特許第6406468号(P6406468)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6406468蓄電量推定装置、蓄電モジュール、蓄電量推定方法、及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6406468
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】蓄電量推定装置、蓄電モジュール、蓄電量推定方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/36 20060101AFI20181004BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20181004BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   G01R31/36 AZHV
   H01M10/48 P
   H02J7/00 X
【請求項の数】9
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-62290(P2018-62290)
(22)【出願日】2018年3月28日
【審査請求日】2018年4月5日
(31)【優先権主張番号】特願2017-65005(P2017-65005)
(32)【優先日】2017年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】鵜久森 南
(72)【発明者】
【氏名】池田 祐一
【審査官】 續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−213808(JP,A)
【文献】 米国特許第09500713(US,B1)
【文献】 国際公開第2015/162967(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0210179(US,A1)
【文献】 特開2015−230193(JP,A)
【文献】 特開2014−163861(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0276885(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電の推移に応じて2以上の電気化学反応を生じ、一の電気化学反応が生じる場合に示される、充電の推移に応じた蓄電量−電圧値充電特性、及び放電の推移に応じた蓄電量−電圧値放電特性間のヒステリシスが、他の電気化学反応が生じる場合の前記ヒステリシスより小さい、活物質を正極及び負極の少なくとも一方に含む蓄電素子の蓄電量を推定する蓄電量推定装置であって、
反応の比率が、他の領域の反応の比率に対して、一の電気化学反応側にある領域で、前記蓄電量−電圧値放電特性に基づいて得られる電圧参照蓄電量−電圧値特性を用いて、蓄電量を推定する推定部を備える、蓄電量推定装置。
【請求項2】
前記一の電気化学反応側にある領域で、前記蓄電量−電圧値放電特性を、同一電圧値における前記蓄電量−電圧値充電特性及び前記蓄電量−電圧値放電特性間の蓄電量の差分、前記蓄電量−電圧値充電特性に向けて移動させて得られる電圧参照蓄電量−電圧値特性に基づいて、蓄電量を推定する、請求項1に記載の蓄電量推定装置。
【請求項3】
前記蓄電素子の電圧値を取得する電圧取得部と、
該電圧取得部が取得した電圧値が、ヒステリシスの有無が切り替わる下限の電圧値よりも高くなった後の電圧値に基づいて到達電圧値を設定する設定部と
を備え、
前記同一電圧値は、前記到達電圧値である、請求項2に記載の蓄電量推定装置。
【請求項4】
前記推定部は、前記電圧取得部により取得した電圧値が前記下限の電圧値から前記到達電圧値までの間にあるときに、前記電圧参照蓄電量−電圧値特性を参照して前記蓄電量を推定する、請求項3に記載の蓄電量推定装置。
【請求項5】
前記設定部は、
前記到達電圧値を記憶部に記憶し、
前記電圧取得部が取得した電圧値が前記記憶部に前回記憶された到達電圧値より大きい場合に、取得した電圧値を到達電圧値に更新する、請求項3又は4に記載の蓄電量推定装置。
【請求項6】
蓄電素子と、
請求項1からまでのいずれか1項に記載の蓄電量推定装置と
を備える、蓄電素子モジュール。
【請求項7】
充放電の推移に応じて2以上の電気化学反応を生じ、一の電気化学反応が生じる場合に示される、充電の推移に応じた蓄電量−電圧値充電特性、及び放電の推移に応じた蓄電量−電圧値放電特性間のヒステリシスが、他の電気化学反応が生じる場合の前記ヒステリシスより小さい、活物質を正極及び負極の少なくとも一方に含む蓄電素子の蓄電量を推定する蓄電量推定方法であって、
反応の比率が、他の領域の反応の比率に対して、一の電気化学反応側にある領域で、前記蓄電量−電圧値放電特性に基づいて得られる電圧参照蓄電量−電圧値特性を取得し、
該電圧参照蓄電量−電圧値特性に基づいて、蓄電量を推定する、蓄電量推定方法。
【請求項8】
取得した電圧値が、ヒステリシスの有無が切り替わる下限の電圧値よりも高くなった後の電圧値に基づいて到達電圧値を設定し、
該到達電圧値における、前記蓄電量−電圧値放電特性及び前記蓄電量−電圧値充電特性間の蓄電量の差分、前記蓄電量−電圧値放電特性を、前記蓄電量−電圧値充電特性側に向けて移動させて前記電圧参照蓄電量−電圧値特性を取得し、
取得した電圧値が前記下限の電圧値から前記到達電圧値までの間にあるときに、前記電圧参照蓄電量−電圧値特性を参照して前記蓄電量を推定する、請求項に記載の蓄電量推定方法。
【請求項9】
充放電の推移に応じて2以上の電気化学反応を生じ、一の電気化学反応が生じる場合に示される、充電の推移に応じた蓄電量−電圧値充電特性、及び放電の推移に応じた蓄電量−電圧値放電特性のヒステリシスが、他の電気化学反応が生じる場合の前記ヒステリシスより小さい、活物質を正極及び負極の少なくとも一方に含む蓄電素子の蓄電量を推定するコンピュータに、
前記蓄電量−電圧値放電特性、及び前記蓄電量−電圧値充電特性を取得し、
取得した電圧値が、ヒステリシスの有無が切り替わる下限の電圧値よりも高くなったか否かを判定し、
前記電圧値が前記下限の電圧値よりも高くなったと判定した場合に、到達電圧値を設定し、
設定した前記到達電圧値に対応する、前記蓄電量−電圧値放電特性上の第1点を取得し、
前記到達電圧値に対応する、前記蓄電量−電圧値充電特性上の第2点を取得し、
前記第1点が前記第2点に重なるように、前記蓄電量−電圧値放電特性を前記蓄電量−電圧値充電特性に向けて移動させて電圧参照蓄電量−電圧値特性を取得し、
取得した電圧値が前記下限の電圧値から前記到達電圧値までの間にあるか否かを判定し、
前記電圧値が前記下限の電圧値から前記到達電圧値までの間にあると判定した場合に、前記電圧参照蓄電量−電圧値特性を参照して、前記電圧値における前記蓄電量を推定する
処理を実行させる、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子のSOC(State Of Charge)等の蓄電量を推定する蓄電量推定装
置、該蓄電量推定装置を含む蓄電モジュール、蓄電量推定方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、ハイブリッド車等に用いられる車両用の二次電池や、電力貯蔵装置、太陽光発電システム等に用いられる産業用の二次電池においては、高容量化が求められている。これまで様々な検討と改良が行われてきて、電極構造等の改良のみで更なる高容量化を実現することは困難な傾向にある。その為、現行の材料より高容量である正極材料の開発が進められている。
【0003】
従来、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池用の正極活物質として、α−NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が検討され、LiCoOを用いた非水電解質二次電池が広く実用化されていた。LiCoOの放電容量は120〜160mAh/g程度であった。
リチウム遷移金属複合酸化物をLiMeO(Meは遷移金属)で表したとき、MeとしてMnを用いることが望まれてきた。MeとしてMnを含有させた場合、Me中のMnのモル比Mn/Meが0.5を超える場合には、充電をするとスピネル型へと構造変化が起こり、結晶構造が維持できない為、充放電サイクル性能が著しく劣る。
Me中のMnのモル比Mn/Meが0.5以下であり、Meに対するLiのモル比Li/Meが略1であるLiMeO型活物質が種々提案され、実用化されている。リチウム遷移金属複合酸化物であるLiNi1/2Mn1/2及びLiNi1/3Co1/3Mn1/3等を含有する正極活物質は150〜180mAh/gの放電容量を有する。
【0004】
LiMeO型活物質に対し、Me中のMnのモル比Mn/Meが0.5を超え、遷移金属(Me)の比率に対するLiの組成比率Li/Meが1より大きいリチウム遷移金属複合酸化物を含む、いわゆるリチウム過剰型活物質も知られている。
【0005】
上述の高容量の正極材料として、リチウム過剰型であるLi2 MnO3 系の活物質が検討されている。この材料は、充電履歴及び放電履歴に依存して、同一のSOC(State Of
Charge)に対する電圧値や電気化学的特性が変化する、ヒステリシスという性質を有す
る。
【0006】
二次電池におけるSOCを推定する方法として、二次電池のOCV(Open Circuit Voltage)とSOCとが一対一対応する相関関係(SOC−OCV曲線)に基づいてSOCを決定するOCV法(電圧参照)と、二次電池の充放電電流値を積算してSOCを決定する電流積算法とがある。
【0007】
ヒステリシスを有する電極材料を用いた場合、SOCに対して電圧値が一義的に決まらない為、OCV法によるSOCの推定が困難である。SOC−OCV曲線が一義的に決まらない為、ある時点での放電可能エネルギーを予測することも困難である。
【0008】
電流積算法によってSOCを算出する場合、下記の式(1)を用いる。
SOCi =SOCi-1 +Ii ×Δti / Q×100…(1)
SOCi :今回のSOC
SOCi-1 :前回のSOC
I:電流値
Δt:時間間隔
Q:電池容量(available capacity)
【0009】
電流積算が長期継続されると、電流センサの計測誤差が蓄積する。また、電池容量は経時的に小さくなる為、電流積算法によって推定されるSOCは、その推定誤差が経時的に大きくなる。従来、電流積算を長期継続した場合にOCV法によりSOCを推定して、誤差の蓄積をリセットするOCVリセットが行われている。
【0010】
ヒステリシスを有する電極材料を用いた蓄電素子においても、電流積算を継続すると誤差が蓄積する。しかし、SOCに対して電圧値が一義的に決まらない為、OCV法によるSOCの推定を行うこと(OCVリセットを行うこと)は困難である。
従って、現行のSOC推定技術ではこのような蓄電素子におけるSOCを精度良く推定することが困難である。
【0011】
特許文献1に開示の二次電池制御装置においては、充電から放電に切替えた際のSOCである切替時SOCごとに、放電過程におけるSOCとOCVとの関係を放電時OCV情報として記憶する。実際に充電から放電に切替えた際の切替時SOCと、放電時OCV情報とに基づいて、二次電池の放電過程におけるSOCを算出するように、二次電池制御装置は構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2013−105519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1の二次電池制御装置においては、充電によって到達した電圧値から、放電時のSOC−OCV曲線を選択し、該SOC−OCV曲線及び現時点の電圧値に基づいてSOCを推定する。この二次電池制御装置では、充電過程の電圧値に基づいてSOCを推定することができない。複雑なパターンで、充放電が繰り返された場合に、二次電池を高精度に監視することができない。
【0014】
本発明は、蓄電量−電圧値特性がヒステリシスを示す活物質を含む蓄電素子の蓄電量を推定できる蓄電量推定装置、該蓄電量推定装置を備える蓄電モジュール、蓄電量推定方法、及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
ここで、蓄電量とは、SOC、電力放出可能量等を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る蓄電量推定装置は、充放電の推移に応じて2以上の電気化学反応を生じ、一の電気化学反応が生じる場合に示される、充電の推移に応じた蓄電量−電圧値充電特性、及び放電の推移に応じた蓄電量−電圧値放電特性間のヒステリシスが、他の電気化学反応が生じる場合の前記ヒステリシスより小さい、活物質を正極及び負極の少なくとも一方に含む蓄電素子の蓄電量を推定する蓄電量推定装置であって、反応の比率が、他の領域の反応の比率に対して、一の電気化学反応側にある領域で、前記蓄電量−電圧値放電特性に基づいて得られる電圧参照蓄電量−電圧値特性を用いて、蓄電量を推定する推定部を備える。
ここで、「一の電気化学反応が生じる場合」とは、「同時に一群として電気化学反応が生じる場合」を含む。「他の電気化学反応が生じる場合」とは、「同時に一群として電気化学反応が生じる場合」を含む。
完全放電状態から満充電状態に充電する、又は満充電状態から完全放電状態に放電する(以下、フル充電又はフル放電という)場合における、蓄電量−電圧値充電特性、及び蓄電量−電圧値放電特性を取得してもよい。同一電圧値における両特性の蓄電量の差(Δ蓄電量)は、他の電気化学反応に対応する。一の電気化学反応と他の電気化学反応とは、実質的に独立して生じる。すなわち、他の電気化学反応の反応量はΔ蓄電量に対応し、一の電気化学反応にほとんど影響を与えない。
一の電気化学反応が生じる蓄電量−電圧値放電特性を基準にし、蓄電量−電圧値放電特性を蓄電量−電圧値充電特性に向けて移動させることにより、電圧参照蓄電量−電圧値特性を取得してもよい。即ち、各電圧値を起点とする電圧参照蓄電量−電圧値特性は、一の電気化学反応に基づく、同一の蓄電量−電圧値放電特性を蓄電量−電圧値充電特性に向けて移動させ、各起点の電圧値を上端として切り取った形状を有する。
【発明の効果】
【0016】
上記構成により、高容量で、蓄電量−電圧値特性がヒステリシスを示す活物質を有する蓄電素子の蓄電量が良好に容易に推定できる。
実測するのは蓄電量−電圧値放電特性及び蓄電量−電圧値充電特性のみであり、作業量は少ない。
隣り合う電圧参照蓄電量−電圧値特性間に位置すべき電圧参照蓄電量−電圧値特性を内挿計算により求めて補填する場合と比較して、各到達電圧値に対応した電圧参照蓄電量−電圧値特性を、実測した蓄電量−電圧値放電特性から直接的に生成するので、蓄電量推定の精度が向上する。
蓄電素子の劣化に応じて、電圧参照蓄電量−電圧値特性を取得する場合、実測するのは蓄電量−電圧値放電特性及び蓄電量−電圧値充電特性のみであり、蓄電素子の使用期間における作業量は少ない。
電圧値を用いることができるので、蓄電量としてSOCに限定されず、電力量等、蓄電素子に蓄えられた現在のエネルギーの量を推定できる。充放電曲線に基づいて、SOC0%までの放電可能なエネルギー、及びSOC100%までに必要な充電エネルギーを予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】Li過剰型活物質につき、電気量と充放電電圧値との関係を求めた結果を示すグラフである。
図2】電気量に対する、X線吸収分光測定(XAFS測定)によって算出したLi過剰型活物質のNiのK吸収端エネルギーの推移を示すグラフである。
図3】充放電時におけるNiのK吸収端エネルギーの推移を示すグラフである。
図4】ヒステリシスを示す活物質を含む負極を備える蓄電素子につき、電気量と充放電電圧値との関係を求めた結果を示すグラフである。
図5】SOCが高くなるのに従い、ヒステリシスが大きい領域と小さい領域とが交互に表れる場合の充放電曲線の例である。
図6】充放電時における、時間に対する電圧値の推移を示すグラフである。
図7】初期品の蓄電素子につき、図6に示す充放電を行った場合の、本実施形態の電圧参照によりSOCを推定したときと、電流積算によりSOCを推定したときとの差異を示すグラフである。
図8】本実施形態のSOC推定の原理を説明するための説明図である。
図9】SOCが40〜60%である場合に、実測により得られたSOC−OCV曲線である。
図10】SOCが40〜60%である場合に、本実施形態の方法により得られた参照SOC−OCV曲線である。
図11図9のSOC−OCV曲線aと図10の参照SOC−OCV曲線bとの差異を示すグラフである。
図12】蓄電モジュールの一例を示す斜視図である。
図13】蓄電モジュールの他の例(電池モジュール)を示す斜視図である。
図14図13の電池モジュールの分解斜視図である。
図15】電池モジュールのブロック図である。
図16】CPUによるSOC推定処理の手順を示すフローチャートである。
図17】CPUによるSOC推定処理の手順を示すフローチャートである。
図18】CPUによるSOC推定処理の手順を示すフローチャートである。
図19】CPUによるSOC推定処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
(本実施形態の概要)
本実施形態に係る蓄電素子の電極体は、蓄電量−電圧値特性がヒステリシスを有する活物質を含む。
以下、蓄電素子の活物質がNiを含むLi過剰型のLiMeO-LiMnO固溶
体であり、蓄電量がSOCである場合を例として説明する。
図1は、このLi過剰型活物質につき、対極Liのリチウムセルを用い、電気量と充放電電圧値との関係を求めた結果を示すグラフである。横軸は電気量(mAh/g)、縦軸は充放電電圧値E(VvsLi/Li+ :Li/Li+平衡電位を基準にしたときの電位差)である。ここで、電気量はSOCに対応する。
図1に示すように、SOCの増加(充電)と、減少(放電)とで電圧値が異なる。即ち同一SOCに対する電圧値が異なり、ヒステリシスを有する。この活物質の場合、同一SOCに対する電位差は、高SOC領域では低SOC領域より小さく、ヒステリシスが小さい。
【0019】
本実施形態においては、ヒステリシスが小さく、後述する電圧参照SOC−OCV曲線を用いて電圧値からSOCを推定することができる領域を判断し、該領域においてSOCを推定する。
図2は、電気量に対する、X線吸収分光測定(XAFS測定)によって算出したLi過剰型活物質のNiのK吸収端エネルギーの推移を示すグラフである。横軸は電気量(mAh/g)、縦軸はNiのK吸収端エネルギーE0 (eV)である。
図3は、充放電時におけるNiのK吸収端エネルギーの推移を示すグラフである。横軸は充放電電圧値E(VvsLi/Li+ )、縦軸はNiのK吸収端エネルギーE0 (eV)である。
【0020】
図2に示すように、高SOC領域において、充電反応のNiのK吸収端エネルギー推移が放電反応のエネルギー推移と一致しない。低SOC領域において、放電反応のエネルギー推移が充電反応のエネルギー推移と一致しない。即ちヒステリシスを有する、Ni以外のレドックス反応が主として生じていることが分かる(これをAの反応とする)。Aの反応は、高SOC領域においては酸化反応であり、低SOC領域においては還元反応である。
中間のSOC領域では、充電反応及び放電反応のNiのK吸収端エネルギーがSOCに対して略直線的に変化している。
【0021】
図3に示すように、充放電電圧値が略3.7〜4.5Vである高SOC領域において、NiのK吸収端エネルギーは、充電と放電とで略一致している。NiのK吸収端エネルギーが一致している場合、即ちNiの価数等が等しく、この電圧範囲において、Niの価数変化と電圧値とが概ね1:1に対応しており、Niは可逆的に反応していると考えられる。即ち、該SOC領域において、SOC−OCP特性が示すヒステリシスが小さいレドックス反応が主として生じている(これをBの反応とする)。なお、OCPは開放電位を意味する。
該SOC領域においてBの反応量はAの反応量より多く、結果として、低SOC領域よりヒステリシスが小さい。
【0022】
本実施形態においては、主としてBの反応が生じる領域の低い方の電圧値(下限電圧値)を実験により求める。下限電圧値において、ヒステリシスの有無が実質的に切り替わる。Bの反応の酸化量及び還元量は小さいと考えられる。そして、電圧値の昇降に基づいて、充電状態又は放電状態が下限電圧値以上の電圧領域に相当する領域にあると判定した場合、到達電圧値に基づいて電圧参照によりSOCを推定する。
なお、ここでは、一例として、Niの酸化還元反応だけに注目して説明しているが、Bの反応はNiの酸化還元反応に限定されるものではない。Bの反応は、充放電の推移に応じて活物質により生じる一又は一群の反応のうち、蓄電量−電圧値特性のヒステリシスが小さい反応をいう。
【0023】
次に、蓄電素子の負極がヒステリシスが大きい活物質を含む場合につき説明する。一例として、負極が活物質としてSiO及びグラファイトを含む場合を挙げる。SiOの電気化学反応が生じるときのヒステリシスは、グラファイトの電気化学反応が生じるときのヒステリシスより大きい。
図4は、この蓄電素子につき、対極Liのリチウムセルを用い、電気量と充放電電圧値との関係を求めた結果を示すグラフである。横軸は電気量(mAh/g)、縦軸は充放電電圧値(VvsLi/Li+ :Li/Li+平衡電位を基準にしたときの電位差)である。ここで、電気量はSOCに対応する。
図4に示すように、充電曲線と、放電曲線とで電圧値が異なる。即ち同一SOCに対する電圧値が異なり、ヒステリシスを有する。この活物質の場合、同一SOCに対する電位差は、高SOC領域では低SOC領域より小さく、ヒステリシスが小さい。
【0024】
図5は、SOC(又は電圧値)が高くなるのに従い、ヒステリシスが大きい領域と小さい領域とが交互に表れる場合の充放電曲線である。横軸はSOC(%)、縦軸は電圧値(V)である。
正極が組成の異なるLi過剰型の活物質を複数含む場合、負極がヒステリシスが大きい活物質を複数含む場合、並びに正極及び負極夫々がヒステリシスが大きい活物質を含む場合、ヒステリシスが大きい領域と小さい領域とが交互に表れる、又は重なって表れることがある。
【0025】
図5の電圧値がa〜bである領域(2)においては、電圧値がa以下である領域(1)よりヒステリシスが小さい。領域(2)においては、ヒステリシスが大きいCの反応とヒステリシスが小さいDの反応とが生じている。領域(2)においてDの反応量が多いので、結果として領域(1)よりヒステリシスが小さい。
図5の電圧値がc以上である領域(4)においては、電圧値がb〜cである領域(3)よりヒステリシスが小さい。領域(4)においては、ヒステリシスが大きいEの反応とヒステリシスが小さいFの反応とが生じている。領域(4)においてEの反応量が多いので、結果として領域(3)よりヒステリシスが小さい。
【0026】
領域(2)の下限電圧値a、及び領域(4)の下限電圧値cを実験により求める。電圧値の昇降に基づいて、充電状態又は放電状態が、下限電圧値a以上の電圧領域に相当する領域(2)にあると判定した場合、及び下限電圧値c以上の電圧領域に相当する領域(4)にあると判定した場合、夫々、後述する到達電圧値に基づき、電圧参照によりSOCを推定する。
【0027】
なお、電圧値の領域は上述したように2又は4の領域に分かれる場合には限定されない。正極又は負極の活物質に応じて、複数の電気化学反応が生じ、ヒステリシスが大きい領域と小さい領域とが交互に表れる場合に、SOCが相対的に高く、ヒステリシスが小さい領域において、電圧参照によりSOCを推定する。
【0028】
以下、前記Aの反応及びBの反応を有する活物質につき、充放電実験により、前記反応BがSOC40%以上で多く生じ、これに対応する下限電圧値がE0 Vであることが求められたとして説明する。
【0029】
下限電圧値としてOCVを測定できる場合、該下限電圧値は一定であってもよい。下限電圧値としてCCVを測定する場合、蓄電素子の使用に伴う劣化の程度に対応して、下限電圧値を下げる等、更新してもよい。蓄電素子の劣化の原因として、内部抵抗の上昇、容量バランスのずれの増大等が挙げられる。容量バランスのずれとは、例えば、正極における充放電反応以外の副反応の量と、負極における充放電反応以外の副反応の量とに差が生じることによって、正極及び負極のうちの一方が完全には充電されないようになり、正極と負極の、可逆的に電荷イオンが電極から出入りできる容量が相違するようになることをいう。一般的なリチウムイオン電池では、正極における副反応量が、負極における副反応量よりも小さいために、「容量バランスのずれ」が増大すると、負極を完全に充電することができなくなり、蓄電素子から可逆的に取り出せる電気量が減少する。
【0030】
充電して電圧値が下限電圧値を超えた後、即ち下限電圧値よりも貴になった後、到達した最大の電圧値を到達電圧値とする。
蓄電量推定装置のメモリのテーブルには、下限電圧値から複数の到達電圧値までの複数の電圧参照SOC−OCV曲線(以下、参照SOC−OCV曲線という)が格納されている。例えば下限電圧値E0 Vから到達電圧値E1 VまでのSOC−OCV曲線a、下限電圧値E0 Vから到達電圧値E2 VまでのSOC−OCV曲線b、下限電圧値E0 Vから到達電圧値E3 VまでのSOC−OCV曲線cが格納されている。ここで、E1 >E2 >E3 である。なお、SOC−OCV曲線a,b,cは、後述する比較試験においても参照されるが、図示はしていない。テーブルには、離散的ではなく、全ての到達電圧値に対応したSOC−OCV曲線が連続的に格納されている。連続的には格納せず、SOC−OCV曲線を離散的に用意し、隣り合うSOC−OCV曲線間に位置すべき曲線を内挿計算により求めて補填してもよい。
【0031】
参照SOC−OCV曲線は、以下のようにして求められる。
SOCが40%から100%までの各点のSOC(%)につき、各SOC(%)→40%→100%と変化させた場合の放電OCV曲線及び充電OCV曲線を求める。放電OCV曲線は、たとえば、放電方向に微小な電流を通電させて、その際の電圧値を測定することで取得できる。又は、充電状態から各SOCまで放電し、休止させて電圧値が安定した電圧値を測定することもできる。同様に、充電OCVは、充電方向で上記の測定を実施すれば取得できる。SOC40%以上においても、前記活物質が僅かにヒステリシスを有している為、放電OCV曲線及び充電OCV曲線を平均化したOCV曲線を使用するのが好ましい。放電OCV曲線及び充電OCV曲線、又はそれらを補正したものを用いてもよい。
なお、始めに放電OCP曲線及び充電OCP曲線を求めた後、蓄電素子の参照SOC−OCV曲線に補正してもよい。
【0032】
充放電を繰り返した場合に、上記参照SOC−OCV曲線によるSOC推定と、従来の電流積算によるSOC推定との差異を比較した結果について説明する。
図6は、充放電時における、時間に対する電圧値の推移を示すグラフである。横軸は時間(秒)、縦軸は充放電電圧値(VvsLi/Li+ )である。図6においては微小電流により充放電を実施している為、通電中の電圧値は、OCVとほぼ同じ値を示すことを確認している。
図6に示すように、1回目の充電が行われて電圧値が下限電圧値E0 Vを超え、E3 Vに到達した後、1回目の放電が行われた。電圧値がE0 Vに達した後、2回目の充電が行われ、電圧値はE1 Vに達し、その後、2回目の放電が行われた。
【0033】
テーブルには、1回目の到達電圧値としてE3 Vが記憶される。2回目の充電でE3 Vを超えた時点で到達電圧値が更新される。1回目の放電及び2回目の充電においてE3 Vに達するまでの間は、前記SOC−OCV曲線cが使用される。2回目の充電のE3 VからE1 Vまでの間はテーブルに記憶された別のSOC−OCV曲線が使用される。2回目の放電のE1 Vから下限電圧値のE0 Vまでの間は前記SOC−OCV曲線aが使用される。
【0034】
図7は、初期品の蓄電素子につき、図6に示す充放電を行った場合の、本実施形態の電圧参照によりSOCを推定したときと、従来の電流積算によりSOCを推定したときとの差異を示すグラフである。横軸は時間(秒)、左側の縦軸はSOC(%)、右側の縦軸は前記差異(%)である。対照としての電流積算によるSOCの推定は、事前に放電容量を確認し、かつ精度の高い電流計を使用している為、前記式(1)中のQの放電容量及びIの電流値が正確である。真値に近似していると考えられる。
図中、dは電流積算により求めたSOCの推移、eは、前記SOC−OCV曲線c及びaを用いて電圧参照により求めたSOCの推移、fは差異である。差異は、(電圧参照により算出したSOC)−(電流積算により算出したSOC)により求めた。
図7より差異は略±4%未満であり、小さいことが分かる。
以上より、参照SOC−OCV曲線によるSOC推定の精度が良好であることが確認された。
【0035】
しかし、全ての到達電圧値に対応した参照SOC−OCV曲線を連続的にテーブルに格納する場合、上述の放電OCV曲線及び充電OCV曲線を実測するので、作業量が膨大である。
参照SOC−OCV曲線を離散的に用意し、隣り合うSOC−OCV曲線間に位置すべき曲線を内挿計算により求めて補填した場合、SOC推定の精度が低くなる。
しかも、蓄電素子の劣化に応じて所定時間間隔で電圧参照SOC−OCV曲線を用意することになるので、蓄電素子の使用期間におけるデータ量は非常に膨大になる。
【0036】
図2及び図3に示すように、高いSOCの領域においては、ヒステリシスの小さいBの酸化還元反応と、Aの酸化反応のみが生じ、Aの還元反応はほとんど生じない。また、ある電位におけるAの酸化反応が一度生じると、その酸化反応と対となるAの還元反応が生じるまでは、その電圧においてAの酸化反応は生じない。従って、一旦、Aの酸化反応が生じた後において、下限電圧値から到達上限電圧までは、ヒステリシスのないBの酸化還元反応のみが生じ、その充放電曲線形状は、同じ電圧におけるフル放電時の放電曲線形状と一致する。
フル放電したときの放電SOC−OCV曲線、及びフル充電したときの充電SOC−OCV曲線を用意する。放電SOC−OCV曲線上の或る電圧値におけるSOCと、充電SOC−OCV曲線上の同一電圧値におけるSOCとの差分をΔSOCとする。
Aの反応とBの反応とは実質的に独立して生じる。Aの反応量はΔSOCに対応し、Bの反応に影響を与えない。そこで、Bの反応の放電SOC−OCV曲線を基準にしてΔSOCで補正することにより、容易に参照SOC−OCV曲線を取得できると考えた。各到達電圧値を起点とする参照SOC−OCV曲線は、同一のBの反応に基づく、同一の放電SOC−OCV曲線を充電SOC−OCV曲線に向けて移動させて補正し、各起点の到達電圧値を上端として切り取った形状を有する。
【0037】
図8は、この原理を説明するための説明図である。横軸はSOC[%]、縦軸は充放電電圧値E(VvsLi/Li+ )である。
図8中、(1)はフル放電SOC−OCV曲線、(2)はフル充電SOC−OCV曲線である。放電SOC−OCV曲線(1)上の或る到達電圧値におけるSOCと、充電SOC−OCV曲線(2)上の同一到達電圧値におけるSOCとの差分がΔSOCである。このΔSOC分、放電SOC−OCV曲線(1)を横軸に平行に、充電SOC−OCV曲線(2)側にスライドさせることで、SOC−OCV曲線(3)が得られる。下限電圧値から到達電圧値までの範囲におけるSOC−OCV曲線(3)を参照SOC−OCV曲線とする。SOCを推定する場合、該参照SOC−OCV曲線を用い、取得した電圧値に対応するSOCを読み取る。
【0038】
図9は、SOCが40〜60%である場合に、実測により得られたSOC−OCV曲線である。横軸はSOC(%)、縦軸は充放電電圧値E(VvsLi/Li+ :Li/Li+平衡電位を基準にしたときの電位差)である。
図10は、SOCが40〜60%である場合に、上述の方法により得られた参照SOC−OCV曲線である。横軸はSOC(%)、縦軸は充放電電圧値E(VvsLi/Li+ :Li/Li+平衡電位を基準にしたときの電位差)である。
図11は、図9のSOC−OCV曲線aと図10の参照SOC−OCV曲線bとの差異を示すグラフである。横軸はSOC(%)、左側の縦軸は充放電電圧値E(VvsLi/Li+ :Li/Li+平衡電位を基準にしたときの電位差)、右側の縦軸は差異(V)である。差異は下記の式により求められる。
差異=|(参照SOC−OCV曲線の電圧値)−(実測SOC−OCV曲線の電圧値)|
上述の方法により求めた参照SOC−OCV曲線は、実測により求めた参照SOC−OCV曲線と一致することが確認された。即ち、下限電圧値から到達上限電圧までの参照SOC−OCV曲線の形状は、同じ電圧におけるフル放電時の放電曲線の形状と一致する。
上記方法により求めた参照SOC−OCV曲線を用いることにより、図7に示す結果で証明されたように、SOCを高精度に推定できる。
【0039】
以上の方法により、下限電圧値から各到達電圧値に対応する参照SOC−OCV曲線を容易に取得することができる。実測するのはフル放電SOC−OCV曲線及びフル充電SOC−OCV曲線のみであり、事前に検討すべき作業量が著しく軽減される。
隣り合うSOC−OCV曲線間に位置すべき曲線を内挿計算により求めて補填する場合と比較して、各到達電圧値に対応した参照SOC−OCV曲線を、実測したフル充放電SOC−OCV曲線から直接的に生成するので、SOC推定の精度が向上する。
SOC−OCV曲線が使用に伴い、変化する場合、蓄電素子の劣化に応じて、参照SOC−OCV曲線を生成する。この場合、実測するのはフル充放電SOC−OCV曲線のみであり、蓄電素子の使用期間における作業量が著しく軽減される。SOCの推定は、現在の電気化学挙動及び使用履歴から推定するのが好ましい。
【0040】
(実施形態1)
以下、実施形態1として、車両に搭載される蓄電モジュールを例に挙げて説明する。
図12は、蓄電モジュールの一例を示す。蓄電モジュール50は、複数の蓄電素子200と、監視装置100と、それらを収容する収容ケース300とを備えている。蓄電モジュール50は、電気自動車(EV)や、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)の動力源として使用されてもよい。
蓄電素子200は、角形セルに限定されず、円筒形セルやパウチセルであってもよい。
監視装置100は、複数の蓄電素子200と対向して配置される回路基板であってもよい。監視装置100は、蓄電素子200の状態を監視する。監視装置100が、蓄電量推定装置であってもよい。代替的に、監視装置100と有線接続または無線接続されるコンピュータやサーバが、監視装置100が出力する情報に基づいて蓄電量推定方法を実行してもよい。
【0041】
図13は、蓄電モジュールの他の例を示す。蓄電モジュール(以下、電池モジュールという)1は、エンジン車両に好適に搭載される、12ボルト電源や、48ボルト電源であってもよい。図13は12V電源用の電池モジュール1の斜視図、図14は電池モジュール1の分解斜視図、図15は電池モジュール1のブロック図である。
電池モジュール1は直方体状のケース2を有する。ケース2に複数のリチウムイオン二次電池(以下、電池という)3、複数のバスバー4、BMU(Battery Management Unit
)6、電流センサ7が収容される。
【0042】
電池3は、直方体状のケース31と、ケース31の一側面に設けられた、極性が異なる一対の端子32,32とを備える。ケース31には、正極板、セパレータ、及び負極板を積層した電極体33が収容されている。
【0043】
電極体33の正極板が有する正極活物質及び負極板が有する負極活物質の少なくとも一方は、充放電の推移に応じて2以上の電気化学反応を生じる。一の電気化学反応が生じるときに示す蓄電量−電圧値特性のヒステリシスが、他の電気化学反応が生じるときの前記ヒステリシスより小さい。
正極活物質としては、上述のLiMeO-LiMnO固溶体、Li2O−LiMeO2固溶体、Li3NbO4 −LiMeO2固溶体、Li4 WO5 −LiMeO2固溶体、Li4 TeO5 −LiMeO2固溶体、Li3SbO4 −LiFeO2固溶体、Li2RuO3 −LiMeO2固溶体、Li2RuO3 −Li2 MeO3 固溶体等のLi過剰型活物質が挙げられる。負極活物質としては、ハードカーボン、Si、Sn、Cd、Zn、Al、Bi、Pb、Ge、Ag等の金属若しくは合金、又はこれらを含むカルコゲン化物等が挙げられる。カルコゲン化物の一例として、SiOなどが挙げられる。
本発明の技術は、これらの正極活物質及び負極活物質の少なくとも一方が含まれていれば適用可能である。
【0044】
ケース2は合成樹脂製である。ケース2は、ケース本体21と、ケース本体21の開口部を閉塞する蓋部22と、蓋部22の外面に設けられたBMU収容部23と、BMU収容部23を覆うカバー24と、中蓋25と、仕切り板26とを備える。中蓋25や仕切り板26は、設けられなくてもよい。
ケース本体21の各仕切り板26の間に、電池3が挿入されている。
【0045】
中蓋25には、複数の金属製のバスバー4が載置されている。電池3の端子32が設けられている端子面に中蓋25が配置されて、隣り合う電池3の隣り合う端子32がバスバー4により接続され、電池3が直列に接続されている。
【0046】
BMU収容部23は箱状をなし、一長側面の中央部に、外側に角型に突出した突出部23aを有する。蓋部22における突出部23aの両側には、鉛合金等の金属製で、極性が異なる一対の外部端子5,5が設けられている。BMU6は、基板に情報処理部60、電圧計測部8、及び電流計測部9を実装してなる。BMU収容部23にBMU6を収容し、カバー24によりBMU収容部23を覆うことにより、電池3とBMU6とが接続される。
【0047】
図15に示すように、情報処理部60は、CPU62と、メモリ63とを備える。
メモリ63には、本実施形態に係るSOC推定プログラム63aと、フルの充電SOC−OCV曲線及び放電SOC−OCV曲線が格納されたテーブル63bとが記憶されている。SOC−OCV曲線はテーブル63bに格納する場合に限定されず、メモリ63に関数式として格納してもよい。
フルの充電SOC−OCV曲線及び放電SOC−OCV曲線は、所定の期間間隔で実測により取得する。電池3の劣化に従って、充放電SOC−OCV曲線が更新される。なお、電池3の使用の都度、充放電SOC−OCV曲線を実測してもよい。
【0048】
SOC推定プログラム63aは、例えば、CD−ROMやDVD−ROM、USBメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体70に格納された状態で提供され、BMU6にインストールすることによりメモリ63に格納される。また、通信網に接続されている図示しない外部コンピュータからSOC推定プログラム63aを取得し、メモリ63に記憶させることにしてもよい。
CPU62はメモリ63から読み出したSOC推定プログラム63aに従って、後述するSOC推定処理を実行する。
【0049】
電圧計測部8は、電圧検知線を介して電池3の両端に夫々接続されており、各電池3の電圧値を所定時間間隔で測定する。
電流計測部9は、電流センサ7を介して電池3に流れる電流値を所定時間間隔で計測する。
電池モジュール1の外部端子5,5は、エンジン始動用のスターターモータ及び電装品等の負荷11に接続されている。
ECU(Electronic Control Unit)10は、BMU6及び負荷11に接続されている
【0050】
以下、本実施形態に係るSOC推定方法について説明する。
図16及び図17は、CPU62によるSOC推定処理の手順を示すフローチャートである。CPU62は、所定の間隔でS1からの処理を繰り返す。
CPU62は、電池3の端子間の電圧値及び電流値を取得する(S1)。後述する下限電圧値及び到達電圧値はOCVであるので、電池3の電流量が大きい場合、取得した電圧値をOCVに補正する必要がある。OCVへの補正値は、複数の電圧値及び電流値のデータから回帰直線を用いて、電流値がゼロである場合の電圧値を推定すること等により得られる。電池3を流れる電流量が暗電流程度に小さい(微小電流である)場合、取得した電圧値をOCVとみなすことができる。
【0051】
CPU62は、電流値の絶対値が閾値以上であるか否かを判定する(S2)。閾値は、電池3の状態が充電状態又は放電状態と、休止状態とのいずれであるかを判定する為に設定される。CPU62は電流値の絶対値が閾値以上でないと判定した場合(S2:NO)、処理をS13へ進める。
【0052】
CPU62は、電流値の絶対値が閾値以上であると判定した場合(S2:YES)、電流値が0より大きいか否かを判定する(S3)。電流値が0より大きい場合、電池3の状態は充電状態であると判定できる。CPU62は電流値が0より大きくないと判定した場合(S3:NO)、処理をS9へ進める。
【0053】
CPU62は電流値が0より大きいと判定した場合(S3:YES)、電圧値が下限電圧値以上であるか否かを判定する(S4)。CPU62は電圧値が下限電圧値以上でないと判定した場合(S4:NO)、処理をS8へ進める。
【0054】
CPU62は電圧値が下限電圧値以上であると判定した場合(S4:YES)、電圧参照のフラグをオンにする(S5)。
CPU62は、取得した電圧値が前回の到達電圧値より大きいか否かを判定する(S6)。CPU62は電圧値が前回の到達電圧値より大きくないと判定した場合(S6:NO)、処理をS8へ進める。
【0055】
CPU62は電圧値が前回の到達電圧値より大きいと判定した場合(S6:YES)、メモリ63において、電圧値を到達電圧値に更新する(S7)。
CPU62は、電流積算によりSOCを推定し(S8)、処理を終了する。
【0056】
CPU62は電流値が0より小さく、電池3の状態が放電状態であると判定した場合、S9において、電圧値が下限電圧値未満であるか否かを判定する(S9)。CPU62は電圧値が下限電圧値未満でないと判定した場合(S9:NO)、処理をS12へ進める。
CPU62は電圧値が下限電圧値未満であると判定した場合(S9:YES)、電圧参照のフラグをオフする(S10)。
CPU62は到達電圧値をリセットする(S11)。
CPU62は、電流積算によりSOCを推定し(S12)、処理を終了する。
【0057】
CPU62は電流値の絶対値が閾値未満であり、電池3の状態が休止状態であると判定した場合、電圧参照のフラグがオンであるか否かを判定する(S13)。CPU62は電圧参照フラグがオンでないと判定した場合(S13:NO)、処理をS16へ進める。
【0058】
CPU62は電圧参照のフラグがオンであると判定した場合(S13:YES)、前回のS2で休止状態であると判定してから設定時間が経過したか否かを判定する(S14)。設定時間は、取得した電圧値をOCVとみなす為に十分な時間を予め実験により求める。休止状態であると判定してからの電流値の取得回数及び取得間隔に基づき、前記時間を超えたか否かを判定する。これにより、休止状態において、より高精度にSOCを推定することができる。
CPU62は設定時間が経過していないと判定した場合(S14:NO)、処理をS18へ進める。
CPU62はS18において、電流積算によりSOCを推定し、処理を終了する。
【0059】
CPU62は設定時間が経過したと判定した場合(S14:YES)、取得した電圧値はOCVとみなすことができる。
CPU62は、テーブル63bから充放電SOC−OCV曲線を読み出す(S15)。
CPU62は、参照SOC−OCV曲線を生成する(S16)。CPU62は、放電SOC−OCV曲線上の到達電圧値に対応する第1点が、充電SOC−OCV曲線上の到達電圧値に対応する第2点に重なるように放電SOC−OCV曲線を横軸に平行に移動させる。即ちΔSOC分、平行移動させる。そして、下限電圧値から到達電圧値まで曲線を切り取り、参照SOC−OCV曲線を生成する。
CPU62は、参照SOC−OCV曲線において、S1で取得した電圧値に対応するSOCを読み取ってSOCを推定し(S17)、処理を終了する。
充放電が繰り返された場合、電圧値が昇降し、即ち充電から放電へ切り換わった変曲点のうち高い変曲点が到達電圧値に設定される。
【0060】
なお、CPU62が電圧計測部8から取得する電圧値は、電流値により多少変動するので、実験により補正係数を求めて電圧値を補正することもできる。
【0061】
以上のように、本実施形態においては、ヒステリシスが小さい(ヒステリシスが実質的にない)、下限電圧値から到達電圧値までの範囲において、参照SOC−OCV曲線、及び現時点の電圧値に基づいてSOCを推定するので、SOCの推定の精度が良好である。従って、高精度にOCVリセットを行うことができる。
充電及び放電のいずれにおいても、SOCを推定することができる。電圧値の昇降の変曲点を到達電圧値に設定して参照SOC−OCV曲線を生成することで、複雑なパターンで充放電が繰り返された場合に、電圧値の履歴のみによってSOCを推定できる。また、取得した電圧値が前回の到達電圧値を超えた場合のみ、到達電圧値を更新することで、充電時の最終の電圧値に基づきSOC−OCV曲線を選択する特許文献1より高精度にSOCを推定できる。
【0062】
本実施の形態においては、メモリ63に記憶された到達電圧値に基づき、放電SOC−OCV曲線をΔSOC分、平行移動させて参照SOC−OCV曲線を生成する。全ての到達電圧値に対応する参照SOC−OCV曲線を一つの放電SOC−OCV曲線から生成する。到達電圧値毎に実測により参照SOC−OCV曲線をメモリ63に格納しておく必要がない。即ち下限電圧値から各到達電圧値に対応する参照SOC−OCV曲線を容易に取得することができる。実測するのはフルの充放電SOC−OCV曲線のみであり、作業量が著しく軽減される。
実測した隣り合うSOC−OCV曲線間に位置すべき曲線を内挿計算により求めて補填する場合と比較して、SOC推定の精度が向上する。
電池3の劣化に応じて、参照SOC−OCV曲線を取得する場合、実測するのはフルの充放電SOC−OCV曲線のみであり、電池3の使用期間における作業量が著しく軽減される。
SOC−OCV曲線から推定できる為、蓄電量としてSOCに限定されるものではなく、電力量等、電池3に蓄えられた現在のエネルギーの量を推定することができる。
【0063】
(実施形態2)
実施形態2においては、リアルタイムにSOCを推定する場合について説明する。CPU62によるSOC推定処理が異なること以外は、実施形態1と同様の構成を有する。
以下、本実施形態のCPU62によるSOC推定処理について説明する。
【0064】
図18及び図19は、CPU62によるSOC推定処理の手順を示すフローチャートである。CPU62は、所定の間隔でS21からの処理を繰り返す。
CPU62は、電池3の端子間の電圧値及び電流値を取得する(S21)。
CPU62は、電流値の絶対値が閾値以上であるか否かを判定する(S22)。閾値は、電池3の状態が充電状態又は放電状態と、休止状態とのいずれであるかを判定する為に設定される。CPU62は電流値の絶対値が閾値以上でないと判定した場合(S22:NO)、処理をS33へ進める。
【0065】
CPU62は、電流値の絶対値が閾値以上であると判定した場合(S22:YES)、電流値が0より大きいか否かを判定する(S23)。電流値が0より大きい場合、電池3の状態は充電状態である。CPU62は電流値が0より大きくないと判定した場合(S23:NO)、処理をS29へ進める。
CPU62は電流値が0より大きいと判定した場合(S23:YES)、電圧値が前回の到達電圧値より大きいか否かを判定する(S24)。前記電圧値は、例えば複数の電圧値及び電流値のデータから回帰直線を用い、電流値がゼロである場合の値を推定することで補正してもよい。CPU62は電圧値が前回の到達電圧値より大きくないと判定した場合(S24:NO)、処理をS26へ進める。
【0066】
CPU62は電圧値が前回の到達電圧値より大きいと判定した場合(S24:YES)、電圧値を到達電圧値に更新する(S25)。
CPU62は、電圧値が下限電圧値以上であるか否かを判定する(S26)。CPU62は電圧値が下限電圧値以上でないと判定した場合(S26:NO)、電流積算によりSOCを推定し(S30)、処理を終了する。
【0067】
CPU62は電圧値が下限電圧値以上であると判定した場合(S26:YES)、CPU62は、テーブル63bから充放電SOC−OCV曲線を読み出す(S27)。
CPU62は、参照SOC−OCV曲線を生成する(S28)。CPU62は、放電SOC−OCV曲線上の到達電圧値に対応する第1点が、充電SOC−OCV曲線上の到達電圧値に対応する第2点に重なるように放電SOC−OCV曲線を横軸に平行に移動させる。即ちΔSOC分、平行移動させる。そして、下限電圧値から到達電圧値まで曲線を切り取り、参照SOC−OCV曲線を生成する。
CPU62は、参照SOC−OCV曲線において、現時点のOCVからSOCを読み取ってSOCを推定し(S29)、処理を終了する。CPU62は、S21で取得した電圧値及び電流値から現時点のOCVを算出する。OCVの算出は、複数の電圧値及び電流値のデータから回帰直線を用いて、電流値がゼロである場合の電圧値を推定すること等により得られる。また、電流値が暗電流の電流値のように小さい場合は、取得した電圧値をOCVに読み替えることもできる。
【0068】
CPU62は電流値が0より小さく、電池3の状態が放電状態であると判定した場合、S29において、電圧値が下限電圧値以上であるか否かを判定する(S31)。
CPU62は電圧値が下限電圧値以上であると判定した場合(S31:YES)、上記と同様にして電圧参照によりSOCを推定する(S32)。
CPU62は電圧値が下限電圧値以上でないと判定した場合(S31:NO)、到達電圧値をリセットする(S33)。
CPU62は電流積算によりSOCを推定し(S34)、処理を終了する。
【0069】
CPU62は電流値の絶対値が閾値未満であり、電池3の状態が休止状態であると判定した場合、電圧値が下限電圧値以上であるか否かを判定する(S35)。CPU62は電圧値が下限電圧値以上でないと判定した場合(S36:NO)、処理をS36へ進める。
CPU62は電圧値が下限電圧値以上であると判定した場合(S36:YES)、前回、S22で休止状態であると判定してから設定時間が経過したか否かを判定する(S36)。設定時間は、取得した電圧値をOCVとみなす為に十分な時間を予め実験により求める。
CPU62は設定時間が経過していないと判定した場合(S36:NO)、処理をS38へ進める。
CPU62は電流積算によりSOCを推定し(S38)、処理を終了する。
【0070】
CPU62は設定時間が経過したと判定した場合(S36:YES)、取得した電圧値はOCVとみなすことができ、上記と同様にして電圧参照によりSOCを推定し(S37)、処理を終了する。
【0071】
本実施形態においては、充放電時にリアルタイムにSOCを推定することができる。
ヒステリシスが実質的にない、下限電圧値から到達電圧値までの範囲において、参照SOC−OCV曲線、及び現時点の電圧値に基づいてSOCを推定する。従って、SOCの推定の精度が良好である。
メモリ63に記憶された到達電圧値に基づき、テーブル63bに記憶された放電SOC−OCV曲線をΔSOC分、平行移動させて参照SOC−OCV曲線を生成する。全ての到達電圧値に対応する参照SOC−OCV曲線を一つの放電SOC−OCV曲線から生成する。到達電圧値毎に実測により参照SOC−OCV曲線をメモリ63に格納しておく必要がない。即ち下限電圧値から各到達電圧値に対応する参照SOC−OCV曲線を容易に取得することができる。実測するのはフルの充放電SOC−OCV曲線のみであり、作業量が著しく軽減される。
実測した隣り合うSOC−OCV曲線間に位置すべき曲線を内挿計算により求めて補填する場合と比較して、SOC推定の精度が向上する。
電池3の劣化に応じて、参照SOC−OCV曲線を取得する場合、実測するのはフルの充放電SOC−OCV曲線のみであり、電池3の使用期間における作業量が著しく軽減される。
SOC−OCV曲線から推定できる為、蓄電量としてSOCに限定されるものではなく、電力量等、電池3に蓄えられた現在のエネルギーの量を推定することができる。
充電及び放電のいずれにおいても、SOCを推定できる。複雑なパターンで、充放電が繰り返された場合においても、電圧値の履歴のみにより、SOCを推定できる。
電圧値を用いることができるので、蓄電量としてSOCに限定されず、電力量等、電池3に蓄えられた現在のエネルギーの量を推定することができる。
【0072】
以上のように、蓄電量推定装置は、充放電の推移に応じて2以上の電気化学反応を生じ、一の電気化学反応が生じる場合に示される、充電の推移に応じた蓄電量−電圧値充電特性、及び放電の推移に応じた蓄電量−電圧値放電特性間のヒステリシスが、他の電気化学反応が生じる場合の前記ヒステリシスより小さい、活物質を正極及び負極の少なくとも一方に含む蓄電素子の蓄電量を推定する蓄電量推定装置であって、反応の比率が、他の領域の反応の比率に対して、一の電気化学反応側にある領域で、前記蓄電量−電圧値放電特性に基づいて得られる電圧参照蓄電量−電圧値特性を用いて、蓄電量を推定する推定部を備える。
【0073】
上記構成においては、充電と放電とで、蓄電量に対する電圧値の変化が略一致している、反応の比率が、他の領域の反応の比率に対して、一の電気化学反応側にある領域で、電圧参照蓄電量−電圧値特性に基づいて蓄電量を推定する。
前記一の電気化学反応側にある領域において、放電反応としては、一の電気化学反応のみが生じている。この領域における一の電気化学反応の放電電気量は、一の電気化学反応の充電電気量とみなすことができる。即ち、充電状態、放電状態で蓄電量を推定するときに、同一の電圧参照蓄電量−電圧値特性を使用できる。
蓄電量−電圧値充電特性、及び蓄電量−電圧値放電特性を取得する。一の電気化学反応が生じる前記蓄電量−電圧値放電特性を用いることにより、容易に電圧参照蓄電量−電圧値特性を取得できる。
高容量で、蓄電量−電圧値特性がヒステリシスを示す活物質を有する蓄電素子の蓄電量を良好に容易に推定できる。
【0074】
電圧値を用いることができるので、蓄電量としてSOCに限定されず、電力量等、蓄電素子に蓄えられた現在のエネルギーの量を推定できる。充放電曲線に基づいて、SOC0%までの放電可能なエネルギー、及びSOC100%までに必要な充電エネルギーを予測することができる。
【0075】
上述の蓄電量推定装置において、前記一の電気化学反応側にある領域で、前記蓄電量−電圧値放電特性を、同一電圧値における前記蓄電量−電圧値充電特性及び前記蓄電量−電圧値放電特性間の蓄電量の差分、前記蓄電量−電圧値充電特性に向けて移動させて得られる電圧参照蓄電量−電圧値特性に基づいて、蓄電量を推定してもよい
【0076】
蓄電量−電圧値充電特性、及び蓄電量−電圧値放電特性を取得する。同一電圧値における両特性の蓄電量の差(Δ蓄電量)は、他の電気化学反応に対応する。一の電気化学反応と他の電気化学反応とは、実質的に独立して生じる。他の電気化学反応の反応量はΔ蓄電量に対応し、一の電気化学反応に影響を与えない。
上記構成においては、同一電圧値における前記蓄電量−電圧値充電特性及び前記蓄電量−電圧値放電特性間の蓄電量の差分、蓄電量−電圧値放電特性を蓄電量−電圧値充電特性に向けて移動させて電圧参照蓄電量−電圧値特性を得る。即ち、各電圧値を起点とする電圧参照蓄電量−電圧値特性は、同一の一の電気化学反応に基づく、同一の蓄電量−電圧値放電特性を蓄電量−電圧値充電特性に向けて移動させ、各起点の電圧値を上端として切り取った形状を有する。
上記構成によれば、蓄電量の推定の精度がより良好である。
【0077】
上述の蓄電量推定装置において、前記蓄電素子の電圧値を取得する電圧取得部と、該電圧取得部が取得した電圧値が、ヒステリシスの有無が切り替わる下限の電圧値よりも高くなった後の電圧値に基づいて到達電圧値を設定する設定部とを備え、前記同一電圧値は、前記到達電圧値であることが好ましい。
【0078】
上記構成においては、電圧値の昇降に基づき到達電圧値を設定して電圧参照蓄電量−電圧値特性を生成する。複雑なパターンで、充放電が繰り返された場合においても、電圧値の履歴のみにより電圧参照蓄電量−電圧値特性を生成して、蓄電量を推定できる。
【0079】
上述の蓄電量推定装置において、前記推定部は、前記電圧取得部により取得した電圧値が前記下限の電圧値から前記到達電圧値までの間にあるときに、前記移動蓄電量−電圧値特性を参照して前記蓄電量を推定することが好ましい。
【0080】
一の電気化学反応が主として生じ、ヒステリシスが小さい、下限電圧値から到達電圧値までの範囲において、他の電気化学反応の反応量は少ない。充放電反応において、一の電気化学反応が主に生じている。上記構成においては、この場合に、電圧参照蓄電量−電圧値特性、及び取得した電圧値に基づいて蓄電量を推定する。従って、蓄電量の推定の精度が良好である。
【0081】
上述の蓄電量推定装置において、前記設定部は、前記到達電圧値を記憶部に記憶し、前記電圧取得部が取得した電圧値が前記記憶部に前回記憶された到達電圧値より大きい場合に、取得した電圧値を到達電圧値に更新することが好ましい。
【0082】
更新された到達電圧値に基づいて電圧参照蓄電量−電圧値特性を生成することで、精度良く蓄電量を推定することができる。
【0083】
上述の蓄電量推定装置において、前記蓄電量はSOCであることが好ましい。
【0084】
高容量材料についてSOCを推定することで、既存の制御システムへの適用性が向上する。SOCに基づいて、放電可能エネルギーのような蓄電量を容易に算出することができる。蓄電量推定装置は、OCVとSOCとが一対一対応しない、ヒステリシスを有する電極材料を用いた蓄電素子の充電状態を、特別なセンサや追加の部品を要することなく、高精度に推定することができる。
【0085】
蓄電モジュールは、複数の蓄電素子と、上述のいずれかの蓄電量推定装置とを備える。
【0086】
車両用の蓄電モジュールや産業用の蓄電モジュールは、典型的には複数の蓄電素子が直列に接続される。複数の蓄電素子が直列及び並列に接続される場合もある。蓄電モジュールの性能を発揮するためには、各蓄電素子の蓄電量を精度良く推定し、複数の蓄電素子間で蓄電量のばらつきが生じた時にはバランシング処理を行う必要がある。たとえ各蓄電素子が高容量であっても、複数の蓄電素子間の蓄電量のばらつきを検出できなければ、蓄電モジュールの性能を使い切ることができない。上述の蓄電量推定装置によって各蓄電素子の蓄電量を高精度に推定できるので、蓄電モジュールの性能を最大限発揮することが出来る。蓄電モジュールは、特に高容量に対する要求が高い、EVやPHEVの動力源として好適に使用される。
【0087】
本発明に係る蓄電量推定方法は、充放電の推移に応じて2以上の電気化学反応を生じ、一の電気化学反応が生じる場合に示される、充電の推移に応じた蓄電量−電圧値充電特性、及び放電の推移に応じた蓄電量−電圧値放電特性間のヒステリシスが、他の電気化学反応が生じる場合の前記ヒステリシスより小さい、活物質を正極及び負極の少なくとも一方に含む蓄電素子の蓄電量を推定する蓄電量推定方法であって、反応の比率が、他の領域の反応の比率に対して、一の電気化学反応側にある領域で、前記蓄電量−電圧値放電特性に基づいて得られる電圧参照蓄電量−電圧値特性を取得し、該電圧参照蓄電量−電圧値特性に基づいて、蓄電量を推定する。
【0088】
上記方法においては、充電と放電とで、蓄電量に対する電圧値の変化が略一致している、一の電気化学反応が多く生じる場合に、電圧参照蓄電量−電圧値特性に基づいて蓄電量を推定する。
一の電気化学反応が多く生じる領域において、放電反応としては、一の電気化学反応のみが生じている。この領域における一の電気化学反応の放電電気量は、一の電気化学反応の充電電気量とみなすことができる。即ち、充電状態、放電状態で蓄電量を推定するときに、同一の電圧参照蓄電量−電圧値特性を使用できる。
蓄電量−電圧値充電特性、及び蓄電量−電圧値放電特性を取得する。一の電気化学反応が生じる前記蓄電量−電圧値放電特性を用いることにより、容易に電圧参照蓄電量−電圧値特性を取得できる。
実測するのは蓄電量−電圧値放電特性及び蓄電量−電圧値充電特性のみであり、作業量は少ない。
隣り合う電圧参照蓄電量−電圧値特性間に位置すべき電圧参照蓄電量−電圧値特性を内挿計算により求めて補填する場合と比較して、各到達電圧値に対応して電圧参照蓄電量−電圧値特性参照を生成するので、蓄電量推定の精度が向上する。
蓄電素子の劣化に応じて、電圧参照蓄電量−電圧値特性を取得する場合、実測するのは蓄電量−電圧値放電特性及び蓄電量−電圧値充電特性のみであり、蓄電素子の使用期間における作業量は少ない。
高容量で、蓄電量−電圧値特性がヒステリシスを示す活物質を有する蓄電素子の蓄電量を良好に容易に推定できる。
【0089】
充電及び放電のいずれにおいても、蓄電量を推定することができる。電圧値の昇降に係る変曲点を到達電圧値に設定して蓄電量−電圧値特性を選択する。複雑なパターンで、充放電が繰り返された場合においても、電圧値の履歴のみにより、蓄電量を推定できる。
電圧値を用いることができるので、蓄電量としてSOCに限定されず、電力量等、蓄電素子に蓄えられた現在のエネルギーの量を推定できる。
【0090】
上述の蓄電量推定方法は、取得した電圧値が、ヒステリシスの有無が切り替わる下限の電圧値よりも高くなった後の電圧値に基づいて到達電圧値を設定し、該到達電圧値における、前記蓄電量−電圧値放電特性及び前記蓄電量−電圧値充電特性間の蓄電量の差分、前記蓄電量−電圧値放電特性を、前記蓄電量−電圧値充電特性側に向けて移動させて前記電圧参照蓄電量−電圧値特性を取得し、取得した電圧値が前記下限の電圧値から前記到達電圧値までの間にあるときに、前記電圧参照蓄電量−電圧値特性を参照して前記蓄電量を推定することが好ましい。
【0091】
蓄電量−電圧値充電特性、及び蓄電量−電圧値放電特性を取得する。同一電圧値における両特性の蓄電量の差(Δ蓄電量)は、他の電気化学反応に対応する。他の電気化学反応の反応量はΔ蓄電量に対応し、一の電気化学反応に影響を与えない。
そこで、一の電気化学反応が生じる蓄電量−電圧値放電特性を基準にしてΔ蓄電量で補正することにより、容易に電圧参照蓄電量−電圧値特性を取得できる。即ち、各電圧値を起点とする電圧参照蓄電量−電圧値特性は、同一の一の電気化学反応に基づく、同一の蓄電量−電圧値放電特性を蓄電量−電圧値充電特性に向けて移動させ、各起点の電圧値を上端として切り取った形状を有する。
上記方法においては、電圧値の昇降に基づき到達電圧値を設定して電圧参照蓄電量−電圧値特性を生成する。複雑なパターンで、充放電が繰り返された場合においても、電圧値の履歴のみにより電圧参照蓄電量−電圧値特性を生成して、蓄電量を推定できる。
そして、一の電気化学反応が生じ、ヒステリシスが小さい、下限電圧値から到達電圧値までの範囲において、電圧参照蓄電量−電圧値特性、及び現時点の電圧値に基づいて蓄電量を推定する。従って、蓄電量の推定の精度が良好である。
【0092】
コンピュータプログラムは、充放電の推移に応じて2以上の電気化学反応を生じ、一の電気化学反応が生じる場合に示される、充電の推移に応じた蓄電量−電圧値充電特性、及び放電の推移に応じた蓄電量−電圧値放電特性のヒステリシスが、他の電気化学反応が生じる場合の前記ヒステリシスより小さい、活物質を正極及び負極の少なくとも一方に含む蓄電素子の蓄電量を推定するコンピュータに、前記蓄電量−電圧値放電特性、及び前記蓄電量−電圧値充電特性を取得し、取得した電圧値が、ヒステリシスの有無が切り替わる下限の電圧値よりも高くなったか否かを判定し、前記電圧値が前記下限の電圧値よりも高くなったと判定した場合に、到達電圧値を設定し、設定した前記到達電圧値に対応する、前記蓄電量−電圧値放電特性上の第1点を取得し、前記到達電圧値に対応する、前記蓄電量−電圧値充電特性上の第2点を取得し、前記第1点が前記第2点に重なるように、前記蓄電量−電圧値放電特性を前記蓄電量−電圧値充電特性に向けて移動させて電圧参照蓄電量−電圧値特性を取得し、取得した電圧値が前記下限の電圧値から前記到達電圧値までの間にあるか否かを判定し、前記電圧値が前記下限の電圧値から前記到達電圧値までの間にあると判定した場合に、前記電圧参照蓄電量−電圧値特性を参照して、前記電圧値における前記蓄電量を推定する処理を実行させる。
【0093】
本発明は上述した実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。即ち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明に係る蓄電量推定装置は、車載用のリチウムイオン二次電池に適用される場合に限定されず、鉄道用回生電力貯蔵装置、太陽光発電システム等の他の蓄電モジュールにも適用できる。微小電流が流れる蓄電モジュールにおいては、蓄電素子の正極端子・負極端子間の電圧値、又は、蓄電モジュールの正極端子・負極端子間の電圧値をOCVとみなすことができる。
蓄電素子は、リチウムイオン二次電池に限定されるものではなく、ヒステリシス特性を有する他の二次電池や電気化学セルであってもよい。
【0094】
監視装置100又はBMU6が蓄電量推定装置である場合に限定されない。CMU(Cell Monitoring Unit)が蓄電量推定装置であってもよい。蓄電量推定装置は、監視装置100等が組み込まれた蓄電モジュールの一部であってもよい。蓄電量推定装置は、蓄電素子や蓄電モジュールとは別個に構成されて、蓄熱量推定対象の蓄電素子を含む蓄電モジュールに、蓄熱量の推定時に接続されてもよい。蓄熱量推定装置は、蓄電素子や蓄電モジュールを遠隔監視してもよい。
【符号の説明】
【0095】
1、50 電池モジュール(蓄電モジュール)
2 ケース
21 ケース本体
22 蓋部
23 BMU収容部
24 カバー
25 中蓋
26 仕切り板
3、200 電池(蓄電素子)
31 ケース
32 端子
33 電極体
4 バスバー
5 外部端子
6 BMU(蓄電量推定装置)
60 情報処理部
62 CPU(推定部、電圧取得部、設定部、選択部)
63 メモリ(記憶部)
63a SOC推定プログラム
63b テーブル
7 電流センサ
8 電圧計測部
9 電流計測部
10 ECU
70 記録媒体
100 監視装置(蓄電量推定装置)
300 収容ケース
【要約】
【課題】蓄電量−電圧値特性がヒステリシスを示す活物質を含む蓄電素子の蓄電量を推定することができる蓄電量推定装置、該蓄電量推定装置を備える蓄電モジュール、蓄電量推定方法、及びコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】蓄電量推定装置6は、充放電の推移に応じて2以上の電気化学反応を生じ、一の電気化学反応が生じる場合に示される、蓄電量−電圧値充電特性及び蓄電量−電圧値放電特性間のヒステリシスが、他の電気化学反応が生じる場合のヒステリシスより小さい、活物質を正極及び負極の少なくとも一方に含む蓄電素子3の蓄電量を推定する。蓄電量推定装置6は、一の電気化学反応が他の電気化学反応より多く生じる場合に、蓄電量−電圧値放電特性を、蓄電量−電圧値充電特性に向けて移動させて得られる電圧参照蓄電量−電圧値特性に基づき、蓄電量を推定する推定部62を備える。
【選択図】図15
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19