特許第6406339号(P6406339)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧
<>
  • 特許6406339-斜板式圧縮機 図000005
  • 特許6406339-斜板式圧縮機 図000006
  • 特許6406339-斜板式圧縮機 図000007
  • 特許6406339-斜板式圧縮機 図000008
  • 特許6406339-斜板式圧縮機 図000009
  • 特許6406339-斜板式圧縮機 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6406339
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】斜板式圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 27/12 20060101AFI20181004BHJP
   F04B 27/18 20060101ALI20181004BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20181004BHJP
   F04B 39/02 20060101ALI20181004BHJP
   F04B 49/12 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   F04B27/12 Q
   F04B27/12 D
   F04B27/12 E
   F04B27/18 Z
   F04B39/00 A
   F04B39/02 V
   F04B39/02 S
   F04B49/12
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-223937(P2016-223937)
(22)【出願日】2016年11月17日
(65)【公開番号】特開2018-80650(P2018-80650A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2017年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】特許業務法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】三岡 哲也
(72)【発明者】
【氏名】林 秀高
(72)【発明者】
【氏名】大久保 忍
【審査官】 田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−316499(JP,A)
【文献】 特開2010−151029(JP,A)
【文献】 特開2015−113819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 27/12
F04B 27/18
F04B 39/00
F04B 39/02
F04B 49/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜板室及び複数のシリンダボアが形成されたハウジングと、前記ハウジングに支持され、前記斜板室内で回転可能な駆動軸と、前記斜板室内に設けられ、前記駆動軸と同期回転可能な斜板と、前記斜板と摺動するシューと、前記シューを介して前記斜板の傾斜角度に応じたストロークで各前記シリンダボア内を往復動し、潤滑油を含む冷媒を圧縮するピストンとを備え、
前記斜板と前記シューとの間には第1摺動層が形成され、前記シリンダボアと前記ピストンとの間には第2摺動層が形成された斜板式圧縮機において、
前記第1摺動層及び前記第2摺動層はバインダー樹脂と固体潤滑剤とを有し、
前記第1摺動層における前記潤滑油の接触角は、前記第2摺動層における前記潤滑油の接触角よりも小さいことを特徴とする斜板式圧縮機。
【請求項2】
前記第1摺動層の前記固体潤滑剤は超高分子量ポリエチレンを含み、前記第2摺動層の前記固体潤滑剤はフッ素樹脂を含んでいる請求項1記載の斜板式圧縮機。
【請求項3】
前記斜板室は、蒸発器と直接接続されている請求項1又は2記載の斜板式圧縮機。
【請求項4】
前記斜板室内に設けられ、前記斜板の前記傾斜角度の変更を許容するリンク機構と、前記斜板室内に設けられ、前記斜板の前記傾斜角度を変更するアクチュエータとを備え、
前記アクチュエータは、前記斜板室内で前記駆動軸と一体回転可能に設けられた区画体と、前記斜板室内で前記駆動軸と一体回転可能であり、かつ前記区画体に対して駆動軸心方向に移動して前記傾斜角度を変更する移動体と、前記区画体と前記移動体とにより区画され、内部の圧力によって前記移動体を移動させる制御圧室と、前記制御圧室内の圧力を制御する制御機構とを有している請求項3記載の斜板式圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は斜板式圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な斜板式圧縮機は、ハウジング、駆動軸、斜板、複数対のシュー及び複数個のピストンを備えている。ハウジングは斜板室及び複数のシリンダボアが形成されている。駆動軸は、ハウジングに支持され、斜板室内で回転可能である。斜板は、斜板室内に設けられ、駆動軸と同期回転可能である。各対のシューは斜板と摺動する。各ピストンは、対をなすシューを介して斜板の傾斜角度に応じたストロークで各シリンダボア内を往復動する。各シューを摺動させる斜板の両面には第1摺動層が形成されている。シリンダボアと摺動するピストンの周面には第2摺動層が形成されている。
【0003】
特許文献1には、これら第1、2摺動層に採用され得る樹脂材料が開示されている。この樹脂材料は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、超高分子量ポリエチレン等からなる。この斜板式圧縮機では、第1摺動層によって斜板に対して各シューが好適に摺動し、第2摺動層によってシリンダボアに対してピストンが好適に摺動すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−60262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、斜板式圧縮機が蒸発器、凝縮器等とともに車両用の冷凍回路を構成し、冷凍回路内に冷媒とともに潤滑油が充填されて作動される場合、発明者らの知見によれば、斜板室内には、潤滑油が多く存在する部位と、潤滑油があまり存在しない部位とが存在する。特に、斜板と各シューとの間は潤滑油が存在し難く、シリンダボアとピストンとの間には潤滑油が存在し易い。他方、発明者らの知見によれば、斜板と各シューとの間には多くの潤滑油が望まれる。
【0006】
この点、第1摺動層を上記従来の樹脂材料により形成すると、樹脂材料の選択によっては、斜板と各シューとの間に摩耗や焼き付きを生じ、耐久性が損なわれるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、優れた耐久性を発揮可能な斜板式圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の斜板式圧縮機は、斜板室及び複数のシリンダボアが形成されたハウジングと、前記ハウジングに支持され、前記斜板室内で回転可能な駆動軸と、前記斜板室内に設けられ、前記駆動軸と同期回転可能な斜板と、前記斜板と摺動するシューと、前記シューを介して前記斜板の傾斜角度に応じたストロークで各前記シリンダボア内を往復動し、潤滑油を含む冷媒を圧縮するピストンとを備え、
前記斜板と前記シューとの間には第1摺動層が形成され、前記シリンダボアと前記ピストンとの間には第2摺動層が形成された斜板式圧縮機において、
前記第1摺動層及び前記第2摺動層はバインダー樹脂と固体潤滑剤とを有し、
前記第1摺動層における前記潤滑油の接触角は、前記第2摺動層における前記潤滑油の接触角よりも小さいことを特徴とする。
【0009】
本発明の斜板式圧縮機では、発明者らの実験結果が示すとおり、バインダー樹脂と固体潤滑剤とを有する第1摺動層によって斜板に対してシューが好適に摺動する。また、バインダー樹脂と固体潤滑剤とを有する第2摺動層によってシリンダボアに対してピストンが好適に摺動する。
【0010】
特に、この斜板式圧縮機では、第1摺動層における潤滑油の接触角が第2摺動層における前記潤滑用の接触角よりも小さい。このため、第1摺動層は第2摺動層よりも油濡れ性が高い。このため、斜板式圧縮機の構造上では潤滑油が存在し難い一方、多くの潤滑油が望まれる斜板とシューとの間であっても、多くの潤滑油を存在させることができる。このため、斜板とシューとの間に摩耗や焼き付きを生じ難い。
【0011】
また、斜板式圧縮機の構造上では潤滑油が存在し易い一方、あまり多くの潤滑油が望まれないシリンダボアとピストンとの間においては、さほどの潤滑油を存在させないようにすることができる。つまり、シリンダボアとピストンとの間から潤滑油を斜板室に移動させて、斜板とシューとの間に潤滑油を存在させることができる。
【0012】
したがって、本発明の斜板式圧縮機では、優れた耐久性を発揮することができる。
【0013】
第1、2摺動層はバインダー樹脂及び固体潤滑剤を有する。バインダー樹脂は、固体潤滑剤を脱離し難くする固体潤滑剤の保持性、層状の被膜下で繰り返し作用するせん断力に対する耐久性(土台としての硬さ)、破壊されにくい耐摩耗性、耐熱性等を発揮する。バインダー樹脂としては、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等を採用可能である。コスト及び特性を考慮すると、PAIをバインダー樹脂とすることが最適である。
【0014】
固体潤滑剤は、バインダー樹脂に保持され、最表面で低せん断力及び低摩擦係数を発揮する。固体潤滑剤としては、フッ素樹脂、二酸化モリブデン、グラファイト、超高分子量ポリエチレン粒子等を採用可能である。フッ素樹脂及び超高分子量ポリエチレン粒子は、第1、2摺動層の摺動面に被膜を形成し、かつ相手材へ移着することで滑り性を向上させる。二酸化モリブデン及びグラファイトは、低せん断力をもつ結晶構造により滑り性を向上させ、かつ高荷重で低摩擦を実現する。発明者らの実験結果によれば、フッ素樹脂は、耐摩耗性、耐焼き付き性等の摺動特性を有しているものの、撥油特性を有しており、潤滑油の接触角が比較的大きい。一方、超高分子量ポリエチレン粒子は、摺動特性ではフッ素樹脂より劣るものの、親油特性を有しており、潤滑油の接触角が比較的小さい。また、固体潤滑剤として、メラミンシアヌレート(MCA)やフッ化カルシウム、銅及び錫などの軟質金属を採用することができる。
【0015】
また、第1、2摺動層は、バインダー樹脂及び固体潤滑剤の他、添加剤を有し得る。添加剤としては、二酸化チタン、第3リン酸カルシウム、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素、窒化ケイ素等の硬質粒子のように、第1、2摺動層の硬さを向上させるものを採用することができる。
【0016】
さらに、第1、2摺動層は、界面活性剤、カップリング剤、加工安定剤、酸化防止剤等を有し得る。
【0017】
第1摺動層の固体潤滑剤は超高分子量ポリエチレンを含み、第2摺動層の固体潤滑剤はフッ素樹脂を含んでいることが好ましい。上記のように、フッ素樹脂は撥油特性を有し、超高分子量ポリエチレンは親油特性を有しているため、第1摺動層の固体潤滑剤が超高分子量ポリエチレンを含み、第2摺動層の固体潤滑剤がフッ素樹脂を含んでおれば、本発明を確実に実現することが可能になる。
【0018】
本発明の斜板式圧縮機は、斜板室が蒸発器と直接接続されている場合に顕著な作用効果を奏する。すなわち、斜板室が蒸発器と直接接続された斜板式圧縮機では、斜板室内に液体状の冷媒が蒸発器から戻された際、シューや斜板上の潤滑油がその冷媒によって流され易い。このため、斜板と各シューとの間の第1摺動層が摩耗され易く、焼き付きを生じ易くなる。これに対し、本発明の斜板式圧縮機では、第1摺動層の油濡れ性が高いため、斜板室が蒸発器と直接接続されていても、第1摺動層上の潤滑油が冷媒によって流され難いし、流されたとしてもシリンダボアとピストンとの間の潤滑油が斜板室に移動して、斜板とシューとの間に導入されるため、潤滑油が斜板とシューとの間に供給され易くなっている。
【0019】
本発明の斜板式圧縮機は、斜板室内に設けられ、斜板の傾斜角度の変更を許容するリンク機構と、斜板室内に設けられ、斜板の傾斜角度を変更するアクチュエータとを備えている場合により顕著な作用効果を奏する。ここで、アクチュエータは、斜板室内で駆動軸と一体回転可能に設けられた区画体と、斜板室内で駆動軸と一体回転可能であり、かつ区画体に対して駆動軸心方向に移動して傾斜角度を変更する移動体と、区画体と移動体とにより区画され、内部の圧力によって移動体を移動させる制御圧室と、制御圧室内の圧力を制御する制御機構とを有していることが好ましい。
【0020】
すなわち、このようなリンク機構とアクチュエータとを備えた斜板式圧縮機では、クランク室の圧力を制御して斜板の傾斜角度を変更する斜板式圧縮機と比べ、斜板室の容積が小さく、斜板と各シューとの間の第1摺動層に潤滑油を供給し難い。このため、斜板と各シューとの間の第1摺動層が摩耗され易く、焼き付きを生じ易くなる。これに対し、本発明の斜板式圧縮機では、第1摺動層の油濡れ性が高いため、リンク機構とアクチュエータとを備え、斜板室の容積が小さくても、第1摺動層上の潤滑油が冷媒によって流され難い。
【発明の効果】
【0021】
本発明の斜板式圧縮機は、優れた耐久性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施例1の斜板式圧縮機を示す断面図である。
図2図2は、実施例1の斜板式圧縮機に係り、制御機構を示す模式図である。
図3図3は、実施例1の斜板式圧縮機に係り、斜板、シュー及びピストンを示す拡大断面図である。
図4図4は、実施例1の斜板式圧縮機に係り、斜板本体及び第1摺動層を示す模式断面図である。
図5図5は、実施例1の斜板式圧縮機に係り、シリンダボア及びピストンを示す拡大断面図である。
図6図6は、実施例1の斜板式圧縮機に係り、ピストン本体及び第2摺動層を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施例1を図面を参照しつつ説明する。図1では、紙面において左側を前方と規定し、右側を後方と規定し、上側を上方と規定し、下側を下方と規定して表示する。そして、図3及び図5に示す各方向は、全て図1に示す各方向に対応させて表示する。
【0024】
図1に示すように、実施例1の斜板式圧縮機(以下、圧縮機という。)は、ハウジング1と、駆動軸3と、斜板5と、複数対のシュー7a、7bと、複数個のピストン9と、リンク機構11と、アクチュエータ13と、図2に示す制御機構15とを備えている
【0025】
図1に示すように、ハウジング1は、フロントハウジング17と、リヤハウジング19と、第1シリンダブロック21と、第2シリンダブロック23とを有している。
【0026】
フロントハウジング17は、圧縮機の前方に位置している。リヤハウジング19は、圧縮機の後方に位置している。第1シリンダブロック21及び第2シリンダブロック23は、フロントハウジング17とリヤハウジング19との間に位置している
【0027】
フロントハウジング17には、第1吸入室27a及び第1吐出室29aが形成されている。第1吸入室27aは、フロントハウジング17の内周側に位置している。第1吐出室29aは、フロントハウジング17の外周側に位置している。
【0028】
リヤハウジング19には、制御機構15が設けられている。リヤハウジング19には、第2吸入室27b、第2吐出室29b及び圧力調整室31が形成されている。第2吸入室27bは、リヤハウジング19の内周側に位置している。第2吐出室29bは、リヤハウジング19の外周側に位置している。圧力調整室31は、リヤハウジング19の中心部分に位置している。第1吐出室29aと第2吐出室29bとは、図示しない吐出通路によって接続され、吐出通路には図示しない吐出口が形成されている。
【0029】
第1シリンダブロック21及び第2シリンダブロック23内には、斜板室33が形成されている。斜板室33は、ハウジング1の略中央に位置している。斜板室33は、第2シリンダブロック23に形成された吸入口330を介して、図示しない蒸発器と直接接続されている。
【0030】
第1シリンダブロック21には、複数個の第1シリンダボア21aが同心円状に等角度間隔でそれぞれ平行に形成されている。また、第1シリンダブロック21には、駆動軸3を挿通させる第1軸孔21bが形成されている。また、第1シリンダブロック21には、斜板室33と第1吸入室27aとを連通する第1吸入通路37aが形成されている。
【0031】
フロントハウジング17と第1シリンダブロック21との間には、第1バルブユニット39が設けられている。第1バルブユニット39には、第1シリンダボア21aと同数の吸入ポート39b及び吐出ポート39aが形成されている。各吸入ポート39bにより、各第1シリンダボア21aは図示しない吸入弁を介して第1吸入室27aと連通している。各吐出ポート39aにより、各第1シリンダボア21aは図示しない吐出弁を介して第1吐出室29aと連通している。また、第1バルブユニット39には、連通孔39cが形成されている。第1吸入室27aは、連通孔39cにより、第1吸入通路37aを通じて斜板室33と連通している。
【0032】
第2シリンダブロック23にも、第1シリンダブロック21と同様、複数個の第2シリンダボア23aが形成されている。また、第2シリンダブロック23には、駆動軸3を挿通させる第2軸孔23bが形成されている。第2軸孔23bは、圧力調整室31と連通している。また、第2シリンダブロック23には、斜板室33と第2吸入室27bとを連通する第2吸入通路37bが形成されている。
【0033】
リヤハウジング19と第2シリンダブロック23との間には、第2バルブユニット41が設けられている。第1バルブユニット39と同様、第2バルブユニット41にも、第2シリンダボア23aと同数の吸入ポート41b及び吐出ポート41aが形成されている。各吸入ポート41bにより、各第2シリンダボア23aは吸入弁51(図5参照)を介して第2吸入室27bと連通している。各吐出ポート41aにより、各第2シリンダボア23aは吐出弁52(図5参照)を介して第2吐出室29bと連通している。また、第2バルブユニット41には、連通孔41cが形成されている。第2吸入室27bは、連通孔41cにより、第2吸入通路37bを通じて斜板室33と連通している。
【0034】
第1、2吸入室27a、27bと斜板室33とは、第1、2吸入通路37a、37bにより、互いに連通している。このため、第1、2吸入室27a、27b内と斜板室33内とは、圧力がほぼ等しくなっている(より厳密には、ブローバイガスの影響により、斜板室33内は、第1、2吸入室27a、27b内よりも僅かに高圧となる。)。そして、斜板室33には、吸入口330を通じて蒸発器を経た冷媒ガスが流入することから、斜板室33内及び第1、2吸入室27a、27b内の各圧力は、第1、2吐出室29a、29b内よりも低圧である。
【0035】
駆動軸3には、斜板5とアクチュエータ13とフランジ3aとがそれぞれ取り付けられている。駆動軸3は、第1、2シリンダブロック21、23内において、第1、2軸孔21b、23bに挿通されている。また、駆動軸3は、第1、2軸孔21b、23bに軸支されることにより、斜板室33内において、回転軸心O周りで回転可能になっている。
【0036】
駆動軸3内には、後端から前方に向かって回転軸心O方向に延びる軸路3bと、軸路3bの前端から径方向に延びて駆動軸3の外周面に開く径路3cとが形成されている。軸路3bの後端は圧力調整室31に開いている。一方、径路3cは、後述する制御圧室13cに開いている。
【0037】
図1及び図3に示すように、斜板5は、環状の平板形状をなしている。斜板5は、斜板本体5aと、第1摺動層5bとから構成されている。斜板本体5aの前面及び後面には、第1摺動層5bが形成されている。斜板5はリングプレート45に固定されている。リングプレート45は、環状の平板形状に形成されており、中心部に挿通孔45aが形成されている。斜板5は、駆動軸3が挿通孔45aに挿通されることにより、駆動軸3に取り付けられ、斜板室33内に配置されている。
【0038】
図1に示すように、リンク機構11は、ラグアーム49を有している。ラグアーム49は、斜板室33内に配置され、斜板5よりも後方側に位置している。ラグアーム49は、一端側から他端側に向かって略L字形状となるように形成されている。
【0039】
ラグアーム49の一端側は、第1ピン47aによってリングプレート45の上端側と接続されている。これにより、ラグアーム49の一端側は、第1ピン47aの軸心を第1揺動軸心M1として、リングプレート45の一端側、すなわち斜板5に対して、第1揺動軸心M1周りで揺動可能に支持されている。
【0040】
ラグアーム49の他端側は、第2ピン47bによって、駆動軸3の後端側に圧入された支持部材43と接続されている。これにより、ラグアーム49の他端側は、第2ピン47bの軸心を第2揺動軸心M2として、支持部材43、すなわち駆動軸3に対して、第2揺動軸心M2周りで揺動可能に支持されている。
【0041】
この圧縮機では、斜板5と駆動軸3とがリンク機構11によって接続されることにより、斜板5は駆動軸3と同期回転可能となっている。また、ラグアーム49の両端がそれぞれ第1揺動軸心M1及び第2揺動軸心M2周りで揺動することにより、斜板5の傾斜角度の変更を許容する。つまり、リンク機構11は、斜板5の傾斜角度を変更することが可能となっている。
【0042】
図1及び図5に示すように、各ピストン9は、ピストン本体9aと第2摺動層9bとから構成されている。ピストン本体9aの全表面には、第2摺動層9bが形成されている。各ピストン9は、それぞれ前端側に第1ピストンヘッド9cを有し、後端側に第2ピストンヘッド9dを有している。第1ピストンヘッド9cは第1シリンダボア21a内を往復動可能に収納され、第1圧縮室21dを形成している。第2ピストンヘッド9dは第2シリンダボア23a内を往復動可能に収納され、第2圧縮室23dを形成している。また、各ピストン9には凹部9eが形成されている。
【0043】
図1及び図3に示しように、シュー7a、7bは、それぞれ半球状に形成されている。各シュー7a、7bは、各凹部9e内にそれぞれ設けられている。各シュー7a、7bは、斜板5と摺動する。各シュー7a、7bによって、斜板5の回転がピストン9の往復動に変換されるようになっている。こうして、各ピストン9は、対をなすシュー7a、7bを介して、斜板5の傾斜角度に応じたストロークで、各第1、2シリンダボア21a、23a内を往復動することが可能となっている。
【0044】
図1に示すように、アクチュエータ13は、斜板室33内に配置され、斜板5よりも前方側に位置している。アクチュエータ13は、区画体13aと、移動体13bと、制御圧室13cとを有している。
【0045】
区画体13aは、円盤状に形成されている。区画体13aには、駆動軸3が挿通されている。区画体13aは、駆動軸3に固定されて、駆動軸3と一体回転可能に設けられている。
【0046】
移動体13bは、フランジ3aと斜板5との間に位置している。移動体13bは、有底の円筒状に形成されている。また、移動体13bには、駆動軸3が挿通されている。移動体13bは、駆動軸3と一体回転可能となっている。また、移動体13b内には、区画体13aが摺動可能に配置されている。移動体13bは、区画体13aに対して、駆動軸3の回転軸心O方向に移動することが可能となっている。移動体13bは、斜板5を挟んでリンク機構11と対向している。こうして、アクチュエータ13は、回転軸心O周りで駆動軸3と一体で回転することが可能となっている。
【0047】
移動体13bの後端部には、取付部13dが形成されている。取付部13dは、第3ピン47cによって、リングプレート45の下端側と接続されている。これにより、リングプレート45の他端側は、第3ピン47cの軸心を第3揺動軸心M3として、リングプレート45の下端側、すなわち斜板5に対して、第3揺動軸心M3周りで揺動可能に支持されている。こうして、移動体13bは斜板5と連結された状態となっている。
【0048】
制御圧室13cは、区画体13aと移動体13bとにより区画されている。制御圧室13cは、径路3c及び軸路3bを通じて、圧力調整室31と連通している。制御圧室13cは、内部の圧力によって移動体13bを移動させる。これにより、移動体13bは、区画体13aに対して、駆動軸3の回転軸心O方向に移動して、斜板5の傾斜角度を変更することが可能となっている。すなわち、アクチュエータ13は、斜板5の傾斜角度を変更することが可能となっている。
【0049】
図2に示すように、制御機構15は、制御通路としての抽気通路15a及び給気通路15bと、制御弁15cと、オリフィス15dとを有している。制御機構15は、これらを通じて、制御圧室13c内の圧力を制御する。
【0050】
第2吸入室27bは、抽気通路15aを通じて、圧力調整室31と連通している。また、圧力調整室31は、軸路3b及び径路3cを通じて、制御圧室13cと連通している。つまり、第2吸入室27bと制御圧室13cとは、互いに連通した状態となっている。また、抽気通路15aには、オリフィス15dが設けられており、抽気通路15a内を流通する冷媒ガスの流量が絞られている。
【0051】
第2吐出室29bは、給気通路15bを通じて、圧力調整室31と連通している。また、圧力調整室31は、軸路3b及び径路3cを通じて、制御圧室13cと連通している。つまり、第2吐出室29bと制御圧室13cとは、互いに連通した状態となっている。軸路3b及び径路3cは、制御通路として、抽気通路15a及び給気通路15bの一部を構成している。
【0052】
給気通路15bには、制御弁15cが設けられている。制御弁15cは、第2吸入室27b内の圧力に基づき給気通路15bの開度を調整することが可能となっており、給気通路15bを流通する冷媒ガスの流量を調整することが可能となっている。制御弁15cには公用品を採用することができる。
【0053】
実施例1の圧縮機における特徴的な構成として、斜板本体5aの前面及び後面には、図3に示すように、第1摺動層5bが形成されている。斜板5における第1摺動層5bを除く斜板本体5aは、鉄系金属(鉄又は鉄を最も多く含む鉄合金をいう。以下、同様。)からなる。なお、斜板本体5aは、アルミニウム系金属(アルミニウム又はアルミニウムを最も多く含むアルミニウム合金をいう。以下、同様。)であってもよい。
【0054】
第1摺動層5bは、図4に示すように、ポリアミドイミド(PAI)であるバインダー樹脂70と、超高分子量ポリエチレン粒子(UHPE)81、二酸化モリブデン(MoS2)83及びグラファイト84である固体潤滑剤とを有している。これらの割合(体積%)は表1の摺動層1に示すとおりである。UHPEは、平均粒子径が1〜30μmであり、平均分子量が50万個のものである。粒子径が1μmよりも小さい場合は、凝縮し易くなることから取扱いが難しく、30μmよりも大きい場合は、層の表面粗さが大きくなり摺動性能が悪化する。また、分子量が50万よりも小さい場合は、耐摩耗性が悪化する。
【0055】
【表1】
【0056】
第1摺動層5bの摺動面上を摺動するシュー7a、7bも鉄系金属からなる。なお、シュー7a、7bもアルミニウム系金属であってもよい。また、シュー7a、7bをシュー本体と第1摺動層5bとで構成することも可能である。
【0057】
また、各ピストン9の全表面には、図5に示すように、第2摺動層9bが形成されている。ピストン9における第2摺動層9bを除くピストン本体9aは、アルミニウム系金属からなる。なお、ピストン本体9aは、鉄系金属であってもよい。
【0058】
第2摺動層9bは、図6に示すように、PAIであるバインダー樹脂70と、固体潤滑剤であるPTFE82とを有している。これらの割合(体積%)は表1の摺動層4に示すとおりである。つまり、固体潤滑剤は、PTFE82のみから構成されている。
【0059】
第2摺動層9bの摺動面と摺動する第1、2シリンダブロック21、23はアルミニウム系金属からなる。なお、第1、2シリンダブロック21、23は鉄系金属であってもよい。また、第1、2シリンダブロック21、23を第1、2シリンダブロック本体と第2摺動層9bとで構成することも可能である。
【0060】
第1、2摺動層5b、9bは以下のように作製されている。まず、PAIワニスに各固体潤滑剤を配合し、よく撹乱する。そして、それらの混合物を3本のロールミル間に通し、塗料を得る。この塗料は、塗装方法(スプレーコート、ロールコート等)の種類や粘度調整、固形分濃度調整等のため、任意にn−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、又はキシレン等の溶剤で希釈されている。そして、斜板本体5aやピストン本体9aに塗料をコーティングし、乾燥の後、焼成(230°C×1時間)を行う。こうして得られた被膜を膜厚20μmに調整し、第1、2摺動層5b、9bとする。
【0061】
こうして得られた実施例1の圧縮機は、図1に示す吸入口330に蒸発器に繋がる配管が接続され、吐出口には図示しない凝縮器に繋がる配管が接続される。圧縮機、蒸発器、膨張弁、凝縮器等によって車両用空調装置の冷凍回路が構成されている。
【0062】
この圧縮機では、駆動軸3が回転することにより、斜板5が回転し、各ピストン9が第1、2シリンダボア21a、23a内を往復動する。このため、第1、2圧縮室21d、23dがピストンストロークに応じて容積変化を生じる。このため、蒸発器から吸入口330によって斜板室33に吸入された冷媒ガスは、第1、2吸入室27a、27bを経て各第1、2圧縮室21d、23d内で圧縮され、第1、2吐出室29a、29bに吐出される。第1、2吐出室29a、29b内の冷媒ガスは吐出口から凝縮器に吐出される。
【0063】
この間、この圧縮機では、第1摺動層5bによって斜板5に対して各シュー7a、7bが好適に摺動する。また、第2摺動層9bによって各第1、2シリンダボア21a、23aに対して各ピストン9が好適に摺動する。
【0064】
特に、この圧縮機では、シリンダボア21a、23aとピストン9と間から潤滑油を斜板室33に移動させて、斜板5と各シュー7a、7bと間に潤滑油を多くすることができるため、第1摺動層5bは第2摺動層9bよりも油濡れ性が高い。このため、斜板5と各シュー7a、7bとの間であっても、多くの潤滑油を存在させることができる。このため、斜板5と各シュー7a、7bとの間に摩耗や焼き付きを生じ難い。
【0065】
また、各第1、2シリンダボア21a、23aと各ピストン9との間においては、さほどの潤滑油を存在させないようにすることができる。このため、各第1、2シリンダボア21a、23aと各ピストン9との間の潤滑油を斜板室33に移動させることができる。
【0066】
したがって、実施例1の圧縮機では、優れた耐久性を発揮することができる。
【0067】
(試験)
上記実施例1の効果を確認するため、摺動層1〜5をもつ各試験片を用意した。各試験片における斜板本体又はピストン本体に相当する基材は鋳鉄である。各試験片における摺動層1〜5におけるバインダー樹脂及び固体潤滑剤の割合(体積%)は表1に示すとおりである。各試験片は同一の質量を有している。
【0068】
また、摺動層1、2、4、5の組成を構成するフッ素樹脂(PTFE)と超高分子量ポリエチレン粒子(UHPE)との基本特性を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
各試験片の摺動層1〜5における潤滑油の接触角は、表1に示すとおりである。ここで、潤滑油としては、ポリアルキレングリコール(PAG)を用いた。なお、潤滑油は、ポリオールエステル(POE)などを用いてもよい。表1から、摺動層1、2は、接触角が小さいことから、親油特性を有していることがわかる。一方、摺動層4、5は、接触角が摺動層1、2と比較して大きいことから、撥油特性を有していることがわかる。
【0071】
また、各試験片の摺動層1〜3に対して、下記の試験1、試験2を実施した。
【0072】
試験1:リングオンディスク評価
相手リング材質にS45Cを用い、無潤滑下(潤滑油なし)、滑り速度:9m/秒、荷重220Nの条件のもと、摩擦係数と比磨耗量を求めた。
【0073】
試験2:斜板/シュー、ステップ荷重焼き付き評価
油潤滑下(潤滑油あり:冷凍機油を斜板の表面に25g/分付着)、荷重400Nを5分毎に加重、回転数1500rpmの条件のもと、ステップ荷重焼き付き評価を行なった。焼き付きを生じた荷重を求めた。結果を表3に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
摺動層1、2は、摺動層3に比べ、摩擦係数が低く、摩擦が少なく、耐焼き付き性が向上している。これは、摺動層1、2では、固体潤滑剤として、UHPEを含むからである。
【0076】
また、摺動層1、2の固体潤滑剤は、UHPEを含んでいるのに対し、摺動層4、5の固体潤滑剤は、UHPEを含まず、その代わりにPTFEを含んでいる。このため、UHPEを含む摺動層1、2は、PTFEを含む摺動層4、5と比べ、磨耗が少なく、耐焼き付き性が向上している。これにより、摺動層1、2では、親油特性が高く、油濡れ性が向上して油膜を形成し、耐摩耗性が優れることがわかる。
【0077】
以上において、本発明を実施例1及び試験1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は空調装置等に利用可能である。
【符号の説明】
【0079】
1…ハウジング
3…駆動軸
5…斜板
5b…第1摺動層
7a、7b…シュー
9…ピストン
9b…第2摺動層
11…リンク機構
13…アクチュエータ
13a…区画体
13b…移動体
13c…制御圧室
15…制御機構
33…斜板室
21a…第1シリンダボア(シリンダボア)
23a…第2シリンダボア(シリンダボア)
70…バインダー樹脂
81…UHPE(超高分子量ポリエチレン)
82…PTFE(フッ素樹脂)
図1
図2
図3
図4
図5
図6