特許第6406089号(P6406089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6406089
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】インクジェットインク用水性顔料分散体
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/326 20140101AFI20181004BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20181004BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20181004BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   C09D11/326
   C09D17/00
   B41J2/01 501
   B41M5/00 120
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-63813(P2015-63813)
(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公開番号】特開2016-183239(P2016-183239A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2018年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】直江 紘平
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩司
【審査官】 緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−006981(JP,A)
【文献】 特開2009−084494(JP,A)
【文献】 特開2007−197640(JP,A)
【文献】 特開2006−273892(JP,A)
【文献】 特開2011−178895(JP,A)
【文献】 特開2006−045518(JP,A)
【文献】 特開2014−139298(JP,A)
【文献】 特開2007−314749(JP,A)
【文献】 特開2010−077218(JP,A)
【文献】 特開2015−183161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/326
B41J 2/01
B41M 5/00
C09D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水、顔料分散樹脂としての水溶性ポリマー、塩基性化合物、水溶性有機溶媒および顔料を含んでなるインクジェットインク用水性顔料分散体であって、前記インクジェットインク用水性顔料分散体は、水溶性ポリマーの固形分/(水溶性ポリマーの固形分+顔料)の質量比が25〜35質量%、レーザー動的光散乱法により測定した体積累計のメディアン径(D50)が120nm以下であり、前記水溶性ポリマーが、構成モノマーとして、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸およびポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステルを含み、前記水溶性ポリマーを構成する全モノマー量に対して、(メタ)アクリル酸18〜28質量%、スチレン25〜30質量%、ベンジル(メタ)アクリレート25〜30質量%、ポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステル21〜26質量%、かつ重量平均分子量(Mw)が30,000〜50,000であることを特徴とするインクジェットインク用水性顔料分散体。
【請求項2】
前記水溶性ポリマーの酸価が、120〜180mgKOH/gである、請求項1に記載のインクジェットインク用水性顔料分散体。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステルが、下記一般式(1)で表されるポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステルである、請求項1または2に記載のインクジェットインク用水性顔料分散体。

一般式(1) CH2=C(−R1)−COO(CH2−CH2−O)n−R2

[式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、HまたはCH3、nは、9〜23の整数を表す。]
【請求項4】
前記水溶性ポリマーが、モノマーを重合させた後に、反応混合物中に塩基性化合物および水を添加して得られる水溶性ポリマーである、請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェットインク用水性顔料分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク用水性顔料分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録部材として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。その中でも、印字物の耐候性や耐水性の観点から、着色剤に顔料系インクジェットインクを用いるものが主流となってきている。
【0003】
顔料は基本的性質として水に不溶であるという性質を有する。したがって、それを用いた水性顔料分散体、および水性顔料インクは、分散体、インク中での分散状態を安定に保つべく、界面活性剤や分散樹脂を用いて分散安定化を図っている。
【0004】
しかしながら、顔料系インクジェットインクは、吐出安定性(再分散性)の確保のため、界面活性剤や分散樹脂の添加量に上限があるため、印字後に記録面を擦ったときに塗膜が剥がれるといった、いわゆる耐擦過性に劣るという問題があった。
【0005】
例えば、特許文献1では疎水性基、スチレンやベンジルメタクリレートの割合を高めた、水不溶性ポリマーを用いることで、耐擦過性の向上を図っているが、いずれ水溶性が乏しいためにインクの吐出安定性(再分散性)が低下するという問題点がある。
【0006】
一方で、特許文献2では、酸価を高めることで水溶性の向上を図っているが、用いる樹脂のアニオン部が過剰に存在するため、塗布後、完全に造膜出来ず、顔料を完全にコーティング出来ないことから、耐擦過性が不良となると考えられる。また、その水溶性の高さから、顔料表面からの樹脂脱離に伴う分散性の低下、遊離樹脂の割合が大きくなることから、分散体及びインクの粘度が増大、保存安定性が悪化するという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−139298号公報
【特許文献2】特開平11−228891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、インクジェットインク用水性顔料分散体の体積累計のメディアン径が小さく、インクジェットインクとしたときの吐出安定性(再分散性)が優れる他、保存安定性に優れ、印刷用紙に印刷した際に耐擦過性が優れたインクジェットインク用水性顔料分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、少なくとも水、顔料分散樹脂としての水溶性ポリマー、塩基性化合物、水溶性有機溶媒および顔料を含んでなるインクジェットインク用水性顔料分散体であって、前記インクジェットインク用水性顔料分散体は、水溶性ポリマーの固形分/(水溶性ポリマーの固形分+顔料)が25〜35%、レーザー動的光散乱法により測定した体積累計のメディアン径(D50)が120nm以下であり、前記水溶性ポリマーが、構成モノマーとして、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸およびポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステルを含み、前記水溶性ポリマーを構成する全モノマー量に対して、(メタ)アクリル酸18〜28質量%、スチレン25〜30質量%、ベンジル(メタ)アクリレート25〜30質量%、ポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステル21〜26質量%、かつ重量平均分子量(Mw)が30,000〜50,000であることを特徴とするインクジェットインク用水性顔料分散体に関する。
【0011】
また、本発明は、前記水溶性ポリマーが、酸価120〜180mgKOH/gである、前記インクジェットインク用水性顔料分散体に関する。
【0012】
また、本発明は、前記ポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステルが、下記一般式(1)で表されるポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステルである、前記インクジェットインク用水性顔料分散体に関する。

一般式(1) CH2=C(−R1)−COO(CH2−CH2−O)n−R2

[式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、HまたはCH3、nは、9〜23の整数を表す。]
【0013】
また、本発明は、前記水溶性ポリマーが、モノマーを重合させた後に、反応混合物中に塩基性化合物および水を添加して得られる水溶性ポリマーである、前記インクジェットインク用水性顔料分散体に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインクジェットインク用水性顔料分散体は、(メタ)アクリル酸、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステルから成る水溶性ポリマーを用いることで、水溶性と顔料への吸着性が高められ、インクジェットインクとした際の吐出安定性(再分散性)と保存安定性に優れた効果を与える。
【0015】
また、インクジェットインク用水性顔料分散体のD50が120nm以下とし、重量平均分子量が30,000〜50,000の水溶性ポリマーを用いることで、インクジェットインクとした際の耐擦過性と保存安定性に優れた効果を与える。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明、及びそのインクジェットインク用水性顔料分散体から成るインクジェットインク(以下、単に水性インク組成物、インク組成物、顔料インク、インクという場合がある)について説明する。尚、本明細書では、「インクジェットインク用水性顔料分散体」を「水性顔料分散体」や「顔料分散体」、「分散体」、「水溶性ポリマー」を「ポリマー」、「顔料分散樹脂」、「分散樹脂」と、それぞれ略記することがある。また、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」および/または「メタクリル」、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」および/または「メタクリレート」をそれぞれ意味する。
【0017】
<インクジェットインク用水性顔料分散体>
まず、本発明のインクジェットインク用水性顔料分散体とそれを構成する材料について説明する。
インクジェットインク用水性顔料分散体は水を主成分とする液媒体中に顔料を分散して成る液体であり、構成する材料は、水、水溶性ポリマー、塩基性化合物、水溶性有機溶媒および顔料である。
【0018】
<水溶性ポリマー>
まず、本発明で使用する水溶性ポリマーについて説明する。
本発明で使用する水溶性ポリマーは、構成モノマーとして、(メタ)アクリル酸、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステルを含み、前記水溶性ポリマーを構成する全モノマー量に対して、(メタ)アクリル酸18〜28%、スチレン25〜30%、ベンジルメタクリレート25〜30質量%、ポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステル21〜26質量%以下から構成される。
【0019】
第1の構成モノマーは、(メタ)アクリル酸である。これは、水溶性ポリマー中のイオン性親水性部位として作用する。顔料分散体同士の静電反発力を誘起させ、インクジェットインク用顔料分散体の分散安定性に寄与する。
【0020】
第2の構成モノマーは、スチレンである。これは、水溶性ポリマーの疎水性部分であり、顔料に対する吸着部位として作用する。
【0021】
第3の構成モノマーは、ベンジル(メタ)アクリレートである。これは水溶性ポリマーの疎水性部分であり、スチレンと同様に顔料に対する吸着部位として作用する。また、スチレンと比べてポリマー主鎖からの距離が長くなることから、樹脂内、樹脂間の芳香環同士のπ−π相互作用による立体構造の固定を解消することができ、インクジェットインク用顔料分散体の粘度低減に寄与する。
【0022】
第4の構成モノマーとしては、ポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステルである。これは、水溶性ポリマー中のノニオン性親水性部分であり、インクジェットインク用顔料分散体の分散安定性に寄与する。具体的には、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。入手可能な市販製品を挙げると、新中村化学工業社製 NK エステルM−90G、M−230G、AM−90G、AM−130G、日油社製、商品名: ブレンマーAE−90、AE−200、AE−400、AME−400、PE−90,PE−200、PE−350、PME−100、PME−200、PME−400,PME−1000などを好ましく使用することができ、一般式(1)においてn=1〜23の範囲であることが好ましく、n=9〜23の範囲であることがより好ましい。
【0023】
ポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステルの好ましい態様として、一般式(1)で表されるポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0024】
(水溶性ポリマーを構成するその他のモノマー)
水溶性ポリマーを構成する任意のその他のモノマーとしては、水酸基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。具体的には、2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられるが、2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレートは水溶性ポリマーを構成するその他のモノマーの一態様である。
【0025】
(水溶性ポリマーを構成するモノマーの組成比)
本発明で用いられる水溶性ポリマーの第1の構成モノマーである(メタ)アクリル酸の組成比は、水溶性ポリマーを構成する全モノマーに対して、18〜28質量%であり、20〜25質量%の範囲であることが好ましい。
【0026】
第2の構成モノマーのスチレンの組成比は、水溶性ポリマーを構成する全モノマーに対して、25〜30質量%の範囲であり、26〜28質量%の範囲であることが好ましい。
【0027】
第3の構成モノマーのベンジル(メタ)アクリレートの組成比は、水溶性ポリマーを構成する全モノマーに対して、25〜30質量%の範囲であり、26〜28質量%の範囲であることが好ましい。
【0028】
第4の構成モノマーとしてポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステルの組成比は、水溶性ポリマーを構成する全モノマーに対して、21〜26質量%以下であり、23〜26質量%含むことが好ましい。
【0029】
(水溶性ポリマーの酸価)
水溶性ポリマーの酸価は、120〜180mgKOH/gであることが好ましく、140〜160mgKOH/gであることがより好ましい。
【0030】
(水溶性ポリマーの重量平均分子量)
水溶性ポリマーの重量平均分子量は、30,000〜50,000の範囲であり、35,000〜45,000の範囲のものであることが好ましい。
【0031】
(水溶性ポリマーの製造方法)
水溶性ポリマーは、業界公知の溶剤中での重合反応により得られる。水性媒体中に水溶性ポリマーを溶解させるために、最終的に水性顔料分散体、またはインクジェットインクに含有する水溶性有機溶媒を用いて重合反応させる。その後、水と塩基性化合物を加えて中和し水性化するが、水溶性有機媒体は取り除くことをせず、そのまま後述のプレミキシング、分散処理を行う。
【0032】
水溶性ポリマーは、インクジェットインク用水性顔料分散体中、5.5〜10.5質量%以下含んでいることが好ましく、6.0〜9.0質量%含んでいることがより好ましい。
【0033】
<水>
次に、本発明で使用する水について説明する。
本発明のインクジェットインク用水性顔料分散体を形成する場合に好適な水は、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。また、水の含有量は、水性顔料分散体の全質量の10質量%以上、90質量%以下、更に好ましくは、50質量%以上、65質量%以下の範囲である。
【0034】
<塩基性化合物>
次に、本発明で使用する塩基性化合物について説明する。
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物、アンモニア水、ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン類、更には、これらを混合したものを使用することができる。
塩基性化合物は、水溶性ポリマーの構成モノマーである(メタ)アクリル酸中のカルボキシル基を中和することで、インクジェットインク用水性顔料分散体中での顔料粒子の分散安定化を図るために使用する。インクジェットインク用水性顔料分散体は、中性又はアルカリ性に調整されたものであることが好ましい。但し、アルカリ性が強過ぎると、インクジェット記録装置に使われている種々の部材の腐食の原因となる場合があるので、pH7〜10の範囲とするのが好ましい。
【0035】
<水溶性有機溶媒>
次に、本発明で使用する水溶性有機溶媒について説明する。
水溶性有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−ペンタノール等の炭素数1〜5のアルキルアルコール類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン付加重合体、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、トリエリレングリコール、ブチレングリコール、1,2‐ヘキサンジオール、1,2,6‐ヘキサントリオール、ヘキシレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類、グリセリン、N−メチル‐2‐ピロリドン、2‐ピロリドン、1,3‐ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。
水溶性有機溶媒としては、最終的にインクジェットインク用水性顔料分散体、またはインクジェットインクに含まれる水性有機溶媒であれば良いが、水溶性ポリマーに対し溶解性の高いものが良く、好ましくはプロピレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、2−ピロリドン等が挙げられる。
【0036】
インクジェットインク用水性顔料分散体中における上記水性有機溶媒の含有量は、インクジェットインク用水性顔料分散体の全質量の3質量%以上、30質量%以下の範囲であり、より好ましくは3質量%以上、15質量%以下の範囲である。
【0037】
<顔料>
次に、本発明で使用する顔料について説明する。
本発明においては、下記に挙げるような顔料を使用することができる。先ず、本発明で使用することのできる黒色の顔料としては、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックが挙げられる。例えば、これらのカーボンブラックであって、一次粒子径が11〜40nm、BET法による比表面積が50〜400m2/g、揮発分が0.5〜10質量%、pH値が2〜10等の特性を有するものが好適である。
【0038】
本発明で使用することのできるシアンの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue 1、2、3、15:3、15:4、15:6、16、22、C.I.Vat Blue 4、6等が挙げられる。また、マゼンタの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 5、7、12、31、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、キナクリドン固溶体、147、150、269、C.I.Pigment Violet 19等が挙げられる。また、イエローの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 1、2、3、13、16、74、83、109、128、155等が挙げられる。また、上記以外の色の顔料を用いることもでき、その場合も含め、何れの顔料も各色インクジェットインク用水性顔料分散体において単独でも、2つ以上の顔料を混合してもよい。勿論、本発明は、これらに限られるものではない。以上の他、自己分散型顔料等、新たに製造された顔料も使用することが可能である。
【0039】
顔料は、インクジェットインク用水性顔料分散体中、10〜30質量%、より好ましくは15〜25質量%の範囲が好ましい。
【0040】
<インクジェットインク>
インクジェットインクの製造方法としては、先ず初めに、塩基性化合物により可溶化された水溶性ポリマーと、水とが少なくとも混合された水性媒体に顔料を添加し、混合撹拌した後、後述の分散手段を用いて分散処理を行い、必要に応じて遠心分離処理を行って所望のインクジェットインク用水性顔料分散体を得る。次に、必要に応じてこのインクジェットインク用水性顔料分散体に、水溶性有機溶媒、或いは、上記で挙げたような適宜に選択された添加剤成分を加え、撹拌、必要に応じて濾過してインクジェットインクとする。ただし、インクジェットインクの製造方法は、これに限定されるものではない。
インクジェットインクは、本発明のインクジェットインク用水性顔料分散体を含んでおり、さらに水や水溶性有機溶媒を添加することにより、その顔料分を3〜4%としたものである。
【0041】
インクジェットインク用水性顔料分散体の水溶性ポリマーの固形分/(水溶性ポリマーの固形分+顔料)は25〜35質量%の範囲であることが好ましい。
25質量%よりも小さいと、光沢紙に塗布後に造膜する水溶性ポリマーの量が少ないために耐擦過性が不良となり、35質量%よりも大きいと、耐擦過性が良好となるものの、分散中の樹脂量が多くなるために、粘度が大きくなる他、分散が進行にくいために、保存安定性が不良となると考えられる。
【0042】
インクジェットインク用水性顔料分散体の体積累計のメディアン径(D50)は120nm以下であることが好ましい。
120nmよりも大きくなると、そのインクジェットインクを光沢紙に塗布、乾燥後、指で擦った際に、粒径が大きいために指との衝突が多くなり、耐擦過性が不良となると考えられる。
【0043】
インクジェットインクの作製方法においては、インクジェットインクの調製に分散処理を行って得られるインクジェットインク用水性顔料分散体を使用するが、インクジェットインク用水性顔料分散体の調製の際に行う分散処理の前に、プレミキシングを行うのが効果的である。即ち、プレミキシングは、少なくとも水溶性ポリマーと水とが混合されたインクジェットインク用水性媒体に顔料を加えて行えばよい。このようなプレミキシング操作は、顔料表面の濡れ性を改善し、顔料表面への水溶性ポリマーの吸着を促進することができるため好ましい。
【0044】
顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機なら、如何なるものでもよいが、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル及びナノマイザー等が挙げられる。その中でも、ビーズミルが好ましく使用される。このようなものとしては、例えば、ペイントシェイカー、スーパーミル、サンドグラインダー、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミル(何れも商品名)等が挙げられる。
【0045】
さらに、顔料のプレミキシング及び分散処理において、水溶性ポリマーは水のみに溶解した場合であっても、水性有機溶媒と水の混合溶媒に溶解した場合であっても良い。特に分散処理においては、先述したように水溶性ポリマーの合成溶媒とした水性有機溶媒と水の混合溶媒に、水溶性ポリマーが溶解もしくは分散している場合の方が、分散処理過程で安定な分散体を得ることができる場合がある。
【0046】
インクジェットインクは、インクジェット記録用に用いられるため、顔料としては、最適な粒度分布を有するものを用いることが好ましい。即ち、顔料粒子を含有するインクジェットインクをインクジェット記録方法に好適に使用できるようにするためには、ノズルの耐目詰り性等の要請から、最適な粒度分布を有する顔料を用いることが好ましい。所望の粒度分布を有する顔料を得る方法としては、下記の方法が挙げられる。先に挙げたような分散機の粉砕メディアのサイズを小さくすること、粉砕メディアの充填率を大きくすること、処理時間を長くすること、粉砕後フィルターや遠心分離機等で分級すること、及びこれらの手法の組み合わせ等の手法がある。
【0047】
<その他の添加剤>
インクジェットインクは、必要に応じて、ロジン、シェラック、デンプン等の天然樹脂や、前述した水溶性ポリマーでない合成樹脂も併用できる。この場合の天然樹脂や合成樹脂は、前述した水溶性ポリマーの添加量を上回らない程度に含有させることができる。
【0048】
また、インクジェットインクは、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインクジェットインクとするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤等の添加剤を適宜に添加することができる。
これらの添加剤の添加量の例としては、インクジェットインクの全質量に対して、0.05質量%以上10質量%以下、好ましくは0.2質量%以上5質量%以下が好適である。
【0049】
消泡剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤および/またはアセチレンアルコール系界面活性剤が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤および/またはアセチレンアルコール系界面活性剤 としては、2、4、7、9−テトラメチル−5−デシン−4、7−ジオールおよび2、4 、7、9−テトラメチル−5−デシン−4、7−ジオールのアルキレンオキシド付加物、 2、4−ジメチル−5−デシン−4−オールおよび2、4−ジメチル−5−デシン−4− オールのアルキレンオキシド付加物から選ばれた1種以上が好ましい。これらは、エアプロダクツ(英国)社のオルフィン104シリーズ、オルフィンE1010などのEシリーズ、日信化学製サーフィノール465あるいはサーフィノール61などとして入手可能である。
【0050】
防腐剤としては、特に限定されるものではないが、デヒドロ酢酸ナトリウム、ジクロロフェン、ソルビン酸、安息香酸ナトリウム、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、1,2− Benzisothiazoline−3−one(製品名:プロキセルGXL(アビシア社製))等が用いられる。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中、特に断りの無い限り、「部」、「%」は、それぞれ「質量部」、「質量%」を意味する。
【0052】
以下の実施例において、重量平均分子量は、東ソー社製ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)「HLC−8320GPC」において、分離カラム充填剤には東ソー社製「TSK−GELαM」を2本、「TSK−GELα−2500」1本を直列に繋いで用い、移動相に濃度30mMのLiBr及び30mMのH3PO4を含むN,N−ジメチルホルムアミドを用いて測定したポリスチレン換算の値である。
【0053】
以下の実施例において、酸価は、平沼自動滴定装置COM−1700(平沼産業社製)を用いて測定した。また、測定方法はJIS K−0070に準拠した。
【0054】
まず、実施例及び比較例に使用した水溶性ポリマーの製造例を示す。
【0055】
<水溶性ポリマーの製造>
(製造例1)水溶性ポリマー1の製造
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、プロピレングリコール144.7部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、メタクリル酸(東京化成工業社製)31.3部、スチレン(中央化成社品製)43.3部、ベンジルメタクリレート(共栄社化学社製)43.3部、ポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステルとしてM−230G(新中村化学工業社製、一般式(1)においてR1=CH3、R2=CH3、n=23に相当)41.7部、およびニトリル基を有さないアゾエステル化合物の重合開始剤としてV−601(和光純薬工業社製)6.3部からなる混合物を、2時間かけて滴下して共重合反応を行った。滴下終了後、さらに内温を110℃に保ち、1及び2時間後にV−601を1.0部ずつ添加し、反応を継続させた。さらに110℃で1時間反応を続けた後、上記溶液を25℃まで冷却した。これを一部分取して、180℃で40分加熱乾燥して溶液中の水溶性ポリマーの固形分を測定した。冷却した反応液に10%水酸化カリウム(純度85%:和光純薬工業社製)水溶液を溶液pHが8.5となる様添加した上で、分散樹脂1の水溶性ポリマーの固形分が20%となるよう水を加えた。これより、水溶性ポリマーの固形分が20%の水溶性ポリマー1の溶液を得た。水溶性ポリマー1の重量平均分子量は35,500、酸価は150mgKOH/gであった。
【0056】
(製造例2〜9)
表1に示すモノマー、重合開始剤にそれぞれ変更した以外は、製造例1と同様な操作を行い、水溶性ポリマー2〜9を製造した。得られた水溶性ポリマーの酸価と重量平均分子量を併せて表1に示す。尚、表1中、「%」は水溶性ポリマーを構成する全モノマー量に対する各構成モノマーの質量%を表わす。ただし、製造例5については、V−601の1回目の添加量を3.3部に、製造例8については、V−601の1回目の添加量を21.7部に、製造例9については、V−601の1回目の添加量を1.6部に変更した以外は、製造例1と同様にして製造した。
【0057】
【表1】
【0058】
(実施例1)黒色水性顔料分散体の製造
製造例1で得られた水溶性ポリマーの溶液214.3部をガラス瓶に仕込み、その中に水21.9部、10%水酸化カリウム水溶液を溶液pHが8.75となる様添加し、超音波洗浄器(ヤマト科学社製、2510J−DTH)を用いて樹脂の溶解を行い、水性媒体を得た。続いて、サーフィノール104E(消泡剤、エアープロダクツジャパン社製)1.0部、プロキセルGXL(防腐剤、アビシア社製)1.0部、顔料としてカーボンブラック(MONARCH800、CABOT社製)100.0部を加えて、ヘラで予備分散をした後に、直径0.8mmのジルコニアビーズ112.5部を分散メディアとして仕込み、ペイントシェイカーにて、体積累計のメディアン径(D50)が120nm以下となるまで分散を行い、黒色水性顔料分散体1を得た。このとき、顔料と水溶性ポリマー1の不揮発分の比率は、顔料/水溶性ポリマー(不揮発分)=7/3(質量比)となっている。
【0059】
(実施例2〜11、比較例1〜6)
水溶性ポリマー1を、表2に示す水溶性ポリマー2〜9に、顔料/水溶性ポリマー(不揮発分)の比と、水性顔料分散体の体積累計のメディアン径(D50)をそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、黒色水性顔料分散体2〜5、比較黒色水性顔料分散体1〜7を製造した。表2中、顔料/水溶性ポリマー(不揮発分)は、いずれも質量比を表す。
【0060】
【表2】
【0061】
(実施例6〜10、比較例8〜14)
表3に示す水溶性ポリマーおよび顔料と、顔料/水溶性ポリマー(不揮発分)の比と、水性顔料分散体の体積累計のメディアン径(D50)をそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、シアン水性顔料分散体1〜5、比較シアン水性顔料分散体1〜7を製造した。尚、表3中、Pigment Blue 15:3は、Lionol Blue FG−7351(トーヨーカラー社製)を使用した。表3中、顔料/水溶性ポリマー(不揮発分)は、いずれも質量比を表す。
【0062】
【表3】
【0063】
(実施例11)
製造例1で得られた水溶性ポリマーの溶液60.0部をガラス瓶に仕込み、その中に水317.5部、10%水酸化カリウム水溶液を溶液pHが8.75となる様添加し、超音波洗浄器(ヤマト科学社製、2510J−DTH)を用いて樹脂の溶解を行い、水性媒体を得た。続いて、サーフィノール104E(消泡剤、エアープロダクツジャパン社製)1.0部、プロキセルGXL(防腐剤、アビシア社製)1.0部、顔料としてPigment Red 122(P.R.122B、高郵社製)75.0部を加えて、ヘラで予備分散をした後に、直径0.8mmのジルコニアビーズ112.5部を分散メディアとして仕込み、ペイントシェイカーにて、体積累計のメディアン径(D50)が120nm以下となるまで分散を行い、マゼンタ水性顔料分散体1を得た。このとき、顔料と水溶性ポリマー1の不揮発分の比率は、顔料/水溶性ポリマー(固形分)=7/3(質量比)となっている。
【0064】
<水溶性ポリマーの固形分>
水溶性ポリマーを製造後に、これを一部分取して、180℃40分間加熱乾燥し、その不揮発分を水溶性ポリマーの固形分とした。
請求項1に記載の「水溶性ポリマーの固形分/(水溶性ポリマーの固形分+顔料)」は、インクジェットインク用水性顔料分散体に含まれる、上記水溶性ポリマーの固形分の質量と、顔料の質量中の水溶性ポリマーの固形分の質量の割合を表す。
【0065】
<インクジェットインク用水性顔料分散体の体積累計のメディアン径>
作成した水性顔料分散体を、レーザー動的光散乱法(日機装社製、UPA150EX)のローディングインデックス値が0.8〜1.2の範囲に収まるよう水を加えて希釈し、同機を用いて25℃での体積累計のメディアン径(D50)を測定した。
【0066】
(実施例12〜15、比較例15〜21)
水溶性ポリマー1を、表4に示す水溶性ポリマー2〜9に、顔料/水溶性ポリマー(不揮発分)の比と、水性顔料分散体の体積累計のメディアン径(D50)をそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、マゼンタ水性顔料分散体1〜5、比較マゼンタ水性顔料分散体1〜7を製造した。表4中、顔料/水溶性ポリマー(不揮発分)は、いずれも質量比を表す。
【0067】
【表4】
【0068】
(実施例16〜20、比較例22〜28)
表5に示す水溶性ポリマーおよび顔料と顔料/水溶性ポリマー(不揮発分)の比と、水性顔料分散体の体積累計のメディアン径(D50)をそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、イエロー水性顔料分散体1〜5、比較イエロー水性顔料分散体1〜6を製造した。尚、表5中、Pigment Yellow 74は、Fast Yellow 7416(山陽色素社製)を使用した。表5中、顔料/水溶性ポリマー(不揮発分)は、いずれも質量比を表す。
【0069】
【表5】
【0070】
(実施例21)黒色インクジェットインクの製造
黒色水性顔料分散体1を77.3部、水を294.2部、グリセリンを75.0部、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを25.0部、2−ピロリドンを25.0部、サーフィノール465を2.5部、プロキセルGXLを1.0部混合し、黒色インクジェットインク1を製造した。
【0071】
(実施例22〜25、比較例29〜35)
黒色水性顔料分散体1を、表6に示す黒色水性顔料分散体2〜5、比較黒色水性顔料分散体1〜7にそれぞれ変更した以外は、実施例21と同様の操作を行い、黒色インクジェットインク2〜5、比較黒色インクジェットインク1〜7を製造した。
【0072】
【表6】
【0073】
(実施例26〜30、比較例36〜42)シアンインクジェットインクの製造
表7に示す水性顔料分散体にそれぞれ変更した以外は、実施例21と同様の操作を行い、シアンインクジェットインク1〜5、比較シアンインクジェットインク1〜7を製造した。
【0074】
【表7】
【0075】
(実施例31)マゼンタインクジェットインクの製造
マゼンタ水性顔料分散体1を132.7部、水を238.8部、グリセリン75.0部、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを25.0部、2−ピロリドンを25.0部、サーフィノール465を2.5部、プロキセルGXLを1.0部混合し、マゼンタインクジェットインク1を製造した。
【0076】
(実施例32〜35、比較例43〜49)
マゼンタ水性顔料分散体1を、表8に示すマゼンタ水性顔料分散体2〜5、比較マゼンタ水性顔料分散体1〜7に変更した以外は、実施例31と同様の操作を行い、マゼンタインクジェットインク2〜5、比較マゼンタインクジェットインク1〜7を製造した。
【0077】
【表8】
【0078】
(実施例36)イエローインクジェットインクの製造
表9に示す水性顔料分散体にそれぞれ変更した以外は、実施例36と同様の操作を行い、イエローインクジェットインク1〜5、比較イエローインクジェットインク1〜7を製造した。
【0079】
【表9】
【0080】
(インクジェットインクの再分散性)
作成したインクジェットインクを、質量基準で2000倍に水で希釈した溶液について、分光スペクトルを測定し、各インキの色に応じた測定波長(黒色:550nm、シアン:617nm、マゼンタ:534nm、イエロー:430nm)での吸光度をAとした。
別途、インクジェットインクの一部を試験管に採取し、140℃で乾燥固化後、乾燥によって揮発した水と同量の水を固化物に添加し、超音波洗浄機にて分散し、同様に分光スペクトルを測定し、各インキの色に応じた測定波長での吸光度をBとした。
上記で得た各々の吸光度を下記式によって計算し、インクジェットインクの再分散性とした。この再分散性は、インクジェット印刷する際のインクジェットノズルの吐出安定性の指標となる評価である。すなわち、インクジェット印刷では、インクジェットノズルからインクジェットインクが間欠的に吐出するため、ノズル先端では、インクジェットインクの乾燥、再分散(再溶解)が起こるため、再分散性が悪いと、吐出不良となる。このため、吐出安定性の指標として、本方法による評価を行なった。数値が大きいものほど、再分散性が良好であることを表す。

再分散性=B/A×100(%)

この数値が85%以上をA(極めて良好)、70〜84.9%をB(良好、実用上支障なし)、70%未満をC(不良、実用上支障あり)とした。
【0081】
(印刷物の耐擦過性)
作製したインクジェットインクを、自動バーコーター(RK PRINTCOAT INSTRUMENTS社製、K CONTROL COATER)、バー(同社製、ウェット膜厚12μm)を用いて光沢紙(キヤノンゴールド紙)に塗布、乾燥し、試験用印刷物を得た。
得られた試験用印刷物の印字面を指でこすり、印字面の剥離の有無を目視観察し、以下の基準で評価した。
印字面の剥離が見られないものをA(極めて良好)、強く擦ると印字面の剥離が一部見られるものをB(良好、実用上支障なし)、印字面が剥離するものをC(不良、実用上支障あり)とした。
【0082】
(インクジェットインクの保存安定性)
作製した水性顔料分散体を60℃の恒温機に1週間保存した。60℃、1週間保存する前と後でのそれぞれの粘度を測定した。粘度測定は、E型粘度計(TVE−25L、東機産業社製)を用いて、25℃、回転数100rpmの条件で測定した。
保存前に対する保存後の粘度の変化率(%)を算出し、保存安定性とした。変化率の値が0(ゼロ)に近いものほど、保存安定性が良好であることを示す。
この数値が±10.0%以下をA(極めて良好)、10.1〜20.0%をB(良好、実用上支障なし)、20.1%以上をC(不良、実用上支障あり)とした。
【0083】
以上の結果の評価基準を表10〜12に、それぞれの結果を纏めたものを表13〜15に示した。
実施例に記載するインクジェットインクはいずれも再分散性、耐擦過性、保存安定性において優れており、使用する水溶性ポリマーの酸価が120〜180mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)が30,000〜50,000、使用する水性顔料分散体の水溶性ポリマーの固形分/(水溶性ポリマーの固形分+顔料)が25〜35%、水性顔料分散体の体積累計のメディアン径が120nm以下であり、インクジェットインクの加熱、乾燥後に再溶解するのに最適な水溶性と、光沢紙に塗布、乾燥後の良好な耐擦過性と、良好な保存安定性を持つ範囲である。
酸価120〜180mgKOH/gの範囲内では、水溶性ポリマー組成中の親水性基の割合が適当であり、インクジェットインクとしたときの再分散性が良好となる他、インクジェットインクを光沢紙に塗布した際に、光沢紙表面上の酸性成分が水溶性ポリマーのアニオン部と十分に反応出来、水溶性ポリマーが完全に造膜出来るため、耐擦過性が良好となる。
使用する水溶性ポリマーのMwが50,000よりも大きいと、顔料への吸着点が多くなり、顔料を覆うようにして吸着することが出来るため、顔料同士や溶剤と接触する機会が少なくなり、保存安定性が良好となるが、分子鎖が長くなることから、水溶性ポリマー同士で絡まりやすくなり、溶解性が低くなるため、再分散性が不良となると考えられる。
使用する水溶性ポリマーのMwが30,000よりも小さくなると、顔料への吸着点が少ないために、顔料同士や溶剤と接触する機会が多くなるために保存安定性が不良となると考えられる。
使用する水性顔料分散体の水溶性ポリマーの固形分/(水溶性ポリマーの固形分+顔料)が25%よりも小さいと、光沢紙に塗布後に造膜する水溶性ポリマーの量が少ないために耐擦過性が不良となり、35%よりも大きいと、耐擦過性が良好となるものの、分散中の樹脂量が多くなるために、粘度が大きくなる他、分散が進行にくいために、保存安定性が不良となると考えられる。
インクジェットインク用水性顔料分散体の体積累計のメディアン径が120nmよりも大きくなると、そのインクジェットインクを光沢紙に塗布、乾燥後、指で擦った際に、粒径が大きいために指との衝突が多くなり、耐擦過性が不良となると考えられる。
【0084】
【表10】
【0085】
【表11】
【0086】
【表12】
【0087】
【表13】
【0088】
【表14】
【0089】
【表15】
【0090】
【表16】