(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術は、摺動面51に、相手側摺動面との相対摺動により、流体を高圧流体側に排出する角度をつけたスパイラル溝52を高圧側に設け、該スパイラル溝52の粘性ポンプ効果で流体を高圧流体側に押し戻し、漏れを防止するというものである。
しかし、この種のメカニカルシールにおいては、摺動による流体ポンピング効果によって摺動面の低圧流体側には低圧流体53、例えば、空気が進入し、摺動面に潤滑流体として存在している被密封流体である高圧流体の脱水縮合反応を促進し、摺動面に堆積原因物質が析出、付着及び堆積し、摺動面の密封性を低下させる要因となっていることが本願発明者の研究により判明した。
また、上記の従来技術では、摺動面の潤滑が不十分であるという問題があった。
【0005】
本発明は、第一に、摺動面の高圧側に高圧流体を排出する流体排出手段を備えている場合であっても、高圧流体(被密封流体)と低圧流体との摺動面上における脱水縮合反応による堆積原因物質の析出、付着及び堆積を防止すると共に、流体排出による急激な圧力低下に伴うキャビテーションの発生を防止し、摺動面の密封性の低下を防止することにより、摺動面のシール機能を向上させた摺動部品を提供することを目的とするものである。
また、第二に、流体排出手段の負圧発生力を減殺することなく摺動面の潤滑性を向上させることができるようにした摺動部品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔原理〕
本発明は、第一に、少なくとも摺動部品のいずれか一方の摺動面の高圧側に高圧流体側へ流体を排出する流体排出手段を備えた摺動部品において、前記流体排出手段よりも低圧側の前記摺動面に低圧流体の高圧流体側への進入を緩和する緩衝溝を設けるものである。流体排出手段よりも低圧側の摺動面に設けられる緩衝溝は、低圧流体側から摺動面に進入する低圧流体の高圧流体に対する緩衝(バッファー)となり、摺動面が低圧流体で満たされるまでの時間を遅延することができ、高圧流体の脱水縮合反応を抑制するものである。
例えば、低圧流体が空気の場合、空気により摺動面の低圧側が乾燥するのを防止できるため、高圧流体の脱水縮合反応による堆積原因物質の析出、付着及び堆積を防止できる。
また、流体排出による急激な圧力低下に伴うキャビテーションの発生を防止できる。
本発明は、第二に、少なくとも摺動部品のいずれか一方の摺動面に高圧流体側へ流体を排出する流体排出手段を備えた摺動部品において、摺動面の高圧側に正圧発生機構を備えると共に前記正圧発生機構より低圧側に高圧流体側へ流体を排出する流体排出手段を備え、前記正圧発生機構と前記流体排出手段との間に位置して圧力開放溝を設けるものである。
前記正圧発生機構は、正圧(動圧)を発生することにより相対摺動する摺動面の間隔を広げ、該摺動面に液膜を形成し、潤滑性を向上させ、また、圧力開放溝は、高圧側の正圧発生機構で発生した正圧(動圧)を高圧側流体の圧力まで開放し、流体が流体排出手段に流入し、流体排出手段の負圧発生能力が弱まることを防止し、摺動面のシール機能を維持する。
【0007】
〔手段〕
上記目的を達成するため本発明の摺動部品は、第1に、一対の摺動部品の互いに相対摺動する一方側の摺動面の高圧側に、流体を高圧流体側へ排出する流体排出手段を備えた摺動部品において、前記流体排出手段よりも低圧側の前記摺動面には低圧流体の高圧流体側への進入を緩和する緩衝溝が設けられることを特徴としている。
この特徴によれば、流体排出手段よりも低圧側の摺動面に設けられる緩衝溝は、低圧流体側から摺動面に進入する低圧流体の高圧流体に対する緩衝(バッファー)となり、摺動面が低圧流体で満たされるまでの時間を遅延することができ、高圧流体の脱水縮合反応を抑制することができる。
例えば、低圧流体が空気の場合、空気により摺動面の低圧側が乾燥するのを防止できるため、高圧流体の脱水縮合反応による堆積原因物質の析出、付着及び堆積を防止できる。
また、流体排出手段による流体排出により急激な圧力低下が生じる場合でも、緩衝溝内に存在する流体により急激な圧力低下が緩和されるため、キャビテーションの発生を防止できる。
【0008】
また、本発明の摺動部品は、第2に、第1の特徴において、前記緩衝溝は、好ましくは、断面形状が半円状、矩形状またはアリ溝状に形成されることを特徴としている。
また、本発明の摺動部品は、第3に、第1または第2の特徴において、前記緩衝溝の幅bは、好ましくは、10〜500μm、より好ましくは、50〜200μmに設定されることを特徴としている。
また、本発明の摺動部品は、第4に、第3の特徴において、前記緩衝溝の深さhは、前記幅bの1〜2倍に設定されることを特徴としている。
これらの特徴によれば、摺動面を確保しつつ緩衝溝の容積をアップさせることができる。
【0009】
また、本発明の摺動部品は、第5に、第1ないし第4のいずれかの特徴において、前記流体排出手段がスパイラル溝より構成されることを特徴としている。
この特徴によれば、流体排出機能が大きく(密封効果が大きく)、急激な圧力低下を伴うスパイラル溝を流体排出手段として採用した場合でも、高圧流体の脱水縮合反応による堆積原因物質の析出、付着及び堆積を防止できると共に、キャビテーションの発生も防止できる。
【0010】
また、本発明の摺動部品は、第6に、第1ないし第4のいずれかの特徴において、前記流体排出手段が逆レイリーステップより構成されることを特徴としている。
この特徴によれば、流体排出機能が大きく(密封効果が大きく)、急激な圧力低下を伴う逆レイリーステップを流体排出手段として採用した場合でも、高圧流体の脱水縮合反応による堆積原因物質の析出、付着及び堆積を防止できると共に、キャビテーションの発生も防止できる。
【0011】
また、本発明の摺動部品は、第7に、第5又は第6の特徴において、前記摺動面の高圧側には、前記スパイラル溝又は前記逆レイリーステップに加えて前記高圧流体側に連通される流体循環溝を備え、前記流体循環溝と前記高圧流体側とで囲まれる部分に正圧発生機構が設けられ、前記正圧発生機構は前記流体循環溝の入口部に連通され、前記流体循環溝の出口部及び前記前記高圧流体側とはランド部により隔離されていることを特徴としている。
この特徴によれば、急激な圧力低下を伴うスパイラル溝又は逆レイリーステップに加えて、摺動面において腐食生成物などを含む流体が濃縮されることを防止するため、積極的に高圧流体側から被密封流体を摺動面上に導入し排出するという役割を担う流体循環溝を備えた場合においても、高圧流体の脱水縮合反応による堆積原因物質の析出、付着及び堆積を防止できると共に、キャビテーションの発生も防止できる。
【0012】
また、本発明の摺動部品は、第8に、一対の摺動部品の互いに相対摺動する一方側の摺動面に、流体を高圧流体側へ排出する流体排出手段を備えた摺動部品において、前記流体排出手段よりも高圧側の前記摺動面には正圧を発生する正圧発生機構が高圧流体側とランド部により隔離されるようにして設けられ、前記流体排出手段と前記正圧発生機構との間には環状の圧力開放溝が設けられ、前記圧力開放溝は、前記流体排出手段の排出側端部とは連結され、前記正圧発生機構とは径方向においてランド部により離間され、前記圧力開放溝と高圧流体側とを連通するように半径方向溝が設けられ、前記半径方向溝は、正圧発生機構の上流側の端部に接する位置に設けられることを特徴としている。
この特徴によれば、正圧発生機構により相対摺動する摺動面の間隔を広げ、該摺動面に液膜を形成し、潤滑性を向上させることができると共に、圧力開放溝により高圧側の正圧発生機構で発生した正圧(動圧)を高圧側流体の圧力まで開放し、流体が流体排出手段に流入して負圧発生能力が弱まることを防止し、摺動面における密封性を向上することができる。
【0013】
また、本発明の摺動部品は、第9に、第8の特徴において、前記半径方向溝は、周方向に偶数配置され、隣接する半径方向溝は相互に傾斜方向が異なり、一方のグループの半径方向溝は入口が上流側に向けて傾斜され、他方のグループの半径方向溝は、出口が下流側に向けて傾斜するように設けられることを特徴としている。
この特徴によれば、圧力開放溝及び半径方向溝で構成される深溝内において緩やかな流体の流れが生成されるため、深溝内に気泡あるいは不純物などが滞留することが防止され、高圧側の正圧発生機構で発生した圧力により低圧側に流入しようとする流体を確実に高圧流体側に逃すことができるため、密封性を向上することができる。
【0014】
また、本発明の摺動部品は、第10に、第8又は第9の特徴において、前記流体排出手段よりも低圧側の前記摺動面には低圧流体の高圧流体側への進入を緩和する緩衝溝が設けられることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動面の間隔を広げ、該摺動面に液膜を形成し、潤滑性を向上させるために設けられる正圧発生機構、及び、高圧側の正圧発生機構で発生した圧力により低圧側に流入しようとする流体を高圧流体側に逃す役割を果たす圧力開放溝を備えた場合においても、高圧流体の脱水縮合反応による堆積原因物質の析出、付着及び堆積を防止できると共に、キャビテーションの発生も防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)流体排出手段よりも低圧側の摺動面に設けられる緩衝溝は、低圧流体側から摺動面に進入する低圧流体の高圧流体に対する緩衝(バッファー)となり、摺動面が低圧流体で満たされるまでの時間を遅延することができ、高圧流体の脱水縮合反応を抑制することができる。
例えば、低圧流体が空気の場合、空気により摺動面の低圧側が乾燥するのを防止できるため、高圧流体の脱水縮合反応による堆積原因物質の析出、付着及び堆積を防止できる。
また、流体排出手段による流体排出により急激な圧力低下が生じる場合でも、緩衝溝内に存在する流体により急激な圧力低下が緩和されるため、キャビテーションの発生を防止できる。
【0016】
(2)緩衝溝の断面形状が半円状、矩形状またはアリ溝状に形成され、また、緩衝溝の幅bが10〜500μmに設定され、また、緩衝溝の深さhが幅bの1〜2倍に設定されることにより、摺動面を確保しつつ緩衝溝の容積をアップさせることができる。
【0017】
(3)流体排出機能が大きく(密封効果が大きく)、急激な圧力低下を伴うスパイラル溝又は逆レイリーステップを流体排出手段として採用した場合でも、高圧流体の脱水縮合反応による堆積原因物質の析出、付着及び堆積を防止できると共に、キャビテーションの発生も防止できる。
【0018】
(4)急激な圧力低下を伴うスパイラル溝又は逆レイリーステップに加えて、摺動面において腐食生成物などを含む流体が濃縮されることを防止するため、積極的に高圧流体側から被密封流体を摺動面上に導入し排出するという役割を担う流体循環溝を備えた場合においても、高圧流体の脱水縮合反応による堆積原因物質の析出、付着及び堆積を防止できると共に、キャビテーションの発生も防止できる。
【0019】
(5)正圧発生機構により相対摺動する摺動面の間隔を広げ、該摺動面に液膜を形成し、潤滑性を向上させることができると共に、圧力開放溝により高圧側の正圧発生機構で発生した正圧(動圧)を高圧側流体の圧力まで開放し、流体が流体排出手段に流入して負圧発生能力が弱まることを防止し、摺動面における密封性を向上することができる。
【0020】
(6)圧力開放溝及び半径方向溝で構成される深溝内において緩やかな流体の流れが生成されるため、深溝内に気泡あるいは不純物などが滞留することが防止され、高圧側の正圧発生機構で発生した圧力により低圧側に流入しようとする流体を確実に高圧流体側に逃すことができるため、密封性を向上することができる。
【0021】
(7)摺動面の間隔を広げ、該摺動面に液膜を形成し、潤滑性を向上させるために設けられる正圧発生機構、及び、高圧側の正圧発生機構で発生した圧力により低圧側に流入しようとする流体を高圧流体側に逃す役割を果たす圧力開放溝を備えた場合においても、高圧流体の脱水縮合反応による堆積原因物質の析出、付着及び堆積を防止できると共に、キャビテーションの発生も防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置などは、特に明示的な記載がない限り、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0024】
図1及び
図2を参照して、本発明の実施例1に係る摺動部品について説明する。
なお、本実施例においては、摺動部品の一例であるメカニカルシールを例にして説明する。また、メカニカルシールを構成する摺動部品の外周側を高圧流体側(被密封流体側)、内周側を低圧流体側(大気側)として説明するが、本発明はこれに限定されることなく、高圧流体側と低圧流体側とが逆の場合も適用可能である。
【0025】
図1は、メカニカルシールの一例を示す縦断面図であって、摺動面の外周から内周方向に向かって漏れようとする高圧流体側の被密封流体を密封する形式のインサイド形式のものであり、高圧流体側のポンプインペラ(図示省略)を駆動させる回転軸1側にスリーブ2を介してこの回転軸1と一体的に回転可能な状態に設けられた一方の摺動部品である円環状の回転環3と、ポンプのハウジング4に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた他方の摺動部品である円環状の固定環5とが設けられ、固定環5を軸方向に付勢するコイルドウェーブスプリング6及びベローズ7によって、ラッピング等によって鏡面仕上げされた摺動面S同士で密接摺動するようになっている。すなわち、このメカニカルシールは、回転環3と固定環5との互いの摺動面Sにおいて、被密封流体が回転軸1の外周から大気側へ流出するのを防止するものである。
【0026】
図2(a)は、本発明の実施例1に係る摺動部品の摺動面を示したもので、例えば、
図1の固定環5の摺動面Sに本発明に係る流体排出手段及び緩衝溝が形成された場合を例にして説明する。
なお、回転環3の摺動面に本発明に係る流体排出手段及び緩衝溝が形成される場合も同様である。
【0027】
図2(a)において、固定環5の摺動面Sの外周側が高圧流体側であり、また、内周側が低圧流体側、例えば大気側であり、相手摺動面は反時計方向に回転するものとする。
摺動面Sには、高圧流体側に連通されると共に低圧流体側とは摺動面Sの平滑部R(本発明においては、「ランド部R」ということがある。)により隔離され、かつ、相手摺動面との相対摺動により流体を高圧流体側に排出する流体排出手段としてのポンピング溝10が設けられている。ポンピング溝10は、相手摺動面との相対摺動により流体を高圧流体側に排出する角度を有するように直線状、あるいは曲線状に形成される。本実施例では、振動及び騒音などを考慮して、相手摺動面の回転方向に沿うようにスパイラル形状に形成されている。
なお、本明細書においては、スパイラル形状のポンピング溝を「スパイラル溝」といい、以下では、ポンピング溝がスパイラル溝10である場合について説明する。
【0028】
スパイラル溝10よりも低圧側の平滑部Rには緩衝溝11が設けられる。
図2において、緩衝溝11はスパイラル溝10の低圧側端部に沿うように円環状に設けられている。
緩衝溝11の摺動面Sにおける半径方向の位置については、スパイラル溝10よりも低圧側であって、低圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
【0029】
また、緩衝溝11の断面形状は、特に限定されないが、例えば、
図2(b)に示すような半円状、同(c)に示すような矩形、同(d)に示すようなアリ溝状に形成される。さらに、緩衝溝11の大きさは、流体排出手段としてのスパイラル溝10の能力等に応じて設定されるものであり、流体をある程度貯留できる容積を持つ大きさに設定される。一例を示すと、緩衝溝11の幅bは、好ましくは、10〜500μm、より好ましくは、50〜200μmに設定される。また、緩衝溝11の深さhは、好ましくは、幅bの1〜2倍に設定される。
【0030】
緩衝溝11は、スパイラル溝10の流体排出作用(密封作用)に伴い、摺動面の低圧側に低圧流体が一気に進入するのを緩和する緩衝作用を有するものであり、低圧流体側から摺動面に進入する低圧流体の高圧流体に対する緩衝(バッファー)となり、摺動面が低圧流体で満たされるまでの時間を遅延することができ、高圧流体の脱水縮合反応を抑制するものである。
例えば、低圧流体が空気の場合、空気により摺動面の低圧側が乾燥するのを防止できるため、高圧流体の脱水縮合反応による堆積原因物質の析出、付着及び堆積を防止できる。
図2の場合、緩衝溝11の緩衝(バッファー)効果により、低圧流体12の進入は摺動面の低圧側のごく一部に限定され、緩衝溝11の近傍から高圧側にかけては高圧流体が残存している。
また、スパイラル溝10による流体排出により急激な圧力低下が生じる場合でも、緩衝溝11内に存在する流体により急激な圧力低下が緩和されるため、キャビテーションの発生が防止される。
【実施例2】
【0031】
図3を参照して、本発明の実施例2に係る摺動部品について説明する。
なお、
図3において、
図2の符号と同じ符号は
図2と同じ部材を示しており、重複する説明は省略する。
【0032】
図3に示す摺動部品5においては、摺動面の高圧側に流体排出手段としての逆レイリーステップ機構15が周方向に複数設けられている。
この逆レイリーステップ機構15については後で詳しく説明するが、高圧流体側とランド部Rにより隔離された淺溝からなる負圧発生溝を構成するグルーブ15a及び逆レイリーステップ15bで流体を吸い込み、高圧流体側に連通された深溝からなる半径溝15cから高圧流体側に流体を排出するものである。
【0033】
逆レイリーステップ機構15よりも低圧側の平滑部Rには緩衝溝11が設けられる。
図3において、緩衝溝11は逆レイリーステップ機構15から低圧流体側に離間して円環状に設けられている。
また、緩衝溝11の摺動面における半径方向の位置については、逆レイリーステップ機構15よりも低圧側であって、低圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
なお、逆レイリーステップ機構については、後に、詳しく説明する。
【0034】
緩衝溝11の断面形状、大きさなどは実施例1と同じである。
【0035】
緩衝溝11は、逆レイリーステップ機構15の流体排出作用(密封作用)に伴い、摺動面の低圧側に低圧流体が一気に進入するのを緩和する緩衝作用を有するものであり、低圧流体側から摺動面に進入する低圧流体の高圧流体に対する緩衝(バッファー)となり、摺動面が低圧流体で満たされるまでの時間を遅延することができ、高圧流体の脱水縮合反応を抑制するものである。
例えば、低圧流体が空気の場合、空気により摺動面の低圧側が乾燥するのを防止できるため、高圧流体の脱水縮合反応による堆積原因物質の析出、付着及び堆積を防止できる。
図3の場合、緩衝溝11の緩衝(バッファー)効果により、低圧流体12の進入は摺動面の低圧側のごく一部に限定され、緩衝溝11の近傍から高圧側にかけては高圧流体が残存している。
また、逆レイリーステップ機構15による流体排出により急激な圧力低下が生じる場合でも、緩衝溝11内に存在する流体により急激な圧力低下が緩和されるため、キャビテーションの発生が防止される。
【実施例3】
【0036】
図4を参照して、本発明の実施例3に係る摺動部品について説明する。
なお、
図4において、
図2の符号と同じ符号は
図2と同じ部材を示しており、重複する説明は省略する。
【0037】
図4において、固定環5の摺動面には、高圧流体側に連通されると共に低圧流体側とは摺動面のランド部Rにより隔離された流体循環手段としての流体循環溝20が周方向に複数設けられている。
流体循環溝20は、高圧流体側から入る入口部20a、高圧流体側に抜ける出口部20b、及び、入口部20a及び出口部20bとを周方向に連通する連通部20cから構成され、低圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。流体循環溝20は、摺動面において腐食生成物などを含む流体が濃縮されることを防止するため、積極的に高圧流体側から被密封流体を摺動面上に導入し排出するという役割を担うものであり、相手摺動面の回転方向に合わせて摺動面上に被密封流体を取り入れ、かつ、排出しやすいように入口部20a及び出口部20bの傾斜角度が大きく設定され、両者は低圧流体側(
図4においては内周側)において交差するように配設され、この交叉部が連通部20cを形成している。入口部20aと出口部20bとの交叉角度は鈍角(例えば、約150°)である。
【0038】
固定環5の摺動面の流体循環溝20と高圧流体側とで囲まれる部分の外側、すなわち、隣接する流体循環溝20と20との間には、回転環3と固定環5との相対摺動により流体を高圧流体側に排出するスパイラル溝10が設けられている。
【0039】
流体循環溝20が設けられた摺動面には、流体循環溝20と高圧流体側とで囲まれる部分に流体循環溝20より浅いグルーブ21aを備える正圧発生機構21が設けられている。正圧発生機構21は、正圧(動圧)を発生することにより相対摺動する摺動面の間隔を広げ、該摺動面に液膜を形成し、潤滑性を向上させるために設けられるものである。
グルーブ21aは流体循環溝20の入口部20aに連通し、出口部20b及び高圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
本例では、正圧発生機構21は、流体循環溝20の入口部20aに連通するグルーブ21a及びレイリーステップ21bを備えたレイリーステップ機構から構成されるが、これに限定されることなく、例えば、ダム付きフェムト溝で構成してもよく、要は、正圧を発生する機構であればよい。
なお、レイリーステップ機構については、後に、詳しく説明する。
【0040】
流体循環溝20及びスパイラル溝10よりも低圧側の平滑部Rには緩衝溝11が設けられる。
図4において、緩衝溝11は流体循環溝20から低圧流体側に離間すると共にスパイラル溝10の低圧側端部に沿うようにして円環状に設けられている。
また、緩衝溝11の摺動面における半径方向の位置については、流体循環溝20及びスパイラル溝10よりも低圧側であって、低圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
【0041】
緩衝溝11の断面形状、大きさなどは実施例1と同じである。
【0042】
緩衝溝11は、スパイラル溝10の流体排出作用(密封作用)に伴い、摺動面の低圧側に低圧流体が一気に進入するのを緩和する緩衝作用を有するものであり、低圧流体側から摺動面に進入する低圧流体の高圧流体に対する緩衝(バッファー)となり、摺動面が低圧流体で満たされるまでの時間を遅延することができ、高圧流体の脱水縮合反応を抑制するものである。
例えば、低圧流体が空気の場合、空気により摺動面の低圧側が乾燥するのを防止できるため、高圧流体の脱水縮合反応による堆積原因物質の析出、付着及び堆積を防止できる。
図4の場合、緩衝溝11の緩衝(バッファー)効果により、低圧流体12の進入は摺動面の低圧側のごく一部に限定され、緩衝溝11の近傍から高圧側にかけては高圧流体が残存している。
また、スパイラル溝10による流体排出により急激な圧力低下が生じる場合でも、緩衝溝11内に存在する流体により急激な圧力低下が緩和されるため、キャビテーションの発生が防止される。
【実施例4】
【0043】
図5を参照して、本発明の実施例4に係る摺動部品について説明する。
なお、
図5において、
図2及び
図4の符号と同じ符号は
図2及び
図4と同じ部材を示しており、重複する説明は省略する。
【0044】
図5において、固定環5の摺動面には、高圧流体側に連通されると共に低圧流体側とは摺動面のランド部Rにより隔離された流体循環手段としての流体循環溝20が周方向に複数設けられている。
【0045】
固定環5の摺動面の流体循環溝20と高圧流体側とで囲まれる部分の外側、すなわち、隣接する流体循環溝20と20との間には、回転環3と固定環5との相対摺動により流体を高圧流体側に排出する逆レイリーステップ機構15が周方向に複数設けられている。
【0046】
流体循環溝20が設けられた摺動面には、流体循環溝20と高圧流体側とで囲まれる部分に流体循環溝20より浅いグルーブ21aを備える正圧発生機構21が設けられている。
【0047】
流体循環溝20及び逆レイリーステップ機構15よりも低圧側の平滑部Rには緩衝溝11が設けられる。
図5において、緩衝溝11は流体循環溝20及び逆レイリーステップ機構15から低圧流体側に離間して円環状に設けられている。
また、緩衝溝11の摺動面における半径方向の位置については、流体循環溝20及び逆レイリーステップ機構15よりも低圧側であって、低圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
【0048】
緩衝溝11の断面形状、大きさなどは実施例1と同じである。
【0049】
緩衝溝11は、逆レイリーステップ機構15の流体排出作用(密封作用)に伴い、摺動面の低圧側に低圧流体が一気に進入するのを緩和する緩衝作用を有するものであり、低圧流体側から摺動面に進入する低圧流体の高圧流体に対する緩衝(バッファー)となり、摺動面が低圧流体で満たされるまでの時間を遅延することができ、高圧流体の脱水縮合反応を抑制するものである。
例えば、低圧流体が空気の場合、空気により摺動面の低圧側が乾燥するのを防止できるため、高圧流体の脱水縮合反応による堆積原因物質の析出、付着及び堆積を防止できる。
図3の場合、緩衝溝11の緩衝(バッファー)効果により、低圧流体12の進入は摺動面の低圧側のごく一部に限定され、緩衝溝11の近傍から高圧側にかけては高圧流体が残存している。
また、逆レイリーステップ機構15による流体排出により急激な圧力低下が生じる場合でも、緩衝溝11内に存在する流体により急激な圧力低下が緩和されるため、キャビテーションの発生が防止される。
【実施例5】
【0050】
図6を参照して、本発明の実施例5に係る摺動部品について説明する。
なお、
図6において、
図2及び
図4の符号と同じ符号は
図2及び
図4と同じ部材を示しており、重複する説明は省略する。
【0051】
図6において、摺動面の高圧流体側の摺動面には、正圧発生機構21、例えば、グルーブ21a及びレイリーステップ21bを備えたレイリーステップ機構が設けられている。正圧発生機構21は、高圧流体側及び低圧流体側とランド部Rにより隔離され、周方向に等間隔で4等配に設けられている。
また、正圧発生機構21より低圧流体側の摺動面には、正圧発生機構21と径方向において離間するようにしてスパイラル溝10が環状に配設されている。
さらに、スパイラル溝10と正圧発生機構21との間に位置するように周方向に連続して環状の圧力開放溝25が設けられている。圧力開放溝25は、正圧発生機構21のグルーブ21aとは径方向においてランド部Rにより離間され、スパイラル溝10の排出側端部(下流側端部)とは連結されている。
なお、本例では、正圧発生機構21は4等配に設けられているが、これに限らず、1つ以上であればよい。
【0052】
圧力開放溝25と高圧流体側とを連通するように半径方向溝26が設けられている。半径方向溝26は、周方向において正圧発生機構21のグルーブ部21aの上流側の端部に接する位置であって、圧力開放溝25の接線に直交する方向に4等配で設けられる。圧力開放溝25及び半径方向溝26は正圧発生機構21のグルーブ21aより深い。また、半径方向溝26は、本例では、圧力開放溝25より幅が広く形成されている。
【0053】
正圧発生機構21は、正圧(動圧)を発生することにより相対摺動する摺動面の間隔を広げ、該摺動面に液膜を形成し、潤滑性を向上させるために設けられるものである。
圧力開放溝25は、高圧側の正圧発生機構21で発生した正圧(動圧)を高圧側流体の圧力まで開放することで、流体が低圧側のスパイラル溝10に流入し、スパイラル溝10の負圧発生能力が弱まることを防止するためのものであり、高圧側の正圧発生機構21で発生した圧力により低圧側に流入しようとする流体を圧力開放溝25に導き、高圧流体側に逃す役割を果たすものである。このため、摺動面における密封性が一層向上される。
【実施例6】
【0054】
図7を参照して、本発明の実施例6に係る摺動部品について説明する。
本実施例は、半径方向溝の向きにおいて
図6の実施例5と相違するがその他の構成は実施例5と同じであり、
図6の符号と同じ符号は
図6と同じ部材を示しており、重複する説明は省略する。
【0055】
図7においては、半径方向溝27は、正圧発生機構21のグルーブ21aの上流側の端部に接する位置に4等配で設けられる点では、実施例5と同じであるが、配設される方向において若干相違する。
すなわち、半径方向溝27は、4つの半径方向溝27a、27b、27c及び27dを2対に分け、1対の半径方向溝27a及び27b、あるいは、他の対の半径方向溝27c及び27dにおいて、上流側である入口側の半径方向溝27a(27c)には流体が入りやすいように入口が上流側に向けて傾斜され、また、出口側の半径方向溝27b(27d)では流体が排出されやすいに出口が下流側に向けて傾斜するように設けられている。
【0056】
換言すれば、半径方向溝27は周方向に偶数配置され、隣接する半径方向溝27は相互に傾斜方向が異なり、一方のグループの半径方向溝27a、27cは入口が上流側に向けて傾斜され、他方のグループの半径方向溝27b、27dは、出口が下流側に向けて傾斜するように設けられるものである。
このように半径方向溝27が設けられると、圧力開放溝25及び半径方向溝27で構成される深溝内において緩やかな流体の流れが生成される。このため、深溝内に気泡あるいは不純物などが滞留することが防止され、高圧側の正圧発生機構21で発生した圧力により低圧側に流入しようとする流体を確実に高圧流体側に逃すことができるため、密封性を向上することができる。
なお、本例では、正圧発生機構21は4等配に設けられているが、これに限らず、偶数であればよい。
【実施例7】
【0057】
図8を参照して、本発明の実施例7に係る摺動部品について説明する。
本実施例は、正圧発生機構が8等配に設けられる点及び緩衝溝が設けらる点で
図6の実施例5と相違するがその他の基本構成は実施例5と同じであり、
図6の符号と同じ符号は
図6と同じ部材を示しており、重複する説明は省略する。
【0058】
図8において、摺動面の径方向の中央には、スパイラル溝10が環状に配設され、スパイラル溝10より高圧流体側の摺動面には、正圧発生機構21、例えば、レイリーステップ機構が設けられると共に、スパイラル溝10と正圧発生機構21との間に位置するように圧力開放溝25が設けられている。また、正圧発生機構21及び圧力開放溝25は半径方向溝26を介して高圧流体側と連通されている。
正圧発生機構21は、正圧(動圧)を発生することにより相対摺動する摺動面の間隔を広げ、該摺動面に液膜を形成し、潤滑性を向上させるために設けられるものである。
圧力開放溝25は、高圧側の正圧発生機構21で発生した正圧(動圧)を高圧側流体の圧力まで開放することで、流体が低圧側のスパイラル溝10に流入し、スパイラル溝10の負圧発生能力が弱まることを防止するためのものであり、高圧側の正圧発生機構21で発生した圧力により低圧側に流入しようとする流体を圧力開放溝25に導き、高圧流体側に逃す役割を果たすものである。
【0059】
流体排出手段としてのスパイラル溝10よりも低圧側の平滑部Rには緩衝溝11が設けられる。
図8において、緩衝溝11はスパイラル溝10の低圧側端部に沿うようにして円環状に設けられている。
また、緩衝溝11の摺動面における半径方向の位置については、スパイラル溝10よりも低圧側であって、低圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
【0060】
緩衝溝11の断面形状、大きさなどは実施例1と同じである。
【0061】
緩衝溝11は、スパイラル溝10の流体排出作用(密封作用)に伴い、摺動面の低圧側に低圧流体が一気に進入するのを緩和する緩衝作用を有するものであり、低圧流体側から摺動面に進入する低圧流体の高圧流体に対する緩衝(バッファー)となり、摺動面が低圧流体で満たされるまでの時間を遅延することができ、高圧流体の脱水縮合反応を抑制するものである。
例えば、低圧流体が空気の場合、空気により摺動面の低圧側が乾燥するのを防止できるため、高圧流体の脱水縮合反応による堆積原因物質の析出、付着及び堆積を防止できる。
図3の場合、緩衝溝11の緩衝(バッファー)効果により、低圧流体12の進入は摺動面の低圧側のごく一部に限定され、緩衝溝11の近傍から高圧側にかけては高圧流体が残存している。
また、スパイラル溝10による流体排出により急激な圧力低下が生じる場合でも、緩衝溝11内に存在する流体により急激な圧力低下が緩和されるため、キャビテーションの発生が防止される。
【0062】
次に、
図9を参照しながら、レイリーステップ機構などからなる正圧発生機構及び逆レイリーステップ機構などからなる負圧発生機構を説明する。
図9(a)において、相対する摺動部品である回転環3、及び、固定環5が矢印で示すように相対摺動する。例えば、固定環5の摺動面には、相対的移動方向と垂直かつ上流側に面してレイリーステップ21bが形成され、該レイリーステップ21bの上流側には正圧発生溝であるグルーブ部21aが形成されている。相対する回転環3及び固定環5の摺動面は平坦である。
回転環3及び固定環5が矢印で示す方向に相対移動すると、回転環3及び固定環5の摺動面間に介在する流体が、その粘性によって、回転環3または固定環5の移動方向に追随移動しようとするため、その際、レイリーステップ21bの存在によって破線で示すような正圧(動圧)を発生する。
なお、20a、20bは、それぞれ、流体循環溝の入口部、出口部を、また、Rはランド部を、さらに、26は半径方向溝を示す。
【0063】
図9(b)においても、相対する摺動部品である回転環3、及び、固定環5が矢印で示すように相対摺動するが、回転環3及び固定環5の摺動面には、相対的移動方向と垂直かつ下流側に面して逆レイリーステップ15bが形成され、該逆レイリーステップ15bの下流側には負圧発生溝であるグルーブ部15aが形成されている。相対する回転環3及び固定環5の摺動面は平坦である。
回転環3及び固定環5が矢印で示す方向に相対移動すると、回転環3及び固定環5の摺動面間に介在する流体が、その粘性によって、回転環3または固定環5の移動方向に追随移動しようとするため、その際、逆レイリーステップ15bの存在によって破線で示すような負圧(動圧)を発生する。
なお、15cは半径溝を、また、20a、20bは、それぞれ、流体循環溝の入口部、出口部を、さらに、Rはランド部を示す。
【0064】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0065】
例えば、前記実施例では、摺動部品をメカニカルシール装置における一対の回転用密封環及び固定用密封環のいずれかに用いる例について説明したが、円筒状摺動面の軸方向一方側に潤滑油を密封しながら回転軸と摺動する軸受の摺動部品として利用することも可能である。
【0066】
また、例えば、前記実施例では、外周側に高圧の被密封流体が存在する場合について説明したが、内周側が高圧流体の場合にも適用できる。
【0067】
また、例えば、前記実施例では、流体排出手段がスパイラル溝10及び逆レイリーステップ機構15の場合について説明したが、これらに限らず、ディンプルであってもよい。
【0068】
また、例えば、前記実施例では、緩衝溝11が環状に連続して形成される場合について説明したが、必ずしも、連続して形成される必要はなく、断続して形成されても、要は、緩衝作用を有する容量を有していればよい。