【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
1.PBT-co-OB の合成
1−1.試薬
1,4-ブタンジオール(BD)は脱水剤として硫酸ナトリウムを用いて減圧蒸留後に用いた。テレフタル酸ジメチル(DMT)はメタノールから再結晶したものを用いた。
【0025】
1−2. 7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸(OBCA)の合成
非特許文献1にしたがってOBCAを合成した。
【0026】
1−3.PBT-co-OB の合成
試験管に表1に示した試薬量のDMT、OBCA、BD、チタン酸テトライソプロポキシドを加えた。窒素雰囲気下、160℃で3 時間撹拌した。再度チタン酸テトライソプロポキシドを加えた後、10Pa 以下に減圧し、180℃で7 時間撹拌した。生じた固体をクロロホルム (10 ml)に溶解し綿栓でろ過後、メタノール (150 ml)に注いで再沈殿を行った。生じた生成物を吸引ろ過し、減圧乾燥することでPBT/OBの組成比が異なるPBT-co-OB を得た。
【化2】
【0027】
【表1】
【0028】
2.PBT-co-OB の分析
2−1.核磁気共鳴スペクトル
1H NMRの測定には、ECA-300(日本電子株式会社製)を用いた。
【0029】
2−2. 分子量測定
ゲル濾過クロマトグラフィーによる分子量測定はLC-2000GPC システム(日本分光株式会社)を用いた。カラムはCo-2065 Plus (日本分光株式会社)を用いた。溶媒としてクロロホルムを使用して、流速0.80 mL/min、温度40℃で測定した。検量線の作成には東ソー株式会社製TSK 標準ポリスチレンを使用した。試料 (5 mg)をクロロホルム (1 ml)に溶解し、測定溶液を調製した。調製した溶液を、孔径0.45 μm のフィルターでろ過後、マニュ
アルインジェクションにより測定した。
【0030】
2−3.熱的性質測定
熱重量分析 (TGA)には、TGA-50(株式会社島津製作所)を使用した。容器としてアルミニウム製パンを用い、窒素雰囲気下、10.0 ℃/min の昇温速度で500℃まで加熱した。
示唆走査熱量測定 (DSC)には、DSC-6200 (セイコーインスツル株式会社)を用いた。容器としてアルミニウム製パンを用い、PBT-co-OB では窒素雰囲気下、10.0 ℃/min で室温から270℃まで昇温、1 分間保持後、10.0 ℃/min で-60℃まで降温、1 分間保持後、10.0
℃/min で270℃まで昇温して測定した。
【0031】
2−4. 力学的物性測定
試料を25×25×0.1 mm のステンレス製金型の中央に置き、ポリイミドフィルム (東レ・デュポン株式会社、カプトン)で挟み、1 mm 厚のステンレス板で挟んだ。PBT-co-OBは220℃、PBT は250℃で15 MPa の圧力を加え、1 分間のプレス成型をした。急冷することでフィルムを得た。得られたフィルムを20 (高さ)×2.0 (幅)×0.1 (厚さ) mm に切断し、EZ-Test(島津製作所株式会社製)を用いて、室温下、引張速度10 mm/min、グリップ間距離5
mm (PBT83-co-OB17、PBT63-co-OB37)、10 mm (PBT, PBT36-co-OB64, PBT18-co-OB82, PBT11-co-OB89, PBT2-co-OB98)で引張測定をした。
【0032】
2−5.生物化学的酸素要求量 (BOD)生分解度測定
500 ml 三角フラスコに、土壌 (1 g) を蒸留水 (500 ml) に懸濁させ一晩放置した。ろ液の上澄(100 μl)を植種源としてフラン瓶に加えた。微生物が生育するのに必要な無機塩として表2に示したA 液 (緩衝液) (2 ml)、B 液 (酸化マグネシウム液)、C 液 (酸化カルシウム液)、D 液 (塩化二鉄溶液)をそれぞれ200 μl ずつ加え、全量が200 ml になるように蒸留水でメスアップした。炭素源として各PBT-co-OBを加えた。コントロールとして、炭素源となる試料を加えていないフラン瓶を1 本用意した。二酸化炭素吸収剤として容器に4.0 %のNaOH 水溶液 (1.5 ml)を加え、フラン瓶上部に取り付けた。調整したフラン瓶をBOD TESTER に設置し、スターラーを回転させ、一時間後に消費酸素量の目盛をすべて同じ位置に調整した。25 ℃の暗室下で撹拌を続け、42 日間定期的に消費酸素量 (BOD)を測定した。
【0033】
【表2】
【0034】
2−6.スクリーニング
PBT81-co-OB19 およびPBT3-co-OB97 (0.4 g)をクロロホルム (10 ml)に溶解した。1 %plysurf (2 ml)を蒸留水 (200 ml)に加え、クロロホルム溶液と混ぜ合わせた後、超音波処理することで乳化液を調製した。乳化液中のクロロホルムを室温で一晩撹拌することで除去した。表3に示す組成の試薬を加え、pH 7.0 に調整した。2 %寒天培地を乳化培地に加え、110 ℃で20 分間、オートクレープ滅菌処理をし、シャーレに流すことで固化させた。その後、各種微生物を乳化培地上に画線し、30 ℃で培養した。
【0035】
【表3】
【0036】
3.結果
3−1.PBT-co-OB の重合
PBT-co-OB を合成した結果を表4に示す。各PBT-co-OB の数平均分子量で1〜3 万であった。
各PBT-co-OB のOBCA ユニットとTPA ユニットの組成比は
1H NMR におけるHa プロトンとHg プロトンの積分値比によって求めた。
【0037】
【表4】
【0038】
PBT-co-OBの
1H NMR スペクトルとピーク帰属を
図1に示す。Hg プロトンとして8.10 ppm に、Hb プロトンとして4.88 ppm に、Hh プロトンとして4.43 ppm に、He プロトンとして4.04-4.14 ppm に、Ha プロトンとして2.97 ppm に、Hj プロトンとして1.97 ppm に、Hc プロトンとして1.81 ppm に、Hd プロトンとして1.69ppm に、Hd プロトンとして1.52
ppm にそれぞれピークを観測した。
【0039】
3−2.PBT-co-OB の熱的性質
PBT-co-OB のTGA チャートを
図2に示し、2回目の昇温過程におけるDSC チャートを
図3に示す。また、各パラメーターを表5に示す。TPA(テレフタル酸) ユニットの増加に従い重量減少温度は増加している。これはTPAユニットの熱安定性がPBT-co-OB に付加されたことを示している。
TPA ユニット83%以上である共重合体PBT83-co-OB17 は融点および結晶化に由来する吸熱と発熱ピークが観測された。
【0040】
【表5】
【0041】
3−3.PBT-co-OB の成型加工
各 PBT-co-OB は熱プレス成形によって、透明性があり柔軟な自立性フィルムに成形加工することができた。成形加工したフィルムを用いて引張試験を行った。
【0042】
3−4.PBT-co-OB の力学的性質
力学的性質を評価するために上記で熱プレス成型したPBT-co-OB のフィルムを20×2.0×0.1 mmの大きさに切断して試験片を作製し、万能試験機を用いて引張試験をおこなった。各サンプルの試験片を5 本以上作成し、5 回以上で測定した平均値を実測値とした。各サンプルの引張強度(Tensile strength)、破断伸び(Elongation at breakpoint)、弾性率(Young's modulus)を表6に示す。
引張強度はTPAユニットが少しでも含まれると強度は高められた。破断伸びはTPAユニット36%以下では減少を示すが、TPAユニット63%以上では増大した。特にPBT83-co-OB17 においては顕著に高い値を示した(この値はPBATの2倍以上に相当する。)。PBT100-co-OB0 はもろいフィルムができてしまい、引張試験に用いることは困難であった。
また、表6には示さないが、PBT-co-OBの力学的性質はいずれも非特許文献1に記載されたOB100よりも高いことがわかった。
【0043】
【表6】
【0044】
BOD生分解度試験の結果、PBT含有量が高いPBT83-co-OB17およびPBT含有量が低いPBT18-co-OB82において、いずれも20日後に35%のBOD生分解度を示しており、25日後も生分解が進行していたことから、PBT-co-OBは生分解性プラスチックとして利用可能なことを示している。
【0045】
3−5.クリアゾーン
微生物産生酵素によりPBT-co-OB が加水分解可能かを評価するために、クリアゾーン法を用いて、OB含有量が高いPBT3-co-OB97 およびPBT 含有量が高いPBT83-co-OB17 のスクリーニングを行った。結果を表7に示す。
PBT3-co-OB97 のクリアゾーンは10種の微生物により形成した。分解微生物はすべてBacillus 属であった。一方、PBT83-co-OB17 のクリアゾーンは2種の微生物により形成した。2 つともPBT3-co-OB97 に対してもクリアゾーンを形成しており、分解酵素としては、同じ種類が働いていると推定される。PBT3-co-OB97 分解菌のうち8 種の微生物はPBT83-co-OB17 を分解できなかったが、これは、基質特異性が原因であり、これら8種の微生物はTPA ユニットを認識しにくい、もしくは分解しにくいと考えられる。
いずれにしても、クリアゾーンの結果から、OB 含有量が高いPBT3-co-OB97 およびPBT 含有量が高いPBT83-co-OB17 ともに、環境中微生物産生酵素による加水分解により低分子化が可能であることを示している。
【0046】
【表7】
【0047】
なお、本発明者らは1,4−ブタンジオールの代わりにポリエチレングリコールを使用したPET-co-OBについても合成して評価したが、PET-co-OBは脆い材料であり、成型性が悪かった。また、生分解性も不十分であった。