【文献】
須賀 唯知,無機・有機材料の接合技術の展望,J.Vac.Soc.Jpn.,2012年,VOL.55,NO.11,P.487-492
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも1層の反応流路に、熱媒体を流すことにより、加温機能、及び冷却機能の少なくともいずれかの機能を付与する請求項3から5のいずれかに記載の小型反応器。
前記反応流路が多層化されている小型反応器であって、前記無機透明基板として2種類以上の異なる種類のガラス基板を用い、これらガラス基板を積層させてなる請求項3から6のいずれかに記載の小型反応器。
反応流路が接続された複数の小型反応器を有する反応装置であって、前記小型反応器の少なくとも1つが請求項1から7のいずれかに記載の小型反応器であることを特徴とする反応装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、安価で簡便な構成の装置に使用できる小型反応器であって、光反応を安定して効率よく行うことができる小型反応器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 化学反応を進行させる反応流路と、
該反応流路の一端に連結している、反応流路に反応させる試料を供給するための供給流路と、
該反応流路の他端に連結している、反応流路から反応した生成物を排出するための排出流路とが形成された無機透明基板を有し、
前記無機透明基板が、弧状に湾曲した形状を有していることを特徴とする小型反応器である。
<2> 前記無機透明基板は、前記反応流路となる溝が表面に形成された第1の無機透明基板と、前記第1の無機透明基板の溝が形成された表面側に隣接して配された第2の無機透明基板とを、それぞれの基板の表面に形成された接合面で接合してなり、
前記接合面で接合された後は、前記第1の無機透明基板と前記第2の無機透明基板とは、化学的に結合して一体化して前記無機透明基板を形成する前記<1>に記載の小型反応器である。
<3> 前記無機透明基板が、ガラス基板である前記<1>から<2>のいずれかに記載の小型反応器である。
<4> 前記反応流路が、前記無機透明基板の厚さ方向に亘って多層化されている前記<1>から<3>のいずれかに記載の小型反応器である。
<5> 前記反応流路の異なる層間をつなぐ層間連絡流路を有する前記<4>に記載の小型反応器である。
<6> 多層化されている前記反応流路が、少なくとも2種類以上の異なる構造を有している前記<4>から<5>のいずれかに記載の小型反応器である。
<7> 少なくとも1層の反応流路に、熱媒体を流すことにより、加温機能、及び冷却機能の少なくともいずれかの機能を付与する前記<4>から<6>のいずれかに記載の小型反応器である。
<8> 前記反応流路が多層化されている小型反応器であって、前記無機透明基板として2種類以上の異なる種類のガラス基板を用い、これらガラス基板を積層させてなる前記<4>から<7>のいずれかに記載の小型反応器である。
<9> 反応流路が接続された複数の小型反応器を有する反応装置であって、前記小型反応器の少なくとも1つが前記<1>から<8>のいずれかに記載の小型反応器であることを特徴とする反応装置である。
<10> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の小型反応器と、反応流路で化学反応を進行させるために光を照射する光源とを有することを特徴とする反応装置である。
<11> 前記無機透明基板の凹面側に光源を配置する前記<10>に記載の反応装置である。
<12> 前記光源を中心とし、該中心に対して円周上の弧を描く位置に前記反応流路が位置されるように、小型反応器を配置する前記<10>から<11>のいずれかに記載の反応装置である。
<13> 前記小型反応器の光源側の表面に、集光性の機能を有する光学レンズを配置する前記<10>から<12>のいずれかに記載の反応装置である。
<14> 前記小型反応器の光源側とは反対側の面に、光反射板を配置する前記<10>から<13>のいずれかに記載の反応装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、安価で簡便な構成の装置に使用できる小型反応器であって、光反応を安定して効率よく行うことができる小型反応器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(小型反応器)
本発明の小型反応器は、化学反応を進行させる反応流路と、
該反応流路の一端に連結している、反応流路に反応させる試料を供給するための供給流路と、
該反応流路の他端に連結している、反応流路から反応した生成物を排出するための排出流路とが形成された無機透明基板を有し、
前記無機透明基板が、弧状に湾曲した形状を有する。
本発明の小型反応器は、気相と液相、液相と液相の界面において、化学反応を起こし、反応生成物を製造する製造容器として使用される。
【0010】
<反応流路>
前記反応流路は、気液界面や液液界面において化学反応を行うために形成された流路であり、該反応流路で化学反応が進行する。
前記反応流路は、超微細加工技術を用いることにより形成された微細な流路が、前記無機透明基板内に設けられている。
以下、小型反応器の構成について図を参照しながら説明する。尚、本発明の小型反応器は、弧状に湾曲した形状を有しているが、前記反応流路等の前記無機透明基板内の構造を説明するには、小型反応器の形状が湾曲している図を用いるより、平板状の図を用いた方がわかりやすいため、湾曲に製造する前の平板状の状態における小型反応器の模式図を用いて、構成を説明する。
【0011】
図3で示すように、小型反応器1において、矩形状の無機透明基板2の内部には、液体試料や反応気体が流される小径流路の反応流路12が設けられている。一面側から紫外線等の光線が照射されると、気液界面又は液液界面において化学反応が進行する。
前記反応流路12は、反応に供する長さをできるだけ長く確保するために、前記無機透明基板2の長手方向に亘って直進する直進部12aが幅方向に亘って平行に複数形成され、隣接する直進部12aの端部同士が湾曲部12bによって連続され、これにより、前記無機透明基板2の全面に亘って蛇行するように形成されている。
また、前記反応流路12は、直進部12a及び湾曲部12bがともに同一深さ、同一幅で形成されているとよい。これにより圧力の変動を抑え、供給された試料が交互に形成するスラグが乱れることなく、安定した試料の搬送が可能となるからである。すなわち、前記反応流路12は、直進部12aを前記無機透明基板2の長手方向に亘って設けることで、圧力の変動が生じない直進部分を長く設けることができ、かつ湾曲部12bを直進部12aと同一幅に形成することで、圧力の変動を抑えながらスラグを湾曲させ、方向転換させることができる。
【0012】
反応流路の大きさとしては、幅が0.1mm〜1.0mmであると好ましく、0.5mm前後であるとより好ましい。深さは、0.1mm〜1.0mmであると好ましく、0.3mm前後であるとより好ましい。反応流路の長さは、前記無機透明基板の同一面内に(言い換えると、前記無機透明基板の厚さ方向に対して同一層内で)形成されている反応流路の長さが、1m〜5mであると好ましく、2.4m前後であるとより好ましい。
【0013】
<<化学反応>>
本発明の小型反応器を用いた化学反応としては、光酸化反応や光重合反応が挙げられる。
反応例として、液体と気体の試料を用いる気液反応、液体同士の試料を用いる液液反応に分けて以下説明する。
【0014】
[気液反応]
小型反応器1を用いた気液反応としては、例えば、芳香環上メチル基の光酸化反応が挙げられる。この光酸化反応は、4−tert−ブチルトルエンと酸素とを、触媒量のLiBr存在下において紫外線照射することにより反応させ、芳香環上メチル基が酸化した4−tert−ブチル安息香酸を生成させる気液反応である。
【0015】
[液液反応]
また、小型反応器1は、水系と油系等の性状が異なり互いに混ざり合わず、スラグ流を形成する液体試料同士の液液反応に用いることもできる。
小型反応器1を用いた液液反応としては、例えば、酸素水と有機エステル類等の液体試料とによる光酸化反応を挙げることができる。
また、液液反応の他の例として、各種のアクリルモノマーと、水系の液体試料に含有させた光重合開始剤とによる光重合反応が挙げられる。
また、同様の機構により、例えば、重合開始剤を含有させた水系の溶液と、この媒体に難溶なモノマーと界面活性剤とを含有させた液体試料との光重合によるエマルション化反応にも適用することができる。
【0016】
各種反応に供する光の種類としては、反応の種類に応じて適宜選択することができるが、紫外線でも可視光でも、本発明の小型反応器には好ましく用いることができる。
前記反応流路の一端には、供給流路と、該反応流路の他端には、排出流路とが連結されている。
【0017】
<<供給流路>>
前記供給流路は、反応流路に反応させる試料を供給するための流路である。
例えば、
図3において、供給流路10は、第1の試料が供給される第1の供給路10aと、第2の試料が供給される第2の供給路10bと、これら第1及び第2の供給路10a,10bが合流する合流路10cとを備え、略Y字状に形成されている。第1,第2の供給路10a,10bは、それぞれ無機透明基板2の上面に形成された開口15,16を介して外方に臨まされている。また、合流路10cは、反応流路12に連続している。
第1の供給路10aは、開口15を介して第1の試料を注入するシリンジが連結され、該シリンジの操作に応じて所定の圧力で第1の試料が合流路10cに注入される。第2の供給路10bは、開口16を介して第2の試料を注入するシリンジが連結され、該シリンジの操作に応じて所定の圧力で第2の試料が合流路10cに間欠的に注入される。供給流路10は、合流路10cに流れる第1の試料中に、間欠的に第2の試料が注入されることにより、第1の試料と第2の試料とが交互に連続して供給される。
ここで、第1の供給路10a、第2の供給路10b及び合流路10cは、いずれも同一深さ、同一幅で形成されているとよく、例えば深さ0.3mm、幅0.3mmで形成されているとよい。
【0018】
<<排出流路>>
前記排出流路は、反応流路から反応した生成物を排出するための流路である。排出流路は、反応流路12と連続する一端と反対側の他端が、無機透明基板2の下面に形成された開口より外方に臨まされている。
【0019】
本発明の小型反応器のより好ましい態様として、前記供給流路10と前記反応流路12の間に、反応流路より幅の狭いスラグ形成流路11を設け、拡幅部20により、スラグ形成流路から反応流路にかけて漸次、流路幅を広げていく構成の小型反応器が挙げられる(
図4参照)。
このような流路形状にすることにより、前記供給流路を介して前記試料が供給されると、交互に連続するスラグが形成されるが、このスラグを壊すことなく、安定した状態で反応流路に供することができる。つまり、スラグ形成流路11から反応流路12にかけて圧力の急激な変動が防止でき、スラグを壊すことなく細く長い流体試料のスラグ形状を太く短い形状に変形させることができる。これにより、反応効率を挙げ、反応生成物の収率を向上させることができる。
【0020】
<小型反応器の構造>
本発明の小型反応器としては、反応流路12が、前記無機透明基板2の同一面内に(言い換えると、前記無機透明基板の厚さ方向に対して同一層内、つまり単層で)形成されている、前述した
図3で示すような小型反応器が挙げられる。また、本発明の小型反応器としては、
図5で示すように、反応流路12が、前記無機透明基板2の厚さ方向に亘って多層化されている小型反応器であってもよい。
【0021】
<<単層構造の小型反応器>>
このようなタイプの小型反応器は、反応流路となる溝が形成された第1の無機透明基板と、カバー層としての機能を有する第2の無機透明基板とを、後述するようなオプティカルコンタクト法を用いた製造方法により、それぞれの基板の表面に形成された接合面で接合することにより作製される。
前記接合面で接合することにより、密着された後は、前記第1の無機透明基板と前記第2の無機透明基板とは、化学的に結合して、一体の成形物として前記無機透明基板を形成する。
前記第1の無機透明基板と前記第2の無機透明基板とは、両基板を接合した接合面が認識できないほど、強固に密着し、単一構造物(単一ガラス)であるかのように形成されており、例えば、通常の接着方法によると、SEMによる界面解析で接合面にフッ素元素などが検出されるのに対し、後述する製造方法により作製した本発明の小型反応器における前記無機透明基板には、前記接合面におけるフッ素元素や接着に伴う他の元素は検出されない。また、接合界面における反射を確認しようとしても、確認できないほど一体化している。このように、本発明の小型反応器は、密着性よく接合されている。
【0022】
<<多層構造の小型反応器>>
前記反応流路は、前記無機透明基板の厚さ方向に亘って多層化されていてもよい。
前記反応流路は、他の層間における反応流路とは連結せず、各層間で独立して供給流路や排出流路を有する構造であっても、あるいは、他の層間の反応流路と連結する構造のいずれであってもよい。他の層間の反応流路と連結する場合には、異なる層間の反応流路をつなぐ層間連絡流路を有しているとよい。
【0023】
具体的には、例えば、
図5で示すように、反応流路を2層構造とした場合、無機透明基板2には、上層の反応流路30と、下層の反応流路31と、上層及び下層の反応流路30,31を連続させる層間連絡流路32が形成される。上層及び下層の反応流路30,31は、上記反応流路12と同様に、無機透明基板2の長手方向に亘って直進する直進部30a,31aが幅方向に亘って平行に複数形成され、隣接する直進部30a,31aの端部同士が湾曲部30b,31bによって連続され、これにより、無機透明基板2の全面に亘って蛇行するように形成されている。
上層の反応流路30は、上記反応流路12と同様に、無機透明基板2の上層面内を蛇行し、無機透明基板2の幅方向の他端側の終端にて層間連絡流路32を介して下層の反応流路31と連続されている。下層の反応流路31は、一端を層間連絡流路32と連続し、無機透明基板2の下層面内を蛇行し、無機透明基板2の幅方向一端側の終端にて排出流路13と連続されている。
尚、上層及び下層の反応流路30,31は、直進部30a,31aが互いに重畳しないように形成されていると、無機透明基板2の上面側から照射される紫外線等の光線を上層の反応流路30が遮ることなく下層の反応流路31にも照射が可能となるため、より好ましい。
このように、反応流路を多層化すると、気液反応や液液反応が進行する流路を長くすることができ、限られた基板スペース内において、反応効率及び収率を向上させることができるため、好ましい。
【0024】
多層構造の小型反応器も、単層構造の場合と同様、後述の製造方法を用いて製造することができる。反応流路となる溝が形成された複数の無機透明基板と、最上層にはカバー層としての機能を有する無機透明基板とを、所望の積層状態が形成できるよう積層し、互いに隣接する側に設けられたそれぞれの基板の表面に形成された接合面を接合することにより作製される。
【0025】
また、多層化されている前記反応流路は、全て同様な構造とする必要はなく、各層間で形状等の条件を変え、構造を異ならせてもよい。
例えば、他の層間における反応流路とは連結していない多層構造の小型反応器を用い、気液反応あるいは液液反応に供する試料を流す反応流路とは別に、他の少なくとも1層の反応流路に、熱媒体を流してもよい。熱媒体を流すことで、小型反応器に加温機能、あるいは冷却機能を付与することができる。このように、反応流路が多層化されている場合には、化学反応を行う通常の使い方以外にも、別の使い方で反応流路を利用することができる。
【0026】
反応流路を多層化させるに際し、前記無機透明基板として2種類以上の異なる材質の無機透明基板を積層させて形成してもよい。無機透明基板としては、後述するようにガラス基板が好ましく、無機透明基板を積層して多層構造の小型反応器を形成する場合、2種類以上の異なる種類のガラス基板を用い、これらのガラス基板を積層させてもよい。
【0027】
<無機透明基板>
前記無機透明基板の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、横×幅が2cm〜10cm×2cm〜10cm程度で、高さが1mm〜10mmであるとよい。
【0028】
前記無機透明基板としては、ガラス基板であることが好ましい。ガラスとしては、例えば、石英ガラス(高ケイ酸ガラス)、ホウケイ酸ガラス、青板ガラス等のソーダガラス(ソーダ石灰ガラス)、鉛ガラスなどが挙げられる。
小型反応器が反応流路の多層構造である場合には、前述したとおり、ガラスの種類の異なる無機透明基板を積層させて作製してもよい。
【0029】
<小型反応器の製造方法>
本発明の小型反応器は、まずオプティカルコンタクト法を用いて1つの無機透明基板と他の無機透明基板とを接合し平板状の小型反応器を作製し、次に金型を使用して小型反応器を弧状に湾曲させることにより得ることができる。
【0030】
オプティカルコンタクト法とは、2枚の無機透明基板の両方の接合面を高精度に研磨し、互いに密着させて押圧、加熱することにより原子レベルで両面を結合させる方法である。
前記無機透明基板は、オプティカルコンタクト法により、反応流路が形成された2枚の無機透明基板を貼り合わせるか、あるいは、反応流路が形成された無機透明基板と、カバー層となる無機透明基板とを貼り合わされることにより形成される。
反応流路の形成は、薬液や反応性ガスによるエッチングや、掘削、部分的研削等の微細加工技術を用いた機械的処理により行う。
また、接合面の平滑化は、酸化セリウム等の研磨剤やバフと界面活性剤を用いる他、研磨対象の表面を変化させる薬液を研磨剤と一緒に用いることにより行う。
次いで、表面処理した接合面を、純水により洗浄処理する。
この状態では、各無機透明基板の接合面には純水膜が形成されており、各無機透明基板を回転させ、回転による遠心力で純水膜を振り切り除去する。
各無機透明基板の純水膜は除去されるが、加熱による蒸発で純水膜が除去されてはいないので、振り切り除去の直後は接合面に水分子が吸着しており、その状態で、各無機透明基板を接合面同士を接触させて積層すると、水分子を介した水素結合によって、各無機透明基板は互いに接着される。
各無機透明基板が水素結合によって互いに接着された状態で、500℃以上1000℃以下(ここでは、600℃程度)に加熱すると、水素結合が酸素を介した化学結合に変わり、接触する接合面は、酸素を介して化学結合して固定され、平板状の小型反応器が得られる。
各無機透明基板は、接着剤を用いずに接合されるため、小型反応器の反応系に接着剤から発生する不純物が混入することはなく、また化学反応の際、300℃以上の高温にして行うことができる。
【0031】
次に、平板状の小型反応器に対し、金型を使用して弧状に湾曲させる。この方法は、金型となるを凸型、あるいは凹型の形状に加工し、金型上に平板状の小型反応器を載せ、平板状の小型反応器の軟化点近傍の加熱を行い平板状の小型反応器を金型に倣わせる方法である。尚、ここで、金型は、小型反応器の軟化点温度で加熱されても耐えうる素材で形成されている必要がある。
【0032】
金型上に平板状の小型反応器を載せ、加熱を行い平板状の小型反応器を金型に倣わせる様子を
図6A〜Dに示した。凸型の金型50上に平板状の小型反応器1を載せ(
図6A)、加熱をすると、凸型の金型に倣わせた弧状の小型反応器が得られる(
図6B)。又は、凹型の金型上に平板状の小型反応器を載せ(
図6C)、加熱をすると、凹型の金型に倣わせた弧状の小型反応器が得られる(
図6D)。
金型の曲率は、半径15mm〜35mmであるとよい。金型の種類は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルミナ、銅など、ガラスにぬれにくい材質が挙げられる。
湾曲させる際の加熱温度としては、700℃〜800℃であるとよい。
図3で示す平板状の小型反応器を上記製造方法により湾曲させた結果、得られる弧状に湾曲した形状を有する小型反応器の概略図を、
図1に示す。
【0033】
<<弧状形状>>
本発明において、無機透明基板の弧状形状としては、円弧状の形状であることが好ましい。但し、以下に記載するように、本発明の反応装置における光源と小型反応器との配置関係や光源の形状等の条件によっては、真円又は略真円の円弧状の形状に限られない。反応流路における各流路地点での照射強度が等しくなるのであれば、本発明の弧状形状として、楕円形状や弓なり形状の弧状形状も挙げられる。
【0034】
本発明において、無機透明基板を湾曲させる領域は、無機透明基板全体であっても、一部であってもよい。少なくとも、反応流路が形成されている反応流路領域(例えば、
図3でいう符合40の領域)に対して、湾曲工程が施される。
【0035】
平板状の小型反応器を得るのに、接着の際、気泡を生じず、強固な接着が可能なオプティカルコンタクト法を使用しているため、そのような小型反応器を用いて、上記高温度で加熱し湾曲させても、小型反応器に影響がないことがわかった。これは、本発明者らが、オプティカルコンタクト法の条件を考慮したうえで、反応流路の変形を生じさせず、良好な湾曲形状の小型反応器が形成できる、湾曲工程における好ましい条件を見つけることができたからである。
【0036】
(反応装置)
本発明の反応装置は、上記本発明の小型反応器を有する。
本発明の反応装置の好ましい態様としては、反応流路が接続された複数の小型反応器を有する反応装置であって、小型反応器の少なくとも1つが上記本発明の小型反応器である反応装置が挙げられる。
つまり、本発明の反応装置は、弧状に湾曲した形状の小型反応器を複数接続してなる反応装置であっても、弧状に湾曲した形状の小型反応器と平板状の小型反応器とを組み合わせてなる反応装置であってもよい。
また、本発明の反応装置の好ましい他の態様としては、上記本発明の小型反応器と、反応流路で化学反応を進行させるために光を照射する光源とを有する反応装置が挙げられる。
【0037】
<光源>
光源の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水銀灯、ナトリウムランプ、LEDランプなどが挙げられる。
光源の形状は、球状でも、円筒状でもよい。
光源の大きさとしては、例えば、
図2で示すような円筒状光源である場合、長さは、5cm〜12cmが好ましく、10cm前後であるとより好ましい。
【0038】
<配置>
前記光源は、小型反応器の無機透明基板に対し、凹面側に配置されるとよい。
前記光源を中心とし、該中心に対して円周上の弧を描く位置に前記反応流路が位置されるように、小型反応器を配置するとよい。これにより、
図7で示すように、小型反応器1中の反応流路における流路地点と光源Lとの距離が、各流路地点で等しくなり、つまり各流路地点での照射強度が等しくなり、光反応を安定して効率よく行うことができる。
本発明者らの研究によると、前記小型反応器を用いた化学反応において、紫外線のあたる距離が0.1mm違うと歩留まりは10%も違うという結果が得られている。本発明の反応装置を用いると、安価でかつ簡便な装置構成で、光反応の安定化、及び高効率化を図ることができる。
【0039】
本発明の反応装置としては、例えば、
図1で示す小型反応器を2つ用い、
図2で示すように、円筒状の光源の円周上に、この2つの小型反応器を配置した反応装置を挙げることができる。
また、本発明の反応装置において、小型反応器の光源側の表面に、集光性の機能を有する光学レンズを配置してもよい。
また、本発明の反応装置において、小型反応器の光源側とは反対側の面に、アルミや銀などの反射率の高い光反射板を配置してもよい。
これらにより、さらに光利用効率を挙げることができるからである。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
横×幅が7cm×5cm、高さが1mmの2枚のガラス基板(テンパックスガラス(Schott社製))を用意した。
1枚のガラス基板に超音波ドリル加工の方法を用いて、反応流路となる溝を形成した。溝の大きさは、深さ0.5mm、幅0.3mm、長さ2.4mとした。
その後、両基板を接合する接合面に対し、スーパーポリッシュ(不織布と酸化セリウムを用いた両面ポリッシュ)し、2枚のガラス基板を前述のオプティカルコンタクト法により接合させ、平板状の小型反応器を得た。
次に、曲率55mmの凸型アルミナ製金型上に、上記平板状の小型反応器を置き、毎分2℃の割合で800℃まで加熱した。
小型反応器が変形し始めた段階で、加熱を停止し、30分その状態で保持した。これにより、小型反応器が金型の形状に倣った。そのまま放置し、室温まで除冷した。
その結果、弧状に湾曲した形状の小型反応器が形成された(
図8A)。
この小型反応器に試料を流し、反応流路がスムーズに導通していることを確認した。
【0042】
(実施例2)
実施例1と同様にして、平板状の小型反応器を得た。
次に、曲率半径15mmで、所望の形状が得られるよう成型したアルミナ製金型上に、上記平板状の小型反応器を置き、毎分2℃の割合で800℃まで加熱した。
小型反応器が変形し始めた段階で、加熱を停止し、30分その状態で保持した。これにより、小型反応器が金型の形状に倣った。
そのまま放置し、室温まで除冷した。
その結果、弧状に湾曲した形状の小型反応器が形成された(
図8B)。
この小型反応器に試料を流し、反応流路がスムーズに導通していることを確認した。
図8Bの小型反応器を用い、試料を流した時の様子を見た写真を
図9A及びBに示す。
図9Aは、上から見た、
図9Bは、斜めから見た写真である。反応流路がスムーズに導通していることを示すため、気体と液体を交互に流し、液体には、青色の着色を施した。
図9A及びBにおいて、反応流路に交互に表れる濃い色の部分が、青色の液滴であり、液滴に挟まれた無色の部分が、気体である。写真から、反応流路がスムーズに導通していることが確認できる。
図2で示すように、高圧水銀灯の円筒型光源の円周上に、上記で得られた小型反応器を2つ配置し、この小型反応器に試料を流し、化学反応が良好に行われることを確認した。
【0043】
(実施例3)
実施例2において作製された、弧状に湾曲した形状の小型反応器と、その湾曲させる前の平板状の小型反応器とを用い、湾曲させることによる効果を確認した。
下記に示すように2種類の波長の違う光源(東芝ライテック社製4W蛍光灯型)を用い、両小型反応器における反応流路の中心部から光源までの距離が約12mmとなるように、光源に対しそれぞれの小型反応器を配置し実験をおこなった。
実験は、光酸化反応としてよく知られている安息香酸の合成で、tert−ブチルトルエンに0.12等量の増感剤を溶解し酢酸エチルにて希釈させ基質とし酸素との気液スラグ流として流路に流し紫外線照射することにより反応させ、tert−ブチル安息香酸を生成させる気液反応の実験で、収率を確認した。
該収率は、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC−MS)にて定量して求めた。
結果は、以下に示すとおりになった。
1)波長:254nm
平板状の小型反応器 収率:1.7%
本発明の湾曲形状の小型反応器 収率:2.42%
2)波長:350nm
平板状の小型反応器 収率:1.45%
本発明の湾曲形状の小型反応器 収率:1.94%
4Wという弱い光源で実験したため、収率自体の数値は低いものの、その低い収率にあって、本発明の湾曲形状の小型反応器を用いると、収率を向上させることができる。上記結果で示すとおり、本発明の湾曲形状の小型反応器を用いることにより、波長254nmの方は、0.72%も収率を改善でき(上昇率としては、(0.72/1.7)×100=42.4%)、波長350nmの方は、0.49%も収率を改善できる(上昇率としては、(0.49/1.45)×100=33.8%)ことが確認できた。
【0044】
本発明の小型反応器を用いた反応装置とすることで、光源として、ナトリウムランプ、高圧水銀ランプなどの汎用光源を使用する場合にも、光源の形状に小型反応器を合わせることができ、光を均一にあてるための付加的な装置は特に必要なく、安価で簡便な装置で、光反応を安定して効率よく行うことができる反応装置を提供することができる。