(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、複数の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態において実質的に共通する部位には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について、
図1から
図5を参照しながら説明する。
図1に示すように、空気調和機1は、室内機1aおよび室外機1bからなる周知の冷凍サイクルを構成している。室内機1aは、一般家庭等で用いられているような概ね横長の直方体状に形成されており、設置状態におけるその横幅が800mm以下、且つ、その高さが295mm以下に設計されている。つまり、室内機1aは、概ね一畳分以下の横幅を有している。この室内機1aは、配管や電源線および信号線等で室外機1bに接続されている。
【0008】
室外機1bは、制御部2、インバータ回路2a、圧縮機3、配管部材4、四方切替弁5等を備えている。制御部2は、図示しないCPU、ROMおよびRAM等を有するマイクロコンピュータにより構成されており、例えばROM等に記憶されているコンピュータプログラムを実行することで、室外機1bを制御する。なお、制御部2により行われる制御は多岐に渡るが、ここでは実施形態に関連して圧縮機3の制御について説明する。
【0009】
制御部2は、インバータ回路2aを駆動することで、圧縮機3の運転周波数を制御する。なお、インバータ回路2a自体は周知の構成を採用することができるので説明は省略する。この圧縮機3は、2シリンダ型ロータリ式のものであり、本体内の下部側に、圧縮機構部6が設けられ、その上部に図示しないモータ等により構成される電動機部が設けられている。これら電動機部と圧縮機構部6とは、モータの回転軸を介して連結されている。なお、インバータ回路2aは、この電動機部のモータを制御することで、圧縮機3の運転周波数を制御する。
【0010】
圧縮機構部6は、図示しない中間仕切り板を介して上下に配設された上部シリンダ7と、下部シリンダ8とを備えている。これら上部シリンダ7および下部シリンダ8は、互いに外形形状寸法が相違し、かつ内径寸法が同一となるように設計されている。具体的には、上部シリンダ7は、製造時における外径寸法が本体ケースの内径寸法よりも僅かに大に形成され、本体ケース内周面に圧入された後、溶接加工によって位置決め固定されている。
【0011】
上部シリンダ7の上面部には、図示しない主軸受が固定されている。また、下部シリンダ8の下面部には、図示しない副軸受が固定されている。そして、中間仕切板および副軸受の外径寸法は、下部シリンダ8の内径寸法よりもある程度大となるように設計されている。そして、この下部シリンダ8の内径位置は、シリンダの中心から偏心した位置に設定されている。そのため、下部シリンダ8は、その外周の一部が中間仕切板および副軸受けの外径よりも径方向外側に突出している。
【0012】
モータの回転軸は、その中途部と下端部とが、主軸受と副軸受とに回転自在に支持されている。この回転軸は、上部シリンダ7および下部シリンダ8内を貫通しているとともに、略180°の位相差をもって設けられている2つの偏心部が取り付けられている。各偏心部は、互いに同一直径をなしており、上部シリンダ7と下部シリンダ8の内径部にそれぞれ位置している。各偏心部には、同一直径をなすローリングピストンがそれぞれ取り付けられている。このローリングピストンは、上部シリンダ7および下部シリンダ8のそれぞれのシリンダ室内に偏心回転自在に収容されている。なお、
図1(B)に、下部シリンダ8に収容されているローリングピストン8aを示す。
【0013】
各ローリングピストンは、互いに180°の位相差をもって上部シリンダ7および下部シリンダ8内を偏心回転することにより、各シリンダ内において、同一の排除容積となるように設定されている。上部シリンダ7および下部シリンダ8には、それぞれベーン9およびベーン11が設けられている。各ベーン9、10は、
図2(A)に示すように、それぞれバネ等の弾性部材10a、10bによってシリンダ内に向かって付勢されており、矢印Y1、Y2にて示すように、ローリングピストンの回転に応じてシリンダ内に突没自在に設けられている。
【0014】
このうち、下部シリンダ8に対応するベーン11は、電磁石12によって、その突没の態様が制御される。具体的には、ベーン11は、
図1(A)に示すように電磁石12に吸着され、シリンダ内に進入不可となっている状態と、
図2(A)に示すように電磁石12から離脱し、シリンダ内に突没自在な状態とに制御される。この
図1(A)に示す状態が、下部シリンダ8にて圧縮運転が行われずに空転する状態、つまり、1シリンダ運転の状態に相当する。また、
図2(A)に示す状態が、下部シリンダ8にて圧縮運転が行われる状態、つまり、2シリンダ運転の状態に相当する。この運転状態の制御は、制御部2によって行われる。
【0015】
この1シリンダ運転と2シリンダ運転とでは、配管部材4に設けられている四方切替弁5が切り換えられる。具体的には、1シリンダ運転では、
図1(A)に示すように、下部シリンダ8につながる経路が四方切替弁5によって圧縮機3の吐出側(高圧側)に切り換えられ、
図1(B)に示すように、下部シリンダ8は、その内部全域が常に高圧状態となる。一方、2シリンダ運転では、
図2(A)に示すように、下部シリンダ8につながる経路が四方切替弁5によってアキュムレータ側つまりは吸入側(低圧側)に切り換えられ、
図2(B)に示すように、下部シリンダ8は、その内部においてベーン11の回転方向の前後に高圧領域と低圧領域とが形成される。
【0016】
このように1シリンダ運転と2シリンダ運転とを切り換えることで、後述する第1範囲、第2範囲のように運転能力の調整範囲を可変とすることができる。この場合、冷房最大能力を必要とする場合には、使用するシリンダ数を最大(本実施形態では2つ)とする2シリンダ運転が行われ、冷房最小能力を必要とする場合には、使用するシリンダ数を最小(本実施形態では1つ)とする1シリンダ運転が行われる。なお、各調整範囲においては、後述するように運転周波数を変更することで運転能力の調整が可能となっている。
【0017】
本実施形態の空気調和機の場合、
図3に「実施形態の空気調和機」として示すように、冷房定格能力が8.0kW、冷房最小能力が0.2kW、冷房最大能力が8.2kWに設定されている。そして、能力比が、冷房最大能力÷冷房最小能力=8.2÷0.2=41.0となっている。このように冷房最大能力が8.2kW程度であれば、冷房の対象となる空間が例えば20畳くらいの大きな空間であっても冷房能力が不足することがなく、また、冷房最小能力が0.2kW程度であれば、後述するように冷房の対象となる空間が間仕切りされて例えば4畳半程度となったような場合であっても、冷房能力が過多になるおそれが少なく、冷えすぎることを抑制できる。
【0018】
一方、
図3に「従来の空気調和機その1」、「従来の空気調和機その2」として示すように、従来の空気調和機では、本実施形態の空気調和機と同じ冷房定格能力が8.0kWであったとしても、例えば冷房最小能力が0.8kW、冷房最大能力が8.1kWで能力比が10.1のものや、冷房最小能力が0.5kW、冷房最大能力が8.2kWで能力比が16.4等のように、その能力比が低い、換言すると、冷房能力の調整範囲が狭くなっている。
【0019】
この場合、例えば20畳のリビング等をそのまま空調する場合にはいずれの空気調和機であっても同様な空調を行えることが想定される。しかし、例えば室内機1aが設置されている一角を間仕切って小さい空間としたり、室内の温度が低い等の場合、従来の空気調和機では、最小冷房能力で運転したとしても冷房能力が過多となることが想定される。その結果、間仕切りした空間が冷えすぎたり、設定温度を維持するため運転と停止を繰り返すことで快適性が低下したり、運転効率の高い省エネの冷房運転を図ることが難しいことになる。
【0020】
これに対して、本実施形態の空気調和機1の場合、空調の調整範囲を冷房運転時における冷房最大能力と冷房最小能力との能力比が20よりも大きくし最小冷房能力側をより低く設定されているため、間仕切りした場合や気温が低い場合等においても、今までより小さい冷房能力域での継続的な運転が可能となる。これにより、設定温度より冷えすぎたり、設定温度を維持するために運転と停止を繰り返すことで快適性が低下したりすることなく、小さい冷房能力域でも運転効率の高い省エネ運転を図ること出来る。この場合、実施形態の空気調和機1では冷房最大能力が8.2kWであることから、20以上の能力比を確保するためには、冷房最小能力が0.41kW以下であればよい。また、冷房最大能力が8.0kW以上である場合には、冷房最小能力は0.4kW以下であればよい。
【0021】
また、本実施形態の空気調和機1の場合、
図4に示すように、1シリンダ運転時における圧縮機3の運転周波数の調整間隔(第1範囲に相当する)のほうが、2シリンダ運転時における圧縮機3の運転周波数の調整間隔(第2範囲に相当する)よりも、狭く設定されている。具体的には、本実施形態では、1シリンダ運転の場合の運転周波数の調整間隔は0.3Hz単位に設定されている一方、2シリンダ運転の場合の運転周波数の調整間隔は0.4Hz単位に設定されている。このうち、第1範囲において運転周波数が最小となる状態での運転が、冷房能力が最小となる冷房最小能力での運転に相当し、第2範囲において運転周波数が最大となる状態での運転が、冷房能力が最大となる冷房最大能力での運転に相当する。
【0022】
このため、設定温度と室温度の差が小さく空調負荷が少なくなって相対的に冷房能力が低い1シリンダ運転が選択されている場合には、その調整間隔が狭いことから、圧縮機3の運転周波数を細かく制御することが可能になっている。つまり、室温をより設定温度に近づけるための制御がし易くなっている。一方、設定温度と室温度の差が大きく空調負荷が大きくなって相対的に冷房能力が高い2シリンダ運転が選択されている場合には、その調整間隔が相対的に広くなっていることから、空調能力を確保しつつも、より早く設定温度に近づけることができるようになっている。
【0023】
次に、上記した空気調和機1の作用について説明する。なお、以下の制御は主として上記した制御部2により行われているものの、ここでは空気調和機1を主体にして説明する。
空気調和機1は、
図5に示す空調制御を行っており、電源がONされると、冷房運転であるか、設定温度は何℃であるか等の設定読み込みを行い(S1)、室温を取得する(S2)。そして、室温と設定温度等から空調負荷を想定し、空調負荷が、1シリンダ運転を選択するか2シリンダ運転を選択するかの判断基準となる基準値(選択基準値に相当する)よりも大きいかを判定する(S3)。
【0024】
そして、空気調和機1は、空調負荷が基準値よりも小さいと判定すると(S3:NO)、1シリンダ運転を設定し(S4)、圧縮機3の運転周波数の調整範囲を上記した第1範囲に設定し(S5)、空調制御を実施する(S6)。なお、ステップS6では周知の空調制御が行われている。一方、空気調和機1は、空調負荷が基準値よりも大きいと判定すると(S3:YES)、2シリンダ運転を設定し(S7)、圧縮機3の運転周波数の調整範囲を上記した第2範囲に設定し(S8)、空調制御を実施する(S6)。
【0025】
このように、空気調和機1は、想定される負荷に応じて1シリンダ運転と2シリンダ運転とを選択する。これにより、消費電力を抑制しつつ、最適な冷房能力で運転することができる。つまり、空気調和機1は、省エネルギー性が高くなっている。
このとき、冷房運転時における冷房最大能力と冷房最小能力との能力比が20よりも大きく、且つ、冷房最大能力が8kWよりも大きいことから、例えば20畳といった広い部屋であっても空調能力を確保できるとともに、間仕切りされた小さい空間を冷房する場合や季節によって温度が低い場合等であっても、不要なエネルギー消費を抑制しつつ、快適性を保つことができる。
【0026】
また、空気調和機1は、冷房最小能力が0.41kW以下(実施形態では0.2kW)であるので、間仕切りされた小さい空間であっても過度に冷却されること等がなく、快適性を保つことができる。
また、空気調和機1は、運転時に用いるシリンダ数を可変とする圧縮機3を有しており、冷房最大能力での運転時にはシリンダ数を最大とした状態で運転し、冷房最小能力での運転時にはシリンダ数を最小とした状態で運転する。これにより、冷房最小能力での運転時には、エネルギー消費をさらに抑制することができる。
【0027】
また、空気調和機1は、1シリンダ運転と2シリンダ運転とで、運転周波数の調整間隔を異ならせている。具体的には、1シリンダ運転のほうがより細かく調整することが可能となっている。これにより、1シリンダ運転時には、設定温度に対する追従性が高くなり、快適性をより高めることができる。一方、2シリンダ運転時には、空調能力を確保しつつも、より早く設定温度に近づけることができる。また、空調負荷が大きいときには、制御間隔が広くなることから必要な制御データ量が相対的に少なくなり、運転時の処理負荷の低減、さらには、開発・製造時の確認試験を減らすことができ、信頼性および生産性の向上を図ることができる。
【0028】
また、1シリンダ運転時には細かい制御を行うことで快適性を向上させることができる一方、2シリンダ運転では、上記したようにローリングピストンが略180°の位相差にて互いに反対方向に移動するように動作するため、振動等が抑制され静粛性が高くなる。そのため、第1範囲と第2範囲のどちらでも空調が可能な場合には、1シリンダ運転の調整範囲の上限付近で運転を行って微調整することを重視するか、例えば深夜等であれば2シリンダ運転の調整範囲の下限側の低い運転周波数で運転を行って静粛性を重視するかといった選択の自由度を高めることもできる。
【0029】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について、
図6を参照しながら説明する。なお、空気調和機1の構成は第1実施形態と共通するので、同一符号にて説明する。
第2実施形態の空気調和機1では、
図6に示すように、使用するシリンダ数が最小の運転状態(本実施形態では1シリンダ運転)における運転周波数の最小値、つまり、圧縮機3が運転状態にある場合における運転周波数の最小値(
図6の第1範囲における4.8Hz)よりも、使用するシリンダ数が最大の運転状態(本実施形態では2シリンダ運転)における運転周波数の最小値、つまり、圧縮機3が運転状態にある場合の運転周波数の最小値(
図6の第2範囲における9.6Hz)が大となるように設定されている。
【0030】
また、空気調和機1は、1シリンダ運転における運転周波数の最大値(
図6の第1範囲における25.1Hz)よりも、2シリンダ運転における運転周波数の最大値(
図6の第2範囲における130.4Hz)が大となるように設定されている。
これにより、本実施形態の空気調和機1は、シリンダ数が少ない運転であるほど、より低い能力での運転が可能となる。一方、シリンダ数が多い運転であるほど、より高い能力での運転が可能となる。したがって、上記したように間仕切りしたような小さい空間においては冷えすぎ等を起こすことなく快適性を保つことができるとともに、不要な
エネルギー消費を抑制することができる。
【0031】
さらに、空気調和機1は、1シリンダ運転における運転周波数の最大値(
図6の第1範囲における25.1Hz)にシリンダ数を掛けた値が、2シリンダ運転における運転周波数の最小値(
図6の第2範囲における9.6Hz)よりも大となるように設定されている。換言すると、1シリンダ運転における運転周波数の最大値(
図6の第1範囲における25.1Hz)よりも、2シリンダ運転における運転周波数の最小値(
図6の第2範囲における9.6Hz)が小となるように設定されている。
これにより、より幅広い領域でより効率のよい運転を行うことができ、空気調和機1の性能向上を図ることができる。また、第1実施形態と同様に、微調整を優先するか静粛性を優先するかの自由度を高めることもできる。
【0032】
(その他の実施形態)
空気調和機1は、上記した実施形態にて例示した構成に限定されることなく、次のように変形又は拡張することができる。また、上記した実施形態で例示したものおよび以下に示す変形例および拡張例で例示する構成は、その一部または全部を任意に組み合わせることができる。
【0033】
各実施形態で例示した調整範囲の上限や下限、あるいは調整可能な運転周波数の数(以下、便宜的にステップ数と称する)は一例であり、これに限定されるものではない。例えば、各実施形態では第1範囲と第2範囲とで調整可能なステップ数を同じにしたが、第1範囲と第2範囲とでステップ数を異ならせてもよい。例えば、空調負荷の小さい第1範囲では0.1Hzや0.2Hz等のより狭い間隔で切り替えステップ数を増やしてより細かな調整を可能とし、空調負荷の大きい第2範囲では0.5Hzやそれ以上の広い間隔で切り替えステップ数を第1範囲よりも減らしてより迅速に設定温度付近まで室温を調整できるようにしてもよい。
【0034】
各実施形態では2シリンダ構成の圧縮機3を例示したが、3シリンダや4シリンダ等、n個の複数のシリンダを備える構成であってもよい。その場合、実施形態のようにそれぞれのシリンダ数に応じて運転周波数の調整範囲を第1〜第n範囲のように設定し、第1範囲の調整間隔を、第n範囲の調整間隔よりも小さくしたり、第1範囲の最大値を第n範囲の最小値よりも大とし、且つ、第1範囲の最大値よりも第n範囲の最大値を大としたり、第1範囲の最大値に当該調整範囲で使用されるシリンダ数を乗じた値を、第n範囲の最小値よりも大としたりすることで、各実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0035】
また、例えば第1〜第3範囲が設定されている場合、第1範囲の調整間隔を第2範囲の調整間隔よりも小さくし、第2範囲の調整間隔を第3範囲の調整間隔よりも小さくしてもよいし、第1範囲の最大値に当該調整範囲で使用されるシリンダ数(1個)を乗じた値を第2範囲の最小値よりも大とし、第2範囲の最大値に当該調整範囲で使用されるシリンダ数(2個)を乗じた値を第3範囲の最小値よりも大としたりしてもよい。他の設定についても同様である。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。