(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記無機系多孔質膜は、ゼオライト、シリカ、アルミナ、チタニア、およびジルコニアからなる群より選択される少なくとも一つを含む請求項4に記載の水素製造システム。
前記触媒は、前記分子ふるい膜と、該分子ふるい膜と対面する前記燃料供給管の壁と、の間に充填されている請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の水素製造システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、メタンを用いた水蒸気改質では、反応温度は800℃以上必要である。一方、メタノールを用いた水蒸気改質では、平衡論的には100℃程度の比較的低い温度で反応が進行するという他の炭化水素系燃料を用いた水蒸気改質にはない特徴がある。しかし、実際には、メタノールを用いた水蒸気改質において、100℃では十分な反応速度が得られず、高い転換率を得るためには250℃以上の反応温度が必要である。
【0007】
また、メタン、メタノールなどの炭化水素系燃料を長時間かけて水蒸気改質する場合、より低い反応温度で反応を進行させることが可能であるが、コストの問題から高い反応温度で炭化水素系燃料の水蒸気改質を行なっている。
【0008】
よって、反応時間を延ばすことなく、炭化水素系燃料を水蒸気改質する際の反応温度を従来よりも低くすることで、より低コスト、かつ効率的に水素を製造することができるため、より低い反応温度で水素を製造することができる方法が求められている。
【0009】
本発明の課題は、より低温で炭化水素系燃料を水蒸気改質して水素を効率的に製造する水素製造装置、水素製造システムおよび水素製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は以下の手段により解決される。
<1> 炭化水素系燃料および水蒸気が供給される燃料供給管と、前記燃料供給管の内部に設置され、前記炭化水素系燃料の水蒸気改質を促進する触媒と、スイープガスとして水蒸気が供給される水蒸気供給管と、前記水蒸気供給管の壁の少なくとも一部をなし、少なくとも一部が前記触媒と対面しており、前記水蒸気供給管に供給される水蒸気を透過して前記燃料供給管に供給し、かつ、前記炭化水素系燃料の水蒸気改質により生じる水素を透過して前記水蒸気供給管に供給する分子ふるい膜と、を有する水素製造装置である。
【0011】
燃料供給管に炭化水素系燃料および水蒸気が供給され、かつ、燃料供給管内部に触媒が設けられているため、触媒により炭化水素系燃料の水蒸気改質が促進されて水素が製造される。さらに、製造された水素は、分子ふるい膜を透過して水素分圧の低い水蒸気供給管に移動し、スイープガスである水蒸気によりスイープされるため、より多くの水素が分子ふるい膜を透過して水蒸気供給管に移動し、燃料供給管内部での水素の製造効率を上昇させることができる。
【0012】
また、水蒸気供給管に供給されている水蒸気は、分子ふるい膜を透過して燃料供給管に移動し、炭化水素系燃料の水蒸気改質に用いられる。したがって、燃料供給管内部での水素の製造効率をより上昇させることができる。さらに、炭化水素系燃料を水蒸気改質する際の反応温度をより低温にしても、高効率にて水素を製造することができる。
【0013】
<2> 前記分子ふるい膜は、一酸化炭素、二酸化炭素および未反応の炭化水素系燃料の透過を抑制する膜である<1>に記載の水素製造装置である。
【0014】
炭化水素系燃料の水蒸気改質により生じる二酸化炭素、二酸化炭素と水素との反応により生じる一酸化炭素、および、未反応の炭化水素系燃料が分子ふるい膜を透過して、水蒸気供給管に移動することを抑制できる。そして、水蒸気を冷却して除去することにより、純度のより高い水素を効率よく得ることができる。
【0015】
<3> 前記分子ふるい膜の平均孔径は、0.29nm〜0.33nmである<1>または<2>に記載の水素製造装置である。
【0016】
分子ふるい膜の平均孔径が上記数値範囲であることにより、水素および水蒸気の透過を好適に行なうことができ、一酸化炭素、二酸化炭素、および、未反応の炭化水素系燃料の透過を抑制することができる。
【0017】
<4> 前記分子ふるい膜は、無機系多孔質膜、有機系多孔質膜、または有機−無機複合多孔質膜である<1>〜<3>のいずれか1つに記載の水素製造装置である。
【0018】
無機系多孔質膜は、機械的強度、耐熱性および耐薬品性に優れているため、耐久性の高い水素製造装置が得られる。また、有機系多孔質膜は、柔軟性に優れ、成形加工が容易であり、低コストで製造することができるため、より低コストで水素製造装置を作製できる。また、有機−無機複合多孔質膜を採用することにより、耐久性に優れた水素製造装置をより低コストで製造することができる。
【0019】
<5> 前記無機系多孔質膜は、ゼオライト、シリカ、アルミナ、チタニア、およびジルコニアからなる群より選択される少なくとも一つを含む<4>に記載の水素製造装置である。
【0020】
上記の無機材料を含む無機系多孔質膜を採用することにより、耐久性のより高い水素製造装置が得られる。
【0021】
<6> 前記触媒は、前記分子ふるい膜と、該分子ふるい膜と対面する前記燃料供給管の壁と、の間に充填されている<1>〜<5>のいずれか1つに記載の水素製造装置である。
【0022】
上記のように触媒を設けることにより、触媒が充填された反応場にて炭化水素系燃料がより効率的に水蒸気改質し、水素をより効率よく製造することができる。
【0023】
<7> 前記触媒は、CuO、ZnO、Al
2O
3、NiO、K
2O、CaO、ZrO
2、CeO
2、Ru、Pt、およびRhからなる群より選択される少なくとも一つを含む<1>〜<6>のいずれか1つに記載の水素製造装置である。
【0024】
上記触媒を用いることにより、炭化水素系燃料の水蒸気改質をより効率的に行なうことができる。
【0025】
<8> <1>〜<7>のいずれか1つに記載の水素製造装置と、少なくとも前記触媒を加熱する加熱手段と、を有する水素製造システムである。
【0026】
触媒を加熱することにより、炭化水素系燃料が効率的に水蒸気改質し、水素を効率よく製造することができる。
【0027】
<9> 前記炭化水素系燃料は、メタノールであり、前記加熱手段は、100℃以上400℃以下の廃熱を供給して前記触媒を加熱する<8>に記載の水素製造システムである。
【0028】
本発明では、炭化水素系燃料を水蒸気改質する際の反応温度をより低温にしても、高効率にて水素を製造することができる。また、他の炭化水素系燃料と比較して、メタノールの水蒸気改質は低温で行なうことができる。したがって、100℃以上400℃以下の温度の低い廃熱を供給して触媒を加熱する場合であっても、メタノールの水蒸気改質を効率よく行なうことができ、廃熱の有効活用が可能である。
【0029】
<10> <1>〜<7>のいずれか1つに記載の水素製造装置を用いて水素を製造する水素製造方法であって、前記炭化水素系燃料および水蒸気を前記燃料供給管に供給する燃料供給工程と、スイープガスとして水蒸気を前記水蒸気供給管に供給する水蒸気供給工程と、前記炭化水素系燃料を水蒸気改質して水素を製造し、製造された水素を前記分子ふるい膜を介して前記水蒸気供給管に供給し、かつ、前記水蒸気供給管に供給された水蒸気を前記分子ふるい膜を介して前記燃料供給管に供給し、供給された水蒸気を前記炭化水素系燃料の水蒸気改質に用いる、改質工程と、を含む水素製造方法である。
【0030】
製造された水素は分子ふるい膜を透過して水素分圧がより低い水蒸気供給管に移動し、スイープガスである水蒸気にスイープされて水素分圧が下がるため、より多くの水素が分子ふるい膜を透過して水蒸気供給管に移動し、燃料供給管内部での水素の製造効率を上昇させることができる。
【0031】
また、水蒸気供給管に供給されている水蒸気は、分子ふるい膜を透過して燃料供給管に移動し、炭化水素系燃料の水蒸気改質に用いられる。したがって、燃料供給管内部での水素の製造効率をより向上させることができる。さらに、炭化水素系燃料を水蒸気改質する際の反応温度をより低温にしても、高効率にて水素を製造することができる。
【0032】
<11> 前記炭化水素系燃料は、炭化水素、アルコール、およびエーテルからなる群より選択される少なくとも一つである<10>に記載の水素製造方法である。
【0033】
上記の炭化水素系燃料を用いることにより、水蒸気改質を好適に行なうことができる。
【0034】
<12> 前記炭化水素系燃料は、メタノールであり、前記改質工程にて、メタノールを水蒸気改質する際の反応温度は、100℃以上400℃以下である<10>に記載の水素製造方法である。
【0035】
本発明では、炭化水素系燃料を水蒸気改質する際の反応温度をより低温にしても、高効率にて水素を製造することができる。また、他の炭化水素系燃料と比較して、メタノールの水蒸気改質は低温で行なうことができる。したがって、100℃以上400℃以下の低い反応温度であっても、メタノールの水蒸気改質を効率よく行なうことができる。
【0036】
<13> メタノールの水蒸気改質は、廃熱を用いて行なわれる<12>に記載の水素製造方法である。
【0037】
100℃以上400℃以下の温度の低い廃熱を供給して触媒を加熱することで、メタノールの水蒸気改質を効率よく行なうことができ、廃熱の有効活用が可能である。
【0038】
上記の条件で水蒸気および炭化水素系燃料を供給することで、炭化水素系燃料の水蒸気改質を効率よく行ない、水素を効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、より低温で炭化水素系燃料を水蒸気改質して水素を効率的に製造する水素製造装置、水素製造システムおよび水素製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、
図1、2を参照しながら、本発明に係る水素製造システム、水素製造装置の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る水素製造システム10を示す概略構成図であり、
図2は、本実施形態に係る水素製造装置8を示す概略構成図である。
【0042】
〔水素製造システム〕
水素製造システム10は、
図1に示すように、燃料供給手段1、水蒸気供給手段2、配管3、4、恒温槽5、配管6、7および水素製造装置8を備えている。水素製造システム10は、熱源(加熱手段、図示せず)を備え、燃料供給手段1および水蒸気供給手段2より炭化水素系燃料および水蒸気を水素製造装置8に供給した後、水素製造装置8にて炭化水素系燃料の水蒸気改質を行なって水素を製造するシステムである。
【0043】
燃料供給手段1は、配管3を介して炭化水素系燃料を水素製造装置8に供給するための供給源である。また、水蒸気供給手段2は、配管4を介して水蒸気を水素製造装置8に供給するための供給源である。さらに、配管4から分岐した配管を介して水蒸気が配管3に供給され、炭化水素系燃料と水蒸気とは混合されて水素製造装置8に供給される。
なお、例えば炭化水素系燃料が常温で液体(メタノールなど)の場合、配管4から分岐した配管を介さずに、燃料供給手段1にて炭化水素系燃料および水を混合した混合液を、燃料供給手段1から配管3に流し、配管3にて混合液を気化させた後、水素製造装置8に供給してもよい。
【0044】
恒温槽5は、水素製造装置8やその内部に設置された触媒14を一定の温度に保つための槽であり、内部に水素製造装置および熱源としてヒーター(図示せず)が設けられている。恒温槽5としては、例えば、自然対流式恒温器、強制循環式恒温器などを用いることができる。なお、水素製造装置8における炭化水素系燃料の反応温度に応じて、適宜、恒温槽や熱源を変更してもよい。
【0045】
また、恒温槽5としては、水素製造装置8を保温できるものであれば、その形態は特に限定されず、その保温に要する加熱手段は、後述するような100℃以上250℃以下の廃熱を供給する熱源であってもよい。
【0046】
〔水素製造装置〕
水素製造装置8は、
図2に示すように、燃料供給管11、水蒸気供給管12、分子ふるい膜13および触媒14を備えている。水素製造装置8は、供給された炭化水素系燃料を水蒸気改質して水素を製造する装置である。
【0047】
燃料供給管11に炭化水素系燃料および水蒸気が供給され、かつ、燃料供給管11内部に触媒14が設けられているため、触媒14により炭化水素系燃料の水蒸気改質が促進されて水素が製造される。さらに、製造された水素は、分子ふるい膜13を透過して水素分圧がより低い水蒸気供給管12に移動し、スイープガスである水蒸気にスイープされて水素分圧が下がるため、より多くの水素が分子ふるい膜13を透過して水蒸気供給管12に移動し、燃料供給管11内部での水素の製造効率を上昇させることができる。
【0048】
また、水蒸気供給管12に供給されている水蒸気は、分子ふるい膜13を透過して燃料供給管11に移動し、炭化水素系燃料の水蒸気改質に用いられる。したがって、燃料供給管11内部での水素の製造効率をより上昇させることができる。さらに、炭化水素系燃料を水蒸気改質する際の反応温度をより低温にしても、高効率にて水素を製造することができる。
【0049】
以下、水素製造装置8が備える各構成について詳細に説明する。
【0050】
燃料供給管11は、炭化水素系燃料および水蒸気が供給される管であり、管上流にて配管3と接続し、管下流にて配管6と接続している。ここで、
図2における矢印Aは、炭化水素系燃料および水蒸気が燃料供給管11に供給されていることを表している。燃料供給管11としては、例えば、ガラス、ステンレス製の供給管を用いればよく、炭化水素系燃料が水蒸気改質される際の反応温度に応じて適宜変更すればよい。
【0051】
水蒸気供給管12は、スイープガスとして水蒸気が供給される管であり、管上流にて配管4と接続し、管下流にて配管7と接続している。ここで、
図2における矢印Bは、水蒸気が水蒸気供給管12に供給されることを表している。水蒸気供給管12としては、分子ふるい膜13が壁の少なくとも一部をなしていれば特に限定されず、例えば、ガラス、ステンレス、セラミックス製などの供給管を用いればよく、炭化水素系燃料が水蒸気改質される際の反応温度に応じて適宜変更すればよい。
【0052】
本実施形態では、
図2に示すように、燃料供給管11の内部に水蒸気供給管12が設けられており、分子ふるい膜13が水蒸気供給管12の壁の少なくとも一部をなしている。また、分子ふるい膜13と対面するように、触媒14が燃料供給管11の内部に設置されている。
【0053】
(分子ふるい膜)
分子ふるい膜13は、水蒸気供給管12の壁の一部をなし、水蒸気供給管12に供給される水蒸気、および、燃料供給管11での炭化水素系燃料の水蒸気改質により生じる水素を透過するための膜である。よって、
図2における矢印Dに示すように、水蒸気供給管12に供給される水蒸気は、分子ふるい膜13を透過して燃料供給管11に移動し、
図2における矢印Cに示すように、燃料供給管11での炭化水素系燃料の水蒸気改質により生じる水素は、分子ふるい膜13を透過して水蒸気供給管12に移動する。
【0054】
さらに、分子ふるい膜13は、一酸化炭素、二酸化炭素、および未反応の炭化水素系燃料の透過を抑制する膜であることが好ましい。これにより、炭化水素系燃料の水蒸気改質により生じる二酸化炭素、二酸化炭素と水素との反応により生じる一酸化炭素、水蒸気改質されない未反応の炭化水素系燃料などが、分子ふるい膜13を透過して水蒸気供給管12に移動することを抑制でき、純度のより高い水素を効率よく得ることができる。このような分子ふるい膜13は、分子ふるい膜13の平均孔径が、一酸化炭素、二酸化炭素および炭化水素系燃料の動的分子径(分子サイズ)以下になるようにして作製することが好ましい。
【0055】
分子ふるい膜13の平均孔径としては、水素分子および水蒸気分子を透過させることができれば限定されないが、0.30nm程度であることが好ましい。
平均孔径が0.30nm程度以上であることにより、水蒸気分子(分子サイズ0.26nm)および水素分子(分子サイズ0.29nm)を好適に透過させることができ、平均孔径が0.30nm程度以下であることにより、二酸化炭素(分子サイズ0.33nm)、一酸化炭素(分子サイズ0.37nm)が分子ふるい膜13を透過することを抑制でき、メタノール(分子サイズ0.38nm)、窒素分子(分子サイズ0.36nm)などが分子ふるい膜13を透過することも抑制できる。
分子ふるい膜13の平均孔径としては、例えば、0.29nm〜0.33nmであってもよく、0.30nm〜0.32nmであってもよい。
【0056】
分子ふるい膜13としては、無機系多孔質膜、有機系多孔質膜または有機−無機複合多孔質膜であることが好ましく、機械的強度、耐熱性、耐薬品性などを考慮すると、無機系多孔質膜であることがより好ましい。また、柔軟性、成形加工の容易性、コストなどを考慮すると、有機系多孔質膜がより好ましい。したがって、無機系多孔質膜を採用することにより耐久性に優れた水素製造装置8が得られ、有機系多孔質膜を採用することにより低コストで水素製造装置8を製造できる。また、有機−無機複合多孔質膜は、無機系多孔質膜と同様に耐熱性、耐薬品性などに優れ、かつ、有機系多孔質膜と同様に成形加工の容易性、コスト面などに優れている。また、無機材料が持つ高い機械的強度、有機材料が持つ柔軟性の特長を活かし、使用条件によって膜の強度が設計可能である。よって、有機−無機複合多孔質膜を採用することにより、様々な用途に適した水素製造装置をより低コストで製造することができる。
【0057】
無機系多孔質膜としては、無機材料から構成される膜であれば特に限定されないが、例えば、ゼオライト、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなどから構成される膜が挙げられ、中でも、ゼオライト膜が好ましい。ゼオライトとしては、例えば、A型、Y型、T型、ZSM−5型、ZSM−35型、モルデナイト系などが挙げられる。また、無機系多孔質膜は、1種の無機材料から構成される膜であってもよく、2種以上の無機材料から構成される膜であってもよい。
【0058】
有機系多孔質膜としては、有機材料から構成される膜であれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素含有樹脂、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリトリメチルシリルプロピレン、ポリスチレン、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリエーテルスルホンなどから構成される膜が挙げられる。また、有機系多孔質膜は、1種の有機材料から構成される膜であってもよく、2種以上の有機材料から構成される膜であってもよい。
【0059】
有機−無機複合多孔質膜としては、無機材料および有機材料から構成される膜であれば特に限定されないが、例えば、上述した無機材料から選択される少なくとも1種の無機材料および上述した有機材料から選択される少なくとも1種の有機材料から構成される複合膜であることが好ましい。
【0060】
分子ふるい膜13の形状としては、水蒸気および水素を透過することができれば限定されず、
図2に示すような円筒状以外の形状(例えば、半円筒状、弧状など)であってもよい。また、分子ふるい膜13としては、市販のものを用いてもよい。
【0061】
(触媒)
触媒14は、燃料供給管11の内部に設置され、燃料供給管11に供給される炭化水素系燃料の水蒸気改質を促進するためのものである。また、触媒14は、分子ふるい膜13と対面するように設けられている。
【0062】
本発明の一実施形態で用いる触媒は、CuO、ZnO、Al
2O
3、NiO、K
2O、CaO、ZrO
2、CeO
2、Ru、Pt、およびRhからなる群より選択される少なくとも一つであることが好ましい。これらを含む触媒を用いることにより、炭化水素系燃料の水蒸気改質をより効率的に行なうことができる。さらに、触媒としては、CuO、ZnOおよびAl
2O
3を組み合わせたものを用いることがより好ましい。また、炭化水素系燃料としてメタノールを用いる場合、メタノールの水蒸気改質用触媒としては、高い反応活性と反応選択率とを併せ持つ銅・亜鉛系触媒が好ましい。
【0063】
触媒14としては、市販されているものを用いてもよく、例えば、クラリアント触媒株式会社製のMDC−3などを好適に用いることができる。
【0064】
触媒14は、燃料供給管11の内部に設置され、かつ、分子ふるい膜13と対面するように設けられていれば、設置場所、設置方法等は特に限定されないが、分子ふるい膜13と分子ふるい膜13と対面する燃料供給管11の壁との間に充填されていることが好ましい。これにより、触媒が充填された反応場にて炭化水素系燃料がより効率的に水蒸気改質され、水素をより効率よく製造することができる。
【0065】
触媒14の形状としては、特に限定されず、例えば、粒状、柱状、ペレット状、板状、ハニカム状、円筒状などが挙げられる。
【0066】
また、燃料供給管11の内部には、分子ふるい膜13と対面するよう設けられた触媒14以外にも触媒を設けてもよく、例えば、触媒14の設置場所よりも上流に触媒を設置してもよい。
【0067】
(炭化水素系燃料)
炭化水素系燃料は、水蒸気改質により水素を製造する際に用いられ、燃料供給手段1から配管3を介して水素製造装置8に供給される燃料ガスである。炭化水素系燃料としては、水蒸気改質により水素を製造できるものであれば限定されないが、例えば、炭化水素、アルコール、エーテルからなる群より選択される少なくとも一つが挙げられ、特に、アルコールが好ましい。アルコールは、より低温で水蒸気改質することが可能であり、水素を効率よく製造することができる。
【0068】
炭化水素系燃料として用いる炭化水素としては、メタン、エタン、プロパン等の炭化水素が好ましく、メタンがもっとも好ましい。
【0069】
炭化水素を用いて水蒸気改質を行なう場合、水素製造装置8やその内部に設置された触媒14を100℃以上800℃以下に加熱することが好ましく、200℃以上500℃以下に加熱することが好ましい。
【0070】
炭化水素系燃料として用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコールが好ましく、メタノールがもっとも好ましい。
【0071】
アルコールを用いて水蒸気改質を行なう場合、水素製造装置8やその内部に設置された触媒14を100℃以上400℃以下に加熱することが好ましく、200℃以上250℃以下に加熱することが好ましい。特に、メタノールを用いて水蒸気改質を行なう場合、200℃〜250℃の反応温度で水蒸気改質を行なうことができ、低温度にて水素を効率よく製造することができる。
【0072】
炭化水素系燃料として用いるエーテルとしては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル等のエーテルが好ましく、ジメチルエーテルがもっとも好ましい。
【0073】
エーテルを用いて水蒸気改質を行なう場合、水素製造装置8やその内部に設置された触媒14を100℃以上800℃以下に加熱することが好ましく、200℃以上500℃以下に加熱することが好ましい。
【0074】
炭化水素系燃料としてメタノールを用いて水蒸気改質を行なう場合、水素製造装置8やその内部に設置された触媒14を100℃以上400℃以下に加熱することが好ましく、200℃以上250℃以下に加熱することがより好ましい。また、100℃以上400℃以下の廃熱(好ましくは、200℃以上250℃以下の廃熱)を供給する熱源としてもよい。
【0075】
日本では現在、約1,000PJものエネルギーが100℃以上の廃熱として各産業から排出されており、中でも、利用が難しい100℃〜250℃程度の中低温の廃熱が、その大部分である800PJ以上を占め、各種工場、ごみ焼却施設、発電所などから排出されている。ここで、分子ふるい膜を用いたメタノールの水蒸気改質において、100℃〜250℃程度の中低温であっても十分な反応速度を得ることができるため、廃熱を有効活用することができ、経済的、かつ効率的に水素を製造できる。
【0076】
なお、燃料供給手段1から供給される水蒸気および炭化水素系燃料、ならびに、水蒸気供給手段2から供給される水蒸気を、ガスクロマトグラフの基準となる窒素と混合してもよい。窒素は、水素製造装置8における反応に関与することなく流量が一定であるため、これを基準ガスとすることで、反応により生成された水素ガスの流量を知ることができる。また、窒素と混合することで、コールドトラップ内で水蒸気を取り除く際に、気体をよく混合させることができる。
【0077】
〔水素製造方法〕
次に、本発明に係る水素製造方法の一実施形態について説明する。一実施形態に係る水素製造方法は、水素製造装置8を用いて水素を製造する水素製造方法であり、炭化水素系燃料および水蒸気を燃料供給管11に供給する燃料供給工程と、スイープガスとして水蒸気を水蒸気供給管12に供給する水蒸気供給工程と、前記炭化水素系燃料を水蒸気改質して水素を製造し、製造された水素を分子ふるい膜13を介して水蒸気供給管12に供給し、かつ、水蒸気供給管12に供給された水蒸気を分子ふるい膜13を介して燃料供給管11に供給し、供給された水蒸気を前記炭化水素系燃料の水蒸気改質に用いる、改質工程と、を含む。なお、一例として、炭化水素系燃料としてメタノールを用いた場合について以下にて説明する。
【0078】
まず、メタノールおよび水蒸気が、配管3を介して、水素製造装置8における燃料供給管11に供給される(燃料供給工程)。なお、メタノールは、燃料供給手段1から配管3に供給され、水蒸気は、水蒸気供給手段2から配管4に供給され、水蒸気の一部は配管4から分岐した配管を介して水蒸気が配管3に供給される。
また、水蒸気が、配管4を介して、水蒸気供給手段2から水素製造装置8における水蒸気供給管12に供給される(水蒸気供給工程)。
【0079】
恒温槽5の内部に水素製造装置8が設置されており、水素製造装置8およびその内部は、一定の温度に保たれている。燃料供給管11に供給されたメタノールは、触媒14が設けられた反応場にて水蒸気改質されて水素が生成される(改質工程)。メタノールの水蒸気改質では、以下の式(1)の反応により、主に二酸化炭素および水素が生成される。
[式1]
CH
3OH+H
2O→CO
2+3H
2・・・・(1)
【0080】
上記式(1)の反応により生じた二酸化炭素および水素は、以下の式(2)の反応(逆水性ガスシフト反応)により、それらの一部が一酸化炭素および水に変換される。
[式2]
CO
2+H
2→CO+H
2O・・・・(2)
【0081】
上記式(1)の反応により生じた水素は、分子ふるい膜13を透過して水蒸気供給管12に移動し、上記式(1)、(2)の反応により生じた一酸化炭素および二酸化炭素は、分子ふるい膜13の透過が抑制される。よって、分子ふるい膜13を用いて、水素と一酸化炭素および二酸化炭素とを好適に分離することができる。さらに、移動した水素は、スイープガスである水蒸気にスイープされて水素分圧が下がるため、より多くの水素が分子ふるい膜13を透過して水蒸気供給管12に移動し、燃料供給管11内部での水素の製造効率を上昇させることができる。
【0082】
水蒸気供給管12に供給された水蒸気は、分子ふるい膜13を透過して燃料供給管11に移動し、分子ふるい膜13を透過した水蒸気は、上記式(1)の反応に示すように、メタノールの水蒸気改質に用いられる。したがって、燃料供給管11内部での水素の製造効率をより上昇させることができる。
【0083】
さらに、水蒸気が分子ふるい膜13を透過して燃料供給管11に移動するため、燃料供給管11内部の水蒸気濃度が上昇する。そのため、上記式(2)の逆反応により、水素が製造されるとともに、発生する一酸化炭素を抑制できる。
【0084】
また、メタノールを水蒸気改質する際の反応温度をより低温、例えば、200℃以上250℃以下にしても、高効率にて水素を生成することができる。250℃を超えるような高温の反応温度にせずとも高効率で水素を製造することができるため、高温で使用するとシンタリング(焼結)が進んで活性が低下する触媒(例えば、銅系触媒)を用いた場合であっても、活性を低下させることなく、メタノールの水蒸気改質を行なうことができる。
【0085】
水素製造装置8や触媒14を加熱する際に用いる加熱手段として、100℃以上250℃以下の廃熱を供給する熱源を加熱手段としてもよい。各種工場、ゴミ焼却施設、発電所等から排出される廃熱をメタノールの水蒸気改質に用いることにより、廃熱の有効活用が可能であり、かつ効率よく水素を生成することができる。
【0086】
水蒸気によりスイープされた水素は、水蒸気を水に凝縮することにより、分離することができる。例えば、コールドトラップを用いることで水素を分離すればよい。これにより、高純度の水素を取り出すことができる。
【0087】
[変形例1]
以下、
図3を参照しながら、一実施形態に係る水素製造装置8の変形例について説明する。
図3は、本発明の一実施形態の変形例に係る水素製造装置18を示す概略構成図である。水素製造装置18は、
図3に示すように、分子ふるい膜23が2箇所にて水蒸気供給管22の壁の一部をなし、2つの分子ふるい膜23と対面するように触媒24が燃料供給管21の内部に設けられている。
【0088】
分子ふるい膜23および触媒24を2箇所に設けることにより、より上流側の触媒24
が設けられた反応場にて未反応であった炭化水素系燃料を、より下流側の触媒24が設けられた反応場にて水蒸気改質することができ、水素の製造効率を向上させることができる。さらに、水蒸気が水蒸気供給管22から燃料供給管21に供給されることによって、下流側の触媒24での水蒸気濃度を増加させる効果が発揮され、下流側の触媒24での水素の製造効率をより上昇させることができる。また、分子ふるい膜23が2箇所に設けられていることにより、より多くの水素が水蒸気供給管22に移動する。よって、より多くの水素を製造することができ、かつ製造した水素を未反応の炭化水素系燃料、一酸化炭素、二酸化炭素などから好適に分離することができる。なお、分子ふるい膜23および触媒24を設置する箇所は、2箇所に限定されず、3箇所以上であってもよい。
【実施例】
【0089】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【0090】
〔実施例1〕
反応物のメタノールおよび水はあらかじめ混合しておき,混合液を流量制御可能なマイクロフィーダー(古江サイエンス株式会社製、型番:JP−N)からステンレスパイプ(蒸発器)に供給した。そして、供給した混合液に,リボンヒーターで130℃に保持したステンレスパイプを通過させることで完全に気化させて反応ガスとし、恒温層(自然対流式恒温槽(こすもす)、株式会社いすゞ製作所製、型番:SSN−115)内に供給した。水に対して同様の手順を行なうことで気化させた後、スイープガスとして水蒸気を恒温槽内に供給した。恒温槽にスイープガスおよび反応ガスを供給する前に、ガスクロマトグラフの基準ガスとなる窒素をそれぞれのガスと混合した。
【0091】
(流量)
流量の指標としてGHSV(Gas hourly space velocity)を用いた。GHSVは触媒層体積当りの反応場ガス流量を表しており、以下の数式で定義する。
【0092】
【数1】
【0093】
本実施例では、反応ガスとなる水とメタノールとのモル比であるS/C=1、GHSV=50hour
-1とした。また、水蒸気スイープにおいて,スイープガスとしての水と反応物としての水の比sweep/reactant=10とした。反応ガス、スイープガス(水蒸気)、窒素ガス、および触媒層体積に関する条件は以下のとおりである。
反応ガス供給量:5.11ml/min(水蒸気供給量2.56ml/min、S/C=1)
スイープガス供給量:25.66ml/min
窒素ガス供給量:5ml/min
触媒層体積:12129mm
3
触媒量:14.0g
【0094】
(リアクター)
恒温槽内にセラミックヒーター(半円筒型セラミックファイバ−ヒーター、60V450Wタイプ、坂口電熱株式会社、型番:VS−03J06S)を設置し、そのセラミックヒーター内にリアクター(水素製造装置)を設置した。リアクターは、
図2に示すように、外径20.0mm、内径17.6mm、長さ320mmのガラス管に水素分離膜(膜外径:6.00mm、膜内径:3.65mm、膜長さ:100mm、(財)ファインセラミックスセンター製)を入れて二重管構造とした。また、二重管構造において、内管と外管との間の水素分離膜と対面する領域(反応場)に触媒を充填して触媒層を形成した。
【0095】
(触媒)
メタノール水蒸気改質反応の触媒として、市販の銅・亜鉛系触媒(CuO/ZnO/Al
2O
3)を使用した。触媒の詳細については、以下のとおりである。
触媒名称:MDC−3、クラリアント触媒株式会社製
形状:φ3.2×3.2mmタブレット形状
嵩密度:1.2kg/l
組成:CuO42wt%、ZnO47wt%、Al
2O
310wt%
【0096】
本実施例で用いた触媒は空気酸化されやすいため,使用前に水素で還元を行なった。触媒還元の方法としては,濃度50%の水素窒素混合ガス(N
2:50ml/min、H
2:50ml/min)を流した状態で240℃まで加熱し、90分間保持した。水素濃度が高いほど還元を速く終わらせることができるが、水素濃度が高すぎると、還元が発熱反応であるため、触媒層温度が急激に上昇してしまう。温度上昇時に水素の供給を止めると温度上昇が収まったことからも、高い水素濃度が急激な温度上昇の原因であることが確かめられた。本実施例では水素を50%に薄め,還元温度が300℃を超えることがないようにした。反応器前後でのガス組成および流量が変化していないことから、触媒還元の終了を確認した。
【0097】
触媒層の中央に熱電対(SUS316 シースカップル設置型熱電対、株式会社石川製作所製、シース径:φ1.0mm)を設置し,反応場の温度が220℃になるようにセラミックヒーターの温度を調節し、メタノールの水蒸気改質を行なった。内管および外管から取り出したガスをそれぞれリアクターの下流に設置したコールドトラップにてバブリングさせることにより、未反応のメタノールおよび水蒸気を取り除いた。その後、一部をサンプリングして、TCD(Thermal Conductivity Detector)およびFID(Flame Ionization Detector)を備えたガスクロマトグラフ(GC)で生成ガスの組成を分析した。TCDおよびFIDの条件は、以下のとおりである。
分析ガス種
GC−TCD・・・H
2、O
2、N
2、CO
2
GC−FID・・・CO
2
GC−TCDの仕様
ガスクロマトグラフ・・SHIMADZU GC−8A
カラム・・・・・・・・Molecular−Sieve 13X
キャリアガス・・・・・Ar
一次圧・・・・・・・・600kPa
キャリアガス圧・・・・120kPa
カラム温度・・・・・・50℃
注入温度・・・・・・・100℃
電流・・・・・・・・・80mA
GC−FIDの仕様
ガスクロマトグラフ・・SHIMADZU GC−8A
カラム・・・・・・・・Polapack−Q
キャリアガス・・・・・N
2
一次圧・・・・・・・・600kPa
キャリアガス圧・・・・120kPa
カラム温度・・・・・・60℃
注入温度・・・・・・・150℃
レンジ・・・・・・・・10
2
【0098】
ガスクロマトグラフの測定で知ることができるのは,サンプリングガス中に含まれるガ
スの組成だけであり,水素等の生成量を知ることはできない。そこで,基準ガスとなる窒素を生成ガスに添加し,よく混合したのちサンプリングした。窒素ガスは反応に関与することなく流量が一定であるため、これを基準ガスとすることで、以下の数式に基づき、生成されたガスの流量を算出することができる。なお、数式中の各値は以下のとおりである。
F
x:化学種X(X=CO
2、CO)の生成量[mol/min]
Xvol%:化学種Xの体積割合[%]
N
2vol%:窒素の体積割合[%]
Q
N2:窒素流量[mol/min]
【0099】
【数2】
【0100】
(メタノール転換率)
供給したメタノールの何%が水蒸気改質されたかを示す指標として、化学反応式の量論比に基づき、メタノール転換率ηを以下の数式で定義する。なお、数式中の各値は以下のとおりである。
C
CH3OH:反応で消費されたメタノール量(mol/分)
Q
CH3OH:メタノール供給量(mol/分)
F
CO2:CO
2生成量(mol/分)
F
CO:CO生成量(mol/分)
【0101】
【数3】
【0102】
〔比較例1、2〕
リアクターに水素分離膜を設けていないこと以外は、実施例1と同様の条件で、メタノールを水蒸気改質した場合を比較例1とし、スイープガスとして窒素(流量:10ml/分)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で、メタノールを水蒸気改質した場合を比較例2とした。
【0103】
実施例1および比較例1、2についてのメタノール転換率とCO濃度との比較を
図4に示す。
図4は、実施例1および比較例1、2でのメタノール転換率とCO濃度との関係を示す図である。水素分離膜のない比較例1に比べて、水素分離膜を用いた実施例1では、メタノール転換率が大幅に上昇し、CO濃度も低下したことがわかる。よって、水素分離膜を設けることにより、単に水素の分離精製が可能なだけなく、反応場から水素を分離することで反応が促進されることがわかる。
【0104】
また、窒素スイープした比較例2では、メタノール転換率が70%未満(69%)であったのに対し、水蒸気スイープにした実施例1では、メタノール転換率が90%超(92%)の高い値が得られた。これは、水蒸気が反応側へ逆透過し、逆透過した水蒸気がメタノールの水蒸気改質に用いられ、反応物としての水蒸気が失われるのを防いだためと考えられる。実施例1のCO濃度は、比較例2よりも低いが、これは、水蒸気が反応側へ逆透過したことで逆水性ガスシフト反応によるCO生成が抑制されたためだと考えられる。
【0105】
さらに、水素分離膜を設けて水蒸気スイープした実施例1では、反応温度が220℃にてメタノール転換率が90%超という高い値が得られたことから、メタノールの水蒸気改質での高効率化、かつ低温化が達成できたことがわかる。
【0106】
次に、実施例1および比較例2における水素パーミアンス(H
2permeance)および二酸化炭素パーミアンス(CO
2permeance)の結果を
図5に示す。
図5は、実施例1および比較例2での水素パーミアンスおよび二酸化炭素パーミアンスを示す図である。パーミアンスは単位時間当たり、単位膜面積当たりの気体の透過流量を膜両側の分圧差で割った値であり、単位は[mol atm
−1 s
−1 m
−2 Pa
−1]である。
【0107】
窒素スイープした比較例2と比べて、水蒸気スイープした実施例1では、水素パーミアンスおよび二酸化炭素パーミアンスのどちらも低い値が得られた。これは水蒸気の逆透過が原因だと考えられる。実施例1および比較例2を比較すると、水素選択率(水素パーミアンス/二酸化炭素パーミアンス)が、比較例2および実施例1でそれぞれ47、61となり、実施例1の方が、30%程度、水素選択率が向上した。この結果から、二酸化炭素パーミアンスの低下が水素パーミアンスの低下に比べて顕著であることがわかる。これは動的分子径が水素より二酸化炭素の方が大きいため、水蒸気の逆透過による妨げを受けやすいためだと考えられる。さらに、スイープ側から検出された一酸化炭素も、比較例2では34ppmであったが、実施例1では24ppmであり、より低い値が得られた。したがって、水蒸気スイープすることにより、二酸化炭素、一酸化炭素などの透過を大幅に抑制できることがわかる。
【0108】
(まとめ)
スイープガスとして水蒸気を用いると,透過側の水蒸気が反応側へ逆透過する。これにより、反応物としての水蒸気が失われるのを防ぐため,高いメタノール転化率が得られる。また,逆水性ガスシフト反応によるCO生成が抑制されるため,CO濃度が下がる。
水蒸気の逆透過によって水素パーミアンスの低下の傾向が見られたが、水素よりも分子径の大きい二酸化炭素や一酸化炭素の方が透過抑制の影響が大きく、結果として水蒸気スイープを用いることで、30%程度、水素選択率が向上した。