(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
歯車は、工業、農業、建設業等で使用される産業機械や自動車にとって必要不可欠な機械要素である。これらの歯車は高負荷のかかる過酷な条件下で使用されるため、歯元に発生する曲げ応力によって、歯の折損が発生するおそれがある。
【0003】
歯車の製造方法として最も一般的な歯切り加工では、歯元曲げ強度に大きな影響を及ぼす歯元形状が、歯切り工具の刃先形状によって一義的に決定される。通常、歯元曲げ強度を高めることを目的に、歯切り工具の刃先の丸みをできるだけ大きくしているが、この丸みが過度に大きい場合には、歯車の使用時に歯と歯との噛み合いに悪影響が出てしまうため、上記刃先形状の変更による歯元曲げ強度の向上には限界がある。
【0004】
一方、鍛造加工や粉末冶金法等によって作製された歯車は、相手歯車の歯先に干渉しない範囲で、歯元形状の自由な設計が可能であり、歯切り加工で作製された歯車よりも歯元曲げ強度に優れた歯車を作製できる可能性がある。特許第5520374号公報(特許文献1)には、熱間鍛造により製造される変速機用車であって、歯底面が歯元近傍における最小曲率半径を極大化する自由曲面から構成される、当該歯車が開示されている。特許文献1によれば、最小曲率半径を極大にすることで応力集中が緩和され、歯元曲げ強度が向上する、とされている。
【0005】
また、特開2015−1248号公報(特許文献2)には、歯底から歯面に向かって、第1インボリュート部、円弧部、第2インボリュート部、第3インボリュート部、及び歯面接続曲線部を有する、歯車が開示されている。特許文献2によれば、歯底側領域に生じる引張応力と圧縮応力のいわゆる部分両振り状態の応力変動幅を均一化し、最大応力振幅位置が歯底中央又はその近傍に生じることがないようにすることができることはもちろんのこと、最大応力振幅位置が歯底側領域全体に生じないようにすることができ、歯の耐久性を向上させることができる、とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、歯元形状について、曲率半径が最小となる位置が明記されていない。断面視で、曲率半径が最小となる位置が歯底円近傍である場合と、Hoferの30°接線法により定められる危険断面位置(以下、単に「危険断面位置」と称する場合がある)近傍である場合と、を比較すると、最小曲率半径が同じであっても、発生する曲げ応力は大きく異なる。即ち、曲率半径が最小となる位置によっては、歯切り加工で作製された歯車よりも歯元曲げ強度が低いおそれがある。また、特許文献2では、歯底中心付近が、曲率半径が変化するインボリュート曲線であるため、曲率が最大である歯底中心付近以外の点で破損が起こる可能性があり、歯元曲げ強度が十分に得られないおそれがある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、動力伝達時に歯元に発生する曲げ応力を低減し、高強度化を実現した、高強度歯車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは、断面視で、歯先線分、歯面線分、歯元線分、及び歯底線分が順次連なる歯形を有する高強度歯車について、歯元(上記歯元線分により示される部分)に発生する曲げ応力を低減することが可能な、歯元線分の形状について検討した。その結果、特に、この歯元線分に関し、特定位置(危険断面位置)における曲率半径と、歯元線分自体の形状と、上記特定位置以外の位置における曲率半径と、最大曲率半径と最小曲率半径との関係と、について改良を加えることで、歯元に発生する曲げ応力を低減し、ひいては歯元曲げ強度に優れた高強度歯車を得ることができる、との知見を得た。
【0009】
また、本発明者らは、危険断面位置付近での歯底線分についてさらの改良を加えることで、歯元に発生する曲げ応力をより一層低減し、ひいてはさらに歯元曲げ強度に優れた高強度歯車を得ることができる、との知見を得た。
【0010】
以上の知見に基づき、本発明者らは発明を完成した。その要旨は以下のとおりである。
【0011】
[1] 断面視で、歯先線分、歯面線分、歯元線分、及び歯底線分が順次連なる歯形を有する高強度歯車であって、Hoferの30°接線法により定められる危険断面位置において曲率半径が最大であり、上記危険断面位置から上記歯面線分と上記歯元線分との境界点である第1の接続点まで曲率半径が一定であるか又は減少し、かつ、上記危険断面位置から上記歯元線分と上記歯底線分との境界点である第2の接続点まで曲率半径が一定であるか又は減少し、上記歯元線分内に、上記危険断面位置よりも曲率半径が小さい点が存在し、上記歯元線分内において、最大曲率半径が最小曲率半径の3倍以下であり、上記危険断面位置が円弧の一部であり、かつ、上記円弧が上記危険断面位置の両側に延在している、ことを特徴とする、高強度歯車。
【0012】
[2]上記危険断面位置を基準として、上記円弧が上記歯先線分方向および上記歯元線分方向に、それぞれ歯丈方向寸法でモジュールの0.05倍以上、延在していることを特徴とする、上記[1]に記載の高強度歯車。
【0013】
[3] 鉄系合金からなることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の歯車。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る高強度歯車では、特に断面視での歯元線分の形状について、特定位置(危険断面位置)における曲率半径と、歯元線分自体の形状と、上記特定位置以外の位置における曲率半径と、最大曲率半径と最小曲率半径との関係と、について改良を加えている。また、本発明に係る高強度歯車では、さらに、危険断面位置付近での歯底線分についても改良を加えている。その結果、本発明に係る高強度歯車によれば、歯元に発生する曲げ応力を低減し、ひいては歯元曲げ強度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る高強度歯車の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を限定するものではない。また、上記実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。さらに、上記実施形態に含まれる各種形態は、当業者が自明の範囲内で任意に組み合わせることができる。
【0017】
<本発明者らの知見>
本明細書において、高強度歯車の各部(歯先、歯面、歯元及び歯底)の、当該歯車の歯直角断面(以下、単に「断面」と称する場合がある)における形状は、歯が上側に突き出た状態で、以下のとおり定義される。歯面線分とは、相手歯車と噛み合いトルクを伝達する際に相手歯車と接触する線分をいい、外歯の場合は外側に凸、内歯の場合は内側に凸の線分である。歯先線分とは、一つの歯の左右の上記歯面線分の上端を繋ぎ、上記歯面線分と同方向に凸で、歯先円の一部からなる円弧状の線分をいう。歯元線分とは、上記歯面線分の、下端と連なる線分をいう。歯底線分とは、その両端がそれぞれ異なる歯元線分の、上記歯面線分とは逆側の一端と連なり、上記歯面線分と同方向に凸で、歯底円の一部からなる円弧状の線分をいう。
【0018】
歯車の歯元曲げ強度を向上させるには、歯元にかかる最大曲げ応力を小さくすることが有効である。通常、断面視で、歯元の曲げ応力は危険断面位置付近で最大となり、危険断面位置から離れるにしたがって減少する。しかしながら、危険断面位置からある程度離れていても、曲率半径が過度に小さい場合には、極端な応力集中が起こり、その位置で歯元曲げ応力が最大となることもある。つまり、最大曲げ応力を適切に制御することを前提として、歯車の歯元曲げ強度の向上を図るには、危険断面位置からの距離に応じて適切な曲率半径を設定することが有効である。
【0019】
従って、本発明者らは、断面視で、歯元曲げ応力が最大となる可能性の高い危険断面位置での曲率半径を最大とするとともに、危険断面位置から歯面及び歯元の双方に向かうに従って曲率半径をいずれも変化させず又は減少させ、また歯元線分内に危険断面位置よりも曲率半径が小さい部分を存在させ、さらには極端な応力集中が起こらないように歯元線分における最大曲率半径を最小曲率半径の3倍以下(好ましくは2倍以下)とすれば、最大曲げ応力を十分に小さくすることが可能であり、ひいては歯元曲げ強度の向上を図ることができる、との知見を得た。
【0020】
また、本発明者らは、危険断面位置付近の線分を曲率が徐々に変化するインボリュート曲線とした上で、歯底領域における応力振幅をある程度平均化しつつ全体として低減するために、危険断面位置での曲率半径をなるべく大きくすることも考えた。しかしながら、危険断面位置付近の線分がインボリュート曲線である場合は、危険断面位置から離間するに従って極端に曲率半径を変化させると、危険断面位置ではない他の点で応力振幅が最大となる位置が現れることを見出した。このため、本発明者らは、危険断面位置付近を、インボリュート曲線ではなく曲率半径が変化しない領域とすることにより、応力振幅が最大となる上記他の点を存在さることなく、さらに歯元曲げ強度の向上を図ることができる、との知見を得た。以下、本実施形態に係る高強度歯車(
図2に示す代表例)を、従来の形態に係る歯車(
図1に示す代表例)と対比して説明する。
【0021】
<従来の形態>
図1は歯切り加工で作製された従来の平歯車の歯形線分を示す図(断面図)である。より具体的には、同図に示す例では、モジュールを1.25、歯数を36、歯形を並歯、転移係数を0、ねじれ角を0°、そして圧力角を20°としており、歯と歯との噛み合いに悪影響が無い範囲で歯元の丸みができるだけ大きくなるように歯切り工具の刃先Rをモジュールの0.38倍としている。同図に示す歯形線分は、円弧状の歯先線分11(上に凸)と、インボリュート曲線である歯面線分12(上に凸)と、トロコイド曲線である歯元線分13(下に凸)と、円弧状の歯底線分14(上に凸)とで構成されている。なお、歯面線分12と歯元線分13との境界点は第1の接続点X0であり、歯元線分13と歯底線分14との境界点は第2の接続点Y0である。
【0022】
図1に示す例では、歯元線分13に関し、第1の接続点X0の近傍位置における曲率半径は約1.2mmであり、当該近傍位置から歯底線分14に向かうにつれて曲率半径は小さくなり、第2の接続点Y0の近傍位置における曲率半径は約0.6mmであった。なお、同図における危険断面位置での曲率半径は約0.7mmであった。
【0023】
<本実施形態>
図2は、平歯車であって、本実施形態に係る高強度歯車の歯形を示す図(断面図)である。同図に示す高強度歯車は、歯先線分21、歯面線分22、歯元線分23、及び歯底線分24が順次連なる歯形を有する。同図に示す歯先線分21及び歯面線分22は、
図1に示す歯先線分11及び歯面線分12と同一である。
図2に示す歯元線分23は、第1の接続点X1において歯面線分22と滑らかに連なるとともに、第2の接続点Y1において歯底線分24と滑らかに連なる曲線である。ここで、滑らかに連なるとは、2つの線分同士の接線が連結点において等しいことをいう。
【0024】
また、
図2に示す例では、Hoferの30°接線法により定められる危険断面位置において曲率半径が最大である。即ち、
図2に示す例では、歯元線分23に関し、危険断面位置での曲率半径は0.8mmで最大である。
【0025】
さらに、
図2に示す例では、危険断面位置から歯面線分22と歯元線分23との境界点である第1の接続点X1まで(点A1を含む領域で)曲率半径が一定であるか又は減少し、かつ、危険断面位置から歯元線分23と歯底線分24との境界点である第2の接続点Y1まで(点B1を含む領域で)曲率半径が一定であるか又は減少している。
【0026】
さらにまた、
図2に示す例では、歯元線分23内に、危険断面位置よりも曲率半径が小さい点が存在し、歯元線分23内において、最大曲率半径が最小曲率半径の3倍以下となっている。即ち、歯元線分23に関し、第1の接続点X1の近傍位置における曲率半径、及び、第2の接続点Y1の近傍位置における曲率半径は、最小であり、いずれも約0.5mmであった。このため、上述のとおり、危険断面位置での曲率半径が0.8mm(最大)であるため、歯元線分23内において、最大曲率半径が最小曲率半径の1.6倍(3倍以下)となっている。
【0027】
加えて、
図2に示す例では、詳細は図示しないが、危険断面位置が円弧の一部となっており、かつ、この円弧が危険断面位置の両側に延在している。
【0028】
以上のような構成を有する、
図2に示す高強度歯車では、断面視で、歯元曲げ応力が最大となる可能性の高い危険断面位置での曲率半径を最大とするとともに、危険断面位置から歯面及び歯元の双方に向かうに従って曲率半径をいずれも変化させず又は減少させ、また歯元線分内に危険断面位置よりも曲率半径が小さい部分を存在させ、さらには極端な応力集中が起こらないように歯元線分における最大曲率半径を最小曲率半径の3倍以下(好ましくは2倍以下)している。また、同図に示す高強度歯車は、危険断面位置付近を、曲率半径が変化しない領域としている。従って、当該高強度歯車によれば、危険断面位置からの距離に応じて適切な曲率半径を設定し、しかも、応力振幅が最大となる点を危険断面位置としていることから、歯元曲げ強度の向上を図ることができる。
【0029】
なお、危険断面位置から
図2に示す第1の接続点X1までの歯形、及び、危険断面位置から
図2に示す第2の接続点Y1までの歯形については、危険断面位置を含む点が円弧の端点ではなければ、当該円弧の両側に他の円弧(曲率半径が変化しない)が形成されていても、インボリュート曲線(曲率半径が変化する)が形成されていてもよい。但し、危険断面位置を含む円弧と、他の円弧やインボリュート曲線との接点では、両曲線の接線が一致することが要件である。両曲線の接線が一致することで、その点における破損を抑制することができ、さらに歯元曲げ強度の向上を図ることができる。
【0030】
また、
図2に示す例においては、危険断面位置を含む円弧が、危険断面位置を基準として、歯先線分方向および歯元線分方向に、それぞれ歯丈方向寸法でモジュールの0.05倍以上、延在していることが好ましい。ここで、モジュールとは、歯車のピッチ円直径を歯数で除した値をいう。当該円弧が2方向にモジュールの0.05倍以上、延在していれば危険断面位置以外ではない他の点で歯元曲げ応力が最大となることがない、ということができる。
【0031】
さらに、
図2に示す歯車の素材は、鉄系合金であってもよい。ここで、鉄系合金とは、鉄を主成分とし、他の元素を含む合金であり、例えば、炭素鋼、合金鋼、肌焼鋼、窒化用鋼、ステンレス鋼、マルエージング鋼、インバー、コバール、センダスト、スピーゲルアイゼン等が挙げられる。
【0032】
<有限要素解析法による検討>
本発明者らは、歯元曲げ強度に及ぼす歯元形状の影響を検討するために、歯車使用時(動力伝達時)に歯元に発生する曲げ応力の大きさを有限要素法解析により推定した。なお、解析条件は以下のとおりとした。即ち、
図1及び
図2に示す歯形を有する平歯車の回転を固定し、任意のひとつの歯の先端近傍に力を加えた。力を加えた位置は、歯車の中心軸と同じ中心軸を有する直径46.5mmの円筒の表面と歯面とが交わる直線上で、力の向きは、歯面に垂直な方向とした。歯車は、鋼製であると想定して、ヤング率207GPa、ポアソン比0.3の弾性体とし、平面ひずみ状態として解析を行った。なお、加えた力は歯幅100mmに対して、35kNとした。
【0033】
有限要素法解析の結果、歯切り加工で作製された
図1に示す従来の歯車については、歯元に発生する最大主応力の最大値が502MPaであると推定された。これに対し、
図2に示す本実施形態に係る高強度歯車については、当該最大主応力の最大値が469MPaであると推定された。従って、本実施形態に係る高強度歯車については、危険断面位置近傍の曲率半径を最も大きくし、かつ、極端に曲率半径が小さい部分が無かったため、最大主応力の最大値が抑制された、と考えられる。
【0034】
以上により、本実施形態に係る高強度歯車によれば、最大曲げ応力を適切に制御することを前提として、歯車の歯元曲げ強度の向上を図るに際し、危険断面位置からの距離に応じて適切な曲率半径を設定することで、動力伝達時に歯元に発生する最大の曲げ応力を抑制することができ、ひいては歯車の高強度化を実現することができる。
【実施例】
【0035】
上述のとおり、本実施形態に係る高強度歯車(
図2に示す代表例)が、従来の形態に係る歯車(
図1に示す代表例)に対して、本願所定の効果を奏することが実証されたが、以下では、これらの形態をさらに詳細に比較する。なお、本実施形態に係る高強度歯車の歯元形状は、以下に示す例に限定されるものではない。
【0036】
上述のように、歯元曲げ強度に及ぼす歯元形状の影響を検討するために、歯車使用時(動力伝達時)に歯元に発生する曲げ応力の大きさを有限要素法解析により推定した。
図3〜
図5は、それぞれ、歯元曲げ強度の比較を行った、各種歯車の歯形線分を示す図(断面図)である(
図3:従来例、
図4:本発明例、
図5比較例)。なお、これらの図中の破線は、全て、歯形中心線と30°の角度をなす線であり、この線が歯面(同図の歯面線分で示される部分)と接する位置が危険断面位置である。また、
図3から
図5中、点X0、点X2〜点X8は、それぞれ第1の接続点を示し、点Y0、点Y2〜点Y8は、それぞれ第2の接続点を示し、点A3、点A4、点A7は、それぞれ危険断面位置から第1の接続点X3、X4、X7までの領域に含まれる点を示し、点B2、点B2’、点B3、点B4、点B5、点B6は、それぞれ危険断面位置から第2の接続点Y2、Y3、Y4、Y5、Y6までの領域に含まれる点を示し、点C2は危険断面位置にある点を示す。
【0037】
図3(a)に示す例(従来例1)は、歯切り加工で作製された例(
図1に示す例)であって、モジュールを1.25、歯数を36、歯形を並歯、転移係数を0、ねじれ角を0°、そして圧力角を20°としており、歯と歯との噛み合いに悪影響が無い範囲で歯元の丸みができるだけ大きくなるよう歯切り工具の刃先Rをモジュールの0.38倍とした。また、上述のように、歯元線分に関し、第1の接続点X0の近傍位置における曲率半径は約1.2mmであり、当該近傍位置から歯底線分に向かうにつれて曲率半径は小さくなり、第2の接続点Y0の近傍位置における曲率半径は約0.6mmであった。なお、同図における危険断面位置での曲率半径は約0.7mmであった。
【0038】
図3(b)に示す例(従来例2)は、歯先線分及び歯面線分は、
図3(a)に示す例と同一であるが、歯元線分の形状が異なる。歯先線分終端から危険断面位置までの間はインボリュート曲線である。歯先線分終端の近傍の曲率半径は約0.7mmで、危険断面位置に向かうにつれて曲率半径は大きくなり、危険断面位置での曲率半径は0.8mmであった。危険断面位置からB2までの間はインボリュート曲線である。危険断面位置からB2に向かうにつれて曲率半径は小さくなり、B2近傍での曲率半径は約0.6mmであった。B2からB2’までの間は円弧であり、曲率半径は0.6mmであった。B2’から第2の接続点(歯底線分終端)Y2までの間はインボリュート曲線である。B2’から歯底線分終端に向かうにつれて曲率半径は小さくなり、歯底線分終端近傍での曲率半径は約0.3mmであった。
【0039】
図4(a)〜(c)及び
図5(a)、(b)に示す例(発明例1から3及び比較例1、2)は、歯先線分及び歯面線分は、
図3(a)に示す例と同一であるが、歯元線分の形状が異なる。
図5(c)に示す例(比較例3)は、歯先線分及び歯面線分は
図3(a)に示す例と同一であるが、(図示した)一方の歯面線分の端部(第1の接続点X8)と(図示しない)他方の歯面線分の端部とが、歯底線分を介さずに、接続点で接線を共有するように単独の円弧で接続されている。
【0040】
次に、解析条件は以下のとおりとした。即ち、
図3〜
図5に示す歯形を有する平歯車の回転を固定し、任意のひとつの歯の先端近傍に力を加えた。力を加えた位置は、歯車の中心軸と同じ中心軸を有する直径46.5mmの円筒の表面と歯面が交わる直線上で、力の向きは、歯面に垂直な方向とした。歯車は鋼製であると想定して、ヤング率207GPa、ポアソン比0.3の弾性体とし、平面ひずみ状態として解析を行った。なお、加えた力は歯幅100mmに対して、35kNとした。このような条件下で、歯元における最大主応力の最大値(MPa)を推定し、その結果から、歯元における最大主応力の最大値についての従来例に対する比を求めた。以上の解析条件を表1に、解析結果を表2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1、2に示すように、本発明例1から3(
図4(a)から(c))については、いずれも、危険断面位置での曲率半径を最大とするとともに、危険断面位置から歯面及び歯元の双方に向かうに従って曲率半径をいずれも変化させず又は減少させ、また歯元線分内に危険断面位置よりも曲率半径が小さい部分を存在させ、さらには極端な応力集中が起こらないように歯元線分における最大曲率半径を最小曲率半径の3倍以下としている。また、本発明例1から3については、危険断面位置付近を、曲率半径が変化しない領域としている。従って、本発明例1から3については、危険断面位置からの距離に応じて適切な曲率半径を設定し、しかも、応力振幅が最大となる点を危険断面位置としていることから、従来例1、2に対して最大主応力の最大値が大きく低減され、歯元曲げ強度の向上が図られていることが判る。
【0044】
これに対し、比較例1から3(
図5(a)〜(c))については、危険断面位置における曲率半径が最大であること、最大曲率半径が最小曲率半径の3倍以下であること、及び曲率半径に変化があること、のいずれかを満たさないため、本願所定の歯形を有さない。このため、比較例1から3については、従来例1、2に対して最大主応力の最大値が大きく低減されることはなく、歯元曲げ強度の向上が図られていないことが判る。
【0045】
以上の結果により、本願所定の歯元形状を有する歯車によれば、歯元曲げ応力の抑制作用が実証された。なお、本発明は、平歯車だけでなく、はすば歯車、内歯車、かさ歯車、ウォームギヤ、ハイポイドギヤ等の歯元形状にも幅広く適用することができる。また、本発明の歯車の歯面はインボリュート曲線に限られず、いかなる曲線であってもよい。さらに、本発明の歯車の素材はいかなるものであってもよく、例えば、鉄系合金をはじめとした金属や樹脂を用いることができる。