特許第6407076号(P6407076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6407076位置決め装置のパラメータ設定方法、及び位置決め装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6407076
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】位置決め装置のパラメータ設定方法、及び位置決め装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 3/12 20060101AFI20181004BHJP
【FI】
   G05D3/12 T
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-61912(P2015-61912)
(22)【出願日】2015年3月25日
(65)【公開番号】特開2016-181193(P2016-181193A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2017年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104662
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智司
(72)【発明者】
【氏名】石井 眞二
(72)【発明者】
【氏名】寺田 祐貴
【審査官】 牧 初
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−148178(JP,A)
【文献】 特開2003−53643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 3/00− 3/20
H02P 23/00−23/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動対象物が装着される移動台を、回転移動又は直線移動させる移動装置の駆動モータを制御して、前記移動台を指令された目標位置に位置決めする位置決め装置の制御パラメータを設定する方法であって、
少なくとも早送り時定数、速度ゲイン及び制振フィルタの除去周波数帯域に係る制御パラメータを設定するパラメータ設定方法において、
前記移動対象物が装着された移動台を移動させて、前記移動装置に生じる共振周波数を検出する共振周波数検出処理、並びに前記移動対象物が装着された移動台を移動させて、前記移動装置に作用するイナーシャを推定するイナーシャ推定処理を実行するとともに、検出された共振周波数に応じて前記制振フィルタの除去周波数帯域及び速度ゲインを設定し、推定されたイナーシャに応じて前記早送り時定数を設定するようにしたことを特徴とする位置決め装置のパラメータ設定方法。
【請求項2】
まず、前記共振周波数検出処理を実行して、得られた共振周波数を基に、前記制振フィルタの除去周波数帯域を仮設定し、
次に、除去周波数帯域が仮設定された制振フィルタの下で前記イナーシャ推定処理を実行して、得られたイナーシャを基に前記早送り時定数を設定し、
次に、除去周波数帯域が仮設定された制振フィルタ及び設定された早送り時定数の下で、共振周波数検出処理を実行して、得られた共振周波数を基に、前記制振フィルタの除去周波数帯域を本設定するとともに、前記速度ゲインを設定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の位置決め装置のパラメータ設定方法。
【請求項3】
まず、前記イナーシャ推定処理を実行して、得られたイナーシャを基に前記早送り時定数を設定するとともに、前記速度ゲインを仮設定し、
次に、設定された早送り時定数、及び仮設定された速度ゲインの下で、共振周波数検出処理を実行して、得られた共振周波数を基に、前記制振フィルタの除去周波数帯域を設定するとともに、前記速度ゲインを本設定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の位置決め装置のパラメータ設定方法。
【請求項4】
移動対象物が装着される移動台を、回転移動又は直線移動させる移動装置の駆動モータを制御して、前記移動台を指令された目標位置に位置決めする位置決め装置であって、
前記目標位置を基に位置指令を生成して出力するとともに、少なくとも早送り移動の場合には、早送り時定数に従った位置指令を生成して出力する位置指令生成部と、
前記位置指令生成部から出力された位置指令を入力し、入力した位置指令、及び位置ゲインを基に速度指令を生成して出力する位置制御部と、
前記位置制御部から出力された速度指令を入力し、入力した速度指令、及び速度ゲインを基にトルク指令を生成して出力する速度制御部と、
前記速度制御部から出力されたトルク指令を入力し、入力したトルク指令から特定の周波数帯域の成分を除去して出力する制振フィルタと、
前記制振フィルタから出力されたトルク指令を入力し、入力したトルク指令、及びトルクゲインを基に、前記駆動モータの駆動トルクに係る信号を生成して出力するトルク制御部とを備えた位置決め装置において、
更に、少なくとも前記早送り時定数、速度ゲイン、制振フィルタの除去周波数帯域を設定するパラメータ設定部を備えてなり、
前記パラメータ設定部は、前記移動対象物が装着された移動台を移動させて、前記移動装置に生じる共振周波数を検出する共振周波数検出処理、並びに前記移動対象物が装着された移動台を移動させて、前記移動装置に作用するイナーシャを推定するイナーシャ推定処理を実行するとともに、検出された共振周波数に応じて前記制振フィルタの除去周波数帯域及び速度ゲインを設定する処理と、推定されたイナーシャに応じて前記早送り時定数を設定する処理とを実行するように構成されていることを特徴とする位置決め装置。
【請求項5】
前記パラメータ設定部は、
まず、前記共振周波数検出処理を実行して、得られた共振周波数を基に、前記制振フィルタの除去周波数帯域を仮設定する処理を実行し、
次に、除去周波数帯域が仮設定された制振フィルタの下で前記イナーシャ推定処理を実行して、得られたイナーシャを基に前記早送り時定数を設定する処理を実行し、
次に、除去周波数帯域が仮設定された制振フィルタ及び設定された早送り時定数の下で、共振周波数検出処理を実行して、得られた共振周波数を基に、前記制振フィルタの除去周波数帯域を本設定するとともに、前記速度ゲインを設定する処理を実行するように構成されていることを特徴とする請求項4記載の位置決め装置。
【請求項6】
前記パラメータ設定部は、
まず、前記イナーシャ推定処理を実行して、得られたイナーシャを基に前記早送り時定数を設定するとともに、前記速度ゲインを仮設定する処理を実行し、
次に、設定された早送り時定数、及び仮設定された速度ゲインの下で、共振周波数検出処理を実行して、得られた共振周波数を基に、前記制振フィルタの除去周波数帯域を設定するとともに、前記速度ゲインを本設定する処理を実行するように構成されていることを特徴とする請求項4記載の位置決め装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動対象物が装着される移動台を回転移動又は直線移動させる移動装置を位置決め制御する位置決め装置、並びにこの位置決め装置で用いられるパラメータを設定するパラメータ設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上述した位置決め装置は、例えば、工作機械の分野では、送り装置や回転テーブルの位置制御として一般的に用いられており、その一例を挙げると、特開2009−101444号公報(下記特許文献1)に開示された位置決め装置が知られている。
【0003】
この特許文献1に開示された位置決め装置は、5軸制御立形マシニングセンタ等の工作機械に設けられるトラニオン構造の二軸ユニットを制御するもので、関数発生部、位置制御部、速度制御部及びトルク/電流制御部を備え、トルク/電流制御部から出力される信号に応じて、トラニオンを回転させるモータを制御する。
【0004】
具体的には、この位置決め装置では、NC装置から出力されたNC指令に基づいて関数発生部により位置指令が生成され、生成された位置指令及び位置ゲインを基に位置制御部によって速度指令が生成され、生成された速度指令及び速度ゲインを基に速度制御部によってトルク指令が生成され、生成されたトルク指令及びトルクゲインを基にトルク/電流制御部によって駆動トルクに係る信号が生成され、この信号に応じた電流がモータに供給されて、当該モータが駆動される。
【0005】
また、この位置決め装置では、トラニオンの弾性変形による角度誤差を算出して補正する角度誤差推定装置が設けられており、この角度誤差推定装置により、下式に従って角度誤差Δθが算出される。
Δθ=(T−J・α)/KθR
但し、Jは旋回軸部や軸受のイナーシャ、Tは速度制御部から出力されるトルク指令、αは回転角加速度、KθRはねじり剛性係数である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−101444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した従来の位置決め装置では、関数発生部において位置指令を生成する際に、早送り移動の場合には早送り時定数が用いられ、また、位置制御部では位置ゲイン、速度制御部では速度ゲイン、トルク/電流制御部ではトルクゲインがそれぞれ用いられており、安定した制御を実現するためには、これら早送り時定数、位置ゲイン、速度ゲイン及びトルクゲインといった制御パラメータを適切に設定する必要がある。
【0008】
また、上記特許文献1には開示されていないが、速度制御部とトルク/電流制御部との間には、一般的に制振フィルタが設けられており、速度制御部から出力されたトルク指令は、制振フィルタを経ることによって、特定の周波数帯域の振動成分が除去された後、トルク/電流制御部に入力される。そして、この制振フィルタに設定される除去周波数帯域も制御パラメータであり、安定した制御を実現するためには、これを適切に設定する必要がある。
【0009】
そこで従来、このような制御パラメータは、当該工作機械に設定された加工上の仕様、例えば、被加工物の最大の大きさ、最大重量や最大加工負荷等に応じて、好適な加工が実現されるように、工作機械メーカによって予め設定されていた。
【0010】
ところが、近年では、ユーザサイドで取り扱う被加工物の材料や形状が多種多様となっており、この影響を受けて、上述した位置決め制御に様々な問題が生じている。例えば、ユーザが極めて薄い肉厚の被加工物を加工する場合には、これを移動させた際に当該被加工物が振動し、この振動(外乱振動)の影響を受けて位置決め制御系が振動するという問題を生じる。また、ユーザの取り扱う被加工物の重量が想定された最大重量を超える場合には、これを設定された早送り加速度で移動させると、モータに想定以上のトルクをかける必要があり、通常、制御系にはトルクの上限が設定されているため、モータトルクが飽和して制御不能となり、制御系にハンチングやオーバシュートといった振動が生じる。
【0011】
このような問題を解決するためには、上述した制御パラメータのうち、少なくとも早送り時定数、速度ゲイン及び制振フィルタの除去周波数帯域について、これを取り扱う被加工物に応じて再度適切な値に設定し直す必要があるが、従来、この制御パラメータの再設定は、試行錯誤的な手法、即ち、上記制御パラメータをそれぞれ少しずつ変更して動作させてみるといった手法に頼る他はなく、このため、上述した問題を迅速に解決することができないという問題があった。
【0012】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、試行錯誤的な手法に依らないで、取り扱う対象物に応じた適切な制御パラメータを迅速に再設定することが可能な、位置決め装置のパラメータ設定方法、及び当該位置決め装置の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明の方法発明は、
移動対象物が装着される移動台を、回転移動又は直線移動させる移動装置の駆動モータを制御して、前記移動台を指令された目標位置に位置決めする位置決め装置の制御パラメータを設定する方法であって、
少なくとも早送り時定数、速度ゲイン及び制振フィルタの除去周波数帯域に係る制御パラメータを設定するパラメータ設定方法において、
前記移動対象物が装着された移動台を移動させて、前記移動装置に生じる共振周波数を検出する共振周波数検出処理、並びに前記移動対象物が装着された移動台を移動させて、前記移動装置に作用するイナーシャを推定するイナーシャ推定処理を実行するとともに、検出された共振周波数に応じて前記制振フィルタの除去周波数帯域及び速度ゲインを設定し、推定されたイナーシャに応じて前記早送り時定数を設定するようにした、位置決め装置のパラメータ設定方法に係る。
【0014】
また、本発明の装置発明は、
移動対象物が装着される移動台を、回転移動又は直線移動させる移動装置の駆動モータを制御して、前記移動台を指令された目標位置に位置決めする位置決め装置であって、
前記目標位置を基に位置指令を生成して出力するとともに、少なくとも早送り移動の場合には、早送り時定数に従った位置指令を生成して出力する位置指令生成部と、
前記位置指令生成部から出力された位置指令を入力し、入力した位置指令、及び位置ゲインを基に速度指令を生成して出力する位置制御部と、
前記位置制御部から出力された速度指令を入力し、入力した速度指令、及び速度ゲインを基にトルク指令を生成して出力する速度制御部と、
前記速度制御部から出力されたトルク指令を入力し、入力したトルク指令から特定の周波数帯域の成分を除去して出力する制振フィルタと、
前記制振フィルタから出力されたトルク指令を入力し、入力したトルク指令、及びトルクゲインを基に、前記駆動モータの駆動トルクに係る信号を生成して出力するトルク制御部とを備えた位置決め装置において、
更に、少なくとも前記早送り時定数、速度ゲイン、制振フィルタの除去周波数帯域を設定するパラメータ設定部を備えてなり、
前記パラメータ設定部は、前記移動対象物が装着された移動台を移動させて、前記移動装置に生じる共振周波数を検出する共振周波数検出処理、並びに前記移動対象物が装着された移動台を移動させて、前記移動装置に作用するイナーシャを推定するイナーシャ推定処理を実行するとともに、検出された共振周波数に応じて前記制振フィルタの除去周波数帯域及び速度ゲインを設定する処理と、推定されたイナーシャに応じて前記早送り時定数を設定する処理とを実行するように構成された位置決め装置に係る。
【0015】
この位置決め装置によれば、まず、位置指令生成部により、前記目標位置を基に位置指令が生成され、少なくとも早送り移動の場合には、早送り時定数に従った位置指令が生成される。そして、位置制御部において、前記位置指令及び位置ゲインを基に速度指令が生成され、ついで、速度制御部において、前記速度指令及び速度ゲインを基にトルク指令が生成される。次に、生成されたトルク指令は、制振フィルタを経ることにより、特定の周波数帯域の成分が除去されてトルク制御部に入力され、このトルク制御部において、トルク指令及びトルクゲインを基に、前記駆動モータの駆動トルクに係る信号が生成され、この駆動トルクに係る信号に応じて駆動モータが制御される。斯くして、このようにして制御される駆動モータによって、移動対象物の装着された移動台が回転移動又は直線移動する。
【0016】
そして、この位置決め装置によれば、そのパラメータ設定部により、本発明に係るパラメータ設定方法が好適に実施される。即ち、前記パラメータ設定部により、まず、前記移動対象物が装着された移動台を移動させて、前記移動装置に生じる共振周波数を検出する共振周波数検出処理、並びに前記移動対象物が装着された移動台を移動させて、前記移動装置に作用するイナーシャを推定するイナーシャ推定処理が実行される。
【0017】
この共振周波数検出処理及びイナーシャ推定処理において、前記移動台を移動させる動作としては、例えば、前記位置指令生成部により、一定周波数の加振信号を生成して前記移動台を振動させる動作、前記位置指令生成部により、往復移動する信号を生成して前記移動台を往復移動させる動作、前記位置指令生成部により、一方向に所定距離又は角度だけ繰り返して移動させる信号を生成して、前記移動台を繰り返して移動させる動作を挙げることができる。また、この各動作において、徐々に移動量を増大させる、或いは徐々に移動速度を増大させる、或いは徐々に移動量及び移動速度を増大させるようにしても良い。
【0018】
そして、前記共振周波数検出処理では、例えば、前記トルク制御部からの出力信号である駆動トルク信号をFFT解析することにより、そのピーク周波数を共振周波数として検出する。また、イナーシャ推定処理では、例えば、前記トルク制御部から出力される駆動トルクをTとし、事前の実測値又は設計値である摩擦トルクをTとし、前記駆動モータの加速度の実測値をωとして、前記移動装置に作用するイナーシャJを、次式により推定する。
J=(T−T)/ω
【0019】
そして、パラメータ設定部は、検出された共振周波数に応じて前記制振フィルタの除去周波数帯域及び速度ゲインを設定し、また、推定されたイナーシャに応じて前記早送り時定数を設定する。
【0020】
斯くして、この位置決め装置に係るパラメータ設定部及びパラメータ設定方法によれば、移動台に装着される移動対象物に応じて移動装置に生じる共振周波数を検出するとともに、当該移動対象物に応じて移動装置に作用するイナーシャを推定し、ついで、検出された共振周波数に応じて前記制振フィルタの除去周波数帯域及び速度ゲインを設定し、また、推定されたイナーシャに応じて前記早送り時定数を設定するようにしているので、従来のような試行錯誤的な手法に比べて、迅速に、移動対象物に応じた適切な制御パラメータを設定(再設定)することができる。
【0021】
尚、上記位置決め装置に係るパラメータ設定部及びパラメータ設定方法では、以下の手順により、前記制御パラメータを設定するようにしても良い。
即ち、まず、前記共振周波数検出処理を実行して、得られた共振周波数を基に、前記制振フィルタの除去周波数帯域を仮設定し、
次に、除去周波数帯域が仮設定された制振フィルタの下で前記イナーシャ推定処理を実行して、得られたイナーシャを基に前記早送り時定数を設定し、
次に、除去周波数帯域が仮設定された制振フィルタ及び設定された早送り時定数の下で、共振周波数検出処理を実行して、得られた共振周波数を基に、前記制振フィルタの除去周波数帯域を本設定するとともに、前記速度ゲインを設定する。
【0022】
前記移動対象物が、移動によって振動を生じ易いものであれば、前記イナーシャ推定処理を実行する際に、移動装置に振動(外乱振動)が生じ、この外乱振動に係る振動周波数成分が制御系の信号に重畳されるため、制振フィルタの除去周波数帯域をこの振動周波数に設定して、当該振動周波数成分を除去しなければ、前記トルク制御部から出力される駆動トルクの最大値Tmax、及び駆動モータの最大加速度の実測値ωmaxを用いた上式の推定では、正しいイナーシャJを推定することができないと考えられる。
【0023】
そこで、まず、前記共振周波数検出処理を実行して、得られた共振周波数を基に、前記制振フィルタの除去周波数帯域を仮設定し、次に、除去周波数帯域が仮設定された制振フィルタを用いて前記イナーシャ推定処理を実行するようにすれば、イナーシャ推定処理の際に、制御系の信号に重畳された外乱に係る振動周波数成分を、制振フィルタによって適切に除去することができ、このようにして外乱振動の周波数成分を除去することによって、正しいイナーシャを推定することができるとともに、正しく推定されたイナーシャから適切な早送り時定数を設定することができる。
【0024】
そして、次に、除去周波数帯域が仮設定された制振フィルタ及び適切に設定された早送り時定数の下で、更に共振周波数検出処理を実行することによって、より正確な共振周波数を検出することができ、この正確な共振周波数から制振フィルタのより適切な除去周波数帯域が設定され、また、適切な速度ゲインが設定される。
【0025】
このように、この手順によれば、移動対象物が振動を生じ易いものでも、適切な制御パラメータを設定することができる。
【0026】
或いは、上記位置決め装置に係るパラメータ設定部及びパラメータ設定方法では、以下の手順により、前記制御パラメータを設定するようにしても良い。
即ち、まず、前記イナーシャ推定処理を実行して、得られたイナーシャを基に前記早送り時定数を設定するとともに、前記速度ゲインを仮設定し、
次に、設定された早送り時定数、及び仮設定された速度ゲインの下で、共振周波数検出処理を実行して、得られた共振周波数を基に、前記制振フィルタの除去周波数帯域を設定するとともに、前記速度ゲインを本設定する。
【0027】
前記移動対象物が振動を生じ難いものであれば、前記イナーシャ推定処理を実行する際に、外乱振動が生じ難いため、ある程度正確なイナーシャを推定することができる。したがって、イナーシャ推定処理を先に実行して得られたイナーシャから、適切な早送り時定数を設定することができ、また、適切な速度ゲインを仮設定することができる。
【0028】
そして、このようにして設定された早送り時定数、及び仮設定された速度ゲインを用いて共振周波数検出処理を実行することにより、正確な共振周波数を検出することができ、検出された正確な共振周波数を基に、制振フィルタの適切な除去周波数帯域を設定することができ、また、適切な速度ゲインの本設定を行うことができる。
【0029】
このように、この手順によれば、移動対象物が振動を生じ難いものである場合に、適切な制御パラメータを設定することができ、イナーシャ推定処理と共振周波数検出処理とをそれぞれ一度ずつ行う簡素な手順であるため、パラメータ設定をより迅速に行うことができる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明によれば、移動台に装着される移動対象物に応じて移動装置に生じる共振周波数を検出するとともに、当該移動対象物に応じて移動装置に作用するイナーシャを推定し、ついで、検出された共振周波数に応じて前記制振フィルタの除去周波数帯域及び速度ゲインを設定し、また、推定されたイナーシャに応じて前記早送り時定数を設定するようにしているので、従来のような試行錯誤的な手法に比べて、迅速に、移動対象物に応じた適切な制御パラメータを設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態に係る位置決め装置を示したブロック図である。
図2】本実施形態における制御対象の回転テーブルをモデル化して示した概略図である。
図3】本実施形態のパラメータ設定部における処理手順を示したフローチャートである。
図4】本実施形態のパラメータ設定部における他の処理手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の具体的な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る位置決め装置を示したブロック図であり、図2は、この位置決め装置の制御対象である回転テーブルをモデル化して示した概略図である。尚、この図2は、あくまでも抽象的な概念図であって、回転テーブルの具体的な構造を示したものではない。
【0033】
まず、本例の位置決め装置1の説明に先立って、制御対象である回転テーブルの概要について説明する。
【0034】
図2に示すように、本例の回転テーブル10は、テーブルベース11と、このテーブルベース11上に配設され、垂直な回転軸を中心として回転自在に設けられたテーブル18と、このテーブル18を、前記回転軸を中心として回転させるモータ12とを備える。モータ12は、テーブルベース11に固設されたステータ13と、前記テーブル18に固設された状態でステータ内に配置されるロータ14とからなる。また、このロータ14は、その前記回転軸を中心とした回転位置が、ロータ14の下面に設けられた部品17と、この部品17と対向するように前記ステータ13に設けられた部品16とから構成される位置検出器15によって検出される。尚、テーブル18には、適宜ワーク19が装着される。
【0035】
前記位置決め装置1は、図1に示すように、位置指令生成部2、位置制御部3、速度制御部4、ノッチフィルタ5、トルク制御部6、微分器7、パラメータ設定部8及びパラメータ記憶部9を備えている。
【0036】
前記位置指令生成部2は、入力された目標の回転位置及び回転速度を基に位置指令を生成して出力する処理を行う。尚、入力された回転速度が早送り速度である場合には、早送り時定数に従った位置指令を生成して出力する。
【0037】
前記位置制御部3は、前記位置指令生成部2から入力された位置指令と、前記回転テーブル10の位置検出器15から出力される現在位置信号との偏差、及び位置ゲインを基に速度指令を生成して出力する処理を行う。
【0038】
前記速度制御部4は、前記位置制御部3から入力された速度指令と、前記位置検出器15から出力され、微分器7により微分処理されて出力される現在速度信号との偏差、及び速度ゲインを基にトルク指令を生成して出力する処理を行う。
【0039】
前記ノッチフィルタ5は、前記速度制御部4から出力されたトルク指令を入力し、入力したトルク指令から特定の周波数帯域の成分を除去して出力するフィルタである。
【0040】
前記トルク制御部6は、前記ノッチフィルタ5から出力されたトルク指令を入力し、入力したトルク指令及びトルクゲインを基に、前記モータ12の駆動トルクに係る信号を生成して出力する処理を行う。
【0041】
また、前記パラメータ記憶部9は、この位置決め装置1で用いられる制御パラメータを記憶する機能部であり、制御パラメータとしての前記早送り時定数,位置ゲイン,速度ゲイン,ノッチフィルタ5における除去周波数帯域,及びトルクゲインが格納され、これらの制御パラメータが、対応する位置指令生成部2,位置制御部3,速度制御部4,ノッチフィルタ5及びトルク制御部6にそれぞれ読み出されて使用される。尚、これらの制御パラメータは、外部から当該パラメータ記憶部9に格納可能であり、また、前記パラメータ設定部8によっても更新される。尚、このパラメータ設定部8の具体的な処理については、後述する。
【0042】
斯くして、この位置決め装置1によれば、まず、位置指令生成部2において、目標の回転位置及び回転速度を基に位置指令が生成され、回転速度が早送り速度の場合には、早送り時定数に従った位置指令が生成される。そして、位置制御部3では、位置指令と現在位置信号との偏差と、位置ゲインとを基に速度指令が生成され、ついで、速度制御部4において、速度指令と現在速度信号との偏差と、速度ゲインとを基にトルク指令が生成される。
【0043】
次に、生成されたトルク指令は、ノッチフィルタ5を経ることにより、特定の周波数帯域の振動成分が除去されてトルク制御部6に入力され、このトルク制御部6において、トルク指令及びトルクゲインを基に、前記モータ12の駆動トルクに係る信号が生成され、この駆動トルクに係る信号に応じた電流がモータ12に供給され、当該モータ12が駆動される。斯くして、このようにして制御されるモータ12によって、テーブル18が回転移動する。
【0044】
前記パラメータ設定部8は、図3に示したステップS1〜S7の処理を実行する機能部であり、外部から入力される処理開始信号を受信してステップS1〜S7の処理を開始する。尚、本例では、テーブル18上にワーク19が装着された状態で、処理が実行されるものとする。
【0045】
具体的には、パラメータ設定部8は、まず、ステップS1において、共振周波数検出処理を実行する。この共振周波数検出処理は、前記位置指令生成部2に、一定周波数で振動する位置指令が生成されるような指令を入力するか、又は、前記回転テーブル10を正逆に所定角度だけ往復回転させる指令を入力するか、又は、前記回転テーブル10を一方向に所定角度だけ回転させる指令を繰り返し入力して、当該回転テーブル10に検出動作を行わせ、この回転テーブル10の検出動作中に前記トルク制御部6から出力される駆動トルク信号をFFT解析して、そのピーク周波数を共振周波数として検出するという処理である。尚、この各検出動作において、徐々に移動量を増大させる、或いは徐々に移動速度を増大させる、或いは徐々に移動量及び移動速度を増大させるようにしても良い。
【0046】
このようにして共振周波数が検出されると、次に、パラメータ設定部8は、検出された共振周波数を基に、前記ノッチフィルタ5で使用される除去周波数帯域を仮に設定し、仮設定した除去周波数帯域に係るデータを前記パラメータ記憶部9に格納、即ち、このデータでパラメータ記憶部9に格納されたデータを更新する(ステップS2)。
【0047】
次に、パラメータ設定部8は、イナーシャ推定処理を実行する(ステップS3)。即ち、パラメータ設定部8は、まず、前記共振周波数検出処理と同様に、前記位置指令生成部2に、一定周波数で振動する位置指令が生成されるような指令を入力するか、又は、前記回転テーブル10を正逆に所定角度だけ往復回転させる指令を入力するか、又は、前記回転テーブル10を一方向に所定角度だけ回転させる指令を繰り返し入力して、当該回転テーブル10に検出動作を行わせる。尚、この回転テーブル10の検出動作の制御において、前記ノッチフィルタ5で使用される除去周波数帯域には、ステップS2で設定されたものが使用される。また、この各検出動作においても、徐々に移動量を増大させる、或いは徐々に移動速度を増大させる、或いは徐々に移動量及び移動速度を増大させるようにしても良い。
【0048】
そして、パラメータ設定部8は、この回転テーブル10の検出動作中に前記トルク制御部6から出力される駆動トルク信号(T)、及び位置検出器15によって実測されるモータ12の角加速度(ω)、並びに、事前に実測されるか又は設計値として取得される摩擦トルク(T)から、次式によって当該回転テーブル10に作用するイナーシャJを推定する。尚、このイナーシャJは、テーブル18及びワーク19によって生じるものである。
J=(T−T)/ω
【0049】
ついで、パラメータ設定部8は、このようにして推定したイナーシャJに応じた早送り時定数を設定して、設定した早送り時定数に係るデータを前記パラメータ記憶部9に格納、即ち、このデータでパラメータ記憶部9に格納されたデータを更新する(ステップS4)。
【0050】
次に、パラメータ設定部8は、2回目の共振周波数検出処理を実行する(ステップS5)。この2回目の共振周波数検出処理は、上述したステップS1の共振周波数検出処理と同じ処理であるが、回転テーブル10の検出動作の制御において、位置指令生成部2の早送り時定数には、ステップS4で設定されたものが使用される。
【0051】
次に、パラメータ設定部8は、ステップS5で検出された共振周波数を基に、前記ノッチフィルタ5で使用される除去周波数帯域を本設定し、設定した除去周波数帯域に係るデータを前記パラメータ記憶部9に格納、即ち、このデータでパラメータ記憶部9に格納されたデータを更新するとともに(ステップS6)、速度制御部4で使用される速度ゲインを設定し、設定した速度ゲインに係るデータを前記パラメータ記憶部9に格納、即ち、このデータでパラメータ記憶部9に格納されたデータを更新した後(ステップS7)、以上のパラメータ設定処理を終了する。
【0052】
斯くして、本例のパラメータ設定部8によれば、ワーク19をテーブル18上に装着した状態で、上述したパラメータ設定処理、即ち、共振周波数検出処理(ステップS1)、ノッチフィルタ仮設定処理(ステップS2)、イナーシャ推定処理(ステップS3)、早送り時定数設定処理(ステップS4)、共振周波数検出処理(ステップS5)、ノッチフィルタ設定処理(ステップS6)及び速度ゲイン設定処理(ステップS7)を実行することで、当該ワーク19に応じた適正な制御パラメータを設定することができ、従来のような試行錯誤的な手法に比べて、当該制御パラメータを迅速に設定(再設定)することができる。
【0053】
ところで、前記ワーク19が、極めて肉厚の薄いものであるなど、これを回転させた場合に振動を生じ易いものであれば、前記イナーシャ推定処理(ステップS3)を実行する際に、回転テーブル10に振動(外乱振動)が生じ、この外乱振動に係る振動周波数成分が制御系(位置制御部3、速度制御部4トルク制御部6など)の各信号に重畳されるため、ノッチフィルタ5の除去周波数帯域をこの振動周波数に設定して、当該振動周波数成分を除去しなければ、前記トルク制御部6から出力される駆動トルクT、及びモータ12の加速度の実測値ωを用いた上式の推定では、正しいイナーシャJを推定することができないのではないかとの懸念がある。
【0054】
そこで本例では、まず、共振周波数検出処理(ステップS1)を実行して、得られた共振周波数を基に、前記ノッチフィルタ5の除去周波数帯域を仮設定し(ステップS2)、次に、除去周波数帯域が仮設定されたノッチフィルタ5の下でイナーシャ推定処理(ステップS3)を実行するようにしているので、イナーシャ推定処理(ステップS3)の際に、制御系の信号に重畳された外乱に係る振動周波数成分を、ノッチフィルタ5によって除去することができ、このようにして外乱振動の周波数成分を除去することによって、正しいイナーシャを推定することができるとともに、正しく推定されたイナーシャから適切な早送り時定数を設定することができる(ステップS4)。
【0055】
そして、適切に設定された早送り時定数の下で、更に共振周波数検出処理(ステップS5)を実行することによって、より正確な共振周波数を検出することができ、この正確な共振周波数からノッチフィルタ5のより適切な除去周波数帯域を設定することができ、また、適切な速度ゲインを設定することができる。
【0056】
このように、本例のパラメータ設定部8を備えた位置決め装置1によれば、ワーク19が振動を生じ易いものでも、適切な制御パラメータを迅速に設定することができる。
【0057】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明が採り得る具体的な態様は何らこれに限定されるものではない。
【0058】
例えば、上記ノッチフィルタ5の除去周波数帯域の本設定処理(ステップS6)、速度ゲインの設定処理(ステップS7)の実行順序は、これらが逆の順であっても良い。
【0059】
また、ワーク19が振動を生じ難いものであれば、前記パラメータ設定部8は、これを図4に示すような処理手順を実行するように構成することができる。
【0060】
即ち、パラメータ設定部8は、まず、上例のステップS3と同様のイナーシャ推定処理を実行し(ステップS11)、次に、上例のステップS4と同様にして、得られたイナーシャを基に前記早送り時定数を設定するとともに(ステップS12)、前記速度ゲインを仮に設定する(ステップS13)。
【0061】
パラメータ設定部8は、次に、設定された早送り時定数、及び仮設定された速度ゲインの下で、上例のステップS1及びS5と同様の共振周波数検出処理を実行し(ステップS14)、上例のステップS6と同様にして、得られた共振周波数を基に、前記ノッチフィルタ5の除去周波数帯域を設定するとともに(ステップS15)、上例のステップS7と同様にして、前記速度ゲインを本設定する(ステップS16)。
【0062】
前記ワーク19が、高い剛性を有し、振動を生じ難いものであれば、前記イナーシャ推定処理(ステップS11)を実行する際に、外乱振動が生じ難いため、ある程度正確なイナーシャを推定することができる。したがって、イナーシャ推定処理(ステップS11)を先に実行して得られたイナーシャから、適切な早送り時定数を設定することができ(ステップS12)、また、適切な速度ゲインを仮設定することができる(ステップS13)。
【0063】
そして、このようにして設定された早送り時定数、及び仮設定された速度ゲインを用いて共振周波数検出処理(ステップS14)を実行することにより、正確な共振周波数を検出することができ、検出された正確な共振周波数を基に、ノッチフィルタ5の適切な除去周波数帯域を設定することができ(ステップS15)、また、適切な速度ゲインの本設定を行うことができる(ステップS16)。
【0064】
このように、図4に示した手順によれば、ワーク19が振動を生じ難いものである場合に、適切な制御パラメータを設定することができ、また、上例の図3に示した手順に比べて、イナーシャ推定処理(ステップS11)と共振周波数検出処理(ステップS14)とをそれぞれ一度ずつ行う簡素な手順であるため、パラメータ設定をより迅速に行うことができる。
【0065】
尚、この図4に示した例においても、早送り時定数設定処理(ステップS12)と速度ゲイン仮設定処理(ステップS13)とは、その実行順序が逆であっても良く、同様に、ノッチフィルタ5の除去周波数帯域の設定処理(ステップS15)と速度ゲイン本設定処理(ステップS16)とは、その実行順序が逆であっても良い。
【0066】
また、上例では、位置決め装置1の制御対象として回転テーブル10を例示したが、制御対象としての移動装置は、何らこれに限られるものではなく、例えば移動対象物を直線的に移動させるものであっても良い。
【符号の説明】
【0067】
1 位置決め装置
2 位置指令生成部
3 位置制御部
4 速度制御部
5 ノッチフィルタ
6 トルク制御部
8 パラメータ設定部
9 パラメータ記憶部
10 回転テーブル
11 テーブルベース
12 モータ
15 位置検出器
18 テーブル
19 ワーク
図1
図2
図3
図4