【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る電動アクチュエータの一実施形態を示す縦断面図、
図2は、
図1のアクチュエータ本体を示す縦断面図、
図3は、本発明に係るスリーブ単体を示す斜視図、
図4(a)は、
図3のスリーブを示す正面図、(b)は、(a)のIV−IV線に沿った横断面図、
図5(a)は、
図3のスリーブをハウジングの孔部に装着した状態を示す横断面図、(b)は、(a)の要部拡大図、
図6(a)は、ハウジングの孔部を示す横断面図、(b)は、(a)のVI−VI線に沿った縦断面図、
図7(a)は、
図6のスリーブの孔部にスリーブを装着した状態を示す縦断面図、(b)は、(a)のスリーブの一部を示す斜視拡大図、
図8(a)は、ハウジングの孔部を示す斜視図、(b)は、(a)のハウジングの孔部にスリーブを装着した状態を示す斜視図、
図9は、
図8(b)のハウジングの孔部の変形例を示す斜視図である。
【0031】
この電動アクチュエータ1は、
図1に示すように、円筒状のハウジング2と、このハウジング2に取り付けられた電動モータ(図示せず)と、この電動モータのモータ軸3aに取付けられた入力歯車3に噛合する中間歯車4およびこの中間歯車4に噛合する出力歯車5からなる減速機構6と、この減速機構6を介して電動モータの回転運動を駆動軸7の軸方向の直線運動に変換するボールねじ機構8と、このボールねじ機構8を備えたアクチュエータ本体9とを備えている。
【0032】
ハウジング2はA6063TEやADC12等のアルミ合金からダイカストによって形成され、第1のハウジング2aと、その端面に衝合された第2のハウジング2bとからなり、固定ボルト16によって一体に固定されている。第1のハウジング2aには電動モータが取り付けられると共に、これら第1のハウジング2aと第2のハウジング2bの衝合部には、後述するボールねじ機構8を構成するねじ軸10を収容するための貫通孔11と、孔部12が形成されている。
【0033】
電動モータのモータ軸3aは、その端部に入力歯車3が圧入により相対回転不能に取り付けられ、第2のハウジング2bに装着された深溝玉軸受からなる転がり軸受13によって回転自在に支持されている。平歯車からなる中間歯車4に噛合する出力歯車5は、ボールねじ機構8を構成するナット18にキー14を介して一体に固定されている。
【0034】
駆動軸7はねじ軸10と一体に構成され、一端部(図中右端部)に係止(ガイド)ピン15が植設されている。また、第2のハウジング2bの孔部12には後述するスリーブ17が嵌合され、このスリーブ17に軸方向に延びる凹溝部17a、17aが形成されている。そして、凹溝部17a、17aは周方向に対向して配設され、ねじ軸10の係止ピン15が係合されている。これにより、ねじ軸10が、回転不可に、かつ軸方向移動可能に支持されている。
【0035】
ボールねじ機構8は、
図2に拡大して示すように、ねじ軸10と、このねじ軸10にボール19を介して外挿されたナット18とを備えている。ねじ軸10は、外周に螺旋状のねじ溝10aが形成されている。一方、ナット18は、内周にねじ軸10のねじ溝10aに対応する螺旋状のねじ溝18aが形成され、これらねじ溝10a、18aとの間に多数のボール19が転動自在に収容されている。そして、ナット18は、第1、第2のハウジング2a、2bに対して、2つの支持軸受20、20を介して回転自在に、かつ軸方向移動不可に支承されている。21は、ナット18のねじ溝18aを連結して循環部材を構成する駒部材で、この駒部材21によって多数のボール19が無限循環することができる。
【0036】
各ねじ溝10a、18aの断面形状は、サーキュラアーク形状であってもゴシックアーク形状であっても良いが、ここではボール19との接触角が大きくとれ、アキシアルすきまが小さく設定できるゴシックアーク形状に形成されている。これにより、軸方向荷重に対する剛性が高くなり、かつ振動の発生を抑制することができる。
【0037】
ナット18はSCM415やSCM420等の肌焼き鋼からなり、真空浸炭焼入れによってその表面に55〜62HRCの範囲に硬化処理が施されている。これにより、熱処理後のスケール除去のためのバフ加工等を省略することができ、低コスト化を図ることができる。一方、ねじ軸10はS55C等の中炭素鋼あるいはSCM415やSCM420等の肌焼き鋼からなり、高周波焼入れ、あるいは浸炭焼入れによってその表面に55〜62HRCの範囲に硬化処理が施されている。
【0038】
ナット18の外周面18bには減速機構6を構成する出力歯車5がキー14を介して固定されると共に、この出力歯車5の両側に2つの支持軸受20、20が所定の締め代を介して圧入されている。これにより、駆動軸7からスラスト荷重が負荷されても支持軸受20、20と出力歯車5の軸方向の位置ズレを防止することができる。また、2つの支持軸受20、20は、両端部にシールド板20a、20aが装着された密封型の深溝玉軸受で構成され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から埃や塵埃、摩耗粉等の異物が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0039】
また、本実施形態では、ナット18を回転自在に支持する支持軸受20が同じ仕様の深溝玉軸受で構成されているので、前述した駆動軸7からスラスト荷重および出力歯車5を介して負荷されるラジアル荷重の両方を負荷することができると共に、組立時に誤組み防止のための確認作業を簡便化することができ、組立作業性を向上させることができる。なお、ここで、同じ仕様の深溝玉軸受とは、軸受の内径、外径、幅寸法をはじめ、転動体サイズ、個数および軸受内部すきま等が実質的に同一なものを言う。
【0040】
ここで、本実施形態では、
図1に示すように、第2のハウジング2bの孔部12に筒状のスリーブ17が嵌合されている。このスリーブ17は、冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工によって断面略半円状に形成され、2枚1組で、互いに対向配置されて円環状で使用される。これにより、スリーブ17のプレス加工がし易くなると共に、少なくともアルミ合金からなる第2のハウジング2bよりも材料強度と耐摩耗性が高くなり、耐久性を向上させることができる。スリーブ17は、
図3および
図4(a)に示すように、中央部に軸方向に延びる断面コの字状の凹溝部17aと、この凹溝部17aの両端部に円弧状に延びる一対のウィング22、23と、これらのウィング22、23間に突設され、円弧状に延びる係止爪24とを備えている。そして、後述するダイカスト成形により形成される第2のハウジング2bの抜き勾配に対応して、矢印に示すように軸方向に所定の勾配が付与されている。これにより、孔部12の内周のダイカスト面を機械加工することなくそのまま利用でき、低コスト化を図ることができる。
【0041】
ウィング22、23は、
図4(b)に示すように、その周方向の端面に、後述する第2のハウジング2bの孔部12の凸条28に弾性密着する舌片25が形成されると共に、ウィング23の軸方向の端面には底板27(
図1参照)に弾性密着する突片26が形成されている。そして、少なくとも凹溝部17aが高周波焼入れによってその表面に55〜62HRCの範囲に硬化処理が施されている。なお、スリーブ17の材質として、前述したもの以外に、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)やフェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)、冷間圧延鋼板に電気メッキ、無電解ニッケルメッキ等の液相メッキが施されたもの、あるいは、アルミニウム、マグネシウムの緻密な三元共晶組織からなる高耐食性溶融めっき鋼板(ZAM鋼板と呼称されている)等を例示することができる。
【0042】
底板27は、冷間圧延鋼板等の鋼板からプレス加工によって円板状に形成され、
図1および
図7(a)に示すように、第2のハウジング2bの孔部12の底部2cに装着されている。そして、高周波焼入れあるいは浸炭焼入れによってその表面に55〜62HRCの範囲に硬化処理が施されている。本実施形態では、底板27がスリーブ17と別体で、かつ円板状に形成されているので、スリーブ17と孔部12の底部2cとで挟持された状態で回転可能となり、ねじ軸10の端部が衝突した場合でも、その衝撃荷重を分散させて効率的に吸収することができ、耐久性を向上させることができる。
【0043】
一方、第2のハウジング2bの孔部12は、
図6、
図8に示すように、内径側に突出し、180°対向して形成された一対の凸条28、28と、これらの凸条28、28間に180°対向して形成され、スリーブ17を収容する軸方向に延びる一対の凹所29、29と、これらの凹所29と凸条28との間に対向して軸方向に延びて突設され、スリーブ17のウィング22、23がガイドされる規制部30、30を備えている。ここで、
図4(b)に示すように、係止爪24の曲率半径r1は規制部30に嵌挿されるウィング22、23の曲率半径r2よりも大きく設定されている(r1>r2)。これにより、係止爪24が孔部12の凸条28と規制部30に強固に弾性密着するができる。
【0044】
本実施形態では、機械加工による加工費を削減して低コストを図るため、ハウジング2はダイカスト成形により形成されているが、孔部12の凸条28と規制部30は、抜き勾配を設けてダイカストで成形し易いように、
図6、
図8(a)に示すように、孔部12の底部2cから開口部2dに亙って漸次その幅が薄くなるようにテーパ状に形成されると共に、これら凸条28と規制部30の軸方向略中央部にアンダーカット部(凹み)28a、30aがそれぞれ形成されている。
【0045】
スリーブ17は、
図5、
図8(b)に示すように、孔部12の凹所29にスリーブ17の凹溝部17aが収容されると共に、スリーブ17のウィング22、23の端部に形成された舌片25が孔部12の凸条28に弾性密着し、周方向にスリーブ17が位置決め固定されている。また、スリーブ17の係止爪24が孔部12の凸条28に弾性密着し、軸方向にスリーブ17が位置決め固定されている。これにより、従来のスリーブの抜け止めをする止め輪を廃止できると共に、このスリーブ17の軸方向の抜け止めと周方向の回り止めをスリーブ17自体ですることができ、機械加工による加工費を削減し、低コストで軽量・コンパクトな電動アクチュエータを提供することができる。
【0046】
ここで、
図5(b)に示すように、ダイカスト成形により抜き勾配が残ったままの孔部12の凹所29に寸法精度が必要なスリーブ17の凹溝部17aが接触して変形しないよう、凹所29と凹溝部17aとの間には径方向のすきまが確保されている。さらに、
図7(a)に示すように、凸条28に形成されたアンダーカット部28aにスリーブ17の係止爪24を係止することにより、スリーブ17の軸方向の位置決めができると共に、規制部30に形成されたアンダーカット部30aに係止爪24を係止することにより、スリーブ17の軸方向の位置決め固定がさらに強固になり、品質の信頼性が向上する。
【0047】
また、
図7(b)に示すように、スリーブ17のウィング23の端面に形成された突片26が、組立時にスリーブ17の圧入によって軸心方向に向かって反り返りながら底板27に当接され、この突片26が底板27に弾性密着することにより、孔部12に対してスリーブ17の軸方向のガタを抑えることができ、スリーブ17の位置決め精度を向上させると共に、ねじ軸10の安定した支持をすることができる。
【0048】
図9に前述した第2のハウジング2bの変形例を示す。この第2のハウジング31は、前述した第2のハウジング2bの孔部12と異なり、スリーブ17の係止爪24が係止される規制部30が形成されておらず、一対の凸条32、32のみが孔部33の内径側に突出し、180°対向して形成されている。そして、スリーブ17のウィング22、23の端部に形成された舌片25が孔部33の凸条32に弾性密着し、周方向にスリーブ17が位置決め固定されると共に、スリーブ17の係止爪24が孔部33の凸条32に弾性密着し、軸方向にスリーブ17が位置決め固定されている。これにより、一層の軽量化を図ることができると共に、加工性および組立性が向上し、低コスト化を図ることができる。
【0049】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。