための複数のスプライン歯を有する。
【0023】
このように構成される動力伝達装置3は、ドライブピニオンシャフト10のドライブピニオンギヤ10Aからリングギヤ12に動力が伝達されると、デフケース11が回転する。
【0024】
車両1が平坦路を直進する場合には、左右の駆動輪16L、16Rの転がる距離が等しいので、一対のサイドギヤ15A、15Bは、同じ回転速度で回転し、サイドギヤ15A、15Bの間に挟まれたピニオンギヤ14A、14Bは、自転しない。よって、ドライブシャフト5L、5Rは、デフケース11と等速で回転するため、左右の駆動輪16L,16Rには左右に等しく駆動力が伝達される。
【0025】
一方、車両1がカーブを曲がる場合には(右旋回の場合を主として表し、左旋回の場合を( )内にて表す。)、カーブ外側の駆動輪16L(16R)の転がる距離がカーブ内側の駆動輪16R(16L)よりも長いため、カーブ外側のサイドギヤ15A(15B)は、カーブ内側のサイドギヤ15B(15 A)よりも速く回転する。
【0026】
したがって、一対のサイドギヤ15A、15Bに挟まれたピニオンギヤ14A、14Bは、公転だけでなく自転もするようになり、サイドギヤ15A、15Bの間に回転数の差を発生させる。よって、カーブ外側のドライブシャフト5Lは、デフケース11の回転数にサイドギヤ15Aの回転数を加えた回転数で回転し、カーブ内側のドライブシャフト5Rは、デフケース11の回転数からサイドギヤ15Bの回転数を差し引いた回転数で回転するため、左右の駆動輪16L、16Rには左右に配分された駆動力が伝達される。
【0027】
このようにデフケース11は、ピニオンシャフト13、ピニオンギヤ14A、14Bおよびサイドギヤ15A、15Bを備えており、これらピニオンシャフト13、ピニオンギヤ14A、14Bおよびサイドギヤ15A、15Bは、本発明のディファレンシャル機構を構成する。
【0028】
図3図5図7図9において、デフカバー7の車幅方向両端部に半円状のボス部8A、8Bが形成されており、このボス部8A、8Bにはドライブシャフト5L、5Rが回転自在に支持される。図8において、デフキャリア6の車幅方向両端部には半円状のボス部8C、8Dが形成されており、このボス部8C、8Dにはドライブシャフト5L、5Rが回転自在に支持される。
【0029】
したがって、デフキャリア6のボス部8C、8Dおよびデフカバー7のボス部8A、8Bによってドライブシャフト5L、5Rを支持するためのハウジング8の円筒状のボス部が構成される。
図4に示すように、オイルOは、ハウジング8の底部において、液面の位置がデフケース11の下端が浸る位置となるようにハウジング8の内部に収容される。
【0030】
図4図6図8において、デフキャリア6およびデフカバー7の上部にはデフケース11の上方に位置するようにブリーザ室18が形成されている。ブリーザ室18は、デフキャリア6およびデフカバー7に形成された底壁19A、19Bによってハウジング8の内部と仕切られており、底壁19Aに形成された連通孔19aを通してブリーザ室18とハウジング8の内部とが連通される。
【0031】
デフカバー7の上壁7Bには換気孔19bが形成されている。デフカバー7の上壁7Bの上部にはブリーザパイプ(図2図3参照)20が形成されており、換気孔19bは、ブリーザ室18とハウジング8の外部、すなわち、外気とを連通している。
【0032】
ブリーザ室18は、油温の変化等による内部温度の変化に伴う気体の膨張や収縮により、ハウジング8の内部が加圧状態や負圧状態になった場合に、外気とハウジング8の内部とを連通することで、ハウジング8の内部の圧力を一定圧に保つ機能を有する。
【0033】
具体的には、ハウジング8の内部の圧力が高くなった場合にはハウジング8の内部の空気が連通孔からブリーザ室18に導入される。この空気は、換気孔19bからブリーザパイプ20を通してブリーザ室18の外部に排出される。
【0034】
一方、ハウジング8の内部が負圧になった場合には、ブリーザパイプ20から換気孔19bを通してブリーザ室18に空気が導入された後、連通孔19aを通してハウジング8の内部に導入される。
【0035】
また、動力伝達装置3は、デフケース11やリングギヤ12がオイルOに浸かることにより、リングギヤ12とドライブピニオンシャフト10のドライブピニオンギヤ10Aの噛み合い面の潤滑と、デフケース11の内部のピニオンギヤ14Aおよびサイドギヤ15A、15Bの噛み合い面の潤滑等を行う。
【0036】
このため、ブリーザ室18は、デフケース11やリングギヤ12の回転によってオイルOが掻き上げられた場合に、ブリーザ室18を通して外気にオイルOが漏出することを防止する機能も有する。
【0037】
図4図7図9において、デフカバー7の内部には隔壁24が形成されている。隔壁24は、デフケース11の外周部を囲む円弧状の切欠き部24Aを有し(図4図5参照)、リングギヤ12の端面に沿ってデフカバー7の底部7Cから上部に向かって、すなわち、底部7Cから上壁7Bに向かって延びることで、ハウジング8の内部をリングギヤ12が設置される第1の空間25と第1の空間25に隣接する第2の空間26とに仕切っている。
これにより、ブリーザ室18は、リングギヤ12が設置されていない第2の空間26に形成される。
【0038】
図4において、デフケース11には膨出部27が形成されており、膨出部27は、デフカバー7の周壁7Dよりも車幅方向外方に膨れ出ている。デフカバー7には第2の空間26に位置するように規制壁28が設けられている。
【0039】
規制壁28は、ブリーザ室18と膨出部27との間に設けられており、デフカバー7の上下方向において膨出部27よりもブリーザ室18に偏るようにして設置されている。なお、規制壁28は、デフカバー7の底壁19Aの下方において、底壁19Aに形成されて連通孔19aを覆っている。
【0040】
図4図6図9において、周壁7Dにはボス部29が形成されており、ボス部29は、オイル流通用の開口29Aを有し、ボス部29にはプラグ30が着脱自在に設けられている。ハウジング8の内部には開口29Aを通してオイルが導入されるとともに、ハウジング8の内部のオイルは開口29Aを通して外部に排出される。
【0041】
図4図6図7図10において、第2の空間26側のデフカバー7の底部7Cには第1の天井壁7Eが形成されており、第1の天井壁7Eは、隔壁24の延びる方向(上下方向である鉛直方向)と直交する方向に延びている。ハウジング8の内部は、第1の天井壁7Eによって第2の空間26と仕切られる第1のオイル貯留室31が設けられており、第1のオイル貯留室31は、デフカバー7の接合面7Aと反対側に位置する(車両1の前後方向後端部)に磁石32を有する。
【0042】
デフカバー7の接合面7Aと反対側に位置する第1のオイル貯留室31の端部、すなわち、第1のオイル貯留室31の車両1の前後方向後端部(以下、単に後端部という)は、膨出部27の膨れ出る方向の後端と同一の鉛直方向軸上に設けられている。
【0043】
図6図9図10において、第1のオイル貯留室31の後端部には排出孔31Aが形成されており、ハウジング8の内部のオイルは、排出孔31Aから外部に排出される。排出孔31Aにはドレインプラグ33が着脱自在に設けられており、第1のオイル貯留室31に対向するドレインプラグ33の面には磁石32が一体に設けられている。
すなわち、本実施の形態の磁石32は、デフカバー7の接合面7Aと反対側に位置する第1のオイル貯留室31の後端部に設けられている。
【0044】
図4図10において、第1のオイル貯留室31の底部31Bには段差部31aが形成されている。底部31Bは、段差部31aを挟んで接合面7A側の第1の底部31Cおよび磁石32が設置される側の第2の底部31Dを構成し、第2の底部31Dは、第1の底部31Cに対して深く形成されている。
【0045】
図4図6図10において、第2の空間26側のデフキャリア6の底部には第2の天井壁6Bが形成されており、第2の天井壁6Bは、第1の天井壁7Eよりも低い位置において隔壁24の延びる方向と直交する方向に延びている。デフキャリア6の底部には第2のオイル貯留室34が形成されている。
【0046】
第2のオイル貯留室34は、第2の天井壁6Bによって第2の空間26と仕切られており、第2のオイル貯留室34は、車両1の前後方向で第1のオイル貯留室31に対向している。ここで、本実施の形態の第1のオイル貯留室31は、本発明の第1のオイル貯留室を構成し、第2のオイル貯留室34は、本発明の第2のオイル貯留室を構成する。また、本実施の形態の第1の天井壁7Eは、本発明の第1の天井壁を構成し、第2の天井壁6Bは、本発明の第2の天井壁を構成する。
【0047】
次に、作用を説明する。
図4に示すようにデフケース11が反時計回転方向Rに回転すると、第1の空間25に設置されるリングギヤ12によってオイルが上方に掻き上げられる。
【0048】
本実施の形態の動力伝達装置3によれば、デフカバー7の内部に、デフケース11の外周部を囲む円弧状の切欠き部24Aを有し、かつ、リングギヤ12の端面に沿ってデフカバー7の底部7Cから上壁7Bに向かって延びることで、ハウジング8の内部をリングギヤ12が設置される第1の空間25と第1の空間25に隣接する第2の空間26とに仕切る隔壁24が形成される。
【0049】
これにより、リングギヤ12が設けられる第1の空間25と独立してリングギヤ12が設けられていない第2の空間26において、リングギヤ12の回転によるオイルの攪拌が生じないようにできる。
【0050】
また、本実施の形態の動力伝達装置3によれば、第2の空間26側のデフカバー7の底部7Cに、隔壁24の延びる方向と直交する方向に延びる第1の天井壁7Eによって第2の空間26と仕切られる第1のオイル貯留室31を設けた。
【0051】
これにより、ハウジング8の内部にデフケース11が設けられた第2の空間26と独立してデフケース11が設けられていない第1のオイル貯留室31を形成して、第1のオイル貯留室31でオイルが攪拌されることを防止できる。このため、第1のオイル貯留室31を流れるオイルの強さを、第2の空間26を流れるオイルの強さよりも低減できる。
【0052】
さらに、第1のオイル貯留室31は、デフカバー7の接合面7Aと反対側に位置する端部に磁石32を有する。これにより、第1のオイル貯留室31を流れるオイルの強さが最も低い第1のオイル貯留室31の端部において、オイル中の鉄粉を磁石32で捕捉し易くできるとともに、磁石32が捕捉した鉄粉がオイル中に放出されることを防止できる。
【0053】
この結果、鉄粉がドライブピニオンギヤ10Aやリングギヤ12の噛み合い面や、ピニオンギヤ14A、14Bとサイドギヤ15A、15Bとの噛み合い面に噛み込まれること等を防止でき、ドライブピニオンギヤ10A、リングギヤ12、ピニオンギヤ14A、14Bおよびサイドギヤ15A、15Bを保護できる。
【0054】
また、本実施の形態の動力伝達装置3によれば、第1のオイル貯留室31の底部31Bに段差部31aを形成し、段差部31aを挟んで接合面7A側の第1の底部31Cに対して磁石32が設置される側の第2の底部31Dを深くした。
【0055】
これにより、第1のオイル貯留室31においてオイルの流れ方向の上流(第1のオイル貯留室31の開口端31E)から下流(第1のオイル貯留室31の端部)に流れたオイルを、段差部31aに衝突させて渦流にでき、磁石32が設置される側の第1のオイル貯留室31の底部7Cにオイルに含まれる鉄粉を沈殿させることができる。このため、鉄粉が第1のオイル貯留室31から放出されることを防止できる。
【0056】
具体的には、図10に示すように、第1の空間25から開口端31Eを通して第1のオイル貯留室31に導入されるオイルO1は、第1のオイル貯留室31で旋回して第1のオイル貯留室31から排出されるオイルO2の流れと、段差部31aに衝突して渦流となるオイルO3の流れとになる。
【0057】
そして、渦流となるオイルO3に含まれる鉄粉F1は、オイルO3から分離して第2の底部31Dに沈殿し、この鉄粉F1は、段差部31aに遮られて第1のオイル貯留室31から放出される難くなる。
また、本実施の形態の動力伝達装置3は、磁石32が設置される第1のオイル貯留室31の端部が車両1の後方に位置するように動力伝達装置3が車両1に搭載されている。
【0058】
この場合、図11に示すように、車両1の前方が低くなる車両姿勢(例えば、下り坂道)において、鉄粉F1を段差部31aに保留できる。これにより、車両姿勢が前方に傾いた状態において、鉄粉F1が第1のオイル貯留室31から放出されることをより効果的に防止できる。なお、図11では、坂道Eを仮想線Eで示す。
【0059】
また、本実施の形態の動力伝達装置3によれば、第2の空間26側のデフキャリア6の底部に、第1のオイル貯留室31に対向し、隔壁24の延びる方向と直交する方向に延びる第2の天井壁6Bによって第2の空間26と仕切られる第2のオイル貯留室34を設け、鉛直方向において、第2の天井壁6Bを第1の天井壁7Eよりも低い位置に形成した。
【0060】
これにより、リングギヤ12およびデフケース11が設けられている第1の空間25および第2の空間26と独立してリングギヤ12およびデフケース11が設けられていない第2のオイル貯留室34においてオイルの攪拌が生じないようにできる。このため、第2のオイル貯留室34を流れるオイルの強さを低減できる。
【0061】
また、図10に示すように、第1のオイル貯留室31から第2のオイル貯留室34にオイルO4を流すことにより、第2のオイル貯留室34でオイルO5を渦流にして、第2のオイル貯留室34の底部にオイルを沈殿できる。このため、鉄粉F2が第1のオイル貯留室31および第2のオイル貯留室34から放出されることをより効果的に防止できる。
【0062】
また、図11に示すように、車両1の前方が低くなる車両姿勢(例えば、下り坂道)において、鉄粉F2を第2のオイル貯留室34に保留できる。これにより、車両姿勢が前方に傾いた状態において、鉄粉F2が第2のオイル貯留室34から放出されることをより効果的に防止できる。
【0063】
また、本実施の形態の動力伝達装置3によれば、デフカバー7の接合面7Aと反対側に位置する第1のオイル貯留室31の端部に、ハウジング8の内部のオイルを排出する排出孔31Aを形成し、排出孔31Aに、磁石32が一体に取付けられたドレインプラグ33を着脱自在に設けた。
【0064】
これにより、第1のオイル貯留室31に溜まった鉄粉を、オイルの排出と同時に第1のオイル貯留室31から排出できる。
【0065】
また、ハウジング8の内部からオイルを排出するときに、排出孔31Aからドレインプラグ33を取り外す工程でドレインプラグ33と共に磁石32を取り外すことができる。このため、磁石32の清掃をし易くできる。さらに、磁石32から鉄粉を除去してドレインプラグ33を排出孔31Aに取付けることで、鉄粉を吸着する機能を維持できる。
【0066】
また、本実施の形態の動力伝達装置3によれば、第2の空間26に位置するようにデフカバー7に規制壁28を設け、規制壁28をブリーザ室18と膨出部27との間に設置した。
これにより、リングギヤ12およびデフケース11の回転によって掻き上げられたオイルを規制壁28に衝突させることで、オイルをブリーザ室18に到達し難くできる。
【0067】
なお、本実施の形態の動力伝達装置3においては、デフキャリア6の底部に第2のオイル貯留室34を設けているが、図12に示すように、デフキャリア6の底部に第2のオイル貯留室34を設けなくてもよい。
【0068】
このように構成しても、第1のオイル貯留室31でオイルが攪拌されることを防止して、第1のオイル貯留室31を流れるオイルの強さを、第2の空間26を流れるオイルの強さよりも低減できる。
【0069】
また、第1の空間25から開口端31Eを通して第1のオイル貯留室31に導入されるオイルO1を、第1のオイル貯留室31で旋回して第1のオイル貯留室31から排出されるオイルO2の流れと、段差部31aに衝突して渦流となるオイルO3の流れにして、渦流となるオイルO3に含まれる鉄粉F1を、オイルO3から分離させて第2の底部31Dに沈殿させることができる。これにより、鉄粉F1を段差部31aで遮って第1のオイル貯留室31から放出され難くできる。
【0070】
また、本実施の形態の動力伝達装置3では、第1のオイル貯留室31の底部31Bに段差部31aが形成されているが、段差部31aが無くてもよい。
【0071】
本発明の実施形態を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0072】
3...動力伝達装置、5L...ドライブシャフト(第1の出力軸)、5R...ドライブシャフト(第2の出力軸)、6...ディファレンシャルキャリア(第1のハウジング部材)、7...ディファレンシャルカバー(第2のハウジング部材)、6A...接合面(第1のハウジング部材の接合面)、6B...天井壁(第2の天井壁)、7A...接合面(第2のハウジング部材の接合面)、7B...上壁(第2のハウジング部材の上部)、7C...底部(第2のハウジング部材の底部)、7E...天井壁(第1の天井壁)、8...ハウジング、10...ドライブピニオンシャフト、10A...ドライブピニオンギヤ、11...ディファレンシャルケース、12...リングギヤ、13...ピニオンシャフト(ディファレンシャル機構)、14A,14B...ピニオンギヤ(ディファレンシャル機構)、15A,15B...サイドギヤ(ディファレンシャル機構)、16L,16R...駆動輪、24...隔壁、24A...切欠き部、25...第1の空間、26...第2の空間、30...プラグ、31...オイル貯留室(第1のオイル貯留室)、31a...段差部、31A...排出孔、31B,31C,31D...底部、32...磁石、33...ドレインプラグ、34...オイル貯留室(第2のオイル貯留室)
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