特許第6406550号(P6406550)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6406550-蛍光体及び発光装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6406550
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】蛍光体及び発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/79 20060101AFI20181004BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20181004BHJP
【FI】
   C09K11/79
   H01L33/50
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-554868(P2015-554868)
(86)(22)【出願日】2014年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2014083863
(87)【国際公開番号】WO2015098814
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2017年11月20日
(31)【優先権主張番号】特願2013-269044(P2013-269044)
(32)【優先日】2013年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】豊島 広朗
(72)【発明者】
【氏名】吉松 良
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/134043(WO,A2)
【文献】 特開2009−096823(JP,A)
【文献】 特開2013−142135(JP,A)
【文献】 特開2013−142134(JP,A)
【文献】 特開2013−177511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00−11/89
H01L 33/50
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:M1M2ReSiで示され、M1はY、Sc、La、Alから選ばれた1種類以上の元素であり、M2はZn、Sr、Ba、Ca、Mgから選ばれた1種類以上の元素であり、Reは希土類元素や遷移金属元素のうちのCe、Pr、Sm、Eu、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Ti、Cr、Mnから選ばれた1種類以上の元素であり、式中のa、b、c、d、e及びfが、
a+b+c=1、
0.20<b<0.50、
0.001<c<0.10、
2.5<d<4.1、
0.5<e<1.0、
3.5<f<5.6
である蛍光体。
【請求項2】
母体結晶が単斜晶系である、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
b及びdが、0.07<b/d<0.17の条件を満たす、請求項1又は2に記載の蛍光体。
【請求項4】
M1がLaを含み、M2がCaを含み、ReがEuを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項5】
波長350〜480nmの光により励起された際に、発光スペクトルにおけるピーク波長が490〜600nmの範囲である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項6】
波長700〜800nmにおける拡散反射率の平均値が90%以上である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の蛍光体と、発光素子とを有する発光装置。
【請求項8】
発光素子が波長350〜480nmの発光を有する、請求項7に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外から近紫外線の波長領域で効率よく励起され緑色から黄色に発光する複合酸窒化物蛍光体、及び当該蛍光体を用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子と蛍光体とを組み合わせた発光装置は、低消費電力、小型、高輝度かつ広範囲な色再現性が期待される次世代の発光装置として注目され、活発に研究、開発が行われている。このような蛍光体として、発光特性、熱安定性、化学的安定性が良好であるという理由から、酸窒化物を母体材料とし、遷移金属もしくは希土類金属で付活された酸窒化物蛍光体が広く用いられている。酸窒化物蛍光体を代表する蛍光体としては、βサイアロン蛍光体、αサイアロン蛍光体等が知られ、広く実用に至っている。
【0003】
こうした発光装置の演色性や輝度を改善するために、酸窒化物蛍光体の発光特性を改善するための種々の試みがなされている。
例えば、特許文献1には、従来の緑色や黄色蛍光体の発光効率が低く、高輝度な発光を得ることができないことに鑑みて、酸窒化物蛍光体の組成を特定の範囲に限定して、CeやEu原子を容易に置換できるサイトを有し化学的にも安定な母体構造を構成することにより、広く平坦な励起帯を持ち、ブロードな発光スペクトルを有し、しかも発光効率に優れた蛍光体を得ることが提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、酸窒化物蛍光体に含まれる元素及び組成比を変化させることにより、広範囲の発光色を得ることができ、結晶性や発光効率を向上できることが記載されている。
さらに、特許文献3には、酸窒化物蛍光体の組成を特定の範囲に限定することにより、温度特性及び発光効率を改善できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/093298号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/037059号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2007/105631号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、発光光源からの励起光を効率よく吸収し発光することは、LED用途に限らず、全ての蛍光体用途に要求される特性である。このため、蛍光体の発光効率をさらに改善することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、複合酸窒化物蛍光体の結晶構造及び光学特性について鋭意検討した結果、蛍光体を構成する元素の組成比を特定の範囲とすることにより、発光効率を著しく改善できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、一般式:M1M2ReSiで示され、M1はY、Sc、La、Alから選ばれた1種類以上の元素であり、M2はZn、Sr、Ba、Ca、Mgから選ばれた1種類以上の元素であり、Reは希土類元素や遷移金属元素のうちのCe、Pr、Sm、Eu、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Ti、Cr、Mnから選ばれた1種類以上の元素であり、式中のa、b、c、d、e及びfが、
a+b+c=1、
0.20<b<0.50、
0.001<c<0.10、
2.5<d<4.1、
0.5<e<1.0、
3.5<f<5.6
である蛍光体を提供することを目的とする。
【0009】
また本発明は、上述の蛍光体と発光素子とを備える発光装置を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の蛍光体は、蛍光体を構成する元素の組成比を制御することにより、従前のサイアロン蛍光体よりも高い発光効率を実現することができる。また、本発明の発光装置は、上述のような高発光効率の蛍光体を用いることにより、輝度に優れた発光装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例11、12、13の蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<蛍光体>
本発明に係る蛍光体は、一般式:M1M2ReSiで表される。当該一般式は蛍光体の組成式を表しており、a〜fは元素のモル比である。本明細書中、特に記載しない限り、組成比a、b、c、d、e及びfは、a+b+c=1となるように算出した場合の数値を表す。言うまでもないが、a〜fに正の任意の数値を乗じた元素のモル比も同じ組成式を与える。
【0013】
M1は、Y、Sc、La、Alの中から選ばれた1種類以上の元素であり、好ましくはLaである。
【0014】
M2は、Zn、Sr、Ba、Ca、Mgから選ばれた1種類以上の元素であり、好ましくはCaである。
【0015】
Reは希土類元素や遷移金属元素のうちのCe、Pr、Sm、Eu、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Ti、Cr、Mnから選ばれた1種類以上の元素であり、好ましくはEuである。
【0016】
なかでも、M1がLaを含み、M2がCaを含み、ReがEuを含むことが好ましく、特に好ましくは、M1がLaのみからなり、M2がCaのみからなり、ReがEuのみからなる。これは、LaとCaのイオン半径が近似しているため、LaとCaが共存する場合に極めて安定な結晶構造を構成するからであると考えられる。
【0017】
a+b+c=1となるように算出した場合の組成比a、b、c、d、e及びfは、a+b+c=1、0.20<b<0.50、0.001<c<0.10、2.5<d<4.1、0.5<e<1.0、3.5<f<5.6である。
組成比a〜fが上記範囲を逸脱すると、蛍光体の結晶構造が不安定化し、第二相の形成が助長されることなどにより、発光効率が低下する傾向がある。
【0018】
特に、発光元素であるReのイオン濃度を表すcの値は、小さすぎると発光元素イオンの原子数が不足し、蛍光体として十分な発光強度が得られない傾向にある。その一方、cの値が大きすぎると発光元素イオンの原子数が過剰になり、隣接する発光イオン同士による励起エネルギーの再吸収効果である濃度消光と呼ばれる現象を生じて、発光強度が低下する傾向がある。このため、cの値は0.001<c<0.10の範囲であり、特に好ましくは0.005<c<0.02の範囲である。
【0019】
また、M2の組成比bは、0.20<b<0.50であり、好ましくは0.25<b<0.35である。bの値が当該範囲外になると、結晶構造が著しく不安定になり、上記の蛍光体が得られず、第二相の形成が助長される傾向がある。
さらに、蛍光体におけるSiの組成比dに対するM2の組成比bの比率(b/d)は、0.07<b/d<0.17を満足することが好ましい。b/dがこの範囲を満たす場合には、高い結晶性が得られ、発光効率を向上することができる。
【0020】
蛍光体の母体結晶の構造としては、7つの結晶系(立方晶系、正方晶系、斜方晶系、三方晶系、六方晶系、単斜晶系、三斜晶系)が考えられるが、上記条件を満たすことにより蛍光体の母体結晶が単斜晶系となる。
【0021】
本発明に係る蛍光体は、波長350〜480nmの光により励起された際に、発光スペクトルにおけるピーク波長が490〜600nm、より好ましくは545〜565nmの範囲にある。ヒトの明所視標準比視感度の極大値である555nm付近に発光ピークを有するため、高輝度の実現に有利である。
【0022】
また、本発明に係る蛍光体は、上述の組成的特徴を満たすほかに、波長700〜800nmでの拡散反射率の平均値が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0023】
上記波長域の拡散反射率を所定の範囲に制御することにより発光効率が向上する理由としては、主に以下のことが考えられる。
すなわち、蛍光体の発光は発光中心となるReイオンの電子遷移により生じることから、一般に、母体結晶による吸収が少なく、光の透過性が高いほど発光中心による発光効率は向上する。拡散反射率は蛍光体粉末内での光拡散過程における光の吸収により低下するため、拡散反射率が高いことは光の透過性が高いことを意味する。
【0024】
本発明のように一般式:M1M2ReSiで表される蛍光体は300〜500nmの範囲の光により励起されるので、波長700nmより大きい発光領域での拡散反射率は、蛍光体中のRe以外の吸収、つまり母体結晶の吸収を示す。そして、結晶性が低いと結晶中の欠陥濃度が増加し、母体結晶による吸収が増え、上記領域の拡散反射率が低下する。このため、波長700〜800nmでの平均拡散反射率が高いほど、母体結晶による吸収が少なく、光取り出し効率に優れると考えられる。
【0025】
拡散反射率は、蛍光体における結晶欠陥、第二相、可視光を吸収する不純物の存在と密接に関係しており、これらを低減することによって上記範囲に制御できる。例えば、蛍光体を製造する際にアニール処理や酸処理を行うことによって結晶欠陥や第二相を低減できるため、これらの工程を行うことにより拡散反射率を向上させることができる。
【0026】
本発明の蛍光体は、原料を混合する混合工程と、混合工程後の原料を焼成する焼成工程とを含む、酸窒化物蛍光体の一般的な製法に従って製造することができる。また、上述したように、焼成工程後にアニール処理や酸処理をさらに行うことが好ましい。
【0027】
<発光装置>
本発明の発光装置は、発光素子と本発明の蛍光体とを含む。かかる発光装置には、発光装置に要求される輝度や演色性等に応じて、本発明以外の蛍光体1種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
発光素子は、波長350〜480nmの発光を有する無機発光素子又は有機発光素子である。発光素子は、レーザーダイオード素子やLED素子が好ましい。発光素子の発光波長が小さすぎると発光素子のエネルギーが熱などに変換され易くなり、消費電力の増加につながる。一方、発光波長が大きすぎると蛍光体の変換効率が低下してしまう。
【0029】
発光装置は、モニタ用バックライト、プロジェクタの光源装置、映像表示装置、照明装置、交通信号機又は道路標識等とすることができる。
【実施例】
【0030】
本発明を以下に示す実施例によってさらに詳しく説明する。表1は、各実施例及び比較例の蛍光体の組成比、拡散反射率、相対発光効率を示したものである。
【0031】
【表1】
【0032】
<実施例1>
1.蛍光体の製造
実施例1の蛍光体を、以下の方法により製造した。
原料として、酸化ランタン(La)、酸化カルシウム(CaO)、窒化珪素(Si)及び酸化ユーロピウム(Eu)を用いた。原料を表1のとおりに秤量し、メノウ製乳鉢と乳棒により乾式混合を30分間行った。表1の原料欄の数値は各原料の重量(グラム)を表す。
【0033】
乾式混合後の原料を窒化ホウ素製のルツボに充填し、ルツボと同じ材質からなる蓋をして、カーボンヒーターの電気炉にセットして焼成した。電気炉内の雰囲気は窒素ガスを採用した。窒素ガスは、室温で電気炉内をロータリーポンプにて高真空状態に保持してから、炉内温度が300℃に到達した時に、大気圧になるまで導入した。
【0034】
焼成物を、メノウ製乳鉢及び乳棒を用いて手動で粉砕した。粉砕後に得られた粉体を強酸性の液に浸して不純物を溶融除去し、実施例1の蛍光体を得た。
【0035】
2.結晶相の確認
実施例1の蛍光体について、X線回折測定により結晶相の同定を行った。測定装置は、CuKα線の管球を搭載したRigaku製Ultima−IVを用いた。蛍光体粉末は、単斜晶系を有する結晶相が単相で存在しており、それ以外の結晶相は存在していなかった。
【0036】
3.波長700〜800nmにおける拡散反射率の平均値
蛍光体の拡散反射率の測定を、JIS P 8152:2005「紙,板紙及びパルプ−拡散反射率係数の測定方法」に従って測定した。標準白色板としてラブスフェア社製スペクトラロン拡散反射板SRT−99−020を用い、蛍光体試料をセルに詰めて、日本分光株式会社製紫外可視分光光度計V−550に積分球ISV−469を搭載した装置により測定を行った。
表1の波長700〜800nmにおける拡散反射率の平均値は、この測定によって得た波長500〜800nmの範囲の拡散反射率のうち、波長700〜800nmの拡散反射率の平均値を算出したものである。
【0037】
4.相対発光効率
Xeランプから放射される光を分光器によって分光した波長455nmの光を励起光とし、この励起光を光ファイバーを用いて積分球内にセットされた蛍光体試料に照射し、励起光による蛍光体の発光を大塚電子株式会社製瞬間マルチ測光システム(高感度タイプ)MCPD−7000を用いて発光効率を求めた。後述する比較例1の蛍光体の発光効率を100%とする相対値として、相対発光効率を求めた。
【0038】
実施例1の蛍光体の組成は、表1に示すように、La0.660Ca0.330Eu0.010Si4.100.805.60の蛍光体であった。実施例1の蛍光体は、波長700〜800nmでの拡散反射率の平均値が93%であり、相対発光効率が107%であった。
【0039】
<比較例1>
比較例1は、表1に示す元素組成としたこと以外は実施例1と同様に製造した。比較例1の蛍光体は、La0.670Ca0.320Eu0.010Si4.600.806.60であった。比較例1の蛍光体は、d、f及びb/dの値が本発明に規定する範囲外であり、波長700〜800nmでの拡散反射率の平均値は高いものの、発光効率が十分ではなかった。
【0040】
<実施例2〜13>
実施例2〜13は、表1に示す元素組成としたこと以外は実施例1と同様に製造した。いずれの実施例も比較例1の蛍光体と比べて、高い平均拡散反射率及び相対発光効率を示した。
【0041】
図1に、Xeランプから放射される光を分光器によって分光した波長455nmの光を励起光とし、この励起光を光ファイバーを用いて積分球内にセットされた実施例11、12及び13の蛍光体に照射し、その励起光による蛍光体の発光を大塚電子株式会社製瞬間マルチ測光システム(高感度タイプ)MCPD−7000を用いて観測した場合の発光強度を示す。発光強度の数値は最大発光強度が1となるように規格化した値である。発光中心イオンであるEuの濃度を変えても高い発光強度は維持され、発光ピーク波長が連続的にシフトすることを確認した。
【0042】
また、表1には記載しなかったが、実施例1の蛍光体に対し、M1としてLa以外のY、Sc、Alを用いた場合、M2としてCa以外のZn、Sr、Ba、Mgを用いた場合、ReとしてEu以外のCe、Pr、Sm、Eu、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Ti、Cr、Mnを用いた場合にも、実施例1と同様に高い発光効率が得られることが確認された。
【0043】
<実施例14>
封止材に混合した実施例1の蛍光体と、発光素子として波長455nmの発光を有する発光ダイオードとを用いて発光装置を製造した。この発光装置は、比較例1の蛍光体を用いて同様に製造した発光装置に比べて、高い輝度を示した。
図1