特許第6407582号(P6407582)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6407582基板の製造方法、多層反射膜付き基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、転写用マスクの製造方法、及び基板加工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6407582
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】基板の製造方法、多層反射膜付き基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、転写用マスクの製造方法、及び基板加工装置
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/82 20120101AFI20181004BHJP
   G03F 1/60 20120101ALI20181004BHJP
   G03F 1/24 20120101ALI20181004BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20181004BHJP
   C03C 17/36 20060101ALI20181004BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   G03F1/82
   G03F1/60
   G03F1/24
   C03C19/00 Z
   C03C17/36
   G11B5/84 A
【請求項の数】21
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2014-133847(P2014-133847)
(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公開番号】特開2015-28626(P2015-28626A)
(43)【公開日】2015年2月12日
【審査請求日】2017年5月22日
(31)【優先権主張番号】特願2013-139894(P2013-139894)
(32)【優先日】2013年7月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101890
【弁理士】
【氏名又は名称】押野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】兼子 祥治
(72)【発明者】
【氏名】折原 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】池邊 洋平
【審査官】 植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/084934(WO,A1)
【文献】 特開2012−142064(JP,A)
【文献】 特開2004−291209(JP,A)
【文献】 特表2007−531631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00〜1/86
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物を含む材料からなる主表面を有する基板を準備する基板準備工程と、
触媒物質によって形成された加工基準面を前記主表面に接触又は接近させ、前記加工基準面と前記主表面との間に処理流体を介在させた状態で、前記主表面を触媒基準エッチングにより加工する基板加工工程とを含み、
前記触媒物質は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも二以上の金属を含む合金、並びに、該合金に酸素、窒素、及び炭素のうちの少なくとも一つの成分が含まれた合金化合物からなる群から選ばれた材料を含むことを特徴とする基板の製造方法。
【請求項2】
前記合金化合物は、前記合金の酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化炭化物、窒化炭化物、又は酸化窒化炭化物であることを特徴とする請求項1に記載の基板の製造方法。
【請求項3】
酸化物を含む材料からなる主表面を有する基板を準備する基板準備工程と、
触媒物質によって形成された加工基準面を前記主表面に接触又は接近させ、前記加工基準面と前記主表面との間に処理流体を介在させた状態で、前記主表面を触媒基準エッチングにより加工する基板加工工程とを含み、
前記触媒物質は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含む合金に窒素が含まれた合金化合物、並びに、前記金属に窒素が含まれた金属化合物からなる群から選ばれたアモルファス構造の材料を含むことを特徴とする基板の製造方法。
【請求項4】
前記合金化合物は、前記合金の窒化物であることを特徴とする請求項3に記載の基板の製造方法。
【請求項5】
前記金属化合物は、前記金属の窒化物であることを特徴とする請求項3に記載の基板の製造方法。
【請求項6】
酸化物を含む材料からなる主表面を有する基板を準備する基板準備工程と、
触媒物質によって形成された加工基準面を前記主表面に接触又は接近させ、前記加工基準面と前記主表面との間に処理流体を介在させた状態で、前記主表面を触媒基準エッチングにより加工する基板加工工程とを含み、
前記触媒物質は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含む合金に炭素が含まれた合金化合物、並びに、前記金属に炭素が含まれた金属化合物からなる群から選ばれた材料を含むことを特徴とする基板の製造方法。
【請求項7】
前記合金化合物は、前記合金の炭化物、酸化炭化物、窒化炭化物、又は酸化窒化炭化物であることを特徴とする請求項6に記載の基板の製造方法。
【請求項8】
前記金属化合物は、前記金属の炭化物、酸化炭化物、窒化炭化物、又は酸化窒化炭化物であることを特徴とする請求項6に記載の基板の製造方法。
【請求項9】
前記基板加工工程は、前記触媒面と前記主表面とを相対運動させることにより、前記主表面を触媒基準エッチングにより加工することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一に記載の基板の製造方法。
【請求項10】
前記基板準備工程で準備される前記基板の主表面は、0.3nm以下の二乗平均平方根粗さを有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一に記載の基板の製造方法。
【請求項11】
前記基板は、ガラス材料からなることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一に記載の基板の製造方法。
【請求項12】
前記処理流体は、前記基板に対して常態では溶解性を示さない溶媒からなることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一に記載の基板の製造方法。
【請求項13】
前記処理流体は、純水からなることを特徴とする請求項12に記載の基板の製造方法。
【請求項14】
前記基板は、マスクブランク用基板であることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一に記載の基板の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の基板の製造方法によって得られた基板の主表面上に、多層反射膜を形成することを特徴とする多層反射膜付き基板の製造方法。
【請求項16】
請求項14に記載の基板の製造方法によって得られた基板の主表面上、又は、請求項15記載の多層反射膜付き基板の製造方法によって得られた多層反射膜付き基板の多層反射膜上に、転写パターン用薄膜を形成することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載のマスクブランクの製造方法によって得られたマスクブランクの転写パターン用薄膜をパターニングして、転写パターンを形成することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【請求項18】
基板の主表面を触媒基準エッチングにより加工する基板加工装置であって、
酸化物を含む材料からなる主表面を有する基板を支持する基板支持手段と、
触媒物質によって形成された加工基準面を有する基板表面創製手段と、
前記加工基準面と前記主表面との間に処理流体を供給する処理流体供給手段と、
前記加工基準面と前記主表面との間に処理流体が介在する状態で、前記加工基準面を前記主表面に接触又は接近させる駆動手段とを備え、
前記触媒物質は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも二以上の金属を含む合金、並びに、該合金に酸素、窒素、及び炭素のうちの少なくとも一つの成分が含まれた合金化合物からなる群から選ばれた材料を含むことを特徴とする基板加工装置。
【請求項19】
基板の主表面を触媒基準エッチングにより加工する基板加工装置であって、
酸化物を含む材料からなる主表面を有する基板を支持する基板支持手段と、
触媒物質によって形成された加工基準面を有する基板表面創製手段と、
前記加工基準面と前記主表面との間に処理流体を供給する処理流体供給手段と、
前記加工基準面と前記主表面との間に処理流体が介在する状態で、前記加工基準面を前記主表面に接触又は接近させる駆動手段とを備え、
前記触媒物質は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含む合金に窒素が含まれた合金化合物、並びに、前記金属に窒素が含まれた金属化合物からなる群から選ばれたアモルファス構造の材料を含むことを特徴とする基板加工装置。
【請求項20】
基板の主表面を触媒基準エッチングにより加工する基板加工装置であって、
酸化物を含む材料からなる主表面を有する基板を支持する基板支持手段と、
触媒物質によって形成された加工基準面を有する基板表面創製手段と、
前記加工基準面と前記基板の主表面との間に処理流体を供給する処理流体供給手段と、
前記加工基準面と前記主表面との間に処理流体が介在する状態で、前記加工基準面を前記主表面に接触又は接近させる駆動手段とを備え、
前記触媒物質は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含む合金に炭素が含まれた合金化合物、並びに、前記金属に炭素が含まれた金属化合物からなる群から選ばれた材料を含むことを特徴とする基板加工装置。
【請求項21】
前記加工基準面と前記主表面とを相対運動させる相対運動手段を備えることを特徴とする請求項18乃至20のいずれか一に記載の基板加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の製造方法、この基板を用いた多層反射膜付き基板の製造方法、この基板又は多層反射膜付き基板を用いたマスクブランクの製造方法、このマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法、及び基板加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デザインルール1x世代(ハーフピッチ(hp)14nm、10nm、7nm等)で使用されるマスクブランクとして、EUV露光用の反射型マスクブランク、ArFエキシマレーザー露光用のバイナリーマスクブランク及び位相シフトマスクブランク、並びにナノインプリント用マスクブランクがある。
【0003】
半導体デザインルール1x世代で使用されるマスクブランクでは、30nm級の欠陥(SEVDが21.5nm以上34nm以下の欠陥)若しくは、それよりも小さいサイズの欠陥が問題となる可能性がある。このため、マスクブランクに使用される基板の主表面(すなわち、転写パターンを形成する側の表面)は、30nm級の欠陥が、極力少ない方が好ましい。また、30nm級の欠陥の欠陥検査を行う高感度の欠陥検査装置において、表面粗さはバックグランドノイズに影響する。すなわち、平滑性が不十分であると、表面粗さ起因の擬似欠陥が多数検出され、欠陥検査を行うことができない。このため、半導体デザインルール1x世代で使用されるマスクブランクに用いられる基板の主表面は、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.10nm以下、より好ましくは、0.08nm以下の平滑性が求められている。
【0004】
また、近年、ハードディスクドライブ(HDD)に用いられる磁気記録媒体の大容量化・高密度化に伴い、磁気記録媒体に対する記録読取り用磁気ヘッドの浮上高さ(フライングハイト)は、ますます低くなっている。低いフライングハイトを実現するために、DFH(Dynamic Flying Height)機構を搭載した磁気ヘッドが普及している。DFH機構を搭載した磁気ヘッドでは、磁気ヘッドに熱膨張体を配置し、熱膨張体を加熱して膨張させることにより、フライングハイトが一定に制御される。
【0005】
DFH機構を搭載した磁気ヘッドでは、フライングハイトが数nm程度に制御されるため、ヘッドクラッシュなどの不良が生じやすい。このような不良を減少するために、磁気記録媒体に使用される基板の主表面(磁性体を含む磁性層を形成する側の表面)は、平滑性が高く、主表面から突出する突起がない状態が好ましい。なお、磁性層が磁気記録媒体の上面及び下面の両面に形成される場合には、その両面が主表面となる。
【0006】
これまで、マスクブランク用基板や磁気記録媒体用基板の主表面を、高平滑性で、低欠陥で、突起のない状態にするために、さまざまな加工方法が提案されているが、所望の特性を満たす主表面を有する基板を実現することは困難であった。
【0007】
近年、主表面について高平滑性や低欠陥や突起のない状態が求められる基板の加工方法として、触媒基準エッチング(CARE)による加工方法が提案されている。触媒基準エッチング(CARE)加工では、触媒物質から形成される加工基準面に吸着している処理流体中の分子から水酸基が活性種として生成し、この活性種によって加工基準面と接近又は接触する基板表面上の微細な凸部が加水分解反応し、当該微細な凸部が選択的に除去されると考えられる。特許文献1には、金属触媒を用いた触媒基準エッチングによる加工方法が記載されている。
【0008】
特許文献1では、水の存在下で、触媒物質の加工基準面を、ガラスなどの固体酸化物からなる被加工物表面に接触又は接近させ、加工基準面と被加工物表面とを相対運動させて、加水分解による分解生成物を被加工物表面から除去し、被加工物表面を加工する固体酸化物の加工方法が記載されている(以降、当該固体酸化物の加工方法もCARE加工方法と称する。)。触媒物質としては、金属元素を含み、当該金属元素の電子のd軌道がフェルミレベル近傍のものを用いられ、具体的に、金属元素として、例えば、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)が挙げられている。
【0009】
CARE加工では、被加工面と対向する表面に触媒物質からなる加工基準面が設けられた触媒定盤を使用する。一般的に、加工基準面は、基材の表面に設けられた膜状の構成や、バルク材料を加工することにより形成されるバルク状の構成をとっている。特に、ガラス基板のCARE加工では、通常、安価で形状安定性のよいパッドの表面に、触媒物質を蒸着、スパッタリング、電気めっき等することによって加工基準面を形成する。
【0010】
加工基準面が脆かったり、軟らかかったりすると、CARE加工中に加工基準面が剥がれ、基板表面にダメージを与える可能性がある。また、加工基準面が剥がれると、剥がれた箇所が触媒としての機能を失い、基板表面の均一で安定した加工ができなくなる可能性がある。このため、CARE加工により高平滑性で且つ低欠陥の表面を有する基板を安定して製造するためには、機械的耐久性が良好(脆くない、硬い)な加工基準面を用いることが好ましい。
また、加工基準面がCARE加工中に処理流体により錆びると、錆びた箇所が触媒としての機能を失い、基板表面の均一で安定した加工ができなくなる可能性がある。また、加工基準面が錆びると、脆くなり、上述したように、基板表面にダメージを与える可能性がある。このため、CARE加工により高平滑性でかつ低欠陥の表面を有する基板を安定して製造するためには、化学的安定性が良好(処理流体により錆び難い)な加工基準面を用いることが好ましい。
また、加工基準面の表面状態が荒れていると、CARE加工中に加工基準面の微小領域が剥がれ、基板表面にダメージを与えたり、基板表面の均一な加工ができなくなる可能性がある。また、加工基準面の表面状態の荒れが、基板表面に転写され、基板表面の平滑性が損なわれる可能性がある。このため、CARE加工により高平滑性で且つ低欠陥の表面を有する基板を安定して製造するためには、平坦な加工基準面を用いることが好ましい。
また、CARE加工中に加工基準面の酸化が進行すると、加工基準面の触媒機能が変化するため、CARE加工中の加工レートが変化し、加工時間が一定にならず、スループットや製造コストなどの面で安定した加工ができなくなる可能性がある。このため、CARE加工により高平滑性で且つ低欠陥の表面を有する基板を安定して製造するためには、酸化が進行しにくい加工基準面を用いることが好ましい。
また、加工基準面が膜状の構成である場合は、成膜し易い触媒物質により加工基準面を形成することが好ましく、加工基準面がバルク状の構成である場合には、加工し易い触媒物質により加工基準面を形成することが好ましい。
また、CARE加工後の基板表面上には、加工基準面を形成する触媒物質が残存する恐れがある。基板表面上に触媒物質が残存すると、残存した触媒物質に起因する欠陥が生じる可能性がある。よって、基板表面上に残存した触媒物質を除去するために、CARE加工後の基板表面を洗浄する必要がある。その際、基板表面にダメージを与える(平滑性を損なう)洗浄液を用いると、基板表面の平滑性が損なわれる。このため、CARE加工により高平滑性で且つ低欠陥の表面を有する基板を製造するためには、基板表面にダメージを与えない(平滑性を損なわない)洗浄液に溶け易い触媒物質により加工基準面を形成することが好ましい。
加工基準面は、以上のような特性を有していることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2013/084934号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、加工基準面が金属単体で形成される場合、加工基準面には、金属単体の特性しか得られず、機械的耐久性や化学的安定性が不十分である場合がある。機械的耐久性が不十分であると、上述したように、CARE加工中に加工基準面が剥がれ、基板表面にダメージを与える可能性がある。また、加工基準面が剥がれると、基板表面の均一で安定した加工ができなくなる可能性がある。また、化学的安定性が不十分であると、上述したように、CARE加工中に加工基準面が錆び、基板表面の均一で安定した加工ができなくなる可能性がある。また、加工基準面が錆びると、脆くなり、基板表面にダメージを与える可能性がある。
また、加工基準面が結晶性である場合、結晶粒界に起因する表面状態の荒れ(凹凸形状)が加工基準面に生じ、加工基準面の平坦性が失われる。このため、上述したように、基板表面の均一で安定した加工ができなくなる可能性があるという問題がある。また、加工基準面の表面状態の荒れ(凹凸形状)が、基板表面に転写され、基板表面の平滑性が損なわれる可能性があるという問題がある。
【0013】
このため、本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有する基板を安定して製造することができる基板の製造方法、この基板を用いた多層反射膜付き基板の製造方法、この基板又は多層反射膜付き基板を用いたマスクブランクの製造方法、このマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法、及び基板加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0015】
(構成1)酸化物を含む材料からなる主表面を有する基板を準備する基板準備工程と、
触媒物質の加工基準面を前記主表面に接触又は接近させ、前記加工基準面と前記主表面との間に処理流体を介在させた状態で、前記主表面を触媒基準エッチングにより加工する基板加工工程とを含み、
前記触媒物質は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含む合金、並びに、該合金に酸素、窒素、及び炭素のうちの少なくとも一つの成分が含まれた合金化合物からなる群から選ばれた材料を含むことを特徴とする基板の製造方法。
【0016】
(構成2)前記合金化合物は、前記合金の酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化炭化物、窒化炭化物、又は酸化窒化炭化物であることを特徴とする構成1に記載の基板の製造方法。
【0017】
(構成3)酸化物を含む材料からなる主表面を有する基板を準備する基板準備工程と、
触媒物質の加工基準面を前記主表面に接触又は接近させ、前記加工基準面と前記主表面との間に処理流体を介在させた状態で、前記主表面を触媒基準エッチングにより加工する基板加工工程とを含み、
前記触媒物質は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含む合金、該合金に窒素が含まれた合金化合物、並びに、前記金属に窒素が含まれた金属化合物からなる群から選ばれたアモルファス構造の材料を含むことを特徴とする基板の製造方法。
【0018】
(構成4)前記合金化合物は、前記合金の窒化物であることを特徴とする構成3に記載の基板の製造方法。
【0019】
(構成5)前記金属化合物は、前記金属の窒化物であることを特徴とする構成3に記載の基板の製造方法。
【0020】
(構成6)酸化物を含む材料からなる主表面を有する基板を準備する基板準備工程と、
触媒物質の加工基準面を前記主表面に接触又は接近させ、前記加工基準面と前記主表面との間に処理流体を介在させた状態で、前記主表面を触媒基準エッチングにより加工する基板加工工程とを含み、
前記触媒物質は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含む合金に炭素が含まれた合金化合物、並びに、前記金属に炭素が含まれた金属化合物からなる群から選ばれた材料を含むことを特徴とする基板の製造方法。
【0021】
(構成7)前記合金化合物は、前記合金の炭化物、酸化炭化物、窒化炭化物、又は酸化窒化炭化物であることを特徴とする構成6に記載の基板の製造方法。
【0022】
(構成8)前記金属化合物は、前記金属の炭化物、酸化炭化物、窒化炭化物、又は酸化窒化炭化物であることを特徴とする構成6に記載の基板の製造方法。
【0023】
(構成9)前記基板加工工程は、前記触媒面と前記主表面とを相対運動させることにより、前記主表面を触媒基準エッチングにより加工することを特徴とする構成1乃至8のいずれか一に記載の基板の製造方法。
【0024】
(構成10)前記基板準備工程で準備される前記基板の主表面は、0.3nm以下の二乗平均平方根粗さを有することを特徴とする構成1乃至9のいずれか一に記載の基板の製造方法。
【0025】
(構成11)前記基板は、ガラス材料からなることを特徴とする構成1乃至10のいずれか一に記載の基板の製造方法。
【0026】
(構成12)前記処理流体は、前記基板に対して常態では溶解性を示さない溶媒からなることを特徴とする構成1乃至11のいずれか一に記載の基板の製造方法。
【0027】
(構成13)前記処理流体は、純水からなることを特徴とする構成12に記載の基板の製造方法。
【0028】
(構成14)前記基板は、マスクブランク用基板であることを特徴とする構成1乃至13のいずれか一に記載の基板の製造方法。
【0029】
(構成15)構成14に記載の基板の製造方法によって得られた基板の主表面上に、多層反射膜を形成することを特徴とする多層反射膜付き基板の製造方法。
【0030】
(構成16)構成14に記載の基板の製造方法によって得られた基板の主表面上、又は、構成15記載の多層反射膜付き基板の製造方法によって得られた多層反射膜付き基板の多層反射膜上に、転写パターン用薄膜を形成することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【0031】
(構成17)構成16に記載のマスクブランクの製造方法によって得られたマスクブランクの転写パターン用薄膜をパターニングして、転写パターンを形成することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【0032】
(構成18)基板の主表面を触媒基準エッチングにより加工する基板加工装置であって、
酸化物を含む材料からなる主表面を有する基板を支持する基板支持手段と、
触媒物質の加工基準面を有する基板表面創製手段と、
前記加工基準面と前記主表面との間に処理流体を供給する処理流体供給手段と、
前記加工基準面と前記主表面との間に処理流体が介在する状態で、前記加工基準面を前記主表面に接触又は接近させる駆動手段とを備え、
前記触媒物質は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含む合金、並びに、該合金に酸素、窒素、及び炭素のうちの少なくとも一つの成分が含まれた合金化合物からなる群から選ばれた材料を含むことを特徴とする基板加工装置。
【0033】
(構成19)基板の主表面を触媒基準エッチングにより加工する基板加工装置であって、
酸化物を含む材料からなる主表面を有する基板を支持する基板支持手段と、
触媒物質の加工基準面を有する基板表面創製手段と、
前記加工基準面と前記主表面との間に処理流体を供給する処理流体供給手段と、
前記加工基準面と前記主表面との間に処理流体が介在する状態で、前記加工基準面を前記主表面に接触又は接近させる駆動手段とを備え、
前記触媒物質は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含む合金、該合金に窒素が含まれた合金化合物、並びに、前記金属に窒素が含まれた金属化合物からなる群から選ばれたアモルファス構造の材料を含むことを特徴とする基板加工装置。
【0034】
(構成20)基板の主表面を触媒基準エッチングにより加工する基板加工装置であって、
酸化物を含む材料からなる主表面を有する基板を支持する基板支持手段と、
触媒物質の加工基準面を有する基板表面創製手段と、
前記加工基準面と前記基板の主表面との間に処理流体を供給する処理流体供給手段と、
前記加工基準面と前記主表面との間に処理流体が介在する状態で、前記加工基準面を前記主表面に接触又は接近させる駆動手段とを備え、
前記触媒物質は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含む合金に炭素が含まれた合金化合物、並びに、前記金属に炭素が含まれた金属化合物からなる群から選ばれた材料を含むことを特徴とする基板加工装置。
【0035】
(構成21)前記加工基準面と前記主表面とを相対運動させる相対運動手段を備えることを特徴とする構成18乃至20のいずれか一に記載の基板加工装置。
【発明の効果】
【0036】
上述したように、本発明に係る基板の製造方法によれば、触媒物質の加工基準面を基板の主表面に接触又は接近させ、加工基準面と主表面との間に処理流体を介在させた状態で、主表面を触媒基準エッチングにより加工する。その際に、触媒物質として、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含む合金や、この合金に酸素、窒素、及び炭素のうちの少なくとも一つの成分が含まれた合金化合物を用いる。このような合金や合金化合物を用いると、加工基準面の機械的耐久性や化学的安定性を向上させることができる。加工基準面の機械的耐久性が向上すると、CARE加工中に加工基準面が剥がれ、基板の主表面にダメージを与えたり、剥がれた箇所が触媒としての機能を失うという恐れが少なくなる。また、加工基準面の化学的安定性が向上すると、加工基準面がCARE加工中に処理流体により錆び、錆びた箇所が触媒としての機能を失ったり、錆びた箇所が剥がれ、基板の主表面にダメージを与えるという恐れが少なくなる。このため、CARE加工により高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有する基板を安定して製造することができる。
【0037】
また、他の本発明に係る基板の製造方法によれば、触媒物質として、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含むアモルファス構造の合金や、この合金に窒素が含まれたアモルファス構造の合金化合物や、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのような金属に窒素が含まれたアモルファス構造の金属化合物を用いる。このようなアモルファス構造の合金や合金化合物や金属化合物を用いると、加工基準面の平滑性を向上させることができる。加工基準面の平滑性が向上すると、CARE加工中に加工基準面の多くの部分を基板の主表面に接近又は接触させることができる。また、加工基準面の表面形状が、基板の主表面に転写される。このため、CARE加工により高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有する基板を安定して製造することができる。
【0038】
また、さらに他の本発明に係る基板の製造方法によれば、触媒物質として、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含む合金に炭素が含まれた合金化合物や、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのような金属に炭素が含まれた金属化合物を用いる。このような炭素を含む合金化合物や金属化合物を含む加工基準面を用いると、加工基準面の靭性を向上させることができる。加工基準面の靭性が向上すると、加工基準面の耐久性が向上する。このため、CARE加工により高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有する基板を安定して製造することができる。
【0039】
また、本発明に係る多層反射膜付き基板の製造方法によれば、基板要因による特性の悪化を防止することができ、所望の特性をもった多層反射膜付き基板を製造することができる。
【0040】
また、本発明に係るマスクブランクの製造方法によれば、基板要因による特性の悪化を防止することができ、所望の特性をもったマスクブランクを製造することができる。
【0041】
また、本発明に係る転写用マスクの製造方法によれば、基板要因による特性の悪化を防止することができ、所望の特性をもった転写用マスクを製造することができる。
【0042】
また、本発明に係る基板加工装置によれば、酸化物を含む材料からなる主表面を有する基板を支持する基板支持手段と、触媒物質の加工基準面を有する基板表面創製手段と、加工基準面と主表面との間に処理流体を供給する処理流体供給手段と、加工基準面と主表面との間に処理流体が介在する状態で、加工基準面を主表面に接触又は接近させる駆動手段とを備えている。その際に、触媒物質として、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含む合金や、この合金に酸素、窒素、及び炭素のうちの少なくとも一つの成分が含まれた合金化合物を用いる。このため、上述したように、基板の主表面を、CARE加工により高平滑性で且つ低欠陥の状態に安定して加工することができる。
【0043】
また、他の本発明に係る基板加工装置によれば、触媒物質として、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含むアモルファス構造の合金や、この合金に窒素が含まれたアモルファス構造の合金化合物や、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのような金属に窒素が含まれたアモルファス構造の金属化合物を用いる。このため、上述したように、基板の主表面を、CARE加工により高平滑性で且つ低欠陥の状態に安定して加工することができる。
【0044】
また、さらに他の本発明に係る基板加工装置によれば、触媒物質として、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含む合金に炭素が含まれた合金化合物や、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのような金属に炭素が含まれた金属化合物を用いる。このため、上述したように、基板の主表面を、CARE加工により高平滑性で且つ低欠陥の状態に安定して加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】基板の主表面に対して触媒基準エッチングによる加工を施す基板加工装置の構成を示す部分断面図である。
図2】基板の主表面に対して触媒基準エッチングによる加工を施す基板加工装置の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の実施の形態に係る基板の製造方法、この基板を用いた多層反射膜付き基板の製造方法、この基板又は多層反射膜付き基板を用いたマスクブランクの製造方法、このマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法、及び基板加工装置を詳細に説明する。
【0047】
実施の形態1.
実施の形態1では、基板の製造方法及び基板加工装置について説明する。
【0048】
この実施の形態1では、酸化物を含む材料からなる主表面を有する基板を準備する基板準備工程と、触媒物質の加工基準面を基板の主表面に接触又は接近させ、加工基準面と主表面との間に処理流体を介在させた状態で、基板の主表面を触媒基準エッチングにより加工する基板加工工程とにより、基板を製造する。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0049】
1.基板準備工程
基板の製造方法では、先ず、酸化物を含む材料からなる主表面を有する基板を準備する。
【0050】
準備する基板は、例えば、基板全体が酸化物を含む材料からなる基板や、主表面として用いる上面に酸化物を含む材料からなる薄膜が形成された基板や、主表面として用いる上面及び下面の両方に酸化物を含む材料からなる薄膜が形成された基板である。
薄膜が形成された基板は、酸化物を含む材料からなる基板本体の主表面として用いる上面や下面に、酸化物を含む材料からなる薄膜が形成された基板であってもよいし、酸化物を含む材料以外からなる基板本体の主表面として用いる上面や下面に、酸化物を含む材料からなる薄膜が形成された基板であってもよい。
酸化物を含む材料からなる基板や基板本体の材料として、例えば、合成石英ガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、SiO−TiO系ガラス等のガラスや、ガラスセラミックスが挙げられる。また、酸化物を含む材料以外からなる基板本体の材料として、シリコン、カーボン、金属が挙げられる。
薄膜を形成する酸化物として、例えば、ケイ素酸化物、金属酸化物、合金酸化物が挙げられる。具体的には、ケイ素酸化物としては、シリコン酸化物(SiO、x>0)や、金属とシリコンを含む金属シリサイド酸化物(MeSi、Me:金属、x>0、y>0、及びz>0)が挙げられる。また、金属酸化物としては、タンタル酸化物(TaO、x>0)、クロム酸化物(CrO、x>0)、ルテニウム酸化物(RuO、x>0)、チタン酸化物(TiO、x>0)が挙げられる。また、合金酸化物としては、タンタルホウ素酸化物(Ta、x、y、z>0)、タンタルハフニウム酸化物(TaHf、x、y、z>0)、タンタルクロム酸化物(TaCr、x、y、z>0)が挙げられる。このような酸化物を含む材料からなる薄膜は、例えば、蒸着、スパッタリング、電気めっきによって形成することができる。
また、上述した酸化物には、本発明の効果を逸脱しない範囲で、窒素、炭素、水素、フッ素等の元素が含まれていてもよい。
準備する基板は、好ましくは、塑性変形しにくく、高平滑性の主表面が得られやすいガラス基板や、ガラス基板本体の主表面である上面や下面に、シリコン酸化物(SiO、x>0)からなる薄膜が形成された基板である。
【0051】
準備する基板は、マスクブランク用基板であっても、磁気記録媒体用基板であってもよい。マスクブランク用基板は、反射型マスクブランク、バイナリーマスクブランク、位相シフトマスクブランク、ナノインプリント用マスクブランクのいずれの製造に使用するものであってもよい。バイナリーマスクブランクは、遮光膜の材料が、MoSi系、Ta系、Cr系のいずれであってもよい。位相シフトマスクブランクは、ハーフトーン型位相シフトマスクブランク、レベンソン型位相シフトマスクブランク、クロムレス型位相シフトマスクブランクのいずれであってもよい。反射型マスクブランクに使用する基板材料は、低熱膨張性を有する材料である必要がある。このため、EUV露光用の反射型マスクブランクに使用する基板材料は、例えば、SiO−TiO系ガラスが好ましい。また、透過型マスクブランクに使用する基板材料は、使用する露光波長に対して透光性を有する材料である必要がある。このため、ArFエキシマレーザー露光用のバイナリーマスクブランク及び位相シフトマスクブランクに使用する基板材料は、例えば、合成石英ガラスが好ましい。また、磁気記録媒体用基板に使用する基板材料は、耐衝撃性や強度・剛性を高めるために、研磨工程後に化学強化を行う必要がある。このため、磁気ディスク用基板に使用する基板材料は、例えば、ボロシリケートガラスやアルミノシリケートガラスなどの多成分系ガラスが好ましい。
【0052】
準備する基板は、固定砥粒や遊離砥粒などを用いて主表面が研磨された基板であることが好ましい。例えば、所定の平滑性、平坦性を有するように、以下のような加工方法を用いて主表面として用いる上面や下面を研磨しておく。尚、下面を主表面として用いない場合であっても、必要に応じて、所定の平滑性、平坦性を有するように、以下のような加工方法を用いて下面も研磨しておく。ただし、以下の加工方法はすべて行う必要はなく、所定の平滑性、平坦性を有するように、適宜選択して行う。
【0053】
表面粗さを低減するための加工方法として、例えば、酸化セリウムやコロイダルシリカなどの研磨砥粒を用いたポリッシングやラッピングがある。
平坦度を改善するための加工方法として、例えば、磁気粘弾性流体研磨(Magneto Rheological Finishing:MRF)、局所化学機械研磨(Local Chemical Mechanical Polishing:LCMP)、ガスクラスターイオンビームエッチング(Gas Cluster Ion Beam etching:GCIB)、局所プラズマエッチングを用いたドライケミカル平坦化法(Dry Chemical Planarization:DCP)がある。
MRFは、磁性流体に研磨スラリーを混合させた磁性研磨スラリーを、被加工物に高速で接触させるとともに、接触部分の滞留時間をコントロールすることにより、局所的に研磨を行う局所加工方法である。
LCMPは、小径研磨パッド及びコロイダルシリカなどの研磨砥粒を含有する研磨スラリーを用い、小径研磨パッドと被加工物との接触部分の滞留時間をコントロールすることにより、主に被加工物表面の凸部分を研磨加工する局所加工方法である。
GCIBは、常温常圧で気体の反応性物質(ソースガス)を、真空装置内に断熱膨張させつつ噴出させてガスクラスタイオンを生成し、これにより電子照射してイオン化させることにより生成したガスクラスタイオンを、高電界で加速してガスクラスターイオンビームとし、これを被加工物に照射してエッチング加工する局所加工方法である。
DCPは、局所的にプラズマエッチングし、凸度に応じてプラズマエッチング量をコントロールすることにより、局所的にドライエッチングを行う局所加工方法である。
上述した平坦度を改善するための加工方法によって損なわれた表面粗さを改善するために、平坦度を極力維持しつつ、表面粗さを改善する加工方法として、例えば、フロートポリッシング、EEM(Elastic Emission Machining)、ハイドロプレーンポリッシングがある。
【0054】
触媒基準エッチングによる加工時間を短くするため、準備する基板の主表面は、0.3nm以下、より好ましくは0.15nm以下の二乗平均平方根粗さ(Rms)を有することが好ましい。
【0055】
2.基板加工工程
次に、触媒物質の加工基準面を基板の主表面に接触又は接近させ、加工基準面と主表面との間に処理流体を介在させた状態で、主表面を触媒基準エッチングにより加工する。
基板の上面及び下面の両面を主表面として用いる場合には、上面のCARE加工後に下面のCARE加工を行ってもよいし、下面のCARE加工後に上面のCARE加工を行ってもよいし、上面及び下面の両面のCARE加工を同時に行ってもよい。尚、下面を主表面として用いない場合であっても、必要に応じて、下面も触媒基準エッチングにより加工する。主表面として用いない下面にもCARE加工を行う場合には、主表面として用いる上面には欠陥品質の点で高い品質が要求されるため、下面の加工を行った後に、主表面として用いる上面の加工を行う方が好ましい。
【0056】
この場合、先ず、触媒物質からなる加工基準面を、基板の主表面に対向するように配置する。そして、加工基準面と主表面との間に処理流体を供給し、加工基準面と主表面との間に処理流体を介在させた状態で、加工基準面を、主表面に接触又は接近させ、基板に所定の荷重(加工圧力)を加えながら、加工基準面と主表面とを相対運動させる。加工基準面と主表面との間に処理流体を介在させた状態で、加工基準面と主表面とを相対運動させると、加工基準面上に吸着している処理流体中の分子から生成した活性種と主表面が反応して、主表面が加工される。活性種は加工基準面上にのみ生成し、加工基準面付近から離れると失活することから、加工基準面が接触又は接近する主表面以外ではほとんど活性種との反応が起こらない。このようにして、主表面に対して触媒基準エッチングによる加工を施す。触媒基準エッチングによる加工では、研磨剤を用いないため、基板に対するダメージが極めて少なく、新たな欠陥の生成を防止することができる。
【0057】
加工基準面と主表面との相対運動は、加工基準面と主表面とが相対的に移動する運動であれば、特に制限されない。基板を固定し加工基準面を移動する場合、加工基準面を固定し基板を移動する場合、加工基準面と基板の両方を移動する場合のいずれであってもよい。加工基準面が移動する場合、その運動は、基板の主表面に垂直な方向の軸を中心として回転する場合や、基板の主表面と平行な方向に往復運動する場合などである。同様に、基板が移動する場合、その運動は、基板の主表面に垂直な方向の軸を中心として回転する場合や、基板の主表面と平行な方向に往復運動する場合などである。
基板に加える荷重(加工圧力)は、例えば、5〜350hPaである。
触媒基準エッチングによる加工における加工取り代は、例えば、5nm〜100nmである。基板の主表面に当該主表面から突出する突起が存在する場合、加工取り代は、突起の高さより大きい値にすることが好ましい。加工取り代を突起の高さより大きい値にすることにより、CARE加工により突起を除去することができる。
【0058】
加工基準面を形成する触媒物質として、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、及びオスミウム(Os)のうちの少なくとも一つの金属を含む合金や、この合金に酸素(O)、窒素(N)、及び炭素(C)のうちの少なくとも一つの成分が含まれた合金化合物が挙げられる。上述した合金化合物として、例えば、上述した合金の酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化炭化物、窒化炭化物、及び酸化窒化炭化物が挙げられる。このような合金や合金化合物を用いると、加工基準面の機械的耐久性や化学的安定性を向上させることができる。
【0059】
具体的には、クロム(Cr)を含む合金として、クロムチタン(CrTi)、クロムジルコニウム(CrZr)、クロムハフニウム(CrHf)、クロムバナジウム(CrV)、クロムニオブ(CrNb)、クロムタンタル(CrTa)、クロムモリブデン(CrMo)、クロムタングステン(CrW)、クロムマンガン(CrMn)、クロムレニウム(CrRe)、クロム鉄(CrFe)、クロムルテニウム(CrRu)、クロムオスミウム(CrOs)が挙げられる。これらのクロム(Cr)を含む合金の組成比は任意である。
モリブデン(Mo)を含む合金として、モリブデンチタン(MoTi)、モリブデンジルコニウム(MoZr)、モリブデンハフニウム(MoHf)、モリブデンバナジウム(MoV)、モリブデンニオブ(MoNb)、モリブデンタンタル(MoTa)、モリブデンクロム(MoCr)、モリブデンタングステン(MoW)、モリブデン鉄(MoFe)、モリブデンルテニウム(MoRu)、モリブデンオスミウム(MoOs)が挙げられる。これらのモリブデン(Mo)を含む合金の組成比は任意である。
タングステン(W)を含む合金として、タングステンチタン(WTi)、タングステンジルコニウム(WZr)、タングステンハフニウム(WHf)、タングステンバナジウム(WV)、タングステンニオブ(WNb)、タングステンタンタル(WTa)、タングステンクロム(WCr)、タングステンモリブデン(WMo)、タングステン鉄(WFe)、タングステンルテニウム(WRu)、タングステンオスミウム(WOs)が挙げられる。これらのタングステン(W)を含む合金の組成比は任意である。
鉄(Fe)を含む合金として、鉄ニッケル(FeNi)、鉄ニッケルクロム(FeNiCr)、鉄クロム(FeCr)、鉄モリブデン(FeMo)、鉄クロムモリブデン(FeCrMo)、ステンレス鋼(SUS)が挙げられる。CARE加工を行う基板がガラス基板である場合、ステンレス鋼(SUS)として、フェライト系ステンレスやマルテンサイト系ステンレスが好ましい。CARE加工後のガラス基板表面上に残存するフェライト系ステンレスやマルテンサイト系ステンレスは、ガラス基板にダメージを与えない洗浄液に溶けすく、触媒物質に起因する欠陥を低減することができる。フェライト系ステンレスとして、SUS430、SUS434、SUS436が挙げられる。マルテンサイト系ステンレスとして、SUS410、SUS410S、SUS420J1、SUS420J2が挙げられる。これらの鉄(Fe)を含む合金の組成比は任意である。
ルテニウム(Ru)を含む合金として、ルテニウムチタン(RuTi)、ルテニウムジルコニウム(RuZr)、ルテニウムハフニウム(RuHf)、ルテニウムバナジウム(RuV)、ルテニウムニオブ(RuNb)、ルテニウムタンタル(RuTa)、ルテニウムクロム(RuCr)、ルテニウムモリブデン(RuMo)、ルテニウムタングステン(RuW)が挙げられる。これらのルテニウム(Ru)を含む合金の組成比は任意である。
タンタル(Ta)を含む合金として、タンタルチタン(TaTi)、タンタルジルコニウム(TaZr)、タンタルハフニウム(TaHf)、タンタルバナジウム(TaV)、タンタルニオブ(TaNb)、タンタルクロム(TaCr)、タンタルモリブデン(TaMo)、タンタルタングステン(TaW)、タンタル鉄(TaFe)、タンタルルテニウム(TaRu)、タンタルオスミウム(TaOs)が挙げられる。これらのタンタル(Ta)を含む合金の組成比は任意である。
ジルコニウム(Zr)を含む合金として、ジルコニウムチタン(ZrTi)、ジルコニウムハフニウム(ZrHf)、ジルコニウムバナジウム(ZrV)、ジルコニウムニオブ(ZrNb)、ジルコニウムタンタル(ZrTa)、ジルコニウムクロム(ZrCr)、ジルコニウムモリブデン(ZrMo)、ジルコニウムタングステン(ZrW)、ジルコニウム鉄(ZrFe)、ジルコニウムルテニウム(ZrRu)、ジルコニウムオスミウム(ZrOs)が挙げられる。これらのジルコニウム(Zr)を含む合金の組成比は任意である。
尚、上述したチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、及びオスミウム(Os)のうちの少なくとも一つの金属を含む合金、並びに、この合金に酸素(O)、窒素(N)、及び炭素(C)のうちの少なくとも一つの成分が含まれた合金化合物には、本発明の効果を逸脱しない範囲で、上記に挙げた以外の元素(たとえば、周期律表の3族、7族、9族、10族、11族、12族の元素)が含まれていてもよい。
【0060】
また、他の加工基準面を形成する触媒物質として、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、及びオスミウム(Os)のうちの少なくとも一つの金属を含むアモルファス構造の合金や、この合金に窒素(N)が含まれたアモルファス構造の合金化合物や、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、及びオスミウム(Os)のような金属に窒素(N)が含まれたアモルファス構造の金属化合物が挙げられる。上述した合金化合物として、例えば、上述した合金の窒化物が挙げられる。上述した金属化合物として、例えば、上述した金属の窒化物が挙げられる。このようなアモルファス構造の合金や合金化合物や金属化合物を用いると、加工基準面の平坦性を向上させることができる。アモルファス構造の合金や合金化合物や金属化合物は、所定の組成比で得られる。
【0061】
具体的には、クロムチタン(CrTi)、クロムモリブデン(CrMo)、クロムタングステン(CrW)、ルテニウムジルコニウム(RuZr)、ルテニウムチタン(RuTi)、ルテニウムニオブ(RuNb)、及びルテニウムモリブデン(RuMo)のような合金や、これらの合金の窒化物や、クロム窒化物(CrN)及びタンタル窒化物(TaN)のような金属の窒化物が挙げられる。
尚、上述したチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、及びオスミウム(Os)のうちの少なくとも一つの金属を含むアモルファス構造の合金、この合金に窒素(N)が含まれたアモルファス構造の合金化合物、並びに、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、及びオスミウム(Os)のような金属に窒素(N)が含まれたアモルファス構造の金属化合物には、本発明の効果を逸脱しない範囲で、アモルファス構造を維持しつつ、上記に挙げた以外の元素(たとえば、周期律表の3族、7族、9族、10族、11族、12族の元素)が含まれていてもよい。
【0062】
また、さらに他の加工基準面を形成する触媒物質として、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、及びオスミウム(Os)のうちの少なくとも一つの金属を含む合金に炭素(C)が含まれた合金化合物や、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、及びオスミウム(Os)のような金属に炭素(C)が含まれた金属化合物が挙げられる。上述した合金化合物として、例えば、上述した合金の炭化物、酸化炭化物、窒化炭化物、又は酸化窒化炭化物が挙げられる。上述した金属化合物として、例えば、上述した金属の炭化物、酸化炭化物、窒化炭化物、又は酸化窒化炭化物が挙げられる。このような炭素(C)を含む合金化合物や金属化合物を含む加工基準面を用いると、加工基準面の靭性を向上させることができる。
【0063】
具体的には、上述したクロム(Cr)を含む合金として列挙された合金の炭化物、上述したモリブデン(Mo)を含む合金として列挙された合金の炭化物、上述したタングステン(W)を含む合金として列挙された合金の炭化物、上述した鉄(Fe)を含む合金として列挙された合金の炭化物、上述したルテニウム(Ru)を含む合金として列挙された合金の炭化物、上述したタンタル(Ta)を含む合金として列挙された合金の炭化物、上述したジルコニウムを含む合金として列挙された合金の炭化物のような合金の炭化物や、タングステン炭化物(WC)、クロム炭化物(CrC)、及びモリブデン炭化物(MoC)のような金属の炭化物が挙げられる。
尚、上述したチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、及びオスミウム(Os)のうちの少なくとも一つの金属を含む合金に炭素(C)が含まれた合金化合物、並びに、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、及びオスミウム(Os)のような金属に炭素(C)が含まれた金属化合物には、本発明の効果を逸脱しない範囲で、上記に挙げた以外の元素(たとえば、周期律表の3族、7族、9族、10族、11族、12族の元素)が含まれていてもよい。
【0064】
加工基準面の面積は、基板の主表面の面積よりも小さく、例えば、100mm〜10000mmである。加工基準面を小型化することにより、基板加工装置を小型化できる他、高精度の加工を確実に行うことができる。
また、加工基準面の面積は、基板の主表面の面積より大きくても構わない。基板全面を加工できるので加工時間を短縮でき、また、加工基準面のエッジによる傷等の欠陥の発生を抑えることができる。
【0065】
処理流体は、基板に対して常態では溶解性を示さないものであれば、特に制限されない。このような処理流体を使用することにより、基板が処理流体によって溶解せず、不必要な基板の変形を防止することができる。例えば、純水、オゾン水、炭酸水、水素水、低濃度のアルカリ性水溶液、低濃度の酸性水溶液を使用することができる。また、基板が、常態ではハロゲンを含む分子が溶けた溶液によって溶解しない場合には、ハロゲンを含む分子が溶けた溶液を使用することもできる。
【0066】
基板がガラス材料からなる場合、上述した触媒物質を使用し、処理流体として純水を使用することにより、触媒基準エッチングによる加工を行うことができる。上述した触媒物質を使用し、処理流体として純水を使用することにより、加水分解反応が進行すると考えられる。このため、基板がガラス材料からなる場合、コストや加工特性の観点から、上述した触媒物質を使用し、処理流体として純水を使用することが好ましい。
【0067】
図1及び図2は基板の主表面に対して触媒基準エッチングによる加工を施す基板加工装置の一例を示す。図1は基板加工装置の部分断面図であり、図2は基板加工装置の平面図である。尚、これ以降、図1及び図2に示す基板加工装置を用いて、基板Mの主表面として用いる上面M1をCARE加工する場合について説明するが、基板Mの下面M2も主表面として用いる場合には、上面M1と下面M2を入れ替えて、下面M2もCARE加工する。尚、下面M2を主表面として用いない場合であっても、必要に応じて、下面M2もCARE加工する。その場合には、下面M2のCARE加工後に上面M1のCARE加工を行う。
【0068】
基板加工装置1は、酸化物を含む材料からなる主表面を有する基板Mを支持する基板支持手段2と、触媒物質の加工基準面33を有する基板表面創製手段3と、加工基準面33と主表面との間に処理流体を供給する処理流体供給手段4と、加工基準面33と主表面との間に処理流体が介在する状態で、加工基準面33を主表面に接触又は接近させる駆動手段5とを備えている。
【0069】
基板支持手段2は、円筒形のチャンバー6内に配置される。チャンバー6は、後述する相対運動手段7の軸部71をチャンバー6内に配置するために、チャンバー6の底部63の中央に形成された開口部61と、処理流体供給手段4から供給された処理流体を排出するために、チャンバー6の底部63の、開口部61より外周寄りに形成された排出口62とを備えている。図1では、排出口62から処理流体が排出される様子が矢印で示されている。
【0070】
基板支持手段2は、基板Mを支える支持部21と、支持部21を固定する平面部22とを備えている。支持部21は、基板加工装置1を上から見たとき、矩形状であり、基板Mの下面M2周縁の四辺を支える収容部21aを備えている。平面部22は、基板加工装置1を上から見たとき、円形状である。
【0071】
基板表面創製手段3は、触媒定盤31を備えている。触媒定盤31は、後述する相対運動手段7の触媒定盤取付部72に取り付けられている。触媒定盤31は、定盤本体32と、定盤本体を覆うように定盤本体の表面全面に形成される基材(図示せず)と、基板Mと対向する側の基材の表面全面に触媒物質をコーティングすることにより形成される加工基準面33とを備えている。コーティング方法として、例えば、蒸着、スパッタリング、電気めっきが挙げられる。加工基準面が形成される基材の材料は、特に制限されない。例えば、ゴム、光透過性の樹脂、発泡性の樹脂、不織布を使用することができる。触媒定盤の全体形状は、特に制限されない。例えば、円盤、球、円柱、円錐、角錐の外形のものを使用することができる。加工基準面が形成される触媒定盤の部分の表面形状も、特に制限されない。例えば、平面、半球、丸みを帯びた形状のものを使用することができる。
【0072】
処理流体供給手段4は、チャンバー6の外側から支持部21に載置される基板Mの主表面に向かって延在する供給管41と、この供給管41の下端部先端に設けられ、支持部21に載置される基板Mの主表面に向けて処理流体を噴射する噴射ノズル42とを備えている。供給管41は、例えば、チャンバー6の外側に設けられた処理流体貯留タンク(図示せず)及び加圧ポンプ(図示せず)に接続されている。処理流体は、供給管41を通って噴射ノズル42に供給され、噴射ノズル42から支持部21に載置される基板Mの主表面上に供給される。なお、処理流体の供給方法としては、これに限定されるものではなく、触媒定盤31から処理流体を供給してもよい。
【0073】
駆動手段5は、後述する相対運動手段7の触媒定盤取付部72の上端に接続され、チャンバー6の周囲まで、支持部21に載置される基板Mの主表面と平行な方向に延びるアーム部51と、アーム部51のチャンバー6の周囲まで延びた端部を支え、支持部21に載置される基板Mの主表面と垂直な方向に延びる軸部52と、軸部52の下端を支持する土台部53と、チャンバー6の周囲に配置され、土台部53の移動経路を定めるガイド54とを備えている。アーム部51は、その長手方向に移動することができる(図1,2中の両矢印Cを参照)。軸部52は、その長手方向に移動することにより、アーム部51を上下動させることができる(図1中の両矢印Dを参照)。土台部53は、支持部21に載置された基板Mの主表面と垂直な方向の軸を回転中心として所定の角度だけ回転することにより、アーム部51を旋回させることができる(図1,2中の両矢印Eを参照)。ガイド54は、支持部21に載置される基板Mの隣り合う二辺と平行な方向(第1の方向と第2の方向)に配置され、土台部53のL字形の移動経路を形成する。土台部53は、第1の方向のガイド54に沿って移動することにより、アーム部51を第1の方向に移動させ(図2中の両矢印Fを参照)、第2の方向のガイド54に沿って移動することにより、アーム部51を第2の方向に移動させることができる(図2中の両矢印Gを参照)。このようなアーム部51の移動により、支持部21に載置された基板Mの主表面の所定の位置に触媒定盤31を配置することができる。
【0074】
基板加工装置1は、加工基準面33と主表面とを相対運動させる相対運動手段7を備えている。相対運動手段7は、平面部22を支え、開口部61を通ってチャンバー6の外部まで延在する軸部71と、軸部71を回転させる回転駆動手段(図示せず)とを備えている。軸部71は、支持部21に載置される基板Mの主表面と垂直な方向に延在し、回転駆動手段(図示せず)により、支持部21に載置される基板Mの主表面と垂直な方向の軸を回転中心として回転することができる(図1中の矢印Aを参照)。軸部71の回転中心の延長方向に、平面部22の中心と支持部21に載置される基板Mの中心とが位置する。軸部71が回転することにより、軸部71に支えられている平面部22がその中心を回転中心として回転し、さらに、平面部22に固定されている支持部21に載置される基板Mがその中心を回転中心として回転する。また、相対運動手段7は、触媒定盤31が取り付けられる触媒定盤取付部72と、駆動手段5のアーム部51に設けられた回転駆動手段(図示せず)とを備えている。触媒定盤取付部72は、回転駆動手段(図示せず)により、支持部21に載置される基板Mの主表面と垂直な方向の軸を回転中心として回転することができる(図1,2中の矢印Bを参照)。
【0075】
基板加工装置1は、基板Mに加える荷重(加工圧力)を制御する荷重制御手段8を備えている。荷重制御手段8は、触媒定盤取付部72内に設けられ、触媒定盤3に荷重を加えるエアシリンダ81と、エアシリンダ81により触媒定盤31に加えられる荷重を測定し、所定の荷重を超えないようにエアバルブをオン・オフして、エアシリンダ81によって触媒定盤31に加えられる荷重を制御するロードセル82とを備えている。触媒基準エッチングによる加工を行うとき、荷重制御手段8により、基板Mに加える荷重(加工圧力)を制御する。
【0076】
加工取り代を設定どおりに確保するための制御方法としては、例えば、予め別に用意した基板Mに対して、種々の局所加工条件(加工圧力、回転数(触媒定盤、基板)、処理流体の流量)、加工時間と加工取り代との関係を求めておき、所望の加工取り代となる加工条件と加工時間を決定し、当該加工時間を管理することで、加工取り代を制御することができる。これに限定されるものではなく、加工取り代を設定どおりに確保できる方法であれば、種々の方法を選択してもよい。
【0077】
図1及び図2に示す基板加工装置を用いて、触媒基準エッチングによる加工を行う場合、先ず、基板Mを、主表面として用いる上面M1を上側に向けて支持部21に載置して固定する。
その後、アーム部51の長手方向移動(両矢印C)、アーム部51の旋回移動(両矢印E)、アーム部51の第1方向移動(両矢印F)、アーム部51の第2方向移動(両矢印G)により、基板表面創製手段3の加工基準面33を、基板Mの上面M1に対向するように配置する。
その後、軸部71及び触媒定盤取付部72を所定の回転速度で回転させることによって、加工基準面33及び上面M1を所定の回転速度で回転させながら、噴射ノズル42から上面M1上に処理流体を供給し、上面M1と加工基準面33との間に処理流体を介在させる。その状態で、加工基準面33を、アーム部51の上下移動(両矢印D)により、基板Mの上面M1に接触又は接近させる。その際、荷重制御手段8により、基板Mに加えられる荷重が所定の値に制御される。
その後、所定の加工取り代になった時点で、軸部71及び触媒定盤取付部72の回転並びに処理流体の供給を止める。そして、アーム部51の上下移動(両矢印D)により、加工基準面33を、上面M1から所定の距離だけ離す。
【0078】
このような基板準備工程と基板加工工程とにより、基板Mが製造される。
【0079】
この実施の形態1の基板の製造方法によれば、加工基準面を形成する触媒物質として、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含む合金や、この合金に酸素、窒素、及び炭素のうちの少なくとも一つの成分が含まれた合金化合物を用いる場合、加工基準面の機械的耐久性や化学的安定性を向上させることができる。加工基準面の機械的耐久性が向上すると、CARE加工中に加工基準面が剥がれ、基板の主表面にダメージを与えたり、剥がれた箇所が触媒としての機能を失うという恐れが少なくなる。また、加工基準面の化学的安定性が向上すると、加工基準面がCARE加工中に処理流体により錆び、錆びた箇所が触媒としての機能を失ったり、錆びた箇所が剥がれ、基板の主表面にダメージを与えるという恐れが少なくなる。このため、CARE加工により高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有する基板を安定して製造することができる。
【0080】
また、加工基準面を形成する触媒物質として、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含むアモルファス構造の合金や、この合金に窒素が含まれたアモルファス構造の合金化合物や、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのような金属に窒素が含まれたアモルファス構造の金属化合物を用いる場合、加工基準面の平滑性を向上させることができる。加工基準面の平滑性が向上すると、CARE加工中に加工基準面の多くの部分を基板の主表面に接近又は接触させることができる。また、加工基準面の表面形状が、基板の主表面に転写される。このため、CARE加工により高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有する基板を安定して製造することができる。
【0081】
また、加工基準面を形成する触媒物質として、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのうちの少なくとも一つの金属を含む合金に炭素が含まれた合金化合物や、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、及びオスミウムのような金属に炭素が含まれた金属化合物を用いる場合、加工基準面の靭性を向上させることができる。加工基準面の靭性が向上すると、加工基準面の耐久性が向上する。このため、CARE加工により高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有する基板を安定して製造することができる。
【0082】
なお、この実施の形態では、基板Mの主表面上に、基板表面創製手段3の加工基準面33を押し当てるタイプの基板加工装置について本発明を適用したが、基板表面創製手段の加工基準面上に、基板の主表面を押し当てるタイプの基板加工装置にも本発明を適用できる。
また、この実施の形態では、基板の片面を加工するタイプの基板加工装置について本発明を適用したが、基板の両面を同時に加工するタイプの基板加工装置にも本発明を適用できる。この場合、基板支持手段として、基板の側面を保持する部材であるキャリアを使用する。
また、この実施の形態では、チャンバーの外側から基板Mの主表面に向かって処理流体を供給するタイプの基板加工装置について本発明を適用したが、基板表面創製手段に処理流体供給手段を設け、処理流体供給手段から処理流体を供給する場合や、基板支持手段に処理流体供給手段を設け、基板支持手段から処理流体を供給する場合にも本発明を適用できる。また、チャンバーに処理流体を貯め、処理流体中に基板表面創製手段と基板支持手段とを入れた状態で触媒基準エッチングによる加工を行う場合にも本発明を適用できる。
また、この実施の形態では、加工基準面33と主表面の両方を回転させることにより加工基準面33と主表面とを相対運動させるタイプの基板加工装置について本発明を適用したが、それ以外の方法により、加工基準面33と主表面とを相対運動させるタイプの基板加工装置にも本発明を適用できる。
また、この実施の形態では、基板を一枚ごとに加工する枚様式の基板加工装置について本発明を適用したが、複数枚の基板を同時に加工するバッチ式の基板加工装置にも本発明を適用できる。
【0083】
実施の形態2.
実施の形態2では、多層反射膜付き基板の製造方法を説明する。
【0084】
この実施の形態2では、実施の形態1の基板の製造方法で説明した方法により製造した基板Mの主表面上に、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜を形成し、多層反射膜付き基板を製造するか、さらに、この多層反射膜上に保護膜を形成して、多層反射膜付き基板を製造する。
【0085】
この実施の形態2による多層反射膜付き基板の製造方法によれば、実施の形態1の基板の製造方法により得られた基板Mを用いて多層反射膜付き基板を製造するので、基板要因による特性の悪化を防止することができ、所望の特性をもった多層反射膜付き基板を製造することができる。
【0086】
実施の形態3.
実施の形態3では、マスクブランクの製造方法を説明する。
【0087】
この実施の形態3では、実施の形態1の基板の製造方法で説明した方法により製造した基板Mの主表面上に、転写パターン用薄膜としての遮光膜を形成してバイナリーマスクブランクを製造し、又は転写パターン用薄膜としての光半透過膜を形成してハーフトーン型位相シフトマスクブランクを製造し、又は転写パターン用薄膜として光半透過膜、遮光膜を順次形成してハーフトーン型位相シフトマスクブランクを製造する。
【0088】
また、この実施の形態3では、実施の形態2の多層反射膜付き基板の製造方法で説明した方法により製造した多層反射膜付き基板の保護膜上に転写パターン用薄膜としての吸収体膜を形成し、又は多層反射膜付き基板の多層反射膜上に保護膜及び転写パターン用薄膜としての吸収体膜を形成し、さらに多層反射膜を形成していない裏面に裏面導電膜を形成して、反射型マスクブランクを製造する。
【0089】
この実施の形態3によれば、実施の形態1の基板の製造方法により得られた基板M又は実施の形態2の多層反射膜付き基板の製造方法によって得られた多層反射膜付き基板を用いてマスクブランクを製造するので、基板要因による特性の悪化を防止することができ、所望の特性をもったマスクブランクを製造することができる。
【0090】
実施の形態4.
実施の形態4では、転写用マスクの製造方法を説明する。
【0091】
この実施の形態4では、実施の形態3のマスクブランクの製造方法で説明した方法により製造したバイナリーマスクブランク、位相シフトマスクブランク、又は反射型マスクブランクの転写パターン用薄膜上に、露光・現像処理を行ってレジストパターンを形成する。このレジストパターンをマスクにして転写パターン用薄膜をエッチング処理して、転写パターンを形成して転写用マスクを製造する。
【0092】
この実施の形態4によれば、実施の形態3のマスクブランクの製造方法により得られたマスクブランクを用いて転写用マスクを製造するので、基板要因による特性の悪化を防止することができ、所望の特性をもった転写用マスクを製造することができる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。
【0094】
実施例1.
A.ガラス基板の製造
1.基板準備工程
上面及び下面が研磨された6025サイズ(152mm×152mm×6.35mm)のTiO−SiOガラス基板を準備した。なお、TiO−SiOガラス基板は、以下の粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、超精密研磨加工工程、局所加工工程、タッチ研磨工程を経て得られたものである。
【0095】
(1)粗研磨加工工程
端面面取加工及び研削加工を終えたガラス基板を両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で粗研磨を行った。10枚セットを2回行い合計20枚のガラス基板の粗研磨を行った。なお、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨スラリー:酸化セリウム(平均粒径2〜3μm)を含有する水溶液
研磨パッド:硬質ポリシャ(ウレタンパッド)
粗研磨後、ガラス基板に付着した研磨砥粒を除去するため、ガラス基板を洗浄槽に浸漬し、超音波を印加して洗浄を行った。
【0096】
(2)精密研磨加工工程
粗研磨を終えたガラス基板を両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で精密研磨を行った。10枚セットを2回行い合計20枚のガラス基板の精密研磨を行った。なお、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨スラリー:酸化セリウム(平均粒径1μm)を含有する水溶液
研磨パッド:軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
精密研磨後、ガラス基板に付着した研磨砥粒を除去するため、ガラス基板を洗浄槽に浸漬し、超音波を印加して洗浄を行った。
【0097】
(3)超精密研磨加工工程
精密研磨を終えたガラス基板を再び両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で超精密研磨を行った。10枚セットを2回行い合計20枚のガラス基板の超精密研磨を行った。なお、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨スラリー:コロイダルシリカを含有するアルカリ性水溶液(pH10.2)
(コロイダルシリカ含有量50wt%)
研磨パッド:超軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
超精密研磨後、ガラス基板を水酸化ナトリウムのアルカリ洗浄液が入った洗浄槽に浸漬し、超音波を印加して洗浄を行った。
【0098】
(4)局所加工工程
粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、超精密研磨加工工程後のガラス基板の上面及び下面の平坦度を、平坦度測定装置(トロペル社製 UltraFlat200)を用いて測定した。平坦度測定は、ガラス基板の周縁領域を除外した148mm×148mmの領域に対して、1024×1024の地点で行った。ガラス基板の上面及び下面の平坦度の測定結果を、測定点ごとに仮想絶対平面に対する高さの情報(凹凸形状情報)としてコンピュータに保存した。仮想絶対平面は、仮想絶対平面から基板表面までの距離を、平坦度測定領域全体に対して二乗平均したときに最小の値となる面である。
その後、取得された凹凸形状情報とガラス基板に要求される上面及び下面の平坦度の基準値とを比較し、その差分を、ガラス基板の上面及び下面の所定領域ごとにコンピュータで算出した。この差分が、後述する局所的な表面加工における各所定領域の必要除去量(加工取り代)となる。
その後、ガラス基板の上面及び下面の所定領域ごとに、必要除去量に応じた局所的な表面加工の加工条件を設定した。設定方法は以下の通りである。事前にダミー基板を用いて実際の加工と同じようにダミー基板を、一定時間基板移動させずにある地点(スポット)で加工し、その形状を平坦度測定装置(トロペル社製 UltraFlat200)にて測定し、単位時間当たりにおけるスポットでの加工体積を算出した。そして、単位時間当たりにおけるスポットでの加工体積と上述したように算出した各所定領域の必要除去量に従い、ガラス基板をラスタ走査する際の走査スピードを決定した。
その後、ガラス基板の上面及び下面を、基板仕上げ装置を用いて、磁気粘弾性流体研磨(Magneto Rheological Finishing:MRF)により、所定領域ごとに設定した加工条件に従い、局所的に表面加工した。なお、このとき、酸化セリウムの研磨粒子を含有する磁性研磨スラリーを使用した。
その後、ガラス基板を、濃度約10%の塩酸水溶液(温度約25℃)が入った洗浄槽に約10分間浸漬させた。
その後、純水によるリンス、イソプロピルアルコール(IPA)による乾燥を行った。
【0099】
(5)タッチ研磨工程
局所加工工程によって荒れたガラス基板の上面及び下面の平滑性を高めるために、研磨スラリーを用いて行う低荷重の機械的研磨により微小量だけガラス基板の上面及び下面を研磨した。この研磨は、基板の大きさよりも大きい研磨パッドが張り付けられた上下の研磨定盤の間にキャリアで保持されたガラス基板をセットし、コロイダルシリカ砥粒(平均粒子径50nm)を含有する研磨スラリーを供給しながら、ガラス基板を、上下の研磨定盤内で自転しながら公転することによって行った。
その後、ガラス基板を、水酸化ナトリウムのアルカリ洗浄液に浸漬し、超音波を印加して洗浄を行った。
【0100】
2.基板加工工程
次に、図1及び図2に示す基板加工装置を用いて、タッチ研磨工程後のガラス基板の主表面として用いる上面に対して、触媒基準エッチングによる加工を施した。
【0101】
この実施例では、ステンレス鋼(SUS)製の直径50mmの円盤形状の定盤本体32と、定盤本体32を覆うように定盤本体32の表面全面に形成されたウレタンパッドと、ガラス基板と対向する側のウレタンパッドの表面全面に形成されたクロムチタン(CrTi)合金からなる加工基準面33(膜厚100nm)とを備えた触媒定盤31を使用した。加工基準面33は、クロムチタン(CrTi)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガス雰囲気でスパッタリングを行い形成した。クロムチタン(CrTi)合金からなる加工基準面33の結晶構造をX線回折装置(XRD)により測定したところ、アモルファス構造であった。X線光電子分光法(XPS)で分析した加工基準面33の組成は、Cr:60原子%、Ti:40原子%であった。
加工条件は以下の通りである。
処理流体:純水
軸部71の回転数(ガラス基板の回転数):10.3回転/分
触媒定盤取付部72の回転数(触媒定盤31の回転数):10回転/分
加工圧力:50hPa
加工取り代:30nm
【0102】
先ず、ガラス基板を、主表面として用いる上面を上側に向けて支持部21に載置して固定した。
その後、アーム部51の長手方向移動(両矢印C)、アーム部51のスイング移動(両矢印E)、アーム部51の第1方向移動(両矢印F)、アーム部51の第2方向移動(両矢印G)により、触媒定盤31の加工基準面33がガラス基板の上面に対向して配置された状態で、触媒定盤31を配置した。触媒定盤31の配置位置は、ガラス基板及び触媒定盤31を回転させたときに、触媒定盤31の加工基準面33が、ガラス基板の上面全体に接触又は接近することが可能な位置である。
その後、ガラス基板を10.3回転/分の回転速度及び触媒定盤31を10回転/分の回転速度で回転させる。ここで、ガラス基板の回転方向と触媒定盤31の回転方向とが、互いに逆になるようにガラス基板及び触媒定盤31を回転させる。これにより、両者間に周速差をとり、触媒基準エッチングによる加工の効率を高めることができる。また、両者の回転数は、僅かに異なるように設定される。これにより、触媒定盤31の加工基準面33がガラス基板の上面上に対して異なる軌跡を描くように相対運動させることができ、触媒基準エッチングによる加工の効率を高めることができる。
ガラス基板及び触媒定盤31を回転させながら、噴射ノズル42からガラス基板の上面上に純水を供給し、ガラス基板の上面と加工基準面33との間に純水を介在させた。その状態で、触媒定盤41の加工基準面33を、アーム部51の上下移動(両矢印D)により、ガラス基板の上面に接触又は接近させた。その際、ガラス基板に加えられる荷重(加工圧力)が50hPaに制御された。
その後、加工取り代が30nmになった時点で、ガラス基板及び触媒定盤31の回転及び純水の供給を止めた。そして、アーム部51の上下移動(両矢印D)により、触媒定盤31を、ガラス基板の上面から所定の距離だけ離した。
その後、支持部21からガラス基板を取り外した。
【0103】
その後、支持部21から取り外したガラス基板を以下のように洗浄した。先ず、ガラス基板の上面に中性洗剤と水とを供給し、ポリビニルアルコール(PVA)製のブラシによりガラス基板の上面を擦って上面に付着した異物を掻き落とすブラシ洗浄を行った。その後、ブラシ洗浄後のガラス基板の上面に水素水(H濃度:1.2ppm)を供給し、上面に超音波振動(周波数:3MHz)を加え、上面に付着した異物を浮かせて除去するメガソニック洗浄を行った。その後、窒素(N)ガスと炭酸水(電気抵抗率:0.2MΩ・cm)による二流体洗浄を行った。その後、純水によるリンス、乾燥を行った。
このようにして、ガラス基板を作製した。
【0104】
3.評価
触媒基準エッチングによる加工前後のガラス基板の主表面として用いる上面の表面粗さを、基板の中心の1μm×1μmの領域に対して、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。
加工前の上面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.13nmであった。
加工後の上面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.061nmと良好であった。上面の表面粗さは、触媒基準エッチングにより、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.13nmから0.061nmに向上した。また、加工後の上面の表面粗さは、最大高さ(Rmax)で0.519nmと良好であった。また、二乗平均平方根粗さと最大高さとの比(Rmax/RMS)は、8.5と良好であった。
触媒基準エッチングによる加工後のガラス基板の上面の欠陥検査を、基板の周辺領域を除外した132nm×132nmの領域に対して、欠陥検査装置(KLA−Tencor社製 マスク/ブランク欠陥検査装置 Teron610)を用いて行った。欠陥検査は、SEVD(Sphere Equivalent Volume Diameter)換算で21.5nmサイズの欠陥が検出可能な感度で行った。SEVDは、欠陥を半球状のものと仮定したときの直径の長さである。
加工後の上面の欠陥個数は、42個と少なかった。
また、実施例1の方法により、ガラス基板を20枚作製したところ、全数、表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.08nm以下と良好であり、欠陥個数も50個以下と少なかった。
実施例1の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有するガラス基板が安定して得られた。
【0105】
B.多層反射膜付き基板の製造
次に、このようにして作製されたガラス基板の主表面として用いる上面上に、イオンビームスパッタ法により、シリコン膜(Si)からなる高屈折率層(膜厚4.2nm)とモリブデン膜(Mo)からなる低屈折率層(2.8nm)とを交互に、高屈折率層と低屈折率層とを1ペアとし、40ペア積層して、多層反射膜(膜厚280nm)を形成した。
その後、この多層反射膜上に、イオンビームスパッタ法により、ルテニウム(Ru)からなる保護膜(膜厚2.5nm)を形成した。
このようにして、多層反射膜付き基板を作製した。
【0106】
得られた多層反射膜付き基板についてEUV光(波長13.5nm)の反射率をEUV反射率測定装置により測定した。
ガラス基板上面の高い平滑性により、保護膜表面も高い平滑性を保っており、反射率は64%と高反射率であった。
得られた多層反射膜付き基板の保護膜表面の欠陥検査を、ガラス基板の欠陥検査と同様に行った。
加工後の保護膜表面の欠陥個数は、38個と少なかった。
実施例1の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の保護膜表面を有する多層反射膜付き基板が得られた。
【0107】
C.反射型マスクブランクの製造
次に、このようにして作製された多層反射膜付き基板の保護膜上に、ホウ化タンタル(TaB)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N)ガスとの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い、タンタルホウ素窒化物(TaBN)からなる下層吸収体層(膜厚50nm)を形成し、さらに、下層吸収体膜上に、ホウ化タンタル(TaB)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと酸素(O)ガスとの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い、タンタルホウ素酸化物(TaBO)からなる上層吸収体層(膜厚20nm)を形成することにより、下層吸収体層と上層吸収体層とからなる吸収体膜(膜厚70nm)を形成した。
その後、多層反射膜付き基板の多層反射膜を形成していない裏面上に、クロム(Cr)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N)ガスとの混合ガス雰囲気中での反応性スパッタリングにより、クロム窒化物(CrN)からなる裏面導電膜(膜厚20nm)を形成した。
このようにして、高平滑性で且つ低欠陥の表面状態を維持したEUV露光用の反射型マスクブランクを作製した。
【0108】
D.反射型マスクの製造
次に、このようにして作製された反射型マスクブランクの吸収体膜上に、電子線描画(露光)用化学増幅型レジストをスピンコート法により塗布し、加熱及び冷却工程を経て、膜厚が150nmのレジスト膜を形成した。
その後、形成されたレジスト膜に対し、電子線描画装置を用いて所望のパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターンを形成した。
その後、このレジストパターンをマスクにして、吸収体膜のドライエッチングを行って、保護膜上に吸収体膜パターンを形成した。ドライエッチングガスとしては、塩素(Cl)ガスを用いた。
その後、残存するレジストパターンを剥離し、洗浄を行なった。
このようにして、高平滑性で且つ低欠陥の表面状態を維持したEUV露光用の反射型マスクを作製した。
【0109】
実施例2.
この実施例では、ステンレス鋼(SUS)製の直径50mmの円盤形状の定盤本体32と、定盤本体32を覆うように定盤本体32の表面全面に形成されたウレタンパッドと、ガラス基板と対向する側のウレタンパッドの表面全面に形成されたルテニウムニオブ(RuNb)合金からなる加工基準面33(膜厚100nm)とを備えた触媒定盤31を使用した。加工基準面33は、ルテニウムニオブ(RuNb)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中でスパッタリングを行い形成した。ルテニウムニオブ(RuNb)合金からなる加工基準面33の結晶構造をX線回折装置(XRD)により測定したところ、アモルファス構造であった。X線光電子分光法で分析した加工基準面33の組成は、Ru:80原子%、Nb:20原子%であった。
それ以外は、実施例1と同様の方法により、ガラス基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、及び反射型マスクを作製した。
【0110】
実施例1と同様に、触媒基準エッチングによる加工前後のガラス基板の主表面として用いる上面の表面粗さを測定した。
加工前の上面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.13nmであった。
加工後の上面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.043nmと良好であった。上面の表面粗さは、触媒基準エッチングにより、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.13nmから0.043nmに向上した。また、加工後の上面の表面粗さは、最大高さ(Rmax)で0.335nmと良好であった。また、二乗平均平方根粗さと最大高さとの比(Rmax/RMS)は、7.8と良好であった。
また、実施例1と同様に、触媒基準エッチングによる加工後のガラス基板の上面の欠陥検査を行った。
加工後の上面の欠陥個数は、16個と少なかった。
また、実施例2の方法により、ガラス基板を20枚作製したところ、全数、表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.08nm以下と良好であり、欠陥個数も50個以下と少なかった。
実施例2の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有するガラス基板が安定して得られた。
【0111】
実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板についてEUV光(波長13.5nm)の反射率を測定した。
ガラス基板上面の高い平滑性により、保護膜表面も高い平滑性を保っており、反射率は64%と高反射率であった。
また、実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板の保護膜表面の欠陥検査を行った。
加工後の保護膜表面の欠陥個数は、14個と少なかった。
実施例2の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の保護膜表面を有する多層反射膜付き基板が得られた。
また、実施例2の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の表面状態を維持したEUV露光用の反射型マスクブランク及び反射型マスクが得られた。
【0112】
実施例3.
この実施例では、ステンレス鋼(SUS)製の直径50mmの円盤形状の定盤本体32と、定盤本体32を覆うように定盤本体32の表面全面に形成されたウレタンパッドと、ガラス基板と対向する側のウレタンパッドの表面全面に形成されたタンタルハフニウム(TaHf)合金からなる加工基準面33(膜厚100nm)とを備えた触媒定盤31を使用した。加工基準面33は、タンタルハフニウム(TaHf)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中でスパッタリングを行い形成した。タンタルハフニウム(TaHf)合金からなる加工基準面33の結晶構造をX線回折装置(XRD)により測定したところ、アモルファス構造ではなかった。X線光電子分光法で分析した加工基準面33の組成は、Ta:80原子%、Hf:20原子%であった。
それ以外は、実施例1と同様の方法により、ガラス基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、及び反射型マスクを作製した。
【0113】
実施例1と同様に、触媒基準エッチングによる加工前後のガラス基板の主表面として用いる上面の表面粗さを測定した。
加工前の上面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.13nmであった。
加工後の上面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.047nmと良好であった。上面の表面粗さは、触媒基準エッチングにより、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.13nmから0.047nmに向上した。また、加工後の上面の表面粗さは、最大高さ(Rmax)で0.442nmと良好であった。また、二乗平均平方根粗さと最大高さとの比(Rmax/RMS)は、9.4と良好であった。
また、実施例1と同様に、触媒基準エッチングによる加工後のガラス基板の上面の欠陥検査を行った。
加工後の上面の欠陥個数は、22個と少なかった。
また、実施例3の方法により、ガラス基板を20枚作製したところ、全数、表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.08nm以下と良好であり、欠陥個数も50個以下と少なかった。
実施例3の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有するガラス基板が安定して得られた。
【0114】
実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板についてEUV光(波長13.5nm)の反射率を測定した。
ガラス基板上面の高い平滑性により、保護膜表面も高い平滑性を保っており、反射率は64%と高反射率であった。
また、実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板の保護膜表面の欠陥検査を行った。
加工後の保護膜表面の欠陥個数は、19個と少なかった。
実施例3の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の保護膜表面を有する多層反射膜付き基板が得られた。
また、実施例3の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の表面状態を維持したEUV露光用の反射型マスクブランク及び反射型マスクが得られた。
【0115】
実施例4.
この実施例では、ステンレス鋼(SUS)製の直径50mmの円盤形状の定盤本体32と、定盤本体32を覆うように定盤本体32の表面全面に形成されたウレタンパッドと、ガラス基板と対向する側のウレタンパッドの表面全面に形成された鉄ニッケルクロム(FeNiCr)合金からなる加工基準面33(膜厚100nm)とを備えた触媒定盤31を使用した。加工基準面33は、鉄ニッケルクロム(FeNiCr)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中でスパッタリングを行い形成した。鉄ニッケルクロム(FeNiCr)合金からなる加工基準面33の結晶構造をX線回折装置(XRD)により測定したところ、アモルファス構造ではなかった。X線光電子分光法で分析した加工基準面33の組成は、Ni:0.5原子%、Cr:14原子%、Fe:残部であった。
それ以外は、実施例1と同様の方法により、ガラス基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、及び反射型マスクを作製した。
【0116】
実施例1と同様に、触媒基準エッチングによる加工前後のガラス基板の主表面として用いる上面の表面粗さを測定した。
加工前の上面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.13nmであった。
加工後の上面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.060nmと良好であった。上面の表面粗さは、触媒基準エッチングにより、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.13nmから0.060nmに向上した。また、加工後の上面の表面粗さは、最大高さ(Rmax)で0.582nmと良好であった。また、二乗平均平方根粗さと最大高さとの比(Rmax/RMS)は、9.8と良好であった。
また、実施例1と同様に、触媒基準エッチングによる加工後のガラス基板の上面の欠陥検査を行った。
加工後の上面の欠陥個数は、40個と少なかった。
また、実施例4の方法により、ガラス基板を20枚作製したところ、全数、表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.08nm以下と良好であり、欠陥個数も50個以下と少なかった。
実施例4の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有するガラス基板が安定して得られた。
【0117】
実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板についてEUV光(波長13.5nm)の反射率を測定した。
ガラス基板上面の高い平滑性により、保護膜表面も高い平滑性を保っており、反射率は64%と高反射率であった。
また、実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板の保護膜表面の欠陥検査を行った。
加工後の保護膜表面の欠陥個数は、58個と少なかった。
実施例4の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の保護膜表面を有する多層反射膜付き基板が得られた。
また、実施例4の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の表面状態を維持したEUV露光用の反射型マスクブランク及び反射型マスクが得られた。
【0118】
実施例5.
この実施例では、ステンレス鋼(SUS)製の直径50mmの円盤形状の定盤本体32と、定盤本体32を覆うように定盤本体32の表面全面に形成されたウレタンパッドと、ガラス基板と対向する側のウレタンパッドの表面全面に形成されたクロム炭化物(CrC)からなる加工基準面33(膜厚100nm)とを備えた触媒定盤31を使用した。加工基準面33は、クロム(Cr)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスとメタン(CH)ガスとの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い形成した。X線光電子分光法で分析した加工基準面33の組成は、Cr:96原子%、C:4原子%であった。
また、この実施例では、支持部21から取り外したガラス基板を以下のように洗浄した。先ず、ガラス基板を硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むクロムエッチング液が入った洗浄槽に約10分間浸漬させた。その後、ガラス基板の主表面として用いる上面に中性洗剤と水とを供給し、ポリビニルアルコール(PVA)製のブラシによりガラス基板の上面を擦って上面に付着した異物を掻き落とすブラシ洗浄を行った。その後、ブラシ洗浄後のガラス基板の上面に水素水(H濃度:1.2ppm)を供給し、上面に超音波振動(周波数:3MHz)を加え、上面に付着した異物を浮かせて除去するメガソニック洗浄を行った。その後、窒素(N)ガスと炭酸水(電気抵抗率:0.2MΩ・cm)による二流体洗浄を行った。その後、純水によるリンス、乾燥を行った。
それ以外は、実施例1と同様の方法により、ガラス基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、及び反射型マスクを作製した。
【0119】
実施例1と同様に、触媒基準エッチングによる加工前後のガラス基板の主表面として用いる上面の表面粗さを測定した。
加工前の上面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.13nmであった。
加工後の上面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.063nmと良好であった。上面の表面粗さは、触媒基準エッチングにより、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.13nmから0.063nmに向上した。また、加工後の上面の表面粗さは、最大高さ(Rmax)で0.523nmと良好であった。また、二乗平均平方根粗さと最大高さとの比(Rmax/RMS)は、8.3と良好であった。
また、実施例1と同様に、触媒基準エッチングによる加工後のガラス基板の上面の欠陥検査を行った。
加工後の上面の欠陥個数は、14個と少なかった。
また、実施例5の方法により、ガラス基板を20枚作製したところ、全数、表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.08nm以下と良好であり、欠陥個数も50個以下と少なかった。
実施例5の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有するガラス基板が安定して得られた。
【0120】
実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板についてEUV光(波長13.5nm)の反射率を測定した。
ガラス基板主表面の高い平滑性により、保護膜表面も高い平滑性を保っており、反射率は64%と高反射率であった。
また、実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板の保護膜表面の欠陥検査を行った。
加工後の保護膜表面の欠陥個数は、12個と少なかった。
実施例5の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の保護膜表面を有する多層反射膜付き基板が得られた。
また、実施例5の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の表面状態を維持したEUV露光用の反射型マスクブランク及び反射型マスクが得られた。
【0121】
実施例6.
A.ガラス基板の製造
この実施例では、上面及び下面が研磨された6025サイズ(152mm×152mm×6.35mm)の合成石英ガラス基板を準備した。なお、合成石英ガラス基板は、上述の粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、超精密研磨加工工程を経て得られたものである。
それ以外は、実施例1と同様の方法により、ガラス基板を作製した。
【0122】
実施例1と同様に、触媒基準エッチングによる加工前後のガラス基板の主表面として用いる上面の表面粗さを測定した。
加工前の上面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.17nmであった。
加工後の上面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.059nmと良好であった。上面の表面粗さは、触媒基準エッチングにより、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.17nmから0.059nmに向上した。また、加工後の上面の表面粗さは、最大高さ(Rmax)で0.472nmと良好であった。また、二乗平均平方根粗さと最大高さとの比(Rmax/RMS)は、8.0と良好であった。
また、実施例1と同様に、触媒基準エッチングによる加工後のガラス基板の上面の欠陥検査を行った。
加工後の上面の欠陥個数は、37個と少なかった。
また、実施例6の方法により、ガラス基板を20枚作製したところ、全数、表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.08nm以下と良好であり、欠陥個数も50個以下と少なかった。
実施例6の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有するガラス基板が安定して得られた。
【0123】
B.ハーフトーン型位相シフトマスクブランクの製造
次に、このようにして作製されたガラス基板の上面上に、モリブデンシリサイド(MoSi)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N)ガスと酸素(O)ガスとの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い、モリブデンシリサイド酸化窒化物(MoSiON)からなる光半透過膜(膜厚88nm)を形成した。ラザフォード後方散乱分析法で分析した光半透過膜の膜組成は、Mo:5原子%、Si:30原子%、O:39原子%、N:26原子%であった。光半透過膜の露光光に対する透過率は6%であり、露光光が光半透過膜を透過することにより生じる位相差は180度であった。
その後、光半透過膜上に、クロム(Cr)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと二酸化炭素(CO)と窒素(N)ガスとヘリウム(He)ガスとの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリング(DCスパッタリング)を行い、クロム酸化炭化窒化物(CrOCN)層(膜厚30nm)を形成し、さらに、その上に、クロム(Cr)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N)ガスとの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い、クロム窒化物(CrN)層(膜厚4nm)を形成し、クロム酸化炭化窒化物(CrOCN)層とクロム窒化物(CrN)層との積層からなる遮光層を形成した。さらに、この遮光層上に、クロム(Cr)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと二酸化炭素(CO)ガスと窒素(N)ガスとヘリウム(He)ガスとの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い、クロム酸化炭化窒化物(CrOCN)からなる表面反射防止層(膜厚14nm)を形成した。このようにして、遮光層と表面反射防止層とからなる遮光膜を形成した。
このようにして、高平滑で且つ低欠陥の表面状態を維持したArFエキシマレーザー露光用のハーフーン型位相シフトマスクブランクを作製した。
【0124】
C.ハーフトーン型位相シフトマスクの製造
次に、このようにして作製されたハーフトーン型位相シフトマスクブランクの遮光膜上に、電子線描画(露光)用化学増幅型レジストをスピンコート法により塗布し、加熱及び冷却工程を経て、膜厚が150nmのレジスト膜を形成した。
その後、形成されたレジスト膜に対し、電子線描画装置を用いて所望のパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターンを形成した。
その後、このレジストパターンをマスクにして、遮光膜のドライエッチングを行って、光半透過膜上に遮光膜パターンを形成した。ドライエッチングガスとしては、塩素(Cl)ガスと酸素(O)ガスとの混合ガスを用いた。
その後、レジストパターン及び遮光膜パターンをマスクにして、光半透過膜のドライエッチングを行って、光半透過膜パターンを形成した。ドライエッチングガスとしては、六フッ化硫黄(SF)ガスとヘリウム(He)ガスとの混合ガスを用いた。
その後、残存するレジストパターンを剥離し、再度レジスト膜を塗布し、転写領域内の不要な遮光膜パターンを除去するためのパターン露光を行った後、このレジスト膜を現像してレジストパターンを形成した。
その後、ウェットエッチングを行って、不要な遮光膜パターンを除去した。
その後、残存するレジストパターンを剥離し、洗浄を行った。
このようにして、高平滑性で且つ低欠陥の表面状態を維持したArFエキシマレーザー露光用のハーフトーン型位相シフトマスクを作製した。
【0125】
なお、この実施例では、モリブデンシリサイド酸化窒化物(MoSiON)からなる光半透過膜を有するハーフトーン型位相シフトマスクや位相シフトマスクブランクについて本発明を適用したが、モリブデンシリサイド窒化物(MoSiN)からなる光半透過膜を有するハーフトーン型位相シフトマスクや位相シフトマスクブランクについても、本発明を適用できる。また、単層の光半透過膜を有するハーフトーン型位相シフトマスクや位相シフトマスクブランクに限らず、多層構造の光半透過膜を有するハーフトーン型位相シフトマスクや位相シフトマスクブランクについても、本発明を適用できる。また、多層構造の遮光膜を有するハーフトーン型位相シフトマスクや位相シフトマスクブランクに限らず、単層の遮光膜を有するハーフトーン型位相シフトマスクや位相シフトマスクブランクについても、本発明を適用できる。また、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクや位相シフトマスクブランクに限らず、レベンソン型位相シフトマスクブランクや位相シフトマスクブランク、クロムレス型位相シフトマスクブランクや位相シフトマスクブランクについても、本発明を適用できる。
また、この実施例では、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、超精密研磨加工工程を経て得られたガラス基板の主表面に対して、触媒基準エッチングによる加工を施す場合について本発明を適用したが、実施例1で行った局所加工工程およびタッチ研磨工程を経て得られたガラス基板の主表面に対して触媒基準エッチングによる加工を施す場合についても、本発明を適用することができる。
【0126】
比較例1.
この実施例では、ステンレス鋼(SUS)製の直径50mmの円盤形状の定盤本体32と、定盤本体32を覆うように定盤本体32の表面全面に形成されたウレタンパッドと、ガラス基板と対向する側のウレタンパッドの表面全面に形成された鉄(Fe)からなる加工基準面33(膜厚100nm)とを備えた触媒定盤31を使用した。加工基準面33は、ウレタンパッド上に、鉄(Fe)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中でスパッタリングを行い形成した。
それ以外は、実施例1と同様の方法により、ガラス基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、及び反射型マスクを作製した。
【0127】
実施例1と同様に、触媒基準エッチングによる加工前後のガラス基板の主表面として用いる上面の表面粗さを測定した。
加工前の上面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.13nmであった。
加工後の上面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.140nmと不十分であった。上面の表面粗さは、触媒基準エッチングにより、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.13nmから0.140nmに悪化した。また、加工後の上面の表面粗さは、最大高さ(Rmax)で2.954nmと不十分であった。また、二乗平均平方根粗さと最大高さとの比(Rmax/RMS)は、21.1と不十分であった。
また、実施例1と同様に、触媒基準エッチングによる加工後のガラス基板の上面の欠陥検査を行った。
加工後の上面の欠陥個数は、2118個と多かった。
また、比較例1の方法により、ガラス基板を20枚作製したところ、全数、表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.08nm以上と不十分であり、欠陥個数も2000個以上と多かった。
比較例1の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有するガラス基板は得られなかった。
【0128】
実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板についてEUV光(波長13.5nm)の反射率を測定した。
ガラス基板主表面の不十分な平滑性により、保護膜表面の平滑性も不十分であり、反射率は62%と実施例1と比べて2%低下した。
また、実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板の保護膜表面の欠陥検査を行った。
加工後の保護膜表面の欠陥個数は、3089個と多かった。
比較例1の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の保護膜表面を有する多層反射膜付き基板は得られなかった。
また、比較例1の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の表面を有するEUV露光用の反射型マスクブランク及び反射型マスクは得られなかった。
【0129】
なお、上述した実施例では、反射型マスクブランク用基板や位相シフトマスクブランク用基板の主表面に対して、触媒基準エッチングによる加工を施す場合について本発明を適用したが、バイナリーマスクブランクやナノインプリント用マスクブランクの主表面に対して、触媒基準エッチングによる加工を施す場合についても、本発明を適用できる。
また、上述した実施例では、マスクブランク用基板の主表面に対して、触媒基準エッチングによる加工を施す場合について本発明を適用したが、磁気記録媒体用基板の主表面に対して、触媒基準エッチングによる加工を施す場合にも、本発明を適用できる。
【0130】
実施例7.
A.ガラス基板の製造
1.基板準備工程
上面及び下面が研磨された2.5インチサイズ(φ65mm)のアルミノシリケートガラス基板を準備した。なお、アルミノシリケートガラス基板は、以下のプレス成形工程、コアリング工程、チャンファリング工程、端面研磨工程、研削工程、第1研磨(主表面研磨)工程、化学強化工程、第2研磨(最終研磨)工程を経て得られたものである。
【0131】
(1)プレス成形工程(板状のガラスブランクの作製)
板状のガラスブランクの作製では、プレス金型を用いて熔融ガラスをプレス成形することによりガラスブランクを作製する。
プレス成形の工程では、例えば、受けゴブ形成型である下型上に、溶融ガラスからなるガラスゴブ(ガラス塊)が供給され、下型と対向するゴブ形成型である上型とを使用してガラスゴブが挟まれてプレス成形される。これにより、磁気ディスク用ガラス基板の元となる円板状のガラスブランクが成形される。なお、後述するラッピング、研削、第1研磨及び第2研磨における取り代である表面加工量(ラッピング量+研削量+研磨量)を小さくしても、目標とする板厚、例えば0.8mmを確保でき、目標とする表面粗さ、例えば算術平均粗さRaを0.15nm以下とすることができ、しかも、コストの増大を抑制する点から、プレス成形で作製されるガラスブランクの板厚が0.9mm以下となるように、プレス成形することが好ましい。
なお、成形直後の板状のガラスをガラスブランクといい、このガラスブランクを用いて以降の加工処理が施されるとき、この板状のガラスをガラス素板という。
【0132】
(2)コアリング工程
次に、作製された円板状のガラスブランクを磁気ディスク用ガラス基板のガラス素板として用いてコアリングが施される。コアリング工程では、具体的には、円筒状のダイヤモンドドリルを用いて、円板状のガラス素板の中心部に内孔を形成し、円環状のガラス素板をつくる。このとき、ガラス素板を支持台に載せて固定して内孔を形成する。支持台によるガラス素板の支持固定は、支持台の表面に設けられた吸引口を通してガラス素板を吸引することにより行われる。すなわち、プレス成形時の主表面の表面凹凸の状態を有するガラス素板の主表面の一方を支持固定してガラス素板に貫通する穴を開ける。また、支持台にはガラス素板の主表面と接触する部分に弾性部材が設けられ、この弾性部材を用いてガラス素板を支持固定することが、ガラス素板の主表面に傷をつけない点で好ましい。
【0133】
(3)チャンファリング工程
コアリング工程の後、円板状のガラス素板の端部(外周端面及び内周端面)に面取り面を形成するチャンファリング(面取り)工程が行われる。チャンファリング工程では、コアリング工程によって円環状に加工されたガラス素板の外周面および内周面に対して、例えば、ダイヤモンド砥粒を用いた総型砥石等によって面取りが施される。総型砥石とは、複数の砥粒サイズと、ガラス素板をチャンファリングのために当接させる砥石面の傾斜角度が異なる複数の砥石型が用意された研削用工具である。総型砥石は、例えば、特許第3061605号公報に記載の工具が例示される。この総型砥石により、面取りを施しつつ、ガラス素板の直径も所定の大きさ、例えば65mmに揃えられる。ガラス素板の端部には、主表面に対して垂直な面取りされなかった側壁面と、面取りされた面取り面とを有するが、以降では、側壁面及び面取り面を纏めて端面という。
【0134】
(4)端面研磨工程
次に、円環状のガラス素板の端面研磨(エッジポリッシング)が行われる。
端面研磨では、円環状のガラス素板の内周端面及び外周端面をブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、スペーサ等の端面研磨用の治具をガラス素板間に挟んで積層した複数のガラス素板を、研磨ブラシを用いて研磨を行う。さらに、研磨に用いる研磨液は、酸化セリウム等の微粒子を遊離砥粒として含む。端面研磨を行うことにより、ガラス素板の端面での塵等が付着した汚染、ダメージあるいは傷等の損傷の除去を行うことにより、サーマルアスペリティの発生の防止や、NaやK等のコロージョンの原因となるイオン析出の発生を防止することができる。
【0135】
(5)研削工程
両面研削装置を用いて円環状で板状のガラス素板の両側の主表面に対して研削加工を行う。両面研削装置は、両面研磨装置におけるパッドの代わりにダイヤモンド砥粒を分散させたダイヤモンドシート等が用いられる。固定砥粒による研削工程以外に、遊離砥粒を用いた研削工程を行ってもよい。この研削工程は、後述するガラス素板の主表面粗さを低減する研磨(第1研磨及び第2研磨)の前に、平坦度を向上し、板厚を揃え、あるいは、さらに、うねりを低減するために行う。
【0136】
(6)第1研磨(主表面研磨)工程
次に、円環状のガラス素板の主表面に第1研磨が施される。第1研磨は、遊星運動を行う両面研磨装置を用いて遊離砥粒で行われる。研磨剤である遊離砥粒には、粒子サイズ(直径)が略0.5〜2.0μmの酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の微粒子が用いられる。この粒子サイズは、研削工に用いるダイヤモンド砥粒の粒子サイズに比べて小さい。第1研磨は、(5)の研削により主表面に残留した傷、歪みの除去、うねり、微小うねりの調整を目的とする。
【0137】
(7)化学強化工程
次に、第1研磨後の円環状のガラス素板は化学強化される。化学強化液として、例えば硝酸カリウム(60重量%)と硝酸ナトリウム(40重量%)の混合液等を用いることができる。化学強化では、化学強化液が、例えば300℃〜500℃に加熱され、洗浄したガラス素板が、例えば200℃〜300℃に予熱された後、円環状のガラス素板が化学強化液中に、例えば1時間〜4時間浸漬される。この浸漬の際には、円環状のガラス素板の両主表面全体が化学強化されるように、複数の円環状のガラス素板の端部を保持して収納するかご(ホルダ)を用いて行うことが好ましい。
このように、ガラス素板を化学強化液に浸漬することによって、ガラス素板の表層にあるLiイオン及びNaイオンが、化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいNaイオン及びKイオンにそれぞれ置換され、ガラス素板の表面に圧縮層が形成されることにより強化される。なお、化学強化処理された円環状のガラス素板は洗浄される。例えば、硫酸で洗浄された後に、純水等で洗浄される。
【0138】
(8)第2研磨(最終研磨)工程
次に、化学強化されて十分に洗浄されたガラス素板に第2研磨が施される。第2研磨は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨では例えば、第1研磨と同様の構成の研磨装置を用いる。このとき、第1研磨と異なる点は、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが異なることと、パッドの硬度が異なることである。パッドは、発泡ウレタン等のウレタン製研磨パッド、スエードパッド等が用いられる。
第2研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、研磨液に混濁させたシリカからなるコロイダルシリカ等の微粒子(粒子サイズ:直径10〜50nm程度)が用いられる。この微粒子は、第1研磨で用いる遊離砥粒に比べて細かい。コロイダルシリカ等の微粒子が混濁した研磨液(スラリー)には、シリカが例えば0.1〜40質量%、好ましくは、3質量%〜30質量%含むことが、研磨の加工効率を確保し、表面粗さを高める点で好ましい。
研磨されたガラス素板は洗浄される。洗浄では、中性洗浄液あるいはアルカリ性洗浄液を用いた洗浄であることが、洗浄によってガラス表面に傷等の欠陥を形成せず、さらに表面粗さを粗くさせない点で好ましい。これにより、主表面の算術平均粗さRaを0.15nm以下、例えば0.13〜0.15nmとすることができる。中性洗浄液の他に、純水、酸(酸性洗浄液)、IPA等を用いた複数の洗浄処理を施すこともできる。こうして、ガラス素板を洗浄することにより、ガラス基板を準備する。
【0139】
2.基板加工工程
次に、図1及び図2に示す基板加工装置を用いて、第2研磨工程後のガラス基板の主表面として用いる上下面(両面)に対して、触媒基準エッチングによる加工を施した。
この実施例では、実施例2で使用したルテニウムニオブ(RuNb)合金からなる加工基準面33を備えた触媒定盤31を使用した。
加工条件は以下の通りである。
処理流体:純水
軸部71の回転数(ガラス基板の回転数):10.3回転/分
触媒定盤取付部72の回転数(触媒定盤31の回転数):10回転/分
加工圧力:35hPa
加工取り代:25nm
【0140】
3.評価
実施例1と同様に、触媒基準エッチングによる加工前後のガラス基板の主表面の表面粗さを測定した。
加工前の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.12nmであった。
加工後の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.049nmと良好であった。
表面粗さは、触媒基準エッチングにより、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.12nmから0.049nmに向上した。また、加工後の表面粗さは、最大高さ(Rmax)で0.38nmと良好であった。また、二乗平均平方根粗さと最大高さとの比(Rmax/RMS)は、7.8と良好であった。
【0141】
B.磁気記録媒体(磁気ディスク)の製造
次に、このように作製されたガラス基板の両面に、DCマグネトロンスパッタリング法によりArガス雰囲気中で付着層、軟磁性層、下地層、磁気記録層、バリア層、補助記録層を順次、形成した。
付着層は、膜厚20nmのCrTiとした。軟磁性層は、第1軟磁性層、スペーサ層、第2軟磁性層のラミネート構造とした。第1軟磁性層、第2軟磁性層は、膜厚25nmのCoFeTaZrとし、スペーサ層は膜厚1nmのRuとした。下地層は、膜厚5nmのNiWとした。磁気記録層は、第1磁気記録層と第2磁気記録層の積層構造とし、第1磁気記録層は、膜厚10nmのCoCrPt−Cr、第2磁気記録層は、膜厚10nmのCoCrPt−SiO−TiOとした。バリア層は、膜厚0.3nmのRu−WOとした。補助記録層は、膜厚10nmのCoCrPtBとした。
次に、補助記録層上にCVD法により水素化カーボン層(C)及び窒化カーボン層(CN)の膜厚4nmの積層構造からなる保護層を形成し、最後にディップコート法によりパーフルオロポリエーテル(PFPE)からなる膜厚1.3nmの潤滑層を形成してDFHヘッド対応の磁気記録媒体を作製した。
このようにして、ガラス基板の両面に、それぞれ、付着層、軟磁性層(第1軟磁性層、スペーサ層、第2軟磁性層)、下地層、磁気記録層(第1磁気記録層と第2磁気記録層)、バリア層、補助記録層、保護層、及び、潤滑層を順次、形成してなる磁気記録媒体(磁気ディスク)を製造した。
尚、上記付着層をCrTiとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、CoW系、CrW系、CrTa系、CrNb系の材料から選択してもよい。上記軟磁性層の第1軟磁性層、第2軟磁性層をCoFeTaZrとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、CoCrFeBなどの他のCo−Fe系合金、CoTaZrなどのコバルト系合金、[Ni−Fe/Sn]多層構造などのNi−Fe系合金から選択してもよい。上記磁気記録層の第1磁気記録層をCoCrPt−Crとし、第2磁気記録層をCoCrPt−SiO−TiOとしたが、これらに限定されるものではなく、第1磁気記録層及び第2磁気記録層の組成や種類が同じ材料であってもよい。これらの磁気記録層に非磁性領域を形成するための非磁性物質としては、上記のような酸化クロム(CrxOy)、酸化チタンの他、例えば、酸化ケイ素(SiOx)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、酸化鉄(Fe)、酸化ボロン(B)などの酸化物、BNなどの窒化物、Bなどの炭化物、Crなどから選択してもよい。上記バリア層をRu−WOとしたが、これに限定されるものではなく、Ruや上記以外のRu合金から選択してもよい。上記補助記録層をCoCrPtBとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、CoCrPtから選択してもよく、これらに微少量の酸化物を含有させてもよい。
また、軟磁性層と下地層との間に前下地層を形成してもよく、また、下地層と磁気記録層との間に非磁性グラニュラー層を形成してもよい。前下地層の材質としては、例えば、Ni、Cu、Pt、Pd、Zr、Hf、Nb、Taから選択される。非磁性グラニュラー層の組成は、Co系合金からなる非磁性の結晶粒子の間に、非磁性物質を偏析させて粒界を形成することにより、グラニュラー構造とすることができる。
【0142】
C.ロードアンロード(LUL)耐久試験、DFHタッチダウン試験
得られた磁気記録媒体(磁気ディスク)について、その回転数を7200rpmとし、DFHヘッドの浮上量を9〜10nmとするLUL試験を行った。LUL試験の結果、100万回繰り返しても故障を生じることがなかった。なお、通常、LUL耐久試験では、故障なくLUL回数が連続して40万回を超えることが必要とされている。かかるLUL回数の40万回は、通常のHDDの使用環境における10年程度の利用に匹敵する。このようにして、極めて信頼性の高いDFHヘッド対応の磁気記録媒体を作製した。
また、得られた磁気記録媒体(磁気ディスク)について、DFHタッチダウン試験を行った。DFHタッチダウン試験は、得られた磁気記録媒体(磁気ディスク)に対し、DFH機構によってDFHヘッド素子部を徐々に突き出していき、磁気ディスク表面との接触を検知することによって、DFHヘッド素子部と磁気記録媒体が接触した距離を評価する試験である。尚、ヘッドは、320GB/P磁気ディスク(2.5インチサイズ)向けのDFHヘッドを用いた。DFHヘッド素子部の突出しがないときの浮上量を10nmとし、評価半径を22mmとし、磁気ディスクの回転数を5400rpmとした。また、試験時の温度は25℃であり、湿度は60%であった。その結果、DFHヘッド素子部と磁気記録媒体が接触した距離は、1.0nm以下と良好な結果が得られた。
【0143】
上述の構成1乃至13のいずれか一に記載の基板の製造方法によって得られた磁気記録媒体用のガラス基板の主表面は、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.05nm以下、最大高さ(Rmax)で0.5nm以下、二乗平均平方根粗さと最大高さとの比(Rmax/RMS)で8以下の高い平滑性を有する磁気記録媒体用ガラス基板が得られる。
上述の構成1乃至13のいずれか一に記載の基板の製造方法によって得られた基板の主表面上に、磁気記録層を形成する磁気記録媒体の製造方法により、信頼性の高いDFHヘッド対応の磁気記録媒体を得ることができる。
【符号の説明】
【0144】
1 基板加工装置、 2 基板支持手段、 3 基板表面創製手段、 4 処理流体供給手段、 5 駆動手段、 6 チャンバー、 7 相対運動手段、 8 荷重制御手段、 21 支持部、 22 平面部、 22a 収容部、 31 触媒定盤、 32 定盤本体、 33 加工基準面、 41 供給管、 42 噴射ノズル、 51 アーム部、 52 軸部、 53 土台部、 54 ガイド、 61 開口部、 62 排出口、 63 底部、 71 軸、 72 触媒定盤取付部、 81 エアシリンダ、 82 ロードセル、 M 基板、 M1 上面、 M2 下面。
図1
図2