(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
図9に示す靴紐巻取装置300は、本件出願人が提案したものであって、操作用ハンドル部301にて回転駆動され、靴紐を巻き取るためのリール302と、当該リール302の回転を規制するラチェット爪303と、前記リール302を収納する略有底円筒体からなり、その内周面に前記ラチェット爪303が係合する複数の歯からなる環状ギヤを形成したベース部材304とからなる靴紐巻取システムを備えた靴紐巻取装置300である。
この靴紐巻取装置300の取付構造においては、前記ベース部材304の下部に一体成形したフランジ305を靴に直接縫い付けることで、靴紐巻取装置300を靴に取り付けるようにしている(特許文献1、2)。
【0003】
他の出願人による靴紐巻取システムを有する靴紐巻取装置の取付構造としては、特許文献3に記載されている発明がある。
この靴紐巻取装置においても、環状ギヤを形成したベース部材に一体成形したフランジを設け、そのフランジを靴に直接縫い付けることで、靴紐巻取装置を靴に取り付けている。
そして、本発明は、特に上記のような靴紐巻取システムを有する靴紐巻取装置の取付構造を改良した靴紐巻取装置の取付構造に関するものである。
【0004】
一方、特許文献4に記載されている靴紐巻取装置は、上記のような靴紐巻取システムを採用しているものではなく、環状のラチェットに設けた歯と、環状のリールに設けた歯によってリールの回転方向を規制する構造を採用している。
【0005】
特許文献5及び特許文献6に記載されている靴紐巻取装置は、環状ギヤとラチェット爪を備えているが、リール収納部を備えた部材を直接靴に取り付ける構造を採用している。
さらに、特許文献7に記載されている靴紐巻取装置は、上記のような靴紐巻取システムを採用しているものではなく、レバーアームに設けた爪によって円盤状のラチェット車輪の回転方向を規制する構造を採用している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3に記載されている上記の靴紐巻取装置の取付構造においては、下記1)〜5)のような課題がある。
1)環状ギヤを形成したベース部材に設けた樹脂製の軸に金属製の雄ネジを螺合して靴紐巻取システムを固定しているため、雄ネジの締めすぎや、雄ネジから加わる力によって軸の雌ネジが潰れてしまうと、軸と雄ネジとの固定状態が不完全となり、靴紐巻取システムが正常に作動しなくなったり、靴紐巻取システムが外れてしまう恐れがある。
2)環状ギヤが摩耗したり損傷した場合に、靴紐巻取装置を修理するには、靴に縫い付けられたベース部材を靴から外して交換する必要があり、これは靴の外皮を縫い直すことに繋がり、事実上困難であるか、又は過大な費用と手間がかかる作業が必要となる。
3)環状ギヤを形成したベース部材に靴から変形応力が加わると、環状ギヤが変形し、靴紐が緩んでしまったり、靴紐巻取装置が正常に作動しなくなる恐れがある。
このような障害を防ぐために、環状ギヤを形成したベース部材の剛性を高めることが行われるが、すると、ベース部材が大型化したり、重くなってしまい、靴の履き心地が悪くなるという問題も生じる。
4)靴紐巻取装置を取り付ける部分の靴の形状とベース部材の形状が一致していないと、履き心地が良くなかったり、靴に損傷が生じたりすることがある。
5)靴紐がベース部材と擦れ合って、靴紐が切れたり、ベース部材が損傷する恐れがある。
【0008】
特許文献4に記載の靴紐巻取装置の取付構造においては、靴紐巻取装置の裏側からねじを螺合することでリールやラチェットなどの内部機構をベースプレートに取り付けているため、それらの内部機構に不具合が生じた場合には、靴紐巻取装置を全て靴から取り外す必要がある。
【0009】
特許文献5及び特許文献6に記載の靴紐巻取装置の取付構造においては、靴紐巻取装置のハウジングを靴に形成した受入れリセス内に嵌め込むことで靴紐巻取装置を靴に固定しており、ハウジングの固定状態を強固にすると、受入れリセスから靴紐巻取装置を取り出すことが困難となり、修理や交換に支障を生じるという課題がある。
【0010】
特許文献7に記載の靴紐巻取装置の取付構造においては、靴紐巻取装置を靴紐によって縛り付けるようにして靴に装着しているため、靴に対する靴紐巻取装置の装着状態が不安定であるという課題がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、従来の靴紐巻取装置の取付構造における上記の課題を全て解決し、靴に対する靴紐巻取装置の取り付けが容易であり、しかもその取付状態が強固であり、かつ、靴紐巻取システムを安定して動作させることができ、靴紐巻取装置の不具合の発生を減少させることができる靴紐巻取装置の取付構造を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、万が一、靴紐巻取装置に不具合が生じた場合、靴紐巻取システムを靴から簡単に取り外すことができ、また、交換対象部品を最小限にすることができ、メンテナンス作業の容易な靴紐巻取装置の取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、「操作用ハンドル部にて回転駆動され、靴紐を巻き取るためのリールと、
前記リールの回転を規制するラチェット爪と、前記リールを収納する略有底円筒体からなり、その内周面に前記ラチェット爪が係合する複数の歯からなる環状ギヤを形成したベース部材と、を備えた靴紐巻取装置の取付構造であって、前記ベース部材を直接上部外方から着脱可能に固定して内部に保持することができる略有底円筒状のカバー部と、靴の形状に沿うように前記カバー部の周囲に膨出したフランジ部と、を備えたベース部材取付用カバーを設けた靴紐巻取装置の取付構造。」を最も主要な特徴とするものである。
【0013】
さらに、本発明の前記カバー部又は前記ベース部材は、前記ベース部材をカバー部に固定した状態でロックするロック機構を備えてい
る。
そして、前記ベース部材を前記カバー部に固定した状態でロックする前記ロック機構は、当該ベース部材を回動させてベース部材の外方への取り外しを規制するために、前記カバー部の周面及び前記ベース部材の周面に形成され互いに係合する抜け止め用の凹凸と、当該抜け止め用の凹凸の係合状態を維持するために、前記カバー部の内底面及び前記ベース部材の下面に形成され互いに係合する回転止め用の凹凸と、から構成されているものであってもよい。
【0014】
本発明の前記回転止め用の凹凸は、ベース部材の外方からアクセスして係合状態を解除可能に構成されているものであってもよい。
また、本発明の前記カバー部は、円筒状の内面に開口する靴紐導入口を備えており、当該靴紐導入口から前記フランジ部に沿って延びる筒状の靴紐ガイド部が、前記靴紐導入口付近において縮径されており、当該靴紐ガイド部内に挿入される靴紐挿通用のチューブの先端が前記靴紐導入口付近まで導入されるようになっているものであってもよい。
【0015】
さらに、本発明の前記ベース部材の外周面と前記カバー部の内周面との間には隙間が有り、前記カバー部が変形しても前記ベース部材が変形しないようになっていることが好ましい。
本発明の前記フランジ部は、独立して変形可能な複数の部分から構成されているものであってもよい。
また、本発明の前記カバー部は、靴の形状に沿うように下面が湾曲形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
上記のように構成した本発明の靴紐巻取装置の取付構造においては、ベース部材取付用カバーが靴に対して強固に固定されていても、操作用ハンドル部及びラチェット爪などからなる靴紐巻取システムをベース部材から簡単に取り外すことができるばかりか、ベース部材をもベース部材取付用カバーから簡単に取り外すことができ、それらの部品の修理及び交換を容易に行うことができる。
【0017】
本発明の靴紐巻取装置の取付構造
は、前記カバー部又は前記ベース部材が前記ベース部材をカバー部に固定した状態でロックするロック機構を備えている
ため、当該ベース部材とカバー部との固定状態を確実に維持することができ、また、ロックを解除することで、前記ベース部材をカバー部から簡単に取り外し可能とすることができる。
前記ベース部材を前記カバー部に固定した状態でロックする前記ロック機構を、当該ベース部材を回動させてベース部材の外方への取り外しを規制するために、前記カバー部の周面及び前記ベース部材の周面に形成され互いに係合する抜け止め用の凹凸と、当該抜け止め用の凹凸の係合状態を維持するために、前記カバー部の内底面及び前記ベース部材の下面に形成され互いに係合する回転止め用の凹凸と、から構成することにより、ベース部材を回動操作することで簡単にベース部材を外方へ取り外しできなくなるように規制することができる。
また、回転止め用の凹凸の係合を解除することで、ベース部材をカバー部から取り外すことができるようになる。
【0018】
また、本発明の前記回転止め用の凹凸を、ベース部材の外方からアクセスして係合状態を解除可能に構成することで、ベース部材をカバー部から取り外す作業を簡単に行うことができる。
【0019】
本発明の前記カバー部が、円筒状の内面に開口する靴紐導入口を備えており、当該靴紐導入口から前記フランジ部に沿って延びる筒状の靴紐ガイド部が、前記靴紐導入口付近において縮径されており、当該靴紐ガイド部内に挿入される靴紐挿通用のチューブの先端が前記靴紐導入口付近まで導入されるようになっているものとすることで、靴紐が前記靴紐導入口付近まで靴紐挿通用のチューブによって案内されることになり、ベース部材取付用カバー又はベース部材と靴紐が直接擦れ合うことを防止でき、靴紐の切断と、ベース部材取付用カバー及びベース部材の損傷を防止することができる。
【0020】
さらに、本発明の前記ベース部材の外周面と前記カバー部の内周面との間に隙間を設けることで、前記カバー部が変形しても前記ベース部材が変形しないようにすることができ、靴紐巻取装置の正常な動作を確保することができる。また、これによりベース部材を薄く軽いものとすることもできる。
本発明の前記フランジ部を、独立して変形可能な複数の部分から構成することにより、靴の形状に合わせてベース部材取付用カバーを装着し易くすることができるばかりか、カバー部が歪むことによって靴紐巻取装置の正常な動作が妨げられることを防止することができる。
また、本発明の前記カバー部を、靴の形状に沿うように下面が湾曲形成されているものとすることで、靴の装着感を害することなく、靴紐巻取装置を靴に取り付けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、「操作用ハンドル部にて回転駆動され、靴紐を巻き取るためのリールと、前記リールの回転を規制するラチェット爪と、前記リールを収納する略有底円筒体からなり、その内周面に前記ラチェット爪が係合する複数の歯からなる環状ギヤを形成したベース部材と、を備えた靴紐巻取装置の取付構造であって、前記ベース部材を直接上部外方から着脱可能に固定して内部に保持することができる略有底円筒状のカバー部と、靴の形状に沿うように前記カバー部の周囲に膨出したフランジ部と、を備えたベース部材取付用カバーを設けた靴紐巻取装置の取付構造。」であって、以下において説明する実施形態などにより好適に具体化することができる。
【0023】
以下、本発明の靴紐巻取装置の取付構造を、
図4(A)に示すように、運動靴又はゴルフシューズといった靴Sのかかと部分に靴紐巻取装置1を取り付ける際に具体化した一実施形態について説明する。
この靴紐巻取装置1は、樹脂被覆された金属製のワイヤーからなる靴紐2によって靴Sの甲部及び履き口部周囲を締め付けることができるようになっている。
【0024】
図1に示すように、靴紐巻取装置1は、下記において説明する環状ギヤ34を備えたベース部材3と、前記靴紐2を巻き取るためのリール4と、リール4の回転及び停止を制御するための4本のラチェット爪51を備えたストッパー部材5と、前記リール4を回転駆動するための操作用ハンドル部6と、当該操作用ハンドル部6と前記ストッパー部材5とを前記ベース部材3に装着するために前記ベース部材3に対して回転自在に固定される軸部材7と、当該軸部材7にて一端部が軸支されたバネ部材8などからなる靴紐巻取システムを備えている。
【0025】
前記ベース部材3は、全体が略有底円筒状に形成された有底円筒体31からなり、内部に前記リール4を収納するためのリール収納部32を備え、当該リール収納部32は、その底部中央に前記リール4を軸支するための回転軸33が突設されている。
そして、前記ベース部材3は、前記有底円筒体31の上部内周面に前記ラチェット爪51が係合する複数の歯からなる環状ギヤ34が形成されている。
【0026】
この環状ギヤ34は、略四角形状の前記ストッパー部材5に形成した細長い板状のラチェット爪51と協働してラチェット機構を構成し、靴紐2を巻き付ける方向(
図5(E)における時計回り方向である正回転)にのみ前記ラチェット爪51が移動できるように、断面が「のこぎり歯」状に形成されている。
【0027】
さらに、前記ベース部材3には、前記リール収納部32の底部から側部において開口する靴紐引出口35が互いに180度離間して各1ヶ所形成され、前記リール4に巻き付けられる靴紐2を前記リール収納部32内へ導き入れることができるようになっている。
【0028】
前記ベース部材3は、ベース部材取付用カバー9によって靴Sのかかと部分に装着されるようになっており、当該ベース部材取付用カバー9は、前記ベース部材3を直接上部外方から着脱可能に固定して内部に保持することができる略有底円筒状のカバー部91と、靴の形状に沿うように前記カバー部91の周囲に薄く膨出したフランジ部92とを備えている。
そして、薄板状のフランジ部92が前記靴Sに縫い付け固定されることで靴紐巻取装置1を靴Sに対して強固に固定することができるものである。
【0029】
本実施例において、前記ベース部材3の外周面と、前記カバー部91の内周面との間には、0.5〜1.0mm程度の隙間が形成されており、前記カバー部91の変形が直接ベース部材3に及ばないようにしてある。
従って、カバー部91やベース部材3を薄く軽いものとしても、靴紐巻取装置1を安定して動作させることができるばかりか、靴Sに靴紐巻取装置1を装着した場合におけるゴツゴツした違和感を解消することもできる。
なお、前記カバー部91の裏面及び前記フランジ部92の裏面は、靴Sのかかと部分の形状に沿うように、ほぼ球面に沿うように湾曲形成されている。
また、本実施例において、前記カバー部91の高さは、前記リール4の厚さと同程度、即ち、前記ベース部材3の下側を約半分程度覆う高さに設定してある。
【0030】
前記フランジ部92は、スリット92aによって全体が花弁状に分割されるように形成されており、花弁状の各部分は、複数の独立して変形し易い構造になっている。
これにより、ベース部材取付用カバー9が取り付けられている靴Sの各部の形状に合致するように変形して取り付けを行い易いばかりか、靴Sが使用の際に変形することにも対応して形状が追従し易く、靴紐巻取装置1を装着したことによる違和感を低減できる。
また、前記フランジ部92の花弁状の各部分が独立して変形することで、靴Sが変形した際にカバー部91まで変形してしまうことを防止する効果を得ることができる。
【0031】
さらに、本実施形態において、前記カバー部91及び前記ベース部材3は、前記ベース部材3を前記カバー部91に固定した状態でロックするロック機構を備えている。
このロック機構は、抜け止め用の凹凸としての下記(i)及び(ii)に記載されている構成と、回転止め用の凹凸としての下記(iii)及び(iv)に記載されている構成から構成されている。
(i)前記ベース部材3を回動させることでベース部材3の外方への取り外しを規制するために、前記カバー部91の内周面に沿って突出形成された抜け止め用の突条93。
この抜け止め用の突条93は、前記カバー部91の内底面と平行状であって、互いに180度離間した位置にて各1個形成されている。
(ii)前記ベース部材3を回動させることでベース部材3の外方への取り外しを規制するために、前記ベース部材3の外周面に形成され前記抜け止め用の突条93が係合する抜け止め用の凹溝36。
この抜け止め用の凹溝36は、前記ベース部材3の下面(外底面又は裏面)と平行状であって、互いに180度離間した位置にて各1個形成されている。
そして、前記抜け止め用の凹溝36に係合した前記抜け止め用の突条93は、抜け止め用の凹溝36の末端(
図3(C)に示す左側の端部)に当接し、前記ベース部材3のそれ以上の反時計回り方向への回動を止めるようになっている(
図6(A)に示す状態であって、「停止位置」という。)。
また、略有底円筒状に形成された前記ベース部材3を構成する有底円筒体31は、前記抜け止め用の凹溝36の右側の端部から前記靴紐引出口35までの下部外周面部31aが、前記抜け止め用の突条93を差し込むことができるスペースを得られるように縮径されている。
(iii)前記「停止位置」における前記抜け止め用の凹凸の係合状態を維持するために、前記カバー部91の内底面に形成された板バネ状の回転止め用の突起94。
この回転止め用の突起94は、前記カバー部91の内底面において互いに180度離間した位置にて各1個形成されており、かつ、先端側が上方に向かって徐々に起き上がって突出するように斜めに形成されている。
また、前記回転止め用の突起94が斜めに形成されている向きは、180度反対方向となっている。
(iv)前記抜け止め用の凹凸の係合状態を維持するために、前記ベース部材3の下面(外底面)に形成され、前記「停止位置」において前記回転止め用の突起94と係合する回転止め用の透孔37。
この回転止め用の透孔37は、前記ベース部材3の内底面において互いに180度離間した位置にて各1個形成されており、かつ、前記回転止め用の突起94がフィットして嵌まり込むように徐々に深くなるように斜めに形成されている。
【0032】
そして、前記「停止位置」において、回転止め用の突起94が回転止め用の透孔37に一旦嵌まり込むと、前記ベース部材3を外す方向(時計回り方向)への回動もできなくなる。
このように前記「停止位置」において、前記回転止め用の透孔37に嵌まり込んだ回転止め用の突起94を外すには、前記ベース部材3のリール収納部32側から、即ち、ベース部材3の外方からアクセスして、前記2個の回転止め用の突起94を同時に押さえ、前記ベース部材3を外す方向へ回せばよい。
本実施例において、この回転止め用の突起94を同時に押さえる操作は、スパイク鋲を着脱する際に使用する互いに離間した2個の突起を有する金具(図示しない)を用いることができるように設定してある。
【0033】
さらに、本実施例において、前記ベース部材3は、靴紐2が締められている時に反時計回り方向に付勢され、即ち、前記「停止位置」に止まる方向に付勢されており、靴紐巻取装置1の使用時において、前記ベース部材3が外れる方向に回動してしまうことはないようになっている。
また、この「停止位置」において、前記ベース部材3の前記靴紐引出口35は、常に前記カバー部91に形成された靴紐導入口95と向き合って整合するようになっている。
【0034】
前記ベース部材取付用カバー9の前記カバー部91は、前記2個の抜け止め用の突条93の間において、当該カバー部91の円筒状の内面に開口する前記靴紐導入口95を計2個備えている。
さらに、前記靴紐導入口95から前記フランジ部92に沿って延びる筒状の靴紐ガイド部96は、前記靴紐導入口95付近において内面が縮径されている。そして、当該靴紐ガイド部96内に挿入される靴紐挿通用のチューブTの先端が前記靴紐導入口95付近まで導入され、靴紐挿通用のチューブTの先端がそれ以上入り込まないようになっている。
【0035】
前記リール4は、その中央部に軸受部41を備えており、当該軸受部41の内面側には、前記ベース部材3の前記回転軸33が挿入され、リール収納部32内にてリール4が回転可能となっている。
前記リール4の上側には、複数のフィン42が形成されており、前記ストッパー部材5の下側に形成されたフィン52と噛合することで、前記操作用ハンドル部6の回転を前記リール4に伝達できるようになっている。
【0036】
前記ストッパー部材5は、その四隅に突設した取付用爪部53が前記操作用ハンドル部6に透設した係合穴61に係合することで、前記操作用ハンドル部6の内側(下側)に嵌合して前記操作用ハンドル部6と一体化するものであり、前記リール4と前記操作用ハンドル部6との間に介在して前記操作用ハンドル部6の回転を前記リール4に伝達できるロック状態と、前記リール4が自由に回転できるように前記操作用ハンドル部6から前記リール4を切り離した解除状態とを実現することができるようになっている。
【0037】
前記軸部材7は、一体化した前記操作用ハンドル部6とストッパー部材5とを前記ベース部材3に対して回転自在に装着するために、ネジ7aによって前記ベース部材3に固定されるものであって、一体化した前記操作用ハンドル部6とストッパー部材5とを前記ベース部材3に接近させたロック位置(
図8(A)参照)と、当該ベース部材3から離した解除位置(
図8(B)参照)との間で移動可能な状態で保持し案内することができるようになっている。
【0038】
前記軸部材7は、四角柱状に形成されており、その軸心方向と直交する方向にて当該軸部材の対向する2つの側部を切り欠いて形成した軸受部71に対し、前記バネ部材8に形成した直線状の一端部(軸部81)が挿入されることで、当該バネ部材8を回動可能に軸支するようになっている。
【0039】
前記バネ部材8は、全体が略U字形に湾曲形成されており、湾曲した他端側のバネ部82が、一体化した前記操作用ハンドル部6とストッパー部材5の内面に設けた係止部62に当接するようになっている。
【0040】
前記バネ部材8の他端部(バネ部82)が当接する前記係止部62は、前記操作用ハンドル部6とストッパー部材5の境界部分に楔状に形成したバネ収納空間の外端最狭部に設けられている。
また、前記操作用ハンドル部6の上側には、円盤状のキャップ10が嵌合して靴紐巻取装置1の内部にゴミなどが入り込まないようになっている。
【0041】
前記キャップ10の中央部には透孔11が形成されており、この透孔11を介して前記キャップ10の内側(下側)の前記ネジ7aを工具100にて操作してベース部材3から操作用ハンドル部6、軸部材7及びリール4を取り外せるようになっている。
【0042】
前記靴紐2としては、直径0.11〜0.13mmのステンレス製の素線を49本撚り合わせたワイヤーロープにスウェージングマシンにて加工を加え、ナイロン樹脂にて被覆したものを好適に用いることができる。
【0043】
次に、上記にて説明した靴紐巻取装置1の各部品を組み付けて靴Sに取り付ける方法について説明する。
まず、靴Sの甲部に複数個の靴紐ガイド(図示しない)を取り付け、靴Sの履き口部の両サイドに靴紐挿通用のチューブTを埋め込むように前後方向に配置する。その靴紐挿通用のチューブTの後端部は、ライニング12、カウンター13などからなる靴Sのかかと部分まで届くように配置する。また、前記靴紐挿通用のチューブTの内側には不織布製チューブカバー14が置かれ、前記靴紐挿通用のチューブTの外側にはEVAからなるクッション材15が配置される。
【0044】
この状態で、前記ベース部材取付用カバー9を靴Sのかかと部分に接着剤にて仮止めする。このとき、前記靴紐挿通用のチューブTの後端部は、前記フランジ部92に沿って延びる筒状(又はトンネル状)の靴紐ガイド部96の前記靴紐導入口95の付近に形成された縮径部まで挿入される。
従って、前記靴紐導入口95の付近において、前記靴紐2がベース部材取付用カバー9又はベース部材3と直接擦れ合うことを防止することができ、ベース部材取付用カバー9及びベース部材3の耐久性を向上させることができる。
【0045】
次に、靴Sの外皮16の上からベース部材取付用カバー9のフランジ部92を糸にて縫い付けることにより、靴Sのかかと部分にベース部材取付用カバー9を強固に固定することができる。
【0046】
上記のように、靴Sにベース部材取付用カバー9を固定するここまでの作業を済ませることにより、靴Sの外側から1)靴紐2を靴Sに装着すること、2)靴紐巻取システムを靴Sに取り付けること、3)靴紐巻取システムを靴Sから取り外すこと、さらには4)靴紐2を靴Sから取り外して交換することが可能となる。
【0047】
次に、前記ベース部材取付用カバー9のカバー部91にベース部材3を取り付けて外れないようにロックする(上記ロック機構に関する説明及び
図5(A)〜(D)参照)。
なお、
図5(B)及び(C)は、前記抜け止め用の突条93に、ベース部材3の下部外周面部31aを対応させている様子を示し、
図5(D)は、ベース部材3を反時計回り方向に回動して、前記抜け止め用の突条93を抜け止め用の凹溝36の末端に当接させ、ロックを成立させた様子を示す(
図6参照)。
【0048】
なお、前記ロック機構を構成する各凹凸は、それぞれ前記カバー部91と前記ベース部材3の中心に対して点対称となる位置に形成されているため、カバー部91にベース部材3を取り付ける際には、ベース部材3の向きが180度異なっていても、前記ベース部材3の前記靴紐引出口35が、常に前記カバー部91の前記靴紐導入口95と向き合うように整合してロックされるようになっている。
【0049】
次に、ベース部材3の靴紐引出口35→ベース部材取付用カバー9の靴紐導入口95→靴紐ガイド部96→靴紐挿通用のチューブT→靴Sの甲部に向き合うように複数個固定した靴紐ガイド(図示しない)→靴紐挿通用のチューブT→ベース部材取付用カバー9の靴紐ガイド部96→靴紐導入口95→ベース部材3の靴紐引出口35の順にて靴紐2を挿通する。
これにより、靴紐2は、靴Sの甲部を縫い合わせるように配置され、靴Sの履き口部の両サイドを経て、
図7(A)に示すように靴Sのかかと部分から両端部が引き出される。
次に、靴紐2の両端部をリール4に固定し、そのリール4をベース部材3のリール収納部32内に入れる。
【0050】
一方、前記ストッパー部材5を前記操作用ハンドル部6の内側(下側)に嵌合することで、ストッパー部材5を操作用ハンドル部6と一体化させ、それらに前記軸部材7及び前記バネ部材8を組み付ける。
この場合、前記バネ部材8は、前記軸部材7が前記操作用ハンドル部6の中心に形成された略四角形状の軸穴63とストッパー部材5の中心に形成された略四角形状の軸穴54に挿入されるのであるが、当該バネ部材8のバネ部82が操作用ハンドル部6の軸穴63を拡げた拡張部から前記バネ収納空間に挿入され、さらに当該バネ部82がバネ収納空間の内端側から外端最狭部側へ回動するように案内されて前記操作用ハンドル部6に組み付けられる。
なお、前記軸部材7の上端部に形成したフランジ72が前記操作用ハンドル部6の軸穴63の縁に形成した係止段部64に当接するため、操作用ハンドル部6が軸部材7から外れることはない。
【0051】
また、前記バネ部材8のバネ部82がバネ収納空間の内端側から外端最狭部側へ回動するように案内されるのは、ストッパー部材5の軸穴54の縁に上側(操作用ハンドル部側)を向いた斜面が形成されているためである。
【0052】
上記手順にてストッパー部材5、操作用ハンドル部6、軸部材7及びバネ部材8を組み付けた後、ネジ7aを軸部材7のネジ挿入孔73に挿通し、軸部材7などをベース部材3に装着する。
【0053】
最後にキャップ10を操作用ハンドル部6に嵌め込むことで、靴紐巻取装置1を組み付けることができる。
なお、キャップ10の中央部には透孔11が形成されているため、先にキャップ10を操作用ハンドル部6に嵌め込んでからネジ7aを操作して軸部材7などをベース部材3に装着することもできる。
メンテナンス又は修理のために靴紐巻取装置1を分解する際には、キャップ10の透孔11から工具100を挿入し、ネジ7aを外すことで、組み付けられたストッパー部材5、操作用ハンドル部6、軸部材7及びバネ部材8をベース部材3からまとめて取り外すことができる。
【0054】
メンテナンス又は修理が必要な場合としては、靴紐2が切断した場合、又はリール収納部32内で靴紐2が絡まった場合が多いため、ストッパー部材5、操作用ハンドル部6、軸部材7及びバネ部材8が組み付けられたままベース部材3から取り外すことができることは、メンテナンス又は修理作業を効率化する上で極めて有効である。
【0055】
なお、本実施形態の靴紐巻取装置1において各部材を構成する材料としては、強度、耐久性、弾力性などを考慮し、一例として以下のものを用いたが、これらの材料に限定されるものではない。
ベース部材3・・・ナイロン、又は、ポリカーボネート
ベース部材取付用カバー9・・・ナイロン
リール4、ストッパー部材5、軸部材7・・・POM(ポリアセタール)
操作用ハンドル部6・・・ナイロンとその周囲にTPE(熱可塑性エラストマー)
バネ部材8・・・ステンレス鋼
ネジ7a・・・炭素鋼
キャップ10・・・ABS樹脂
【0056】
上記のように構成された靴紐巻取装置1の使用方法について説明する。
靴Sを履いた後に、靴紐2を締め付けるには、靴紐巻取装置1の操作用ハンドル部6を前記ベース部材3に接近させたロック位置にて操作用ハンドル部6を時計回り方向に回転操作し、靴紐2をリール4に巻き付ける。
この場合、ストッパー部材5のラチェット爪51が環状ギヤ34に当接することで、靴紐2が緩む方向にリール4が回転することはない。
【0057】
次に、靴紐2の締め付けを緩めるには、靴紐巻取装置1の操作用ハンドル部6を上側へ引く。
この時、バネ部材8は圧縮され、当該バネ部材8が最も圧縮される反転位置を越えることにより、操作用ハンドル部6をベース部材3から離した解除位置に移動させる(
図8(B)に示す状態)。
【0058】
当該バネ部材8の他端部(バネ部82)は、前記操作用ハンドル部6の内面に設けた係止部62と常時当接しており、部品の摩耗を防ぐことができる。
【0059】
また、前記バネ部材8がロック位置と解除位置との間で方向が明確に切り替わるため、操作性に優れるばかりか、前記操作用ハンドル部6の位置を把握することも容易である。
上記のように前記操作用ハンドル部6がロック位置から解除位置に移動すると、リール4のフィン42とストッパー部材5のフィン52との噛合が解除され、リール4が自由に回転できるようになり、靴紐2が緩められる。
【0060】
逆に、前記操作用ハンドル部6を解除位置からロック位置に移動させるように下方へ押さえ付けると、前記バネ部材8が最も圧縮される反転位置を逆向きに越え、リール4のフィン42とストッパー部材5のフィン52とが再び噛合することとなるため、リール4に靴紐2を巻き取って靴紐2を締め付けることが可能となる。
【0061】
なお、本明細書中において、「操作用ハンドル部」とは、リール4を回転駆動するための操作部として機能するものであれば特に形状が限定されるものではなく、多角形状のものであってもよい。
【0062】
本発明は、主に靴Sの甲部を締め付けるための靴紐巻取装置1に限定されるものではなく、例えば、靴Sの履き口部の周囲のみを締め付けるというような、靴Sの異なる部分を締め付けるための靴紐巻取装置1の取付構造に具体化して実施してもよい。
【0063】
また、靴紐巻取装置1を取り付ける位置は、靴Sのかかと部分に限られるものではなく、靴Sの甲部または側部(くるぶし付近)に靴紐巻取装置1を取り付ける際に使用する靴紐巻取装置1の取付構造に具体化して実施してもよい。
【0064】
さらに、ベース部材3を回動させてベース部材3の外方への取り外しを規制するために、前記カバー部91の内周面及び前記ベース部材3の外周面に形成され互いに係合する抜け止め用の凹凸としては、前記カバー部91及びベース部材3の底面と水平な方向に形成された凹凸に代えて、前記カバー部91の内周面及び前記ベース部材3の外周面にらせん状、又は斜め方向に複数形成された凹凸を用いて実施してもよい。
【0065】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、各部の構造、材質、形状、寸法、角度、設置位置、大きさ、数などが異なる靴紐巻取装置及びその取付構造において具体化して実施したり、上記実施例とは異なる靴紐巻取システムを備えた靴紐巻取装置及びその取付構造において具体化して実施してもよい。