特許第6407030号(P6407030)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6407030排気ガス浄化用触媒及び排気ガス浄化用触媒構成体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6407030
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】排気ガス浄化用触媒及び排気ガス浄化用触媒構成体
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/44 20060101AFI20181004BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20181004BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20181004BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   B01J23/44 AZAB
   B01J23/89 A
   B01D53/94 222
   F01N3/10 A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-561663(P2014-561663)
(86)(22)【出願日】2014年11月10日
(86)【国際出願番号】JP2014079750
(87)【国際公開番号】WO2015083498
(87)【国際公開日】20150611
【審査請求日】2017年8月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-251530(P2013-251530)
(32)【優先日】2013年12月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】永尾 有希
(72)【発明者】
【氏名】岩倉 大典
(72)【発明者】
【氏名】井上 美知代
(72)【発明者】
【氏名】中原 祐之輔
(72)【発明者】
【氏名】町田 正人
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/039037(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/005375(WO,A1)
【文献】 特開平07−031879(JP,A)
【文献】 特開2013−075286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/86
B01D 53/94
F01N 3/00 − 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ酸アルミニウムに対し、Zr、Si、FeおよびTiを含む群から選択される元素の酸化物のうち少なくとも一種の酸化物を含有する修飾ホウ酸アルミニウムを含む担体と、該担体に担持された白金族元素とを含み、前記酸化物の濃度が、修飾ホウ酸アルミニウムの質量を基準として、0.06質量%〜18質量%であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記担体に担持された白金族元素は、Pd、Pt、Rh又はRuの何れか一種、あるいは二種以上であることを特徴とする請求項1に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
セラミックス又は金属材料からなる触媒支持体と、該触媒支持体上に担持されている請求項1又は2に記載の排気ガス浄化用触媒の層とを含むことを特徴とする排気ガス浄化用触媒構成体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排気ガス浄化用触媒及び排気ガス浄化用触媒構成体に関し、より詳しくは、耐硫黄性に優れた排気ガス浄化用触媒及び排気ガス浄化用触媒構成体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関から排出される排気ガス中には炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)等の有害成分が含まれている。それで、従来から、これらの有害成分を浄化して無害化するために三元触媒が用いられている。
【0003】
このような三元触媒においては、触媒活性成分としてPt、Pd、Rh等の貴金属が用いられており、担体としてアルミナ、セリア、ジルコニアや酸素吸蔵能力を持つセリア−ジルコニア複合酸化物等が用いられており、触媒支持体としてセラミックス又は金属材料からなるハニカム、板、ペレット等の形状のものが用いられている。
【0004】
自動車排気ガスの規制強化に伴い、内燃機関排気ガス浄化用触媒の主要触媒活性成分であるPt及びRhの需要が増大し、価格が高騰したことを受け、特にRhについて価格変動の影響が大きいので、貴金属の中でも廉価であるPdへの代替化が望まれ、比較的安価なPdを触媒活性成分として利用することにより排気ガス浄化用触媒のコストを削減することが検討され、種々の手段が提案されている。その中で、担体としてホウ酸アルミニウムを用いた例もあり、ホウ酸アルミニウムウィスカーによって外側が覆われその内部に中空部が形成された粉状体を含む圧粉体に触媒成分を担持させることで、処理される排気ガスのガス拡散性の向上によって、従来より優れた触媒性能が得られるものである(特許文献1参照)。しかしながら、ホウ酸アルミニウムのウィスカーは針状であるので比表面積が小さいため、排気ガス浄化用触媒として用いられる際に発生する貴金属の凝集が避けられず、耐久性に問題がある。そこで、このような問題を解消するものとして、本出願人は、先に、担体として特定のホウ酸アルミニウムを用いた触媒を開発した(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−370035号公報
【特許文献2】特開2012−16685号公報
【特許文献3】特開2013−75286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、触媒に含まれるPd成分は排ガス中に含まれる硫黄(S)成分により、触媒性能が低下することが知られており、耐硫黄性を向上させることは排ガス触媒開発において大きな課題である。
【0007】
本発明の目的は、担体としてホウ酸アルミニウムを用い、耐硫黄性に優れた排気ガス浄化用触媒及び排気ガス浄化用触媒構成体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、ケージ型構造を有するホウ酸アルミニウムに対し、ZrO、SiO、Fe、TiOなど酸性元素を有する化合物を修飾することにより、耐硫黄性が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の一の態様は、ホウ酸アルミニウムに対し、Zr、Si、FeおよびTiを含む群から選択される元素の酸化物のうち少なくとも一種(以下、「修飾元素」という)の酸化物を含有する修飾ホウ酸アルミニウムを含む担体と、該担体に担持された白金族元素とを含み、前記酸化物の濃度が、修飾ホウ酸アルミニウムの質量を基準として、0.06質量%〜18質量%であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒にある。
【0010】
ここで、前記担体に担持された白金族元素は、Pd、Pt、Rh又はRuの何れか一種、あるいは二種以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の他の態様は、セラミックス又は金属材料からなる触媒支持体と、該触媒支持体上に担持されている上記排気ガス浄化用触媒の層とを含むことを特徴とする排気ガス浄化用触媒構成体にある。
【0012】
なお、ホウ酸アルミニウムの特性及びその製造方法等については、例えば、Siba P. Ray,“Preparation and Characterization of Aluminum Borate”, J. Am. Ceram. Soc., 75〔9〕, p2605-2609 (1992)等に記載されている。
【0013】
従来は、ホウ酸アルミニウムは化学分析により式9Al・2B(Al1833)で表示されていたが、Martin等,“Crystal-chemistry of mullite - type aluminoborates Al18B4O33 and Al5BO9:A stoichiometry puzzle”, Journal of Solid State Chemistry 184(2011) 70-80 には、結晶構造解析によればホウ酸アルミニウムはAlBO(5Al:B、Al2036)、すなわち、式10Al・2Bで表示されること、ホウ酸アルミニウムに対しては9Al・2B(Al1833)及びAlBO(5Al:B、Al2036)の両方が許容されること(即ち、同一物質であること)が記載されている。
【0014】
よって、本発明で用いるホウ酸アルミニウムは、式10Al・2B(5Al:B、Al2036)で表示されるもの、又は式9Al・2B(Al1833)で表示されるものを包含するものである。かかるホウ酸アルミニウムは、X線回折によって式10Al・2Bで表わされるホウ酸アルミニウムであると同定できるが、他の存在形態としてX線回折の標準チャートとして式9Al・2B(Al1833)としても存在し得るものである。すなわち、式10Al・2Bまたは式9Al・2B(Al1833)と同定できるもののうち少なくともいずれか一方、または双方を含むものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の排気ガス浄化用触媒は、耐硫黄性に優れ、かつ硫黄被毒後の浄化性能に優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の排気ガス浄化用触媒で用いる担体は、ホウ酸アルミニウムに、Zr、Si、FeおよびTiを含む群から選択される元素の酸化物のうち少なくとも一種の酸化物を含有した修飾ホウ酸アルミニウムを含む。このような修飾ホウ酸アルミニウムは、表面に酸性元素が存在し、表面の酸性が強くなるので、硫黄によりアタックされ難くなると推定され、これにより、担持されているPd等の白金族元素の失活が防止される。なお、ホウ酸アルミニウムは、ケージ型構造を有するものが好ましい。
【0017】
修飾ホウ酸アルミニウム粒子は、水銀ポロシメーターにより測定された対数微分空隙容積分布において、空隙容積径20nm〜100nmの範囲に細孔ピークを有することが好ましく、その中でも空隙容積径25nm〜70nmの範囲に細孔ピークを有することがさらに好ましい。当該細孔ピークが空隙容積径20nm以上の範囲に存在すると、排気ガス中に含まれる硫黄分の蓄積による空隙の閉塞が生じ難くなり、耐硫黄性に優れたものとなる。よって、触媒に担持した貴金属の触媒性能が低下するのを効果的に抑制することができる。他方、細孔ピークが空隙容積径100nmに存在するように製造するのが製造上の限界と考えられる。
【0018】
ここで、白金族元素としては、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)を挙げることができ、このうち少なくとも一種、あるいは二種以上の白金族元素を本発明の排気ガス浄化用触媒に用いることができる。 また、本発明は、Pdを含む排気ガス浄化用触媒に適用させるのが効果的である。
【0019】
修飾元素の酸化物の含有濃度は、前記酸化物を担持させた修飾ホウ酸アルミニウムに対し、0.06〜18質量%が好ましく、より好ましくは、0.10〜10質量%であるのが望ましい。この範囲より少ないと、含有の効果が十分に顕著には発揮されず、一方、この範囲より多いと、表面に存在する酸化物上に白金族元素が担持されてしまい、活性種としての効果が低減することになるからである。なお、修飾元素の酸化物はそれぞれの酸化物の結晶構造を有していても、非結晶の状態のいずれでも本発明の排気ガス浄化用触媒に用いることができる。
【0020】
本発明の排気ガス浄化用触媒は、上記修飾ホウ酸アルミニウムを含む担体に白金族の元素を担持させたものである。白金族元素の担持量は白金族元素のメタルの質量に換算して担体の質量を基準にして好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.2〜4質量%である。修飾ホウ酸アルミニウムにPd等の白金族元素を担持させることにより、酸素貯蔵能力を有するCeO−ZrOに白金族元素を担持させた場合やLa安定化アルミナに白金族元素を担持させた場合よりも、高温耐久後の白金族元素の分散度劣化率が抑えられ、高温耐久後の白金族元素のシンタリングの抑制が図られる。
【0021】
本発明の排気ガス浄化用触媒構成体は、セラミックス又は金属材料からなる触媒支持体上に上記の本発明の排気ガス浄化用触媒からなる層を形成させ、担持させたものである。その担持量は好ましくは70〜350g/L、より好ましくは100〜300g/Lである。このような排気ガス浄化用触媒構成体においては、セラミックス又は金属材料からなる触媒支持体の形状は、特に限定されるものではないが、一般的にはハニカム、板、ペレット等の形状であり、好ましくはハニカム形状である。また、このような触媒支持体の材質としては、例えば、アルミナ(Al)、ムライト(3Al−2SiO)、コージェライト(2MgO−2Al−5SiO)等のセラミックスや、ステンレス等の金属材料を挙げることができる。
【0022】
本発明の排気ガス浄化用触媒構成体の態様の一例としては、セラミックス又は金属材料からなる触媒支持体上に上記の本発明の排気ガス浄化用触媒を含む層を下層として担持させた後、その層の上にRhを含有する触媒層を形成させたものが挙げられる。この場合、下層の触媒に担持させる白金族元素としてPdを選択する。Rhを含む触媒層におけるRhの担持量はRhを含む触媒層中の担体、例えば、酸化ジルコニウムや酸化アルミニウムの質量を基準にして好ましくは0.05〜2.0質量%、より好ましくは0.05〜1.5質量%である。この形態の排気ガス浄化用触媒構成体においてはPd:Rhの比は好ましくは1:3〜50:1、より好ましくは1:2〜40:1である。また、下層の担持量は好ましくは70〜250g/L、より好ましくは100〜200g/Lであり、上層の担持量は耐熱性、下層へのガス拡散性、排圧等を考慮すると好ましくは30〜150g/L、より好ましくは50〜100g/Lである。
【0023】
本発明の排気ガス浄化用触媒の製造方法は、ホウ酸アルミニウムと、ZrO、SiO、FeO、Fe、FeおよびTiOを含む群から選択される少なくとも一種の酸化物を構成する元素、すなわち、Zr、Si、FeおよびTiを含む群から選択される少なくとも一種の元素を含む修飾元素含有化合物の溶液とを混合し、蒸発乾固させ、焼成して上記酸化物を含有するホウ酸アルミニウムを製造し、次いで、該修飾ホウ酸アルミニウムとPd化合物の溶液とを混合し、その後、蒸発乾固させ、焼成することにより作製する。その処理工程を以下に具体的に説明する。なお、本明細書、特許請求の範囲等の記載において、「溶液」を構成する溶媒は溶液を形成できるものであれば特には制限されないが、一般的には水が用いられる。
【0024】
本発明の排気ガス浄化用触媒の製造方法で用いる式10Al・2Bまたは式9Al・2B(Al1833)で表わされるホウ酸アルミニウムは市販されており、また実験室規模では、例えば次の方法で製造することができる。
【0025】
50℃の湯浴に浸した三口フラスコ中に溶媒(例えば、2−プロパノール、ブタノール、エタノール)1.5L、瑪瑙乳鉢にて粉砕したAlのアルコキシド(例えば、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムs−ブトキシド、アルミニウムt−ブトキシド、アルミニウムトリブトキシド、アルミニウムフェノキシド、アルミニウムエトキシエトキシエトキシド)200g、及びBのアルコキシド(例えば、ボロンn−プロポキシド、ボロントリメチルシロキシド、ボロンエトキシエトキシド、ボロンビニルジメチルシロキシド、ボロンアルリルオキシド、ボロンn−ブトキシド、ボロンt−ブトキシド、ボロンエトキシド、ボロンイソプロポキシド、ボロンメトキシド)40.9gを入れ、Nガスにて置換しながら攪拌する。Alのアルコキシドとしてアルミニウムイソプロポキシドを用いる場合には、アルミニウムイソプロポキシドが加水分解すると2−プロパノールが生成されるので、溶媒として2−プロパノールを用いることが製造上最も好ましい。Alのアルコキシドが完全に溶解した後、溶媒(例えば、2−プロパノール):水=1:1の混合溶液24.6gをゆっくり滴下して徐々に加水分解させると白いゲル状物質が生成する。得られた沈殿物をエタノールで洗浄し、次いで純水で洗浄し、ろ過した後、120℃で一晩(約15時間)乾燥させ、空気中300℃で3時間焼成した後、更に空気中1,000℃で5時間焼成して白色生成物であるホウ酸アルミニウムを得る。このホウ酸アルミニウムはX線回折によって式10Al・2Bあるいは式9Al・2B(Al1833)で表わされるホウ酸アルミニウムであると同定できる。
【0026】
よって、このようにホウ酸アルミニウムを製造する際に、ホウ酸アルミニウムを製造する原料とともに修飾元素含有化合物を混合し、修飾ホウ酸アルミニウムを製造することも可能である。
【0027】
本発明の排気ガス浄化用触媒の製造方法においては、ホウ酸アルミニウムと、修飾元素含有化合物(例えばオキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、コロイダルシリカ、テトラエトキシシラン(Tetra Ethoxy Silane:(TEOS))、硝酸鉄、硫酸鉄、酢酸鉄、塩化チタン(III)溶液、塩化チタン(IV溶液、チタニアゾル)の溶液や分散液とを混合する工程は、ホウ酸アルミニウム含有スラリーと修飾元素含有化合物の溶液や分散液とを混合しても、修飾元素含有化合物の溶液や分散液中にホウ酸アルミニウムを添加してもよい。
【0028】
その後、修飾元素の酸化物がホウ酸アルミニウムの表面にほぼ均一に付着するようにして120℃で一晩(約15時間)蒸発乾固させ、次いで空気中600℃で3時間焼成して、酸化物で修飾された修飾ホウ酸アルミニウム、即ち本発明の排気ガス浄化用触媒のための担体を得る。
【0029】
上記のようにして得られた修飾ホウ酸アルミニウムを次いで白金族元素の化合物(可溶性の化合物、例えばPdであれば、硝酸Pd、塩化Pd、硫酸Pd)の溶液と混合する。この際、三元触媒において普通に使用されている通常の担体や酸素貯蔵能力(OSC)を有するCeO−ZrO等の担体を共存させることもできる。この際、白金族元素としては少なくとも一種以上を用いるが、二種以上の白金族元素を同時に担持させてもよい。
【0030】
ここで、本発明で用いる修飾ホウ酸アルミニウムに含まれる修飾元素の酸化物や化合物は、ホウ酸アルミニウムのホウ素やアルミニウムの一部を置換して存在するものでも良いが、置換したものでないことがより望ましい。これらの酸化物や化合物はホウ酸アルミニウムに担持又は表面に修飾した形態で存在するものが望ましく、例えば結晶粒界などに酸化物等として存在する。このような酸化物や化合物は、XRDなどで観察すると、ホウ酸アルミニウムのピークシフトは観察されず、修飾元素の酸化物や化合物の固有のピークが観察される。
【0031】
その後、白金族元素の化合物が担体の表面にほぼ均一に付着するようにして120℃で一晩(約15時間)蒸発乾固させ、次いで空気中600℃で3時間焼成して、修飾ホウ酸アルミニウムに白金族元素が担持されている本発明の排気ガス浄化用触媒を得る。
【0032】
本発明の排気ガス浄化用触媒構成体は、例えば、次の方法によって製造することができる。修飾ホウ酸アルミニウム、バインダー、所望により酸素貯蔵能力を有するCeO−ZrO等の担体、及びPd等白金族元素の化合物の溶液を混合し、湿式粉砕処理してスラリーを調製する。得られたスラリーを、周知の方法に従って、セラミックス又は金属材料からなる触媒支持体、好ましくはハニカム形状の触媒支持体に塗布し、乾燥させ、焼成して、触媒支持体と、該触媒支持体上に担持されている排気ガス浄化用触媒の層とを含む排気ガス浄化用触媒構成体を得る。この触媒層の上に更にRh触媒層を有する排気ガス浄化用触媒構成体も同様に製造することができる。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0034】
(ホウ酸アルミニウムの製造)
50℃の湯浴に浸した三口フラスコ中に2−プロパノール1.5L、瑪瑙乳鉢にて粉砕したアルミニウムイソプロポキシド200g及びボロンn−プロポキシド40.9gを入れ、Nガスにて置換しながら攪拌した。アルミニウムイソプロポキシドが完全に溶解した(溶液が透明になった)後、2−プロパノール:水=1:1の混合溶液24.6gをゆっくり滴下して徐々に加水分解させると白いゲル状物質が生成した。得られた沈殿物をエタノールで洗浄し、次いで純水で洗浄し、ろ過した。その後、120℃で一晩(約15時間)乾燥し、空気中300℃で3時間焼成し、更に空気中1,000℃で5時間焼成して白色生成物であるホウ酸アルミニウムを得た。このホウ酸アルミニウムはX線回折によって式10Al・2Bで表わされるホウ酸アルミニウムであると同定できた。
【0035】
(実施例1)
上述した通り製造したホウ酸アルミニウムをオキシ硝酸ジルコニル水溶液中に浸漬させた。このオキシ硝酸ジルコニル水溶液中のオキシ硝酸ジルコニルの量は、目的とするZrOで修飾された式10Al・2Bで表わされるホウ酸アルミニウム中のZrOの量が1質量%となる量とした。その後、120℃で一晩(約15時間)蒸発乾固させ、空気中600℃で3時間焼成して1質量%のZrOで修飾された式10Al・2Bで表わされるホウ酸アルミニウムを得た。
【0036】
1質量%のZrOを含有する修飾ホウ酸アルミニウムを99質量部と、Pdとしてメタル換算で1質量部に相当する硝酸Pdと、適量のイオン交換水とを添加したスラリーを撹拌し、その後、乾燥させ、500℃、1時間焼成し、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0037】
(実施例2)
上述した通り製造したホウ酸アルミニウムをコロイダルシリカ(スノーテックスO40)中に浸漬させた。このコロイダルシリカの量は、目的とするSiOで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のSiOを1質量%とした。後の処理は実施例1と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0038】
(実施例3)
上述した通り製造したホウ酸アルミニウムを硝酸鉄水溶液中に浸漬させた。この硝酸Fe水溶液の硝酸Feの量は、目的とするFeで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のFeが1質量%とした。後の処理は実施例1と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0039】
(実施例4)
上述した通り製造したホウ酸アルミニウムを塩化チタン(III)溶液中に浸漬させた。この塩化チタン(III)溶液中の塩化チタンの量は、目的とするTiOで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のTiOが1質量%とした。後の処理は実施例1と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0040】
(実施例5)
目的とするSiOで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のSiOを0.06質量%とした以外は、実施例2と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0041】
(実施例6)
目的とするSiOで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のSiOを0.10質量%とした以外は、実施例2と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0042】
(実施例7)
目的とするSiOで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のSiOを0.50質量%とした以外は、実施例2と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0043】
(実施例8)
目的とするSiOで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のSiOを5.00質量%とした以外は、実施例2と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0044】
(実施例9)
目的とするSiOで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のSiOを10.00質量%とした以外は、実施例2と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0045】
(実施例10)
目的とするSiOで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のSiOを18.00質量%とした以外は、実施例2と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0046】
(実施例11)
目的とするFeで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のFeを0.06質量%とした以外は、実施例3と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0047】
(実施例12)
目的とするFeで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のFeを0.10質量%とした以外は、実施例3と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0048】
(実施例13)
目的とするFeで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のFeを0.50質量%とした以外は、実施例3と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0049】
(実施例14)
目的とするFeで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のFeを5.00質量%とした以外は、実施例3と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0050】
(実施例15)
目的とするFeで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のFeを10.00質量%とした以外は、実施例3と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0051】
(実施例16)
目的とするFeで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のFeを18.00質量%とした以外は、実施例3と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0052】
(比較例1)
上述した通り製造したホウ酸アルミニウムを99質量部と、Pdとしてメタル換算で1質量部に相当する硝酸Pdと、適量のイオン交換水とを添加したスラリーを撹拌し、その後、乾燥させ、500℃、1時間焼成し、Pdを担持したホウ酸アルミニウムを得た。
【0053】
(比較例2)
目的とするSiOで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のSiOを0.03質量%とした以外は、実施例2と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0054】
(比較例3)
目的とするSiOで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のSiOを20.00質量%とした以外は、実施例2と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0055】
(比較例4)
目的とするFeで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のFeを0.03質量%とした以外は、実施例3と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0056】
(比較例5)
目的とするFeで修飾された修飾ホウ酸アルミニウム中のFeを20.00質量%とした以外は、実施例3と同様とし、Pdを担持した修飾ホウ酸アルミニウムを得た。
【0057】
〈触媒性能評価方法〉
各実施例および各比較例のサンプルについて、固定床流通型反応装置を用いて模擬排ガスの浄化性能を測定した。反応管に触媒粉を100mgセットし、CO,CO,C,H,O,NO,HOおよびNバランスから成る完全燃焼を想定した模擬排ガスを、総流量1000cc/minで触媒粉に導入した。10℃/minで500℃まで反応管と触媒粉を昇温し、その後にガス成分の測定を行った。
【0058】
出口ガス成分は、CO/NO分析計(株式会社 堀場製作所製 「PG240」)及びHC分析計(株式会社 島津製作所製 「VMF−1000F」)を用いて測定した。
【0059】
各触媒のS被毒を模したAgingは250℃×20H 、O=20%、HO=10%、SO=100ppmで行った。
【0060】
〈白金族元素の分散度評価方法〉
白金族元素として用いたPdの分散度を公知手段であるCOパルス吸着法(T. Takeguchi、S. Manabe、R. Kikuchi、K. Eguchi、T. kanazawa、S. Matsumoto、Applied Catalysis A:293(2005)91.)に基づいて測定した。このPd分散度は式Pd分散度=CO吸着量に相当するPd量(モル)/含まれているPdの総量により計算される。
【0061】
〈触媒性能評価結果及びPdの分散度測定結果〉
表1は硫黄被毒Aging後の各触媒のCO、HC、NOの50%浄化したときの温度(T50)である。この結果から、各実施例1〜16は比較例1に対して、低温(150℃)活性が優れることがわかった。また、修飾酸化物の含有量が0.03質量%である比較例2及び4では、比較例1との差が顕著ではないが、実施例5および11のように0.06質量%含有すると、差が顕著になることがわかった。これに対し、修飾酸化物の含有量が20質量%となる比較例3および5では、触媒の低温活性が比較例1より劣化しており、修飾酸化物の含有量が20質量%と多いと、かえって低温活性が劣ることがわかった。なお、20質量%より少ない範囲では、低温活性が向上し、18質量%の実施例10、16では比較例1より優れることがわかった。
【0062】
ここで、硫黄被毒は触媒性能評価方法でのS被毒方法と同様に各触媒のS被毒を模したAgingとし、250℃×20H、O=20%、HO=10%、SO=100ppmで行った。
【0063】
表1右端は各触媒のS被毒Aging後のPd分散度の評価結果である。これを見ると、各実施例1〜16は比較例1に対して、Pd分散度が高いことがわかった。また、修飾酸化物の含有量が0.03質量%である比較例2及び4では、比較例1との差が顕著ではないが、実施例5および11のように0.06質量%含有すると、差が顕著になることがわかった。これに対し、修飾酸化物の含有量が20質量%となる比較例3および5では、触媒の低温活性が比較例1と同等又は劣化しており、修飾酸化物の含有量が20質量%と多いと、かえってPd分散率が劣ることがわかった。なお、20質量%より少ない範囲では、Pd分散率が向上し、18質量%である実施例10、16では比較例1より優れることがわかった。
【0064】
【表1】