【実施例】
【0012】
本発明の消火用放水ノズルを図に基づいて説明する。
図1は、本発明の消火用放水ノズルの構造を示す図である。
図2は、本発明の消火用放水ノズルの弁部を表わす図であり、図(a)は図(b)のA−B−C線組合せ断面図であり、図(b)は弁部の底面図である。
本発明の消火用放水ノズル10は、ノズル部12と、放水本体部14と、弁部16とを備えるものである。ノズル部12及び放水本体部14は、筒状に形成されている。放水本体部14の前部にノズル部12の後部が螺合されており、ノズル部12は回転可能な状態で放水本体部14に連結されている。放水本体部14の後部は、消火ホース18が連結できるようになっている。消火ホース18から供給される圧力水20は、ノズル部12と放水本体部14の内部空間22を通り、ノズル部12の開口部12aから放水される。
【0013】
弁部16は、管状のものであり、ノズル部12と放水本体部14の内部空間22に配置されている。弁部16の頭部16aは、弁部16より大径に形成されており、ノズル部12の開口部12aから放水される圧力水20を制御するものである。
ノズル部12の内壁には、弁部16の頭部16aが当接するように形成される座部12bが設けられている。座部12bは、ノズル部12内壁から突出しテーパ状に形成されている。弁部16の頭部16aは、座部12bの前方に配置されており、ノズル部12を回転させ、弁部16の頭部16aが座部12bに当接すると、放水が停止するようになっている。
ノズル部12を回転させてノズル10の前方に移動させ、座部12bが弁部16の頭部16aに近づくと、圧力水20は直線状(又は棒状)に放水される。また、ノズル部12を逆に回転させてノズル10の後方に移動させることにより、圧力水20を拡散して放水できる(
図1)。
【0014】
消火用放水ノズル10により放水される圧力水20は、拡散して放水する場合と直線状に放水する場合のいずれにおいても、ノズル部12の開口部12aから放水される。このとき、放水により形成される放水ライン20(圧力水20)は水の膜で形成され、放水ライン20の内部には水が存在しない空間24ができる(
図1)。たとえば、拡散して放水される場合(傘状に広がる放水の時)は傘の石突から広がる傘布(カバー)のような空間が形成される。したがって、放水時において、ノズル部12と弁部16の頭部16aにより形成される消火用放水ノズル10の先端部分の前方には、水が存在しない空間が形成される。
【0015】
弁部16は、内管26と外管28とからなる二重管状のものである。内管26の頭部には、内管26の中空部26aに連通する放水本体部14の第一穴部14aを通じて外部の電源30(電池)と接続する発光体32が備えられている(
図1)。
内管26の頭部に、発光ダイオード(LED)などの発光体32を設ける。これにより、放水時に発光体32を点灯することにより、放水先の放水対象物を照らすことができ、放水対象物を視認することができる。
放水本体部14には、外部に通じる第一穴部14aが設けられている。また、第一穴部14aに、内管26の中空部26aの後端部を連通させている。これにより、第一穴部14aを通じて、内管26の中空部26aに、発光体32と外部の電源30を接続する配線34(導線)を備えることができる。
図1において、弁部16の後端部16bを、弁部16より大径の円盤状に形成している。弁部16の後端部16bの外縁は、放水本体部14の内壁に嵌め込み固定されている。また、弁部16の後端部16bの中に、内管26の中空部26aを形成し、中空部26aは放水本体部14の第一穴部14aに連通している(
図1)。
【0016】
上述のように、弁部16の後端部16bを放水本体部14に連結し、弁部16の頭部16aを大径(円盤状)に形成するとともに、弁部16の頭部16aに発光体32を設け、外部に設ける電源30と発光体32とを接続する配線34を弁部16の内管26の中空部26aに配置することにより、消火ホース18から供給される圧力水20を、ノズル部12の開口部12aから放水し、また、放水時に発光体32を点灯することにより、放水先の対象物を照らすことができ、対象物を視認することができる。
消火用放水ノズル10により放水される放水ライン20は、弁部16の頭部16aに設けられた発光体32の点灯(光)により、放水ライン20自体が発光体のように点灯し、照明具のように放水先の対象物やその周囲を照らすことができる。
【0017】
弁部16の頭部16aに、内管26と外管28の間に形成される中空部36に連通する放水本体部14の第二穴部14bを通じて外部の給気手段38(たとえば、不燃性ガスが貯蔵されている耐圧容器(ボンベ)など)から給気される高圧気体40を噴射する気体噴射口42を備える。
放水本体部14には、外部に通じる第二穴部14bが設けられている。また、第二穴部14bに、弁部16の中空部36を連通させている。弁部16の後端部16bの中に、弁部16の中空部36に連続する通路36aを形成し、通路36aを放水本体部14の第二穴部14bに連通させている。
給気手段38から弁部16の中空部36に給気し、弁部16の頭部16a(気体噴射口42)から高圧気体40を噴射する。これにより、水が存在しない放水ライン20の空間24中に入り込んだ煙を放水先方向に押し流し、空間24中から排除することができることから、空間24内にある放水先の対象物を視認することが可能になる。
なお、弁部16の円盤状の後端部16bには、弁部16の中空部26a及び中空部36を形成する部分以外の部分に、圧力水20が通過する通路16cを設けている(
図1、
図2)。
【0018】
次に、本発明の消火用放水ノズルを用いた放水先の対象物の視認について、説明する。
図3は、本発明の消火用放水ノズルにおける放水先の対象物の確認状態を示す図である。
図4は、遮蔽部材を備える本発明の消火用放水ノズルの放水状態を表わす図であり、放水状態を側面から見た図である。
図5は、遮蔽部材を備える本発明の消火用放水ノズルの放水状態を表わす図であり、放水状態を本発明の消火用放水ノズルを操作する者の視点から見た図である。なお、
図4及び
図5は、煙の無い暗室における、本発明の消火用放水ノズルの放水状態を表わす図である。
図3において、弁部16の頭部16aに、頭部16aの外縁から前方に延設される筒状の遮蔽部材44を備えている。これにより、弁部16の頭部16a付近の放水ライン20aに光52が当たらず、弁部16の頭部16a付近の放水ライン20aの照度を下げることができることから、空間24内にある放水先の対象物を消火用放水ノズル10を操作する者の視点46から視認することが可能になる(
図3、
図5)。放水ライン20の照度は発光体32に近い部分が最も明るく、本発明の消火用放水ノズル10を操作する者にとって、発光体32に近い部分は、放水ライン20の最も眩しいところである。また、消火用放水ノズル10を操作する者の視点46から放水先を覗く場合、発光体32に近い部分の放水ライン20aから覗くことから、放水ライン20aの部分の明るさは消火用放水ノズル10を操作する者の視認を妨げるおそれがあった。
【0019】
続いて、本発明の消火用放水ノズル10を用いた実験例を比較例とともに説明する。本実験例と比較例では、弁部16の頭部16aに遮蔽部材44を備えた消火用放水ノズル10を用いて放水先の対象物の視認を行った。ノズルの放水角度(拡散角度)60度に設定した。
図6は、放水現場の状態を表わす図である。
図7乃至
図9は、放水現場における本発明の消火用放水ノズルの放水状態を表わす図である。
図10及び
図11は、放水現場における比較例の消火用放水ノズルの使用状態を表わす図である。
なお、放水現場は、
図6に表れるように、煙を充満させた暗室であり、視界ゼロの状態にある。
本実験例における視認では、放水先の対象物からの距離が1m、1.5m、2mの各放水位置から放水先の対象物を視認した。なお、放水場所の床面には、放水位置を示す「1m」と「2m」を表示した。また、放水先の対象物は暗室の壁に表示する「イ」の文字である。
給気手段38として、1MPaの空気を貯蔵する耐圧容器(空気ボンベ)を使用した。また、弁部16の頭部16aの発光体32には、レンズ48及びレンズカバー50を取り付けて、光52を照射した。
【0020】
(実験例)
図7及び
図8は、「1m」の放水位置から、本発明の消火用放水ノズル10を操作する者が視認したものを表わす図である。「1m」の放水位置からは、放水先の対象物「イ」の文字を確実に視認できた(
図7)。
図7において、対象物「イ」はほぼ中央の位置に表れている。また、操作する者の足元に表示されている「1m」の表示を視認できた(
図8)。
図8において、「1m」の表示は右下の位置に表れている。なお、「1m」の表示は、消火用放水ノズル10を操作する者の視点46から1mの距離にあるものである。
【0021】
図9は、1.5mの放水位置から、
図1の消火用放水ノズルを操作する者が視認したものを表わす図である。1.5mの放水位置からは、放水先の対象物「イ」の文字を視認できた(
図9)。
図9において、対象物「イ」は右側中央の位置に表れている。「1m」の放水位置からの視認と比較すると、視界が悪かったが、対象物「イ」の文字は明確に認識することができた。
なお、「2m」の放水位置からは、放水先の対象物「イ」の文字を視認できなかった
以上のことから、本発明の消火用放水ノズル10により、放水位置から1.5mの放水先の対象物を視認できることが分かった。
なお、光の照度、給気の圧力を調整して放水することにより、放水位置から1.5mを超える放水先の対象物の視認も期待できる。
【0022】
(比較例)
消火用放水ノズル10から、空気40(高圧気体)を噴射せず、圧力水20の放水と光52の照射のみを行って、対象物「イ」の視認を試みたが、いずれの放水位置においても視認できなかった(
図10)。本比較例では、放水ライン20の水が存在しない空間24内に煙が充満していた。また、この時の視界はゼロであった。なお、本比較例では、確認できたのは、消火用放水ノズル10の先端付近の光52及び放水ライン20のみであった(
図10)。
また、消火用放水ノズル10から、圧力水20を放水せず、空気40の噴射と光52の照射のみを行って、対象物「イ」の視認を試みたが、いずれの放水位置においても視認できなかった(
図11)。本比較例では、空気40の噴射により煙が滞留し、その滞留する煙に光52が照射されるのみで、視界はゼロであった。
【0023】
以上のことから、本発明の消火用放水ノズルを用いて圧力水を拡散して放水し、圧力水で形成される水が存在しない空間の煙を高圧気体で押し出し、その煙の無い空間に光を照射することにより、煙が滞留する視界ゼロの火災現場においても、放水位置から1.5m範囲内の放水対象物を確実に特定することができることが分かった。これにより、本発明によると、放水対象物(たとえば、出火場所、要救助者等)を視認しながら放水・消火することが可能になる。
なお、拡散角度0度すなわち直線状に放水したときは、放水対象物は視認できなかった。
【0024】
本発明によると、煙が滞留する視界ゼロの建物火災においても、放水位置から放水先の対象物(たとえば出火場所、要救助者等)を確認しながら、消火作業ができることから、火災現場の消防士は、迅速な消火活動を行うことができる。