【実施例】
【0024】
次に、実施例1〜6のハニカム構造体を用いて、二酸化珪素の結晶相の存在が、酸化防止層の軟化やハニカム構造体の耐熱衝撃性に及ぼす影響を、検討した結果を示す。
【0025】
実施例1〜6の試料には、同一条件で作製した基体を使用した。この基体は、骨材としての炭化珪素、及び、炭化珪素を反応生成する珪素源と炭素源とを含む原料を成形し、非酸化性雰囲気で焼成した後、過剰の炭素分を酸化雰囲気下で加熱除去したものである。基体は、炭化珪素の他、ごく僅かに過剰分の珪素(単体)を含有する。基体のハニカム構造は、隔壁厚さ0.65mm、セル密度50セル/inch
2とし、外形は50mm×50mm×50mmの立方体とした。炭素源として使用した炭素質物質の消失跡に気孔が形成されており、隔壁は多孔質である。
【0026】
上記の基体に対し、異なる割合で酸化防止剤を含浸させた。含浸処理では、まず、密閉できる容器内に基体を収容し、容器内の空気を真空ポンプ等で吸引する。これにより、多孔質の基体の開気孔が脱気される。次に、開閉弁付きのパイプやホースを介して、酸化防止剤のスラリーを、基体が収容されている密閉容器内に導入する。これにより、基体の外表面が酸化防止剤によって被覆されると共に、脱気された開気孔の内部まで酸化防止剤が浸入する。
【0027】
その後、基体から余剰の酸化防止剤を除去した。例えば、基体に連続して振動を与えることにより、或いは、圧縮空気を基体に吹き付けることにより、余剰の酸化防止剤を除去することができる。
【0028】
ここで、酸化防止剤としては、実施例6を除く実施例1〜5の試料に、同一組成の酸化防止剤を含浸させた。実施例6の試料には、クリストバライトの結晶生成を促進する成分として、5質量%のアルミナを添加した酸化防止剤を含浸させた。
【0029】
熱処理は、実施例1〜6それぞれの試料について、後述する加熱温度、加熱時間、降温速度で行った。
【0030】
熱処理後の各試料について、湿式化学分析法による定量を行った。定量に際しては、フッ化水素酸に溶融させた溶液から検出されたSiから二酸化珪素分(ガラス相及び結晶相を含む全体量)を算出し、フッ化水素酸に溶融しなかった残部から検出されたSiを、二酸化珪素以外の珪素化合物(炭化珪素を含む)として算出した。その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
また、熱処理後の各試料について、X線回折パターンを測定し、結晶相の同定、及び、リートベルト法による定量を行った。ここで、X線回折パターンの測定には、X線回折装置(リガク製、Ultima III)を使用し、銅管球,電圧40kV,電流40mA,ステップスキャン法にてステップ幅0.02度、2度/minの条件で測定した。
【0033】
各試料のX線回折パターンに認められた二酸化珪素の結晶相は、実施例1ではクリストバライトであり、他の実施例2〜6ではクリストバライト及びトリジマイトであった。何れの試料のX線回折パターンにおいても、二酸化珪素の結晶相、炭化珪素の結晶相に加えて、単体の珪素など珪素を含有する他の結晶相のピークが認められた。例として、実施例2及び実施例4のX線回折パターンを、それぞれ
図1及び
図2に示す。
【0034】
X線回折パターンから定量した炭化珪素と、炭化珪素でも二酸化珪素でもない他の珪素を含有する結晶相との和は、湿式化学分析法により定量された二酸化珪素以外の珪素化合物と、定量の対象が同一である。この関係に基づき、湿式化学分析法による二酸化珪素以外の珪素化合物を、炭化珪素とその他の珪素化合物に分けた組成を、表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
また、上記の関係に基づき、X線回折パターンから定量した二酸化珪素の結晶相と、湿式化学分析法により定量された二酸化珪素分(ガラス相及び結晶相を含む全体量)とを対比し、二酸化珪素のガラス相を定量した。各試料における二酸化珪素のガラス相、及び、二酸化珪素の結晶相としてクリストバライト及びトリジマイトの定量結果を、熱処理の条件と共に表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
二酸化珪素のガラス相と二酸化珪素の結晶相(クリストバライト及びトリジマイト)との和に対する二酸化珪素の結晶相の割合を算出した結果を、表3にあわせて示す。この算出結果を、熱処理条件において加熱温度のみが相違する実施例1と実施例2を対比すると、加熱温度が高い(ガラス軟化点に近い)方が、二酸化珪素の結晶相の生成割合が増加している。また、熱処理条件において加熱時間のみが相違する実施例2と実施例3、実施例4と実施例5をそれぞれ対比すると、加熱時間が長い方が二酸化珪素の結晶相の生成割合が増加している。更に、熱処理条件において降温速度のみが相違する実施例2と実施例4、実施例3と実施例5をそれぞれ対比すると、降温速度が小さい方が二酸化珪素の結晶相の生成割合が増加している。加えて、酸化防止剤へのアルミナの添加の有無のみが相違する実施例5と実施例6を対比すると、アルミナを添加することにより二酸化珪素の結晶相の生成割合が増加していると共に、クリストバライトが多く生成していることが分かる。
【0039】
各試料について、酸化防止層で被覆された表面をデジタル顕微鏡(マイクロスコープ)で観察したところ、何れの試料でも二酸化珪素と考えられる結晶が観察された。例として、実施例2の観察像を
図3(a)に、実施例4の観察像を
図3(b)に示す。実施例2では、クリストバライトの結晶が明瞭に観察され、実施例4ではクリストバライトの結晶(円で囲んだ範囲C)とトリジマイトの結晶(円で囲んだ範囲T)の双方が、明瞭に観察された。
【0040】
上記のように、それぞれ酸化防止層に二酸化珪素のガラス相と二酸化珪素の結晶相とを含む実施例1〜6の試料について、次のように酸化防止層の軟化による付着性と、耐熱衝撃性を評価した。
【0041】
<酸化防止層の軟化による付着性>
各試料を温度1000℃の電気炉内で30分保持した後、炉外に取り出し、硫酸カルシウム粉末5gを試料の表面(酸化防止層)に散布した。硫酸カルシウム粉末は、ダストに見立てたものである。試料を室温まで冷却した後、圧縮空気で粉末を吹き飛ばしてから、試料の質量を測定した。試験前の質量と対比した増加分は、試料に付着した硫酸カルシウム粉末の質量である。この付着量が試料1個当たり0.5g以上の場合を、酸化防止層の軟化による付着が多いとして「×」と評価し、0.05〜0.5gの場合を、やや付着が多いとして「△」と評価し、0.05g以下の場合を付着が殆どないとして「○」と評価した。
【0042】
<耐熱衝撃性>
各試料を温度1000℃の電気炉内で30分保持した後、炉外に取り出し、水中に投下して急冷した。亀裂または割れの発生の有無を目視で観察し、1回の試験で亀裂または割れが発生した場合を「×」と評価し、2〜3回の繰り返し試験で亀裂または割れが発生した場合を「△」と評価し、4〜5回の繰り返し試験で亀裂または割れが発生した場合を「○」と評価し、5回の繰り返し試験で亀裂も割れも発生しなかった場合を「◎」と評価した。
【0043】
酸化防止層の軟化による付着性、及び、耐熱衝撃性の評価結果を、表4に示す。また、対比のために、比較例4の試料について、同様の評価試験を行った結果を、表4に合わせて示す。比較例4は、熱処理条件における降温速度を除き実施例4と同一の試料であり、降温速度は300℃/hと大きく、酸化防止層はガラス相のみからなる。
【0044】
【表4】
【0045】
表4から分かるように、酸化防止層にガラス相に加えて二酸化珪素の結晶相を析出させることにより、ハニカム構造体を高温下で使用したときの酸化防止層の軟化が抑制され、軟化に伴う付着が防止できることが確認された。表3に示した結果と考え合わせると、二酸化珪素のガラス相と二酸化珪素の結晶相との和に対する二酸化珪素の結晶相の割合が、少なくとも20質量%〜61質量%の範囲(実施例1〜6によって確認できた範囲)であれば、軟化に伴う付着を抑制することができる。
【0046】
また、表4に、炭化珪素に対するクリストバライトの割合(質量%)の算出値を合わせて示す。クリストバライトの割合が28質量%である実施例6では耐熱衝撃性の評価は「○」であるが、クリストバライトの割合が31質量%である実施例3では耐熱衝撃性の評価は「△」と低下している。このことから、クリストバライトの割合が増加すると、酸化防止層を有するハニカム構造体の耐熱衝撃性が低下すると考えられた。これは、
図4に示すように、1気圧下での二酸化珪素の結晶構造である石英、トリジマイト、クリストバライトのうち、クリストバライトは常温から1000℃に至る全温度域で熱膨張率が大きいことから、温度変化に伴う膨張及び圧縮と、基体の炭化珪素との熱膨張率の差異に起因する応力の発生により、耐熱衝撃性が低下するためと考えられた。
【0047】
加えて、
図4から明らかなように、クリストバライトは高温型と低温型との転移に際して熱膨張率が大きく急激に変化する。このことからも、二酸化珪素の結晶としてクリストバライトを多く含有する場合、温度変化に伴い発生する応力によって耐熱衝撃性が低下すると考えられた。ここで、耐熱衝撃性の評価が「〇」または「◎」であることが確認された範囲として、炭化珪素に対するクリストバライトの割合を、少なくとも3質量%〜28質量%とすると好適であり、耐熱衝撃性の評価が「◎」であることが確認された範囲として、炭化珪素に対するクリストバライトの割合を、少なくとも14質量%〜17質量%とするとより好適である。
【0048】
なお、
図4は、窯業教育委員会 著、「セラミック化学」、社団法人窯業協会 発行、昭和57年6月30日、137ページ、から引用したものである。
【0049】
上述したように、本実施形態によれば、ハニカム構造の炭化珪素質セラミックス焼結体である基体の表面を酸化防止層で被覆し、酸化防止層を珪酸系ガラス相中に二酸化珪素の結晶が析出している層とすることにより、高温下で使用する際の酸化防止層の軟化による付着を抑制することができる。
【0050】
また、基体の炭化珪素が本来有している耐熱衝撃性や、珪酸系ガラス相により耐熱衝撃性が更に高められる作用を損なうことなく、酸化防止層の軟化の程度を、結晶相によって調整することができる。特に、炭化珪素に対するクリストバライトの割合を、上記の所定範囲とすることにより、耐熱衝撃性に優れており、且つ、軟化による付着が抑制されているハニカム構造体を、製造することができる。
【0051】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0052】
例えば、本発明のハニカム構造体は、蓄熱体としての使用に適しているが、蓄熱式バーナ用の蓄熱体に用途が限定されるものではなく、太陽熱発電装置の集熱体など他の装置用の蓄熱体としても使用することができる。また、蓄熱体としての用途に限定されるものではなく、隣接するセルを流通する媒体間で隔壁を介して熱交換する熱交換体に、本発明のハニカム構造体を適用することができる。