(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6407273
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】圧電性AlN含有層の堆積方法、並びにAlN含有圧電体層
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20181004BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20181004BHJP
H01L 41/316 20130101ALI20181004BHJP
H01L 41/187 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
C23C14/34 C
C23C14/06 A
C23C14/34 M
H01L41/316
H01L41/187
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-526481(P2016-526481)
(86)(22)【出願日】2014年6月24日
(65)【公表番号】特表2016-528385(P2016-528385A)
(43)【公表日】2016年9月15日
(86)【国際出願番号】EP2014063225
(87)【国際公開番号】WO2015007466
(87)【国際公開日】20150122
【審査請求日】2017年2月22日
(31)【優先権主張番号】102013213935.7
(32)【優先日】2013年7月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】594102418
【氏名又は名称】フラウンホーファー−ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer−Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
(73)【特許権者】
【識別番号】516017020
【氏名又は名称】テヒニッシェ ウニヴェアズィテート ドレースデン
【氏名又は名称原語表記】Technische Universitaet Dresden
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハーゲン バーチュ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル グレース
(72)【発明者】
【氏名】ペーター フラッハ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン バート
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−084526(JP,A)
【文献】
特開2001−279438(JP,A)
【文献】
Agne ZUKAUSKAITE et al.,Microstructure and dielectric properties of piezoelectric magnetron sputtered w-ScxAl1-xN thin films,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,米国,AMERICAN INSTITUTE OF PHYSICS,2012年 5月 1日,VOL:111 NR:9,pp. 93527/1 - 93527/7,URL,http://dx.doi.org/10.1063/1.4714220
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバー(1)内で少なくとも2つのターゲット(4、5)のマグネトロンスパッタを用い、前記ターゲット(4、5)の少なくとも1つはアルミニウムを含み、少なくとも反応ガスである窒素と不活性ガスとを含むガス混合物を真空チャンバー(1)内に導入する、圧電性AlN含有層を基板(2)に堆積する方法であって、マグネトロンスパッタの間に単極パルスモードと双極パルスモードとを交互に使用し、且つ前記ターゲット(4、5)が単極パルスモードにおいてスパッタされる相のパーセント割合と、前記ターゲット(4、5)が双極パルスモードでスパッタされる相のパーセント割合とが異なることを特徴とする前記方法。
【請求項2】
不活性ガスとして、元素のアルゴン、クリプトンまたはキセノンの少なくとも1つを含むガスを使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、反応性ガスである酸素を真空チャンバー(1)に導入し、その際、導入される酸素の量は導入される窒素の量の最大5%であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
スカンジウムを含む少なくとも1つのターゲット(4、5)を使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
スカンジウムターゲットおよびアルミニウムターゲットを同時スパッタによってスパッタすることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
単極パルスモードと双極パルスモードとの間の交代を、50Hzから10kHzの範囲の周波数で実施することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
圧電性AlN含有層の堆積の間、真空チャンバー(1)内の圧力を変化させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
圧電電荷定数d33を有する圧電効果のあるAlN含有層であって、該AlN含有層が式AlXNYOZ [前記式中、(0.1≦X≦1.2); (0.1≦Y≦1.2)且つ(0.001≦Z≦0.1)である]に相応するように元素の酸素も有し、且つ該AlN含有層はc軸配向しており、2μmを上回る層厚を有し且つ層の機械的応力が500MPa未満であることを特徴とする、前記AlN含有層。
【請求項9】
さらに、式AlXScUNYOZ [前記式中、(0.1≦X≦1.2); (0.1≦U≦1.2); (0.1≦Y≦1.2)且つ(0.001≦Z≦0.1)である]に従い、元素のスカンジウムを含むことを特徴とする、請求項8に記載の圧電効果のあるAlN含有層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマグネトロンスパッタを用いた圧電性AlN層の基板上への堆積方法、並びにAlN含有圧電体層に関する。
【背景技術】
【0002】
センサの製造に際して、ピエゾ効果を用いることができる材料が重要性を増している。つまり、これらの材料は電圧の印加に際して変形する。ピエゾ効果について重要な材料パラメータは圧電電荷定数(piezoelektrische Ladungskonstante)dである。それは印加される電場強度と、それにより生じる、圧電効果のある材料の伸長との間の相関関係を記載する。例えば圧電電荷定数d
33は、印加された電場に平行な圧電体材料の伸長または収縮を記載する。
【0003】
窒化アルミニウム(AlN)含有層は圧電特性について公知である。しかしながら、かかるAlN含有層を堆積するためには、良好な圧電特性を達成するために、狭い許容範囲しか認められない特定の工程パラメータを用いたわずかな方法しか適さない。ゼロより大きい圧電電荷定数d
33を有するAlN層を堆積すべき場合、AlN層の結晶成長の間にAlN結晶の特定の結晶配向、いわゆるc軸配向が必要となる。
【0004】
圧電効果のあるAlN含有層を、マグネトロンスパッタを用いて堆積できることが公知である。J.X.Zhang, Y.Z.Chen, H.Cheng, A.Uddin, Shu Yuan, K.Pita, T.G.Andersson, Interface study of AlN grown on Si Substrates by radiofrequency magnetron reactive sputtering, Thin Solid Films 471 (2005) 336−341においては、反応性RFスパッタを用いてc軸配向を有するAlN層を堆積することが提案されている。RFスパッタの場合、圧電性AlN層の堆積の際に約10nm/分のわずかな堆積速度しか得られないという欠点がもたらされる。
【0005】
US2009/0246385号A1においては、反応性RFスパッタの他に反応性パルスマグネトロンスパッタ(20kHz〜200kHz)を用いて圧電性AlN層を堆積可能であることが示されている。DC電源を用いたスパッタ法は、寄生するアーク放電に基づき、工程安定性に関する著しい欠陥を有する。
【0006】
先述の方法を用いて原理的に圧電性AlN層を堆積するためのいくつかの可能性が示されたにもかかわらず、この方法の際にも層厚の増加に伴って堆積される層内で、層の損傷をもたらしかねない機械的応力が生じるという制限がある。例えばValery V.Felmetsger, Pavel N.Laptev, Roger J.Graham, Deposition of ultrathin AlN films for high frequency electroacoustic devices, J. Vac. Sei. Technol. A 29(2), 14 February 2011においては、40kHzでパルスマグネトロンスパッタを用いるだけで、約2μmの層厚までは成功し、十分に小さい機械的応力を有する圧電性AlN層が堆積されることが開示されている。
【0007】
本発明の課題
従って、本発明の技術的課題は、従来技術の欠点を克服する方法を提供することである。殊に、本発明による方法を用いて、c軸配向および前記圧電電荷定数d
33を有する圧電性AlN含有層を100nm/分を上回る堆積速度で堆積可能であり、前記層は2μmを上回る層厚でも層の機械的応力が500MPa未満という充分に小さい値である。さらには、圧電効果のあるAlN層がもたらされる。
【0008】
上記の技術的課題は、請求項1および9の特徴部分に記載されている構成によって解決される。本発明のさらに有利な実施態様は従属請求項に記載されている。
【0009】
高い堆積速度が求められるので、本発明による方法に際して反応性パルスマグネトロンスパッタが使用される。従って、真空チャンバー内で、少なくとも2つのターゲットを少なくとも1つの不活性ガスと窒素ガスとを含むガス混合物内で少なくとも1つのスパッタ・マグネトロンを用いてスパッタすることによって、AlN含有層を基板上に堆積する。その際、2つのターゲットの少なくとも1つは元素のアルミニウムである、即ち、前記ターゲットはアルミニウムのみからなるか、またはアルミニウムの他に少なくとも1つの化学的元素成分を有するかのいずれかである。不活性ガスとして、有利にはアルゴンが使用される。周波数範囲10kHz〜300kHzのマグネトロンにおけるパルス化電源を用い、充分な放電安定性が確実になる。本発明による方法の際の電力密度は少なくとも11W/cm
2である。その際殊に、単極パルスモードが50%を上回る割合を有するパルス混合モードを使用する場合、少なくとも18W/cm
2の電力密度も使用できる。ここで、電力密度との用語は、ターゲットの単位面積あたりの、ターゲットにもたらされる電力と理解されるべきである。複数のターゲットもしくは複数のマグネトロンを備えた装置の場合、その電力密度は、全てのマグネトロンの合計の電力を全てのターゲットの合計面積で割ることによって得られる。
【0010】
堆積されたAlN層の良好な圧電効果と同時に層内での低い機械的応力の要請により、成長するAlN層に高エネルギー粒子で非常にバランス良く衝撃を与えることが必要とされ、なぜなら、粒子による基板への衝撃が強すぎると、たしかに明らかにc軸配向した層が形成され、ひいては高い圧電係数が促進されるが、しかし他方では層内部で高い圧縮圧力の形成も生じるからである。本発明によれば、この技術的課題は、パルス混合モードを使用することによって解決される。即ち、AlN含有層を堆積する間、マグネトロンを単極パルスモードと双極パルスモードとを交互で稼働させる。その際、1つのパルスモードから他のパルスモードへの交代およびさらに戻す交代を、Al含有層の個々の原子層を堆積するために必要とされる時間よりも短い時間内で行う。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明による方法を実施するために適している装置の模式図である。
【実施例】
【0012】
本発明を以下で実施例に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明による方法を実施するために適している装置の模式図を示す。真空チャンバー1内で、基板2上に圧電効果のあるAlN含有層が堆積される。その際、堆積工程を静止して、つまり、基板2を動かさないで実施する。このために、プラズマ遮蔽物3で囲まれたマグネトロンスパッタ装置を用いて、アルミニウムからなる2つのターゲット4および5をスパッタする。電極6も同様にプラズマ遮蔽物3で囲まれている。
【0013】
本発明によるAlN含有層の堆積を動的に実施、つまり、被覆の間、被覆されるべき基板をマグネトロンスパッタ装置に対して相対的に動かして行うこともできることに留意すべきである。
【0014】
基板2へのAlN含有層の堆積を、ターゲット4および5をスパッタする間、入口7を通じて不活性ガスと反応性ガスである窒素とのガス混合物を真空チャンバー1に導入することにより反応させて行う。選択的な実施態様の場合、不活性ガスおよび反応性ガスを別々の入口を通じて真空チャンバー1に導入することもできる。不活性ガスとして、実施例の場合はアルゴンが使用された。しかし、例えばクリプトンまたはキセノンを代替的な不活性ガスとして使用することもできる。さらなる実施態様の場合、少なくとも2つの上記の不活性ガスによる不活性ガス混合物が使用される。
【0015】
反応性の堆積工程を、反応性の放電のいわゆる遷移領域(Uebergangsgebiet)において工程を制御することによって実施する。これは、反応性ガスを計量供給することによって、ターゲットを一部でのみ化合物層で覆うことを確実にすることを意味する。そのような工程の制御を実施するための工程段階は公知である。ターゲットの金属領域の高いスパッタ収量に基づき、高いスパッタ速度および堆積速度が確実になる。
【0016】
ターゲット4および5は、パルスマグネトロンスパッタによってスパッタされ、その際、電流供給装置8がこのために必要な電気パルスを提供する。電流供給装置8は、単極の直流パルスを生成する部品9、双極パルスを生成する部品10、切り替え装置として機能する部品11を含み、且つ部品9を用いて生成された単極パルスまたは部品10を用いて生成された双極パルスかのいずれかがターゲット4および5に接続される。
【0017】
双極パルスモードにおいては、部品10から生じた交番極性を有する双極パルスは、ターゲット4とターゲット5との間で切り替わり、2つのターゲット4および5が交互に且つ反対にカソードもしくはアノードとして機能する。単極パルスモードにおいては、部品9で生成された単極の直流パルスが一方でターゲット4および5、および他方でマグネトロン放電のアノードとして機能する電極6との間で切り替わることにより、2つのターゲット4および5が同時にカソードとして機能する。
【0018】
本発明による方法は、正確に2つのターゲットもしくは2つのスパッタ・マグネトロンの存在と結びついているのではないことが指摘される。むしろ、本発明による方法は、2つより多くのマグネトロンもしくはターゲットを用いても実施できる。
【0019】
本発明によれば、ターゲット4および5をスパッタする間、常に単極と双極のパルスモードが部品11を用いて交互に切り替わる。その際、交互に切り替わる全体のサイクルは、堆積されるべき層の1原子層を堆積するために必要な時間よりも短い時間内で行われる。本発明による方法の際、単極パルスモードと双極パルスモードとの間の交代は、50Hzから10kHzの範囲の周波数で実施される。実施例において、単極パルスモードから双極パルスモードへの交代およびその逆は、例えば周波数1kHzで稼働された。ターゲット4および5が単極パルスモードにおいてスパッタされる相のパーセント割合と、ターゲット4および5が双極パルスモードでスパッタされる相のパーセント割合とは、本発明による方法の場合、同じであってはならない。
【0020】
先述した通り、殊に圧電体層の堆積に際して、層厚の増加に伴う層の機械的応力が技術的な課題である。層厚の増加に伴い、そのような層は引張応力の形成傾向を有する。本発明によれば、例えば、静的な堆積工程の間の単極パルスモードと双極パルスモードとのパーセント割合の比、および/または真空チャンバー1内部の圧力を変化させることで、これに対抗することができる。被覆プロセスの際、単極パルスモード対双極パルスモードのパーセント割合を、電流供給装置8を用いて一定の値に調節してもよいし、または被覆の間、連続的にまたは急峻に変化させてもよい。真空チャンバー1内部の圧力は、公知の制御工程によって調節可能且つ変更可能である。
【0021】
50μm厚の圧電効果のあるAlN層を堆積する場合、
図1に記載される試験設定で以下のとおりに進められた: 被覆の間、双極パルスモードが一貫して90%の割合を構成し、それ故に単極パルスモードが10%の割合を構成するように、パルス混合モードを調節した。さらに、12W/cm
2の電力密度を調節した。真空チャンバーの内部は、被覆プロセスの最初には0.7Paの圧力を有した。基板2上に堆積されるAlN層の厚さが10μmになった後、真空チャンバー1の圧力を0.6Paに低下させた。層厚が40μmになったら、さらに真空チャンバー内の圧力を0.5Paに低下させた。このようにして、層の機械的応力が非常に低い50μm厚の圧電効果のあるAlN層を堆積できた。従って、層の成長に伴い、真空チャンバー1内での圧力を低下させることは、AlN含有層を堆積する際の層の機械的応力を低下させるために有用な進め方であり、そのことは他の被覆例を参照しても認めることができる。基板温度に関しては、本発明による方法の際、20〜600℃の幅である。
【0022】
第二の被覆プロセスで、10μm厚の圧電効果のあるAlN層を基板2に堆積する。その堆積プロセスは、0.7Paの圧力で真空チャンバー内且つパルス混合モードで開始され、その際、単極パルスモードは1%の割合だけを有した。層の堆積の間、電流供給装置8を用いて、単極パルスモードの割合を、最終的に目標層厚10μmでパルス混合モードの80%の割合を構成するまで連続的に高めた。層の堆積の最初に、11.5W/cm
2の電力密度をターゲット4および5に投入した。単極パルスモードの割合が高まるのに伴い、ターゲット4および5に投入する電力密度を、目標層厚である10μmが達成される際の最終的な電力密度である20W/cm
2になるまで連続的に高めた。同時に、真空チャンバー1内部の圧力は、被覆の間、0.2Paの圧力値まで連続的に低下する。このプロセス方式を用いても、良好な圧電特性を有し且つ層の機械的応力が低いAlN層を堆積できた。
【0023】
AlN含有層内の機械的応力を、層の堆積の間、真空チャンバー1内に導入される不活性ガス混合物の組成を変化させることによっても低減できる。例えば、不活性ガス混合物は、層の堆積の最初には完全にアルゴンからなり、その際、層の成長に伴い、アルゴンの割合を下げ、且つその代わりに、不活性ガスのキセノンまたはクリプトンの割合を増加させて、入口7を通じて真空チャンバー1に導入することができる。念のため、ここでもう一度、真空チャンバー1に流入するガスの各々を選択的に別の入口を通じて真空チャンバー1に導入することもできることを述べる。
【0024】
本発明による方法に関して先述された方法のパラメータで、圧電効果のあるAlN層を100nm/分を上回る堆積速度で、且つ500MPa未満の値を有する層の機械的応力で堆積することができる。
【0025】
AlN含有層の堆積に際してc軸配向を形成するために、主たる割合の層形成粒子が、被覆されるべき基板に対してできるだけ垂直に衝突することが有利である。その際、被覆されるべき基板表面上の各々の点とターゲットの伝導トラック(Leitbahn)上の最も近くにある点との間で、法線に対する角度は、被覆距離≦100mmの際に≦30°であるべきである。ターゲットの伝導トラックとの文言は、材料の侵食が最も強く生じるターゲットの表面領域であると理解されるべきである。この領域は、多くの場合、「レーストラック」とも称される。大きな基板(d=100mm以上)の静的な基板被覆、つまり、スパッタターゲットと基板との間を相対的に動かすことなく(場合により基板の回転はここから除外される)被覆する場合、複数の同心円状の放電リングを有するマグネトロンスパッタ装置を使用する場合が特に有利である。動的な基板被覆(スパッタターゲットと基板との間で相対的に動く)の場合、法線に対する角度に関する先述の条件が満たされる蒸発物流の混合物を用いて作業する場合が有利である。
【0026】
AlN含有層の圧電効果を、この層にさらにある割合の元素のスカンジウムを混合する場合に改善することができることが知られている。従って、さらなる実施態様の場合、元素のアルミニウムのほかにさらに元素のスカンジウムを有する2つのターゲット4および5がスパッタされ、基板2の上にScAlN層が堆積される。これは、例えばスカンジウムとアルミニウムとからなる合金ターゲットをスパッタすることによって実施できる。選択的に、個々のタイルから構成され、その少なくとも1つのタイルがアルミニウムからなり、且つ少なくとも1つのタイルがスカンジウムからなるターゲットをスパッタしてもよい。さらに選択的には、ScAlN層の堆積を、同時スパッタを用いて行うこともできる、即ち、ターゲット4および5の1つが純粋なアルミニウムターゲットであり、他のターゲットが純粋なスカンジウムターゲットである。
【0027】
先述の堆積の全ての変法を用いて、特定の電気的極性を有し、圧電効果のあるAlN含有層を堆積できる。ここで、極性とは、材料における電場の方向と材料の変形の方向との間の関連を記載する。従って圧電体材料の場合、極性とは、一方では規定された電気的極性を有する電圧が材料に印加された際に材料が変形される方向を示し、且つ他方では、圧電体材料で特定の方向への機械的な変形が行われる場合、圧電体材料で形成される電気的極性によって示される。
【0028】
意外なことに、圧電効果のあるAlN含有層の電気的極性を、これが少量の元素の酸素も有する場合に、反転できることを確認できた。従って、前記圧電電荷定数d
33を有する本発明による圧電効果のあるAlN含有層は、その層が、AlN含有層が式Al
XN
YO
Z [前記式中、(0.1≦X≦1.2); (0.1≦Y≦1.2)且つ(0.001≦Z≦0.1)である]に相応するように元素の酸素も有することを特徴とする。そのような本発明による層を、例えば
図1に模式的に示されるような装置を用いて、且つ本発明による方法を使用して、例えば2つのAlターゲット4および5を、単極パルスモードと双極パルスモードとによるパルス混合モードを用いることによって反応性スパッタし、その際不活性ガスおよび反応性ガスである窒素の他に、さらに反応性ガスである酸素を、入口7を通じて真空チャンバー1に導入することによって堆積できる。酸素を最低限の量で導入することで既に、圧電効果のあるAlN含有層の電気的極性が、酸素を有さない圧電効果のあるAlN含有層に対して反対に形成されるということが起きる。AlN層内の酸素含有量が増加するに伴い、圧電特性の質が落ちるので、真空チャンバー1内に導入される酸素の量は、真空チャンバー1内に導入される窒素の量の最大5%に相応するように調節されるべきである。従って、反転された電気的極性を有する本発明による層によって、圧電効果のあるAlN含有層の用途の範囲を広げることができる。
【0029】
選択的な本発明による層の場合、AlN含有層はさらに、元素のスカンジウムも有し、その際、このAlN含有層は式Al
XSc
UN
YO
Zに相応する。前記式中、変数X、U、Y、Zは以下の値を有する: (0.1≦X≦1.2); (0.1≦U≦1.2); (0.1≦Y≦1.2)且つ(0.001≦Z≦0.1)。1つの実施例の場合、U/Xの比は>0.5である、即ち、元素のスカンジウムとアルミニウムとに関して、スカンジウムの割合が50%を上回る。層内でのそのような高いスカンジウム割合は、AlN含有層内での機械的応力を低下させるためにも同様に適している。圧電効果のあるAl
XSc
UN
YO
Z層の堆積は、不活性ガスおよび窒素と酸素との混合ガスを真空チャンバー1に導入しながらスカンジウム含有およびアルミニウム含有ターゲットをパルス混合モードでスパッタする、先述の本発明による方法を用いて可能である。この場合に使用されるターゲットは、純粋なアルミニウムターゲットと純粋なスカンジウムターゲット; 2つのアルミニウム・スカンジウム合金ターゲット、または先述のアルミニウム・スカンジウムタイル構造を有するターゲットのいずれかであってよい。