特許第6407095号(P6407095)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6407095
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】モーター用結束紐
(51)【国際特許分類】
   D04C 1/06 20060101AFI20181004BHJP
   D04C 1/02 20060101ALI20181004BHJP
   H02K 3/50 20060101ALI20181004BHJP
   D01F 6/00 20060101ALN20181004BHJP
   D02G 1/16 20060101ALN20181004BHJP
【FI】
   D04C1/06 Z
   D04C1/02
   H02K3/50 Z
   !D01F6/00 A
   !D02G1/16
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-95085(P2015-95085)
(22)【出願日】2015年5月7日
(65)【公開番号】特開2016-211104(P2016-211104A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2017年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】504094660
【氏名又は名称】株式会社ゴーセン
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】衣笠 純
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/017714(WO,A1)
【文献】 特開2004−176242(JP,A)
【文献】 特開平11−217777(JP,A)
【文献】 特開2007−056399(JP,A)
【文献】 特開昭57−065240(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0094023(US,A1)
【文献】 特開昭57−077339(JP,A)
【文献】 実開昭52−087743(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04C1/00−7/00
B65B13/00−13/34
27/00−27/12
D02G1/00−3/48
D02J1/00−13/00
D04G1/00−5/00
H02K3/30−3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維製マルチフィラメント糸を含むモーター用結束紐であって、
前記マルチフィラメント糸は、流体噴射によるタスラン加工糸又は仮撚加工糸であり、糸軸方向にループおよびたるみを有するかさ高糸であることを特徴とするモーター用結束紐。
【請求項2】
前記タスラン加工糸は、マルチフィラメント糸非旋回性である請求項1に記載のモーター用結束紐。
【請求項3】
前記結束紐は、下記の式で示される高温耐油性能が50%以上である請求項1又は2に記載のモーター用結束紐。
高温耐油性能(%)=(T’/T)×100
前記式において、Tは処理前の前記結束紐の引張強さ、T’は処理後の前記結束紐の引張強さであり、前記引張強さはJIS L1013−8.5.1法における引張強さを意味する。
前記処理は、前記結束紐の全体を、密閉容器中の0.5重量%の水と99.5重量%のオートマチック・トランスミッション・フルードの混合物中に入れ、前記容器中の混合物の温度が1000時間の間150℃で維持されるよう前記容器を加温する処理である。
【請求項4】
前記マルチフィラメント糸が、ポリフェニレンサルファイド繊維、アラミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリアリレート繊維及びヘテロ環ポリマー(PBO)繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維である請求項1〜のいずれかに記載のモーター用結束紐。
【請求項5】
前記マルチフィラメント糸のかさ高度は1.5ml/g以上である請求項1〜のいずれかに記載のモーター用結束紐。
【請求項6】
前記結束紐は組紐であり、前記組紐を構成する前記マルチフィラメント糸は無撚糸である請求項1〜のいずれかに記載のモーター用結束紐。
【請求項7】
前記結束紐は4〜32打ちの組紐である請求項1〜のいずれかに記載のモーター用結束紐。
【請求項8】
前記マルチフィラメント糸は単繊維繊度が1.5〜35dtexであり、前記マルチフィラメント糸の繊度が200〜1500dtexである請求項1〜のいずれかに記載のモーター用結束紐。
【請求項9】
前記結束紐の単位長さ当たりの質量が0.08〜1.2g/mである請求項1〜のいずれかに記載のモーター用結束紐。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーター用結束紐に関する。とくに、電気自動車のモーター線の結束に好適なモーター用結束紐に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車の排出ガスに含まれる有害物質低減の取り組みと、低燃費化の両立が要請されている。近年では、更に地球規模での環境負荷低減の要請がなされている。このような背景から電気自動車の開発が活発に研究、開発されている。現在、開発が進められている電気自動車としては、高容量二次電池を搭載したピユア電気自動車(PEV)、ガソリンエンジンと高出力二次電池などを組み合わせたハイブリッド自動車(HEV)、燃料電池を搭載した燃料電池車(FCV)、更には、燃料電池と高出力二次電池などを組み合わせた燃料電池ハイブリッド自動車(FCHEV)などがある。いずれにおいても、高効率なモーターの開発が必要になっている。前記モーターとしては、駆動用、発電用、充電用などがある。これらモーターには、高効率化の外に、走行安定性の面から品質の安定化も強く望まれている。特に、電気自動車用モーターとしては、一般的な自動車用モーターに比べ、優れた高温耐油性能が求められている。電気自動車用モーターは、効率を良くするため、ATF(オートマチック・トランスミッション・フルード)中に存在する必要がある。ATFは高温になる場合があるので、前記モーターには、ATF中での高温耐熱性が要求される。その他、前記モーターの部品には、均質な性能を有する材料の開発が要請されている。
【0003】
モータステータにおいて、波巻き、重ね巻きなどの巻き線方式では、コイルエンドを結束糸(結束紐)を用いて縛り上げ「ばらけ防止」、「コンパクト化(+プレス)」、「絶縁距離確保」を行う必要がある。コイル結束紐は耐油性、耐熱性、強度、コスト等が要求され、繊維素材としてはアラミド繊維、PPS繊維、ガラス繊維などがあり、使用されている。現在では大量生産のため、結束紐は機械で縛るのが主流である。機械縛りではステータ端面とコイルエンド間に機械が差し込まれる空隙を空ける必要があるが、手縛りでは前記空隙を空ける必要がないのでコイルエンド高さをできる限り下げることができる。したがって、コイルエンド部の体積を抑えられることからモーター重量、巻き線抵抗の低下を図ることができモーター性能を向上させることができるメリットがある。
【0004】
本出願人は特許文献1において、合成繊維のフィラメント糸又は紡績糸を組紐にしてモーター用結束紐とすることを提案した。特許文献2〜3には合成繊維のフィラメント糸をエアー交絡して組紐とすることが提案されている。本出願人は特許文献4において高温耐油性のマルチフィラメントからなる8打ち以上のチューブ状、扁平状の結束紐を提案している。この結束紐は耐熱性、高温耐油性にすぐれ、柔軟で使用しやすく機械縛りにおいては実用性の高い。本出願人は特許文献5において合成繊維の紡績糸を使用し、組紐にしてモーター用結束紐とすることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−13300号公報
【特許文献2】特開平10−273825号公報
【特許文献3】特開2001−248075号公報
【特許文献4】特開2004−176242号公報
【特許文献5】特開2009−174104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献1〜4に提案されている通常の合成繊維フィラメント糸は、非かさ高糸であり、結束を手縛りで行う場合、縛る際に糸が滑りやすく、結束後も緩みやすいという問題があることがわかった。その結果、(1)結束部が膨らんでしまうためコイルエンド高さが低く抑えられない、(2)巻き線が互いに密着せず自由に動く、(3)作業者に負荷がかかり、手を傷めやすいなどの問題があった。また、特許文献5に提案されている紡績糸使いの結束紐は、縛り性が良好で結束後の戻りもないが、フィラメント糸にくらべ、強度が低くなること、工程中に毛羽が飛散したり、モーター運転中に毛羽落ちしオイルを汚すという問題があることがわかった。
【0007】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、結束されたモーター部品の傷付きが少なく、結束時の締め付け性も高く、かつ緩みがなく、かつ毛羽落ちがなく、機械縛り、手縛りの両者に適したモーター用結束紐を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のモーター用結束紐は、合成繊維製マルチフィラメント糸を含むモーター用結束紐であって、前記マルチフィラメント糸は、流体噴射によるタスラン加工糸又は仮撚加工糸であり、糸軸方向にループおよびたるみを有するかさ高糸であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、結束の結び目が解けなくなり、コイルエンドの締結力の低下が防止されることで下記の効果を奏する。
(1)かさ高性マルチフィラメント糸は非かさ高マルチフィラメント糸にくらべ、糸―糸の摩擦が大きく、結束性に優れかつ緩みにくい特徴がある。この結果、結束性が良く、作業者の指先の負担が軽減する。
(2)本発明の結束紐は結束の負荷が均一になるため絶縁皮膜の負荷が減少する。
(3)連続フィラメント糸のため、紡績糸(スパン糸)のような毛羽落ちが認められない。
(4)機械縛り、手縛り両者に適合する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本発明の一実施形態におけるモーター用結束紐の模式的側面図である。
図2図2は同、角打ち組紐の製造工程を示す模式的説明図である。
図3図3は同、丸打ち組紐の製造工程を示す模式的説明図である。
図4図4は同、電気自動車用モーターに組み込まれた結束紐の模式的斜視図である。
図5図5は同、結束紐のかさ高度測定装置を示す模式的斜視図である。
図6図6Aは同、結束紐のかさ高度測定方法を示す紐の側面図、図6Bは同、かせの側面図、図6Cは同、かさ高度測定の断面図である。
図7図7は同、毛羽落ち評価を測定するための方法を示す説明図である。
図8図8は同、タスラン加工した糸の側面写真である。
図9図9は同、タスラン加工糸の結束紐の側面写真である。
図10図10は同、仮撚り加工糸の側面写真である。
図11図11は同、仮撚り加工糸の結束紐の側面写真である。
図12図12は比較例の非かさ高糸の糸の側面写真である。
図13図13は比較例の非嵩高糸の結束紐の側面写真である。
図14図14は比較例の紡績糸の側面写真である。
図15図15は比較例の紡績糸の結束紐の側面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のモーター用結束紐は、例えば、コイル、ワイヤー、スリーブなどのモーター部品を結束するのに使用される。好ましくは、電気自動車用モーター用結束紐である。
【0012】
本発明で使用される合成繊維は、融点または分解温度が280℃以上であるのが好ましい。素材にはとくに限定されないが、具体的には、ポリフェニレンサルファイド繊維、アラミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリアリレート繊維、ヘテロ環ポリマー(PBO)繊維などがあげられる。これらの中で、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維が耐油性、耐加水分解性に優れ、とくに好ましく用いられる。
【0013】
本発明の結束紐を構成するマルチフィラメント糸は、糸軸方向にループおよびたるみを有するかさ高糸である。以下本発明のマルチフィラメント糸をかさ高加工糸ともいう。かさ高加工糸としては種々のもの及び方法が知られており、とくに限定されるものではないが、本発明者らの検討によれば、モーター結束紐として好ましいのは、低伸縮性で、適度のかさ高度があるのが好ましい。具体的には、後述する方法で測定されるかさ高度が、1.5ml/g以上であるのが好ましく、上限については25ml/g以下であるのが好ましく、さらに好ましくは2〜20ml/gである。かさ高度が低いと未加工の直線糸との差が小さく、縛りにくく解けやすくなる。また、かさ高度が高すぎると、作業性が悪く、紐の厚みも増大しモーターのコンパクト性が悪化する。
【0014】
加工方法としてはとくに限定されるものではないが、流体噴射加工、仮より加工、押し込み加工など、公知の加工方法から適宜選択し、条件設定することができる。本発明に好適な低伸縮性で適度なかさ高性が得られやすい加工方法としてエアージェット加工などの流体噴射加工が好ましい。他の加工方法でも緊張下で熱セットすることで、本発明に好適なかさ高性とすることもできる。とくに好ましくは、流体噴射(乱気流)加工によりタスラン加工されたものである。タスラン加工糸は糸軸方向にループおよびたるみを形成し、かさ高性と非旋回性を有し、低伸縮性でもある。かさ高性マルチフィラメント糸は非かさ高マルチフィラメント糸にくらべ、糸―糸の摩擦が大きく、結束性に優れかつ緩みにくい特徴がある。
【0015】
本発明の結束紐は、前記かさ高性マルチフィラメント糸を組紐とすることで得られる。組紐にする場合は、前記マルチフィラメント糸は無撚糸でもよい。前記組紐は、4打ち以上で、32打ち以下であるのが好ましい。この範囲であれば、充分な強力と良好な結束性が得られ、かつ耐久性が高いからである。前記組紐は、4、8、16、20、24、32打ちであるのがより好ましい。紐の太さが大きすぎず、かつ良好な作業性も得られるからである。本発明の前記結束紐は丸打ち、角打ちいずれでも良い。
【0016】
本発明の結束紐は、前記かさ高性マルチフィラメント糸を撚糸としても良い。撚糸にする場合は100〜250℃で0.1〜90分間の熱セットをするのが好ましい。撚糸にする場合はそのまま結束紐とし、組糸にはしない。
【0017】
前記マルチフィラメント糸の単繊維繊度は1.5〜35dtexが好ましく、より好ましくは2〜32dtexであり、さらに好ましくは3〜30dtexである。単繊維が細すぎると摩擦などで毛羽発生しやすくなり、また、太すぎる場合は糸が硬くなり、縛り性が悪化する。
【0018】
前記マルチフィラメント糸の繊度は200〜1500dtexが好ましく、より好ましくは300〜1200dtexである。また 前記結束紐の1m当たりの質量は0.08〜1.2g/m(繊度:800〜12000dtex)が好ましく、より好ましくは1000〜10000g/mである。
【0019】
前記結束紐は、下記の式で示される高温耐油性能が50%以上であるのが好ましく、55%以上であるのがより好ましい。さらに好ましくは70%以上である。電気自動車用として長期に渡って安定に走行できるようなモーターが得られるからである。
高温耐油性能(%)=(T’/T)×100
前記式において、Tは処理前の前記結束紐の引張強さ、T’は処理後の前記結束紐の引張強さであり、前記引張強さはJIS L1013−8.5.1法における引張強さを意味する。
前記処理は、前記結束紐の全体を、密閉容器中の0.5重量%の水と99.5重量%のオートマチック・トランスミッション・フルードの混合物中に入れ、前記容器中の混合物の温度が1000時間の間150℃で維持されるよう前記容器を加温する処理である。
【0020】
本発明において高温耐油性能は、油中高温処理の前後の引張強さを比較し、強力の保時率で評価するものである。この数値が100%に近いことは、前記電気自動車用モーター用結束紐に高温処理をしても引張強さが変化しない、従って前記電気自動車用モーター用結束紐は高温耐油性能に優れることを意味する。
【0021】
本発明の結束紐の引張強さは、JIS L1013−8.5.1に従った測定で、好ましくは100N以上である。また本発明の結束紐の伸び率は、JIS L1013−8.5.1に従った測定で、好ましくは16%以上60%以下である。これにより前記結束紐の締め付け性が高く、自動車、特に電気自動車のモーターに用いられると、安定な自動車の走行を実現することが可能である。前記結束紐の伸び率は、より好ましくは18%以上50%以下である。
【0022】
本発明は組紐製造用糸としてかさ高マルチフィラメントを用いる。かさ高マルチフィラメントはかさ高加工されていない通常の(非かさ高)マルチフィラメントにくらべ、糸同士がすべりくくなっていることから、縛りやすく、解けにくいことが見出された。また、長繊維であることから、紡績糸にくらべ、加工工程やモーター部品として使用中に毛羽落ちすることがほとんどない特徴を有している。かさ高度が低いと未加工の直線糸との差が小さく、縛りにくく解けやすくなる。また、かさ高度が高すぎると、作業性が悪く、紐の厚みも増大しモーターのコンパクト性が悪化する。
【0023】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。図1は本発明の一実施形態におけるモーター用結束紐10の模式的側面図である。図2は本発明の一実施形態における角打ち組紐の製造工程を示す模式的説明図である。糸巻体(キャリヤ)1a〜1dは軌道3のように動き、糸巻体(キャリヤ)2a〜2dは軌道4のように動いて組紐5を組み上げる。6はガイドロール、7は基板、8は角打ち組紐製造装置である。糸巻体(キャリヤ)2a〜2dは左右に十字型に進むことで製紐され、中央に空洞ができないため、偏平にならず角形に仕上がる。
【0024】
図3は本発明の一実施形態における丸打ち組紐の製造工程を示す模式的説明図である。糸巻体(キャリヤ)11a〜11hは軌道12a〜12hの上を回転しながら移動し、組紐13を組み上げる。14はガイドロール、10は基板、9は丸打ち組紐製造装置である。糸巻体(キャリヤ)11a〜11hは左右方向に円を描くように交差しながら製紐され、中央に空洞ができ、丸形に仕上がる。
【0025】
図4は本発明の一実施形態における電気自動車用モーターに組み込まれた結束紐の模式的斜視図である。図4中、モータの固定子は、例えば三相モータの固定子であり、固定子コア21と、固定子コア21の内周側に形成された複数のスロット22に収納された各相のコイル23と、各相のコイル23を外部の電源供給端子と接続するためのワイヤー24と、各ワイヤー24を包囲するワイヤー用絶縁チューブ25とを有している。結束紐26はコイル23を結束している。27はサーモスタット用絶縁チューブ、28はスロットライナー、29はウエッジ、30は相間紙である。
【実施例】
【0026】
以下実施例および比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例および比較例における測定は、以下のようにした。
【0027】
<結束紐の高温耐油性能>
長さ60cmの結束紐の全体を、密閉容器中の0.5重量%の水と99.5重量%のオートマチック・トランスミッション・フルード(出光興産社製、商品名”ULTRA ATF−Z1オートマチックトランスミッション油”)、の混合物(5リットル)中に入れ、前記容器中の混合物の温度が1000時間の間150℃で維持されるよう前記容器を加温した。この処理前の前記結束紐の引張強さ(T)と、処理後の前記結束紐の引張強さ(T’)を、JIS L1013−8.5.1法に準じて測定した。
得られた各引張強さを、次の式に導入して、高温耐油性能を求めた。5回測定して得られた値の平均値を算出した。なお、本測定方法においては、ATFとしていずれのATFを用いても良い。
高温耐油性能(%)=(T’/T)×100
ここで、T:処理前の前記結束紐の引張強さ
T’:処理後の前記結束紐の引張強さ
【0028】
<マルチフィラメント糸及び結束紐の引張強さおよび伸び率>
JIS L 1013−8.5.1法の定速伸張法に準じて求めた。(つかみ間隔25cm、引張速度30cm/分)。試験回数5回試験し、その平均値で表した(引張強さは小数点以下2けたまで、伸び率は小数点以下1けたまで)。
【0029】
<結束紐のかさ高度>
図5は結束紐のかさ高度測定装置38(大栄科学精器社製)を示す模式的斜視図であり、図6Aは結束紐のかさ高度測定方法を示す結束紐の側面図、図6Bは同、かせの側面図、図6Cは同、かさ高度測定の断面図である。図5において、試料台31の上面に2本の切込み32を設けた。その外側縁部の間隔Tは6mmである。切り込み32に幅2.5cmの柔軟な布テープ33を掛け渡し、切り込み32の下方20cmの点でテープ下端に指針付き金具34を結合し、その下に荷重36を吊り下げる。金具34の指針は試料を装着しない場合に目盛り35の0位置を示すようにセットする。
試料として適当な周長のかせ37を用意し(図6A)、総繊度が約90000dtex(440〜470dtexのマルチフィラメントでは200本)を平行に揃え、図6B及び図6Cに示すように、テープ33と試料台31の間にさし仕入れる。荷重36は金具と合計して50gとなるようにして、指針34の示す値S(cm)を読み取る。試料は位置を移動させ3回測定して平均する。かさ高度Mは次式から算出する。
M(ml/g)=テープ中の体積/テープ中の糸重量=V/W
V=(S2/π)×2.5
W=P×D×(1/10000)×0.025
ここでDは試料糸の繊度(dtex)、Pはテープ内の糸本数(実施例では200本)である。
【0030】
<結束紐の1m当たりの質量>
標準状態(温度20±2℃、相対湿度65±2%)で24時間放置したモーター用結束紐を、50cmの長さに切断した。その重量を測定し、2倍乗じて、モーター用結束紐1mあたりの質量とした。
【0031】
<結束紐の組ピッチ>
1インチ(2.54cm)角のフレームが付いたリネンテスタ(ルーペ)を用いて、結束紐を観察する。結束紐の、1インチ間の組目(山または谷の数)を半目まで数える。
【0032】
<結束紐の縛り性>
直径0.9mmのコイル用銅線束50本を、結束紐を用いて手で縛り、締め易さと締めたあとの固定度合い(戻り)を、以下の5段階で評価した。
評価5:手縛り性良好で、縛った後の前記結束紐の戻りが無い。
評価4:手縛り性ほぼ良好で、縛ったあとの戻りがわずかである。
評価3:手縛り性は少し良好で、縛ったあとの戻りがあるが、使用可能である。
評価2:手縛り性は不十分で、結びが緩み、実用性不十分である。
評価1:手縛り性不良で、縛った後、結び目が固定されず、緩みが大きい。
なお、作業性については、縛り性以外でのコメントを表記した。
【0033】
<毛羽落ち評価(1)>
図7に示した試験装置を用い、結束紐と結束紐を交差摩擦させる試験をした。結束紐をガイド49a〜49dを通過させて矢印41〜46のように通し、結束紐と結束紐を交差させ、先端は荷重(錘)48に結び、矢印47のように往復動させた。荷重100g、移動距離55mm、往復速度90回/分、摩擦回数50回後の毛羽落ち度合とテスト中の毛羽の浮遊の有無を評価した。
評価5:毛羽浮遊、毛羽立ちとも認められず、摩擦後の糸外観に変化がない。
評価4:毛羽立ちがわずかに認められるが、毛羽落ち、浮遊は認められない。
評価3:毛羽立ちが認められ、毛羽落ちもわずかに認められる。
評価2:毛羽立ち、毛羽落ちが明らかに認められる。
評価1:毛羽立ち、毛羽落ちが大きい。
【0034】
<毛羽落ち評価(2)>
前記図7に示した装置を用い、ATF(オートマチック・トランスミッション・フルード)油が付与された結束紐を用い、同条件で紐を交差摩擦させて評価した。この測定は室温20℃、湿式、油付与で行った。
【0035】
<実施例1、2>
PPS繊維(東レ社製、商品名“トルコン”、融点285℃)マルチフィラメント440T−100−T190を、エアジェットによるタスラン加工をしてかさ高加工糸とした。この加工糸のかさ高度は2.14ml/gであった。この加工糸を使用し、丸8つ打ち(実施例1)、角8つ打ち(実施例2)の結束紐を作製した。条件及び結果は表1にまとめて示す。図8に実施例2のかさ高加工糸の側面写真、図9に同結束紐の側面写真を示す。
【0036】
<実施例3>
PPS繊維(東レ社製、商品名“トルコン”、融点285℃)マルチフィラメント440T−100−T190を、仮撚り加工したかさ高加工糸を入手した。この加工糸のかさ高度は19.6ml/gであった。この加工糸を使用し、角8つ打ち(実施例3)の結束紐を作製した。条件及び結果は表1にまとめて示す。図10に実施例3の仮撚り加工糸の側面写真、図11に同結束紐の側面写真を示す。
【0037】
<比較例1>
PPS繊維のマルチフィラメント糸(東レ社製、商品名"トルコン"440T−100−T190)を、小巻ボビンに巻いて、これを8本用意した。糸のかさ高度は0.74ml/gであった。これを、角8つ打ち製紐機に仕掛け、結束紐を得た。条件及び結果は表1にまとめて示す。図12に比較例1のマルチフィラメント糸の側面写真、図13に同結束紐の側面写真を示す。
【0038】
<比較例2,3>
PPS繊維の紡績糸(東レ社製、商品名“トルコン”紡績糸20番手(メートル番手))を、小巻ボビンに巻いて、これを8本用意した。糸のかさ高度は1.69ml/gであった。これを丸8つ打ち(比較例2)、と角8つ打ち(比較例3)にて組紐に製紐し、結束紐を得た。条件及び結果は表1にまとめて示す。図14に比較例3の紡績糸の側面写真、図15に同結束紐の側面写真を示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から明らかなとおり、本発明の実施例のかさ高マルチフィラメントを使用した結束紐は、高温耐油性が高く、縛り性、耐毛羽立ち性に優れていることが確認できた。これに対して、非かさ高マルチフィラメント糸は手縛り性に問題があり、紡績糸は毛羽立ち、毛羽落ちが大きく強度もフィラメント糸にくらべ劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のモーター用結束紐は、電気自動車用モーターに好適である。その他のモーターにも適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1a〜1d,2a〜2d,11a〜11h 糸巻体(キャリヤ)
3,4,12a〜12h 軌道
5,13 組紐
6,14 ガイドロール
7,10 基板
8 角打ち組紐製造装置
9 丸打ち組紐製造装置
21 固定子コア
22 スロット
23 コイル
24 ワイヤー
25 ワイヤー用絶縁チューブ
26 結束紐
27 サーモスタット用絶縁チューブ
28 スロットライナー
29 ウエッジ
30 相間紙
48 荷重(錘)
49a〜49d ガイド
図1
図2
図3
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