(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のフィラー粉末は、β−石英固溶体(Li
2O・Al
2O
3・nSiO
2;2<n≦4)及び/またはβ−ユークリプタイト(Li
2O・Al
2O
3・2SiO
2)を析出してなる結晶化ガラスからなり、従来、無機フィラー粉末として一般的に使用されているシリカ粉末と比較して低い熱膨張特性を有する。よって、樹脂中に配合する際に、比較的少ない配合量で所望の熱膨張特性を達成することが可能となる。
【0016】
また、β−石英固溶体やβ−ユークリプタイトの結晶粉末と異なり、本発明のフィラー粉末は結晶化ガラスから構成されるため、樹脂との反応性が低い。そのため、本発明のフィラー粉末は、樹脂中に配合した場合に、当該樹脂の変質や変色等が生じにくいという特徴がある。
【0017】
さらに、本発明のフィラー粉末は析出結晶の結晶子サイズが比較的小さいため、容易に微粉砕することが可能である。微粉砕された粒子径の小さいフィラー粉末を樹脂に配合することで、樹脂成形体の薄型化を図ることが可能となる。なお、微粉砕した結晶粉末をフィラー粉末として樹脂に配合すると、粗粉砕したフィラー粉末を使用した場合と比較して、得られた樹脂成形体の熱膨張係数が大きくなる傾向がある。一方、本発明のフィラー粉末は、結晶粉末とは異なり、微粉砕しても熱膨張係数の低減効果が損なわれにくいという特徴を有する。
【0018】
本発明のフィラー粉末の平均粒子径D
50は、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。また、本発明のフィラー粉末の最大粒子径D
99は、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。フィラー粉末の平均粒子径D
50または最大粒子径D
99が大きすぎると、樹脂中に配合してフィルム状に成形した際に、フィルム表面におけるフィラー粉末の露出が顕著になり、表面平滑性に劣る傾向がある。なお、フィラー粉末の平均粒子径D
50の下限は特に限定されないが、現実的には0.1μm以上、さらには0.2μm以上である。
【0019】
なお、本発明のフィラー粉末を用いた樹脂成形体の厚みが大きい場合は、フィラー粉末の平均粒子径D
50および最大粒子径D
99は上記範囲に限定されない。例えば、平均粒子径D
50が50μm以下、さらには20μm以下、最大粒子径D
99が100μm以下、さらには50μm以下のフィラー粉末を用いることができる。
【0020】
本願発明において、平均粒子径D
50及び最大粒子径D
99はレーザー回折法により測定された値を指す。
【0021】
本発明のフィラー粉末におけるβ−石英固溶体またはβ−ユークリプタイトの析出量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。β−石英固溶体またはβ−ユークリプタイトの析出量が少なすぎると、熱膨張係数の低減効果が得られにくくなる。一方、β−石英固溶体またはβ−ユークリプタイトの析出量の上限は特に限定されないが、現実的には99質量%以下である。なお、β−石英固溶体及びβ−ユークリプタイトの両者を含有する場合は、合量で上記範囲を満たすことが好ましい。
【0022】
本発明のフィラー粉末の30〜150℃の範囲における熱膨張係数は5×10
−7/℃以下であることが好ましく、3×10
−7/℃以下であることがより好ましく、2×10
−7/℃以下であることがさらに好ましい。なお、熱膨張係数の下限については特に限定されないが、現実的には−30×10
−7/℃以上、特に−25×10
−7/℃以上である。
【0023】
本発明のフィラー粉末は、β−石英固溶体及び/またはβ−ユークリプタイトを析出可能なものであれば特に限定されない。例えば、本発明のフィラー粉末は、質量%で、SiO
2 55〜75%、Al
2O
3 15〜30%、Li
2O 2〜10%、Na
2O 0〜3%、K
2O 0〜3%、MgO 0〜5%、ZnO 0〜10%、BaO 0〜5%、TiO
2 0〜5%、ZrO
2 0〜4%、P
2O
5 0〜5%、及びSnO
2 0〜2.5%を含有する結晶化ガラスからなることが好ましい。以下に、このようにガラス組成範囲を限定した理由を説明する。
【0024】
SiO
2はガラス骨格を形成するとともに、主結晶の構成成分にもなる。SiO
2の含有量は、好ましくは55〜75%、より好ましくは60〜75%である。SiO
2の含有量が少なすぎると、熱膨張係数が高くなったり、化学的耐久性が低下したりする傾向がある。一方、SiO
2の含有量が多すぎると、溶融性が低下したり、ガラス融液の粘度が大きくなって、清澄しにくくなったり、成形が困難となったりする傾向がある。
【0025】
Al
2O
3はガラス骨格を形成するとともに、主結晶の構成成分にもなる。Al
2O
3の含有量は、好ましくは15〜30%、より好ましくは17〜27%である。Al
2O
3の含有量が少なすぎると、熱膨張係数が高くなったり、化学的耐久性が低下したりする傾向がある。一方、Al
2O
3の含有量が多すぎると、溶融性が低下する傾向がある。また、粘度が大きくなって、清澄しにくくなったり成形が困難になったりする傾向がある。さらに、失透しやすくなる。
【0026】
Li
2Oは主結晶の構成成分であり、結晶性に大きな影響を与えるとともに、粘度を低下させて、溶融性および成形性を向上させる成分である。Li
2Oの含有量は、好ましくは2〜10%、より好ましくは2〜7%、さらに好ましくは2〜5%、特に好ましくは2〜4.8%である。Li
2Oの含有量が少なすぎると、主結晶が析出しにくくなったり、溶融性が低下したりする。また、粘度が大きくなって、清澄しにくくなったり成形が困難になったりする傾向がある。一方、Li
2Oの含有量が多すぎると、失透しやすくなる。
【0027】
Na
2O及びK
2Oは、粘度を低下させて溶融性および成形性を向上させるための成分である。Na
2O及びK
2Oの含有量は、好ましくは0〜3%、より好ましくは0.1〜1%である。Na
2OまたはK
2Oの含有量が多すぎると、失透しやすくなり、また熱膨張係数が高くなりやすい。また、樹脂に配合した際に、樹脂が変質するおそれがある。
【0028】
MgOは熱膨張係数を調整するための成分である。MgOの含有量は、好ましくは0〜5%、より好ましくは0.1〜3%、さらに好ましくは0.3〜2%である。MgOの含有量が多すぎると、失透しやすくなり、また熱膨張係数が高くなりやすい。
【0029】
ZnOは熱膨張係数を調整するための成分である。ZnOの含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜7%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0.1〜1%である。ZnOの含有量が多すぎると、失透しやすくなる。
【0030】
BaOは、粘度を低下させて溶融性および成形性を向上させるための成分である。BaOの含有量は、好ましくは0〜5%、より好ましくは0.1〜3%である。BaOの含有量が多すぎると、失透しやすくなる。
【0031】
TiO
2及びZrO
2は、結晶化工程で結晶を析出させるための核形成剤として作用する成分である。TiO
2の含有量は、好ましくは0〜5%、より好ましくは1〜4%である。ZrO
2の含有量は、好ましくは0〜4%、より好ましくは0.1〜3%である。TiO
2またはZrO
2の含有量が多すぎると、失透しやすくなる。
【0032】
P
2O
5は分相を促進して結晶核の形成を助ける成分である。P
2O
5の含有量は、好ましくは0〜5%、より好ましくは0.1〜4%である。P
2O
5の含有量が多すぎると、溶融工程において分相しやすくなり、得られるガラスが白濁しやすくなる。
【0033】
SnO
2は清澄剤として働く成分である。SnO
2の含有量は、好ましくは0〜2.5%、より好ましくは0.1〜2%である。SnO
2の含有量が多すぎると、色調が濃くなりすぎたり、失透しやすくなったりする。
【0034】
上記成分以外にも、B
2O
3、SrO、CaO等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有させることができる。
【0035】
本発明のフィラー粉末の比表面積は、20m
2/g以下であることが好ましく、18m
2/g以下であることがより好ましく、15m
2/g以下であることがさらに好ましく、10m
2/g以下であることが特に好ましい。比表面積が大きすぎると、フィラー粉末が樹脂中に分散しにくくなり、高濃度でフィラー粉末を配合しにくくなる。
【0036】
本発明のフィラー粉末の形状は特に限定されないが、略球状、略円柱状または角柱状であることが好ましい。このようにすれば、フィラー粉末の平均粒形が小さくても比表面積が小さくなるため好ましい。またその場合、樹脂中に高濃度でフィラー粉末を配合することが可能となる。形状が略球状の場合、真球に近いほど、上記効果が得られやすい。また、形状が略円柱状または角柱状の場合、それらのアスペクト比が10以下であると、上記効果が得られやすくなるとともに、得られる樹脂成形体の機械的強度を上げることができるため好ましい。
【0037】
本発明のフィラー粉末は、樹脂との界面のぬれ性や樹脂中に配合した際の分散性を高めるため、シランカップリング剤で表面処理がなされたものであってもよい。シランカップリング剤としては、アミノシラン、エポキシシラン、メタクリルシラン、ウレイドシラン、イソシアネートシラン等が挙げられる。
【0038】
本発明のフィラー粉末は、次のようにして作製される。まず、ガラス原料を所定割合で調合して得られた原料バッチを溶融して溶融ガラスを得る。次に、溶融ガラスを所定形状(例えば、板状)に成形することによりバルク状結晶性ガラスを得る。さらに、バルク状結晶性ガラスを所定条件下で熱処理することにより、β−石英固溶体及び/またはβ−ユークリプタイトを内部に析出させることにより、バルク状結晶化ガラスを得る。得られたバルク状結晶化ガラスに対し所定の粉砕処理を施すことにより、本発明のフィラー粉末を得ることができる。当該方法によれば、結晶化度の高いフィラー粉末が得られやすい。
【0039】
原料バッチの溶融温度は、生産性や均質性の観点から1600〜1800℃程度が好ましい。また、結晶性ガラスの熱処理条件(結晶化条件)としては、600〜800℃で1〜5時間熱処理して結晶核を形成させた後(結晶核生成段階)、さらに800〜950℃で0.5〜3時間熱処理を行い、主結晶を析出させる(結晶成長段階)ことが好ましい。
【0040】
本発明のフィラー粉末は、溶融ガラスを成形して得られたバルク状結晶性ガラスを粉砕して一旦結晶性ガラス粉末を作製した後、当該結晶性ガラス粉末に対し熱処理を施して結晶化させることにより作製することもできる。ここで、結晶性ガラス粉末を結晶化させる前に火炎中に噴霧して熱処理を行うことにより、結晶性ガラス粉末の表面が軟化流動し、略球状のフィラー粉末を得ることが可能となる。また、溶融ガラスを紡糸して繊維化したのちに粉砕して熱処理を行うことにより、略円柱状のフィラー粉末を得ることが可能となる。
【0041】
本発明のフィラー粉末は、例えば樹脂中に配合して使用される。樹脂中に本発明のフィラー粉末を配合して得られた樹脂成形体は、多層プリント配線基板等として使用される。ここで、樹脂としては一般に使用されるものであれば特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アミノ樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0042】
樹脂中におけるフィラー粉末の含有量は、目標とする熱膨張係数等の特性に応じて適宜選択される。例えば、樹脂とフィラー粉末の合量に対するフィラー粉末の含有量は、好ましくは10〜95体積%、より好ましくは20〜90体積%の範囲で適宜選択される。
【0043】
本発明の樹脂組成物は、樹脂と前記フィラー粉末を含有することを特徴とする。こうすることにより、樹脂組成物により形成される樹脂成形体の熱膨張係数を低下させることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(1)フィラー粉末の作製
表1に記載の組成を有するガラスとなるように、原料粉末を調合し、均一に混合した。得られた原料バッチを1600〜1800℃で均質になるまで溶融した。溶融ガラスを板状に成形し、徐冷炉を用いて室温まで冷却することにより板状結晶性ガラスを得た。
【0046】
実施例A〜H、O〜Qについては、板状結晶性ガラスに対して、760〜780℃で3時間熱処理して核形成を行った後、さらに870℃〜890℃で1時間の熱処理を行い結晶化させた。析出結晶を分析したところ、主結晶としてβ−石英固溶体が析出していることが確認された。得られた板状結晶化ガラスについて、ディラトメーターを用いて30〜150℃の温度範囲における熱膨張係数を測定した。
【0047】
得られた板状結晶化ガラスを粉砕することにより、表3、4及び7の各粒子径を有するフィラー粉末を得た。なお、粉砕方法としては、粗粉砕はボールミルを用いて24時間乾式粉砕を行った後、空気分級機を用いて粗粉を除去した。微粉砕は、24時間乾式粉砕したものを、ボールミルを用いて66時間湿式粉砕することにより行った。
【0048】
また、実施例M、Nについては、板状結晶性ガラスを粉砕することにより得られた結晶性ガラス粉末を火炎中に噴霧して球状化した。その後、アルミナの微粉末を2〜10重量%添加し、混合した上で、760〜780℃で3時間熱処理して核形成を行った後、さらに870℃〜890℃で1時間の熱処理を行い結晶化させることにより、表6の各粒子径を有するフィラー粉末を得た。
【0049】
(2)評価
表2に記載の樹脂に対し、上記で得られたフィラー粉末を表3〜7に記載の所定の割合で配合した。さらに、硬化剤を添加して混練した後、25℃で24時間放置することにより硬化させ、内部にフィラー粉末が分散した樹脂成形体を得た。なお、比較例である試料I〜Lについては、シリカガラス粉末またはβ−ユークリプタイト結晶粉末をフィラー粉末として用いた。
【0050】
樹脂成形体について、30〜150℃の温度範囲における熱膨張係数をTMA測定装置により測定した。また目視にて色調を評価した。結果を表3〜7に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
【表7】
【0058】
(3)結果の考察
フィラー含有量が50体積%である実施例E〜Hは樹脂成形体の熱膨張係数が690〜715×10
−7/℃であった。熱膨張係数が−20×10
−7/℃以下であるNo.3〜5の組成からなるフィラーを使用した実施例O〜Qでは、樹脂成形体の熱膨張係数が660〜675×10
−7/℃とさらに小さくなった。一方、同じくフィラー含有量が50体積%であり、フィラー粉末としてシリカガラスを使用した比較例I及びJは熱膨張係数が770〜780×10
−7/℃であった。よって、本発明のフィラー粉末はシリカガラスからなるフィラー粉末と比較して、樹脂中に配合した際の熱膨張係数低下の効果が大きいことがわかる。
【0059】
また、フィラー含有量が60体積%である実施例M及びNは樹脂成形体の熱膨張係数が520〜530×10
−7/℃であった。これらの場合、粒子形状を球状化しているため、比表面積が小さくなり、樹脂に対する含有量を多くすることができ、樹脂成形体の熱膨張係数をより低下させることができる。
【0060】
本発明のフィラー粉末を使用した実施例A〜H、M〜Qでは、樹脂成形体が所望の乳白色の色調を有していた。また、シリカガラスよりも樹脂との屈折率差が小さいため、透光性を示した。一方、フィラー粉末としてβ−ユークリプタイト結晶粉末を使用した比較例K及びLでは、樹脂成形体の色調が褐色となっており、樹脂が変色していた。このように、本発明のフィラー粉末は、樹脂中に配合した際の樹脂の変色を抑制できることがわかる。
【0061】
実施例E〜H、M及びNでは、微粉砕したフィラー粉末を使用した場合、粗粉砕したフィラー粉末を使用した場合と比較して、樹脂成形体の熱膨張係数の違いは小さかった(Δα(微粉砕−粗粉砕)が−5〜+10×10
−7/℃)。一方、フィラー粉末としてβ−ユークリプタイト結晶粉末を使用した比較例K及びLでは、微粉砕したフィラー粉末を使用した場合と粗粉砕したフィラー粉末を使用した場合と比較して、樹脂成形体の熱膨張係数が大幅に上昇している(Δα(微粉砕−粗粉砕)が+80×10
−7/℃)。このように、本発明のフィラー粉末は微粉砕しても熱膨張係数の低減効果が損なわれにくいことがわかる。これは、本発明のフィラー粉末は結晶サイズが非常に小さいためであると考えられる。