特許第6407142号(P6407142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヘレーウス クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

<>
  • 特許6407142-義歯の製造方法 図000002
  • 特許6407142-義歯の製造方法 図000003
  • 特許6407142-義歯の製造方法 図000004
  • 特許6407142-義歯の製造方法 図000005
  • 特許6407142-義歯の製造方法 図000006
  • 特許6407142-義歯の製造方法 図000007
  • 特許6407142-義歯の製造方法 図000008
  • 特許6407142-義歯の製造方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6407142
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】義歯の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/34 20060101AFI20181004BHJP
   A61C 13/10 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   A61C13/34 Z
   A61C13/10
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-506240(P2015-506240)
(86)(22)【出願日】2013年4月18日
(65)【公表番号】特表2015-516851(P2015-516851A)
(43)【公表日】2015年6月18日
(86)【国際出願番号】EP2013058111
(87)【国際公開番号】WO2013156572
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2015年6月1日
【審判番号】不服2017-2824(P2017-2824/J1)
【審判請求日】2017年2月27日
(31)【優先権主張番号】102012007706.8
(32)【優先日】2012年4月19日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】399011900
【氏名又は名称】ヘレーウス クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Kulzer GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(72)【発明者】
【氏名】マリオ バイアー
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ ベーム
【合議体】
【審判長】 内藤 真徳
【審判官】 瀬戸 康平
【審判官】 熊倉 強
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/021816(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
義歯を製造する方法であって、
前記義歯はベースエレメントを有しており、当該ベースエレメントは少なくとも2つの未加工人工歯を保持しており、
当該方法は、
a.歯の状況のデジタルイメージを作成するステップと、
b.デジタルに再現された、実際の歯の長さに相当する所定の長さを有する前記事前作成された未加工人工歯を使用および選択して、前記デジタルイメージに基づいて、前記義歯のデジタルモデルをコンピュータ支援されて作成するステップと、
c.記ベースエレメント内での前記少なくとも2つの事前作成された未加工人工歯の可視の長さと挿入深さとから得られる所望の歯の長さと、前記所定の長さとの間の長さの差のデータセットを計算するステップと、
d.前記少なくとも2つの事前作成された未加工人工歯が雄型を形成しており、かつ、前記ベースエレメント上での前記少なくとも2つの事前作成された未加工人工歯の位置を定める雌型のデジタル画像を作成するステップと、
e.前記雌型の前記デジタル画像を用いて、前記雌型を機械的に作成するステップと、
f.前記雌型内に、前記事前作成された未加工人工歯を挿入するステップと、
g.前記短くされた未加工人工歯を製造するために、前記事前作成された未加工人工歯の長さを基底側から、前記長さの差のデータセットに基づいて機械的に短くするステップと、
h.前記ベースエレメントと前記短くされた未加工人工歯とを接合して、前記義歯を作成するステップと、
を有する、
ことを特徴とする、義歯を製造する方法。
【請求項2】
前記雌型を作成するために、コンピュータ支援された積層造形法を使用し、
殊に、当該コンピュータ支援された積層造形法を、ラピッドプロトタイピング、三次元リソグラフィー、SLM(選択的レーザ溶融)、三次元ステレオリソグラフィー、三次元インクジェット、FDM(熱溶解積層法)および三次元レーザリソグラフィーまたはこれらのうちの少なくとも2つから成るグループから選択する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記事前作成された未加工人工歯を、力による接続および/または形状による接続および/または材料による接続によって、前記雌型内に保持する、請求項1および2のいずれか1項記載の方法。
【請求項4】
当該方法は、
・前記ベースエレメントと前記短くされた未加工人工歯を接合するための固定手段を作成するステップを有しており、当該固定手段は第1の割り当て手段を有しており、当該第1の割り当て手段は、前記ベースエレメント内への前記短くされた未加工人工歯の空間的に一義的な位置付けを可能にする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記雌型に少なくとも1つの第2の割り当て手段を設け、当該第2の割り当て手段は、前記雌型内への前記事前作成された未加工人工歯の空間的に一義的な位置付けを可能にする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ステップc)において、前記歯の状況および/または事前に設定された歯の並びに基づいて、前記選択された、デジタルに再現された前記未加工人工歯を歯冠側で歯のラインに沿って配置する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記ステップb)の後に、デジタルに再現された前記事前作成された複数の未加工人工歯の高さを、前記義歯の前記デジタルモデル内で整合させるステップを有している、請求項1または6記載の方法。
【請求項8】
前記義歯の前記デジタルモデルを、前記ベースエレメントのデジタルイメージと、前記少なくとも2つの未加工人工歯のデジタルコピー像とに、コンピュータ支援されて分けるステップを有している、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記ベースエレメントの前記デジタルイメージに基づいて前記ベースエレメントを機械的に作成するステップを有している、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記雌型を機械的に作成することおよび前記ベースエレメントを機械的に作成することから成るグループから選択された少なくとも1つのステップにおいて、コンピュータ支援された、切削加工法および/または積層造形法を使用する、請求項1または9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記義歯のデジタルモデルを形成するために、患者の歯茎領域の形状をあらわす、歯の状況のデジタルイメージを使用する、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項記載の方法をコンピュータに実施させるための命令を含んでいる、コンピュータ読み出し可能なデータ担体。
【請求項13】
請求項12記載のコンピュータ読み出し可能なデータ担体を有しているコンピュータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来技術においては、場合によって可逆的に顎から取り外すことができる、いわゆる部分床義歯または全部床義歯が既知である。一般的に、部分床義歯または全部床義歯は、押し下げ、粘着またはねじ止めによって、顎ないしは顎内に入れられている埋没物と接合される。ここでこのような補綴物は、ベースを有している。このベースは歯茎の上に位置する。ベースエレメントとも称される各ベース上には、天然歯に取って代わる歯が被着されている。従来技術における問題は殊に、ベースエレメント内への義歯の位置付けおよび埋め込みである。使用されている義歯は事前調整されている。従って、使用される義歯の長さは短くされなければならない。個々の必要な歯の長さおよび幅への調整を保証するために、主に使用されている長さないしは幅を形成する極めて多数の種々の義歯を製造することが可能であるが、これは一般的に極めて高価であり、かつ、手間がかかる。択一的に、後にベースエレメント内に入れられる義歯の個々の未加工人工歯を個別に研磨することも可能である。しかしこのような方法で得られる整合精度が非常に低いことが判明している。さらに、多層の未加工人工歯が損傷を受けて、製造された義歯の耐久性が格段に劣ってしまう恐れもある。
【0002】
本発明の課題は、上述した欠点を克服することである。殊に、未加工人工歯の個々の整合時にこれがある程度損傷を受けて、義歯の耐久性が後に低くなってしまう恐れを伴わずに、多くの人に合う義歯の製造を可能にする方法が開示されるべきである。
【0003】
上述の課題を解決するために、独立請求項1の特徴を有する義歯の製造方法を提案する。さらに、この課題を解決するために、雌型および義歯を提案する。個別に、または、組み合わせて実現可能な本発明の有利な発展形態は、従属請求項に記載されている。方法または雌型または義歯に関連して説明される特徴および詳細は、本発明の別のデザインないしは外観に対してもそれぞれ当てはまる。
【0004】
要約すると、以降の実施形態が、本発明において特に有利なものとして提案される。
【0005】
実施形態1:義歯を製造する方法であって、ここで、この義歯はベースエレメントを有している。このベースエレメントは、少なくとも2つの未加工人工歯を保持している。この義歯製造方法は、
・雌型を歯の状況のデジタルイメージを基に機械的に作成するステップと、
・雌型内に保持され、事前作成された未加工人工歯の長さを、歯の状況に合わせた歯のラインを得るために、基底側から機械的に短くするステップと、
・ベースエレメントと短くなった未加工人工歯とを接合して義歯を作成するステップと
を有している。
【0006】
実施形態2:実施形態1に即した方法であって、雌型を作成するために、コンピュータ支援された積層造形法を使用し、殊にコンピュータ支援された積層造形法は、ラピッドプロトタイピング、三次元リソグラフィー、SLM(選択的レーザ溶融)、三次元ステレオリソグラフィー、三次元インクジェット、FDM(熱溶解積層法)および三次元レーザリソグラフィーまたはこれらのうちの少なくとも2つから成るグループから選択される。
【0007】
実施形態3:実施形態1および2の少なくとも1つに即した方法であって、事前作成された未加工人工歯を、力による接続および/または形状による接続および/または材料による接続によって雌型内に保持する。
【0008】
実施形態4:実施形態1から3の少なくとも1つの実施形態に即した方法であって、この方法は、
・ベース部分と短くされた未加工人工歯とを接合するための固定手段を作成するステップを有しており、ここで、この固定手段は第1の割り当て手段(Codierungsmittel)を有しており、この割り当て手段は、ベース部分内への短くされた未加工人工歯の空間的に一義的な位置付けを可能にする。
【0009】
実施形態5:実施形態1から4までの少なくとも1つの実施形態に即した方法であって、雌型に少なくとも1つの第2の割り当て手段を設け、この割り当て手段は、雌型内への事前作成された未加工人工歯の空間的に一義的な位置付けを可能にする。
【0010】
実施形態6:実施形態1から5までの少なくとも1つの実施形態に即した方法であって、この方法は、
a.歯の状況のデジタルイメージを作成するステップと、
b.所定の長さを有する事前作成された未加工人工歯のデジタル再現物を使用および選択して、このデジタルイメージに基づいて、義歯のデジタルモデルをコンピュータ支援されて作成するステップと、
c.所定の長さと、ベースエレメント内での少なくとも2つの事前作成された未加工人工歯の挿入深さとから、長さの差のデータセットを計算するステップと
を有する。
【0011】
実施形態7:実施形態1から6までの少なくとも1つの実施形態に即した方法であって、
d.少なくとも2つの事前作成された未加工人工歯が雄型を形成しており、かつ、ベースエレメント上での少なくとも2つの事前作成された未加工人工歯の位置を定める雌型のデジタル画像を作成するステップと、
e.雌型のデジタル画像を用いて、雌型を機械的に作成するステップと、
f.雌型内に、事前作成された未加工人工歯を挿入するステップと、
g.短くされた未加工人工歯を製造するために、事前作成された未加工人工歯の長さを基底側から、長さの差のデータセットに基づいて機械的に短くするステップと、
h.ベースエレメントと短くされた未加工人工歯とを接合して、義歯を作成するステップと
を有する。
【0012】
実施形態8:実施形態6または7に即した方法であって、ステップb)において、デジタルに再現された事前作成された未加工人工歯のセットから選択を行い、これによって、事前作成された未加工人工歯の幾何学的な形状と歯の状況との間の相違をできるだけ小さくする。
【0013】
実施形態9:実施形態6または7に即した方法であって、ステップb)において、デジタルに再現された事前作成された未加工人工歯のセットから選択を行い、これによって、事前作成された未加工人工歯の幾何学的な形状と事前に定められた歯の並びとの間の相違をできるだけ小さくする。
【0014】
実施形態10:実施形態6から9までの少なくとも1つの実施形態に即した方法であって、ステップc)において、選択された、デジタルに再現された事前作成された未加工人工歯の、を歯列弓として配置する。
【0015】
実施形態11:実施形態6から10までの少なくとも1つの実施形態に即した方法であって、ステップc)において、歯の状況および/または事前に設定された歯の並びに基づいて、選択された、デジタルに再現された未加工人工歯を、歯冠側で歯のラインに沿って配置する。
【0016】
実施形態12:実施形態6から12までの少なくとも1つの実施形態に即した方法であって、ステップb)の後に、デジタルに再現された事前作成された複数の未加工人工歯の高さを、義歯のデジタルモデル内で整合させるステップを有している。
【0017】
実施形態13:実施形態6から12までの少なくとも1つの実施形態に即した方法であって、義歯のデジタルモデルを、ベースエレメントのデジタルイメージと、少なくとも2つの未加工人工歯のデジタルコピー像(Ebenbild)とに、コンピュータ支援されて分けるステップを有している。
【0018】
実施形態14:実施形態13に即した方法であって、デジタルコピー像は、雌型用のネガを形成する。
【0019】
実施形態15:実施形態13に即した方法であって、ベースエレメントのデジタルイメージをベースにしてベースエレメントを機械的に作成するステップを有している。
【0020】
実施形態16:実施形態1から15までの少なくとも1つの実施形態に即した方法であって、雌型に少なくとも1つの位置付け部材を設け、これによって、長さを機械的に短くする際に雌型を位置付けすることを可能にする。
【0021】
実施形態17:実施形態1から16までの少なくとも1つの実施形態に即した方法であって、ベース部分は、グループ:ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチロール、ポリ(メチルメタクリレート)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、エポキシドまたはアクリル酸塩から選択された材料を有している、または、このグループから選択された材料から成る。
【0022】
実施形態18:実施形態1から17までの少なくとも1つの実施形態に即した方法であって、ベース部分と短くされた未加工人工歯とを、力による接続および/または形状による接続および/または材料による接続によって接合する。
【0023】
実施形態19:実施形態1から18までの少なくとも1つの実施形態に即した方法であって、ベース部分と短くされた未加工人工歯とを接合するために固定手段を用い、この固定手段を、接着剤、機械的な接合手段、ボルト、ねじ、ピン、バヨネット接続またはこれらのうちの少なくとも2つからなるグループから選択する。
【0024】
実施形態20:実施形態1から19までの少なくとも1つの実施形態に即した方法であって、雌型を機械的に作成すること、長さを短くすることおよびベースエレメントを機械的に作成することから成るグループから選択された少なくとも1つのステップにおいて、コンピュータ支援された、切削加工法および/または積層造形法を使用する。
【0025】
実施形態21:実施形態20に即した方法であって、コンピュータ支援された積層造形法を、ラピッドプロトタイピング、三次元レーザリソグラフィー、三次元リソグラフィー、SLM(選択的レーザ溶融)、三次元ステレオリソグラフィー、三次元インクジェット、FDM(熱溶解積層法)および三次元レーザリソグラフィーまたはこれらのうちの少なくとも2つから成るグループから選択する。
【0026】
実施形態22:実施形態1から21までの少なくとも1つの実施形態に即した方法であって、義歯のデジタルモデルを形成するために、患者の歯茎領域の形状を再現する歯の状況のデジタルイメージを使用する。
【0027】
実施形態23:実施形態1から22までの少なくとも1つの実施形態に即した方法であって、歯茎領域の歯型のスキャンによって、または、患者の歯茎領域のスキャンによってデジタルモデルを得る。
【0028】
実施形態24:実施形態1から23までの少なくとも1つの実施形態に即した方法を実施するようにコンピュータに促す命令のコンピュータ読み出し可能なデータ担体を有している。
【0029】
実施形態25:実施形態24に記載されたコンピュータ読み出し可能なデータ担体を有しているコンピュータ。
【0030】
本発明の方法の核は、雌型の製造にある。雌型のために、患者の顎内に配置された天然歯および/または人工の未加歯の所望の配置が、口腔内で、雄型を形成する。この雌型が、患者の顎内の歯の位置および長さに関する全体的な情報を有する。本発明では、雌型内に事前に製造された未加工人工歯が入れられ、切削法によって、必要な長さに整合される。このようにして雌型は、未加工人工歯の表面を保護し、同様に、これが所望の長さに整合されることを保証する。ここでの特別な点は、個々の歯が個別に整合されるのではなく、複数の義歯が同時に、並行して処理可能である、ということである。これと同時に、雌型内での事前作成された未加工人工歯の固定した保持によって、得られるべき歯の長さの精度が、既知の方法と比べて高くなる。同時に、この方法の枠内では、次のことが保証される。すなわち、未加工人工歯の、場合によって生じ得る最低長さを超えないことが保証され、これによって、その多層構造が保たれる。
【0031】
本発明では、用語「未加工人工歯」または「事前作成された未加工人工歯」は、形状および見た目において、天然歯に相当する部材を指している。このような未加工人工歯は、一般的にプラスチックから製造されている。高価な未加工人工歯は、多層構造を有している。これらの層はここで、高温重合方法において個々に重合される。これらは、まずはデンチン核、次にブレードエナメル層である。未加工人工歯の上述した各部材を、別のプラスチックから形成することができる。このような多層構造によって、技術的な特性を層毎に整合させることができる。従って、高い咀嚼負荷がかかるブレードエナメル層は特に、摩耗に対して高い耐性を有していなければならない。これに対して、補綴物プラスチック(ベースエレメントのプラスチック)との最適な接合のための基底側のネック層は、それほど密に架橋されておらず、容易に取り外し可能であるべきである。
【0032】
用語「基底」が、本発明では、未加工人工歯の根の側のことである。短くされた未加工人工歯は、基底側が処理された未加工人工歯ないし事前作成された未加工人工歯のことである。
【0033】
本発明の方法は、義歯を製造するために用いられる。用語「義歯」とは、殊に部分床義歯および全部床義歯ことである。部分床義歯は、種々の実施形態において製造可能である。最も容易な実施形態は、プラスチックベース(ベースエレメント)と、入れられるべき人工歯と湾曲した保持および保護部材とから成る。これらの補綴物は、必要な場合には、処理されたワイヤーまたは口金によって補強される。ベースエレメントの部分のための合金としては、クロム−コバルト−モリブデンまたはチタンが使用される。なぜなら、これらは殊に、繊りと調和するからである。このベースの上に、次に、プラスチックと人工歯が形成される。顎内の歯が全て失われている場合には、しばしば、全部床義歯のみが可能である。この全部床義歯の支持部は、押し付け、ねじ止めおよび/または接着によって顎に位置する。
【0034】
本発明では、雌型を作成するために、コンピュータ支援された積層造形法を使用することを提案する。このコンピュータ支援された積層造形法は、有利には、ラピッドプロトタイピング、三次元レーザリソグラフィー、三次元リソグラフィー、SLM(選択的レーザ溶融)、三次元ステレオリソグラフィー、三次元インクジェット、FDM(熱溶解積層法)または三次元レーザリソグラフィーから成るグループから選択される。上述した、積層造形法は、多くの利点を有している。積層造形法によって容易に、歯の状況のデジタルイメージに基づいて、雌型を製造することができる。相応の計算プログラムは、歯の状況のデジタルイメージを短時間で、雌型に作り替えることができる。さらに、雌型のデジタルイメージからの、製造誤差が少ない。+/−20μm、殊に+/−10μmの寸法精度が、上述の製造方法によって実現される。従って、雌型内での事前作成された未加工人工歯の保持が、僅か+/−20μm、殊に+/−10μmで設定される。これらは、義歯内での短くされた未加工人工歯の後の製造並びに患者の義歯の着け心地に良い影響を与える。
【0035】
有利には、事前作成された未加工人工歯は、力によって、および/または、形状によって、および/または、材料によって、雌型内に保持される。ここで、事前作成された未加工人工歯が可逆的に取り外し可能であるが、位置が安定して雌型内に配置されているということが重要である。有利には、相応する材料接続が接着剤または磁石によって形成される。これは、未加工人工歯の相応する位置付けおよび保持を可能にする。さらに、有利には、雌型に少なくとも1つの第2の割り当て手段が設けられる。これによって、事前作成された未加工人工歯を雌型内に空間的に一義的に位置付けすることができる。第2の割り当て手段として、例えば、突出部が用いられる。突出部は、事前作成された未加工歯内の相応する対向部材内に噛み合うないしはこれと共働する。これによって、雌型内への、事前作成された未加工人工歯の一義的な配置が保証される。従って殊に、未加工人工歯の前面と背面とを取り違えてしまうことがなくなる。
【0036】
さらに、ベースエレメントに固定手段を設けるのが有利であることが判明している。この固定手段は、短くされた未加工人工歯をベース部分内に保持するのに用いられる。さらに、固定手段は次のように構成されている。すなわち、これが、ベース部分内への、短くされた未加工人工歯の空間的に一義的な割り当てを可能にする第1の割り当て手段を有しているように構成されている。これによって次のことが保証される。すなわち、短くされた未加工人工歯が一義的にベース部分内に挿入され、そこで、力によって、および/または形状によって、および/または材料によって接合されて配置されることが保証される。有利には、固定手段および/またはベース部分は、次のように構成されている。すなわち、短くされた未加工人工歯が、+/−20μm、有利には+/−10μmの位置決め精度で、ベース部分内に配置可能であるように構成されている。ここでこの固定手段は多くの形態を有しており、これは例えばバヨネット接続、ねじまたはピンであり、これらは短くされた未加工人工歯のベースエレメント内への空間的な配置を保証する。
【0037】
別の有利な実施形態では、ステップa)において、歯の状況のデジタルイメージの作成が行われる。相応するデジタルイメージが、例えば、直接的に患者での口腔内スキャナーによって作成可能である。択一的に、患者の歯の状況を歯型で写し取り、雄型に実現することが可能である。相応する雄型は、産業用スキャナーによって、高い精度でデジタルに写し取られる。歯の状況のこのデジタルイメージに基づいて、コンピュータ支援されて、義歯のデジタルモデルが作成される。次にこのデジタルモデルに基づいて、相応のデジタルデータないしはモデルを用いて義歯が個々に患者に対して作成される。本発明では、デジタルに再現された事前作成された未加工人工歯の使用および選択が利用される。ここで出発点は、比較的少数の事前作成された未加工人工歯のみが使用されるべきであるという考えである。これらはデジタルにスキャンされ、義歯のデジタルモデルの作成者に、データバンクにおいて提供される。相応する選択方法によって、使用者は、デジタルに再現された事前作成された未加工人工歯を、義歯のデジタルモデルを製造するために利用することができる。ここで、判断基準、例えば大きさ、幅および色が、使用されるべき、事前作成された未加工人工歯の選択時に設定される。事前作成された未加工人工歯の長さは一般的に、実際の義歯内に入れられるべき未加工人工歯の実際に使用される長さとは一致しない。従って、ステップc)において、長さの差のデータセットが計算される。これは、事前作成された未加工人工歯の事前に定められた長さと、少なくとも2つの事前作成された未加工人工歯のベースエレメント内への挿入深さとの差から生じる。従ってこの長さの差のデータセットは、事前作成された未加工人工歯の「実際」と、ベースエレメント内での使用時に実現されるべき「目標」との間の差を表している。
【0038】
説明されたように、ステップb)では、デジタルに再現された事前作成された未加工人工歯の選択が行われる。この選択は、デジタルに再現された事前作成された未加工人工歯のセットから行われ、これによって、事前作成された未加工人工歯の幾何学的な形状と、患者の口腔内の実際の歯の状況との間の差ができるだけ小さくなる。これは次のような場合である。すなわち、存在している患者の歯を抜き、この歯の代わりに未加工人工歯を入れて使用する、という場合である。患者がもはや歯を有していない場合には、デジタルに再現された事前作成された未加工人工歯を次のように選択することが目標となる。すなわち、事前作成された未加工人工歯の幾何学的な形状と事前に設定された歯の並びとの間の差をできるだけ小さくすることが目標となる。従って、作成されるべき義歯の全体像において最適に適合する未加工人工歯が選択される。ここでは、寸法、幾何学的形状および隣接部に対する間隔ないしは位置付けが、重要である。
【0039】
本発明の方法の別の有利な実施形態は、ステップd)を特徴とする。このステップd)では、雌型のデジタル画像が形成される。このデジタル画像は基礎として用いられ、これに基づいて、後に、実際の雌型が機械的に作製される((ステップe)を参照)。ここで、雌型は、事前作成された少なくとも2つの未加工人工歯の位置を、同様に作成されるべきベースエレメント上に割り当てる。すなわち雌型は、事前作成された複数の未加工人工歯の位置を相互に、および、ベースエレメントの1つの部材または複数の部材に関して規定する。ステップe)において、雌型が機械的に作成される。この機械的な作成は、雌型のデジタル画像のデジタル情報を用いて行われる。相応する作成を、コンピュータ支援された切削加工法または積層造形法によって行うことができる。この関連において、殊に、以下の製造方法が挙げられる:フライス盤での切削、CAD/CAMを介したフライス盤での切削、回転、ラピッドプロトタイピング、三次元レーザリソグラフィー、三次元リソグラフィー、SLM(選択的レーザ溶融)、三次元ステレオリソグラフィー、三次元インクジェット、FDM(熱溶解積層法)または三次元レーザリソグラフィー。
【0040】
本発明では、ステップg)において、事前作成された未加工人工歯の長さが基底側から機械的に短くされる。雌型を作成した後に、既に存在している、事前作成された未加工人工歯が、ステップf)において、雌型内に挿入される。ここで、雌型は、事前作成された未加工人工歯の保持部として用いられる。雌型は、作成されるべき義歯の得られたデジタルイメージに基づいて製造されているので、雌型は同時に、使用されるべき未加工人工歯の配置、長さおよび高さをコード化する。未加工人工歯が入ると、これを容易に機械的に短くすることができる。この短縮は基底側で、長さの差のデータセットに基づいて行われる。従って、事前作成された未加工人工歯は、正確に、得ようとされる長さを超えている長さだけ短くされる。次に、ステップh)において、ベースエレメントと短くされた未加工人工歯との接合が行われて、義歯が作成される。
【0041】
本発明による方法の別の実施形態では、義歯のデジタルモデルはコンピュータ支援されて、2つの部分に分けられる。すなわち、ベース部分のデジタルイメージと少なくとも2つの未加工人工歯のデジタルコピー像である。ここでの目的は、ベースエレメントもコンピュータ支援されて設計することである。殊に、この形態は、ベースエレメントおよび未加工人工歯ないしはデジタルに再現された事前作成された未加工人工歯を極めて良好に整合させる。さらに、ベースエレメントのデジタルイメージ内に、固定手段等のデジタルモデルを入れることができる。さらに、デジタルに再現された事前作成された未加工人工歯は、その位置において、ベースエレメントに対して整合される。デジタルに再現された事前作成された未加工人工歯の高さのこの整合は、計算器での義歯のデジタルモデルの作成を可能にする。長さの差のデータセットは高さの整合によっても計算される。なぜなら、高さの整合によって、事前作成された未加工人工歯が後にベースエレメント内に挿入されるべき深さを推測することができるからである。
【0042】
ベースエレメントのデジタルイメージに基づいて、元来のベースエレメントを機械的に作製することが可能である。このために、コンピュータ支援された切削加工法も積層造形法も用いることが可能である。従ってフライス盤での切削、回転またはのこ引きが、切削加工法に使用可能である。上述した、雌型制作時に使用される積層造形法も、ベースエレメントの製造時に使用可能である。
【0043】
本発明の更なる措置および利点は、特許請求の範囲、後続の説明および図面に記載されている。図面では、本発明が複数の実施例で示されている。同じまたは機能的に同じまたはその機能に関して相互に相応する部材には、同じ参照番号が付与されている。本発明はこれらの実施例に制限されない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の方法のフローチャート
図2】デジタルに再現された事前作成された未加工人工歯の選択
図3】長さの差のデータセットの計算
図4】雌型内への、事前作成された未加工人工歯の挿入
図5】事前作成された未加工人工歯の長さの機械的な短縮
図6】事前作成された未加工人工歯の長さの機械的な短縮
図7】短くされた未加工人工歯
図8】義歯を形成するための、ベースエレメントと短くされた未加工人工歯との接合
【実施例】
【0045】
本発明の方法の出発点は、事前作成された複数の未加工人工歯40、40’、40’’を保持するために用いられる雌型50を作成する、という着想である。ここで雌型50は、次のように構成されている。すなわち、後の義歯10においても実際に配置されるべきように未加工人工歯40、40’、40’’が位置付けされるように構成されている。事前調整された未加工人工歯40、40’、40’’は、製造されるべき義歯10において実際に必要となる長さに相応しない長さを有している。しかし雌型50内での保持によって、事前作成された未加工人工歯40、40’、40’’を正確に短くすることが可能になる。さらに、本発明の方法は、特別な点を有している。すなわち、雌型50が計算器によって、歯の状況15のデジタルイメージから計算される、という時別な点である。図1におけるフローチャートは、種々のステップを表している。
【0046】
ステップ100では、患者の現在の歯の状況15のデジタルイメージが作成される。これは有利には、口腔内スキャナーによって行われる。次に、このデジタルイメージに基づいて、作成されるべき義歯10のデジタルモデル11が作成される。例えば、全部床義歯が作成されるべき場合には、歯の状況のデジタルイメージにおいては、歯茎の画像のみが作成される。歯科技工士は次に、この歯茎の画像に基づいて、後に入れられるべき義歯15をデジタルに作成しなければならない。本発明では、歯科技工士は、このために、事前作成された未加工人工歯40、40’、40’’のデジタル再現物41、41’、41’’を用いることができる。ステップ200では、義歯10のデジタルモデル11が作成される。例えば、図2は、選択が行われることを示している。これは、実現しようとしている歯の状況15に最も近い、事前作成された未加工人工歯40、40’、40’’のデジタル再現物41、41’、41’’に相当する。ここで選択基準としては殊に、大きさ、長さおよびボリュームが使用される。
【0047】
ステップ200でデジタルモデル11の形状が計算され、事前作成された未加工人工歯40、40’、40’’のデジタル再現物41、41’、41’’の選択が行われた後、ステップ300において、長さの差のデータセット72が決定される。これは図3に示されている。解剖学的構造が異なっているので、歯の長さは各人間において異なっている。しかし事前作成された未加工人工歯40、40’、40’’は、所定の長さを有している。さらに、安定した、不可逆的な取り付けのために未加工人工歯がベースエレメント内に挿入されなければならない深さは、既知である。挿入深さ74と称される深さは事前に定められており、ベースエレメント20の寸法に依存する。その上に歯の切断面が配置されているベースライン70と中心線71との間の距離は、事前作成された未加工人工歯40、40’、40’’の可視の長さを規定する。これに挿入深さ74が続く。2つの長さから、所望の歯の長さ75が得られる。この、所望の歯の長さ75と、例えば図3に示された、自身の実際の歯の長さ76を有する事前作成された未加工人工歯40’’とは、著しく異なっている。所望の歯の長さ75と、実際の歯の長さ76との間の長さの差のデータセット72はステップ300において計算される。
【0048】
ステップ400では、長さの差のデータセット72並びに事前作成された未加工人工歯40、40’、40’’の外観に関する別の情報と歯の状況のデジタルイメージ11とから、雌型50のデジタル画像51が作成される。図4もこれを示している。デジタル画像51は、雌型50の機械的な作成を可能にする。機械的な作成500は、ここで、有利には、コンピュータ支援されている積層造形法、例えばラピッドプロトタイピングによって行われる。このように作成された雌型50内に、ステップ600において、事前作成された未加工人工歯40が挿入される。これは図5に示されている。
【0049】
本発明の雌型50は、事前作成された未加工人工歯40、40’、40’’を次のように保持する。すなわち、未加工人工歯40、40’、40’’が各雌型50から基底側で突出するように保持する。ステップ700では、フライス盤での切削等による、事前作成された未加工人工歯の機械的な短縮90が行われる。ここで事前作成された未加工人工歯40、40’、40’’は長さの差のデータセット72分だけ短くされる。殊に図6から見てとれるように、事前作成された未加工人工歯40、40’、40’’は、長さの差のデータセット72分だけ、雌型50から突出している。従って、超えている長さを容易に除去することができる。同時に、雌型50は、事前作成された未加工人工歯40、40’、40’’の、後に義歯内に入れられるべき部分の外側を保護する。雌型50は、ステップ700における短縮過程の間、事前作成された未加工人工歯40、40’、40’’の機械的な安定化および保持も担う。これによって、事前作成された未加工人工歯の短縮において、+/−20μm、殊に+/−10μmの精度が得られる。このような高い精度は、長い順応期間無く患者によって使用され得る義歯の作成に対する前提条件である。
【0050】
図7には、短くされた未加工人工歯が示されている。これはそれぞれ、ステップ800において、ベースエレメント20と接合され、これによって、図8に示された義歯10が作成される。従ってこの義歯10は、中に、短くされた未加工人工歯40、40’、40’’が配置されているベースエレメント20から成る。
【符号の説明】
【0051】
10 義歯、 11 義歯のデジタルモデル、 15 歯、または歯の状況または事前に定められた歯の並び、 20 ベースエレメント、 40、40’、40’’ 事前作成された未加工人工歯、 41、41’、41’’ デジタルに再現された事前作成された未加工人工歯、 50 雌型、 51 雌型のデジタル画像、 52 雌型内での未加工人工歯の収容、 70 ベースライン、 71 中心線、 72 長さの差のデータセット、 74 挿入深さ、 75 歯の長さ、 76 未加工人工歯40’’の実際の歯の長さ、 90 機械的な短縮、 100 デジタルイメージの作成、 200 デジタルモデルの形成、 300 長さの差のデータセットの計算、 400 雌型のデジタル画像の形成、 500 雌型の機械的な作成、 600 雌型内への事前作成された未加工人工歯の挿入、 700 事前作成された未加工人工歯の機械的な短縮、 800 ベースエレメントと短くされた未加工人工歯との接合
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8