(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の基準面の位置決め方法によると、チャックの基準面の位置精度が、良品のワークの寸法精度に依存してしまう。また、例えば製造物が試作品の場合など、そもそも良品のワーク自体が存在しない場合がある。そこで、本発明は、ワークを用いずにチャックの基準面の位置を決定可能なチャック、および当該チャックを用いた基準面の位置決め方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記課題を解決するため、本発明のチャックは、自身の軸周りに回転可能なチャック本体と、所定の基準点と該基準点からの距離が規定された規定面とを有する治具に基づいて、該チャック本体の回転中心に対する位置を調整可能な基準面を有する調整部材と、を備え、該チャック本体にワークを取り付ける前に、該調整部材を該チャック本体と該治具との間に介在させ、該規定面と該基準面とを当接させ、該基準点と該回転中心とが一致するように該調整部材の径方向長さを調整することにより、該回転中心に対する該基準面の位置を調整し、該基準面を基準に該チャック本体に対する該ワークの取付位置を決定することを特徴とする。
【0007】
チャックは、チャック本体と調整部材とを備えている。調整部材は、基準面(チャックの径方向の基準面)を備えている。基準面は、チャックに対するワークの径方向の取付位置の基準となる。当該基準面の位置(チャック本体の回転中心に対する基準面の径方向の位置)は、治具により、調整可能である。
【0008】
具体的には、ワークをチャックに取り付ける前に、調整部材を、チャック本体と、治具と、の間に介在させる。この際、治具の規定面と、調整部材の基準面と、を当接させる。そして、治具の基準点と、チャック本体の回転中心と、が一致するように、調整部材の径方向長さを調整する。
【0009】
ここで、治具の基準点から規定面までの距離は、規定されている。すなわち、治具の基準点から規定面までの距離は、ワークの回転中心(チャック本体の回転中心)からワークの対向面(ワークをチャックに取り付けた際に調整部材の基準面に対向する面)までの理想的な距離を考慮して、設定されている。
【0010】
このため、治具の規定面と調整部材の基準面とを当接させた状態で、治具の基準点とチャック本体の回転中心とが一致するように、調整部材の径方向長さを調整すれば、基準面の位置を、理想的な位置に設定することができる。
【0011】
このように、本発明のチャックによると、調整部材の基準面の位置を、治具により、厳格に管理することができる。このため、ワークの加工精度が向上する。また、基準面の位置を決定する際に、実際にワークをチャックに取り付ける必要がない。このため、基準面の位置精度が、ワークの寸法精度に依存しない。また、良品のワークが存在しない場合であっても、精度よく、基準面を設定することができる。また、基準面の位置を決定する際にワークをチャックに取り付ける必要がないため、ワークとチャックとの干渉が発生しない。したがって、チャックに不具合が発生しにくい。
【0012】
(2)上記(1)の構成において、前記治具は、真円状の凹部を有し、前記基準点は、該凹部の径方向中心である構成とする方がよい。本構成によると、真円状の凹部に測定工具(例えばダイヤルゲージ)を当接させた状態でチャック本体を自身の軸周りに回転させる(または揺動させる)ことにより、チャック本体の回転中心に対する凹部の径方向中心のずれ量(径方向のずれ量)を、簡単に測定することができる。そして、当該ずれ量が0になるように(チャック本体の回転中心と凹部の径方向中心とが一致するように)調整部材の径方向長さを調整することにより、回転中心に対する基準面の位置を調整することができる。
【0013】
(3)上記(1)または(2)の構成において、前記調整部材は、前記チャック本体に取り付けられ、自身の径方向長さを調整可能なスペーサと、前記基準面を有し該スペーサに並置される当て金と、を有する構成とする方がよい。本構成によると、基準面の位置を決定する際に、当て金の径方向長さを調整する必要がない。このため、作業が簡単である。また、基準面に不具合が生じにくい。
【0014】
また、同種のスペーサ(新品時、同じ径方向長さのスペーサ)を複数用意しておけば、共通の当て金に対して、消耗したスペーサを、新品のスペーサに、交換することができる。また、異種のスペーサ(新品時、異なる径方向長さのスペーサ)を複数用意しておけば、ワークの種類(ワークの回転中心から対向面までの距離)に応じて、共通の当て金に対してスペーサを自在に交換することができる。
【0015】
(4)上記(1)ないし(3)のいずれかの構成において、前記治具は、前記基準点を軸方向に貫通する貫通孔を有し、該貫通孔に挿通され前記チャック本体の前記回転中心に固定され、該チャック本体に対する該治具の取付位置を調整可能な固定部材により、該治具は該チャック本体に取り付けられる構成とする方がよい。
【0016】
本構成によると、固定部材がチャック本体の回転中心に固定された状態で、チャック本体に対する治具の取付位置を調整することができる。このため、治具の基準点とチャック本体の回転中心とを一致させる作業を、簡単に行うことができる。
【0017】
(4−1)上記(4)の構成において、前記貫通孔は、前記規定面の法線方向に延在し、前記固定部材を相対的に該法線方向に案内するガイド孔である構成とする方がよい。本構成によると、ガイド孔に対して、固定部材を、規定面の法線方向に沿って移動させることができる。すなわち、固定部材つまりチャック本体に対して、ガイド孔つまり治具を、規定面の法線方向に沿って移動させることができる。このため、治具を移動させる際、治具が、規定面の法線方向に対して交差する方向に、がたつきにくい。したがって、治具の基準点とチャック本体の回転中心とを一致させる作業を、簡単に行うことができる。
【0018】
(5)上記課題を解決するため、本発明の基準面の位置決め方法は、上記(1)ないし(4)のいずれかのチャックを用いた基準面の位置決め方法であって、前記チャック本体に前記治具と前記調整部材とを取り付けると共に、前記規定面と前記基準面とを当接させる取付工程と、該チャック本体の前記回転中心に対する該治具の前記基準点のずれ量を測定する測定工程と、該ずれ量が小さくなるように、該調整部材の径方向長さを調整する調整工程と、を有することを特徴とする。
【0019】
本発明の基準面の位置決め方法は、取付工程と測定工程と調整工程とを有している。取付工程においては、チャック本体に治具を取り付ける。並びに、チャック本体に調整部材を取り付ける。また、治具の規定面と、調整部材の基準面と、を当接させる。測定方向においては、チャック本体の回転中心に対する治具の基準点のずれ量(径方向のずれ量)を測定する。調整工程においては、測定したずれ量が小さくなるように、調整部材の径方向長さを調整する。
【0020】
上記(1)に記載したように、治具の基準点から規定面までの距離は、規定されている。すなわち、治具の基準点から規定面までの距離は、ワークの回転中心からワークの対向面までの理想的な距離を考慮して、設定されている。
【0021】
このため、チャック本体の回転中心に対する治具の基準点のずれ量が0になるまで測定工程と調整工程とを繰り返し実行することにより(勿論、各工程1回ずつでもよい)、基準面の位置を、理想的な位置に設定することができる。
【0022】
このように、本発明の基準面の位置決め方法によると、調整部材の基準面の位置を、治具により、厳格に管理することができる。このため、ワークの加工精度が向上する。また、基準面の位置を決定する際に、実際にワークをチャックに取り付ける必要がない。このため、基準面の位置精度が、ワークの寸法精度に依存しない。また、良品のワークが存在しない場合であっても、精度よく、基準面を設定することができる。また、基準面の位置を決定する際にワークをチャックに取り付ける必要がないため、ワークとチャックとの干渉が発生しない。したがって、チャックに不具合が発生しにくい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、ワークを用いずにチャックの基準面の位置を決定可能なチャック、および当該チャックを用いた基準面の位置決め方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のチャックおよび基準面の位置決め方法の実施の形態について説明する。本実施形態のチャックは、旋盤の主軸台に配置されている。以下に示す図面において、左右方向は、旋盤の主軸方向に対応している。並びに、左右方向は、本発明の「軸方向」に対応している。また、軸方向に対して直交する方向(上下方向)は、本発明の「径方向」に対応している。
【0026】
<チャックの構成>
まず、本実施形態のチャックの構成について説明する。
図1に、本実施形態のチャックの右面図(正面図)を示す。
図1に示すように、主軸台8の右端面には、チャック1が配置されている。チャック1は、チャック本体2と調整部材3とを備えている。
【0027】
[チャック本体2]
チャック本体2は、回転中心A1の軸周りに回転可能である。チャック本体2は、三つの爪20と、ブラケット21と、固定凹部22と、を備えている。三つの爪20は、チャック本体2の右端面に配置されている。三つの爪20は、右側から見て、チャック本体2の回転中心A1を中心に、120°ずつ離間して配置されている。三つの爪20は、径方向に拡縮可能である。三つの爪20は、ワークWを把持、解放可能である。
【0028】
三つの爪20がワークWを把持した状態において、ワークWの左端面(図略)は、チャック本体2の軸方向の基準面(図略)に当接している。また、ワークWの対向面F1と、チャック本体2の径方向の基準面F2と、の間には、隙間C1(
図1においては、説明の便宜上、強調して示す。)が確保されている。径方向の基準面F2は、本発明の「基準面」の概念に含まれる。隙間C1は、チャック本体2の寸法精度(例えば、後述する回転中心A1に対する固定凹部22の位置ずれなど)、調整部材3の寸法精度、さらにはチャック1に取り付けるワークWの寸法のばらつきなどを吸収するために、設定されている。
【0029】
ブラケット21は、三つの爪20のうち、下側の爪20を跨いで、チャック本体2の右端面に配置されている。ブラケット21は、第一当接面F3を備えている。第一当接面F3は、上向き(径方向内側向き)の平面状を呈している。第一当接面F3は、水平方向(回転中心A1を中心とする円の接線方向および軸方向)に延在している。固定凹部22は、チャック本体2の右端面に凹設されている。固定凹部22は、チャック本体2の回転中心A1に配置されている。
【0030】
[調整部材3]
調整部材3は、ブラケット21に着脱可能に取り付けられている。調整部材3は、スペーサ30と当て金31とを備えている。スペーサ30は、第一当接面F3の上側(径方向内側)に配置されている。スペーサ30は、切削可能である。このため、スペーサ30の上下方向肉厚(径方向長さ)は、小さくすることができる。スペーサ30は、直方体状を呈している。スペーサ30は、第二当接面F4と第三当接面F5とを備えている。第二当接面F4は、下向き(径方向外側向き)の平面状を呈している。第二当接面F4は、水平方向に延在している。第二当接面F4は、第一当接面F3に面接触している。第三当接面F5は、上向きの平面状を呈している。第三当接面F5は、水平方向に延在している。第三当接面F5は、第二当接面F4と互いに平行である。
【0031】
当て金31は、第三当接面F5の上側に積層されている。当て金31は、直方体状を呈している。当て金31は、第四当接面F6と、二つの基準面F2と、位置決め凹部310と、を備えている。第四当接面F6は、下向きの平面状を呈している。第四当接面F6は、水平方向に延在している。第四当接面F6は、第三当接面F5に面接触している。基準面F2は、上向きの平面状を呈している。基準面F2は、水平方向に延在している。基準面F2は、第四当接面F6と互いに平行である。位置決め凹部310は、二つの基準面F2の前後方向中央に配置されている。
【0032】
<治具の構成>
次に、本実施形態の治具の構成について説明する。
図2に、本実施形態のチャックに取付可能な治具の右面図(正面図)を示す。
図3に、
図2のIII−III方向断面図を示す。治具5は、ワークWがチャック本体2に取り付けられる前に、チャック本体2に着脱可能に取り付けられている。
図2、
図3に示すように、治具5は、正方形板状を呈している。治具5は、凹部50と、二つの規定面F7と、位置決め凸部51と、ガイド孔52と、を備えている。ガイド孔52は、本発明の「貫通孔」の概念に含まれる。
【0033】
凹部50は、治具5の右面に配置されている。凹部50は、右側から見て真円状を呈している。すなわち、凹部50の内周面は、真円状を呈している。規定面F7は、下向きの平面状を呈している。規定面F7は、水平方向に延在している。後述する基準面の位置決め方法において、二つの規定面F7は、二つの基準面F2に面接触している。位置決め凸部51は、二つの規定面F7の前後方向中央に配置されている。後述する基準面の位置決め方法において、位置決め凸部51は、位置決め凹部310に収容されている。ガイド孔52は、上下方向(規定面F7の法線方向)に延在する長孔状を呈している。
【0034】
凹部50の径方向中心A2から規定面F7までの上下方向の距離L1は、ワークWの径方向中心A3(
図1に示すチャック本体2の回転中心A1)から対向面F1までの上下方向の距離L2と、
図1に示す上下方向の隙間C1と、の和に等しくなるように、管理されている。すなわち、「L1=L2+C1」となるように、距離L1は設定されている。
【0035】
<基準面の位置決め方法>
次に、本実施形態のチャック1、治具5、後述するボルトを用いた基準面F2の位置決め方法について説明する。基準面F2の位置決め方法は、取付工程と、測定工程と、調整工程と、を有している。
図4に、取付工程前における本実施形態のチャックの右面図を示す。
図5に、同工程後における同チャックの右面図を示す。
図6に、測定工程における同チャックの前面図を示す。
図7に、同工程における治具の回転軌跡の模式図を示す。
図8に、調整工程後における同チャックの前面図を示す。
【0036】
[取付工程]
図4、
図5に示すように、本工程においては、チャック本体2に、治具5と、調整部材3と、を取り付ける。まず、ブラケット21に調整部材3を取り付ける。この際、ブラケット21の第一当接面F3に、スペーサ30の第二当接面F4を、面接触させる。次に、チャック本体2に、治具5を取り付ける。具体的には、六角レンチの係合凹部付きのボルト4を、治具5のガイド孔52に挿通する。そして、六角レンチ(図略)を用いて、ボルト4を、チャック本体2の固定凹部22に螺着する。ボルト4は、本発明の「固定部材」の概念に含まれる。
【0037】
ボルト4を締めることにより、チャック本体2に対して、治具5を、仮固定することができる。一方、ボルト4を緩めることにより、チャック本体2に対して、治具5を、ガイド孔52に沿って、上下方向にスライドさせることができる。
【0038】
本工程においては、ボルト4を緩めて、調整部材3の基準面F2に、治具5の規定面F7を、面接触させる。並びに、後述する
図6に示すように、チャック本体2の軸方向の基準面F8に、治具5の左端面を、面接触させる。そして、ボルト4を締めることにより、チャック本体2に対して治具5を仮固定する。なお、位置決め凸部51は、位置決め凹部310に収容される。
【0039】
ここで、調整部材3のスペーサ30には、予め、上下方向の削り代(取り代)が設定されている。このため、基準面F2に規定面F7を面接触させると、チャック本体2の回転中心A1に対して、治具5の凹部50の径方向中心A2は、ずれ量δaだけ、上側にずれることになる。
【0040】
[測定工程]
図6、
図7に示すように、本工程においては、ずれ量δaを測定する。具体的には、
図3に示すように、ダイヤルゲージ9の測定子90を、凹部50の内周面(被測定面)の任意の測定位置B1(例えば、内周面の下端位置)に当接させ、チャック本体2つまり主軸台8を、回転中心A1の軸周りに回転させる。測定位置B1の振れ量δb(最高位置と最低位置との差)の半分が、ずれ量δaに相当する。すなわち、「δa=δb/2」の関係が成立する。
【0041】
[調整工程]
図5、
図6、
図8に示すように、本工程においては、ずれ量δaの分だけ、スペーサ30を切削する。すなわち、スペーサ30の上下方向肉厚を小さくする。ただし、切削後においても、第二当接面F4と第三当接面F5とを互いに平行にする。
【0042】
具体的には、まず、ボルト4を緩めて、治具5の規定面F7に対して、調整部材3の基準面F2を、離間可能な状態にする。次に、ブラケット21から調整部材3を取り外す。続いて、調整部材3を、スペーサ30と当て金31とに分解する。それから、ずれ量δaの分だけ、スペーサ30を切削する。そして、再度、調整部材3を組み立て、ブラケット21に調整部材3を取り付ける。並びに、規定面F7に基準面F2を面接触させ、ボルト4を締める。
【0043】
その後、再度、測定工程を実行し、振れ量δb(つまり、ずれ量δa)を測定する。振れ量δbが0であれば、チャック本体2の回転中心A1と、治具5の凹部50の径方向中心A2と、は一致している。
【0044】
ここで、
図2に示すように、凹部50の径方向中心A2から規定面F7までの上下方向の距離L1は、ワークWの径方向中心A3(
図1に示すチャック本体2の回転中心A1)から対向面F1までの上下方向の距離L2と、
図1に示す上下方向の隙間C1と、の和に等しくなるように、管理されている。すなわち、「L1=L2+C1」となるように、距離L1は設定されている。
【0045】
このため、再度の測定工程において振れ量δbが0になれば、言い換えると回転中心A1と径方向中心A2とが一致すれば、規定面F7に面接触する基準面F2は、ワークWにとって、理想的な位置に設定されていることになる。この場合は、基準面F2の位置決め方法を終了する。一方、再度の測定工程の1回目で振れ量δbが0にならない場合は、振れ量δbが0になるまで、測定工程と調整工程とを繰り返し実行する。
【0046】
最後に、固定凹部22からボルト4を抜き、チャック本体2から治具5を取り外す。そして、軸方向の基準面F8、径方向の基準面F2を基準に、チャック1にワークWを取り付ける。
【0047】
<作用効果>
次に、本実施形態のチャックおよび基準面の位置決め方法の作用効果について説明する。本実施形態によると、
図4、
図5に示すように、取付工程において、調整部材3を、チャック本体2と治具5との間に介在させている。並びに、治具5の規定面F7と、調整部材3の基準面F2と、を当接させている。そして、
図5〜
図8に示すように、測定工程、調整工程において、治具5の径方向中心A2と、チャック本体2の回転中心A1と、が一致するように、調整部材3の径方向長さを調整している。
【0048】
ここで、
図2に示すように、治具5の径方向中心A2から規定面F7までの距離L1は、規定されている。すなわち、距離L1は、ワークWの径方向中心A3(チャック本体2の回転中心A1)から対向面F1までの理想的な距離L2を考慮して、設定されている。具体的には、距離L1は、距離L2に、隙間C1を加味して、設定されている。
【0049】
このため、
図8に示すように、規定面F7と基準面F2とを当接させた状態で、径方向中心A2と回転中心A1とが一致するように、調整部材3の径方向長さを調整すれば、基準面F2の位置を、理想的な位置に設定することができる。
【0050】
このように、本実施形態によると、調整部材3の基準面F2の位置を、治具5により、厳格に管理することができる。このため、ワークWの加工精度が向上する。また、基準面F2の位置を決定する際に、実際にワークWをチャック1に取り付ける必要がない。このため、基準面F2の位置精度が、ワークWの寸法精度に依存しない。また、良品のワークWが存在しない場合であっても、精度よく、基準面F2を設定することができる。
【0051】
また、例えば、基準面F2を設定するために、まずワークWをチャック1に取り付け、次にワークWとチャック1の基準面F2との隙間に見合うようなスペーサを作製し、それからワークWをチャック1から取り外し、最後にチャック1にスペーサ、ワークWを取り付ける場合を想定する。この場合、スペーサの厚さを見誤ると(スペーサの厚さが隙間幅より過度に大きいと)、ワークWを把持する際、三つの爪20や基準面F2を支えるブラケット21に想定外の力が加わることで、チャック1に不具合が発生することが考えられる。この点、本実施形態によると、基準面F2の位置を決定する際にワークWをチャック1に取り付ける必要がない。このため、ワークWとチャック1との干渉が発生しない。したがって、チャック1に不具合が発生しにくい。
【0052】
また、
図2に示すように、治具5は、真円状の凹部50を有している。このため、
図3に示すように、凹部50の内周面にダイヤルゲージ9の測定子90を当接させた状態でチャック本体2を回転させる(または揺動させる)ことにより、
図5〜
図7に示すように、回転中心A1に対する径方向中心A2のずれ量δaを、簡単に測定することができる。そして、
図8に示すように、当該ずれ量δaが0になるように調整部材3の径方向長さを調整することにより、回転中心A1に対する基準面F2の位置を調整することができる。
【0053】
また、
図1に示すように、調整部材3は、スペーサ30と当て金31とを備えている。このため、基準面F2の位置を決定する際に、当て金31の径方向長さを調整する必要がない。このため、作業が簡単である。また、当て金31を加工する必要がないため、基準面F2に不具合が生じにくい。
【0054】
また、同種のスペーサ30(新品時、同じ径方向長さのスペーサ30)を複数用意しておけば、共通の当て金31に対して、消耗したスペーサ30を、新品のスペーサ30に、交換することができる。また、異種のスペーサ30(新品時、異なる径方向長さのスペーサ30)を複数用意しておけば、ワークWの種類(ワークWの径方向中心A3から対向面F1までの距離L2)に応じて、共通の当て金31に対してスペーサ30を自在に交換することができる。
【0055】
また、
図6に示すように、治具5は、ボルト4により、チャック本体2に取り付けられている。このため、ボルト4がチャック本体2の回転中心A1に固定された状態で、チャック本体2に対する治具5の取付位置を調整することができる。このため、径方向中心A2と回転中心A1とを一致させる作業を、簡単に行うことができる。
【0056】
また、
図2に示すように、ガイド孔52は、規定面F7の法線方向(上下方向)に延在している。また、ガイド孔52は、ボルト4を、相対的に法線方向に案内可能である。このため、チャック本体2に対して、治具5を、規定面F7の法線方向に沿って移動させることができる。したがって、治具5を移動させる際、治具5が、規定面F7の法線方向に対して交差する方向(前後方向)に、がたつきにくい。よって、径方向中心A2と回転中心A1とを一致させる作業を、簡単に行うことができる。また、ガイド孔52が上下方向に延在しているため、治具5を移動させる際に、治具5の自重を利用することができる。
【0057】
また、
図8に示すように、第一当接面F3、第二当接面F4、第三当接面F5、第四当接面F6、二つの基準面F2、二つの規定面F7は、平行である。また、
図5に示すように、スペーサ30を切削する場合は、第二当接面F4および第三当接面F5のうち、いずれか片方を切削すればよい。このため、第一当接面F3に対して、二つの基準面F2を、平行にしやすい。
【0058】
また、
図5に示すように、スペーサ30には、予め、上下方向の削り代が設定されている。すなわち、初回の測定工程後において、理想的な位置に対して基準面F2が常に上側(径方向内側)にずれるように、スペーサ30の上下方向長さは設定されている。このため、調整工程において、スペーサ30の上下方向長さを、大きくする必要がない。すなわち、調整工程においては、スペーサ30を切削するだけでよい。このため、スペーサ30の上下方向長さの微調整が簡単である。
【0059】
また、
図5に示すように、取付工程において、治具5の位置決め凸部51は、調整部材3の位置決め凹部310に収容される。このため、調整部材3に対して、治具5が、前後方向(周方向)にずれにくい。
【0060】
<その他>
以上、本発明のチャックおよび基準面の位置決め方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0061】
図9に、その他の実施形態(その1)のチャックの右面図を示す。なお、
図1と対応する部位については、同じ符号で示す。また、チャック1の爪は省略する。
図9に示すように、単一のチャック1に、複数の調整部材3を配置してもよい。そして、複数方向(上下方向、前後方向)の基準面F2の位置決めを行ってもよい。なお、この場合、治具5は、複数方向(上下方向、前後方向)の規定面F7を備えることになる。このため、ガイド孔52(
図2参照。ただし、ガイド孔52の形状は、ボルト4の軸部の外径よりも大径の真円状)に対してボルト4は、上下前後方向に移動可能である。
【0062】
図10に、その他の実施形態(その2)のチャックの調整部材および治具の右面図を示す。なお、
図1と対応する部位については、同じ符号で示す。
図10に示すように、スペーサ30は、複数の三角形板状の楔部材300を備えていてもよい。こうすると、楔部材300を前後方向(基準面F2の位置調整方向に対して直交する方向)にスライドさせることにより、基準面F2の位置を、上下方向に調整することができる。
【0063】
調整部材3の径方向長さの調整方法は特に限定しない。径方向長さを小さくする場合は、例えば、調整部材3に、切削加工、研削加工、研磨加工などを施せばよい。反対に、調整部材3の径方向長さを大きくする場合は、例えば、調整部材3に、所望の径方向長さのスペーサ30を、追加配置すればよい。
【0064】
図2に示す治具5のガイド孔52の形状、大きさは特に限定しない。ガイド孔52に対して、ボルト4が、基準面F2の位置調整方向に、移動可能であればよい。
図3に示す測定工具(ダイヤルゲージ9)の種類は特に限定しない。
図5、
図6に示す、ずれ量δaを、直接あるいは間接的に、測定できればよい。
【0065】
図6に示す固定部材(ボルト4)の種類は特に限定しない。チャック本体2に対して、治具5を、取り付けられればよい。例えば、クリップなどでもよい。また、チャック本体2に対して、治具5を、磁気吸引力を利用して取り付けてもよい。
【0066】
また、
図1、
図2に示す隙間C1は、設定しなくてもよい。すなわち、「C1=0」であってもよい。この場合は、凹部50の径方向中心A2から規定面F7までの上下方向の距離L1を、ワークWの径方向中心A3から対向面F1までの上下方向の距離L2に等しくなるように、管理すればよい。すなわち、「L1=L2」となるように、距離L1を設定すればよい。
【0067】
また、
図4、
図5に示す取付工程における、チャック本体2に対する治具5、調整部材3の取付順序は特に限定しない。また、当該取付作業と、規定面F7と基準面F2との当接作業と、の順序も特に限定しない。
【0068】
また、チャック1の種類は特に限定しない。例えば、スクロールチャック、インデペンデントチャック、コレットチャック、マグネットチャック、真空チャックなどであってもよい。また、チャック1が用いられる工作機械の種類も特に限定しない。なお、基準面F2の位置決めに用いる部材(例えば、チャック1、ボルト4、治具5など)を、位置決め機構と総称してもよい。