(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)と有機ジイソシアネート(b)と鎖伸長剤(a2)とを構成単位とするポリウレタン樹脂であって、ウレタン基の濃度とウレア基の濃度の合計値が、ポリウレタン樹脂の重量に基づいて、1.25〜2.50mmol/gであり、原子間力顕微鏡で測定されるポリウレタン樹脂のハードセグメントドメインの平均ドメイン径が20〜30nmであり、
前記鎖伸長剤(a2)がエチレングリコールであり、
以下の(1)〜(3)を満たすことを特徴とするポリウレタン樹脂:
(1)前記数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)のモル数と前記数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)と反応する有機ジイソシアネート(b1)のモル数との比が、数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1):有機ジイソシアネート(b1)=1:1.05〜1:1.5である;
(2)前記有機ジイソシアネート(b1)のモル数と前記鎖伸長剤(a2)と反応する有機ジイソシアネート(b2)のモル数との合計値が、前記数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)のモル数の1.3〜4.2倍である;
(3)前記数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)のモル数と前記鎖伸長剤(a2)のモル数との合計値が、前記有機ジイソシアネート(b1)のモル数と前記有機ジイソシアネート(b2)のモル数との合計値と等しい。
前記数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)が、ポリオキシエチレングリコール、ポリ(オキシ−1,2−プロピレン)グリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、テトラヒドロフランとエチレンオキサイドとの共重合ジオール及びテトラヒドロフランと3−メチルテトラヒドロフランとの共重合ジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種のジオールである請求項1又は2に記載のポリウレタン樹脂。
数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)と有機ジイソシアネート(b1)とを反応させて得られるイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(p)と、有機ジイソシアネート(b2)と、鎖伸長剤(a2)とを反応させる工程を含む請求項1〜10のいずれかに記載のポリウレタン樹脂の製造方法であって、
前記鎖伸長剤(a2)がエチレングリコールであり、
以下の(1)〜(3)を満たすポリウレタン樹脂の製造方法:
(1)前記数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)のモル数と前記有機ジイソシアネート(b1)のモル数との比が、数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1):有機ジイソシアネート(b1)=1:1.05〜1:1.5である;
(2)前記有機ジイソシアネート(b1)のモル数と前記有機ジイソシアネート(b2)のモル数との合計値が、前記数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)のモル数の1.3〜4.2倍である;
(3)前記数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)のモル数と前記鎖伸長剤(a2)のモル数との合計値が、前記有機ジイソシアネート(b1)のモル数と前記有機ジイソシアネート(b2)のモル数との合計値と等しい。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリウレタン樹脂は、数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)と有機ジイソシアネート(b)と鎖伸長剤(a2)とを構成単位とする。
【0010】
数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)としては、例えば、ポリオキシアルキレンジオール(a11)、ポリエステルジオール(a12)、ポリエーテルエステルジオール(a13)、ポリブタジエンジオール(a14)及びこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0011】
ポリオキシアルキレンジオール(a11)としては、炭素数2〜20の2価アルコールにアルキレンオキサイド(以下、AOと略記)が付加した構造の化合物及びこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0012】
炭素数2〜20の2価アルコールとしては、炭素数2〜12の脂肪族2価アルコール[エチレングリコール(以下、EGと略記)、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール(以下、1,4−BGと略記)、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−ドデカンジオール及びジエチレングリコール(以下、DEGと略記)等の直鎖アルコール;1,2−、1,3−又は2,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,7−ヘプタンジオール、3−メチル−1,7−ヘプタンジオール、4−メチル−1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、3−メチル−1,8−オクタンジオール及び4−メチルオクタンジオール等の分岐アルコール];炭素数6〜20の脂環式2価アルコール[1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン及び2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等];炭素数8〜20の芳香環含有2価アルコール[m−又はp−キシリレングリコール、ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン、ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼン及びビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等];等が挙げられる。2価アルコールは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0013】
2価アルコールに付加するAOとしては、エチレンオキサイド(以下、EOと略記)、プロピレンオキサイド(以下、POと略記)、1,2−ブチレンオキサイド、1,3−ブチレンオキサイド、2,3−ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン(以下、THFと略記)、3−メチルテトラヒドロフラン(以下、3M−THFと略記)、スチレンオキサイド、α−オレフィンオキサイド及びエピクロルヒドリン等が挙げられる。AOは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0014】
これらのAOのうちで、ポリウレタン樹脂の引張強度、伸び及び残留歪率の観点から、特にTHF単独のもの、EOとTHFの併用のもの、及びTHFと3M−THFの併用のものが好ましい。
【0015】
AOを2種以上併用する場合、その結合形式はランダム付加でも、ブロック付加でも、両者の併用系であってもよい。
【0016】
ポリオキシアルキレンジオール(a11)の具体例としてはポリオキシエチレングリコール、ポリ(オキシ−1,2−プロピレン)グリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール(以下、PTMGと略記)、ポリオキシ−3−メチルテトラメチレングリコール、THF/EO共重合ジオール、THF/3M−THF共重合ジオール等が挙げられる。これらのうち、ポリウレタン樹脂の引張強度、伸び及び残留歪率の観点から、PTMG、THF/EO共重合ジオール及びTHF/3M−THF共重合ジオールが好ましい。
【0017】
ポリエステルジオール(a12)としては、脱水縮合型ポリエステルジオール(a121)、ポリラクトンジオール(a122)及びポリカーボネートジオール(a123)等が挙げられる。
【0018】
脱水縮合型ポリエステルジオール(a121)としては、化学式量又は数平均分子量が500未満の低分子ジオールとジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体[酸無水物、低級(炭素数1〜4)アルキルエステル及び酸ハライド等]との縮合により得られるもの等が挙げられる。
【0019】
化学式量又は数平均分子量が500未満の低分子ジオールとしては、前記炭素数2〜20の2価アルコール(特に炭素数2〜12の脂肪族2価アルコール)、ビスフェノール(ビスフェノールA、ビスフェノールS及びビスフェノールF等)のAO付加物(数平均分子量500未満)、ジヒドロキシナフタレンのAO付加物(数平均分子量500未満)及びビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート等が挙げられる。
【0020】
これらのうち、ポリウレタン樹脂の引張強度の観点から、前記炭素数2〜12の脂肪族2価アルコールが好ましい。化学式量又は数平均分子量が500未満の低分子ジオールは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0021】
ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体としては、炭素数4〜15の脂肪族ジカルボン酸[コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、アゼライン酸、マレイン酸及びフマル酸等]、炭素数8〜12の芳香族ジカルボン酸[テレフタル酸及びイソフタル酸等]及びこれらのエステル形成性誘導体[酸無水物、低級アルキルエステル(ジメチルエステル、ジエチルエステル等)、酸ハライド(酸クロライド等)等]等が挙げられる。これらのうちで好ましいのは炭素数4〜15の脂肪族ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体である。ジカルボン酸は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0022】
ポリラクトンジオール(a122)としては、前記炭素数2〜20の2価アルコールを開始剤としてラクトンモノマー(γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン及びこれらの2種以上の混合物等)を開環重合したもの等が挙げられる。
【0023】
ポリカーボネートジオール(a123)としては前記炭素数2〜12の脂肪族2価アルコール(好ましくは炭素数3〜8であり、更に好ましくは炭素数4〜6の脂肪族2価アルコール)の1種又は2種以上と、低分子カーボネート化合物(例えば、アルキル基の炭素数1〜6のジアルキルカーボネート、炭素数2〜6のアルキレン基を有するアルキレンカーボネート及び炭素数6〜9のアリール基を有するジアリールカーボネート)から、脱アルコール反応させながら縮合させることによって製造されるポリカーボネートジオール等が挙げられる。
【0024】
ポリカーボネートジオール(a123)の製造に用いる炭素数2〜12の脂肪族2価アルコールのうち、ポリウレタン樹脂の残留歪率の観点から好ましいのは、直鎖のものでは1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール及び1,9−ノナンジオール、分岐のものでは3−メチル−1,5−ペンタンジオール及び2−メチル−1,8−オクタンジオールである。
【0025】
ポリカーボネートジオール(a123)には、結晶性のポリカーボネートジオールと非晶性のポリカーボネートジオールが含まれ、結晶性のポリカーボネートジオールの市販品としては「デュラノール T6002」[旭化成ケミカルズ(株)製]、「ETERNACOLL UH−200」[宇部興産(株)製]、「ニッポラン−980R」[日本ポリウレタン(株)製]及び「プラクセルCD220」[ダイセル(株)製]等が挙げられ、非晶性ポリカーボネートジオールの市販品としては「PCDL G4672」[旭化成ケミカルズ(株)製]、「PCDL T5652」[旭化成ケミカルズ(株)製]及び「クラレポリオールC−2090」[クラレ(株)製]等が挙げられる。
【0026】
ポリエーテルエステルジオール(a13)としては、前記ポリオキシアルキレンジオール(a11)の1種以上と前記脱水縮合型ポリエステルジオールの原料として例示したジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体の1種以上とを縮重合させて得られるもの等が挙げられる。
【0027】
ポリブタジエンジオール(a14)としては、1,2−ビニル構造を有するもの、1,4−トランス構造を有するもの、及び1,2−ビニル構造と1,4−トランス構造とを有するものが挙げられる。また(a14)にはブタジエンのホモポリマー及びコポリマー(スチレン−ブタジエンコポリマー、アクリロニトリル−ブタジエンコポリマー等)、並びにこれらの水素添加物も含まれ、この水素添加物の水素添加率は、好ましくは20〜100%である。
【0028】
数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)の数平均分子量は、ポリウレタン樹脂の伸びの観点から、500以上であり、好ましくは700以上であり、更に好ましくは1,000以上であり、ポリウレタン樹脂の引張強度の観点から、10,000以下であり、好ましくは5,000以下であり、特に好ましくは4,000以下である。本発明における数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)の数平均分子量は、JIS K 0070−1992(電位差適定方法)に規定された方法に準拠して測定される水酸基価から求めることができる。
【0029】
本発明における有機ジイソシアネート(b)には、数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)と反応する有機ジイソシアネート(b1)、及び、後述する鎖伸長剤(a2)と反応する有機ジイソシアネート(b2)が含まれる。
有機ジイソシアネート(b1)及び有機ジイソシアネート(b2)はそれぞれ1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
また、有機ジイソシアネート(b1)及び有機ジイソシアネート(b2)は、同種であっても、異種であってもよい。
有機ジイソシアネート(b1)及び有機ジイソシアネート(b2)として使用できる有機ジイソシアネート(b)としては、炭素数8〜26の芳香族ジイソシアネート、炭素数4〜22の鎖状脂肪族ジイソシアネート、炭素数8〜18の脂環式ジイソシアネート、炭素数10〜18の芳香脂肪族ジイソシアネート及びこれらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体及びウレトジオン変性体等)等が挙げられる。
【0030】
炭素数8〜26の芳香族ジイソシアネートの具体例としては、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略記)、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン及び1,5−ナフチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0031】
炭素数4〜22の鎖状脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート及び2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエート等が挙げられる。
【0032】
炭素数8〜18の脂環式ジイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキシレン−1,2−ジカルボキシレート、2,5−ノルボルナンジイソシアネート及び2,6−ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0033】
炭素数10〜18の芳香脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート及びα,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0034】
これらのうち、ポリウレタン樹脂の引張強度向上の観点から、炭素数8〜26の芳香族ジイソシアネートが好ましい。具体的には、MDIが特に好ましい。
【0035】
鎖伸長剤(a2)としては、前記脱水縮合型ポリエステルジオール(a121)の原料として例示した化学式量又は数平均分子量が500未満の低分子ジオール、水、炭素数2〜10のジアミン(例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、トルエンジアミン及びピペラジン)、ポリ(n=2〜6)アルキレン(炭素数2〜6)ポリ(n=3〜7)アミン(例えばジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラミン)、ヒドラジン又はその誘導体(例えばアジピン酸ジヒドラジド等の二塩基酸ジヒドラジド)及び炭素数2〜10のアミノアルコール類(例えばエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール及びトリエタノールアミン)等が挙げられる。
【0036】
これらのうちで、ポリウレタン樹脂の残留歪率、引張強度及び伸びの観点から、前記化学式量又は数平均分子量が500未満の低分子ジオールが好ましく、前記炭素数2〜12の脂肪族2価アルコールがより好ましい。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール及び1,4−ブタンジオール等である。このうち、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールがさらに好ましい。
【0037】
鎖伸長剤(a2)の使用量は、ポリウレタン樹脂の耐熱性、引張強度及び残留歪率の観点から、数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)のモル数の好ましくは0.1〜10倍である。鎖伸長剤(a2)は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明のポリウレタン樹脂のウレタン基の濃度とウレア基の濃度の合計値は、ポリウレタン樹脂の重量に基づいて、1.25〜2.50mmol/gである。ウレタン基の濃度とウレア基の濃度の合計値が1.25mmol/g未満では引張強度が低下し、2.50mmol/gを超えると残留歪率が増加し、また、伸びが低下する。
ポリウレタン樹脂の残留歪率の観点から、好ましくは1.55〜2.30mmol/gであり、更に好ましくは1.75〜2.20mmol/gである。
【0039】
本発明のポリウレタン樹脂のウレタン基の濃度とウレア基の濃度の合計値は数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)及び鎖伸長剤(a2)の合計モル比と有機ジイソシアネート(b)の合計モル比の理論計算から算出される。
【0040】
本発明のポリウレタン樹脂は、原子間力顕微鏡(以下、AFMと略記)で測定されるポリウレタン樹脂のハードセグメントドメインの平均ドメイン径が20〜30nmである。
ハードセグメントドメインの平均ドメイン径が20nm未満であると耐熱性が低下する。ハードセグメントドメインの平均ドメイン径は、ポリウレタン樹脂の耐熱性と引張強度及び伸びの観点から好ましくは21〜29nmであり、さらに好ましくは21.5〜28.0nmである。
本発明において、ポリウレタン樹脂のハードセグメントドメインとは原子間力顕微鏡で測定される位相のズレが0〜50%であるドメインであって、鎖伸長剤(a2)と、鎖伸長剤(a2)と反応する有機ジイソシアネート(b2)とから構成されるブロック(B2)である。
また、ハードセグメントドメインの平均ドメイン径とは、AFMで測定される位相のズレが0〜50%であるブロック(B2)の径の大きさである。
【0041】
<AFMによる位相のズレの測定方法>
AFMで測定される位相のズレは、ポリウレタン樹脂表面をカンチレバーでタップさせ、カンチレバーの位相のズレを測定することで測定する。樹脂が硬い部分では位相のズレが小さく、軟らかい部分では位相のズレが大きくなる。位相のズレの測定結果を画像処理すると、上記で定義されるハードセグメントドメインが一定のドメイン径として表される。このドメイン径は画像処理ソフトを使用して算出する。
上記測定方法で測定できるハードセグメントドメインの平均ドメイン径の検出限界値は5nm付近である。
【0042】
<AFMによるハードセグメントの平均ドメイン径の測定方法>
AFMによるハードセグメントドメインの平均ドメイン径の測定方法は以下の条件で測定することができる。
(試料調整方法)
サンプル台に乗る大きさに、ポリウレタン樹脂をカットし、両面テープでサンプル台に固定する。
(測定条件)
測定機器:原子間力顕微鏡SPI4000 Nano Navi Station(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)
カンチレバー種類:OMCL−AC240TS−R3
測定ユニット:E−sweep
走査モード:位相像
(平均ドメイン径の測定方法)
原子間力顕微鏡で測定した画像を以下のソフトを使用して、画像解析する。
測定ソフト:WinROOF(MITANI CORPORATION社製)
ただし、上記測定方法で測定できるハードセグメントドメインの平均ドメイン径の検出限界値は5nm付近である。
【0043】
本発明のポリウレタン樹脂においては、数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)と、数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)と反応する有機ジイソシアネート(b1)とから構成されるブロック(B1)の下記計算式(1)を用いて算出される数平均分子量(M
B1)が、ポリウレタン樹脂の耐熱性と引張強度及び伸びの観点から、好ましくは4,000〜80,000である。
また、鎖伸長剤(a2)と、鎖伸長剤(a2)と反応する有機ジイソシアネート(b2)とから構成されるブロック(B2)の下記計算式(2)を用いて算出される数平均分子量(M
B2)が、ポリウレタン樹脂の耐熱性と引張強度及び伸びの観点から、好ましくは1,400〜25,000である。
【数1】
[計算式(1)中、M
a1は数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)の数平均分子量を表し、M
b1は有機ジイソシアネート(b1)の数平均分子量を表し、kは数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)のモル数を表し、rは有機ジイソシアネート(b1)のモル数を表す。]
【数2】
[計算式(2)中、M
a2は鎖伸長剤(a2)の数平均分子量を表し、M
b2は有機ジイソシアネート(b2)の数平均分子量を表し、iは鎖伸長剤(a2)のモル数を表し、jは有機ジイソシアネート(b2)のモル数を表す。]
【0044】
ポリウレタン樹脂の耐熱性と引張強度及び伸びの観点から、上記計算式(1)を用いて算出されるブロック(B1)の数平均分子量(M
B1)は更に好ましくは4,200〜70,000であり、特に好ましくは4,500〜65,000である。
【0045】
ポリウレタン樹脂の耐熱性と引張強度及び伸びの観点から、上記計算式(2)を用いて算出されるブロック(B2)の数平均分子量(M
B2)は更に好ましくは1,450〜22,000であり、特に好ましくは1,475〜20,000である。
【0046】
本発明のポリウレタン樹脂は以下の(1)〜(3)を満たすことが好ましい。
(1)数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)のモル数と数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)と反応する有機ジイソシアネート(b1)のモル数との比が、好ましくは数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1):有機ジイソシアネート(b1)=1:1.05〜1:1.5であり、更に好ましくは数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1):有機ジイソシアネート(b1)=1:1.05〜1:1.4であり、特に好ましくは数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1):有機ジイソシアネート(b1)=1:1.05〜1.3である。
(2)有機ジイソシアネート(b1)のモル数と鎖伸長剤(a2)と反応する有機ジイソシアネート(b2)のモル数との合計値が、数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)のモル数の好ましくは1.3〜4.2倍であり、更に好ましくは2.0〜3.4倍であり、特に好ましくは2.4〜3.0倍である。
(3)数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)のモル数と鎖伸長剤(a2)のモル数との合計値が、有機ジイソシアネート(b1)のモル数と有機ジイソシアネート(b2)のモル数との合計値と等しい。
【0047】
本発明のポリウレタン樹脂の数平均分子量は、引張強度の観点から、好ましくは20,000〜200,000であり、更に好ましくは30,000〜190,000であり、特に好ましくは40,000〜180,000である。
【0048】
本発明のポリウレタン樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、例えば以下の条件で測定することができる。
装置:「HLC−8220GPC」[東ソー(株)製]
カラム:「Guardcolumn α」(1本)、「TSKgel α−M」(1本)[いずれも東ソー(株)製]
試料溶液:0.125重量%のジメチルホルムアミド溶液
溶液注入量:100μl
流量:1ml/分
測定温度:40℃
検出装置:屈折率検出器
基準物質:標準ポリスチレン
【0049】
本発明のポリウレタン樹脂の熱軟化点は、ポリウレタン樹脂の耐熱性の観点から、好ましくは180〜280℃であり、さらに好ましくは185〜260℃であり、特に好ましくは190〜240℃である。
【0050】
本発明のポリウレタン樹脂の熱軟化点は、以下の手順に従って測定することができる。
[1]フィルムの作製方法
本発明のポリウレタン樹脂溶液を、離型処理したガラス板上に1.0mmの厚みに塗布し、70℃の循風乾燥機で3時間乾燥した後、ガラス板から剥がすことにより、厚さが約0.2mmのフィルムを作製する。
[2]測定方法
前記で得られたフィルムから、縦10mm×横10mmの試験片を切り出し、JIS K 7196に準じて、サンプルを室温から300℃まで5℃/分のスピードで昇温し、熱軟化点を測定する。測定にはTMA/SS6100(SII製)を使用することができる。
【0051】
本発明のポリウレタン樹脂の製造方法は、数平均分子量500〜10,000のジオール(a1)と有機ジイソシアネート(b1)とを反応させて得られるイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(p)と、有機ジイソシアネート(b2)と、鎖伸長剤(a2)とを反応させる工程を含むポリウレタン樹脂の製造方法であって、以下の(1)〜(3)を満たすポリウレタン樹脂の製造方法である。
(1)前記数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)のモル数と前記有機ジイソシアネート(b1)のモル数との比が、前記数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1):有機ジイソシアネート(b1)=1:1.05〜1:1.5である;
(2)前記有機ジイソシアネート(b1)のモル数と前記有機ジイソシアネート(b2)のモル数との合計値が、前記数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)のモル数の1.3〜4.2倍である;
(3)前記数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)のモル数と前記鎖伸長剤(a2)のモル数との合計値が、前記有機ジイソシアネート(b1)のモル数と前記有機ジイソシアネート(b2)のモル数との合計値と等しい。
【0052】
数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)と有機ジイソシアネート(b1)とを反応させてウレタンプレポリマー(p)を製造する際の数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)の水酸基のモル比と有機ジイソシアネート(b1)のイソシアネート基のモル数の比は、ポリウレタン樹脂の耐熱性と残留歪の観点から、好ましくは水酸基:イソシアネート基=1:1.05〜1:1.5であり、更に好ましくは水酸基:イソシアネート基=1:1.05〜1:1.4であり、特に好ましくは水酸基:イソシアネート基=1:1.05〜1.3である。
【0053】
数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)と有機ジイソシアネート(b1)とを反応させる際の温度及び時間等の条件は、通常のウレタンプレポリマー製造時と同様の条件を適用することができる。
【0054】
本発明のポリウレタン樹脂の製造方法では、ウレタンプレポリマー(p)と有機ジイソシアネート(b2)と鎖伸長剤(a2)とを反応させる工程を行うことによりポリウレタン樹脂を製造することができる。この反応における温度及び時間等の条件は、通常のポリウレタン樹脂製造時と同様の条件を適用することができる。尚、ウレタンプレポリマー(p)を製造するために用いた有機ジイソシアネート(b1)と、ウレタンプレポリマー(p)と反応させた有機ジイソシアネート(b2)は同一であっても異なっていてもよい。
【0055】
有機ジイソシアネート(b1)のイソシアネート基のモル数と有機ジイソシアネート(b2)のイソシアネート基のモル数との合計値は、ポリウレタン樹脂の引張強度と残留歪率の観点から、数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)の水酸基のモル数の好ましくは1.3〜4.2倍であり、更に好ましくは2.0〜3.4倍であり、特に好ましくは2.4〜3.0倍である。
【0056】
数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)の水酸基のモル数と鎖伸長剤(a2)の水酸基のモル数との合計値は、ポリウレタン樹脂の引張強度の観点から、有機ジイソシアネート(b1)のイソシアネート基のモル数と有機ジイソシアネート(b2)のイソシアネート基のモル数との合計値と等しいことが好ましい。
【0057】
前述の通り、ウレタンプレポリマー(p)と有機ジイソシアネート(b2)と鎖伸長剤(a2)とを反応させることによりポリウレタン樹脂を得ることができるが、ウレタンプレポリマー(p)と有機ジイソシアネート(b2)と鎖伸長剤(a2)の反応中にポリマー末端封止剤(a3)を投入してポリマー末端の封止停止反応を行うことが好ましい。
【0058】
ポリマー末端封止剤(a3)としては、炭素数1〜18のモノアルコール類(a31)及び炭素数2〜20のモノアミン(a32)等が挙げられる。なお、ポリマー末端封止剤(a3)は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0059】
炭素数1〜18のモノアルコール類(a31)としては、直鎖モノオール(メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、オクタデシルアルコール等);分岐鎖を有するモノオール(イソプロパノール、sec−、iso−又はtert−ブタノール、ネオペンチルアルコール、3−メチル−ペンタノール及び2−エチルヘキサノール等);炭素数6〜10の環状基を有するモノオール[脂環基含有モノオール(シクロヘキサノール等)及び芳香環含有モノオール(ベンジルアルコール等)等];高分子モノオール(ポリエステルモノオール、ポリエーテルモノオール及びポリエーテルエステルモノオール等);セロソルブ類及びカルビトール類、及びこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
これらのうちでは、直鎖モノオールが好ましい。具体的に、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール等である。
【0060】
炭素数2〜20のモノアミン(a32)としては、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン等のアルキル基の炭素数1〜8のモノ又はジアルキルアミン;シクロヘキシルアミン等の炭素数6〜10の脂環式モノアミン;アニリン等の炭素数6〜10の芳香族モノアミン;モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジソプロパノールアミンなどのアルカノール基の炭素数2〜4のモノ又はジアルカノールアミン;モルホリンなどの複素環式モノアミン;及びこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0061】
ポリマー末端の封止停止反応においては、ウレタンプレポリマー(p)と有機ジイソシアネート(b2)と鎖伸長剤(a2)とを含む反応混合物中のイソシアネート基の重量の割合が0.01〜0.3重量%となった時点でポリマー末端封止剤(a3)を投入することが好ましい。ポリマー末端封止剤(a3)投入時のイソシアネート基の重量の割合は0.03〜0.13重量%であることが更に好ましい。
【0062】
尚、ポリウレタン樹脂の製造に後述の有機溶剤や添加剤を用いる場合、ウレタンプレポリマー(p)と有機ジイソシアネート(b2)と鎖伸長剤(a2)とを含む反応混合物中のイソシアネート基の重量の割合を直接求めることが困難なため、反応混合物の総投入量に対するウレタンプレポリマー(p)と有機ジイソシアネート(b2)と鎖伸長剤(a2)の投入量の合計値の比率に前記イソシアネート基の重量の割合の範囲を乗じてポリマー末端封止剤(a3)投入時のイソシアネート基の重量の割合の目標範囲を算出し、有機溶剤等を含む反応溶液のイソシアネート基含量を測定して、その値が前記目標範囲に入った時点でポリマー末端封止剤(a3)を投入する。
【0063】
停止反応の温度及び時間等の条件は、通常のポリウレタン樹脂製造時の停止反応と同様の条件を適用することができる。
【0064】
本発明のポリウレタン樹脂の製造方法においては、その任意の製造工程において有機溶剤を使用することができる。有機溶剤としては特に限定されず、例えば炭素数3〜10のケトン系溶媒(例えばアセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン)、炭素数2〜10のエステル系溶媒(例えば酢酸エチル、酢酸ブチル及びγ−ブチロラクトン)、炭素数4〜10のエーテル系溶媒(例えばテトラヒドロフラン及びジエチレングリコールジメチルエーテル)、炭素数3〜10のアミド系溶媒[例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMACと略記)、N−メチル−2−ピロリドン及びN−メチルカプロラクタム]、炭素数2〜10のスルホキシド系溶媒(例えばジメチルスルホキシド)、炭素数1〜8のアルコール系溶媒(例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール及びオクタノール)及び炭素数4〜10の炭化水素系溶媒(例えばn−ブタン、シクロヘキサン、トルエン及びキシレン)等が挙げられる。
【0065】
これらのうち、ポリウレタン樹脂の溶解性の観点から、炭素数3〜10のアミド系溶媒及び炭素数2〜10のスルホキシド系溶媒等が好ましく炭素数3〜10のアミド系溶媒等が更に好ましい。具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド又はDMACである。
【0066】
有機溶剤を使用する場合、その使用量は製造されるポリウレタン樹脂の濃度が好ましくは10〜90重量%であり、更に好ましくは20〜80重量%である。
【0067】
また、ポリウレタン樹脂の製造に際し、反応促進のため必要により通常ポリウレタン樹脂の製造に用いられる触媒を含有することができる。触媒の具体例としては、例えば有機金属化合物[ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズラウレート、ビスマスカルボキシレート、ビスマスアルコキシド及びジカルボニル基を有する化合物とビスマスとのキレート化合物等]、無機金属化合物[酸化ビスマス、水酸化ビスマス、ハロゲン化ビスマス等]、アミン[トリエチルアミン、トリエチレンジアミン及びジアザビシクロウンデセン等]及びこれらの2種以上の併用等が挙げられる。
【0068】
更に、本発明のポリウレタン樹脂の製造方法における任意の工程で、顔料、安定剤及びその他の添加剤(融着防止剤及び難燃剤等)を添加することができる。このように添加剤が添加されて製造されたポリウレタン樹脂組成物は、本発明のポリウレタン樹脂と添加剤とを含有する本発明のポリウレタン樹脂組成物でもある。
【0069】
顔料としては特に限定されず、公知の有機顔料及び/又は無機顔料を使用することができ、製造されるポリウレタン樹脂の重量に対して、通常0〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%配合する。有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、銅フタロシアニン系顔料及びキナクリドン系顔料等が挙げられ、無機系顔料としては例えばクロム酸塩、フェロシアン化合物、金属酸化物、硫化セレン化合物、金属塩(硫酸塩、珪酸塩、炭酸塩及び燐酸塩等)、金属粉末及びカーボンブラック等が挙げられる。
【0070】
安定剤としては特に限定されず公知の酸化防止剤及び/又は紫外線吸収剤を使用することができ、製造されるポリウレタン樹脂の重量に対して、通常0〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%配合される。
酸化防止剤としては、フェノール系[2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール及びブチル化ヒドロキシアニソール等];ビスフェノール系[2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)等];リン系[トリフェニルフォスファイト及びジフェニルイソデシルフォスファイト等]等が挙げられる。
【0071】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系[2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン及び2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等];ベンゾトリアゾール系[2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等];サリチル酸系[フェニルサリシレート等];ヒンダードアミン系[ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート等]等が挙げられる。
【0072】
本発明のポリウレタン樹脂及びポリウレタン樹脂組成物は、耐熱性が高く、引張強度及び伸び等の伸縮物性に優れるため、弾性繊維として好適に用いられる。
本発明のポリウレタン樹脂又はポリウレタン樹脂組成物を弾性繊維用に使用する際、溶融紡糸法で使用される場合は溶融状態、無溶剤ペレット又は無溶剤ブロックの形状で使用される。一方、乾式紡糸法で使用される場合は先に例示したDMAC等の溶剤で希釈した通常30〜80重量%の樹脂濃度のポリウレタン樹脂溶液として使用される。
【0073】
以上のように構成したポリウレタン樹脂溶液を紡糸原液とし、たとえば乾式紡糸、湿式紡糸、もしくは溶融紡糸し、巻き取ることで、本発明のポリウレタン樹脂又はポリウレタン樹脂組成物を紡糸してなるポリウレタン弾性繊維を得ることができる。中でも、弾性繊維となった場合に、大きなハードセグメントドメイン結晶を生成することによって、高破断伸度、高熱軟化点、優れた耐薬品性、低い繊度変動係数を発現し、あらゆる繊度において安定に紡糸できるという観点から、乾式紡糸が好ましい。
【0074】
本発明のポリウレタン樹脂又はポリウレタン樹脂組成物を紡糸してなるポリウレタン弾性繊維の繊度、断面形状などは特に限定されるものではない。例えば、ポリウレタン弾性繊維の断面形状は円形であってもよく、また扁平であってもよい。
そして、乾式紡糸方式についても特に限定されるものではなく、所望する特性や紡糸設備に見合った紡糸条件等を適宜選択して紡糸すればよい。
たとえば、ポリウレタン弾性繊維の永久歪率と応力緩和は、特にゴデローラーと巻取機の速度比の影響を受けやすいので、弾性繊維の使用目的に応じて適宜決定されるのが好ましい。すなわち、所望の永久歪率と応力緩和を有するポリウレタン弾性繊維を得る観点から、ゴデローラーと巻取機の速度比は1.10以上1.65以下の範囲として巻き取ることが好ましい。そして、特に高い永久歪率と、低い応力緩和を有するポリウレタン弾性繊維を得る際には、ゴデローラーと巻取機の速度比は1.15以上1.4以下の範囲がより好ましく、1.15以上1.35以下の範囲がさらに好ましい。
【0075】
一方、低い永久歪率と、高い応力緩和を有するポリウレタン弾性繊維を得る際には、ゴデローラーと巻取機の速度比は1.25以上1.65以下の範囲として巻き取ることが好ましく、1.35以上1.65以下の範囲がより好ましい。
また、紡糸速度は、得られるポリウレタン弾性繊維の強度を向上させる観点から、450m/分以上であることが好ましい。
以上のようにして得られたポリウレタン弾性繊維は、たとえば他の繊維とともに布帛を製造する際に用いられる。布帛を製造するために、ポリウレタン弾性繊維とともに用いられる他の繊維としては、ポリアミド繊維やポリエステル繊維等が挙げられる。
さらには、ポリウレタン弾性繊維の高いヒートセット性と低い繊度変動係数を反映した外観品位に優れた布帛を製造する観点から、ポリウレタン弾性繊維とともに用いられる他の繊維は長繊維であることがより好ましい。
【0076】
ここで、ポリアミド繊維は、ナイロン6繊維やナイロン66繊維に代表される繊維であるが、これに限定されるものではない。また、ポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ジオール成分としてポリテトラメチレングリコールとエチレングリコールを主成分として含むエステル系共重合体、及び、それらのカチオン可染変性ポリエステル等のポリエステルから構成される繊維である。
【0077】
本発明のポリウレタン樹脂又はポリウレタン樹脂組成物を紡糸してなるポリウレタン弾性繊維は、布帛の加工性や耐久性の観点から、これらポリアミド繊維又はポリエステル繊維とで構成される布帛であることが好ましいが、ポリアクリル系、ポリ塩化ビニル系等からなる合成繊維や、銅アンモニアレーヨン、ビスコースレーヨン、精製セルロースからなる再生セルロース繊維や、再生タンパク繊維、半合成繊維、綿、絹、羊毛等の天然繊維素材を併用してもよい。
また、布帛中のポリウレタン弾性繊維は、裸糸の状態で用いてもよいし、他の繊維によってカバーリングしたコアスパンヤーン、エアーカバリングヤーン、他の繊維との合撚糸、交撚糸、インターレース糸等の複合糸の状態で用いてもよい。また、ポリウレタン弾性繊維と他の繊維とから構成される布帛は、上記複合糸から構成される編織物でもよいし、もしくは、経編み、丸編み、緯編み等の製編において、他の繊維と交編することでもよい。
【0078】
布帛が編み地の場合、経編みでも緯編みでもよく、例えば、トリコット、ラッセル、丸編み等が挙げられる。また編組織は、ハーフ編み、逆ハーフ編み、ダプルアトラス編み、ダブルデンビー編み等のいずれの編組織でもよいが、編地表面はポリウレタン弾性繊維以外の天然繊維、化学繊維、合成繊維で構成されていることが風合の点で好ましい。
【0079】
本発明のポリウレタン樹脂及びポリウレタン樹脂組成物は、耐熱性が高く、引張強度及び伸び等の伸縮物性に優れるため、各種フィルムとして好適に用いられる。
【0080】
本発明のポリウレタン樹脂及びポリウレタン樹脂組成物は、耐熱性が高く、伸縮特性に優れるため、塗料、コーティング剤、シーリング材、接着剤、粘着剤、繊維加工剤、人工皮革・合成皮革、ロール等のエラストマー用原料及び弾性繊維などの繊維製品等の用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0082】
実施例1〜9、比較例3及び4
表1に記載の処方に基づいて、撹拌装置及び温度制御装置付きの反応容器に数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)、有機ジイソシアネート(b1)及び有機溶剤を投入し、窒素雰囲気下、70℃で7時間反応させてウレタンプレポリマー(p)を得た。続いて、鎖伸長剤(a2)及び有機ジイソシアネート(b2)を投入、窒素雰囲気下、70℃で反応させて反応混合物中のイソシアネート基の重量の割合が表2又は表3に記載の値になった時点でポリマー末端封止剤(a3)を加えて1時間末端停止反応を行い、実施例1〜9のポリウレタン樹脂溶液(P−1)〜(P−9)、及び比較例3、4のポリウレタン樹脂溶液(R−3)、(R−4)を得た。
【0083】
比較例1及び2
表1に記載の処方に基づいて、撹拌装置及び温度制御装置付きの反応容器に数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)、鎖伸長剤(a2)、有機ジイソシアネート(b1)及び有機ジイソシアネート(b2)(表1には投入量の合計値を記載)及び有機溶剤を投入し、乾燥窒素雰囲気下、70℃で反応させて反応混合物中のイソシアネート基の重量の割合が表3に記載の値になった時点でポリマー末端封止剤(a3)を加えて1時間末端停止反応を行い、比較例1及び比較例2のポリウレタン樹脂溶液(R−1)及び(R−2)を得た。
【0084】
尚、表1における数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)の組成は以下の通りである。
・PTMG1500:数平均分子量が1,500のポリオキシテトラメチレングリコール[三菱化学(株)製「PTMG1500」]
・PTMG2000:数平均分子量が2,000のポリオキシテトラメチレングリコール[三菱化学(株)製「PTMG2000」]
・PTMG3000:数平均分子量が3,000のポリオキシテトラメチレングリコール[三菱化学(株)製「PTMG3000」]
・THF/EO共重合体:数平均分子量が2,000のTHFとEOのモル比が70:30である、テトラヒドロフランとエチレンオキサイドとの共重合ジオール
・THF/3M−THF共重合体:数平均分子量が2,000である、テトラヒドロフランと3−メチルテトラヒドロフランとの共重合ジオール[保土谷化学(株)製「PTGL2000」]
・サンエスター 24625:数平均分子量が2,500の脱水縮合型ポリエステルジオール[三洋化成工業(株)製:「サンエスター24625」]
【0085】
【表1】
【0086】
実施例1〜9及び比較例1〜4で得られたポリウレタン樹脂溶液を用いて、下記方法により測定したポリウレタン樹脂の切断時引張強さ、切断時伸び、残留歪率及び熱軟化点の値を表2に示す。
【0087】
[1]フィルムの作製方法
ポリウレタン樹脂溶液を、離型処理したガラス板上に1.0mmの厚みに塗布し、70℃の循風乾燥機で3時間乾燥した後、ガラス板から剥がすことにより、厚さが約0.2mmのフィルムを作製した。
【0088】
[2]フィルムの強度及び伸びの測定方法
前記で得られたフィルムを温度25℃、湿度65%RHに調整した室内に1日間静置した後、JIS K 6251に準じて、切断時引張強さ及び切断時伸びを測定した。これらの値が大きい程、弾性繊維としての性質に優れている。尚、ダンベル状試験片の平行部分の厚さは200μm、平行部分の幅は5mm、初期の標線間距離は20mmである。
【0089】
[3]残留歪率の測定方法
前記で得られたフィルムから、縦100mm×横5mmの短冊状の試験片を切り出して標線間距離が50mmとなるように標線をつけた。この試験片をインストロン型引張り試験機(島津製作所製オートグラフ)のチャックにセットして、25℃の雰囲気下、500mm/分の一定速度で標線間の距離が300%になるまで伸長後、直ちに同じ速度で伸長前のチャック間の距離まで戻す操作を行った。
前記操作後の標線間の距離(D1)を測定してこの値と試験前の標線間の距離(D0=50mm)を用いて下式から残留歪率(%)を求めた。
残留歪率(%)={(D1−D0)/D0}×100
【0090】
[4]熱軟化点の測定方法
前記で得られたフィルムから、縦10mm×横10mmの試験片を切り出し、JIS K 7196に準じて、サンプルを室温から300℃まで5℃/分のスピードで昇温し、熱軟化点を測定した。測定にはTMA/SS6100(SII製)を使用した。
熱軟化点が高い程、ポリウレタン樹脂の耐熱性が良好である。
【0091】
[5]AFMによるハードセグメントドメインの平均ドメイン径の測定方法
(試料調整方法)
サンプル台に乗る大きさに、ポリウレタン樹脂をカットし、両面テープでサンプル台に固定した。
(測定条件)
測定機器:原子間力顕微鏡SPI4000 Nano Navi Station(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)
カンチレバー種類:OMCL−AC240TS−R3
測定ユニット:E−sweep
走査モード:位相像
(平均ドメイン径の測定方法)
原子間力顕微鏡で測定した画像を以下のソフトを使用して、画像解析した。
測定ソフト:WinROOF(MITANI CORPORATION社製)
実施例2及び比較例1のハードセグメントドメインの画像を
図1及び
図2に示す。
図1は、実施例2におけるハードセグメントドメインの画像である。
図1の下部、色の濃淡で表された帯はカンチレバーの位相のずれの程度を示し、左半分の濃い色の部分が位相のずれ0〜50%に対応する。この濃い色で示されたドメインが実施例2のハードセグメントドメインである。
図2は、比較例1におけるハードセグメントドメインの画像である。図の見方は
図1と同じである。
【0092】
ハードセグメントドメインの平均ドメイン径を、ポリウレタン樹脂におけるウレタン基の濃度とウレア基の濃度、ブロック(B1)の数平均分子量、ブロック(B2)の数平均分子量、ポリウレタン樹脂の数平均分子量と合わせて表2に示した。
【0093】
[6]ウレタン基の濃度とウレア基の濃度の算出方法
数平均分子量が500〜10000のジオール(a1)及び鎖伸長剤(a2)の合計モル比と有機ジイソシアネート(b)の合計モル比の理論計算から算出した。
ウレタン基の濃度とウレア基の濃度の合計値を表2に示した。
【0094】
[7]ブロック(B1)の数平均分子量、ブロック(B2)の数平均分子量の算出方法
数平均分子量(M
B1)は数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)と、数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)と反応する有機ジイソシアネート(b1)とから構成されるブロック(B1)の下記計算式(1)を用いて算出した。
【数3】
[計算式(1)中、M
a1は数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)の数平均分子量を表し、M
b1は有機ジイソシアネート(b1)の数平均分子量を表し、kは数平均分子量が500〜10,000のジオール(a1)のモル数を表し、rは有機ジイソシアネート(b1)のモル数を表す。]
数平均分子量(M
B2)は、鎖伸長剤(a2)と、鎖伸長剤(a2)と反応する有機ジイソシアネート(b2)とから構成されるブロック(B2)の下記計算式(2)を用いて算出した。
【数4】
[計算式(2)中、M
a2は鎖伸長剤(a2)の数平均分子量を表し、M
b2は有機ジイソシアネート(b2)の数平均分子量を表し、iは鎖伸長剤(a2)のモル数を表し、jは有機ジイソシアネート(b2)のモル数を表す。]
ブロック(B1)の数平均分子量、ブロック(B2)の数平均分子量を表2に示した。
【0095】
[8]ポリウレタン樹脂の数平均分子量の測定方法
ポリウレタン樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、以下の条件で測定した。
装置:「HLC−8220GPC」[東ソー(株)製]
カラム:「Guardcolumn α」(1本)、「TSKgel α−M」(1本)[いずれも東ソー(株)製]
試料溶液:0.125重量%のジメチルホルムアミド溶液
溶液注入量:100μl
流量:1ml/分
測定温度:40℃
検出装置:屈折率検出器
基準物質:標準ポリスチレン
ポリウレタン樹脂の数平均分子量を表2に示した。
【0096】
実施例1〜9及び比較例1〜4で得られたポリウレタン樹脂溶液を用いて、下記方法により作製したポリウレタン弾性繊維(L−1)〜(L−9)及び(L’−1)〜(L’−4)の破断伸度、破断強度、永久歪率、応力緩和、熱軟化点、ヒートセット、耐薬品性及び繊度変動係数の値を表3に示す。
【0097】
[9]ポリウレタン弾性繊維(L−1)〜(L−9)及び(L’−1)〜(L’−4)の作製方法
米国特許第3555115号明細書に記載されているt−ブチルジエタノールアミンとメチレン−ビス−(4−シクロヘキシルイソシアネ−ト)の反応によって生成せしめたポリウレタンと米国特許第3553290号に記載されているp−クレゾ−ルとジビニルベンゼンの縮合重合体の2対1重量比の混合物のDMAC溶液(35重量%)を調製し、酸化防止剤溶液(35重量%)とした。実施例1〜9及び比較例1〜4で得られたポリウレタン樹脂溶液[(P−1)〜(P−9)及び(R−1)〜(R−4)]を97重量%、酸化防止剤溶液を3重量%で均一に混合し、溶液とした。これをゴデローラーと巻取機の速度比1.4として490m/分のスピードで乾式紡糸することにより、33デシテックス、3フィラメントであるポリウレタン弾性繊維の300g巻糸体を得た。
【0098】
[10]ポリウレタン弾性繊維の破断伸度、破断強度、応力緩和、永久歪率
破断強度、応力緩和、永久歪率、破断伸度は、試料糸をインストロン4502型引張試験機にて、引張テストをすることにより測定した。
これらは下記により定義される。5cm(L1)の試料を50cm/分の引張速度で300%伸長を5回繰返した。このときの応力を(G1)とした。
次に300%伸長を30秒間保持した。30秒間保持後の応力を(G2)とした。次に伸長を回復せしめ応力が0になった際の試料糸の長さを(L2)とした。さらに6回目に試料糸が切断するまで伸長した。この破断時の応力を(G3)、破断時の試料糸の長さを(L3)とした。
以下、前記特性は下記式により与えられる。
破断強度 =(G3)
応力緩和=100×((G1)−(G2))/(G1)
永久歪率=100×((L2)−(L1))/(L1)
破断伸度 =100×((L3)−(L1))/(L1)
【0099】
[11]ポリウレタン弾性繊維の熱軟化点
レオメトリック社製動的弾性率測定機RSAIIを用い、昇温速度10℃/分で、動的貯蔵弾性率E’の温度分散を測定した。熱軟化点は、E’曲線が80℃以上130℃以下のプラト領域での接線と、160℃以上にてE’が熱軟化により降下するE’曲線の接線との交点から求めた。なお、E’は対数軸、温度は線形軸を用いた。
図3には、実施例1及び比較例1における弾性繊維の熱軟化点の測定曲線を、弾性繊維の評価図として示した。
【0100】
[12]ポリウレタン弾性繊維のヒートセット性
試料糸(長さ=L5)を100%伸長した(長さ=2×(L5))。この長さのまま160℃で1分間処理した。さらに同じ長さで、1日室温で放置した。次に、試料糸の伸長状態をはずし、その長さ(L6)を測定した。
ヒートセット性=100×((L6)−(L5))/(L5)
ヒートセット性は値が高いほうが良好であることを示している。
【0101】
[13]ポリウレタン弾性繊維の耐薬品性
糸を100%伸長状態で固定し、次の3種の暴露処理を実施した。まず、オレイン酸のヘキサン溶液(5重量%)に1時間浸積処理し、次に調製した次亜塩素酸溶液(塩素濃度500ppm)に2時間浸積処理し、次に2時間UV暴露を行った。UV暴露処理は、機器としてスガ試験機社製のカーボンアーク型フェードメーターを用い、63℃、60%RHの温湿度で実施した。この暴露処理を合計2回実施した後、糸をフリーで24時間、室温で放置し、前記と同じ方法で破断強度(G4)を測定した。未処理糸の破断強度(G3)に対する、処理後の破断強度(G4)の割合(保持率)を耐薬品性とした。
耐薬品性(%)=100×(G4)/(G3)
【0102】
[14]ポリウレタン弾性繊維の繊度変動係数
ポリウレタン弾性繊維を巻き上げたパッケージ(巻糸体)の表面で、最初の50メートルのポリウレタン弾性繊維を除去することで、ハンドリングから生ずる損傷が原因の不正確さが入らないようにする。次いで、その巻糸体から回転引取装置を用いて、ポリウレタン弾性繊維を130秒間引き出して、圧電セラミックピンを備えた張力計を通過させる。次に、引取りロールの円周を供給ロールの円周よりも50%大きくして、供給ロールと引取りロールの回転速度を同じにした結果、そのポリウレタン弾性繊維は、張力計を通過する際に50%の伸びに延伸される。張力計により、ポリウレタン弾性繊維がロールを通って供給される際の張力を測定した。繊度は張力と直接的な比例関係にあるので、張力の標準偏差を平均張力で割り算して変動係数を得る。繊度変動係数は、繊度とは無関係であって、繊度変動係数が小さいということは、繊維の均質性が高いということを示している。
【0103】
[15]さらに次の方法でストレッチ織物を製作し、外観品位を評価した。
得られたポリウレタン弾性繊維のカバーリング加工を行った。カバーリング用糸としてナイロン長繊維168dtex−24filを使用し、カバーリング機を用いてヨリ数=450t/m、ドラフト=3.0の条件で加工してヨコ糸用カバーリング糸を作製した。また、同様に、カバーリング用糸として同ナイロン長繊維を使用し、カバーリング機を用いてヨリ数700t/m、ドラフト=3.5の条件で加工してタテ糸用カバーリング糸を作製した。
次に、整経・製織を行った。タテ糸の5100本(荒巻き整経1100本)を糊付け整経し、レピアー織機を用いて2/1綾組織で製織した。
次に、染色加工を行った。製織で得た生機を、常法に従い精練加工、中間セット(175℃)、エンボス加工(180℃)、染色加工(98℃)、乾燥、仕上げ剤処理、仕上げセット(175℃、布速20m/min、セットゾーン24m)を順次行った。
そして外観品位の評価を目視により行った。評価基準は以下の通りである。
○:ストレッチ織物は欠点がない。
△:ストレッチ織物は経方向のスジが発生した。
×:カバーリング糸作成時に糸切れが多発した。
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
実施例1〜9のポリウレタン樹脂溶液から得られたフィルム(ウレタンシート)は耐熱性が高く、伸縮特性に優れたものであった。一方、比較例1〜3のポリウレタン樹脂溶液から得られたフィルム(ウレタンシート)は熱軟化点が低く、比較例4のポリウレタン樹脂溶液から得られたフィルム(ウレタンシート)は伸縮特性が劣っていた。
【0107】
実施例1〜9のポリウレタン弾性繊維にて得られたストレッチ織物は欠点がなく、外観品位に優れたものであった。一方、比較例1〜3のポリウレタン弾性繊維にて得られたストレッチ織物は経方向のスジが発生し外観品位が劣るものであった。比較例4はカバーリング糸作成時に糸切れが多発し、特にタテ糸用カバーリング糸を得ることが困難であった。