(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、近年、資源の有効利用が環境保護対策の一環等として強く求められており、製紙工場において排出される黒液や、バイオエタノール抽出後の溶液等のリグニン含有液も注目を集めている。例えば、製紙工場においては、蒸解工程において多量の黒液が排出されており、この黒液は蒸解薬液由来のナトリウムや硫黄等のアルカリ薬品のほか、リグニン等の有機物を含む。現在、この黒液に含まれるリグニンの有効利用が種々検討されており、例えば、特許文献2は、リグニン含有液から炭素微粒子を製造する方法を提案する。この提案は、リグニン含有液を微小液滴化・乾燥して微粒子とし、この微粒子を熱分解して炭素微粒子を製造するというものである。
【0006】
同文献は、このようにして製造される炭素微粒子がカーボンブラック等の代替品になることを期待しており、さまざまな試験結果を開示して製造される炭素微粒子が有用であることを明らかにしている。
この点に関して、上記特許文献2は、例えば、段落[0056]において「本発明の製造方法で生成された炭素微粒子は軽量であり、比表面積が市販の活性炭と同等であるものも存在するため、タイヤ等のゴムの補強剤としての利用の他、活性炭、除放材、黒色顔料、トナー、カラフィルター、導電材料、静電防止剤、電池電極材料、及び粘性流体等としての利用が期待される」としている。つまり、同文献は、得られる炭素微粒子の、導電材料用途を一般論として挙げるに留まり、導電材料として好適な炭素微粒子の製造方法を提案するものではない。
【0007】
本発明が解決しようとする主たる課題は、黒液等のリグニン含有液から特に導電材料として好適な炭素微粒子を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するための本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
リグニン含有液から炭素微粒子を製造する方法であって、
前記リグニン含有液に無機塩を混合して無機塩混合液とし、
この無機塩混合液を液滴化及び乾燥して無機塩含有微粒子とし、
この無機塩含有微粒子を500℃〜1400℃で
2〜6時間かけて第1次焼成して熱分解微粒子とし、
これを水洗及び乾燥し、
その後に、第1次焼成温度より高く、1200℃超の温度で第2次焼成して炭素微粒子を
得、
一方、前記第1次焼成の前に、前記無機塩含有微粒子の温度を100〜200℃として1〜4時間放置する、
ことを特徴とする炭素微粒子の製造方法。
【0009】
〔請求項2記載の発明〕
前記無機塩混合液の液滴化及び乾燥をスプレードライヤで行い、
このスプレードライヤにおける前記無機塩混合液の噴霧量を6〜12L/hrとする、
請求項1記載の炭素微粒子の製造方法。
【0010】
〔請求項3記載の発明〕
前記無機塩混合液の液滴化及び乾燥をスプレードライヤで行い、
このスプレードライヤにおける前記無機塩混合液の噴霧圧を0.2〜0.5MPaとする、
請求項1又は請求項2記載の炭素微粒子の製造方法。
【0011】
〔請求項4記載の発明〕
前記無機塩の主成分をメタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムとする、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭素微粒子の製造方法。
【0012】
〔請求項5記載の発明〕
前記無機塩混合液のリグニン濃度を5〜7(質量/容量)%とする、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭素微粒子の製造方法。
【0013】
〔請求項6記載の発明〕
前記無機塩混合液をフィルターに通した後、前記液滴化及び前記乾燥を行う、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭素微粒子の製造方法。
【0014】
〔請求項7記載の発明〕
前記無機塩の除去は、前記熱分解微粒子をスラリー化し、フィルタープレスに圧入し、圧搾して行う、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭素微粒子の製造方法。
【0015】
(主な作用効果等)
前述の特許文献2は、段落[0028]において「本発明でいう熱分解とは、リグニンを含む有機物顔料を300℃〜1200℃で加熱して炭素化することをいう。一般的には熱分解は、500℃から800℃で行われる」としている。しかるに、この熱分解温度は、単に炭化するのに適する温度を規定したものである。
本発明者は、導電性が必要な用途には、本発明に係る2段焼成が有効であることを治験した。引用文献2には、2段焼成や、1200℃を超える温度、したがって当然に1400℃以上の温度での焼成について開示はない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、黒液等のリグニン含有液から、特に導電性が必要な用途に好適な炭素微粒子を製造する方法となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明を、基礎的な事項、本発明の中核をなす2段焼成の順で説明する。
【0019】
<基礎的事項>
本発明の実施の形態例を説明する。
本形態に係る炭素微粒子の製造方法は、リグニン含有液を原料とする。このリグニン含有液としては、例えば、製紙工場の蒸解工程等において排出される黒液や、バイオエタノール抽出後の溶液等を使用することができる。特に、本発明において、リグニン含有液原料として黒液を使用するのが最適である。
【0020】
〔無機塩の添加等〕
リグニン含有液は、必要により、酸化、脱水等して、脱水ケーキとし、
図1に示すように、この脱水ケーキC1を、コンテナ等を使用して撹拌槽70まで搬送し、撹拌槽70に供給する。また、撹拌槽70には、無機塩X及びろ過清水等の水Wを供給する。無機塩X及び水Wは、各別に撹拌槽70に直接供給することもできる。
ただし、撹拌槽70における処理の安定化を図るために、両者X,Wをいったん予備槽60に供給し混合したうえで、流路R1を通して撹拌槽70まで流送し、当該撹拌槽70に供給するのが好ましい。
【0021】
撹拌槽70において得られるリグニン及び無機塩Xを含むスラリー(無機塩混合液)S1は、リグニン濃度が5〜10(質量/容量)%となるように調節するのが好ましい。4〜7(質量/容量)%となるように調節するのがより好ましい。
リグニン濃度が7(質量/容量)%を上回ると、後述するスプレードライヤ80において得られる無機塩含有微粒子の外殻が厚くなり過ぎ、後述するフィルタープレス120において無機塩Xを除去して得た中空状粒子が硬くなり過ぎるため、最終的に得られる炭素微粒子の結着樹脂中における分散性が要求される品質性能を満たさなくなるおそれがある。他方、リグニン濃度が5(質量/容量)%を下回ると、上記無機塩含有微粒子の外殻が十分な厚さとならず、フィルタープレス120において無機塩Xを除去する際に中空状粒子が不均一に崩れてしまうため、最終的に得られる炭素微粒子の粒度分布がブロードになるおそれがある。
【0022】
リグニン含有液と混合する無機塩Xとしては、メタ珪酸ナトリウムを使用するのが好ましく、メタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを組み合わせて使用するのがより好ましい。メタ珪酸ナトリウムを使用すると、後述する無機塩Xの洗浄が容易になる。
【0023】
メタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを組み合わせて使用する場合、リグニンとメタ珪酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとの混合質量割合は、100:269〜888:18〜51となるように調節するのが好ましい。また、100:296〜592:18〜32となるように調節するのがより好ましい。
リグニン100質量部に対する無機塩X(メタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウム)の混合割合は、100:100〜888が好ましい。
リグニン100質量部に対する無機塩X(メタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウム)の混合割合が100質量部を下回ると、後述するフィルタープレス120において無機塩Xを除去するのが困難になるおそれがある。また、無機塩Xの混合割合が100質量部を下回ると、熱分解中に当該無機塩Xが溶融してしまい、得られる熱分解粒子を中空状に出来なくなるおそれがある。
他方、リグニン100質量部に対する無機塩X(メタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウム)の混合割合が888質量部を上回ると、後述するフィルタープレス120において無機塩Xを除去する際に中空状粒子が不均一に崩れてしまい、最終的に得られる炭素微粒子の粒度分布がブロードになるおそれがある。
【0024】
撹拌槽70には、モーターMを駆動源とする撹拌翼71が設けられている。この撹拌翼71による撹拌によって、脱水ケーキC1中のリグニン及び無機塩Xが均等に混合される。また、撹拌槽70、あるいは上記した予備槽60には、高濃度での処理を可能とするために、加温装置を備えるのが好ましい。
【0025】
〔液滴化及び乾燥等〕
撹拌槽70において得られたリグニン及び無機塩Xを含むスラリー(無機塩混合液)S1は、流路R2を通して液滴化・乾燥手段であるスプレードライヤ80まで流送し、このスプレードライヤ80において液滴化及び乾燥する。このスプレードライヤ80内には、例えば、送風手段Fから送風が行われ、また、スラリーS1が図示しないスプレーノズルから噴霧される。本発明において、スプレードライヤの型式に限定はない。
【0026】
スラリーS1の流送に際しては、フィルターたるスリーン75を通すのが好ましい。スクリーン75を通すことで、スラリーS1中の未溶解物によって上記スプレーノズルが詰まるのが防止される。なお、スクリーン75としては、例えば、150〜250メッシュのものを、好ましくは200メッシュのものを使用することができる。
【0027】
また、スラリーS1の噴霧圧は、0.2MPa以上とするのが好ましく、0.3〜0.1.0MPaとするのがより好ましい。噴霧圧が0.2MPaを下回ると、最終的に得られる炭素微粒子の粒子径が大きくなり過ぎる。
【0028】
さらに、スプレードライヤ80に吹き込む熱風G1の温度は、280〜330℃とするのが好ましく、300〜330℃とするのがより好ましく、320℃とするのが特に好ましい。このように温度調節することによって、スプレードライヤ80からの排風温度が130℃となるようにすると更に好適である。
【0029】
スプレードライヤ80において得られる無機塩含有微粒子は粉末状であり、ファンにより流路R3を通してサイクロン90まで風送し、このサイクロン90で捕集するのが好ましい。
【0030】
サイクロン90においては、無機塩含有微粒子が捕捉され、底部から排出される。他方、無機塩含有微粒子が捕捉された後の排ガスは、流路R4を通してバグフィルタ91まで風送される。このバグフィルタ91においては、排ガス中に残存する微細な無機塩含有微粒子が捕捉される。
【0031】
バグフィルタ91において微細な無機塩含有微粒子が捕捉された後の排ガスG2は、大気中に排気することもできるが、排風ファンF2を有する流路R6を通して適宜の酸化処理設備50に送ることもできる。排ガスG2は、二酸化炭素ガスを含んでおり、また、熱を有する。したがって、排ガスG2を酸化処理設備に送り、酸化処理ガスとして使用することで、二酸化炭素ガスの有効利用及び排出量削減が実現される。また、排ガスG2が有する熱も有効利用される。なお、バグフィルタ91に変えてスクラバー等を使用することもできるが、排ガスG2が有する熱(排ガスG2は、例えば、130℃程度の温度を有する。)の有効利用という観点からは、バグフィルタ91を使用する方が好ましい。
【0032】
〔焼成・熱分解等〕
サイクロン90及びバグフィルタ91において捕捉された無機塩含有微粒子は、流路R5を通して、熱分解手段たる外熱ジャケット100aを有する外熱式のロータリーキルン100まで送り、このロータリーキルン100内に供給して熱分解する。
【0033】
この焼成・熱分解は、500℃〜1400℃で行うのが好ましく、600℃〜1200℃で行うのがより好ましい。特には、650℃〜1200℃が望ましい。
焼成・熱分解温度が過度に低いと、炭化が十分でなく、その後に第2次焼成しても高い導電性を望めない。しかし、第1次焼成温度が、たとえば500℃〜600℃未満であり、炭化が十分でない温度範囲であっても、本発明では、後に第2次焼成するので、必要な炭化は十分可能である。
他方、第1次焼成の温度が過度に高いと、使用するメタ珪酸ナトリウムの融点が1089℃であるので、炭素とメタ珪酸ナトリウムとの反応を生じ、色味が変化し、かつ反応に伴う残留灰分が多くなる。
【0034】
無機塩含有微粒子の熱分解は、1〜6時間かけて行うのが好ましく、2〜3時間かけて行うのがより好ましい。本形態の無機塩含有微粒子は中空状であるところ、この熱分解を急速に行うと系内の水蒸気濃度が上昇し、リグニン成分が溶融して中空状を維持できないおそれがある。
【0035】
無機塩含有微粒子に含まれる水分や結晶水がロータリーキルン100内に留まることを防止するためには、熱分解処理前に無機塩含有微粒子の温度を100〜200℃として1〜4時間放置するのが好ましい。
【0036】
熱分解に際して発生した熱分解ガスN1は、外熱ジャケット100aに熱風を供給する熱風炉101の燃焼用ガスとして使用する。この熱分解ガスN1の使用により、熱風炉101に新たに供給するLPGガス等の燃料N2の使用量を減らすことができる。
【0037】
熱風炉101で生成した燃焼ガスは、外熱ジャケット100a内に供給し、ロータリーキルン100の外熱源として利用する。さらに、外熱源として利用した後の外熱ジャケット100aから排出された排ガスG3は、上記排ガスG2と同様に、二酸化炭素ガスを含んでおり、また、熱を有する。したがって、排ガスG3も、流路R7を通して適宜の酸化処理設備50に送り、酸化処理ガスとして使用するのが好ましい。排ガスG3を酸化処理ガスとして使用することで、二酸化炭素ガスの有効利用及び排出量削減を実現することができ、また、排ガスG3が有する熱が有効利用される。
【0038】
ロータリーキルン100において熱分解した熱分解微粒子C2は、有機物が熱分解され炭化されているものの、脱水ケーキC1と混合した無機塩X由来の無機塩を含有する。そこで、次に、熱分解微粒子C2を洗浄して当該熱分解微粒子C2から無機塩を除去する。以下、詳細に説明する。
【0039】
〔スラリー化等〕
熱分解微粒子C2は、
図2に示すように、コンベア等を使用してスラリー化槽110まで搬送し、このスラリー化槽110に供給する。スラリー化槽110には、熱分解微粒子C2とともに、ろ過清水等の水Wを供給し、熱分解微粒子C2をスラリー化する。このスラリー化は、得られるスラリーS2の固形分濃度が10〜30質量%となるように、好ましくは15〜20質量%となるように行う。
【0040】
スラリー化槽110には、モーターMを駆動源とする撹拌翼111が設けられている。この撹拌翼111による撹拌によって、熱分解微粒子C2の分散が迅速に行われ、また、分散濃度が均一化される。
【0041】
スラリー化槽110内のスラリーS2は、必要により、例えば60℃に加温することができる。この加温は、スラリー化槽110に供給する水Wを加温することによって、あるいはスラリー化槽110自体を加温することによって、あるいは熱分解微粒子C2が保持する熱を利用することによって行うこと等ができる。
【0042】
〔脱水等〕
スラリー化槽110において得られたスラリーS2は、流路R8を通して脱水手段たるフィルタープレス120まで流送し、このフィルタープレス120に圧入する。ただし、このスラリーS2の流送に際しては、その途中においてスラリーS2をフィルターたるスクリーン115に通すのが好ましい。スラリーS2をスクリーン115に通すことによってフィルタープレス120における無機塩の除去を均一に行うことができ、一部無機塩が除去されていない炭素微粒子が製造されてしまうのを防止することができる。
【0043】
脱水手段としては、フィルタープレス120に変えて、例えば、ベルトプレス等を使用することも可能である。また、スクリーン115としては、例えば、150〜250メッシュのものを、好ましくは200メッシュのものを使用することができる。さらに、スラリーS2をフィルタープレス120に圧入するに先立っては、当該スラリーS2に含まれる無機塩を沈殿させ、沈殿した無機塩を除去することもできる。
【0044】
スラリーS2をフィルタープレス120に圧入した際に発生する圧入ろ液D1は、廃液処分することもできるが、前述した予備槽60に返送し、この予備槽60に供給するのが好ましい。フィルタープレス120は無機塩Xの除去を行う手段であり、圧入ろ液D1は無機塩Xを含む。したがって、圧入ろ液D1を予備槽60に返送することで、圧入ろ液D1に含まれる無機塩Xが再利用されることになり、予備槽60に新たに供給する無機塩Xの量を減らすことができる。
【0045】
圧入ろ液D1は、ただちに予備槽60に返送することもできるが、
図3にも示すように、検知手段121においてpH及び電気伝導度を検知し、圧入ろ液D1の状態を確認したうえで予備槽60に返送することができる。この際の圧入ろ液D1は、通常pH12〜14、好ましくはpH13〜14である。また、電気伝導度は、通常13〜20S/m(ジーメンス毎メートル)、好ましくは18〜20S/mである。
【0046】
フィルタープレス120に圧入したスラリーS2は、ろ過清水等の水Wによって正洗浄した後、一次圧搾する。この正洗浄及び一次圧搾に際して排出された一次ろ液D2は、無機塩Xを含むものの正洗浄に利用した水Wによって無機塩Xの濃度が極めて薄くなっている。したがって、予備槽60に返送するのは効率的ではなく、スラリー化槽110に返送するのが好ましい。なお、この工程において排出される一次ろ液D2は、続いて行う二次洗浄において無機塩Xが溶解し易いpHに維持するという観点から、pH12〜14とするのが好ましく、pH13〜14とするのがより好ましい。また、電気伝導度は、通常、8〜12S/m、好ましくは10〜12S/mである。
【0047】
一次圧搾が終了したら、水Wを使用して逆洗浄を行い、更に二次圧搾を行って脱水ケーキC3を得る。また、この二次圧搾が終了したら、フィルタープレス120に窒素、空気等の置換ガスG4を吹き込む。この置換ガスG4の吹き込みにより、脱水ケーキC3中の無機塩Xを含む水分が置換ガスG4によって置き換えられ、水分率及び無機塩Xの含有率がより低下する。
【0048】
逆洗浄、二次圧搾及びガス置換に際して排出された二次ろ液D3は、ただちに廃液処理することもできるが、検知手段121においてpH及び電気伝導度を検知し、無機塩Xが除去されているか否か、つまり洗浄の進み具合を確認することができる。なお、この工程において排出される二次ろ液D3は、通常pH8.0〜9.5、好ましくはpH8.0〜9.0である。また、電気伝導度は、通常、100〜1200μS/m、好ましくは100〜500μS/mである。
【0049】
〔粉砕・乾燥等〕
洗浄後の炭素微粒子は、例えば、平均粒子径が1〜20μm、より好ましくは平均粒子径が1〜12μmで、外殻の厚さが50〜200nmの中空状であり、また、嵩密度が40〜60kg/m
3である。したがって、極めて軽量である。
【0050】
しかるに、当該炭素微粒子をとする場合は、より微細であることが要求される。そこで、脱水ケーキC3は、コンテナ等を使用して分散槽141まで搬送し、この分散槽141において、ろ過清水等の水Wや有機溶剤等と混合して炭素微粒子の分散液とする(スラリー化)。この炭素微粒子の分散液は、流路R9を通してビーズミル等の湿式粉砕機140へ流送し、この湿式粉砕機140において炭素微粒子を湿式粉砕する。この湿式粉砕によって、例えば、1〜20μmであった炭素微粒子が50〜200nmとなるまで粉砕される。
【0051】
この湿式粉砕後の炭素微粒子は、そのまま液体品として製品化することも、流路R10を通して乾燥機130に流送等し、この乾燥機130において乾燥して乾燥品として製品化することもできる。
【0052】
乾燥機130としては、例えば、自然対流式、定温式、循環式等の各種形式のものを使用することができる。ただし、炭素微粒子は非常に嵩密度が低いため、熱風による飛散を防止するという観点から、定温式の乾燥機を使用して乾燥するのが好ましい。この乾燥の温度は、好ましくは100〜130℃、より好ましくは110〜130℃である。この乾燥によって炭素微粒子の乾燥品が得られる。
【0053】
<2次焼成について>
本発明は、導電性に優れた炭素微粒子を得るものである。
そのために、前述のように、リグニン含有液に無機塩を混合して無機塩混合液とし、 この無機塩混合液を液滴化及び乾燥して無機塩含有微粒子とし、この無機塩含有微粒子を500℃〜1400℃で第1次焼成して熱分解微粒子とし、これをたとえば、
図2に示す形態で水洗及び乾燥した後に、第1次焼成温度より高く、1200℃超の温度で第2次焼成して炭素微粒子を得るものである。温度の上限はないが、たとえば上限温度を3000℃とすることができる。
【0054】
導電性炭素微粒子を得るためには、粒子径が小さい(比表面積が大きい)、多孔性である(細孔がある)、ストラクチャーが高い、表面が綺麗である(表面官能基や残留重縮合炭化水素が少ない)ことが望ましい。
【0055】
導電性と焼成温度との関係について、種々の実験を経て考察した。
焼成温度を高めることにより、
図4のように、炭素の六角構造が繋がっていき、構造が黒鉛に近づくものと考えられる。
【0056】
実際、700℃での焼成の場合と、950℃での焼成の場合とでは、
図5に示すように、950℃での焼成の場合の方が、体積抵抗率が低下する。また、
図6に示すように、950℃での焼成によるものは、導電性カーボンブラックである、ケッチェンブラックやアセチレンブラックと体積抵抗率を比較した。950℃で焼成したリグニンブラックは、ケッチェンブラックやアセチレンブラックと同程度の体積抵抗率を持っていることが確認できた。
【0057】
さらに、導電性を上げる対策として、スプレードライヤの条件選定などにより、粒子の小径化を行い、比表面積を増やした950℃焼成の粒子の製造を行った。表1に示すように、粒子の小径化により、窒素吸着比表面積は約1.4倍にアップした。
図7に示すように、同嵩密度では、粒子径が小さく、比表面積が大きい粒子の体積抵抗率が若干低くなったが、焼成温度を変えた時ほどの影響力はなかった。
【0058】
二次粒子を湿式分散による粉砕前後での700℃焼成による粉体(表2に示す)の体積抵抗率を比較した。結果は、
図8に示すとおりである。
分散後に乾燥させたリグニンブラックは比表面積が約50%になり吸油量が約20%まで下がった。同嵩密度での粉体体積抵抗率を比較したところ、分散後は粉体体積抵抗率が約3倍になり導電性が低下することを確認した。
かかる結果から、湿式分散後にスラリーを乾燥させる工程が体積抵抗率に影響を及ぼし、強いせん断力でストラクチャーを破壊しまうと体積抵抗率が高くなる可能性が高いものと推測された。さらに、試験では、吸油量が減っていることより2次粒子が破壊され、比表面積の結果から乾燥後に再凝集していることが予想される。分散前のSEM写真を
図9に、分散後のSEM写真を
図10に示す。
【0061】
製品に高い帯電性が必要な用途にリグニンブラックを使用するためには、電気を留める(電気を流れにくくする)性質を持たせる必要があることから、導電性のダウンを目的に焼成温度を700℃から500℃及び600℃に下げて体積抵抗率の比較を行った。
焼成温度による体積抵抗率の変化は
図11に示す。500℃及び600℃焼成品は、700℃焼成品と比較し粉体体積抵抗率が1.0×10
3〜1.0×10
4程度大きくなり、電気を通しにくいリグニンブラックの製造が可能であることがわかった。100〜200℃の違いにより1.0×10
3〜1.0×10
7変わることより、適度な絶縁性が必要な用途には適している。
【0062】
また、500℃及び600℃で焼成したリグニンブラックをSEMで観察した結果、
図12及び
図13に示すように、500℃焼成品は洗浄後に二次粒子の形状を保っていないことが分かった。リグニンの炭化温度は250℃〜600℃であることから、500℃の低温焼成ではリグニンが充分に炭化できていないために外殻が充分な強度を持っておらずフィルタープレスでの洗浄時において粒子の形状が崩壊したと考えられる。
図14は700℃の焼成品である。
しかるに、
図12の場合には、フィルタープレスでの圧搾圧力が強い場合であるが、低くした場合には、二次粒子の崩壊は確認できなかった。したがって、第1次焼成温度は、500℃でも可能であることは知見された。
【0063】
このように焼成温度の相違が、
図15に示すモデル図のように、電気導電性を左右することが分かる。
【0064】
リグニンブラックの焼成温度を700℃から950℃に変更して焼成したことで、導電性の向上が確認できた。これはリグニンブラックの表面に電気の流れを阻害するカルボキシル基や水酸基等の官能基が分解され、炭素の六員環だけからなる平面構造が増え、積層構造の成長と三次元的な規則性の増加によって黒鉛構造に近づいたためであると考えられる。
【0065】
リグニンブラックの炭素構造をさらに黒鉛に近づけることで導電性がどのような挙動を示すか確認するために、1000℃以上の温度で焼成して導電性を比較した。
結果を
図16に示す。また、各温度での二次粒子のSEM写真を、
図17〜
図20に示す。ただし、この実験は、無機塩を含んだままのスプレードライ粉末を焼成した結果を示すものである。体積抵抗率の変化は、
図21及び
図22に示すとおりである。
【0066】
スプレードライ粉末を1000℃以上で炭化させた結果、1400℃以上の温度の焼成では二次粒子の構造が保持できていなかった。また、1500℃で焼成して製造したリグニンブラックは、体積抵抗率が高くなる傾向が確認された。無機塩を含有したままの焼成では、1400℃以上の焼成はリグニンブラックの製造には適さないと判断した。
【0067】
これに対し、本発明に従って、無機塩含有微粒子を500℃〜1400℃で第1次焼成して熱分解微粒子とし、これを水洗及び乾燥し、その後に、第1次焼成温度より高く、1200℃超の温度で第2次焼成して炭素微粒子を得る。
この結果を
図25及び
図26に示した。また、第2次焼成後の炭素微粒子のSEM写真を
図23及び
図24に示した。
【0068】
図26に注目すると、体積抵抗率は2,000℃から2,500℃の間で大きく下がることが確認できた。高温で焼成してリグニンブラックの体積抵抗率を下げる方法として、本発明に係る、一旦焼成し、炭化させ、洗浄することにより無機塩を除去して再焼成する方法は高い導電性が要求される用途にきわめた有効であると判断できる。
【0069】
なお、本発明において、第1次及び第2次焼成手段としては、ロータリーキルンのほか、電気炉、マイクロ波など適宜の手段を採り得る。