(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本発明の基礎となった知見)
濾過対象物を含む流体を濾過フィルタで濾過するとき、濾過速度(単位時間当たりの濾過量)を速くするためには、開口率を高くした濾過フィルタの使用が有用である。濾過フィルタの開口率を高くするために、貫通孔を一定の大きさで複数個設ける場合、濾過フィルタの貫通孔の大きさを微細にして濾過する面全体に貫通孔が密に形成される。
【0010】
一方、貫通孔の大きさを微細にするほど、貫通孔における流体の通過速度が速くなる。本発明者らは、貫通孔における流体の通過速度(流速)が速くなることで、貫通孔を通過する濾過対象物にかかる負荷が増大することを知見した。
【0011】
本発明者らは、この新規な知見に基づき鋭意検討した結果、濾過フィルタに設けられた貫通孔の内周面に、周方向に波状の凹凸を設けることで、貫通孔の内周面の表面積を大きくする構成を見出した。これにより、内周面に凹凸を設けない構成よりも内周面の表面抵抗を増大させることができ、貫通孔における濾過対象物の通過速度を遅くすることができることを見出した。この結果、開口率を高めて濾過速度を速くすると共に、貫通孔を通過する濾過対象物にかかる負荷を低減できることを見出した。
【0012】
これらの点を踏まえて、本発明者らは、以下の発明に至った。
【0013】
本発明の一態様に係る濾過フィルタは、複数の貫通孔が設けられた金属製多孔膜を備え、流体に含まれる濾過対象物を濾過する濾過フィルタであって、
前記金属製多孔膜の前記貫通孔の内周面に、周方向に波状の凹凸が設けられていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、貫通孔の内周面に周方向に波状の凹凸を設けているので、貫通孔の内周面の表面積を大きくすることができる。これによって、内周面に凹凸を設けない構成よりも内周面の表面抵抗を増大させることができ、貫通孔における濾過対象物の通過速度を遅くすることができる。このため、貫通孔を通過する濾過対象物にかかる負荷を低減できる。また、貫通孔の内周面に周方向に波状の凹凸を設けることで、貫通孔の内周面に濾過対象物が付着することを抑制することができる。これによって、貫通孔に濾過対象物が目詰まりすることを抑制することができる。また、貫通孔に濾過対象物が目詰まりした場合でも、濾過対象物と波状の凹凸の間の流路により流体を通過させることができる。従って、濾過効率を向上させることができる。
【0015】
また、前記波状の凹凸は、畝部と谷部とが交互に繰り返されることにより形成され、前記畝部及び前記谷部は、前記流体の流れ方向に沿うように形成されることが好ましい。この構成によれば、波状の凹凸を形成する畝部及び谷部が流体の流れ方向に沿うように形成されているため、貫通孔の入口から出口に至るまで、貫通孔の開口面積を一定に保つことができる。
【0016】
また、前記畝部の配置間隔は、前記貫通孔を通過する前記濾過対象物の平均粒子径より小さいことが好ましい。この構成によれば、濾過対象物が谷部に入り込むことを抑えることができ、濾過対象物と貫通孔の内周面との接触面積を小さくすることができる。その結果、貫通孔の内周面に濾過対象物が付着することを一層抑制することができる。
【0017】
また、前記畝部及び前記谷部の表面に凹凸が設けられていることが好ましい。この構成によれば、内周面の表面抵抗をより一層増大させることができ、貫通孔における濾過対象物の通過速度をさらに遅くすることができる。また、畝部及び谷部の表面と濾過対象物との接触面積を小さくすることができ、貫通孔の内周面に濾過対象物が付着することをより一層抑制することができる。また、貫通孔に濾過対象物が目詰まりして、さらに、波状の凹凸に濾過対象物が吸着した場合でも、濾過対象物と凹凸の間の流路により流体を通過させることができる。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
(実施の形態)
本実施の形態に係る濾過フィルタの構成について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る濾過フィルタ10の概略図である。
図2は、
図1の濾過フィルタ10のZ1部分の拡大斜視図である。
図3は、
図2を厚み方向から見た概略図である。
図1から
図3中のX、Y、Z方向は、それぞれ濾過フィルタ10の縦方向、横方向、厚み方向を示しており、互いに直交する方向である。
【0020】
図1に示すように、濾過フィルタ10は、金属製多孔膜11と、金属製多孔膜11の外周に設けられた枠部13と、を備える。濾過フィルタ10の金属製多孔膜11は、
図2に示すように、互いに対向する第1主面PS1と第2主面PS2とを有している。
【0021】
金属製多孔膜11の外周に設けられた枠部13は、金属製多孔膜11を保持するものである。枠部13の形状は、例えば、金属製多孔膜11の主面PS1側から見て環状である。なお、濾過フィルタ10において、枠部13が設けられずに、他の部材によって金属製多孔膜11が保持されてもよい。
【0022】
金属製多孔膜11には、両主面PS1、PS2を貫通する複数の貫通孔12が形成されている。貫通孔12は流体から濾過対象物を分離するものである。貫通孔12の形状及び寸法は、濾過対象物の形状、大きさに応じて適宜設定されるものである。貫通孔12は、例えば、等間隔又は周期的に配置される。貫通孔12の形状は、例えば、金属製多孔膜11の主面PS1側から見て正方形である。本実施の形態において、
図3に示すように、貫通孔12は、正方格子状に配列されている。貫通孔12の一辺dは、例えば、縦0.1μm以上500μm以下、横0.1μm以上500μm以下である。貫通孔12間の間隔bは、例えば、貫通孔12の1倍よりも大きく10倍以下であり、より好ましくは3倍以下である。また、金属製多孔膜11における貫通孔12の開口率は、例えば、10%以上である。
【0023】
金属製多孔膜11の材料としては、例えば、金、銀、銅、白金、ニッケル、ステンレス、鋼、パラジウム、チタン、コバルト、これらの合金、及びこれらの酸化物が挙げられる。金属製多孔膜11の寸法は、例えば、直径8mm、厚さ0.1μm以上100μm以下である。金属製多孔膜11の外形は、例えば、円形、楕円形、又は多角形である。本実施の形態においては、金属製多孔膜11の外形は、円形となっている。
【0024】
図4は、
図2のZ2部分の拡大部の模式図である。
図4に示すように、金属製多孔膜11の貫通孔12の内周面14には、周方向に波状(カーテン状)の凹凸15が設けられている。本実施の形態において、波状の凹凸15は、滑らかな形状(例えば、サインカーブ)を有するように形成されている。また、波状の凹凸15は、畝部15aと谷部15bとが交互に繰り返されることにより形成されている。畝部15a及び谷部15bは、稜線が流体の流れ方向に沿うように形成されている。本実施の形態において、流体の流れ方向は金属製多孔膜11の主面PS1、PS2に対して直交方向(Z方向)であり、畝部15a及び谷部15bはZ方向に延在するように形成されている。さらに、
図4のZ3部分の拡大部に示すように、畝部15a及び谷部15bの表面には凹凸16が設けられている。凹凸16は、波状の凹凸15よりも微細な形状を有しており、複数の凸部16aと凹部16bとにより形成されている。また、本実施の形態において、畝部15aの配置間隔P1は、貫通孔12を通過する濾過対象物の平均粒子径より小さく設定することが好ましい。
【0025】
本実施の形態において、濾過対象物は、液体に含まれる生物由来物質である。本明細書において、「生物由来物質」とは、細胞(真核生物)、細菌(真性細菌)、ウィルス等の生物に由来する物質を意味する。細胞(真核生物)としては、例えば、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、ES細胞、幹細胞、間葉系幹細胞、単核球細胞、単細胞、細胞塊、浮遊性細胞、接着性細胞、神経細胞、白血球、再生医療用細胞、自己細胞、がん細胞、血中循環がん細胞(CTC)、HL−60、HELA、菌類を含む。細菌(真性細菌)としては、例えば、大腸菌、結核菌を含む。また、濾過対象物の平均粒子径は100nmから500μmである。
【0026】
本実施の形態によれば、金属製多孔膜11の貫通孔12の内周面14に、周方向に波状の凹凸15が設けられている。この構成によれば、内周面14に凹凸15を設けない構成よりも貫通孔12の内周面14の表面積を大きくすることができる。これにより、内周面14に凹凸15を設けない構成よりも内周面14の表面抵抗を増大させることができる。このため、貫通孔12における濾過対象物の通過速度を遅くすることができる。この結果、開口率を高く保ちながら、貫通孔12を通過する濾過対象物にかかる負荷を低減できる。また、貫通孔12の内周面14に周方向に波状の凹凸15を設けることで、内周面14に濾過対象物が付着することを抑制し、貫通孔12に濾過対象物が目詰まりすることを抑制することができる。また、貫通孔12に濾過対象物が目詰まりした場合でも、濾過対象物と波状の凹凸15の間の流路により流体を通過させることができる。従って、濾過効率を向上させることができる。
【0027】
また、波状の凹凸15が畝部15aと谷部15bとが交互に繰り返されることにより形成され、畝部15a及び谷部15bが流体の流れ方向に沿うように形成されている。この構成によれば、貫通孔12の入口から出口に至るまで、貫通孔12の開口面積を一定に保つことができる。
【0028】
また、畝部15aの配置間隔P1は、貫通孔12を通過する濾過対象物の平均粒子径より小さく設定することが好ましい。また、波状の凹凸15の高さは、貫通孔12の大きさに対して10%以下であることが好ましい。なお、本実施の形態において、高さとは、例えば、畝部15aの頂部から谷部15bの底部までの高さの平均値である。この構成によれば、濾過対象物が谷部15bに入り込むことを抑えることができ、濾過対象物と内周面14との接触面積を小さくすることができる。その結果、内周面14に濾過対象物が付着することを一層抑制することができる。
【0029】
また、内周面14に設けられた畝部15a及び谷部15bの表面には凹凸16が設けられている。この構成によれば、内周面14の表面抵抗をより一層増大させることができ、貫通孔12における濾過対象物の通過速度を遅くすることができる。また、濾過対象物と内周面14との接触面積をより小さくすることができ、内周面14に濾過対象物が付着することをより一層抑制することができる。また、貫通孔12に濾過対象物が目詰まりして、さらに、波状の凹凸15に濾過対象物が吸着した場合でも、濾過対象物と凹凸16の間の流路により流体を通過させることができる。
【0030】
金属製多孔膜11において、貫通孔12の大きさが50μm以下の場合、貫通孔12における流体の通過速度が速くなることで、貫通孔12を通過する濾過対象物にかかる負荷が増大しやすい。このため、特に貫通孔12の大きさが50μm以下の場合、貫通孔12における濾過対象物の通過速度を遅くすることがより一層求められる。このような観点から、濾過対象物の平均粒子径が50μm以下の場合に、本実施の形態における効果が得られやすい。
【0031】
次に金属製多孔膜11の製造方法の一例について説明する。
図5Aから
図5Eは、金属製多孔膜11の製造方法の一例を示す断面図である。
【0032】
まず、
図5Aに示すように、シリコンなどの基板21上に銅薄膜22を形成する。銅薄膜22は、例えば蒸着又はスパッタリングにより形成することができる。スパッタリングにて形成した方が、蒸着にて形成される場合と比べて、表面膜質を良好なものとすることができる。
【0033】
次いで、
図5Bに示すように、銅薄膜22上にレジスト膜23を形成する。具体的には、銅薄膜22上に、例えばスピンコートによりレジストの塗布を行い、乾燥処理を行うことにより、レジスト膜23を形成する。レジスト膜23の膜厚は、金属製多孔膜11の膜厚に応じて適宜設定されるものである。
【0034】
次いで、
図5Cに示すように、レジスト膜23を露光及び現像処理し、レジスト膜23から金属製多孔膜11に対応する部分が除去された、溝部24を有するレジスト像25を形成する。なお、エネルギー密度又はフォーカスオフセットを小さくして露光を行うことで、溝部24の内周面には、周方向に波状の凹凸が形成される。これは、金属製多孔膜11の貫通孔12の内周面14における波状の凹凸15に対応する。
【0035】
次いで、
図5Dに示すように、レジスト膜23を除去した部分に金属製多孔膜11を形成する。金属製多孔膜11は、例えば、電解めっき法により形成することができる。なお、電解めっき法によりめっきを行う際、通常はめっき速度を遅くしてめっきを長時間かけて行う。本実施の形態においては、めっき速度を速くしてめっきを短時間で行うことにより、畝部15a及び谷部15bの表面に凹凸16を形成している。
【0036】
次いで、
図5Eに示すように、溶剤(例えば、アセトン等)への浸漬を行って、レジスト像25を溶解剥離処理して、銅薄膜22上からレジスト像25を除去する。
【0037】
次いで、銅薄膜22をエッチングして除去し、金属製多孔膜11を基板21から剥離する。これにより、貫通孔12の内周面14に波状の凹凸15が形成され、さらに畝部15a及び谷部15bの表面に凹凸16が形成された、金属製多孔膜11が作製される。なお、
図5Aから
図5Eを用いて説明した製造方法は一例であり、その他の製造方法が採用されてもよい。
【0038】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、前記実施の形態では、金属製多孔膜11は、液体から生物由来物質を濾過するために使用されるものとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、金属製多孔膜11は、液体を濃縮するために使用されてもよい。
【0039】
また、畝部15a及び谷部15bの配置間隔P1は、周方向において一定でなくてもよい。また、稜線が流体の流れ方向に概ね沿っていれば、畝部15a及び谷部15bの間隔は、流体の流れ方向において変化してもよい。
【0040】
(実施例1)
次に、
図5Aから
図5Eを用いて説明した製造方法により作製した、実施例1に係る金属製多孔膜11について説明する。
【0041】
まず、シリコン基板21の上面に、スパッタリング装置を用いて銅薄膜22を形成した。このとき、シリコン基板21と銅薄膜22との接着性を確保するためにチタン製薄膜の中間層を形成した。スパッタリングの条件としては、真空度5.0×10
−4Paのアルゴンガス雰囲気下で、DC500Wの電力を印加し、銅薄膜22は27分、チタン製薄膜は3分5秒かけてスパッタリングを行った。
【0042】
次いで、スピンコーターを用いて、シリコン基板21の上面に形成された銅薄膜22上に、膜厚2μmのレジスト膜23を形成した。このとき、スピンコーターの回転数は1130rpmとして、レジスト剤(住友化学製PFI−37A)を銅薄膜22上に塗布した後、130℃の窒素雰囲気下で溶剤を揮発させ、冷却することで、レジスト膜23を形成した。
【0043】
次いで、波長365nmを含んだエネルギー密度1300J/m
2の光線を、開口(NA)0.45、フォーカスオフセット+0.80μmにて0.25秒間照射して、レジスト膜23を露光した。このとき、金属製多孔膜11の対応する貫通孔を有するマスクを用いて、露光を行った。その後、さらに85℃の大気下で3分間加熱した後、デベロッパー溶液(NMD−3)に1分間浸漬する作業を2回行って現像した。これにより、レジスト膜23から金属製多孔膜11に対応する部分を除去した。
【0044】
次いで、RF200Wの強度で1分間アッシングした後、5%の希硫酸に60秒間浸漬した。その後、液温55℃、pH4.0のスルファミン酸ニッケルめっき液に電流値1.699Aの下、揺動させながら、めっき速度0.5μm/minで電解めっきを行った。これにより、レジスト膜23を除去した部分に金属製多孔膜11を形成した。
【0045】
次いで、アセトン溶液中で15分間超音波をかけることでレジスト膜23を剥離した。
【0046】
次いで、銅薄膜22をエッチングして除去し、金属製多孔膜11をシリコン基板21から剥離した。このとき、60%過酸化水素水と酢酸と純水を1:1:20の混合比で作製した水溶液に、25℃の環境下で48時間浸漬することで剥離を行った。このようにして、実施例1に係る金属製多孔膜を作製した。
【0047】
(実施例2)
次に、実施例2に係る金属製多孔膜について説明する。実施例2では、実施例1と異なる点について説明する。
【0048】
レジスト膜を露光する条件として、波長365nmを含んだエネルギー密度2050J/m
2の光線を、開口(NA)0.45、フォーカスオフセット+0.20μmにて0.25秒間照射して、レジスト膜23を露光した。
【0049】
(比較例1)
次に、比較例1に係る金属製多孔膜について説明する。比較例1では、実施例1と異なる点について説明する。
【0050】
レジスト膜を露光する条件として、波長365nmを含んだエネルギー密度2050J/m
2の光線を、開口(NA)0.45、フォーカスオフセット+0.80μmにて0.25秒間照射して、レジスト膜23を露光した。
【0051】
実施例1及び2において、金属製多孔膜11の貫通孔12の内周面14に、波状の凹凸15が形成されており、さらに、畝部15a及び谷部15bの表面に凹凸16が形成されていることが観察された。一方、比較例1においては、金属製多孔膜11の貫通孔12の内周面14に、波状の凹凸15は観察されなかった。
【0052】
以上により、エネルギー密度又はフォーカスオフセットを小さく設定することで、金属製多孔膜11の貫通孔12の内周面14に、波状の凹凸15が形成され、さらに、畝部15a及び谷部15bの表面に凹凸16が形成されることが確認された。
【0053】
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施の形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。
濾過フィルタは、複数の貫通孔が設けられた金属製多孔膜を備え、流体に含まれる濾過対象物を濾過する濾過フィルタであって、金属製多孔膜の貫通孔の内周面に、周方向に波状の凹凸が設けられている。