(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6407269
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B05D 5/12 20060101AFI20181004BHJP
B05D 5/06 20060101ALI20181004BHJP
C08G 18/08 20060101ALI20181004BHJP
C08G 18/30 20060101ALI20181004BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20181004BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20181004BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20181004BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20181004BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20181004BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20181004BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20181004BHJP
【FI】
B05D5/12 B
B05D5/06 F
C08G18/08 038
C08G18/30
C08G18/00 B
C08J5/18CFF
H01B13/00 503B
H01B5/14 A
B05D7/24 303B
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-523263(P2016-523263)
(86)(22)【出願日】2015年4月7日
(65)【公表番号】特表2017-501861(P2017-501861A)
(43)【公表日】2017年1月19日
(86)【国際出願番号】KR2015003440
(87)【国際公開番号】WO2015156562
(87)【国際公開日】20151015
【審査請求日】2016年4月14日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0041369
(32)【優先日】2014年4月7日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514219031
【氏名又は名称】コリア エレクトロテクノロジー リサーチ インスティテュート
【氏名又は名称原語表記】Korea Electrotechnology Research Institute
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ハン、ジュンタク
(72)【発明者】
【氏名】イ、ゴンウン
(72)【発明者】
【氏名】ペク、ガンジュン
(72)【発明者】
【氏名】ウ、ゾンソク
(72)【発明者】
【氏名】ゾン、スンヨル
(72)【発明者】
【氏名】ゾン、ヒジン
【審査官】
横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】
韓国公開特許第10−2013−0114982(KR,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0196053(US,A1)
【文献】
特開2011−029035(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/154224(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
B82Y 5/00−99/00
C08G 18/00−18/71
C08J 5/00−5/22
H01B 5/00−5/16
H01B 13/00−13/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝導性炭素ナノ素材に機能基を導入するために、炭素ナノ素材の表面を改質する第1段階と、
前記第1段階で機能化された炭素ナノ素材にイソシアネート系化合物とピリミジン系化合物を混合して反応させることにより、炭素ナノチューブの仕事関数が金属ナノワイヤーの仕事関数にほぼ近接するように仕事関数が減少した炭素ナノ素材の分散剤なしに分散液を形成する第2段階と、
前記第2段階で仕事関数が減少した炭素ナノ素材の分散液と金属ナノワイヤーを複合化させて一液型コーティング液を形成する第3段階と、
前記第3段階で形成されたコーティング液を基板に塗布してフィルムを形成する第4段階とを含んでなることを特徴とする、仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記炭素ナノ素材は、単層炭素ナノチューブ、二層炭素ナノチューブ、多層炭素ナノチューブ、及びグラフェンの少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記金属ナノワイヤーは銀ナノワイヤー及び銅ナノワイヤーの少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記イソシアネート系化合物は、エチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、1,12−ドデカンジイソシアネート、シクロブタン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、1−イソシアアナト−3,3,5−トリメチル−5−イソシアネートメチル−シクロヘキサン、2,4−ヘキサヒドロトルエンジイソシアネート、2,6−ヘキサヒドロトルエンジイソシアネート、ヘキサヒドロ−1,3−フェニレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ−1,4−フェニレンジイソシアネート、ペルヒドロ−2,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、ペルヒドロ−4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、1,4−ジュロールジイソシアネート(DDI)、4,4'−スチルベンジイソシアネート、3,3'−ジメチル−4,4'−ビフェニレンジイソシアネート(TODI)、トルエン2,4−ジイソシアネート、トルエン2,6−ジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタン−2,4'−ジイソシアネート(MDI)、2,2'−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート(MDI)及びナフチレン−1,5−イソシアネート(NDI)、2,2'−メチレンジフェニルジイソシアネート、5,7−ジイソシアナトナフタレン−1,4−ジオン、イソホロンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、3,3'−ジメトキシ−4,4'−ビフェニレンジイソシアネート、3,3'−ジメトキシベンジジン−4,4'−ジイソシアネート、トルエン2,4−ジイソシアネート末端基付きポリ(プロピレングリコール)、トルエン2,4−ジイソシアネート末端基付きポリ(エチレングリコール)、トリフェニルメタントリイソシアネート、ジフェニルメタントリイソシアネート、ブタン−1,2,2'−トリイソシアネート、トリメチロールプロパントイレンジイソシアネートトリマー、2,4,4'−ジフェニルエーテルトリイソシアネート、多数のヘキサメチレンジイソシアネートを持つイソシアヌレート、多数のヘキサメチレンジイソシアネートを持つイミノオキサジアジン、及びポリメチレンポリフェニルイソシアネートよりなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ピリミジン系化合物は、2−アミノ−6−メチル−1H−ピリド[2,3−d]ピリミジン−4−オン、2−アミノ−6−ブロモピリド[2,3−d]ピリジン−4(3H)−オン、2−アミノ−4−ヒドロキシ−5−ピリミジンカルボン酸エチルエステル、2−アミノ−6−エチル−4−ヒドロキシピリミジン、2−アミノ−4−ヒドロキシ−6−メチルピリミジン、及び2−アミノ−5,6−ジメチル−4−ヒドロキシピリミジンよりなる群から選ばれた少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記炭素ナノ素材の仕事関数は0.1eV以上減少することを特徴とする、請求項1に記載の仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルムの製造方法。
【請求項7】
酸処理によって機能基が導入された炭素ナノ素材にイソシアネート系化合物とピリミジン系化合物を混合して反応させることにより、炭素ナノチューブの仕事関数が金属ナノワイヤーの仕事関数にほぼ近接するように仕事関数が減少した炭素ナノ素材の分散液を分散剤なしに形成し、前記分散液に金属ナノワイヤーを複合化させて形成した一液型コーティング液を基板に塗布することにより製造されることを特徴とする、仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルム。
【請求項8】
前記炭素ナノ素材は、単層炭素ナノチューブ、二層炭素ナノチューブ、多層炭素ナノチューブ、及びグラフェンの少なくとも1種であることを特徴とする、請求項7に記載の仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルム。
【請求項9】
前記金属ナノワイヤーは銀ナノワイヤー及び銅ナノワイヤーの少なくとも1種であることを特徴とする、請求項7に記載の仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルム。
【請求項10】
前記イソシアネート系化合物は、エチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、1,12−ドデカンジイソシアネート、シクロブタン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、1−イソシアアナト−3,3,5−トリメチル−5−イソシアネートメチル−シクロヘキサン、2,4−ヘキサヒドロトルエンジイソシアネート、2,6−ヘキサヒドロトルエンジイソシアネート、ヘキサヒドロ−1,3−フェニレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ−1,4−フェニレンジイソシアネート、ペルヒドロ−2,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、ペルヒドロ−4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、1,4−ジュロールジイソシアネート(DDI)、4,4'−スチルベンジイソシアネート、3,3'−ジメチル−4,4'−ビフェニレンジイソシアネート(TODI)、トルエン2,4−ジイソシアネート、トルエン2,6−ジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタン−2,4'−ジイソシアネート(MDI)、2,2'−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート(MDI)及びナフチレン−1,5−イソシアネート(NDI)、2,2'−メチレンジフェニルジイソシアネート、5,7−ジイソシアナトナフタレン−1,4−ジオン、イソホロンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、3,3'−ジメトキシ−4,4'−ビフェニレンジイソシアネート、3,3'−ジメトキシベンジジン−4,4'−ジイソシアネート、トルエン2,4−ジイソシアネート末端基付きポリ(プロピレングリコール)、トルエン2,4−ジイソシアネート末端基付きポリ(エチレングリコール)、トリフェニルメタントリイソシアネート、ジフェニルメタントリイソシアネート、ブタン−1,2,2'−トリイソシアネート、トリメチロールプロパントイレンジイソシアネートトリマー、2,4,4'−ジフェニルエーテルトリイソシアネート、多数のヘキサメチレンジイソシアネートを持つイソシアヌレート、多数のヘキサメチレンジイソシアネートを持つイミノオキサジアジン、及びポリメチレンポリフェニルイソシアネートよりなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項7に記載の仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルム。
【請求項11】
前記ピリミジン系化合物は、2−アミノ−6−メチル−1H−ピリド[2,3−d]ピリミジン−4−オン、2−アミノ−6−ブロモピリド[2,3−d]ピリジン−4(3H)−オン、2−アミノ−4−ヒドロキシ−5−ピリミジンカルボン酸エチルエステル、2−アミノ−6−エチル−4−ヒドロキシピリミジン、2−アミノ−4−ヒドロキシ−6−メチルピリミジン、及び2−アミノ−5,6−ジメチル−4−ヒドロキシピリミジンよりなる群から選ばれた少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項7に記載の仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルム。
【請求項12】
前記炭素ナノ素材の仕事関数は0.1eV以上減少することを特徴とする、請求項7に記載の仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルム及びその製造方法に係り、さらに詳しくは、炭素ナノチューブ、グラフェンなどの伝導性炭素ナノ素材にイソシアネート系化合物、ピリミジン系化合物を混合して反応させることにより、仕事関数が制御され且つ分散剤なしで分散された炭素ナノ素材を形成し、該炭素ナノ素材に銀ナノワイヤーや銅ナノワイヤーなどの伝導性に優れた金属ナノワイヤーを複合化させて一液型コーティング液を形成し、これを用いて、金属ナノワイヤーと炭素ナノ素材のネットワークが形成されたフィルムを形成することにより、金属ナノワイヤーの仕事関数マッチングを介して電気的安定性を確保し且つヘイズなどの光学的な問題点を解決した、仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、透明伝導性フィルムは、プラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶ディスプレイ(LCD)素子、発光ダイオード素子(LED)、有機電子発光素子(OLED)、タッチパネル、太陽電池、透明ヒーターなどに使用される。
【0003】
このような透明伝導性フィルムは、高い導電性(例えば、1x10
3Ω/sq以下の面抵抗)と可視領域における高い透過率を持つため、太陽電池、液晶表示素子、プラズマディスプレイパネル、スマートウィンドウ、及び各種受光素子と発光素子の電極として用いられているだけでなく、自動車の窓ガラスや建築物の窓ガラスなどに使われる帯電防止膜、電磁波遮蔽膜などの透明電磁波遮蔽体、及び熱線反射膜、冷凍ショーケースなどの透明発熱体として用いられている。
【0004】
透明伝導性フィルムとしては、アンチモンやフッ素がドープされた酸化スズ(SnO
2)膜、アルミニウムやカリウムがドープされた酸化亜鉛(ZnO)膜、スズがドープされた酸化インジウム(In
2O
3)膜などが広範囲に用いられている。
【0005】
特にスズがドープされた酸化インジウム膜、すなわちIn
2O
3−Sn系の膜は、ITO(Indium tin oxide)膜と呼ばれており、低抵抗の膜を容易に得ることができるため多用されている。ITOの場合、諸物性に優れ、現在までに工程投入の経験が多いという利点を持っているが、酸化インジウム(In
2O
3)は、亜鉛(Zn)鉱山などから副産物として生産されるため、需給が不安定であるという問題点がある。また、ITO膜は、柔軟性がないため、ポリマー基質などのフレキシブルな材質には使用できないという欠点があり、高温、高圧環境下で製造が可能なので、生産コストが高くなるという問題点がある。
【0006】
また、フレキシブルなディスプレイなどを得るために、伝導性高分子を用いてポリマー基質の上面にコートさせることもできるが、このようなフィルムは、外部環境に晒されるときに電気伝導度に劣るか或いは透明でないという問題点があって、その用途が制限的である。
【0007】
かかる問題点を解決するために、最近では、様々な種類の基質の上面に1次元構造の炭素ナノチューブや金属ナノワイヤーをコートし、或いは2次元構造のグラフェンを化学気相成長法で合成した後で基材に転写する技術が広く研究されている。前記炭素ナノチューブは、ネットワークの形で透明伝導膜が形成される場合、接合抵抗が非常に高いため面抵抗を極端に下げることが難しく、半導体性炭素ナノチューブを含有している場合、外部環境に敏感に反応するという欠点がある。
【0008】
金属ナノワイヤーの場合、ナノワイヤー自体の抵抗が非常に低いため、ネットワークを形成して透明伝導膜を形成しても、炭素ナノチューブに比べて面抵抗が著しく低くなるという長所を持っている。しかし、金属ナノワイヤーの直径が小さくなり、ネットワークにおける接点から発生する抵抗が高い場合、電気的な影響により接点が溶けて切断されるという欠点をもって、ヘイズ及び光の反射によるディスプレイ応用の際に問題点が発生している。また、多層構造で製造される光電子素子に応用される場合、上下部の物質との接触問題及び仕事関数のマッチング問題を解決してこそ、優れた特性を示すようになる。
【0009】
したがって、金属ナノワイヤーのディスプレイ、タッチパネル、各種光素子、透明ヒーターなどの応用のために、電気的、光学的、機械的安定性が確保された金属ナノワイヤーベースの透明伝導性フィルムを提供するために、仕事関数マッチング問題が解決され且つ分散剤なしでも分散性が良好な一液型の炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルムが求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、前述した従来技術の問題点を解決するために案出されたもので、その目的は、炭素ナノチューブやグラフェンなどの伝導性炭素ナノ素材にイソシアネート系化合物、ピリミジン系化合物を混合して反応させることにより、仕事関数が制御され且つ分散剤なしで分散された炭素ナノ素材を形成し、該炭素ナノ素材に銀ナノワイヤー、銅ナノワイヤーなどの伝導性に優れた金属ナノワイヤーを複合化させて一液型コーティング液を形成し、これを用いて、金属ナノワイヤーと炭素ナノ素材のネットワークが形成されたフィルムを形成することにより、金属ナノワイヤーの仕事関数マッチングを介して電気的安定性を確保し且つヘイズなどの光学的な問題点を解決した、仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明は、伝導性炭素ナノ素材に機能基を導入するために、炭素ナノ素材の表面を改質する第1段階と、前記第1段階で機能化された炭素ナノ素材にイソシアネート系化合物とピリミジン系化合物を混合して反応させることにより、仕事関数が減少した炭素ナノ素材の分散液を形成する第2段階と、前記第2段階で仕事関数が減少した炭素ナノ素材の分散液と金属ナノワイヤーを複合化させて一液型コーティング液を形成する第3段階と、前記第3段階で形成されたコーティング液を基板に塗布してフィルムを形成する第4段階とを含んでなる、仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルムの製造方法を技術的要旨とする。
【0012】
本発明は、酸処理によって機能基が導入された炭素ナノ素材にイソシアネート系化合物とピリミジン系化合物を混合して反応させることにより、仕事関数が減少した炭素ナノ素材の分散液を形成し、前記分散液に金属ナノワイヤーを複合化させて形成した一液型コーティング液を基板に塗布することにより製造される、仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルムをさらに技術的要旨とする。
【0013】
前記炭素ナノ素材は単層炭素ナノチューブ、二層炭素ナノチューブ、多層炭素ナノチューブ、及びグラフェンの少なくとも1種であることを好ましい。
【0014】
前記金属ナノワイヤーは銀ナノワイヤー及び銅ナノワイヤーの少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
前記イソシアネート系化合物は、エチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、1,12−ドデカンジイソシアネート、シクロブタン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、1−イソシアアナト−3,3,5−トリメチル−5−イソシアネートメチル−シクロヘキサン、2,4−ヘキサヒドロトルエンジイソシアネート、2,6−ヘキサヒドロトルエンジイソシアネート、ヘキサヒドロ−1,3−フェニレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ−1,4−フェニレンジイソシアネート、ペルヒドロ−2,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、ペルヒドロ−4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、1,4−ジュロールジイソシアネート(DDI)、4,4'−スチルベンジイソシアネート、3,3'−ジメチル−4,4'−ビフェニレンジイソシアネート(TODI)、トルエン2,4−ジイソシアネート、トルエン2,6−ジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタン−2,4'−ジイソシアネート(MDI)、2,2'−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート(MDI)及びナフチレン−1,5−イソシアネート(NDI)、2,2'−メチレンジフェニルジイソシアネート、5,7−ジイソシアナトナフタレン−1,4−ジオン、イソホロンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、3,3'−ジメトキシ−4,4'−ビフェニレンジイソシアネート、3,3'−ジメトキシベンジジン−4,4'−ジイソシアネート、トルエン2,4−ジイソシアネート末端基付きポリ(プロピレングリコール)、トルエン2,4−ジイソシアネート末端基付きポリ(エチレングリコール)、トリフェニルメタントリイソシアネート、ジフェニルメタントリイソシアネート、ブタン−1,2,2'−トリイソシアネート、トリメチロールプロパントイレンジイソシアネートトリマー、2,4,4'−ジフェニルエーテルトリイソシアネート、多数のヘキサメチレンジイソシアネートを持つイソシアヌレート、多数のヘキサメチレンジイソシアネートを持つイミノオキサジアジン、及びポリメチレンポリフェニルイソシアネートよりなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
前記ピリミジン系化合物は、2−アミノ−6−メチル−1H−ピリド[2,3−d]ピリミジン−4−オン、2−アミノ−6−ブロモピリド[2,3−d]ピリジン−4(3H)−オン、2−アミノ−4−ヒドロキシ−5−ピリミジンカルボン酸エチルエステル、2−アミノ−6−エチル−4−ヒドロキシピリミジン、2−アミノ−4−ヒドロキシ−6−メチルピリミジン、及び2−アミノ−5,6−ジメチル−4−ヒドロキシピリミジンよりなる群から選ばれた少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0017】
前記炭素ナノ素材の仕事関数は0.1eV以上減少することが好ましい。
【0018】
これにより、仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーが混合されたネットワーク構造を持つ透明伝導性フィルムを製造するに際して、金属ナノワイヤーと仕事関数の差が大きくない炭素ナノ素材を使用することにより、透明伝導性フィルムに電圧を印加しても、金属ナノワイヤー接点への電流の流れを、金属ナノワイヤーと炭素ナノ素材の接点に電流が流れるように誘導して、透明伝導膜の電気的安定性を確保するだけでなく、光学的にヘイズが少なく機械的に安定した炭素ナノ素材を用いて、金属ナノワイヤーネットワークのヘイズを減らし且つ機械的安定性を向上させることが可能な透明伝導性フィルムが製造できるという利点がある。
【発明の効果】
【0019】
前述した構成による本発明は、炭素ナノチューブやグラフェンなどの伝導性炭素ナノ素材にイソシアネート系化合物、ピリミジン系化合物を混合して反応させることにより、仕事関数が制御され且つ分散剤なしで分散された炭素ナノ素材を形成し、該炭素ナノ素材に銀ナノワイヤーや銅ナノワイヤーなどの伝導性に優れた金属ナノワイヤーを複合化させて一液型コーティング液を形成し、これを用いて、金属ナノワイヤーと炭素ナノ素材のネットワークが形成されたフィルムを形成することにより、金属ナノワイヤーの仕事関数マッチングを介して電気的安定性を確保し且つヘイズなどの光学的な問題点を解決するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1は本発明の実施例に係る透明伝導性フィルムの製造に使用された伝導体の仕事関数を確認するために測定されたUV光電子分光スペクトルと、これにより測定された仕事関数を示す図である。
【0021】
図2は本発明の実施例に係る単層炭素ナノチューブの含有量による銀ナノワイヤー/炭素ナノチューブハイブリッド透明伝導性フィルムの走査電子顕微鏡イメージを示す図である。
【0022】
図3は比較例の銀ナノワイヤー透明伝導性フィルム(a)と、本発明の実施例の銀ナノワイヤー/炭素ナノチューブハイブリッド透明伝導性フィルム(b)に電圧を印加することによる温度変化、及び赤外線カメラで撮影された温度分布のイメージを示す図である。
【0023】
図4は比較例の銀ナノワイヤー透明伝導性フィルム(a)と、本発明の実施例の銀ナノワイヤー/炭素ナノチューブハイブリッド透明伝導性フィルム(b)に10V電圧を印加した後の透明伝導膜表面の走査電子顕微鏡イメージを示す図である。
【0024】
図5は本発明の仕事関数が小さくなる場合、銀ナノワイヤーとの仕事関数の差が減ることを示す銀ナノワイヤーと炭素ナノチューブとの接合時に形成されるバンド構造模式図(
図5の(a))、及び銀ナノワイヤーと炭素ナノチューブとの接合抵抗の減少により電気流れの経路が変化することを示す模式図(
図5の(b)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明の実施例に係る透明伝導性フィルムの製造に使用された伝導体の仕事関数を確認するために測定されたUV光電子分光スペクトルと、これにより測定された仕事関数を示す図、
図2は本発明の実施例に係る単層炭素ナノチューブの含有量による銀ナノワイヤー/炭素ナノチューブハイブリッド透明伝導性フィルムの走査電子顕微鏡イメージを示す図、
図3は比較例の銀ナノワイヤー透明伝導性フィルム(a)と、本発明の実施例の銀ナノワイヤー/炭素ナノチューブハイブリッド透明伝導性フィルム(b)に電圧を印加することによる温度変化、及び赤外線カメラで撮影された温度分布のイメージを示す図、
図4は比較例の銀ナノワイヤー透明伝導性フィルム(a)と、本発明の実施例の銀ナノワイヤー/炭素ナノチューブハイブリッド透明伝導性フィルム(b)に10V電圧を印加した後の透明伝導膜表面の走査電子顕微鏡イメージを示す図、
図5は本発明の仕事関数が小さくなる場合、銀ナノワイヤーとの仕事関数の差が減ることを示す銀ナノワイヤーと炭素ナノチューブとの接合時に形成されるバンド構造模式図(
図5の(a))と銀ナノワイヤーと炭素ナノチューブとの接合抵抗の減少により電気流れの経路が変化することを示す模式図(
図5の(b)を示す図である。
【0027】
図示の如く、本発明に係る仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルムの製造方法は、大きく、炭素ナノ素材の表面を改質する第1段階と、仕事関数が減少した炭素ナノ素材の分散液を形成する第2段階と、炭素ナノ素材の分散液と金属ナノワイヤーを複合化させて一液型コーティング液を形成する第3段階と、コーティング液を基板に塗布してフィルムを形成する第4段階とから構成される。
【0028】
本発明の実施例は、仕事関数が制御された単層炭素ナノチューブと金属ナノワイヤーとが混合されたコーティング液を用いて、炭素ナノチューブと金属ナノワイヤーがハイブリッドされた透明伝導性フィルムを製造する方法に関するものである。炭素ナノチューブの仕事関数を下げるために、本実施例では、窒素元素が多量に含有された官能基を導入する方法で炭素ナノチューブの仕事関数を下げた。
【0030】
まず、10gの単層炭素ナノチューブを200mLの硫酸:硝酸の混合液(7:3の体積比)に混合して80℃で加熱し、24時間攪拌した後、常温に冷却させる。
【0031】
その後、800mLの蒸留水で希釈させる。
【0032】
希釈した溶液を濾紙を用いて、炭素ナノチューブに残っている酸溶液を4回以上の濾過を介して除去した後、乾燥させると、機能基としてのカルボキシル基(−COOH)が導入された単層炭素ナノチューブが製造される。
【0033】
次に、第2段階を行う。すなわち、前記カルボキシル基(−COOH)が導入された単層炭素ナノチューブをN−メチルピロリドン(N−methyl pyrollidone)溶媒に100/Lで分散させた後、ジイソシアネート(diisocyanate)化合物たるトルエンジイソシアネート(toluene diisocyanate)を混合して100℃で12時間攪拌する方式で反応させることにより、イソシアネート(isocyanate)基を導入させる。
【0034】
次いで、前記イソシアネート基が導入された炭素ナノチューブの2−アミノ−4−ヒドロキシ−6−メチルピリミジン(amino−4−hydroxy−6−methyl−pyrimidine)を混合し、100℃で20時間攪拌して接合反応を行う方式で炭素ナノチューブに電子を注入させて仕事関数を減少させることが可能な多数の窒素元素を含有する2−ウレイド−4[H]ピリミジノン(2−ureido−4[1H]pyrimidinone)を導入した。これは、窒素元素の場合に電子が豊富に含まれていることに着目したものである。
【0035】
上記で製造された単層炭素ナノチューブの仕事関数をUV光電子分光器(Ultraviolet photoelectron spectroscopy)を用いて仕事関数を測定した結果を
図1に示す。
【0036】
図1において、処理前の炭素ナノチューブは、前記第1段階を経るが前記第2段階は経ない比較例の炭素ナノチューブであり、窒素含有−炭素ナノチューブは、前記第1段階及び前記第2段階を経て仕事関数が下がった炭素ナノチューブを示す。
図1に示すように、本発明の窒素含有−炭素ナノチューブの仕事関数は、処理していない単層炭素ナノチューブよりも仕事関数が0.4eV減少して4.3eVの値を示すので、前記第1段階及び前記第2段階を経ることにより、炭素ナノチューブの仕事関数が銀ナノワイヤーの仕事関数にほぼ近接することが分かる。
【0037】
すなわち、本発明の実施例では、機能基が導入された単層炭素ナノチューブのイソシアネート系化合物とピリミジン系化合物とを混合して反応させることにより、単層炭素ナノチューブの仕事関数が減少することが分かる。
【0038】
次に、第3段階を行う。すなわち、製造された仕事関数が制御された単層炭素ナノチューブをN−メチルピロリドン溶媒にその他の添加剤なしで分散させた後、蒸留水に分散された銀ナノワイヤー分散液に含有量別に添加して、簡単な攪拌によって容易に単層炭素ナノチューブの含有量が調節されるコーティング液を製造することができた。
【0039】
前記製造されたコーティング液は、スプレーコーターを用いて基板としてのポリマー基板に塗布することにより、透明伝導性膜としての透明伝導性フィルムを形成した。
【0040】
ここで、前記基板は、ガラス、水晶、シリコンウエハー、プラスチックなどを使用することができる。
【0041】
そして、基板への塗布は、スプレー(spray)、浸漬(dipping)、スピンコーティング(spin coating)、スクリーン印刷(screen printing)、インクジェット印刷(inkjet printing)、パッド印刷、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、及びスリットコーティングの中から選択して行うことができる。
【0042】
図2は本発明の実施例に係る単層炭素ナノチューブの含有量による透明伝導性膜の表面の走査電子顕微鏡イメージを示している。
【0043】
図2の(a)は、炭素ナノチューブが含まれていない場合であり、(b)は重量比で銀ナノワイヤー:炭素ナノチューブ=97:3の場合であり、(c)は重量比で銀ナノワイヤー:炭素ナノチューブ=93:7の場合であり、(d)は重量比で銀ナノワイヤー:炭素ナノチューブ=80:20の場合であって、(b)乃至(d)に示すように、銀ナノワイヤーと炭素ナノチューブは相互間でネットワークが形成されていることが分かる。
【0044】
図3は比較例の銀ナノワイヤー透明伝導性フィルム(a)と、本発明の実施例の銀ナノワイヤー/炭素ナノチューブハイブリッド透明伝導性フィルム(b)に電圧を印加することによる温度変化、及び赤外線カメラで撮影された温度分布のイメージを示す図である。
【0045】
図3において、銀ナノワイヤーのみで透明伝導性膜が形成された場合(
図3の(a))、9Vの低電圧でもホットスポット(hot spot)が形成されて銀ナノワイヤーが溶けてしまう現象が発生した。これに対し、仕事関数が制御された炭素ナノチューブと混合された伝導性膜の場合、
図3の(b)に示すように15V以上の電圧を与えても安定的に加熱されることが分かる。
【0046】
これは
図4から再度確認することができるので、走査電子顕微鏡を用いて電圧印加後の表面を観察したところ、仕事関数が調節された単層炭素ナノチューブが含まれていない透明伝導性膜の場合(a)、銀ナノワイヤーの接合部分で高温加熱によってワイヤーが切れていた。ところが、本発明の実施例の単層炭素ナノチューブを含む透明伝導膜(b)の場合、銀ナノワイヤーの損傷なしに安定した膜を形成することを確認した。
【0047】
これを
図5を参照して説明すると、
図5の(a)に示すように、炭素ナノチューブのイソシアネート系化合物とピリミジン系化合物とを混合して反応させることにより炭素ナノチューブの仕事関数が減少し、銀ナノワイヤーの仕事関数に近くなり、電気の流れが
図5の(b)に示すように銀ナノワイヤーの接合部に流れず、銀ナノワイヤーと炭素ナノチューブの接合部に電気が流れるようになって接合部で局部加熱が最小化することにより、銀ナノワイヤーが電気的に安定した状態を維持する。
【0048】
以上の如く、仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーとが混合されたネットワーク構造を持つ透明伝導性フィルムを製造するにあたり、金属ナノワイヤーと仕事関数の差が大きくないように、炭素ナノ素材の仕事関数を制御して使用することにより、透明伝導性フィルムに電圧を印加しても、金属ナノワイヤー接点への電流の流れを、金属ナノワイヤーと炭素ナノ素材の接点に電流が流れるように誘導して、透明伝導膜の電気的安定性を確保するだけでなく、光学的にヘイズが少なく機械的に安定した炭素ナノ素材を用いて、金属ナノワイヤーネットワークのヘイズを減らし且つ機械的安定性を向上させることが可能な透明伝導性フィルムを製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルム及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、炭素ナノチューブやグラフェンなどの伝導性炭素ナノ素材にイソシアネート系化合物、ピリミジン系化合物を混合して反応させることにより、仕事関数が制御され且つ分散剤なしで分散された炭素ナノ素材を形成し、該炭素ナノ素材に銀ナノワイヤー、銅ナノワイヤーなどの伝導性に優れた金属ナノワイヤーを複合化させて一液型コーティング液を形成し、これを用いて、金属ナノワイヤーと炭素ナノ素材のネットワークが形成されたフィルムを形成することにより、金属ナノワイヤーの仕事関数マッチングを介して電気的安定性を確保し且つヘイズなどの光学的な問題点を解決した、仕事関数が制御された炭素ナノ素材と金属ナノワイヤーハイブリッド透明伝導性フィルム及びその製造分野に利用可能である。