(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
競技用義足の使用者は通常、板バネの反発力を効率良く利用するために、義足用板バネの直線部を7°〜20°程つま先側に傾けた状態で使用者の荷重軸が接地部付近を通るよう、アダプターの取り付け位置を調整している。
ここで、体格が小さな使用者が義足用板バネを使用する場合は、
図7に示すように、アダプターを直線部の下方に取り付ける必要があるが、現在市場に供給されている義足用板バネは、直線部と湾曲部とを含めた全体の寸法関係が身長の高い使用者に対応させた設計となっている。このため、体格が小さな使用者が義足用板バネを最適荷重位置にセットするためには、
図7に示すように、水平方向に長いアダプターを使用して荷重位置を先端側に持っていかなければならない。この結果、アダプターの全長が長くなり、アダプターの質量が増加するという課題が生じていた。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、体格の小さな使用者であっても、短くて軽量なアダプターを用いて義足用板バネを適正な荷重位置にセットすることができる義足用板バネを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明による義足用板バネは、アダプターが取り付けられる直線部と、板バネとして機能する湾曲領域を少なくとも湾曲部とを備え、前記直線部を接地面に対して垂直に配置した際に、前記湾曲部の全長Ltと、前記湾曲部の先端から前記直線部までの水平距離Lfとが、0.55<Lf/Lt<
0.70の関係を満たし、前記Ltは310mm以下であり、
前記直線部を接地面に対して垂直に配置した状態から13°前記湾曲部の先端側に傾けたときに、前記直線部が接地面から350mmの高さに位置しており、かつ、前記湾曲部の先端から70mm後側を通る鉛直軸が、接地面から350mmの高さにおいて、前記直線部から前記湾曲部の先端側に向けて水平方向に72mm以下の範囲に位置することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、板バネ状の湾曲部を備える義足用板バネにおいて、アダプターが取り付けられる直線部の水平方向の配置位置を、0.55<Lf/Lt<
0.70の関係を満たし、前記Ltは310mm以下であり、
前記直線部を接地面に対して垂直に配置した状態から13°前記湾曲部の先端側に傾けたときに、前記直線部が接地面から350mmの高さに位置しており、かつ、前記湾曲部の先端から70mm後側を通る鉛直軸が、接地面から350mmの高さにおいて、前記直線部から前記湾曲部の先端側に向けて水平方向に72mm以下の範囲に位置するように設定することとしたので、体格の小さな使用者であっても、短いアダプターを使用して荷重位置を適正位置にすることができる。これによりアダプターの軽量化を図ることができ、競技用義足の軽量化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施の形態1)
以下、本実施の形態1に係る義足用板バネについて図を用いて説明する。
【0010】
図1は、本実施の形態1による義足用板バネ10の左側面図である。
図2は義足用板バネ10を装着した大腿用の競技用義足100を表す図であり、
図3は義足用板バネ10を装着した下腿用の競技用義足200を表す図である。
【0011】
なお、以下の説明においては、義足用板バネ10の直線部11を接地面Gに垂直に配置した状態を「基準状態」と呼び、接地面Gに水平な方向を「水平方向」、接地面Gに垂直な方向を「垂直方向」とそれぞれ定義する。また、基準状態において、直線部11にアダプター20が固定される側を「前側」と呼び、直線部11を挟んで前側と対向する側を「後側」と呼ぶ。さらに、義足用板バネ10の各部の長さは、特に断りがない限り、基準状態における左側面視上での長さを示している。
【0012】
図1において、義足用板バネ10は、一定の厚みで板状に成型される直線部11と、板バネとして機能する湾曲領域を少なくとも含む湾曲部12とよりなる。義足用板バネ10は、炭素繊維強化樹脂やガラス繊維強化樹脂などの繊維強化樹脂により成型される。
直線部11には、
図2、あるいは
図3に示すように、アダプター20がボルト部材等(図示せず)を用いて固定される。大腿用の競技用義足の場合は、
図2に示すように、膝関節の役割を担う膝継手40を介してL字型のアダプター20がソケット30に取り付けられる。下腿用の競技用義足の場合は、
図3に示すように、筒状のアダプター20がソケット30に直接固定される。
【0013】
直線部11の垂直方向の長さは、個人の体型に応じてアダプター20の固定位置を調整し得る長さであればよく、200mm程度とするのが好適である。直線部11の幅は、80mm程度とすることで、アダプター20を安定的に固定させることができる。直線部11の厚みは、義足用板バネ10の材料や使用者の体重により適宜変更することができ、例えば直線部11を炭素繊維強化樹脂により成型する場合は、10mm程度とすることで必要な強度を確保することができる。
【0014】
湾曲部12は、直線部11より後側に向けて湾曲状に突出する踵部12aと、踵部12aより接地面G側に向けて延伸する接地部12bとより構成される。踵部12aや接地部12bの形状は、所望の曲げ特性に応じて任意に採択することができる。
【0015】
例えば、踵部12aは、曲率半径40mm〜80mmの円弧形状を後側に突出させた湾曲形状とすることができる。突出させる円弧形状は、単一曲率の円弧や、複数曲率の円弧を組み合わせた複合円弧とすることができる。また、踵部12aの形状は、後側に向けて湾曲状に突出する限りにおいて、複数の円弧形状を繋げてできる波型形状や、直線部11より前側に一旦突出させた後に、後側に向けて大きく湾曲状に突出させた逆S字形状としてもよい。
【0016】
接地部12bは、
図1に示すように、曲率半径200mm〜400mmの円弧を組み合わせて弓形に湾曲させた緩円弧形状や、
図4に示すように、曲率半径200mm〜250mmの円弧を緩やかな逆S字状に繋いだ湾曲形状、あるいは、
図5に示すように踵部12aからストレート部を延伸させてその先端を弓型に湾曲させた略へ字形状とすることができる。
なお、踵部12aと接地部12bとの境界は、義足用板バネ10の前側表面、あるいは後側表面の線分上において、曲率変化点や変曲点に基づいて定義すればよい。
【0017】
湾曲部12の水平方向の長さLt(以下、単に「全長Lt」という。)は、270mm〜310mmとするのが好ましい。ここで、全長Ltは、基準状態において、湾曲部12の最も前側に位置する先端点P1と、最も後側に位置する後端点P2との間の水平方向の長さである。全長Ltを上記数値範囲とするのは以下の理由による。
【0018】
全長Ltを310mmより長くする場合は、湾曲部12に板バネとしての適切な硬さを与えるために、湾曲部12の厚みを厚くする必要がある。この結果、義足用板バネ10自体の質量が増加することになる。特に体格の小さな使用者にとっては、全長Ltが310mmを超えると、質量増による負担が大きくなる。一方で、湾曲部12の全長Ltが270mmより短いと、義足用板バネ10の撓み量が少なくなり、反発力が不足することになる。以上より、湾曲部12の全長Ltは270mm〜310mmとするのが好適である。
【0019】
湾曲部12の厚みは、一定の厚みとしても良く、あるいは、より良好な反発性を得るために、直線部11から厚みを漸減させても良い。湾曲部12の厚みを漸減させる場合は、例えば、直線部11との接続部分の厚みを11mmとした場合に、先端側の厚みを5mm〜6mmまで除変させることができる。
【0020】
次に、義足用板バネ10における直線部11の水平方向の配置位置を説明する。
【0021】
図1において、義足用板バネ10を基準状態とした場合に、直線部11の前側表面から先端点P1までの水平距離をLfと定義する。本実施の形態1では、Lfは、直線部11の前側表面のうち、直線部11と湾曲部12の境界点P3において測定した値である。
【0022】
本実施の形態1による義足用板バネ10は、湾曲部12の全長Ltと水平距離Lfとが、0.55<Lf/Lt<0.80の関係を満たすように直線部11を配置するのが好ましく、より好ましくは、0.65<Lf/Lt<0.75の範囲である。
上記Lf/Ltの数値範囲は、本発明者による以下の検証により導き出した。すなわち、本発明者は、全長Lt、及びLf/Ltが異なる5つの義足用板バネ(モデル1〜モデル5)について、義足用板バネ質量、アダプター質量、及びアライメントを評価し、これらに基づいて各モデルの総合評価を行った。なお、モデル1〜モデル5はいずれも、本実施の形態1による義足用板バネ10と同様に、直線部11と湾曲部12とより構成され、後側に凸アール状の踵部を有する板バネ形状である。
【0023】
検証を行った各評価項目のうち、「義足用板バネ質量」は、各義足用板バネの質量が、体格の小さな使用者に適しているか否かを示している。先に述べたように、義足用板バネの全長Ltを310mmより長くすると、特に体格の小さな使用者にとって義足用板バネの質量増加につながる。このため、各義足用板バネの全長Ltが310mm以下か否かを基準として、義足用板バネの質量の良否を判断した。
【0024】
「アライメント」は、競技用義足のソケット30を最適荷重位置に固定できるか否かを示している。具体的には、各義足用板バネの直線部を水平面から13°つま先側に傾けた状態において、ソケット30の中心部を通る基準線が先端点P1から70mm後側を通るように、アダプター20を直線部11に取り付けることができたか否かにより判断した。
【0025】
「アダプター質量」は、下腿用、大腿用のそれぞれについて、軽短タイプと重長タイプの2種類のアダプターを用意し、いずれの重さのアダプターを使用したかを示している。下腿用のアダプターとしては、アルミ合金の削り出しにより、32mm,80gの軽短タイプと、80mm,120gの重長タイプの2種類の筒状アダプターを作成した。大腿用については、アルミ合金の削り出しにより、72mm,230gの軽短タイプと、107mm,360gの重長タイプの2種類のL字型アダプターを作成した。
「総合評価」は、以上の各評価項目を3段階で総合的に評価した。
【0026】
以上の評価項目について、体格が小さい日本人が義足用板バネを使用することを想定し、日本人の膝蓋骨中央高(男性:444mm、女性:404mm)に基づき、大腿用の場合はアダプター20の上面が接地面から350mmの高さになるように、アダプター20を各義足用板バネに取り付けて検証を行った。また下腿用の場合は、アダプター20の中心軸が接地面から350mmの高さになるよう、アダプター20を各義足用板バネに取り付けて検証を行った。
【0027】
表1は、各モデルのLf/Lt、Lt、及び各項目の検証結果を示している。
【0029】
モデル1(Lf/Lt=0.70)では、下腿用、及び大腿用のいずれにおいても、軽短タイプのアダプターを使用して適正アライメントとすることができた。また板バネ質量についても問題はなかった。
【0030】
モデル2(Lf/Lt=0.55)では、下腿用、大腿用共に軽短タイプのアダプターを20を使用して適正アライメントとすることができたが、前後幅Ltが310mmを超えており、義足用板バネの質量が重くなる点において、総合評価はモデル1よりも低くなっている。
【0031】
モデル3(Lf/Lt=0.86)、及びモデル4(Lf/Lt=0.83)では、板バネ質量は問題ないが、Lf/Ltの値が他のモデルよりも大きく直線部11が後側に位置するので、下腿用、大腿用のいずれにおいても、重長タイプのアダプター20を使用しなければ適正アライメントとすることができなかった。このため、総合評価はモデル2よりも低い。
【0032】
モデル5(Lf/Lt=0.50)では、Lf/Ltの値が他のモデルよりも小さく直線部11が前側に位置しているので、軽短タイプのアダプターを取り付けても荷重位置が前側に行き過ぎ、適正アライメントとすることができない。このため、総合評価としては、モデル2、及び3と同様にモデル2よりも低い。
【0033】
以上より、直線部11を0.55<Lf/Lt<0.80となる位置に配置すれば、体格の小さな使用者であっても、短く軽いアダプター20を用いて義足用板バネを最適荷重位置にセットできることが分かる。特に、直線部11を0.65<Lf/Lt<0.75の関係を満たす位置に配置すれば、より確実に短く軽いアダプター20を用いることができるようになる。
【0034】
以上のように、本実施の形態1による義足用板バネによれば、湾曲部の全長をLfとし、直線部11の前側表面から先端点P1までの水平距離をLfとした場合に、0.55<Lf/Lt<0.80を満たす位置に直線部を配置することとしたので、体格の小さな使用者であっても軽量のアダプターを用いてソケットを最適荷重位置にセットすることができる。これにより、競技用義足自体の質量を軽減することができる。また、湾曲部の全長Lfを270mm以上310mm以下とすることにより、質量増加を押さえつつ、必要な撓み特性を得ることができる。