【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、電気炉製鋼ダストに石灰を加え、非還元性雰囲気中で加熱処理する実験を行ったところ、CaO添加の有無に関わらず、鉄、亜鉛の揮発量は小さいが、塩素、フッ素のハロゲン類、鉛、カドミウムのような蒸気圧が高い重金属はいずれも大部分が揮発除去されており、特に1100℃で加熱処理後のハロゲン、鉛、カドミウム濃度は分析限界以下であることを見出して、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明に係る電気炉製鋼ダストからの亜鉛回収方法は、電気炉製鋼ダストと、その電気炉製鋼ダスト中のFeのモル数と当量以上のモル数のCaを含むカルシウム化合物とを混合後、非還元性雰囲気中で960℃以上、1100℃以下で1〜3時間熱処理して、ZnOと2CaO・Fe
2O
3とを得るCa混合加熱工程[(2)式参照]と、前記Ca混合加熱工程で得られたZnOと2CaO・Fe
2O
3とに、前記ZnOのモル数と当量以上のモル数の鉄粉末を混合し、圧粉する鉄粉混合工程と、前記鉄粉混合工程による圧粉体を減圧容器の内部に配置し、前記減圧容器の内部を減圧するとともに
1000℃で1時間加熱して亜鉛蒸気を発生させ[(3)式参照]、前記亜鉛蒸気を冷却凝固して固体の亜鉛片を得る還元揮発工程と、前記還元揮発工程で得られた亜鉛片を、亜鉛の融点より低い融点を有するNaCl−KClベースの多元系塩化物系フラックスに溶解させた後、冷却して、塊状の亜鉛を得る亜鉛取得工程とを、有することを特徴とする。
【0012】
【化2】
【0013】
本発明に係る電気炉製鋼ダストからの亜鉛回収装置は、電気炉製鋼ダストと、その電気炉製鋼ダスト中のFeのモル数と当量以上のモル数のCaを含むカルシウム化合物とを混合後、非還元性雰囲気中で960℃以上、1100℃以下で1〜3時間熱処理して、ZnOと2CaO・Fe
2O
3とを取得可能に設けられたCa混合加熱手段[(2)式参照]と、前記Ca混合加熱手段で得られたZnOと2CaO・Fe
2O
3とに、前記ZnOのモル数と当量以上のモル数の鉄粉末を混合し、圧粉するよう設けられた鉄粉混合手段と、減圧容器を有し、前記鉄粉混合手段による圧粉体を前記減圧容器の内部に配置し、前記減圧容器の内部を減圧するとともに
1000℃で1時間加熱して亜鉛蒸気を発生させ[(3)式参照]、前記亜鉛蒸気を冷却凝固して固体の亜鉛片を取得可能に設けられた還元揮発手段と、前記還元揮発手段で得られた亜鉛片を、亜鉛の融点より低い融点を有するNaCl−KClベースの多元系塩化物系フラックスに溶解させた後、冷却して、塊状の亜鉛を取得可能に設けられた亜鉛取得手段とを、有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る電気炉製鋼ダストからの亜鉛回収方法および電気炉製鋼ダストからの亜鉛回収装置は、電気炉製鋼ダストと、その電気炉製鋼ダスト中のFeのモル数と当量以上のモル数のCaを含むカルシウム化合物とを混合後、非還元性雰囲気中で960℃以上、1100℃以下で1〜3時間熱処理することにより、鉄や亜鉛をほとんど揮発させることなく、電気炉製鋼ダストに含まれる塩素やフッ素などのハロゲン類、鉛、カドミウムのような蒸気圧が高い重金属をほぼ揮発除去することができる。また、カルシウム化合物を添加することにより、難還元性、難溶性のZnFe
2O
4の生成を防ぎつつ、(2)式の反応により、ZnOと2CaO・Fe
2O
3とを得ることができる。熱処理時間が3時間以内と比較的短く、亜鉛回収の全行程を短時間で行うことができる。なお、このCa混合加熱工程として、特許文献2に記載の方法を用いることもできるが、熱処理時間が60時間以上と長くなってしまう。混合するカルシウム化合物は、例えば、生石灰(CaO)、石灰石(CaCO
3)、消石灰(Ca(OH)
2)である。また、カルシウムフェライト(2CaO・Fe
2O
3)が溶融すると予測できない現象が発生してしまうため、カルシウムフェライトが溶融しないよう、たとえ1100℃より高くなることがあったとしても、加熱温度をカルシウムフェライトの融点(約1230℃)以下に保持することが好ましい。
【0015】
得られたZnOと2CaO・Fe
2O
3とに鉄粉末を混合して還元することにより、(3)式に従って、亜鉛蒸気が得られ、その亜鉛蒸気を冷却凝固させることにより、金属の亜鉛片を回収することができる。還元前にカルシウム化合物添加による熱処理を行っているため、ハロゲン類や鉛等の重金属類が混入していない亜鉛片を得ることができる。なお、混合する鉄粉末としては、例えば、電解鉄粉やダライ粉(鉄スクラップの一種で、炭素鋼の切削屑)を使用することができる。また、亜鉛蒸気を発生させるための加熱温度は、減圧したときの圧力での、亜鉛の沸点以上であればよい。
【0016】
回収された金属の亜鉛片を、NaCl−KClベースの多元系塩化物系フラックスに溶解させてフラックス処理を行うことにより、亜鉛片表面の酸化層を除去することができ、塊状で高純度の金属亜鉛を回収することができる。また、亜鉛還元後の残渣の2CaO・Fe
2O
3は、そのまま回収して、製鋼プロセスにおける脱リン剤、あるいは高炉法における鉄源として使用することができる。
【0017】
このように、本発明に係る電気炉製鋼ダストからの亜鉛回収方法および電気炉製鋼ダストからの亜鉛回収装置は、電気炉製鋼ダスト中の酸化亜鉛を還元することなく酸化物として効率的に分離して、金属亜鉛を回収することができる。さらに、電気炉製鋼ダスト中の酸化鉄を製鋼プロセスにおける脱リン剤、あるいは高炉法における鉄源となる2CaO・Fe
2O
3として回収することができ、電気炉製鋼ダストをほぼ完全にリサイクルすることができる。また、電気炉製鋼ダストの処理費用および投入エネルギーを大幅に削減することもできる。
【0018】
また、本発明に
関する電気炉製鋼ダストからの亜鉛回収方法は、電気炉製鋼ダストと、その電気炉製鋼ダスト中のFeのモル数と当量以上のモル数のCaを含むカルシウム化合物とを混合後、非還元性雰囲気中で960℃以上、1100℃以下で1〜3時間熱処理して、ZnOと2CaO・Fe
2O
3とを得るCa混合加熱工程と、前記Ca混合加熱工程で得られたZnOと2CaO・Fe
2O
3とを、アルカリ性または中性の水溶液中に浸漬して、ZnOを選択的に前記水溶液中に浸出させる浸出工程と、前記浸出工程でZnOが浸出した前記水溶液を電解して、陰極に亜鉛を析出させる電解採取工程とを、有していてもよい。
【0019】
本発明に
関する電気炉製鋼ダストからの亜鉛回収装置は、電気炉製鋼ダストと、その電気炉製鋼ダスト中のFeのモル数と当量以上のモル数のCaを含むカルシウム化合物とを混合後、非還元性雰囲気中で960℃以上、1100℃以下で1〜3時間熱処理して、ZnOと2CaO・Fe
2O
3とを取得可能に設けられたCa混合加熱手段と、前記Ca混合加熱手段で得られたZnOと2CaO・Fe
2O
3とを、アルカリ性または中性の水溶液中に浸漬して、ZnOを選択的に前記水溶液中に浸出させるよう設けられた浸出手段と、前記浸出手段でZnOが浸出した前記水溶液を電解して、陰極に亜鉛を析出可能に設けられた電解採取手段とを、有していてもよい。
【0020】
これらの場合、カルシウム化合物添加による熱処理で得られたZnOと2CaO・Fe
2O
3とを、アルカリ性または中性の水溶液中に浸漬することにより、2CaO・Fe
2O
3をほとんど水溶液中に溶解させることなく、ZnOを選択的に水溶液中に浸出させることができる。このため、2CaO・Fe
2O
3を残渣として回収することができ、製鋼プロセスにおける脱リン剤、あるいは高炉法における鉄源として使用することができる。また、ZnOが浸出した水溶液を電解することにより、陰極に亜鉛を析出させて、高純度の金属亜鉛を回収することができる。
【0021】
本発明に
関する電気炉製鋼ダストからの亜鉛回収方法で、前記浸出工程は、前記Ca混合加熱工程で得られたZnOと2CaO・Fe
2O
3とを、70℃以上100℃以下の前記水溶液に浸漬させることが好ましい。また、前記浸出工程の前記水溶液はNaOH水溶液またはNH
4Cl水溶液であることが好ましい。本発明に
関する電気炉製鋼ダストからの亜鉛回収装置で、前記浸出手段は、前記Ca混合加熱手段で得られたZnOと2CaO・Fe
2O
3とを、70℃以上100℃以下の前記水溶液に浸漬させるよう構成されていることが好ましい。また、前記浸出手段の前記水溶液はNaOH水溶液またはNH
4Cl水溶液であることが好ましい。これらの場合、効率的に全ての亜鉛を水溶液中に浸出させることができる。