【実施例1】
【0028】
実施例1では、稽古用模擬刀1の実施例を
図1から
図4を参照して説明する。
図1は刃紋模様50が表れた稽古用模擬刀1の説明図を示している。
図2(A)図は、稽古用模擬刀1の部分拡大図を示している。
図2(B)図は、
図2(A)図において一点鎖線部で囲われたA部の一部拡大断面を示している。
図3は、稽古用模擬刀の製造工程を説明するフロー図を示している。
図4は、稽古用模擬刀1の刀身の一部拡大写真を示している。
【0029】
まず、稽古用模擬刀1の構成を、
図2を参照して説明する。実施例1の稽古用模擬刀1は、亜鉛ダイキャストからなる刀身10に、中間めっき層をなす銅めっき層20とニッケルめっき層30とを備えさせ、ニッケルめっき層30の膜厚の範囲で刃紋模様50を備えさせている。更に、刃紋模様を備えさせたニッケルめっき層30の表面に、クロムめっき層40からなる仕上げめっき層を備えさせている(
図2(B)図参照)。
【0030】
中間めっき層は、下層をなす銅めっき層20と、上層をなすニッケルめっき層30とからなり、ニッケルめっき層30の膜厚が5μm以上20μm以下とされている。刃紋模様50は、ニッケルめっき層30の厚さの範囲で、F240番の研磨剤を塗布したバフにより、刀身に直線状の曇った刃紋模様を形成させている。研磨剤は、F240番に限定されず、F230番からF360番のバフのいずれでもよい。なお、下層をなす銅めっき層の膜厚は限定されない。
【0031】
クロムめっき層40は、膜厚が1μm以上3μm以下とされ、ニッケルめっき層30の刃紋模様50の部分と刃紋模様以外の部分60の全体を覆うように備えられている(
図2(A)図参照)。クロムめっき層30は、ビッカーズ硬度が800〜900HVと高いため、耐擦傷性に優れ、傷つきにくい。耐擦傷性に優れたクロムめっき層の膜厚が、1μm以上とされるため、刀を鞘に抜き挿しする際に、クロムめっき層に擦り傷がつきにくく、美観に優れた状態のまま維持させることができる。
【0032】
また、汗等により変色・変質されないクロムめっき層が刀身の全体を覆っているため、稽古の際に汗等が刀身に付着しても、刀身が変色されることはなく、刃紋模様の美観が維持される。また、クロムめっき層の膜厚が3μm以下であることにより、刃紋模様が研磨された部分の表面の粗さを変えることなく、輝きの少ない曇った状態の刃紋模様を刀身に備えさせることができる。
【0033】
ここで、稽古用模擬刀1の刀身10と外観について、
図1から
図4を参照して説明する。模擬刀の刀身10(
図2参照)は、亜鉛を含む亜鉛合金を溶融して、日本刀の形状をなす金型に、ダイキャスト鋳造して形成されている。刀身の刃先側には、刃紋模様50が上述したように備えられている(
図1参照)。刃紋模様50の部分は、刀身にあたった光が拡散するように乱反射して輝きの少ない曇った状態となり、刃紋模様以外の部分60は、光がまっすぐに正反射して輝いた状態となっている(
図4参照)。
【0034】
稽古用模擬刀1においては、刃紋模様50の部分と刃紋模様以外の部分60の全体が、表面硬度が大きく、傷つきにくいクロムめっき層40(
図2(B)図参照)により覆われている。そのため、従来の稽古用模擬刀100(
図5参照)と異なり、稽古用模擬刀1の刃紋模様50には筋状の擦り傷ができにくく、美観が損なわれにくい状態となっている。
【0035】
ここで、本発明の稽古用模擬刀1の製造工程を、
図3を参照して説明する。
図3は、稽古用模擬刀の製造工程を説明するフロー図である。
(基材下地処理工程)
まず第1の工程として、基材下地処理がされる(S1)。基材である亜鉛ダイキャストからなる刀身は、研磨材粒度がF600番からF800番の細かい粒子径の研磨剤を塗ったサイザルバフ等を回転させて表面が平滑となるように研磨される。表面が平滑にされた刀身は、アルカリ脱脂、水洗、電解脱脂、水洗、弱酸浸漬、水洗の工程を経て、油分、酸化被膜等が除去される。そして、密着性の低下を防ぐため、シアン化銅ストライクめっきにより薄膜の銅めっき層をする。
【0036】
(銅めっき工程)
次に第2の工程として、表面が平滑にされた刀身の表面に銅めっき層が電気めっきされる(S2)。銅めっきをするには、シアン化銅浴が、均一電着性に優れ、亜鉛ダイキャストの刀身の基材にめっきするのに好適である。シアン化銅浴による銅めっきの浴組成とめっき条件の例を以下に示す。なお、銅めっき層は、基材の表面を平滑化させれば良く、下記の浴組成とめっき条件に限定されず、厚さも限定されない。
【0037】
銅めっき液の浴組成としては、銅めっき水溶液1リットルあたり、シアン化第一銅:50〜60g、シアン化ナトリウム:60〜80g、遊離シアン化ナトリウム:8〜15g、ロダンカリウム:5〜15g、ロッシェル塩:30〜50g、水酸化カリウム:10〜20gとした。また、めっき条件としては、浴温度を50〜70℃、pHを11〜12、電流密度を1〜5A/dm2、めっき浴の時間を5〜15分とした。
【0038】
(ニッケルめっき工程)
次に第3の工程として、銅めっき層に積層されるように、ニッケルめっき層が電気めっきされる(S3)。ニッケルめっきは、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸を主成分とするワット浴によれば、基材との密着性もよく、下地めっきとして好適である。水洗の後、5〜20μmの厚さのめっき膜厚となるようにニッケルめっきがされる。ニッケルめっき層を5μm〜20μmの膜厚とするために必要な浴組成とめっき条件の例を以下に示す。なお、下記の浴組成とめっき条件は例示に過ぎず、限定されない。
【0039】
ニッケルめっき液の浴組成としては、ニッケルめっき水溶液1リットルあたり、硫酸ニッケル:250g、塩化ニッケル:45g、ホウ酸:40gとした。また、めっき条件としては、浴温度を40〜55℃、pHを3.5〜4.5、電流密度を2〜10A/dm
2、めっき浴の時間を10〜30分とした。
【0040】
(刃紋模様形成工程)
次に第4の工程として、ニッケルめっき層の膜厚の範囲で、バフ研磨により刃紋模様を形成させる(S4)。研磨材粒度がF230番からF360番の中から選択された研磨剤を、バフ素材の研磨面に塗布させる。そして研磨面を高速回転させながら、刀身の短手方向にバフを押付けて、刀身の長手方向に沿って移動させるようにして、刀身の刃先側の位置に刃紋模様を形成させる。バフ素材は綿布、サイザル麻布等の材料を基材としたバフを用い、その外周面に前記の研磨剤を貼着又は塗布させる。
【0041】
研磨材を貼着又は塗布させたバフは、回転速度80〜100回/分の範囲で回転させる。実施例1では、刀身の短手方向にバフを回転させて、直線状に曇った刃紋模様を形成させた。なお、通常より遅めに回転させることにより、刀身に沿って波打つように曇った刃紋模様を研磨することも容易である。予め、形成させる刃紋模様の輪郭を表した型板を刀身にあてて、型板から出た部分だけをバフにより研磨して、刃紋模様を形成させてもよい。
【0042】
(クロムめっき工程)
次に第5の工程として、ニッケルめっき層の刃紋模様の部分と刃紋模様以外の部分の全体を覆うように、仕上げめっき層をなすクロムめっき層が電気めっきされる(S5)。刃紋模様が形成された後、脱脂、水洗の工程を経てクロムめっき層がめっきされる。クロムめっき層を1〜3μmの膜厚とするために必要な浴組成とめっき条件の例を以下に示す。なお、下記の浴組成とめっき条件は例示に過ぎず限定されない。
【0043】
クロムめっき液の浴組成としては、クロムめっき水溶液1リットルあたり、クロム酸:100〜150g、硫酸(硫酸成分が98重量%):1.0〜1.5gとした。また、めっき条件としては、浴温度を45〜55℃、pHを0〜1.0、電流密度を10〜30A/dm
2、めっき浴の時間を5〜15分とした。
【0044】
以上の工程により、クロムめっき層が、刃紋模様の部分と刃紋模様以外の部分の全体を覆い、かつ、刃紋模様の部分のクロムめっき層が輝きの少ない曇った状態とされ、刃紋模様以外の部分のクロムめっき層が輝きのある状態とされた稽古用模擬刀が得られた。
【0045】
(その他)
・なお、本発明の稽古用模擬刀を剣道の演武に使用してもよいことは勿論のことであり、刃紋模様の形状が限定されないことも勿論のことである。
・今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記した説明に限られず特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。