特許第6406771号(P6406771)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6406771
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】義足用板バネ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/66 20060101AFI20181004BHJP
【FI】
   A61F2/66
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-65119(P2017-65119)
(22)【出願日】2017年3月29日
【審査請求日】2018年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390005751
【氏名又は名称】株式会社今仙技術研究所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 美文
(72)【発明者】
【氏名】大森 一寛
(72)【発明者】
【氏名】島名 孝次
(72)【発明者】
【氏名】酒井 隆太
(72)【発明者】
【氏名】板花 俊希
(72)【発明者】
【氏名】後藤 学
(72)【発明者】
【氏名】浜田 篤至
(72)【発明者】
【氏名】大塚 滋
【審査官】 寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0157197(US,A1)
【文献】 意匠登録第1564908(JP,S)
【文献】 意匠登録第1564627(JP,S)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0268092(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アダプターが取り付けられる直線部と湾曲部を備える義足用板バネにおいて、
前記湾曲部は、後側に向けて突出する踵部を備え、
前記直線部の延伸方向を基準として定める足長方向に直行する方向において、前記踵部において最も後側に突出する最凸点の高さHbが160mm≦Hbを満たし、
前記直線部の延伸方向を基準として定める足長方向における前記最凸点と前記湾曲部の前側の最先端点との間の長さLtがLt≦295mmの関係を満たす、
ことを特徴とする義足用板バネ。
【請求項2】
請求項1に記載の義足用板バネにおいて、
想定される膝関節回りの慣性モーメントが、0.65×10g・mm以下である、
ことを特徴とする義足用板バネ。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の義足用板バネにおいて、
前記高さHb、前記長さLt、及び当該義足用板バネの板厚tが、
0.050≦(Hb/Lt)/tの関係を満たす、
ことを特徴とする義足用板バネ。
【請求項4】
請求項1に記載の義足用板バネにおいて、
前記湾曲部は、前記踵部より延伸する上向きに湾曲するアーチ部を備える、
ことを特徴とする義足用板バネ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、競技用の義足に装着する義足用板バネに関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツ競技で用いられる義足の分野においては、繊維強化樹脂で成型された板バネ部材を足部として用いる競技用の義足用板バネが知られている。例えば、非特許文献1には、C字型の湾曲部を有する義足用板バネが開示されている。このような義足用板バネの使用者は、板バネの湾曲領域を撓ませて反発力を生じさせ、この反発力を利用して進行方向への推進力を得ている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】パシフィックサプライ株式会社 オズール義肢部品 総合カタログ(日本語版)2015‐2016、169頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の義足用板バネは、主に撓み特性に着目して湾曲部の形状設計がなされている。しかしながら、撓み特性に加えて走行時の義足用板バネの振りやすさをも考慮して形状設計がなされた義足用板バネは知られていない。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、撓み特性を高めると共に、膝下の回転性を高めて振りやすさを向上させることのできる義足用板バネを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明による義足用板バネは、アダプターが取り付けられる直線部と湾曲部を備える義足用板バネにおいて、前記湾曲部は、後側に向けて突出する踵部を備え、前記直線部の延伸方向を基準として定める足長方向に直行する方向において、前記踵部において最も後側に突出する最凸点の高さHbが160mm≦Hbを満たし、前記直線部の延伸方向を基準として定める足長方向における前記最凸点と前記湾曲部の前側の最先端点との間の長さLtがLt≦295mmの関係を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、義足用板バネを義足に装着した際に、良好な撓み性能が得られるとともに、膝関節回りの慣性モーメントを低くすることができる。これにより、膝下の回転性を高めることができ、走行時の板バネの振り易さを向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施の形態1に係る義足用板バネの側面図である。
図2】本実施の形態1に係る義足用板バネのEI分布を説明するための図である。
図3】本実施の形態1に係る義足用板バネの変形例を示す図である。
図4】本発明の踵部の配置位置を説明するための図である。
図5】本発明にて想定される膝関節の位置を説明するための図である。
図6】本発明にて想定される膝継ぎ手の回転軸の位置を説明するための図である。
図7】本発明の実施例1に係る義足用板バネの側面図である。
図8】本発明の実施例2に係る義足用板バネの側面図である。
図9】比較例1に係る義足用板バネの側面図である。
図10】比較例2に係る義足用板バネの側面図である。
図11】比較例3に係る義足用板バネの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施の形態1)
以下、本実施の形態1に係る義足用板バネについて図を用いて説明する。
【0010】
図1は、本実施の形態1による義足用板バネ10の左側面図である。なお、以下の説明においては、義足用板バネ10の直線部11を接地面Gに垂直に配置した状態を「基準状態」と呼び、接地面Gに水平な方向を「水平方向」、接地面Gに垂直な方向を「垂直方向」とそれぞれ定義する。また、基準状態において、爪先側が位置する方向を「前側」と呼び、踵側が位置する方向を「後側」と呼ぶ。
【0011】
図1において、義足用板バネ10は、板状に成型される直線部11と、板バネとして機能する湾曲部12とよりなる。直線部11と湾曲部12は、炭素繊維強化樹脂やガラス繊維強化樹脂などの繊維強化樹脂により一体的に成型される。
直線部11には、ソケット(図示せず)と義足用板バネ10とを接続するアダプター(図示せず)が固定される。直線部11の垂直方向の長さは、個人の体型に応じてアダプターの固定位置を調整し得る長さであればよく、例えば200mm程度とすることができる。直線部11の幅は、80mm程度とすることで、アダプターを安定的に固定させることができる。直線部11の厚みは使用者の体重や材料に応じて設計を変更すればよく、例えば直線部11を炭素繊維強化樹脂により成型する場合は、5mm〜10mm程度とすることで必要な強度を確保することができる。
【0012】
湾曲部12は、接地面Gとの接地領域をなす接地部12aと、荷重状態の湾曲部12と接地面Gとの間にクリアランスを与えるアーチ部12bと、撓み領域として反発力を生じさせる踵部12cとより構成される。接地部12a、アーチ部12b、及び踵部12cは一体的に成型されており、本実施の形態1では、それぞれの境界を、義足用板バネ10の後側面上における変曲点や曲率の変化点により定義する。湾曲部12の厚みは、直線部11の厚みと同じでもよく、あるいは直線部11の厚みから漸減させてもよい。
以下、接地部12a、アーチ部12b、及び踵部12cの詳細な構成を説明する。
【0013】
接地部12aは、接地面Gとの接地領域であり、その形状は、接地面Gに向けて凸状に湾曲する円弧形状とするのが好適である。接地部12aは、基準状態において最先端に位置する先端点Pfから、下向き凸の湾曲方向が変化する変曲点P1までの範囲として定義される。接地部12aの水平方向の長さは、基準状態において60〜100mm程度とするのが好ましい。接地部12aを円弧形状とする場合は、例えば曲率半径200mm〜250mm程の単一曲率の円弧とすることができる。また、複数曲率の円弧を組み合わせた複合円弧形状としてもよい。
【0014】
アーチ部12bは、荷重状態の湾曲部12が接地部12aのみで接地面Gにコンタクトし続けるよう、湾曲部12と接地面Gとの間にクリアランスを与える領域である。アーチ部12bは、直線状か、もしくは上側に向けて凸状に湾曲する湾曲形状とすることができる。本実施の形態1では、上側に向けて凸状に湾曲する湾曲形状としており、その範囲は、変曲点P1から、上向き凸の湾曲方向が変化する変曲点P2までの領域として定義される。アーチ部12bを円弧形状とする場合は、例えば曲率半径150mm以上の単一曲率の円弧形状とすることができる。また、複数曲率の円弧を組み合わせた複合円弧としてもよい。アーチ部12bの水平方向の長さは、荷重状態において接地面Gとの間に十分なクリアランスを確保するという観点より、全長Ltの40%〜70%とするのが好ましく、全長Ltの50%〜60%の範囲とするのがより好ましい。
【0015】
アーチ部12bは、曲げ剛性の観点よりは以下の条件を満たすことが好ましい。図2は、接地部12a、及びアーチ部12bにおける曲げ剛性EIの測定ポイントを示す図である。図2において、アーチ部12bの水平方向における中間点をP5、点P5と変曲点P1との中間点をP6、接地部12aの水平方向における中央部をP7とする。P5,P6,P1,P7における曲げ剛性EIを、それぞれEI1,EI,EI,EIとした場合に、EI〜EIは下記(1)〜(3)を満たしている。
EI≦EI・・・(1)
EI≦EI・・・(2)
EI≦EI・・・(3)
上記(1)〜(3)の条件によれば、接地部12aの曲げ剛性をアーチ部12bの曲げ剛性よりも高くしているので、荷重状態においても接地部12aによる接地状態を維持することができる。また、アーチ部12bにおいては、アーチの立ち上がり面(P1−P6間)の剛性を、アーチ部12bの中央P5よりも高くしているので、荷重状態においてアーチ部12b全体が潰れるのを抑えることができ、湾曲部12と接地面Gとの間にクリアランスを確保することができる。そして、アーチ部12bの中央P5よりも後側の領域を撓ませ易くすることで、踵部12cを含む湾曲部12の後側を十分に撓ますことができ、必要な反発力を得ることができる。
【0016】
次に再び図1を参照して、踵部12cは、義足用板バネ10の反発力を生じさせる撓み領域として機能する。踵部12cの範囲は、アーチ部12bの後側端となる変曲点P2から、直線部11の下側端となる変曲点P4までの領域として定義される。踵部12cは、後側に向けて突出する円弧状領域12cを少なくとも有しており、円弧状領域12cには、基準状態において最も後側に位置する最凸点Pbが含まれる。円弧状領域12cは、例えば、曲率半径40mm〜80mm程の円弧とすることができる。また、複数曲率の円弧を組み合わせた複合円弧としてもよい。
【0017】
円弧状領域12cは、接続領域12cを介して直線部11に接続され、円弧状領域12cと接続領域12cとの境界は変曲点P3として定義される。なお、接続領域12cの形状は、図1に示す二次曲線形状の他に、図3に示すように前側に突出する湾曲形状としてもよい。また、接続領域12cを介することなく直線部11から円弧状領域12cを直接突出させてもよい。
【0018】
次に、義足用板バネ10における踵部12cの具体的な配置位置を、図4を用いて説明する。図4は、基準状態における先端点Pf、最凸点Pb、及び変曲点P1〜P4をそれぞれ示している。
【0019】
基準状態において、最先端点Pfと最凸点Pbとの水平距離を全長Ltと定義し、接地面Gから最凸点Pbまでの高さをHbと定義した場合に、踵部12cは、260mm≦Lt≦310mm、且つ150mm≦Hbとなるように配置される。踵部12cの形状、すなわち円弧状領域12cや接続領域12cの形状は、Lt、及びHbが上記の範囲を満たす限りにおいて任意の形状とすることができる。
【0020】
また、全長Lt、最凸点Pの高さHb、及び義足用板バネ10の厚みtは、0.050≦(Hb/Lt)/tの関係を満たしている。なお、義足用板バネ10の厚みtが一定でない場合は、湾曲部12の中で最も薄い箇所の厚みをtとすればよい。
【0021】
踵部12cを上記の範囲とする理由は以下の通りである。本発明者は、義足用板バネの膝関節周りの慣性モーメントを低下させることにより、義足用板バネの振り易さを向上させることができる点に着目した。膝関節周りの慣性モーメントは、下腿切断者であれば、図5に示すように、想定される膝関節KJから義足用板バネ10の重心CGまでの距離と、義足用板バネ10の質量とにより決まる。大腿切断者であれば、図6に示すように、想定される膝継ぎ手の回転軸RAから義足用板バネ10の重心CGまでの距離と、義足用板バネ10の質量とにより決まる。
なお、本発明においては、想定される膝関節KJの位置、あるいは膝継ぎ手の回転軸RAの位置は、義足用板バネ10を基準状態から13°後方に傾けた状態において、爪先側の先端部から70mm後方の位置に仮想軸AXを接地面Gに垂直に立て、当該仮想軸AXの接地面Gより440mm上側としている。
【0022】
膝関節周りの慣性モーメントを低下させるにあたり、図4において、最先端点Pfから変曲点P2までの形状、すなわち接地部12aとアーチ部12bの形状を一定形状とし、最凸点Pbの水平方向の位置を変化させて踵部12cの張り出し量を変化させる場合を考える。踵部12cを後方に張り出していく場合、全長Ltが310mmより長くなると、義足用板バネ10の質量が増加し、且つレバーアーム長が長くなる。そのため必要な剛性も増え板厚tも増大する。この結果、振りやすさに影響が出る程に膝関節周りの慣性モーメントが大きくなる。一方、踵部12cの張り出しを短くしていく場合、全長Ltが260mmより短くなると、義足用板バネ10の撓み量が少なくなり十分な反発力が得られない。このため、全長Ltが260mm〜310mmとなるように最凸点Pbを水平方向に配置するのが好適である。
【0023】
また、最先端点Pfから変曲点P2までの形状を一定形状とし、最凸点Pbの垂直方向の位置を変化させる場合を考える。最凸点Pbの高さHbが150mmより短くなると、想定される膝関節KJと義足用板バネ10の重心CGとの距離が長くなり、振りやすさに影響が出る程に慣性モーメントが大きくなる。このため、最凸点Pbの高さHbは150mm以上になるよう、最凸点Pbを垂直方向に配置するのが好ましい。
【0024】
さらに、接地点よりも後ろ側の長さは、板バネのバネ定数に線形的に対応するため、目標とするバネ状数を達成しようとする場合、全長Ltが長くなると必要な板厚が増大し質量が重くなる。このため、全長Ltに対する最凸点高さHbの比率(Hb/Lt)と共に、板厚tに対する(Hb/Lt)の比率を高めることが望ましく、後述するように発明者が複数の義足用板バネでシミュレーションを行った結果、0.050≦(Hb/Lt)/tとするのが好ましい。
【0025】
次に、以上のように構成される義足用板バネ10の作用効果を説明する。
本発明の効果を検証するため、本発明に係る義足用板バネ(実施例1〜2)と、従来の義足用板バネ(比較例1〜3)とをシミュレーションにより作成した。シミュレーションは、ソリッドワークス社の「SOLID WORKS SIMULATION」を用いた。図7、及び図8は、本発明の実施例1〜2に係る義足用板バネの側面形状をそれぞれ示す図である。また、図9ないし図11は、比較例1〜3に係る義足用板バネの側面形状をそれぞれ示している。実施例1〜2、及び比較例1〜3に係る義足用板バネの、全長Lt、最凸点Pbの高さHb、板厚t、重さm、慣性モーメントMOI、及び(Hb/Lt)/tの値を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
なお、実施例1〜2と、比較例1〜3とでバネ状数を一定とするために、比較例2〜3の板厚tは、実施例1〜2の板厚tを比較例2〜3の接地点より後方部の長さに基づいて補正した値とした。また慣性モーメントMOIは以下の条件で算出した。すなわち、各義足用板バネを基準状態から爪先側に回転させていき、基準状態の先端から70mm後方の点から垂直方向に伸ばした軸線と義足用板バネの直線部との水平距離が、接地面Gから350mm上方の位置において100mmになった状態を、各義足用板バネの固定位置とした。そして、この固定位置において、各義足用板バネを、図6に示す回転軸RAを回転中心として回転させた。
【0028】
表1に示すように、実施例1〜2はいずれも、最凸点Pbの高さHbが150mm以上であり、全長Ltは310mm以下である。一方、比較例1は、全長Ltは実施例1〜2と同じだが、最凸点Pbの高さHbは実施例1〜2に比べて低い。比較例1の慣性モーメントMOIは、実施例1〜2に比べてやや高く、重さmは実施例1〜2に比べてやや重い。
比較例2は、最凸点Pbの高さHbは実施例1〜2に比べて高いが、全長Ltは実施例1〜2に比べて長い。比較例3は、最凸点Pbの高さHbは実施例2よりも高いが、全長Ltは実施例1〜2に比べて長い。比較例2〜3の慣性モーメントMOIは、実施例1〜2に比べて高く、重さmは、実施例1〜2に比べて重い。
【0029】
次に、以上のように作成した実施例1〜2、及び比較例1〜3の義足用板バネの振り易さを検証した。振りやすさの検証は以下の通りに行った。まず、大腿用義足を使用する陸上競技者の甲が、比較例1の義足用板バネを使用して実走した時に得られた各種実データと、当該実データに基づいて算出した算出値とを、マスターデータとして求めた。
【0030】
具体的には、義足用板バネを振出した時の膝継ぎ手の伸展角度Ang、振出し時の平均伸展角速度Vel、及び膝継ぎ手の最大屈曲から最大伸展までの時間(以下「振出し時間」という。)tsを測定した。次に、得られた平均伸展角速度Velと、比較例1の慣性モーメントMOIとに基づいて角運動量Lを算出した。
【0031】
また、甲の実走データより、義足用板バネの蹴り出し歩幅slsと、健側の蹴り出し歩幅slhとをそれぞれ測定し、双方の値を用いて、100mを走行した時の歩数(以下「100m歩数」という。)st100と、100mの走行中に義足用板バネを振出す回数(以下「100m板バネ振出し回数」という。)sn100とを算出した。以上のように得られたデータをマスターデータとした。マスターデータの値を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
そして、甲が、実施例1〜2、及び比較例1〜3の義足用板バネを使用した場合に、マスターデータと同程度膝継ぎ手を伸展させ、同程度の角運動量を発揮していると仮定し、実施例1〜2、及び比較例1〜3のそれぞれについて、慣性モーメントMOIの値に基づいて振出し平均伸展角速度Velを求め、求めた平均伸展角速度Velに基づいて振出し時間tsを算出した。さらに、算出した振出し時間tsと、マスターデータとして算出した100m板バネ振出し回数sn100とより、100mを走行した場合の振出し時間(以下「100m換算ts」という。)ts100を、実施例1〜2、及び比較例1〜3のそれぞれについて算出した。
【0034】
表3に、実施例1〜2、及び比較例1〜3の、平均伸展角速度Vel、振出し時間ts、及び100m換算ts_ts100を示す。
【0035】
【表3】
【0036】
表3に示す振出し時間tsより、実施例1〜2は、比較例1〜3に比べて、1回当たりの膝の伸展において膝下部分を早く振れていることが分かる。また、100mの走行に換算した100m換算ts_ts100の比較においては、実施例1〜2と比較例2〜3との差は顕著に表れていることがわかる。さらに、振出し時間tsの比較で最も差が少ない実施例2と比較例1との対比においても、実際の競技での使用を想定した場合は、100m換算ts_ts100の値で有意な差を生じており、本発明の十分な効果を見出すことができる。
【符号の説明】
【0037】
10 義足用板バネ
11 直線部
12 湾曲部
12a 接地部
12b アーチ部
12c 踵部
12c 円弧状領域
12c 接続領域
【要約】
【課題】膝関節周りの慣性モーメントを低下させることで、膝下の回転性を高めることができ、走行時の板バネの振り易さを向上させることができる義足用板バネを提供する。
【解決手段】湾曲部を備える義足用板バネにおいて、前記湾曲部は、後側に向けて突出する踵部を備え、前記踵部において最も後側に突出する最凸点の高さHbが150mm≦Hbを満たし、前記最凸点と前記湾曲部の前側の最先端点との間の長さLtがLt≦310mmの関係を満たす、ことを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11