(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の害虫防除剤にあっては、所要のワクモ防除効果を得ることができないのに加え、その防除効果がロットによって変動して不安定であるという問題があった。
【0007】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであって、海苔抽出物を用いて、より防除効果が高く、また安定性も高い害虫防除剤及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、海苔抽出物から低分子量の成分を除去して得られた高分子量のポルフィランに、気門を有する害虫を防除する高い効果を有し、また安定性も高いという知見を得ることによって、前述した課題を解決するに至った。
【0009】
すなわち、(1)本発明に係る害虫防除剤は、海苔抽出物
を含有し、害虫を防除する害虫防除剤において、分子量
が3万Da以上のポルフィラン
を含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の害虫防除剤にあっては、海苔抽出物中の分子量
が3万Da以上のポルフィラン
を含有する。海苔抽出物から低分子量の成分を除去して得られた分子量
が3万Da以上の高分子量のポルフィランは、ダニ目(中気門亜目)等、気門を有する害虫を防除する高い効果を有している。また、かかる高分子量のポルフィランにあっては安定性が高く、従ってロット間のバラツキも低い。
【0011】
また、(2)本発明に係る害虫防除剤は、更に、分子量
が100万Da以下のポルフィラン
を含有することを特徴とする。
【0012】
本発明の害虫防除剤にあっては、更に、分子量
が100万Da以下のポルフィラン
を含有する。即
ち、含有するポルフィランの分子量
は3万Da
以上100万Da以下である。分子量
が100万Daを超える超高分子量のポルフィランにあっては、他の成分と混合させて本発明に係る害虫防除剤を調製する際に、溶解性が低く、製剤に支障を来す虞がある。また、当該成分と他の成分とが分離し易く、保存安定性が低下する虞がある。これに対して、分子量
が3万Da
以上100万Da以下の高分子ポルフィランを用いた場合、比較的容易に溶解することができ、また当該成分と他の成分とが分離し難いので製剤された害虫防除剤の保存安定性が高い。
【0013】
更に、前記(1)に係る害虫防除剤は、構成成分として前記ポルフィラン以外に、有機酸、油及び乳化剤を含有し、これらの含有比
は、有機酸溶液が穀物酢である場合、前記ポルフィラン:有機酸溶液:油:乳化剤が0.5〜5.0:15〜200:700〜900:1〜10
0であり、穀物酢以外の有機酸溶液である場合の当該有機酸溶液の含有比は、前記含有比における穀物酢の酸度に相当する酸度になるように換算した値であることを特徴とする。
【0014】
本発明の害虫防除剤にあっては、構成成分として前記ポルフィラン以外に、有機酸、油及び乳化剤を含有し、これらの含有比
は、有機酸溶液が穀物酢である場合、前記ポルフィラン:有機酸溶液:油:乳化剤が0.5〜5.0:15〜200:700〜900:1〜10
0であり、穀物酢以外の有機酸溶液である場合の当該有機酸溶液の含有比は、前記含有比における穀物酢の酸度に相当する酸度になるように換算した値である。
【0015】
各構成成分の含有比がこのような数値範囲である場合、害虫防除剤による防除効果が高いのに加え、高分子ポルフィランと他の構成成分との分離が生起され難く、また害虫防除剤による防除効果が安定して奏される。これに対し、各構成成分の含有比がこのような数値範囲外であると、所要の害虫防除効果が得られず、また高分子ポルフィランと他の構成成分とが分離する場合があり、更に防除効果が安定して奏されない。
【0016】
(
3)本発明に係る害虫防除剤は、前記ポルフィランの含有量は0.05質量部以上0.5質量部以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明の害虫防除剤にあっては、ポルフィランの含有量は0.05質量部以上0.5質量部以下である。高分子量のポルフィランの含有量が0.05質量部未満の場合、害虫防除効果の向上が殆ど見られない。一方、高分子量のポルフィランの含有量が0.5質量部を超えると、害虫防除効果が相対的に低下する。これに対して、高分子量のポルフィランの含有量が0.05質量部以上0.5質量部以下である場合、高い害虫防除効果を得ることができる。
【0018】
また、ポルフィランの含有量が0.05質量部以上0.5質量部以下である場合、前記(
1)に記載した含有比から他の構成成分の含有量は、有機酸溶液の含有量が1.5質量部以上20質量部以下であり、油の含有量が70質量部以上90質量部以下であり、乳化剤の含有量が0.1質量部以上10質量部以下である。
【0019】
ここで、高分子ポルフィランの含有量が0.05質量部未満の場合、害虫防除効果の向上が殆ど見られない一方、高分子ポルフィランの含有量が0.5質量部を超えると、害虫防除効果が相対的に低下する。また、有機酸溶液の含有量が1.5質量部未満の場合、製剤の安定性が低下する一方、有機酸溶液の含有量が20質量部を超えると、害虫防除剤が接触した金属製の設備に錆又は腐食を招来する虞がある。また、油の含有量が70質量部未満の場合、保存安定及び害虫防除効果が低下する一方、油の含有量が90質量部を超えると、害虫防除剤を散布する機器又は被散布域に配置された種々の機器の運転に支障を来す虞がある。更に、乳化剤の含有量が0.1質量部未満の場合、高分子量のポルフィランと植物油とを十分に乳化することができない一方、乳化剤の含有量が10質量部を超えると、製剤の安定性が低下する。
【0020】
一方、(
4)本発明に係る害虫防除剤は、前記害虫の気門を閉塞することによって殺虫することを特徴とする。
【0021】
本発明の害虫防除剤にあっては、気門を有する害虫の当該気門を閉塞することによって、害虫を物理的に殺虫する。従って、本発明の害虫防除剤に対して、対象の害虫が抵抗性を取得する虞がない。
【0022】
ところで、(
5)本発明に係る害虫防除剤の製造方法は、海苔原料を加熱処理した後に水を添加し、又は海苔原料に水を
添加して粗ポルフィランを抽出し、得られた粗ポルフィランの抽出液から分子量
が3万Da未満の低分子物質を除去して分子量
が3万Da以上のポルフィランを得、このポルフィランを
含有した害虫防除剤を調製
するに際して、構成成分として前記ポルフィラン以外に、有機酸、油及び乳化剤を含有し、これらの含有比は、有機酸溶液が穀物酢である場合、前記ポルフィラン:有機酸溶液:油:乳化剤が0.5〜5.0:15〜200:700〜900:1〜100であり、穀物酢以外の有機酸溶液である場合の当該有機酸溶液の含有比は、前記含有比における穀物酢の酸度に相当する酸度になるように換算した値になるように調製することを特徴とする。
【0023】
本発明の害虫防除剤の製造方法にあっては、海苔原料を加熱処理した後に水を添加し、又は、海苔原料に水を添加した後にそれらを加熱処理して粗ポルフィランを抽出する。ここで海苔原料としては、水分含有量が1〜10質量%程度になるように調製した海苔を用いる。板海苔というように既に乾燥された海苔にあっては水分含有量が1〜10質量%程度であるので、原料に乾燥海苔を用いると水分含量の調整作業が不要となるため好適である。
【0024】
次に、得られた粗ポルフィランの抽出液から分子量
が3万Da未満の低分子物質を除去して分子量
が3万Da以上のポルフィランを得
る。3万Da未満の低分子物質を除去するには、分画分子量
が3万Da
〜10万Da程度の膜又は中空糸等を用いた限外濾過によって実施することができるが、これに限らず分子篩作用を利用したクロマトグラフィーによって実施してもよい。分子量
が3万Da未満の低分子物質には、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、リン、亜鉛、銅、ヨウ素及びモリブデンといったミネラル、アミノ酸、ペプチド、低分子のタンパク質並びにビタミン類が含まれており、また海苔を構成するポルフィラン及びマンナン等からの派生物を含む低分子の糖類も含まれており、更に分子量
が3万Da未満の低分子ポルフィランも含まれている。これらの成分が混入することによって、殺虫効果が阻害され、また安定性が低減されているものと考えられる。
【0025】
そして、このようにして得られた高分子量のポルフィランを
含有する害虫防除剤を調製する。これによって、害虫を防除する高い効果を有し、また安定性も高い害虫防除剤を製造することができる。
【0026】
また、(
6)本発明に係る害虫防除剤の製造方法は、更に、分子量
が100万Daを超えるポルフィランを除去して分子量
が3万Da
以上100万Da未満のポルフィランを得、得られたポルフィラン
を含有した害虫防除剤を調製することを特徴とする。
【0027】
本発明の害虫防除剤の製造方法にあっては、分子量
が100万Daを超える超高分子量のポルフィランを除去して分子量
が3万Da
以上100万Da未満のポルフィランを得、得られたポルフィラン
を含有した害虫防除剤を調製する。分子量
が100万Daを超える超高分子量のポルフィランを除去するには、分画分子量
が100万Da程度の膜又は中空糸を用いた限外濾過によって実施することができる。また、粗ポルフィラン溶液又は該粗ポルフィラン溶液から低分子ポルフィランを除去した溶液を濃縮することによって、又はこの濃縮液に沈殿助剤を添加することによって、超高分子量のポルフィランを沈殿除去してもよい。
【0028】
前述したように分子量
が100万Daを超える超高分子量のポルフィランにあっては、他の成分と混合させて本発明に係る害虫防除剤を調製する際に、溶解性が低く、製剤に支障を来す虞がある。また、当該成分と他の成分とが分離し易く、保存安定性が低下する虞がある。これに対して、分子量
が3万Da
以上100万Da以下の高分子ポルフィランを用いた場合、比較的容易に溶解することができ、また当該成分と他の成分とが分離し難いので製剤された害虫防除剤の保存安定性が高い。
【0029】
更に、前記(5)に係る害虫防除剤の製造方法は、構成成分として前記ポルフィラン以外に、有機酸、油及び乳化剤を含有し、
これらの含有比は、有機酸溶液が穀物酢である場合、前記ポルフィラン:有機酸溶液:油:乳化剤が0.5〜5.0:15〜200:700〜900:1〜100であり、穀物酢以外の有機酸溶液である場合の当該有機酸溶液の含有比は、前記含有比における穀物酢の酸度に相当する酸度になるように換算した値になるように調製することを特徴とする。
【0030】
本発明の害虫防除剤の製造方法にあっては、構成成分として前述した高分子量のポルフィラン以外に、有機酸、油及び乳化剤を含有し、
これらの含有比は、有機酸溶液が穀物酢である場合、前記ポルフィラン:有機酸溶液:油:乳化剤が0.5〜5.0:15〜200:700〜900:1〜100であり、穀物酢以外の有機酸溶液である場合の当該有機酸溶液の含有比は、前記含有比における穀物酢の酸度に相当する酸度になるように換算した値になるように調製する。
【0031】
前述したように、各構成成分の含有比がこのような数値範囲である場合、害虫防除剤による防除効果が高いのに加え、高分子ポルフィランと他の構成成分との分離が生起され難く、また害虫防除剤による防除効果が安定して奏される。これに対し、各構成成分の含有比がこのような数値範囲外であると、所要の害虫防除効果が得られず、また高分子ポルフィランと他の構成成分とが分離する場合があり、更に防除効果が安定して奏されない。
【0032】
また、(
7)本発明に係る害虫防除剤の製造方法は、前記ポルフィランの含有量を0.05質量部以上0.5質量部以下にすることを特徴とする。
【0033】
本発明の害虫防除剤の製造方法にあっては、前述した高分子量のポルフィランの含有量を0.05質量部以上0.5質量部以下にする。前述したように、高分子量のポルフィランの含有量が0.05質量部未満の場合、害虫防除効果の向上が殆ど見られない。一方、高分子量のポルフィランの含有量が0.5質量部を超えると、害虫防除効果が相対的に低下する。これに対して、高分子量のポルフィランの含有量が0.05質量部以上0.5質量部以下である場合、高い害虫防除効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明に係る害虫防除剤及びその製造方法について詳述する。
なお、本実施の形態で説明する害虫防除剤は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含むことはいうまでもない。
【0036】
本発明に係る害虫防除剤が防除の対象とする害虫としては気門を有する種が挙げられる。例えば、マダニ類、トゲダニ類等、ダニ目(中気門亜目)に属する害虫であり、マダニ類としては、ヤマトマダニ、トガリマダニ、アサヌママダニ、ミナミネズミマダニ、アカコッコマダニ、カモシカマダニ、タネガタマダニ、シュルツェマダニ、フタトゲチマダニ、ツノチマダニ、タマアラシチマダニ、マゲシマチマダニ、ヒゲナガチマダニ、タカサドチマダニ、イスカチマダニ、フジチマダニ、キチマダニ、オオトゲチマダニ、ヤマトチマダニ、ダグラスチマダニ、ツリガネチマダニ、タカサゴキララマダニ、タイワンカクマダニ、モリカクマダニ、オウシマダニ、ツバメヒメダニ、クチビルカズキダニなどが挙げられる。トゲダニ類としては、スズメサシダニ、ハツカネズミダニ、イエダニ、トリサシダニ、ワクモ、ホソゲチトゲダニ、チトゲダニ、パブロフスキートゲダニなどが挙げられる。
【0037】
従って、本害虫防除剤の使用対象は、上記害虫が寄生する動物及び/又は当該動物の飼育舎である。
【0038】
ところで、本害虫防除剤は、天然物質を原料として生産された生産物であって、ヒトの口に入った場合でも当該ヒトに重篤となる害を及ぼさない複数の天然系素材を用いて構成することが好ましい。本発明に係る害虫防除剤では、かかる天然系素材としてポルフィランが重要である。
【0039】
ポルフィランは、基本式である次の(1)式で示されるように、アガロビオースを基本単位として、一方が硫酸化された単位が部分的に2〜2.5単位隣接し,硫酸基を約6〜11%含んでいる硫酸多糖であり、現在のところ自然界で海苔以外にポルフィランを含有している生物は報告されていない。
【0041】
なお、本発明において海苔とは、紅藻のアマノリ属(Pyropia)、ベニタサ属(Wildemania)、マクレアマノリ属(Boreophyllum)、アカネグモノリ属(Miuraea)、クリメネ属(Clymene)、ポルフィラ属(Porphyra)、リシテア属(Lysithea)、フシフォリウム属(Fuscifolium)の8属に属し、ポルフィランを含有するものを言うものとする。わが国の海苔養殖で重要なスサビノリ及びアサクサノリはアマノリ属に属しており、学術名はPyropia yezoensis及びPyropia teneraである。なお、世界に分布する海苔は、2011年より前の時代にあってはこれら8属に分類されておらず、アマノリ属(Porphyra)として1属にまとめられていた。
【0042】
かかる海苔からポルフィランを抽出するには例えば次のように実施するとよい。
すなわち、海苔原料としては、水分含有量が1〜10質量%程度になるように調製した海苔を用いる。ここで、板海苔というように既に乾燥された海苔にあっては水分含有量が1〜10質量%程度であるので、原料に乾燥海苔を用いると水分含量の調整作業が不要となるため好適である。なお、食品用として流通させることができない、所謂屑海苔を用いると原料費が廉価であるため好適である。
【0043】
このような海苔原料を容器に投入し、当該容器内を95℃〜130℃に昇温して30分から240分間保持する、加熱処理を実施する。かかる加熱処理は密封容器で行うとポルフィランの抽出率が向上するため好適である。なお、加熱作業は、容器の外部から行ってもよいが、例えば容器内へ蒸気を導入して容器の内部を直接加熱してもよい。海苔の表面はマンナン及びクチクラの複合体によって保護されているが、かかる蒸煮処理によって当該複合体が部分的にでも破壊されるため、ポルフィランの抽出効率を向上させることができる。
【0044】
加熱処理が終了すると、当該容器内へ適宜量の水を投入してポルフィランを抽出する。ポルフィランは水溶性であるので、水によって抽出することができる。このとき水の温度は15℃〜25℃程度の常温とすると、蛋白質及び色素等、海苔に含まれるポルフィラン以外の物質の溶出を可及的に抑制することができるため好適である。抽出作業は水を投入した後に静置してもよいし、連続的又は間欠的に撹拌してもよい。なお、抽出溶媒としては井水又は水道水といった水が好適であるが、適宜の緩衝液又は適宜のイオンを溶解させた水、或は蒸留水又は脱イオン水等の水を用いることもできる。
【0045】
なお、水の投入は加熱処理を実施する前に行ってもよい。これによって、加熱処理と抽出処理とを同時的に実施することができる。その場合、水の投入量は海苔原料の質量の3倍から8倍程度にするとよい。また、加熱処理が終了した後、容器内の海苔原料及び水を前記常温まで急冷すると、前同様、蛋白質及び色素等、海苔に含まれるポルフィラン以外の物質の溶出を可及的に抑制することができるため好適である。
【0046】
抽出作業が終了すると、海苔残渣を含む抽出液を遠心分離又は濾過によって固液分離して抽出液を得る。このようにして得た粗ポルフィランを含む抽出液は必要に応じて、濃縮し、加熱乾燥又は凍結乾燥によって粉末化することができる。これによって、粗ポルフィランを長期間保存することができる。なお、市販の粗ポルフィランを購入して以下の操作を実施することもできる。
【0047】
次に、本害虫防除剤には次のようにして分画して得られた高分子ポルフィランを用いる。すなわち、前述した如く得た粗ポルフィランから分子量が略3万Da未満の低分子物質を除去して、分子量が略3万Da以上の高分子ポルフィランを得る。分子量が略3万Da未満の低分子物質には、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、リン、亜鉛、銅、ヨウ素及びモリブデンといったミネラル、アミノ酸、ペプチド、低分子のタンパク質並びにビタミン類が含まれており、また海苔を構成するポルフィラン及びマンナン等からの派生物を含む低分子の糖類も含まれており、更に分子量が略3万Da未満の低分子ポルフィランも含まれているものと考えられる。
【0048】
ここで、略3万Da未満の低分子物質を除去するには、分画分子量が略3万Da〜略10万Da程度の膜又は中空糸等を用いた限外濾過によって実施することができるが、これに限らず分子篩作用を利用したクロマトグラフィーによって実施してもよい。なお、粗ポルフィランは、前述した固液分離して得られた抽出液にあってはそのまま、又は必要に応じて濃縮又は希釈して用いる。また、前述した粉末化した粗ポルフィランにあっては、適宜量を水に溶解させて用いる。
【0049】
このように、粗ポルフィランから分子量が略3万Da未満の低分子ポルフィランを含む低分子物質を除去して得られた高分子ポルフィランにあっては、害虫に確実に作用することができ、所要の害虫防除効果を得ることができる。また、かかる害虫防除効果は複数のロット間において相互に同程度に高く、所要の害虫防除効果を呈する害虫防除剤を安定して提供することができる。
【0050】
また好ましくは、略3万Da未満の低分子物質を除去して得られた高分子ポルフィランについて、分子量が略100万Daを超える超高分子ポルフィランを除去して、分子量が略3万Da以上略100万Da以下の高分子ポルフィランを得る。
【0051】
分子量が略100万Daを超える超高分子ポルフィランにあっては、後述する如く他の成分と混合させて本発明に係る害虫防除剤を調製する際に、溶解性が低く、製剤に支障を来す虞がある。また、当該成分と他の成分とが分離し易く、保存安定性が低下する虞がある。これに対して、分子量が略3万Da以上略100万Da以下の高分子ポルフィランを用いた場合、比較的容易に溶解することができ、また当該成分と他の成分とが分離し難いので製剤された害虫防除剤の保存安定性が高い。
【0052】
分子量が略100万Daを超える超高分子ポルフィランを除去するには、前同様、分画分子量が略100万Da程度の膜又は中空糸を用いた限外濾過によって実施することができる。また、粗ポルフィラン溶液又は該粗ポルフィラン溶液から低分子ポルフィランを除去した溶液を濃縮することによって、又はこの濃縮液に沈殿助剤を添加することによって、前記超高分子ポルフィランを沈殿除去してもよい。
【0053】
このようにして低分子物質、又は低分子物質及び超高分子ポルフィランを除去することによって高分子ポルフィラン溶液が得られると、そのまま又は濃縮した後、凍結保存、又は前同様に粉末化して保存する。
【0054】
本害虫防除剤は、このようにして得られた高分子ポルフィランを主な構成成分としており、更に、酢酸・クエン酸等の有機酸を主成分とする有機酸溶液と、常温で液体の油と、乳化剤とを含んでいる。
【0055】
ここで、前記有機酸溶液としては、酢酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸等の有機酸を用いることができるが、好ましくは、米酢、米黒酢、香醋、粕酢、大麦黒酢、その他穀物酢、ハトムギ酢、りんご酢、ぶどう酢、バルサミコ酢、柿酢、食用の合成酢、その他の食酢を用いる。食酢を用いた場合、仮に当該害虫防除剤を散布する作業員が吸引しても、また鶏卵又は食用肉に残留しても、当該作業員に健康被害を招来させず、また鶏卵又は食用肉を食した者に害を与える虞が殆ど無い。
【0056】
また、前記油としては、椿油、アマニ油、オリーブ油、胡麻油、米油、サフラワー油、ヒマワリ油、大豆油、トウモロコシ油、落花生油、綿実油、菜種油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ひまし油等の植物油、及び常温で液体の鉱物油を用いることができるが、植物油を用いた場合、仮に当該害虫防除剤を散布する作業員が吸引しても、また卵又は食用肉に残留しても、当該作業員に健康被害を招来させず、また卵又は食用肉を食した者に害を与える虞が殆ど無いため好適である。なお、前述した植物油は常温で液体である。
【0057】
一方、前記乳化剤としては、レシチン、サポニン、カゼインナトリウムといった天然乳化剤以外にも、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、オキシエチレン脂肪酸アルコール、ポリオキシエチレン高級脂肪酸アルコール、オレイン酸ナトリウム及びモルホリン脂肪酸塩等の合成乳化剤を用いることができる。
【0058】
そして、本害虫防除剤は、これら各構成成分をその含有比が、即ち高分子ポルフィラン:有機酸溶液:油:乳化剤が0.5〜5.0:15〜200:700〜900:1〜100になしてある。各構成成分の含有比がこのような数値範囲である場合、害虫防除剤による防除効果が高いのに加え、高分子ポルフィランと他の構成成分との分離が生起され難く、また害虫防除剤による防除効果が安定して奏される。これに対し、各構成成分の含有比がこのような数値範囲外であると、所要の害虫防除効果が得られず、また高分子ポルフィランと他の構成成分とが分離する場合があり、更に防除効果が安定して奏されない。
【0059】
また、本害虫防除剤は、高分子ポルフィランの含有量が0.05質量部以上0.5質量部以下になるように調製してある。
【0060】
ここで、本発明者らが種々検討した結果、高分子ポルフィランの含有量が0.05質量部未満の場合、害虫防除効果の向上が殆ど見られなかった。一方、高分子ポルフィランの含有量が0.5質量部を超えると、害虫防除効果が相対的に低下した。従って、高分子ポルフィランの含有量は0.05質量部以上0.5質量部以下とした。
【0061】
同様に、本害虫防除剤は、有機酸溶液の含有量が1.5質量部以上20質量部以下になるように調製してある。
【0062】
前同様、本発明者らが種々検討した結果、有機酸溶液の含有量が1.5質量部未満の場合、製剤の安定性が低下した。一方、有機酸溶液の含有量が20質量部を超えると、害虫防除剤が接触した金属製の設備に錆又は腐食を招来する虞が生じた。従って、有機酸溶液の含有量は1.5質量部以上20質量部以下とした。なお、前記有機酸溶液の含有量は株式会社Mizkan製の穀物酢に基づいて定めてあり、他の有機酸溶液はその酸度が、前記含有量における穀物酢の酸度に相当するように換算して調整する。
【0063】
更に、本害虫防除剤は、油の含有量が70質量部以上90質量部以下になるように調製してある。
【0064】
前同様、本発明者らが種々検討した結果、油の含有量が70質量部未満の場合、保存安定及び害虫防除効果が低下した。一方、油の含有量が90質量部を超えると、害虫防除剤を散布する機器又は被散布域に配置された種々の機器の運転に支障を来す虞があった。従って、油の含有量は70質量部以上90質量部以下とした。
【0065】
また、本害虫防除剤は、乳化剤の含有量が0.1質量部以上10質量部以下になるように調製してある。本害虫防除剤を調製する場合、後述するように高分子ポルフィランと油とを混合させるが、乳化剤を添加することによって両者を乳化させて、防除効果を安定に奏する害虫防除剤を得る。
【0066】
本発明者らが種々検討した結果、乳化剤の含有量が0.1質量部未満の場合、高分子ポルフィランと植物油とを十分に乳化することができなかった。一方、乳化剤の含有量が10質量部を超えると、製剤の安定性が低下した。従って、乳化剤の含有量は0.1質量部以上10質量部以下とした。
【0067】
なお、高分子ポルフィラン、有機酸溶液、油及び乳化剤以外の残余の部分は前述した水にて調製すればよい。
【0068】
ところで、高分子ポルフィラン、有機酸溶液、油及び乳化剤の含有量を、前述した各含有量の範囲の内、略中央値より高値側の値になした害虫防除剤を調製することによって、原液とすることができる。このような原液にあっては、保存安定性が高いため、販売流通過程等において害虫防除剤の取り扱いが容易であり、既存の害虫防除剤と同様の流通経路を利用することができるため、流通コストの上昇を回避することができる。
【0069】
使用者は当該原液を、例えば50倍〜200倍程度に希釈して使用する。このように、使用者は原液を購入・保管し、使用時に前述した如く希釈すればよいため、害虫防除剤の保管領域を可及的に狭くすることができる。
【0070】
次に、本発明に係る害虫防除剤を調製する手順について説明する。
【0071】
図1は本発明に係る害虫防除剤を調製する手順を示すフローチャートである。
海苔原料から前述した如く高分子ポルフィランを調製しておく(ステップS1)。精製水といった水を適量取って所要の容器内へ投入し、また、前述した含有量になるように有機酸を容器内へ投入して混合する(ステップS2,S3)。これによって、害虫防除剤のpHを4〜6に調整することもできる。次に、前述した如く調製した高分子ポルフィランを前述した含有量になるように容器内の水溶液へ投入する(ステップS4)。このとき、粉末状の高分子ポルフィランを用いた場合は、よく撹拌して混合して当該ポルフィランを十分に溶解させる。
【0072】
このようにして高分子ポルフィラン溶液が得られると、乳化剤を前述した含有量になるように高分子ポルフィラン溶液へ投入し(ステップS5)、十分に撹拌して混合させる。一方、油を前述した含有量になるように分取しておく(ステップS6)。そして、乳化剤を混合させた高分子ポルフィラン溶液を十分に撹拌しつつ、その中へ油を適宜量ずつ投入することによって高分子ポルフィラン溶液と植物油とを十分に乳化させて害虫防除剤を得る(ステップS7)。
【0073】
このようにして得られた害虫防除剤にあっては、噴霧機を用いて、対象の動物及び/又は当該動物の飼育舎にそのまま噴霧する。害虫防除剤に曝された害虫にあっては、当該害虫の各気門が害虫防除剤によって塞止されることによって死に至ることとなる。このように本害虫防除剤は害虫の各気門を塞止することによって防除効果を奏するため、害虫が本害虫防除剤に対する抵抗性を獲得することは困難である。
【0074】
また、このような害虫防除剤は、粗ポルフィランから分子量が略3万Da未満の低分子ポルフィランを含む低分子物質を除去して得られた高分子ポルフィランを含有するため、害虫に確実に作用することができ、所要の害虫防除効果を得ることができる。また、かかる害虫防除効果は複数のロット間において相互に同程度に高く、所要の害虫防除効果を呈する害虫防除剤を安定して提供することができる。更に、分子量が略3万Da以上略100万Da以下の高分子ポルフィランを用いた場合、当該成分と他の成分とが分離し難く、調剤された害虫防除剤の保存安定性も向上する。
【0075】
一方、害虫防除剤を全て天然系素材にて構成した場合、対象の動物に直接的に噴霧した場合であっても、当該動物に害を及ぼす虞が無い。同様に、仮に卵又は処理された食肉に本防除剤が残存した場合であっても、当該卵又は食肉を食したヒトの健康に悪影響を及ぼさない。
【0076】
ところで、前述した害虫防除剤は、固体状、ゲル状またはガス状の担体、その他の製剤用担体に保持させ、液剤、乳剤、粉剤、粒剤、ゲル剤、エアゾール剤、燻煙剤、線香剤、蒸散型製剤、シート剤、プレート剤、塗料、練合塗壁剤、樹脂板、注入剤、建築用資材への含浸塗布剤などに製剤して施用してもよい。製剤に用いられる液状担体としては、例えばケロシン、灯油など脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、セロソルブなどのエーテル類、酢酸エチルなどのエステル類、アセトニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミドなどの酸アミド類、ジメチルスルホキシド、精製米油などの植物油類、ジメチルポリシロキサンなどのシリコーン油および水が挙げられる。固体状担体としては、例えばカオリンクレー、タルク、珪藻土、酸性白土、方解石、無水珪酸、酸化亜鉛、酸化チタン、ベントナイト、フローライト、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、塩化カリウム、トウモロコシ穂軸粉、クルミ殻粉、尿素、硫酸アンモニウム、合成含水酸化珪素、パルプ、粉末炭、マチラス粉、タブ粉、ガラス繊維などの粉末、粒状物(ビーズ)あるいはそれ以外の固体状物が挙げられる。またゲル状担体としては、例えばカラギーナンゲル、寒天ゲル、ゼラチンゲル、キサンタンガムゲル、ローカストピーンガムゲル、クマリンドゲル、アラビアガムゲル、ケルコゲル、カードランゲル、グルコマンナンゲル、サイリウムゲル、大豆多糖類ゲル、硬化ヒマシ油が挙げられる。ガス状担体としては、例えば笑気ガス、窒素ガス、炭酸ガス、液化石油ガス、イソペンタン、ジメチルエーテルなどが挙げられる。その他の製剤用担体としては、ソルビタントリオレエート、塩化ベンザルコニウムなどの各種界面活性剤、セルロース誘導体、ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などの各種樹脂、ポリビニルアルコールなどの塗膜形成剤、リグニンスルホン酸塩、アルギン酸塩、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどの固着剤や分散剤、安定剤などが挙げられる。
【0077】
また、本発明の害虫防除剤には、公知の殺虫剤、防虫剤、殺菌剤、共力剤、忌避剤、防かび剤、酸化防止剤、着香料、着色料などの添加物を配合することができる。例えば、前記殺虫剤としては、ピレスロイド化合物、有機リン化合物、カルバメート化合物、昆虫成長制御剤などの合成殺虫剤及び除虫菊エキス、ニーム抽出物等天然殺虫剤、微生物及び土壌細菌由来殺虫剤などが挙げられる。また、前記防虫剤としては、合成カンファー、シトロネラ油、パラジクロロベンゼン、ピペロニルブトキサイト等が挙げられ、殺菌剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、サラシ粉、N−クロロ−P−トルエンスルホンアミドソーダ等が挙げられる。また、前記共力剤としては、オクタクロロジプロピルエーテル、N−(2−エチルヘキシル)−1−イソプロピル−4−メチルビシクロ〔2,2,2〕オクト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド、チオシアノ酢酸イソボルニル、N−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド等が挙げられ、前記忌避剤としては、DET、ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、2,3,4,5−ビス(Η−2−ブチレン)−テトラヒドロフルフアル、ジ−N−プロピルイソシンコメロネート等が挙げられる。更に、前記防かび剤としては、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール、N−(フルオロジクロロメチルチオ)−フタルイミド等が挙げられ、前記酸化防止剤としてはエリソルビン酸、DL−α−トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、クエン酸イソプロピル等が挙げられる。また、前記着香剤としては、シトロネラ油、ゼラニウム油、レモングラス油、グレープフルーツ油、酢酸リナリル、バニリン等が挙げられ、前記着色剤としては、インジゴカルミン、タートラジン、ノナラクトン、銅クロロフィル等が挙げられる。
【0078】
一方、本害虫防除剤は、前述した噴霧以外にも、塗布、煙霧、加熱蒸散、設置の手段により使用することができる。また、本害虫防除剤をエアゾール剤に製剤した場合、タイマー付き自動噴霧装置に装填し、定時噴霧にて使用するようにしてもよい。
【0079】
また、本害虫防除剤の施用量は、例えば高分子ポルフィランを0.25質量部含有する場合、処理する平面1平方メートルあたり2.5g以上、または処理する空間1立方メートルあたり15g以上が好ましいが、これに限定されない。
【実施例】
【0080】
(実施例1)
次に、比較試験を行った結果について説明する。
【0081】
比較試験に用いた高分子ポルフィランは次のようにして調製した。
すなわち、廃棄対象の乾燥海苔5kgと井水5kgとを容器に投入し、98℃で3時間加熱処理してポルフィランを抽出した。得られた抽出液を濾過によって固液分離して粗ポルフィラン液を得、得られた粗ポルフィラン液を、孔経が50nmのセラミックスフィルター(MEMBRALOX、株式会社ノリタケカンパニーリミテド製)が装填してある限外濾過機に供給し、分子量が3万Da未満の低分子物質を限外濾過して高分子ポルフィラン液を得た。そして、この高分子ポルフィラン液をドラムドライヤー(日本乾燥機株式会社製)に供給して乾燥し、粉末化して高分子ポルフィランを得、本発明例とした。
【0082】
一方、75℃で48時間加熱処理する以外は前述したように得られた粗ポルフィラン液を限外濾過することなくドラムドライヤーに供給して乾燥し、粉末化した粗ポルフィランを比較例1とした。
【0083】
そして、穀物酢((株)Mizkan製)が3.5質量部、なたね油(理研農産化工(株)製)が85.5質量部、レシチン(辻製油(株)製)が5.0質量部の組成の各基液にそれぞれ、本発明例の高分子ポルフィラン又は従来例の粗ポルフィランを0.05質量部になるように溶解・乳化させて試験液とした。なお、各試験液は純水にてそれぞれ100質量部になるように調整した。
【0084】
なお、ワクモに対する殺虫効果を奏するとして使用されている木酢液(サンネッカ液、製造元;宮崎みどり製薬株式会社)及び椿種子抽出物(椿姫、販売元;ファームランドトレーディング株式会社)についても検討した。ここで、前者は蒸留水にて100倍に希釈して試験液を得、これを比較例2とし、また後者は蒸留水にて1000倍に希釈して試験液を得、これを比較例3とした。
【0085】
これら各試験液についてワクモの致死率を次のようにして測定した。
すなわち、予め定めた採卵鶏農場からワクモを採取し、幼雛を入れたマウス用飼育容器内に採取したワクモを放虫して、1〜数回吸血させた。11cm×11cmのベニヤ板をそれぞれ配置し、各ベニヤ板に前記各検液を各別に6mlずつ噴霧した後、前記ワクモを略300頭〜800頭ずつとなるように各別に放虫し、直ちにそれらをシャーレで覆い、28℃の温度、70〜80%RHの湿度の環境下で24時間放置した。その後、各ベニヤ板上における致死虫数を計数した。そして、平均殺虫率D及び変動係数RSDを次の(1)式及び(2)式によって求めた。なお、かかる試験はいずれの検液についても複数回実施した。また、検液として蒸留水を用いた場合を対照例とした。
【0086】
D={(各検液で処理した区における24時間後のベニヤ板内の致死虫数)/(各検液で処理した区におけるベニヤ板内の24時間後の致死虫数と生息虫数)×100}の合計÷試験回数…(1)
【0087】
RSD=(各検液で処理した区における24時間後の殺虫率の標準偏差)/D×100…(2)
【0088】
【表1】
【0089】
表1は、前述した限外濾過によって残存した高分子ポルフィラン液と、限外濾過によって排出された低分子物質側の試料液とについて、含有される物質の分子量を測定した結果を示している。
【0090】
表1から明らかなように、本発明例である高分子ポルフィラン液には分子量が3万Da以上の高分子ポルフィランが95%以上の率で含有されており、特に分子量が10万Da〜100万Daの高分子ポルフィランが64%と、最も大きな含有率であった。これに対して、公定分画分子量が10万Daの限外濾過膜を用いて限外濾過された低分子物質は、分子量が3万未満の物質であり、特に分子量が1000Da未満のものの含有率が84%と最も大きな値であった。
【0091】
図2に前述した如く各検液について試験を行って平均殺虫率Dを求めた結果を、また次表に、各試験における変動係数RSDを求めた結果を示す。
【0092】
【表2】
【0093】
図2は各検液について試験を行って平均殺虫率を求めた結果を示すヒストグラムであり、縦軸は平均殺虫率を示している。
【0094】
図2から明らかなように、本発明例1にあっては平均殺虫率Dが、比較例1に比べて20ポイント程度大きい値であった。また、表2から明らかなように、本発明例1の変動係数RSDは比較例1のそれに比べて7割程度と低く、安定した殺虫効果を示した。
【0095】
一方、比較例2及び3にあっては、本発明例1に比べて平均殺虫率Dが1/4程度の値であり、殺虫効果が非常に低いものであった。また、比較例2及び3の変動係数RSDも本発明例1の変動係数RSDに比べて高く、安定性にも欠けていた。
【0096】
以上の結果より、分子量が3万Da以上のポルフィランを用いた場合、ポルフィランを用いた従来製品に近い比較例1の殺虫率より高い所要の殺虫率を安定して得ることができることが分かる。
【0097】
また、分子量が3万Da以上のポルフィランを用いた場合、市販されている木酢液及び椿種子抽出物の平均殺虫率Dの値に対して4倍以上の高い値を得ることができ、安定にも優れていた。
【0098】
(実施例2)
次に、高分子ポルフィランの有無と殺虫効果との関係について検討した結果について説明する。
【0099】
図3は、本発明に係る害虫防除剤と、高分子ポルフィランを含まない以外は本発明に係る害虫防除剤と同じ組成の溶液とを用いて、ワクモに対する殺虫率を求めた結果を示すヒストグラムであり、縦軸は平均殺虫率を示している。
【0100】
害虫防除剤の調製は、穀物酢((株)Mizkan製)が3.5質量部、なたね油(理研農産化工(株)製)が85.5質量部、レシチン(辻製油(株)製)が5.0質量部、高分子ポルフィランが0.25質量部に精製水を加えて100質量部になるように溶解・乳化させ、得られた溶液を本発明例2とした。また、本発明例の高分子ポルフィランに替えて精製水を用いたものを比較例4とした。そして、前同様の試験を行ってワクモの殺虫率を求めた。なお、本発明例2は複数ロットの高分子ポルフィランを用い、本発明例2及び比較例4いずれも複数回試験を行った平均値を示している。
【0101】
図3から明らかなように、本発明例2は高分子ポルフィランを含有しており、これによって本発明例2の平均殺虫率は、高分子ポルフィランを含有していない比較例4の平均殺虫率より20ポイントを超える高い値であった。
【0102】
(実施例3)
次に、本発明に係る害虫防除剤の作用機序について検討した結果について説明する。
【0103】
前述した実施例2の本発明例2を作用させたワクモをオスミウムで固定した後、採取して虫体を電子顕微鏡(TM3000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)内に配設し、ワクモの気門を含む領域を観察した。なお、比較対象として、前述した比較例2及び3、並びに対照例を作用させたワクモを用いて、前同様、電子顕微鏡による観察を行った。
【0104】
図4は本発明例2を作用させたワクモの電子顕微鏡写真を示す画像図である。一方、
図5は比較例2を作用させたワクモの電子顕微鏡写真を示す画像図、
図6は比較例3を作用させたワクモの電子顕微鏡写真を示す画像図、
図7は対照例を作用させたワクモの電子顕微鏡写真を示す画像図である。なお、
図4乃至
図7中、Kで示した領域の略中央部分に気門が撮像されている。
【0105】
図5乃至
図7から明らかなように、比較例2、比較例3及び対照例、即ち木酢液、椿種子抽出物及び蒸留水を作用させたワクモにあってはいずれも、特異的に気門を被覆する像は観察されなかった。
【0106】
これに対して、
図4から明らかなように、本発明例2、即ち本発明に係る害虫防除剤によって殺虫されたワクモにあっては、気門の略全領域に亘って閉塞されていた。
【0107】
これらの事実から、本発明に係る害虫防除剤による殺虫の機構は、気門へ特異的に付着して当該気門を閉塞することにより奏されるものと考えられる。かかる作用機構は物理的な効果によるものであり、従って対象害虫による抵抗性発現の可能性は極めて低いものと考えられる。
【0108】
次に、分子量が100万Daを超える超高分子ポルフィランを評価した結果について説明する。
【0109】
(実施例4)
実施例1で示した高分子ポルフィランを10倍希釈し、これをビバスピン6(分画分子量:1,000,000Da、ザルトリウス社製)の濃縮槽に注入した。このビバスピン6をローター(TA−S14)に取り付け、遠心機(TOMY−RX−200)にて5,700rpmで90分の遠心分離を行った。そして、ビバスピン6の濃縮槽から超高分子ポルフィランを回収した。
【0110】
得られた超高分子ポルフィランが0.25質量部、レシチン(昭和産業(株)製)が5質量部、穀物酢((株)Mizkan製)が3.5質量部、及びナタネ油(理研農産化工(株)製)が85.5質量部に精製水を加えて100質量部とし、これらを撹拌混合して乳化剤の調製を試みた。しかし、超高分子ポルフィランの溶解性が低く、撹拌機によって撹拌しても均一な液を調製することができなかった。
【0111】
このように、分子量が100万Daを超える超高分子ポルフィランにあっては、製剤に支障を来す虞があるため、かかる超高分子ポルフィランを予め除去しておくとよい。これによって、本発明に係る害虫防除剤を製造するに際して、支障を来すことなく円滑に実施することができる一方、保存安定性を向上させることができ、またロット間における安定性も高い害虫防除剤を製造することができる。
【0112】
次に、製剤例について説明する。
(実施例5)
実施例1で示した高分子ポルフィランが0.05質量部、レシチン((株)Jオイルミルズ製)が5質量部、穀物酢((株)Mizkan製)が3.5質量部、及び綿実油((株)日清オイリオ製)が70質量部に精製水を加えて100質量
部とし、得られた溶液を耐圧容器に注入した。次いで、この耐圧容器に噴射剤としてジメチルエーテル(小池化学(株)製)を78.55質量部となるように冷却または圧力充填してエアゾール剤を得た。得られたエアゾール剤をワクモに噴霧したところ、好適な平均殺虫率を得た。
【0113】
(実施例6)
実施例1で示した高分子ポルフィランが0.05質量部、レシチン(昭和産業(株)製)が5質量部、穀物酢((株)Mizkan製)3.5質量部、及びナタネ油(理研農産化工(株)製)80質量部、シトロネラ油0.05質量部、ソルビタントリオレエート1.0質量部、ジメチルポリシロキサン0.1質量部に精製水を加えて100質量部として乳剤を得た。得られた
乳剤をワクモに噴霧したところ、好適な平均殺虫率を得た。
【0114】
(実施例7)
実施例1で示した高分子ポルフィラン0.5質量部、レシチン(辻製油(株)製)5.0質量部、米酢(タマノイ酢(株)製)3.5質量部、及びナタネ油(理研農産化工(株)製)75質量部に精製水を加えて100質量部とし、これを適量のアルコールで希釈し、シリカ粉末1000質量部にて倍散して粉剤を得た。得られた粉剤をワクモに散布したところ、好適な平均殺虫率を得た。
【0115】
(実施例8)
高分子ポルフィラン0.5質量部、レシチン(キューピー(株)製)5.0質量部、穀物酢((株)Mizkan製)3.5質量部、及びひまわり油((株)日清オイリオ製)80質量部に精製水を加えて100質量部とし、これを適量のアルコールで希釈し、タルクビーズ1000質量部にて倍散して粒剤を得た。得られた粒剤をワクモに施用したところ、好適な平均殺虫率を得た。
【0116】
(実施例9)
実施例1で示した高分子ポルフィラン0.05質量部、レシチン(昭和産業(株)製)5.0質量部、米酢(タマノイ酢(株)製)3.5質量部、及びナタネ油(理研農産化工(株)製)70質量部、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル5質量部、酢酸ビニル系樹脂15質量部、及び精製水1.45質量部を混合して塗料を得た。得られた塗料を塗布した容器内にワクモを放虫したところ、好適な平均殺虫率を得た。
【0117】
(実施例10)
実施例1で示した高分子ポルフィラン0.05質量部、レシチン(辻製油(株)製)5.0質量部、穀物酢((株)Mizkan製)3.5質量部、及びべにばな油((株)日清オイリオ製)80質量部、水溶性セルロースエーテル(信越化学工業(株)製)5質量部及び精製水6.45質量部を混合してゲルを得た。得られたゲルを投入した容器内にワクモを放虫したところ、好適な平均殺虫率を得た。