特許第6406774号(P6406774)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6406774
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】稽古用模擬刀
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20181004BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20181004BHJP
   C25D 5/14 20060101ALI20181004BHJP
   C25D 5/48 20060101ALI20181004BHJP
   A63B 69/02 20060101ALI20181004BHJP
   F41B 13/02 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   C25D7/00 M
   C25D5/12
   C25D5/14
   C25D5/48
   C25D7/00 T
   A63B69/02 D
   F41B13/02 A
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-120112(P2017-120112)
(22)【出願日】2017年6月20日
【審査請求日】2017年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】395010794
【氏名又は名称】名古屋メッキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143111
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】100189876
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 将晴
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 延之
(72)【発明者】
【氏名】堀田 一男
【審査官】 越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−020075(JP,A)
【文献】 特開昭52−126325(JP,A)
【文献】 特開昭51−062599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00−7/12
A63B 69/02
F41B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
居合の稽古用模擬刀であって、
刀身の形状をなす平滑な基材に、下層をなす銅めっき層と上層をなすニッケルめっき層とからなる中間めっき層と、単層のクロムめっき層からなる仕上げめっき層とを備え、
前記ニッケルめっき層の膜厚が、5μm以上20μm以下の膜厚とされ、
前記刀身の刃先側の前記中間めっき層に、前記ニッケルめっき層の膜厚の範囲で、粗面をなす刃紋模様を備え、
前記仕上げめっき層をなす単層のクロムめっき層は、めっき膜厚が1μm以上3μm以下、かつ、表面硬度がビッカーズ硬度で800HV以上900HV以下とされ、
前記単層のクロムめっき層が、前記刃紋模様の部分と前記刃紋模様以外の部分の全体を覆い、前記刃紋模様の部分を覆うクロムめっき層が、前記刃紋模様の表面の粗さを変えることなく輝きの少ない曇った状態とされ、前記刃紋模様以外の部分を覆うクロムめっき層が輝きのある状態とされている、
ことを特徴とする稽古用模擬刀。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、居合道の稽古に使用する稽古用模擬刀に関する。より詳細には、鞘から抜刀し又は鞘に納める頻度が高い稽古に使用しても、汗等の付着により刀身が変色しにくく、刀身の美観が損なわれにくく且つ傷つきにくい、美観に優れた稽古用模擬刀に関する。
【背景技術】
【0002】
居合道の稽古に使用されている模擬刀には、日本刀と同様の重さと美観を呈する模擬刀が使用されている。具体的には、稽古用模擬刀は、真鍮・銅・アルミニウム等のいずれかを含んだ亜鉛合金を刀身の素材とし、その表面にめっき層が形成されて、刃紋の装飾がされている。
【0003】
模擬刀の装飾性を向上させる技術として、特許文献1には、本物の日本刀と見分けがつかない模擬刀を製造しうるとする製造方法の技術が開示されている。この文献に記載の技術は、平滑に研磨した亜鉛合金の刀身部に、銅層、ニッケル層、クロム層をめっきしてから、研磨により露出させた銅めっき面又は亜鉛合金の地肌を硫化処理により黒帯色させ、つや消し研磨させた下の刃部を第二塩化鉄により若干黒色化させ、更に刃紋部を粗目のつや消し研磨により研ぎ出す工程を有する模擬刀の製造方法の技術とされている。
【0004】
この技術によれば、一旦めっきした刀身のめっき層を、下層の銅層又は亜鉛合金の素地まで露出させるようにしてから、硫化処理とつや消し研磨等により刃紋を形成させているため、装飾性の高い模擬刀とすることができるとされている。しかし、鞘から刀身を素早く抜き・納めるという居合の稽古をする際に、下層の銅層とニッケル層とクロム層との、いずれかの層境の部分が擦れて、めっき層が剥離しやすいという課題があった。また稽古の際の汗等が刀身に付着すると、亜鉛合金が腐食しやすいと共に、後述するようにニッケル層はクロム層よりも変色しやすいため刃紋部の模様も斑になり、装飾性が低下するという課題があった。
【0005】
一方、特許文献2には、凹状模様を刀身部に腐食させて、高い芸術的美感を呈する模擬刀を提供することを課題とした製造方法の技術が開示されている。この文献に記載の技術は、亜鉛合金の刀身部に感光性合成樹脂液を塗布し、模様を形成させた透明材をあてて露光をすることを経て、刀身部に前記模様に対応する凹状模様を腐食形成させてから、銅、ニッケル、クロムめっきをし、更に、刀身部の各部をつや消し研磨させるとしている。
【0006】
特許文献2に記載の技術の工程は、具体的には、刀身に感光性合成樹脂を塗布する塗布工程、露光工程、前記工程により樹脂層に形成させた凹部の位置の刀身を腐食させる工程、凹部の形状を滑らかにする工程を経てから、布バフにより研磨してから銅層、ニッケル層、クロム層がめっきされている。そして、更に刀身部の各部を布バフにより研磨して、刃紋部よりもその他の部分を若干白くして、本物の日本刀に酷似させるとしている。しかし、特許文献2に記載の技術によっても、刃紋部を形成させるために布バフにより研磨する際に、めっき層を損ないやすいという課題があった。
【0007】
3層のめっき層を形成するためには、素材の表面を整えるための銅めっきをした上で、シルバー色のニッケルめっき、更に同一系統色のクロムめっき工程の順にめっきがされている。先のいずれの特許文献に記載の技術も、最上層のクロムめっき層を研磨して模擬刀の刀身とさせている。仮に、刃紋を含む刀身のいずれかの位置で、最上層のクロムめっき層の膜厚を傷つけ、又は損なわせることがあっても、刃紋部とその他の部分とは、下層のニッケルめっき層と上層のクロム層とは同一系統色であるため、ただちに不調和を感じさせることはなかった。
【0008】
ここで、下層のニッケルめっき層のビッカーズ硬度は450〜550HVであり、ビッカーズ硬度が800〜900HVとされる上層のクロムめっき層よりも、表面硬度が小さい。そうすると前記の製造工程のように、刀身の美観を整えるために、上層のクロムめっき層をバフにより研磨しようとすると、その厚さが薄いため、バフの研磨がクロムめっき層の範囲を超えやすく、上層のクロムめっき層を損なった場合には、下層のニッケルめっき層も合わせて傷つけやすいという課題があった。
【0009】
しかも、下層のニッケルめっき層は、上層のクロムめっき層よりも、稽古の際の汗等により変色しやすいという特性がある。そうすると、刀身のバフによる研磨が、下層のニッケルめっき層にも及んでいる場合には、装飾用の模擬刀を稽古に使用しているうちに刀身部に汗等が付着して、ニッケルめっきの部分とクロムめっきの部分とが、斑に変色した状態になりやすいという課題があった。
【0010】
刀身が斑に変色することを避けるために、刀身全体にクリア塗装をすることもされている。しかし、鞘から刀身を素早く抜刀するという居合の稽古の際に、鞘と刀身とを擦らせると塗装面を傷つけ易く、刃紋を傷の無い美しい状態に保つのが困難であるという課題があった。
【0011】
一方、特許文献3には、本願の発明者が開発した刃紋を備えた金めっき模擬刀の技術が開示されている。特許文献3に記載の金めっき模擬刀は、中間めっき層に刃紋を形成させてから、仕上げのめっき層として金めっき層を備えさせている。しかし、金めっき層の表面硬度が小さいため、鞘から抜刀し又は鞘に納める稽古に金めっき層を備えさせた模擬刀を使用すると、金めっき層に擦り傷を付け易く、高い頻度で鞘と摺り合うこととなる稽古用の模擬刀としては、金めっき模擬刀は使用しにくいという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
特許文献1:特開昭51−62599号公報
特許文献2:特開昭52−126325号公報
特許文献3:特開2017−20075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本願の発明者は、居合道の稽古用模擬刀として使用することができ、めっき層が剥離しにくく、耐擦傷性に優れ傷つきにくいと共に、稽古者の汗等が付着しても変色しにくく美観に優れた、刃紋が表れた稽古用模擬刀を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の発明の居合の稽古用模擬刀は、居合の稽古用模擬刀であって、刀身の形状をなす平滑な基材に、下層をなす銅めっき層と上層をなすニッケルめっき層とからなる中間めっき層と、単層のクロムめっき層からなる仕上げめっき層とを備え、前記ニッケルめっき層の膜厚が、5μm以上20μm以下の膜厚とされ、前記刀身の刃先側の前記中間めっき層に、前記ニッケルめっき層の膜厚の範囲で、粗面をなす刃紋模様を備え、前記仕上げめっき層をなす単層のクロムめっき層は、めっき膜厚が1μm以上3μm以下、かつ、表面硬度がビッカーズ硬度で800HV以上900HV以下とされ、前記単層のクロムめっき層が、前記刃紋模様の部分と前記刃紋模様以外の部分の全体を覆い、前記刃紋模様の部分を覆うクロムめっき層が、前記刃紋模様の表面の粗さを変えることなく輝きの少ない曇った状態とされ、前記刃紋模様以外の部分を覆うクロムめっき層が輝きのある状態とされていることを特徴としている。
【0015】
稽古用模擬刀の基材をなす材質は、真鍮・銅・アルミニウム等を含んだ亜鉛合金や樹脂素材等に限定されないが、ダイキャストされた亜鉛合金により刀身を形成させると、模擬刀を日本刀に近い重さのものとすることができる。
【0016】
中間めっき層は、下層をなす銅めっき層と上層をなすニッケルめっき層とからなる。刃紋模様は、外周面に研磨剤を貼着又は塗布させたバフにより研磨させて形成すればよい。バフの素材は綿布、サイザル麻布等の材料を基材とすればよい。クロムめっき層の膜厚は、バフ研磨による粗面の程度に応じて、刃紋模様が輝きの少ない曇った状態とされる範囲において、適宜変更されればよい。
【0017】
中間めっき層をなすめっき層は、下層が延性に優れた銅めっき層とされているため、基材の表面のピンホール等の凹凸が平滑化されている。また、上層がクロムめっき層と同一の色相であるニッケルめっき層とされているため、下層の銅めっき層の色を隠すと共に、仕上げめっき層の表面の色相に影響を及ぼさず好適である。
【0018】
刀身の基材に銅めっき層が備えられ、基材の表面にピンホールがないように平滑にされた上に、ニッケルめっき層が中間めっき層として備えられ、ニッケルめっき層の厚さの範囲で刃紋模様が形成されている。ニッケルめっき層の膜厚は、不要なめっき時間を省けるように20μm以下とされ、銅めっき層を傷つけないで刃紋模様が研磨されやすい5μm以上という膜厚としている。
【0019】
そうすると、ピンホール等により影響されることがなく平滑な刀身とすることができ、刃紋模様を形成させる工程においても、銅めっき層を露出させないようにニッケルめっき層を残すようにして、刃紋模様が形成される。これにより、刃紋模様以外の刀身部分が、平滑で色むらがなく、シルバー色に輝き、その刀身を背景にして、曇った模様の刃紋模様を備えた稽古用模擬刀とされる。
【0020】
単層のクロムめっき層の膜厚が1μm以上であり、かつ、表面硬度がビッカーズ硬度で800HV以上とされていることにより、刃紋模様以外の部分のクロムめっき層を輝きのある状態とさせやすいと共に、鞘に抜き挿しする際に擦り傷をつけにくくなる。また、クロムめっき層の膜厚が3μm以下であることにより、刃紋模様が研磨された部分の表面の粗さを変えることなく、輝きの少ない状態の刃紋模様を刀身に備えさせられる。
【0021】
そうすると、刃紋模様が形成された部分の輝きの少ない状態と、刃紋模様が形成されていない部分の輝いた状態とが、互いに際立つように刀身に備えられた稽古用模擬刀となる。これにより、シルバー色に輝く刀身を背景にして、生きた刃紋模様を備えると共に、耐擦傷性に優れた稽古用模擬刀とすることができる。
【0022】
本発明の第1の発明によれば、仕上げめっき層が、表面硬度が高い単層のクロムめっき層とされているため、稽古用模擬刀を鞘から抜刀する際、又は稽古用模擬刀を鞘に納める際に、稽古用模擬刀の刀身の刃紋模様及び刀身の輝いた面を傷つけにくい。また、中間めっき層の全体を、単層のクロムめっき層が覆っているため、中間めっき層と仕上げめっき層の層境の位置でめっき層が剥離しにくい。更に、素材や中間めっき層の一部が露出されないため、変色しやすい素材や中間めっき層に稽古者の汗が付着することがなく、稽古用模擬刀の刀身を斑に変色させにくいという有利な効果を奏する。
【発明の効果】
【0023】
・本発明の第1の発明によれば、稽古用模擬刀を鞘から抜刀する際、又は稽古用模擬刀を鞘に納める際に、稽古用模擬刀の刀身の刃紋模様及び刀身の輝いた面を傷つけにくい。また、中間めっき層の全体を単層のクロムめっき層が覆っているため、中間めっき層と仕上げめっき層の層境の位置でめっき層が剥離しにくい。更に、素材や中間めっき層の一部が露出されないため、変色しやすい素材や中間めっき層に稽古者の汗が付着することがなく、稽古用模擬刀の刀身を斑に変色させにくいという有利な効果を奏する。刃紋模様以外の刀身部分が、平滑で色むらがなく、シルバー色に輝き、その刀身を背景にして、曇った模様の刃紋模様を備えた稽古用模擬刀とされる。シルバー色に輝く刀身を背景にして、生きた刃紋模様を備えると共に、耐擦傷性に優れた稽古用模擬刀とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】稽古用模擬刀の説明図(実施例1)。
図2】稽古用模擬刀の一部拡大図、及び一部拡大断面図(実施例1)。
図3】稽古用模擬刀の製造工程を説明するフロー図(実施例1)。
図4】稽古用模擬刀の刀身の一部拡大写真(実施例1)。
図5】従来の稽古用模擬刀の一部拡大写真(従来例)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本願の発明は、稽古用模擬刀の刀身をなす中間めっき層に、その膜厚の範囲で、粗面をなす刃紋模様を備えさせると共に、クロムめっき層からなる仕上げめっき層が、刃紋模様の部分と刃紋模様以外の部分の全体を覆うようにした。これにより、居合道の稽古用模擬刀として使用することができ、めっき層が剥離しにくく、耐擦傷性に優れ傷つきにくいと共に、稽古者の汗等が付着しても変色しにくく美観に優れた、刃紋が表れた稽古用模擬刀が得られた。
【0026】
ここで、従来の稽古用模擬刀100について、図5を参照して簡単に説明する。図5は、従来の稽古用模擬刀100の一部拡大写真を示している。従来の稽古用模擬刀100は、上述したように、亜鉛ダイキャストからなる刀身に銅めっき層、ニッケルめっき層、クロムめっき層の順でめっき層が積層されている。そして、刃先側のめっき層を研磨させることにより、刃紋模様150を備えさせている。そのため、刃紋模様150の部分では、最上層のクロムめっき層が研磨・除去されており、傷つきやすいニッケルめっき層が露出された状態となっている。
【0027】
次に、刀身についた擦り傷170について、図5を参照して説明する。従来の稽古用模擬刀100には、刃紋模様150の一部に、二本の筋状の擦り傷170がついている。刃紋模様150と刃紋模様以外の部分160との境に、擦り傷170はつきやすく、擦り傷の修復は困難である。擦り傷は、稽古用模擬刀が鞘と接触する位置にできるため、稽古を繰り返すうちに擦り傷が目立つようになり、稽古用模擬刀の美観が低下する。
【実施例1】
【0028】
実施例1では、稽古用模擬刀1の実施例を図1から図4を参照して説明する。図1は刃紋模様50が表れた稽古用模擬刀1の説明図を示している。図2(A)図は、稽古用模擬刀1の部分拡大図を示している。図2(B)図は、図2(A)図において一点鎖線部で囲われたA部の一部拡大断面を示している。図3は、稽古用模擬刀の製造工程を説明するフロー図を示している。図4は、稽古用模擬刀1の刀身の一部拡大写真を示している。
【0029】
まず、稽古用模擬刀1の構成を、図2を参照して説明する。実施例1の稽古用模擬刀1は、亜鉛ダイキャストからなる刀身10に、中間めっき層をなす銅めっき層20とニッケルめっき層30とを備えさせ、ニッケルめっき層30の膜厚の範囲で刃紋模様50を備えさせている。更に、刃紋模様を備えさせたニッケルめっき層30の表面に、クロムめっき層40からなる仕上げめっき層を備えさせている(図2(B)図参照)。
【0030】
中間めっき層は、下層をなす銅めっき層20と、上層をなすニッケルめっき層30とからなり、ニッケルめっき層30の膜厚が5μm以上20μm以下とされている。刃紋模様50は、ニッケルめっき層30の厚さの範囲で、F240番の研磨剤を塗布したバフにより、刀身に直線状の曇った刃紋模様を形成させている。研磨剤は、F240番に限定されず、F230番からF360番のバフのいずれでもよい。なお、下層をなす銅めっき層の膜厚は限定されない。
【0031】
クロムめっき層40は、膜厚が1μm以上3μm以下とされ、ニッケルめっき層30の刃紋模様50の部分と刃紋模様以外の部分60の全体を覆うように備えられている(図2(A)図参照)。クロムめっき層30は、ビッカーズ硬度が800〜900HVと高いため、耐擦傷性に優れ、傷つきにくい。耐擦傷性に優れたクロムめっき層の膜厚が、1μm以上とされるため、刀を鞘に抜き挿しする際に、クロムめっき層に擦り傷がつきにくく、美観に優れた状態のまま維持させることができる。
【0032】
また、汗等により変色・変質されないクロムめっき層が刀身の全体を覆っているため、稽古の際に汗等が刀身に付着しても、刀身が変色されることはなく、刃紋模様の美観が維持される。また、クロムめっき層の膜厚が3μm以下であることにより、刃紋模様が研磨された部分の表面の粗さを変えることなく、輝きの少ない曇った状態の刃紋模様を刀身に備えさせることができる。
【0033】
ここで、稽古用模擬刀1の刀身10と外観について、図1から図4を参照して説明する。模擬刀の刀身10(図2参照)は、亜鉛を含む亜鉛合金を溶融して、日本刀の形状をなす金型に、ダイキャスト鋳造して形成されている。刀身の刃先側には、刃紋模様50が上述したように備えられている(図1参照)。刃紋模様50の部分は、刀身にあたった光が拡散するように乱反射して輝きの少ない曇った状態となり、刃紋模様以外の部分60は、光がまっすぐに正反射して輝いた状態となっている(図4参照)。
【0034】
稽古用模擬刀1においては、刃紋模様50の部分と刃紋模様以外の部分60の全体が、表面硬度が大きく、傷つきにくいクロムめっき層40(図2(B)図参照)により覆われている。そのため、従来の稽古用模擬刀100(図5参照)と異なり、稽古用模擬刀1の刃紋模様50には筋状の擦り傷ができにくく、美観が損なわれにくい状態となっている。
【0035】
ここで、本発明の稽古用模擬刀1の製造工程を、図3を参照して説明する。図3は、稽古用模擬刀の製造工程を説明するフロー図である。
(基材下地処理工程)
まず第1の工程として、基材下地処理がされる(S1)。基材である亜鉛ダイキャストからなる刀身は、研磨材粒度がF600番からF800番の細かい粒子径の研磨剤を塗ったサイザルバフ等を回転させて表面が平滑となるように研磨される。表面が平滑にされた刀身は、アルカリ脱脂、水洗、電解脱脂、水洗、弱酸浸漬、水洗の工程を経て、油分、酸化被膜等が除去される。そして、密着性の低下を防ぐため、シアン化銅ストライクめっきにより薄膜の銅めっき層をする。
【0036】
(銅めっき工程)
次に第2の工程として、表面が平滑にされた刀身の表面に銅めっき層が電気めっきされる(S2)。銅めっきをするには、シアン化銅浴が、均一電着性に優れ、亜鉛ダイキャストの刀身の基材にめっきするのに好適である。シアン化銅浴による銅めっきの浴組成とめっき条件の例を以下に示す。なお、銅めっき層は、基材の表面を平滑化させれば良く、下記の浴組成とめっき条件に限定されず、厚さも限定されない。
【0037】
銅めっき液の浴組成としては、銅めっき水溶液1リットルあたり、シアン化第一銅:50〜60g、シアン化ナトリウム:60〜80g、遊離シアン化ナトリウム:8〜15g、ロダンカリウム:5〜15g、ロッシェル塩:30〜50g、水酸化カリウム:10〜20gとした。また、めっき条件としては、浴温度を50〜70℃、pHを11〜12、電流密度を1〜5A/dm2、めっき浴の時間を5〜15分とした。
【0038】
(ニッケルめっき工程)
次に第3の工程として、銅めっき層に積層されるように、ニッケルめっき層が電気めっきされる(S3)。ニッケルめっきは、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸を主成分とするワット浴によれば、基材との密着性もよく、下地めっきとして好適である。水洗の後、5〜20μmの厚さのめっき膜厚となるようにニッケルめっきがされる。ニッケルめっき層を5μm〜20μmの膜厚とするために必要な浴組成とめっき条件の例を以下に示す。なお、下記の浴組成とめっき条件は例示に過ぎず、限定されない。
【0039】
ニッケルめっき液の浴組成としては、ニッケルめっき水溶液1リットルあたり、硫酸ニッケル:250g、塩化ニッケル:45g、ホウ酸:40gとした。また、めっき条件としては、浴温度を40〜55℃、pHを3.5〜4.5、電流密度を2〜10A/dm、めっき浴の時間を10〜30分とした。
【0040】
(刃紋模様形成工程)
次に第4の工程として、ニッケルめっき層の膜厚の範囲で、バフ研磨により刃紋模様を形成させる(S4)。研磨材粒度がF230番からF360番の中から選択された研磨剤を、バフ素材の研磨面に塗布させる。そして研磨面を高速回転させながら、刀身の短手方向にバフを押付けて、刀身の長手方向に沿って移動させるようにして、刀身の刃先側の位置に刃紋模様を形成させる。バフ素材は綿布、サイザル麻布等の材料を基材としたバフを用い、その外周面に前記の研磨剤を貼着又は塗布させる。
【0041】
研磨材を貼着又は塗布させたバフは、回転速度80〜100回/分の範囲で回転させる。実施例1では、刀身の短手方向にバフを回転させて、直線状に曇った刃紋模様を形成させた。なお、通常より遅めに回転させることにより、刀身に沿って波打つように曇った刃紋模様を研磨することも容易である。予め、形成させる刃紋模様の輪郭を表した型板を刀身にあてて、型板から出た部分だけをバフにより研磨して、刃紋模様を形成させてもよい。
【0042】
(クロムめっき工程)
次に第5の工程として、ニッケルめっき層の刃紋模様の部分と刃紋模様以外の部分の全体を覆うように、仕上げめっき層をなすクロムめっき層が電気めっきされる(S5)。刃紋模様が形成された後、脱脂、水洗の工程を経てクロムめっき層がめっきされる。クロムめっき層を1〜3μmの膜厚とするために必要な浴組成とめっき条件の例を以下に示す。なお、下記の浴組成とめっき条件は例示に過ぎず限定されない。
【0043】
クロムめっき液の浴組成としては、クロムめっき水溶液1リットルあたり、クロム酸:100〜150g、硫酸(硫酸成分が98重量%):1.0〜1.5gとした。また、めっき条件としては、浴温度を45〜55℃、pHを0〜1.0、電流密度を10〜30A/dm、めっき浴の時間を5〜15分とした。
【0044】
以上の工程により、クロムめっき層が、刃紋模様の部分と刃紋模様以外の部分の全体を覆い、かつ、刃紋模様の部分のクロムめっき層が輝きの少ない曇った状態とされ、刃紋模様以外の部分のクロムめっき層が輝きのある状態とされた稽古用模擬刀が得られた。
【0045】
(その他)
・なお、本発明の稽古用模擬刀を剣道の演武に使用してもよいことは勿論のことであり、刃紋模様の形状が限定されないことも勿論のことである。
・今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記した説明に限られず特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0046】
1…稽古用模擬刀、100…従来の稽古用模擬刀、
10…刀身、20…銅めっき層、30…ニッケルめっき層、40…クロムめっき層、
50…刃紋模様、60…刃紋模様以外の部分、
150…刃紋模様、160…刃紋模様以外の部分、170…擦り傷
【要約】      (修正有)
【課題】居合道の稽古用模擬刀として使用することができ、めっき層が剥離しにくく、耐擦傷性に優れ傷つきにくいと共に、稽古者の汗等が付着しても変色しにくく美観に優れた、刃紋が表れた稽古用模擬刀を提供する。
【解決手段】稽古用模擬刀1の刀身10をなす中間めっき層20,30に、その膜厚の範囲で、粗面をなす刃紋模様50を備えさせると共に、クロムめっき層からなる仕上げめっき層40で、刃紋模様の部分50と刃紋模様以外の部分60の全体を覆う稽古用模擬刀1。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5