【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した従来の位置決め装置では、関数発生部において位置指令を生成する際に、早送り移動の場合には早送り時定数が用いられ、また、位置制御部では位置ゲイン、速度制御部では速度ゲイン、トルク/電流制御部ではトルクゲインがそれぞれ用いられており、安定した制御を実現するためには、これら早送り時定数、位置ゲイン、速度ゲイン及びトルクゲインといった制御パラメータを適切に設定する必要がある。
【0008】
また、上記特許文献1には開示されていないが、速度制御部とトルク/電流制御部との間には、一般的に制振フィルタが設けられており、速度制御部から出力されたトルク指令は、制振フィルタを経ることによって、特定の周波数帯域の振動成分が除去された後、トルク/電流制御部に入力される。そして、この制振フィルタに設定される除去周波数帯域も制御パラメータであり、安定した制御を実現するためには、これを適切に設定する必要がある。
【0009】
そこで従来、このような制御パラメータは、当該工作機械に設定された加工上の仕様、例えば、被加工物の最大の大きさ、最大重量や最大加工負荷等に応じて、好適な加工が実現されるように、工作機械メーカによって予め設定されていた。
【0010】
ところが、近年では、ユーザサイドで取り扱う被加工物の材料や形状が多種多様となっており、この影響を受けて、上述した位置決め制御に様々な問題が生じている。例えば、ユーザが極めて薄い肉厚の被加工物を加工する場合には、これを移動させた際に当該被加工物が振動し、この振動(外乱振動)の影響を受けて位置決め制御系が振動するという問題を生じる。また、ユーザの取り扱う被加工物の重量が想定された最大重量を超える場合には、これを設定された早送り加速度で移動させると、モータに想定以上のトルクをかける必要があり、通常、制御系にはトルクの上限が設定されているため、モータトルクが飽和して制御不能となり、制御系にハンチングやオーバシュートといった振動が生じる。
【0011】
このような問題を解決するためには、上述した制御パラメータのうち、少なくとも早送り時定数、速度ゲイン及び制振フィルタの除去周波数帯域について、これを取り扱う被加工物に応じて再度適切な値に設定し直す必要があるが、従来、この制御パラメータの再設定は、試行錯誤的な手法、即ち、上記制御パラメータをそれぞれ少しずつ変更して動作させてみるといった手法に頼る他はなく、このため、上述した問題を迅速に解決することができないという問題があった。
【0012】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、試行錯誤的な手法に依らないで、取り扱う対象物に応じた適切な制御パラメータを迅速に再設定することが可能な、位置決め装置のパラメータ設定方法、及び当該位置決め装置の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明の方法発明は、
移動対象物が装着される移動台を、回転移動又は直線移動させる移動装置の駆動モータを制御して、前記移動台を指令された目標位置に位置決めする位置決め装置の制御パラメータを設定する方法であって、
少なくとも早送り時定数、速度ゲイン及び制振フィルタの除去周波数帯域に係る制御パラメータを設定するパラメータ設定方法において、
前記移動対象物が装着された移動台を移動させて、前記移動装置に生じる共振周波数を検出する共振周波数検出処理、並びに前記移動対象物が装着された移動台を移動させて、前記移動装置に作用するイナーシャを推定するイナーシャ推定処理を実行するとともに、検出された共振周波数に応じて前記制振フィルタの除去周波数帯域及び速度ゲインを設定し、推定されたイナーシャに応じて前記早送り時定数を設定するようにした、位置決め装置のパラメータ設定方法に係る。
【0014】
また、本発明の装置発明は、
移動対象物が装着される移動台を、回転移動又は直線移動させる移動装置の駆動モータを制御して、前記移動台を指令された目標位置に位置決めする位置決め装置であって、
前記目標位置を基に位置指令を生成して出力するとともに、少なくとも早送り移動の場合には、早送り時定数に従った位置指令を生成して出力する位置指令生成部と、
前記位置指令生成部から出力された位置指令を入力し、入力した位置指令、及び位置ゲインを基に速度指令を生成して出力する位置制御部と、
前記位置制御部から出力された速度指令を入力し、入力した速度指令、及び速度ゲインを基にトルク指令を生成して出力する速度制御部と、
前記速度制御部から出力されたトルク指令を入力し、入力したトルク指令から特定の周波数帯域の成分を除去して出力する制振フィルタと、
前記制振フィルタから出力されたトルク指令を入力し、入力したトルク指令、及びトルクゲインを基に、前記駆動モータの駆動トルクに係る信号を生成して出力するトルク制御部とを備えた位置決め装置において、
更に、少なくとも前記早送り時定数、速度ゲイン、制振フィルタの除去周波数帯域を設定するパラメータ設定部を備えてなり、
前記パラメータ設定部は、前記移動対象物が装着された移動台を移動させて、前記移動装置に生じる共振周波数を検出する共振周波数検出処理、並びに前記移動対象物が装着された移動台を移動させて、前記移動装置に作用するイナーシャを推定するイナーシャ推定処理を実行するとともに、検出された共振周波数に応じて前記制振フィルタの除去周波数帯域及び速度ゲインを設定する処理と、推定されたイナーシャに応じて前記早送り時定数を設定する処理とを実行するように構成された位置決め装置に係る。
【0015】
この位置決め装置によれば、まず、位置指令生成部により、前記目標位置を基に位置指令が生成され、少なくとも早送り移動の場合には、早送り時定数に従った位置指令が生成される。そして、位置制御部において、前記位置指令及び位置ゲインを基に速度指令が生成され、ついで、速度制御部において、前記速度指令及び速度ゲインを基にトルク指令が生成される。次に、生成されたトルク指令は、制振フィルタを経ることにより、特定の周波数帯域の成分が除去されてトルク制御部に入力され、このトルク制御部において、トルク指令及びトルクゲインを基に、前記駆動モータの駆動トルクに係る信号が生成され、この駆動トルクに係る信号に応じて駆動モータが制御される。斯くして、このようにして制御される駆動モータによって、移動対象物の装着された移動台が回転移動又は直線移動する。
【0016】
そして、この位置決め装置によれば、そのパラメータ設定部により、本発明に係るパラメータ設定方法が好適に実施される。即ち、前記パラメータ設定部により、まず、前記移動対象物が装着された移動台を移動させて、前記移動装置に生じる共振周波数を検出する共振周波数検出処理、並びに前記移動対象物が装着された移動台を移動させて、前記移動装置に作用するイナーシャを推定するイナーシャ推定処理が実行される。
【0017】
この共振周波数検出処理及びイナーシャ推定処理において、前記移動台を移動させる動作としては、例えば、前記位置指令生成部により、一定周波数の加振信号を生成して前記移動台を振動させる動作、前記位置指令生成部により、往復移動する信号を生成して前記移動台を往復移動させる動作、前記位置指令生成部により、一方向に所定距離又は角度だけ繰り返して移動させる信号を生成して、前記移動台を繰り返して移動させる動作を挙げることができる。また、この各動作において、徐々に移動量を増大させる、或いは徐々に移動速度を増大させる、或いは徐々に移動量及び移動速度を増大させるようにしても良い。
【0018】
そして、前記共振周波数検出処理では、例えば、前記トルク制御部からの出力信号である駆動トルク信号をFFT解析することにより、そのピーク周波数を共振周波数として検出する。また、イナーシャ推定処理では、例えば、前記トルク制御部から出力される駆動トルクをT
mとし、事前の実測値又は設計値である摩擦トルクをT
fとし、前記駆動モータの加速度の実測値をωとして、前記移動装置に作用するイナーシャJを、次式により推定する。
J=(T
m−T
f)/ω
【0019】
そして、パラメータ設定部は、検出された共振周波数に応じて前記制振フィルタの除去周波数帯域及び速度ゲインを設定し、また、推定されたイナーシャに応じて前記早送り時定数を設定する。
【0020】
斯くして、この位置決め装置に係るパラメータ設定部及びパラメータ設定方法によれば、移動台に装着される移動対象物に応じて移動装置に生じる共振周波数を検出するとともに、当該移動対象物に応じて移動装置に作用するイナーシャを推定し、ついで、検出された共振周波数に応じて前記制振フィルタの除去周波数帯域及び速度ゲインを設定し、また、推定されたイナーシャに応じて前記早送り時定数を設定するようにしているので、従来のような試行錯誤的な手法に比べて、迅速に、移動対象物に応じた適切な制御パラメータを設定(再設定)することができる。
【0021】
尚、上記位置決め装置に係るパラメータ設定部及びパラメータ設定方法では、以下の手順により、前記制御パラメータを設定するようにしても良い。
即ち、まず、前記共振周波数検出処理を実行して、得られた共振周波数を基に、前記制振フィルタの除去周波数帯域を仮設定し、
次に、除去周波数帯域が仮設定された制振フィルタの下で前記イナーシャ推定処理を実行して、得られたイナーシャを基に前記早送り時定数を設定し、
次に、除去周波数帯域が仮設定された制振フィルタ及び設定された早送り時定数の下で、共振周波数検出処理を実行して、得られた共振周波数を基に、前記制振フィルタの除去周波数帯域を本設定するとともに、前記速度ゲインを設定する。
【0022】
前記移動対象物が、移動によって振動を生じ易いものであれば、前記イナーシャ推定処理を実行する際に、移動装置に振動(外乱振動)が生じ、この外乱振動に係る振動周波数成分が制御系の信号に重畳されるため、制振フィルタの除去周波数帯域をこの振動周波数に設定して、当該振動周波数成分を除去しなければ、前記トルク制御部から出力される駆動トルクの最大値T
max、及び駆動モータの最大加速度の実測値ω
maxを用いた上式の推定では、正しいイナーシャJを推定することができないと考えられる。
【0023】
そこで、まず、前記共振周波数検出処理を実行して、得られた共振周波数を基に、前記制振フィルタの除去周波数帯域を仮設定し、次に、除去周波数帯域が仮設定された制振フィルタを用いて前記イナーシャ推定処理を実行するようにすれば、イナーシャ推定処理の際に、制御系の信号に重畳された外乱に係る振動周波数成分を、制振フィルタによって適切に除去することができ、このようにして外乱振動の周波数成分を除去することによって、正しいイナーシャを推定することができるとともに、正しく推定されたイナーシャから適切な早送り時定数を設定することができる。
【0024】
そして、次に、除去周波数帯域が仮設定された制振フィルタ及び適切に設定された早送り時定数の下で、更に共振周波数検出処理を実行することによって、より正確な共振周波数を検出することができ、この正確な共振周波数から制振フィルタのより適切な除去周波数帯域が設定され、また、適切な速度ゲインが設定される。
【0025】
このように、この手順によれば、移動対象物が振動を生じ易いものでも、適切な制御パラメータを設定することができる。
【0026】
或いは、上記位置決め装置に係るパラメータ設定部及びパラメータ設定方法では、以下の手順により、前記制御パラメータを設定するようにしても良い。
即ち、まず、前記イナーシャ推定処理を実行して、得られたイナーシャを基に前記早送り時定数を設定するとともに、前記速度ゲインを仮設定し、
次に、設定された早送り時定数、及び仮設定された速度ゲインの下で、共振周波数検出処理を実行して、得られた共振周波数を基に、前記制振フィルタの除去周波数帯域を設定するとともに、前記速度ゲインを本設定する。
【0027】
前記移動対象物が振動を生じ難いものであれば、前記イナーシャ推定処理を実行する際に、外乱振動が生じ難いため、ある程度正確なイナーシャを推定することができる。したがって、イナーシャ推定処理を先に実行して得られたイナーシャから、適切な早送り時定数を設定することができ、また、適切な速度ゲインを仮設定することができる。
【0028】
そして、このようにして設定された早送り時定数、及び仮設定された速度ゲインを用いて共振周波数検出処理を実行することにより、正確な共振周波数を検出することができ、検出された正確な共振周波数を基に、制振フィルタの適切な除去周波数帯域を設定することができ、また、適切な速度ゲインの本設定を行うことができる。
【0029】
このように、この手順によれば、移動対象物が振動を生じ難いものである場合に、適切な制御パラメータを設定することができ、イナーシャ推定処理と共振周波数検出処理とをそれぞれ一度ずつ行う簡素な手順であるため、パラメータ設定をより迅速に行うことができる。