(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6406576
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】清掃洗浄パウダー
(51)【国際特許分類】
A61C 17/02 20060101AFI20181004BHJP
【FI】
A61C17/02 B
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-245581(P2014-245581)
(22)【出願日】2014年12月4日
(65)【公開番号】特開2016-106747(P2016-106747A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】502080704
【氏名又は名称】長田電機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153110
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀明
(72)【発明者】
【氏名】石幡 浩志
(72)【発明者】
【氏名】松本 雄三
【審査官】
立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−035435(JP,A)
【文献】
特表平01−503142(JP,A)
【文献】
特開2011−207860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体表面に衝突させることによって、前記物体表面の付着物を除去する、少なくとも寒天粉末を含む清掃洗浄パウダーであって、
前記寒天粉末の形状が突起あるいは鋭縁をもち、
前記寒天粉末に予め薬剤あるいは抗菌成分を含浸したことを特徴とする清掃洗浄パウダー。
【請求項2】
前記寒天粉末に予め化学的洗浄剤を含浸したことを特徴とする請求項1に記載の清掃洗浄パウダー。
【請求項3】
前記寒天粉末に化学的洗浄剤を混合したことを特徴とする請求項1または2に記載の清掃洗浄パウダー。
【請求項4】
前記寒天粉末に、少なくとも加重粒子、香料、または、色素のいずれか一つを混合したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の清掃洗浄パウダー。
【請求項5】
前記物体表面に付着した寒天が、水または温水によって除去されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1に記載の清掃洗浄パウダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清掃洗浄方法および噴射洗浄装置に関し、詳しくは、歯面の清掃洗浄に好適な寒天粉末を用いた清掃洗浄方法および噴射洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病やインプラント周囲炎など、口腔内の細菌に由来するプラークや歯石などの汚染物の付着がもたらす歯肉、口腔粘膜の炎症性疾患は、天然歯やインプラント周囲の支持組織を破壊することでそれらの寿命を著しく低下させる。そのため、歯科臨床では天然歯やインプラントの表面に付着したこれらの汚染物を除去する治療法が広く行われている。その治療法としては、「メインテナンス療法」、あるいはSPT(Supportive Periodontal(Periimplant) Therapy)として、歯科臨床では日常的に適用されており、天然歯やインラントの寿命が著しく延伸する効果が得られている。
【0003】
そして、このような口腔内にある汚染物の除去に関しては、通常の流水等による洗浄や、洗剤による効果は限定される。その理由として、歯やインプラントに付着した汚染物は強固に付着しており、一方、それに対する洗浄については、まず、ヒトの口腔内である以上は、流水等を用いる際は、口腔組織を損傷したり、呼吸を妨げたり、あるいは呼吸器や消化器官に悪影響を与えたりすることのないようにしなければならない。このため、流水のみでは流水量と圧力を限定する必要があり、歯やインプラントに付着した汚染を十分に除去する能力を単独で達成するのは困難である。
【0004】
次に、洗剤による洗浄についても、アルカリや酸などの化学薬品は洗剤としての効果は顕著であるが、人体に悪影響を与える薬品は使用できないため、その選択肢は限られる。また、洗剤中にある生体毒性の比較的少ない洗剤でも、高濃度であるいは大量に使用することは避けなければならない。
【0005】
そのため、現在、歯科臨床において実践されている歯やインプラント表面からの汚染除去には、小型の回転ブラシや、超音波振動子に接続した金属ロッド(スケーラー)を用い、人の手で汚れをピンポイントで擦り落とす方法が用いられている。しかし、歯やインプラント表面における歯石は強固に付着しており、あるいは、歯石が歯肉縁下の歯周ポケット内にある場合は、スケーラーを用いた除去が困難である。このような場合、切れ刃のある細い金属ロッドを、術者が歯周ポケット内に挿入し、汚染面を掻爬して除去している。この除去作業は極めて手間がかかり時間を要する。さらには、歯周ポケットが5mm以上と深い場合は、歯やインプラント周囲の歯肉を剥離して掻爬する外科的手法が用いられることもあり、患者や術者に対する負担は極めて大きい。
【0006】
そのため、特許文献1に開示されているように、これらの作業の負担を軽減する歯やインプラント表面に対する洗浄方法として、微粒子を細いノズルから高速で噴射しこれを汚染された上記の表面に衝突させることで、付着したプラークや歯石を排除する方法が考案されている。この方法は従来の清掃法と同じく、術者が汚れのある表面に対しピンポイントで作用させる必要があるものの、術者の手指による掻爬の動作を必要としない分、術者の作業量は軽減され、かつ作業時間も短縮されるため患者に対する負担も軽くなる。この方法はブラスト法と呼ばれ、歯およびインプラントの表面を効果的に清掃する方法として広く利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-179617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ブラスト法で使用される微粒子は、その効果を発揮する上で、飛翔する間の空気抵抗による減衰を差し引いた上で、清掃対象にある汚れを表面から分離するための衝撃力を惹起する運動量を噴射時に与えられる。そのため粒子はある程度の硬度と質量を有しなければ、効果的な清掃を達成することはできない。一方で、粒子の硬さや衝撃力が大きくなると、汚れを除去するのみならず、歯やインプラント表面を損傷したり、表面粗さが大きくなる副作用が生ずる。これらの傷や表面粗さは上記のスケーラーによる清掃でも生ずる可能性があるが、このような傷や表面粗さの増加は、プラークの再付着を招きやすくなることから好ましいものではない。
【0009】
現在、歯科用ブラストについては、シリカや炭酸カルジウムやハイドロキシアパタイト、β−TCP(β−リン酸三カルシウム)などの顆粒が用いられている。このうちシリカや炭酸カルシウムについては、清掃対において表面粗さの増加をもたらしている可能があり、その使用は注意深く行わねばならない。また、他に噴射微粒子としてプラスチック粉などの材料を用いる方法もあるが、口腔内で使用されることから、生体に対する毒性などの安全性を担保することができないという問題もある。
【0010】
本発明は、これらの実情に鑑みてなされたものであり、ブラスト法において、噴射微粒子による歯やインプラント表面の擦過による表面粗さの増加を回避しながら、安全で効果的な清掃・洗浄を行い得る方法および装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、物体表面に衝突させることによって、前記物体表面の付着物を除去する、少なくとも寒天粉末を含む清掃洗浄パウダーであって、前記寒天粉末の形状が突起や鋭縁をも
ち、前記寒天粉末に予め薬剤あるいは抗菌成分を含浸したことを特徴とするものである。
【0014】
請求項
2の発明は、請求項
1の発明において、前記寒天粉末に予め化学的洗浄剤を含浸したことを特徴とするものである。
【0015】
請求項
3の発明は、請求項1
または2の発明において、前記寒天粉末に化学的洗浄剤を混合したことを特徴とするものである。
【0016】
請求項
4の発明は、請求項1から
3のいずれか1の発明において、前記寒天粉末に、少なくとも加重粒子、香料、または、色素のいずれか一つを混合したことを特徴とするものである。
【0017】
請求項
5の発明は、請求項1から
4のいずれか1の発明において、前記物体表面に付着した寒天を、水または温水によって除去することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
固形状態の寒天の硬度は、基本的にプラーク等に比べれば高いが、歯や象牙質、インプラント材(アバットメントおよびフィクスチャー)のチタン材には遠く及ばないので、本発明によれば、どんなに強い噴射でも、これら洗浄対象の表面に傷を生ずることはなく、表面粗さを増加することもない。また、歯科において、寒天は歯型を取得する歯科用印象材として1世紀近い歴史を有し、現在も主力歯科材料として用いられているように、その安全性には全く懸念がない。
【0021】
また、寒天粉末には食品添加物を適用する手法を用いて、洗浄保持剤や抗菌薬を添加することも容易である。さらに、寒天粉末は消化管に入っても食品である寒天には為害作用はまず見られず、口腔内に残遺しても、温湯を与えればやがて溶解消失する。このように本発明によれば、寒天粉末を用いているため口腔内では安全性が高く、十分に清浄効果が得られ、しかも対象物に何ら悪影響を及ぼさないという効果を奏する。
【0022】
さらに、寒天粉末の密度を調整して運動量を加減することで、表面洗浄効果を制御することが可能である。また、寒天粉末に洗浄効果を高める薬剤や抗菌成分を含浸することで、表面洗浄による歯周炎やインプラント周囲炎の治療効果をより高めることも可能である。もし、寒天粉末自体に洗浄効果が足りなければ、寒天粉末に加重粒子としてチタンなどの生体親和性金属やセラミックス等の粒子、あるいは、比重が大きく生体に安全な硫酸バリウム等の紛体を添加させることでその効果を増加することも可能である。さらに、香料や色素を添加してもよく、香料を添加することによって例えば清涼感のある洗浄が可能となり、色素を添加することによって洗浄時における寒天粉末の口腔内での残留の発見が容易となる。また、洗浄後に、表面の汚れに代わり寒天が付着した場合は、温湯により溶解除去することが可能である。
【0023】
また、寒天紛体を帯電させることによって、寒天粉末に配合添加物を吸着する効果を与えることができ、洗浄対象への洗浄消毒効果を強化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る噴射洗浄装置の一例を説明するための要部概略構成図である。
【
図2】
図1の噴射洗浄装置の動作例を説明するための流体回路の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の清掃洗浄方法および噴射洗浄装置に係る好適な実施の形態について説明する。以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。
【0026】
図1は、本発明に係る噴射洗浄装置の一例を説明するための要部概略構成図である。噴射洗浄装置1は、ノズル部10、ハンドピース部20、ホース部30を有しており、ハンドピース部20には、パウダー収納部21が設けられている。このパウダー収納部21には、歯面清掃に用いる寒天粉末や後述する添加物(混合物)を含むパウダーを収納したパウダータンク22がカートリッジ式に挿脱自在に装着されるようになっている。ノズル部10は、パウダーが混入されたエアーを噴射するためのノズル11と、ノズル11と同心の外筒12から成り、ノズル11と外筒12との間の隙間から水を噴射するようになっている。本実施形態では、図示しないフットコントローラを操作することによって、ノズル部10より、パウダー混入エアーと水とを同時に噴射して歯面を清掃することができ、また、水(洗浄水)または温水のみを噴射して、清掃後の歯面を洗浄できるようになっている。
【0027】
ホース部30内には、歯面にパウダーを吹きつけるためのエアーAを通すためのエアー通路31と、歯面を洗浄或いはノズルの目詰りを防止するためのエアーBを流すためのエアー通路32と、歯面を清掃、洗浄するための水または温水Cを流すための水通路33が設けられている。これらのエアー通路31、32および水通路33を流れるエアーA、Bおよび水または温水Cの流通は、図示しないフットコントローラによって制御される。
【0028】
図2は、
図1の噴射洗浄装置の動作例を説明するための流体回路の概略構成図である。
図2において、エアー通路31のエアー圧はパウダーの撹拌、搬送を効果的に行う圧力に設定されている。また、エアー通路32のエアー圧はエアー通路31のエアー圧力より高く設定されており、歯面洗浄時のスプレーをより強力にして歯面の洗浄を効果的に行うようにしている。そして、エアー通路31、32、および、水通路33には、
図2で示すように、それぞれ電磁バルブ31A、32B、および、33Cが挿入されており、これらの電磁バルブ31A、32B、および、33Cが、図示しないフットコントローラのフット操作ボタンを押すことによって作動される。なお、逆止弁23はパウダータンク22から電磁バルブ31A側にパウダーが入るのを防止し、逆止弁24は出力流路Bから出たエアーがパウダータンク22へ逆流するのを防止するためのものである。
【0029】
次に、図示しないフットコントローラのフット操作ボタンの操作例ついて説明する。
(1)歯面清掃時、所定のフット操作ボタンを押すことにより、電磁バルブ31Aと33Cが開き(33Bは閉)、ノズル部10の先端からは、パウダーを混入したエアーAと水Cとの混合流体が噴射(スプレー)される。これにより、寒天粉末を洗浄対象物に衝突させ物体表面の付着物を除去することができる。
(2)歯面洗浄時、他のフット操作ボタンを押すことにより、電磁バルブ32Bと33Cが開き(31Aは閉)、ノズル部10の先端からは、エアーBと水Cの混合体がスプレーされる。これにより、洗浄対象物に付着した寒天を除去することができる。
(3)ノズル目詰り防止時、更に他のフット操作ボタンを押すこと、あるいは、前記2つのフット操作ボタンを同時に押すことにより、電磁バルブ32Bのみが開き(電磁バルブ31A,33Cは閉)、ノズル部10の先端からは、エアーBのみが噴射され、ノズル部10の先端に付着しているパウダーを吹き飛ばし、ノズルの目詰りを防止する。なお、以上には、3個のフットスイッチを別々に設けた例について説明したが、単一のフットスイッチを用い、その踏み込み量又は移動量により3段階に操作可能にしてもよい。
【0030】
また、寒天粉末に添加物を配合する場合は、添加物を寒天粉末表面へ吸着させやすくするために、寒天粉末を帯電させることが望ましい。寒天粉末を帯電させるためには、例えば、寒天粉末と添加物との摩擦、寒天粉末とエアー通路との摩擦、あるいは、寒天粉末を荷電することにより可能である。
【0031】
本発明の最大の特徴は、噴射洗浄の主役となる粒子に、食品である寒天を用いたことである。このため、歯やインプラントのアバットメントを傷つけることなく清掃することができる。また、寒天の原料は海藻であり、紅藻類、特にテングサ、オゴノリが使用されているが、現在では世界各地の海藻から様々な物性の寒天が製造されている。このため、ノズル噴射により物体表面の洗浄を効果的に行うために、寒天粉末として比較的高比重の寒天を選択することが望ましい。
【0032】
また、ノズル噴射により物体表面汚れを物理的に洗浄する効果を促進するために、噴射する寒天粉末にあらかじめ化学的洗浄剤を含浸させた寒天粉末、あるいは寒天粉末とともに化学的洗浄剤を混合して噴射してもよい。また、寒天粉末に薬剤や抗菌成分を含浸させることによって、歯周炎やインプラント周囲炎の治療効果を高めることができる。さらに、パウダーの重量密度を上げ、噴射時の運動量を増加するために、寒天粉末にチタンなどの生体親和性のある金属やセラミックス等の微粒子、あるいは、硫酸バリウムの紛体等を加重粒子として混合して噴射するようにしてもよい。また、寒天粉末の形状を、突起や鋭縁をもつ形状にすることで、物体表面汚れを物理的に洗浄する効果を向上することも可能である。なお、寒天粉末に混合する化学的洗浄剤、金属、セラミックス等の微粒子は、微量であれば、歯面を傷つけたり表面粗さを増大するおそれは極めて小さい。
【符号の説明】
【0033】
1…噴射洗浄装置、10…ノズル部、20…ハンドピース部、21…パウダー収納部、22…パウダータンク、23、24…逆止弁、30…ホース部、31、32…エアー通路、33…水通路。