(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記初期処理工程の開始時に前記(A)成分を循環冷却水に対してリン酸換算で10〜40mg/L添加し、初期処理の対象となる熱交換器の最初の熱負荷開始時に前記(B)成分を有効成分換算で10〜50mg/L添加し、該(B)成分の濃度を初期処理工程完了まで有効成分換算で10〜50mg/Lに維持する請求項1記載の開放循環式冷却水システムの初期処理方法。
【背景技術】
【0002】
開放循環式冷却水システムにおいて、系内の熱交換器の伝熱管や配管の材質として、一般的に鉄系の金属が用いられている。これらの鉄系金属は水と接触すると著しい腐食が発生するため、鉄系金属の腐食を防止するため各種の腐食抑制剤が用いられる。これらの腐食抑制剤は、鉄系金属の表面に薄い防食皮膜を形成することによって腐食を防止する。
【0003】
従来、開放循環式冷却水システムの腐食防止方法として、冷却水にリン酸あるいは縮合リン酸塩を用いることが一般的に知られており、縮合度3〜20の縮合リン酸塩が好ましいとされている(非特許文献1参照)。Farleyもクーリングタワーの腐食抑制に縮合度1〜21の縮合リン酸塩が良好な効果を発揮するとしている(例えば特許文献1参照)。また、縮合リン酸塩やホスホン酸等のリン酸化合物と亜鉛化合物を併用する腐食抑制剤も多用されている。
【0004】
しかし、亜鉛塩等の重金属類やリン酸類は、水生生物への毒性や、湖沼や河川などの富栄養化等への影響が懸念されており、近年ではこれらの物質の排出に対し、厳格な規制が行われるようになった。従って、重金属類を含有しない腐食防止剤として、例えば、縮合リン酸塩(トリポリリン酸ナトリウム)と変性カルボン酸ポリマーを併用した添加剤(特許文献2参照)が提案され、また、重金属類やリン酸類を共に含有しない腐食防止剤として、アルコール性水酸基を有する構造単位およびカルボキシル基を有する構造単位を含有する共重合物を有効成分とすることを特徴とする金属の腐食抑制剤(特許文献3参照)、グリシジルエーテル類あるいはグリシジルエステル類と、α、β−エチレン性不飽和カルボン酸の付加反応生成物と他のビニル系単量体を構成成分とする水溶性共重合体を含有する水処理剤組成物(特許文献4参照)、不飽和カルボン酸系単量体を一定のモル比で次亜リン酸および/または次亜リン酸塩の存在下に重合させて得た重合度5〜100の重合体を必須成分としてなる金属の腐食抑制剤(特許文献5参照)等が提案されている。
【0005】
一方、開放循環式冷却水システムにおいて、システムの運転開始時には、鉄系金属の表面は裸の状態であり、極めて腐食が発生し易い状態となっている。そのため、運転開始時には、腐食が始まる前に速やかに初期防食皮膜を形成させる必要がある。初期防食皮膜を形成させる方法として、通常は、該システムの通常運転時よりも高濃度の腐食抑制剤を添加する方法が実施されている。この様に、システム運転開始時において、通常運転時より高濃度の腐食抑制剤によって短時間で防食皮膜を形成させる方法を初期処理と呼び、一般的には、リン酸化合物と亜鉛化合物の高濃度添加が多用されている。
【0006】
開放循環式の冷却水システムにおいて、運転開始後、プロセスからの熱負荷がかかるまでの期間を常温初期処理工程と称し、また、熱負荷がかかり、循環水水質が該システムの平常運転における規定値まで濃縮される期間を濃縮工程と称し、常温初期処理工程と濃縮工程を併せて初期処理工程と称する。そして、濃縮工程が完了するまでの初期処理工程において実施される防食処理を初期処理に含む。循環水がシステムの平常運転における規定値まで濃縮された時点で濃縮工程を含む初期処理工程が完了し平常処理に移行する。濃縮工程中は熱交換器において、プロセスから熱負荷がかかる為、常温初期処理工程での防食皮膜の形成が不十分であったり、または初期処理自体を行わなかったりした場合、冷却水が接する鉄系金属表面において、腐食が生じ易い。
【0007】
金属の腐食はアノード面で生じるため、アノード抑制を行うことによって、金属表面全体における腐食速度を低下させることが出来るが、初期処理工程での防食皮膜の形成が均一になされていない場合、皮膜の欠損部であるアノードに流れる腐食電流が過大となり、金属内部に向かって孔状に進行する孔食と呼ばれる局部腐食が発生する。システムの運転中、熱交換器に孔食が生じた場合、プロセス側への冷却水へのリーク、またはプロセス側からのリーク等が生じ、システムの運転に多大な影響を与える。そのため、初期処理工程における、防食皮膜の形成は非常に重要である。
【0008】
近年、冷却水システムの効率化や生産調整等により、複数の製造プラントを1個の冷却システムで管理する場合や、システムの運転開始後の熱負荷がかかる時期が熱交換器ごとに大きく異なる場合が多くなり、他の製造プラントの運転中に新たなプラントを接続して初期処理を行うケース、熱交換器全てに熱負荷がかかって初期処理から平常運転における平常処理に移行するまでの期間が長期にわたるケースなどが見られるようになった。これらのケースでは、一つの冷却水システム中に熱負荷がかかっている熱交換器と熱負荷がかかっていない熱交換器が混在し、また、防錆油やミルスケールが表面に付着している新品の熱交チューブ、使用中の熱交チューブであるが開放洗浄によって裸の鉄面が露出した熱交チューブ、更に開放洗浄を行わず通常運転中の熱交チューブ等、熱交チューブの水に接する金属面の表面状態も種々である。
【0009】
このように複雑化した初期処理工程においては防食皮膜の欠損が生じやすいため孔食が発生しやすく、熱交換器の寿命は主に伝熱管が穿孔するまでの期間であるから、熱交換器の防食対策として重要なのは、全体の腐食速度を抑制するよりも孔食速度を抑制することである。しかしながら、従来の初期処理方法では全体の腐食速度を抑制することはできても孔食速度を十分抑制することはできなかった。
【0010】
また、上述のように、特に重金属類を含有しない腐食防止剤に対する要求は初期処理用薬剤についても厳しくなっていることも相まって、従来のリン酸化合物と亜鉛化合物の高濃度添加を基礎とした初期処理方法ではなく、亜鉛化合物を適用しないかあるいはその使用量を削減でき、リン化合物の使用量も低減でき、かつ、孔食に対して効果的な腐食抑制方法が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の対象となる開放循環式冷却水システムは、紙パルプ製造業、自動車工場、半導体製造工業等の各種製造業の冷却水システムや、空調用の冷却水システムを含む。
【0021】
本発明が適用される熱交換器の種類は特に限定されないが、例えばシェルアンドチューブ式多管式熱交換器、二重管式熱交換器、スパイラル式熱交換器、プレート式熱交換器、渦巻管式熱交換器、渦巻板式熱交換器、コイル式熱交換器、ジャケット式熱交換器等が挙げられる。
【0022】
本発明における、循環冷却水に接する熱交換器の鉄系金属表面は熱交換器の伝熱表面、管板、仕切室内面、胴内面、邪魔板等の熱交換器部材と配管表面の水側を指す。
【0023】
本発明における初期処理工程は、運転開始後、プロセスからの熱負荷がかかるまでの常温初期処理工程と、熱負荷がかかり、循環水水質が初期処理対象の開放循環式冷却水システムの平常運転における規定値まで濃縮されるまでの濃縮工程から構成され、通常は濃縮工程終了後に強制ブローを開始して初期処理工程から平常運転による平常処理工程に移行する。初期処理工程において実施される防食処理が初期処理であり、高濃度の腐食抑制剤を用いて、極めて腐食が発生し易い裸の状態の鉄系金属の表面に速やかに初期防食皮膜を形成させ維持する処理である。
【0024】
本発明における平常処理工程は、循環水水質を処理対象開放循環式冷却水システムにおける規定値範囲に維持しながら、平常処理濃度の防食剤を連続添加して防食皮膜を維持する工程であり、この工程において実施される防食処理を平常処理と称する。ここで、処理対象開放循環式冷却水システムにおける循環水水質は主に濃縮度で規定され、冷却水システムの設計者や運転管理者によって予め設定された平常処理工程における濃縮度は、通常は1.5〜20の範囲である。
【0025】
本発明における常温初期処理工程では、熱負荷の無い常温状態で主に初期処理の対象となる熱交換器(以下、「初期処理対象熱交換器」と称する)に防食皮膜を形成する。ここで、初期処理対象熱交換器は、冷却水システムに組み込んで運転を開始する熱交換器であり、例えば、新設した熱交換器、管束や伝熱管等の部材を更新した熱交換器、定期修理や検査のため運転を停止した熱交換器等である。
【0026】
常温初期処理工程におけるシステムの循環冷却水の温度は、通常、0〜40℃に維持するのが好ましいが、より好ましくは10〜30℃の範囲である。この範囲外においては、防食皮膜の形成が不十分となるため、孔食抑制効果は低下する。ここで、循環冷却水の温度は、冷却塔ファンのオンオフ制御や回転数制御、複数以上の冷却塔ファンがある場合は稼働基数の増減、冷却塔バイパス水量の調節等の方法により調整できる。
【0027】
本発明の常温初期処理工程における循環水の水質は、通常、pHは6〜9の範囲であり、Ca硬度は好ましくは0〜200mg−CaCO
3/L、より好ましくは10〜100mg−CaCO
3/Lの範囲である。Ca硬度がこの範囲を超える場合は、常温初期処理工程の前に水を入れ替えて低下させておくことが好ましい。
【0028】
本発明における常温初期処理工程の処理期間は、通常、初期処理対象熱交換器の通水開始時から10時間〜100時間、好ましくは40時間〜80時間実施する。常温初期処理工程の処理期間が100時間を超えても良いが、これ以上の処理期間では防食皮膜の防食性の向上が望めず、また腐食抑制剤の濃度を維持するための使用量が増加するため経済的でない。一方、常温初期処理工程が10時間に満たない場合では、一般的に、防食皮膜の形成が不十分となり、防食性が低下する。
【0029】
本発明における初期処理工程の全期間を通して、通常、循環冷却水の系外への強制ブローは行わず、循環水水質が処理対象開放循環式冷却水システムの平常運転における規定値まで濃縮された時点で強制ブローを開始して平常処理工程に移行するが、該システムの運転や装置上の要請により、やむを得ず初期処理工程期間に循環水のブローを行う場合には、(A)成分及び/又は(B)成分を循環水に追加投入し、それぞれ所定濃度を維持する。
【0030】
また、本発明における初期処理工程の全期間を通して、防食皮膜を形成する鉄系金属表面を流れる循環冷却水の平均流速(流量を流路断面積で割った値)は、通常、0.1〜5m/sの範囲である。
【0031】
孔食は、防食皮膜の形成が均一になされていない場合、皮膜の欠損部であるアノードに流れる腐食電流が過大となり、金属内部に向かって孔状に進行する局部腐食である。冷却水に接する鉄系金属の表面状態が種々である初期処理工程では、防食皮膜の欠損部が生じやすく、特に熱負荷が掛かるとより多くの腐食電流が流れて孔食の危険性が増すので、熱負荷開始後における迅速な防食皮膜の補修が孔食の抑制において重要である。尚、孔食の程度は通常「孔食速度」として測定され、mm/y(=年間の孔食深さ)の単位で表示される。
【0032】
本発明に用いられる(A)成分は、下記の一般式(1)で表される直鎖状の縮合リン酸及び/又はその塩である。
【化1】
(式中、M
1、M
3はそれぞれ独立に水素、アルカリ金属である。M
2は水素、アルカリ金属、又は隣り合う2個がアルカリ土類金属とイオン結合を形成してもよい。nは平均縮合度を示し、3〜100の整数である。)
【0033】
式中のM
1〜M
3に用いられるアルカリ金属、アルカリ土類金属に特に制限はないが、例えば、アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウムが、また、アルカリ土類金属としては、カルシウムが挙げられる。式中におけるnは平均縮合度を示し、通常は3〜100の範囲であり、好ましくは10〜70である。平均縮合度が10未満では、孔食抑制効果が劣る場合があり、また、平均縮合度が70を越える場合は平均縮合度の増加に見合うだけの孔食抑制効果の向上が得られない場合が多い。また、一般式(1)で表される直鎖状縮合リン酸塩と比較して、環状構造や分岐鎖構造を有する縮合リン酸塩は十分な孔食抑制効果を示さない。
【0034】
本発明に用いられる(A)成分の縮合リン酸塩の調製方法は、特に限定されたものではなく、例えば、[Na]:[PO4]のモル比が1.0である高純度のリン酸二水素ナトリウムを白金ルツボに入れて100℃に加熱して脱水した後、更に700〜900℃で1〜24時間加熱して、急冷することにより得られる。[Na]:[PO4]のモル比が0.93〜1.07の範囲を外れていたり、加熱温度が低かったり、加熱時間が短かったり、リン酸二水素ナトリウム中に不純物が多いと縮合度が30以上の直鎖状縮合リン酸塩は製造できない。例えば、加熱温度が170〜210℃では縮合度が2のピロリン酸二水素ナトリウムが主に生成し、加熱温度が500〜600℃では環状構造のトリメタリン酸ナトリウムが主に生成する。また、[Na]:[PO4]のモル比が1.07よりも大きいと、縮合度が30未満の直鎖状縮合リン酸塩が生成し、[Na]:[PO4]のモル比が0.93未満では分岐鎖構造を有する縮合リン酸塩が生成する。
【0035】
本発明に用いられる(B)成分のアクリル酸
及びマレイン酸を構成単位として含み、次亜リン酸及び/又は次亜リン酸塩の存在下に重合させて得る有機リン酸含有共重合体は、スケール抑制剤及び腐食抑制剤として知られており(特開昭63−114986号公報参照)、その構成は、アクリル酸とマレイン酸以外に他の不飽和モノマーを構成単位とすることもできるが、その構成割合は共重合体全体の20重量%以下である。
【0036】
(B)成分における他の不飽和モノマーとしては、例えば、メタクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸等のモノエチレン性不飽和カルボン酸;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−アルコキシメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のN−アルキル置換あるいは非置換のアクリルアミド又はメタクリルアミド;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸シクロヘキシル、アルコキシポリエチレングリコールアクリレート等のアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールアクリレート等のヒドロキシ置換アルキルアクリレート又はメタクリレート;アリルグリコ−ル、3−アリロキシ−1,2−プロパンジオール、ポリエチレングリコールアリルエーテル、ポリプロピレングリコールアリルエーテル等のヒドロキシ置換アリルエーテル;マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸エチル等のマレイン酸モノエステルあるいはジエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸エチル等のイタコン酸モノエステルあるいはジエステル;エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ヘキセン、2−エチルヘキセン、ペンテン、イソペンテン、オクテン、イソオクテン等の炭素数2〜8のオレフィン;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルアルキルエーテル;ビニルアルコール、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン、スチレン等が挙げられる。
【0037】
(B)成分において、(次亜リン酸及び/又は次亜リン酸塩)対(アクリル酸とマレイン酸の合計)のモル比は1:1〜1:10の範囲であることが好ましく、より好ましくは1:2〜1:5の範囲である。次亜リン酸に対する不飽和カルボン酸モノマー成分の反応モル比がこの値より大きくなると、共重合体自身がカルシウム塩として析出しやすくなる。一方、次亜リン酸に対する不飽和カルボン酸モノマー成分の反応モル比がこの値より小さくなると、孔食抑制効果ならびに炭酸カルシウムに対するスケール防止効果が低下する。
【0038】
(B)成分におけるマレイン酸対アクリル酸のモル比は1:0.5〜1:9であることが好ましいが、より好ましくは1:1〜1:4の範囲である。(B)成分におけるアクリル酸の比率が多くなると、炭酸カルシウムに対するスケール防止効果が低下する。一方、マレイン酸の比率が多くなると共重合体自身がカルシウム塩として析出しやすくなる。
【0039】
本発明に用いられる(B)成分の共重合体は、マレイン酸及び/又はその塩とアクリル酸及び/又はその塩と、必要により他の不飽和モノマーからなるモノマー混合液と次亜リン酸及び/又はその塩とを、ラジカル重合開始剤の存在下で加熱反応させて得られる。この製造方法の具体例は特公平6−47113号公報、特公平1−41706号公報、特開昭63−114986号公報に開示されているが、より好ましい製造方法は特公平6−47113号公報に示された方法である。
【0040】
本発明に用いられる(B)成分の共重合体の重合時に用いられる重合開始剤に特に制限はないが、例えば過酸化水素、過硫酸ソーダ、ブチルヒドロパーオキシド等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩等のアゾ化合物があげられる。また、該共重合体の反応溶媒としては水が最も好ましいが、アルコール類、ケトン類、ジオキサン等の有機溶媒を用いることもできる。該共重合体製造における重合反応の加熱温度は、大気圧または加圧下で80〜120℃の範囲であることが好ましく、また、好ましい重合反応時間は1〜10時間である。
【0041】
本発明に用いられる(B)成分の共重合体は、次亜リン酸断片が重合体の末端ないし中央に結合したものを含む。該共重合体の末端に結合したホスフィン酸基の一部は、そのままの形態で使用してもよいが、過剰の開始剤を加えてホスホン酸基に転換することもできる。
【0042】
本発明に用いられる(B)成分の共重合体は、次亜リン酸又はその塩と、不飽和モノマー成分との反応モル比によって分子量が大きく変わる。すなわち、次亜リン酸成分は連鎖移動剤として作用しているため、この成分の割合が増加すると該共重合体の分子量は小さくなる。該共重合体(B)の重量平均分子量は300〜2000の範囲であることが好ましいが、より好ましくは500〜1500の範囲である。重量平均分子量がこの値より小さくなると、孔食抑制効果ならびに炭酸カルシウムに対するスケール防止効果が低下する。また、重量平均分子量がこの値より大きくなると、該共重合体自身がカルシウム塩として析出しやすくなる。金属表面に該共重合体のカルシウム塩が析出すると、伝熱障害が発生するだけでなく、析出物の下で酸素濃淡電池生成による隙間腐食が発生しやすくなる。
【0043】
本発明に用いられる(B)成分の共重合体は、炭酸カルシウムに対するスケール防止効果だけでなく、硫酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、シリカ、水酸化鉄等に対するスケール防止効果を示す。
【0044】
本発明の初期処理方法は、初期処理工程において、循環冷却水に(A)成分と(B)成分を添加することを特徴とし、亜鉛化合物を使用せず、リン化合物の使用量も低減でき、特に冷却水に接する鉄系金属に対する十分な孔食抑制効果を有する。
【0045】
その実施態様は二つの態様に大別され、第一の態様は、初期処理対象熱交換器の通水前に(A)成分を循環冷却水に添加して通水を開始し、初期処理対象熱交換器の熱負荷開始直前に(B)成分を循環冷却水に添加する方法である。この方法では、(A)成分の添加は初回の一回のみであるが、(B)成分は初期処理工程終了時まで所定濃度を維持するよう必要に応じて追加添加する。この態様は、通常の処理期間の常温初期処理工程を実施できる場合に適用する。
【0046】
第二の態様は初期処理対象熱交換器の通水前に(A)成分と(B)成分を循環冷却水に添加し、通水を開始する方法である。この方法でも、(A)成分の添加は初回の一回のみであるが、(B)成分は初期処理工程終了時まで所定濃度を維持するよう必要に応じて追加添加する。この態様は、通常の処理期間の常温初期処理工程にも実施できるが、初期処理開始とほぼ同時に初期処理対象熱交換器に熱負荷が掛かり、通常の処理期間の常温初期処理工程を実施できない場合や運転中であって既に熱負荷が掛かっている熱交換器群を接続して初期処理を開始する場合などに適用されるのが好ましい。
【0047】
尚、いずれの態様においても、初期処理工程期間内に強制ブローが実施された場合は、そのブローによって排出された(A)成分及び/又は(B)成分の相当量を循環冷却水に追加添加する。第一の態様の常温初期処理工程中に強制ブローが実施された場合は、(A)成分の排出相当量を循環冷却水に追加添加し、濃縮工程中に強制ブローが実施された場合は、(B)成分の排出相当量を循環冷却水に追加添加するのが通常である。また、常温初期処理工程がほとんど無い第二の態様では、通常、(A)成分及び(B)成分の排出相当量を循環冷却水に追加添加する。
【0048】
第一の態様及び第二の態様共に、(A)成分の添加量は循環冷却水量に対して、PO
4換算濃度として、通常は、5〜80mg/L、好ましくは10〜40mg/Lであり、このPO
4濃度は従来の初期処理方法として多用されているリン酸化合物と亜鉛化合物の高濃度添加方法に比べて、1/2以下のPO
4濃度であり、本発明の初期処理方法では、従来技術に比べてリン化合物の大幅な使用量低減が可能となる。
【0049】
(A)成分は上述の通り一回のみの添加であるので、通常は薬剤容器から開放循環式冷却水システムのピットに直接ポンプで一括投入する。尚、初期処理工程の途中で初期処理対象熱交換器を有する他の開放循環式冷却水システムを組み入れる場合は、組み入れの直前に、組み入れ後の循環冷却水量に対して、リン酸濃度として、通常は、5〜80mg/L、好ましくは10〜40mg/Lになるように(A)成分を追加添加する。
【0050】
第一の態様及び第二の態様共に、(B)成分の添加量は孔食抑制ならびにスケール防止効果を示すのに十分な濃度を添加すべきであるが、通常、循環冷却水中の(B)成分濃度は有効成分換算で5〜100mg/Lであり、好ましい濃度は10〜50mg/Lである。(B)成分は(A)成分と同様に一括投入して所定の濃度とした後、初期処理工程終了時点までその濃度を維持する。濃度維持のためには循環冷却水中の(B)成分濃度を測定し、濃度低下分を間欠添加又は連続添加するが、薬注ポンプによる連続添加が好ましい。
【0051】
(A)成分及び(B)成分共に、上述の濃度範囲未満では防食皮膜の形成と維持が十分に行われず、孔食抑制効果が低下する場合がある。また、(A)成分及び(B)成分共に、上述の濃度範囲を越える場合はスケール発生の可能性が高まり、好ましくない。
【0052】
循環水中の(A)成分の濃度は、循環冷却水中の加水分解性リン濃度を測定し(A)成分中のリン含有量に換算して求める。循環冷却水中の(B)成分の濃度は、循環冷却水中の全リン濃度と加水分解性リン濃度を測定した上で、全リン濃度から加水分解性リン濃度を差し引いた値である有機リン濃度を(B)成分中のリン含有量に換算して求める。全リン濃度及び加水分解性リン濃度は、例えばJIS K0101:1998「工業用水試験方法」記載の方法により測定できる。
【0053】
本発明の初期処理方法は、初期処理工程において、循環冷却水に(A)成分と(B)成分を添加することにより、(A)成分又は(B)成分の単独添加に比べて、特に冷却水に接する鉄系金属の孔食に対する相乗的な抑制効果が得られるが、その作用機構は解明されていない。実施例等の結果から推測すると、(A)成分は強力な防食皮膜の形成能力を有しているが、高温条件下ではスケール化し易く、形成された防食皮膜の補修が十分でないところ、(B)成分のスケール防止能力によって高温条件下での(A)成分のスケール化を抑制しつつ、その被膜形成能力によって防食皮膜の迅速な補修が行われ、その両成分の共同作用による相乗効果により効果的な孔食抑制効果が得られていると思われる。
【0054】
本発明において、(A)成分と(B)成分に加えて、熱交換器の熱負荷開始時にスルホン酸基含有ポリマーを添加することによって、リン酸カルシウムや水酸化亜鉛等がスケールとして析出することを防止することができる。該スルホン酸基含有ポリマーがアクリル酸とスルホン酸系モノエチレン性不飽和単量体との共重合体であれば、スケール防止効果が大きく、また比較的安価であるため、好ましい。
【0055】
本発明における(C)成分である、アクリル酸とスルホン酸系モノエチレン性不飽和単量体との共重合体におけるスルホン酸系モノエチレン性不飽和単量体の例としては、2−(メタ)アクリルアミド−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アリロキシ−ヒドロキシプロパンスルホン酸、共役ジエンスルホン化物、スチレンスルホン酸、スルホアルキル(メタ)アクリレートエステル類、スルホアルキル(メタ)アリルエーテル類、スルホフェノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリルスルホン酸等が挙げられる。特に、(C)成分として好ましい共重合体はアクリル酸と2−アクリルアミド−メチルプロパンスルホン酸であり、該共重合体を(C)成分として用いることで、初期処理工程中におけるスケール防止効果を極めて高くすることができる。
【0056】
(C)成分の添加量は、通常、循環冷却水に対して有効成分換算で10〜200mg/L、好ましくは20〜100mg/Lの範囲である。この範囲未満では、スケール防止効果が不十分になり、また、200mg/Lを超えると防食性の良い初期防食皮膜を形成することが出来ず、本発明の効果を十分に得ることができない場合がある。
【0057】
(C)成分としてのアクリル酸とスルホン酸系モノエチレン性不飽和単量体との共重合体におけるアクリル酸とスルホン酸系モノエチレン性不飽和単量体のモル比は、98:2〜60:40、好ましくは90:10〜70:30の範囲である。また、該共重合体(C)の重量平均分子量は、1000〜25000、好ましくは3000〜20000の範囲である。該共重合体における単量体のモル比や重量平均分子量が上述の範囲外の場合は本発明の効果を十分に得ることができない場合がある。
【0058】
(C)成分は本発明における初期処理工程における常温初期処理工程においても併用することが可能である。(C)成分を常温初期処理工程において添加する場合は、循環冷却水に対して有効成分換算で1〜50mg/L、好ましくは2〜20mg/Lの範囲で使用することが望ましく、この範囲以外では(C)成分併用によるスケール防止効果が十分に発揮できない場合がある。
【0059】
また、本発明では、常温処理工程の開始時において、亜鉛塩を添加することにより、孔食抑制効果を向上させることができる。使用可能な亜鉛塩の種類に特に制限は無く、酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等が使用可能であり、添加濃度は開放循環式冷却水システム内の循環冷却水に対して亜鉛換算で1〜30mg/L、好ましくは5〜20mg/Lの範囲である。
【0060】
また、常温初期処理工程において、本発明とともに少量のオルトリン酸を併用することが好ましい。オルトリン酸としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウムなどが使用できる。オルトリン酸を併用することにより孔食抑制効果を更に向上させることができる。オルトリン酸の添加濃度は開放循環式冷却水システム内の循環冷却水に対して通常はリン酸換算で1〜15mg/L、好ましくは2〜8mg/Lの範囲である。
【0061】
本発明において、規定濃縮度まで濃縮され初期処理工程が終了した後に、防食皮膜を維持するための平常処理工程を行うが、平常処理工程で使用する金属腐食抑制およびスケール防止剤には特に制限は無く、一般に市販されている冷却水処理剤が使用可能である。
【0062】
その他、初期処理工程において運転に障害となる発泡が見られた場合は消泡剤が使用でき、一般的にはポリグリコール系消泡剤が好ましい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。また、特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0064】
試験装置ならびに試験方法はJIS G0593−2002『水処理剤の腐食及びスケール防止評価試験方法』のオンサイト試験法に準拠した。
【0065】
(試験装置)
図1に示した試験装置を使用した。冷却水は水槽2に保有され、循環ポンプ3によって循環水として熱交換器7に送出される。その循環水量は流量計6によって計測され、流量調整バルブ5によって適正に調整される。熱交換器7において熱交換し昇温した循環水は、試験片保持器8を通過後、冷却塔1によって冷却され、水槽2に戻る。循環水の戻り水温は、水温制御装置9による冷却塔1のファン稼働の調整によって適正に維持される。一方、電気伝導率測定セル4によって測定された冷却水の電気伝導率の信号は電気伝導率制御装置11に入力され、その信号に基づいて予め設定された冷却水の電気伝導率範囲に収まるようにブローダウンポンプ10を稼働させる。ブロー開始に伴う水槽2の水位の低下に対応して補給水12が水槽2に供給され、その結果、冷却水の濃縮度が所定の範囲に維持される。また、ブロー開始と同時に水処理剤注入装置13を稼働させ、冷却水系の水処理剤濃度を適正に維持する。
【0066】
1.孔食抑制の効果評価試験
本発明の初期処理方法の孔食抑制効果を以下の試験方法によって評価した。この試験は初期処理工程と平常処理工程から構成され、更に、初期処理工程は、第一の態様では常温初期処理工程と濃縮工程から成り、第二の態様では濃縮工程のみから成っている。試験の全期間は1か月である。
【0067】
(常温初期処理工程の試験条件)
(1)熱交換器7に装着する試験用伝熱管
外径12.7mm、長さ510mmの炭素鋼鋼管STKM11A(JIS G3445)と外径19.0mm、長さ600mmの熱交換器用炭素鋼鋼管STB340(JIS G3461)を使用した。STKM11Aの伝熱管は、JIS G0593−2002に準拠した二重管式熱交換器の内管(伝熱管)とし、管内にカートリッジヒーターを挿入し、管外に冷却水を通水した。二重管式熱交換器の外管はガラス管として、試験中の伝熱管の腐食やスケールの状況を目視により観察可能とした。また、STB340の伝熱管は冷却水を管内に通水し、管外を電気ヒーターブロックにより覆った。
(2)水槽2及び配管を含む系全体の保有水量:62L
(3)循環水量:210L/h(試験用伝熱管評価部の線流速0.3m/sに相当)
【0068】
(常温初期処理工程の試験方法)
補給水12として四日市市水を使用した。四日市市水の水質はpH:7、電気伝導率:13mS/m、Ca硬度:40mg−CaCO
3/L、Mg硬度:8mg−CaCO
3/L、Mアルカリ度:40mg−CaCO
3/L、塩化物イオン:10mg/L、硫酸イオン:11mg/L、シリカ:12mg/Lである。
水槽2にこの補給水を張り込み、そこに、表2、3の常温初期処理工程欄に表示された薬剤を保有水量に対して表示の有効成分濃度になるように添加し、循環ポンプ3を起動して通水循環を開始し、常温で上記の常温初期処理工程の試験条件にて強制ブローを行わず48時間循環する。
【0069】
(濃縮工程試験条件)
(1)熱交換器7に装着する試験用伝熱管の加熱
STKM11Aの伝熱管は、管内に挿入したカートリッジヒーターを加熱し、また、STB340の伝熱管は管外の電気ヒーターブロックを加熱する。
(2)熱交換器7の熱流束:70kW/m
2
(3)冷却塔1の冷却能力:1.8冷却トン(誘引通風向流接触型)
(4)全熱負荷が掛かった時の循環水の戻り水温(=水槽2の水温):35℃
(5)全熱負荷が掛かった時の熱交換器7出口の循環水水温:50℃(最高スキン温度:91℃)
(6)全熱負荷が掛かった時の冷却塔入口・出口の循環水の温度差:15℃
(7)全熱負荷が掛かった時の蒸発水量:4.4L/h
【0070】
(濃縮工程試験方法)
(a)第一の態様
常温初期処理工程が有る場合(第一の態様)は常温初期処理工程終了後に上記の濃縮工程試験条件記載の通り熱交換器7を加熱して熱負荷をかける。全熱負荷が短時間でかかる場合と、熱負荷が段階的に順次かかる場合があるが、全熱負荷が掛かった時の試験条件は上記の濃縮工程試験条件の(4)〜(7)に示した。
表2、3の濃縮処理工程欄に表示された薬剤を保有水量に対して表示の有効成分濃度になるように最初の熱負荷がかかる直前に添加し、(B)成分については濃縮工程終了時まで表示有効成分濃度を維持する。その他の薬剤は表2、3の濃縮処理工程欄の表示に従う。強制ブローは行わず濃縮度5倍まで濃縮する。
(b)第二の態様
常温初期処理工程が無い場合(第二の態様)は水槽2に上記水質の補給水12を張り込み、そこに、表4、5の初期処理工程欄に表示された薬剤を保有水量に対して表示の有効成分濃度になるように添加し、上記の常温初期処理工程試験条件にて循環ポンプ3を起動して通水循環を開始し、ほぼ同時に上記の濃縮工程試験条件記載の通り熱交換器7を加熱して熱負荷をかける。全熱負荷が短時間でかかる場合と、熱負荷が段階的に順次かかる場合があるが、全熱負荷が掛かった時の試験条件は上記の濃縮工程試験条件の(4)〜(7)に示した。比較例17,25以外の例では、(A)成分は初期処理開始時に1回添加するのみである。(B)成分については濃縮工程終了時まで表示有効成分濃度を維持する。その他の薬剤は4、5の初期処理工程欄の表示に従う。強制ブローは行わず濃縮度5倍まで濃縮する。
【0071】
(平常処理工程試験方法)
濃縮度5倍まで濃縮した時点から強制ブローを開始し濃縮度5倍を維持する。同時に濃縮工程で添加した薬剤の濃度維持添加を中止するとともに、平常処理剤としてブロー量に対して後述のポリマレイン酸を有効成分濃度として13mg/L、後述のAA−AMPSを有効成分濃度として12mg/Lを連続添加する。この条件では、強制ブローと飛散ブローを併せた全ブローが1.1L/hとなり、補給水量は5.5L/hとなる。
【0072】
(孔食抑制効果評価方法)
試験終了後、試験用伝熱管を取り外して、腐食速度(mdd)と孔食速度(mm/y)を測定し、その結果に基づいて腐食抑制効果を評価する。
(a)腐食速度(mdd)
取り外したSTKM11Aの試験用伝熱管について、「JIS G0593−2002:水処理剤の腐食及びスケール防止評価試験方法」の、6.1のb)項に規定された次式の腐食度の算出方法によって、腐食速度を求める。
W=(Ma−Mc)/(S・T)
ここで W:腐食速度(mdd)(=腐食度(mg/dm
2・day))
Ma:試験前質量(mg)
Mc:付着物除去後質量(mg)
S:表面積(dm
2)
T:全試験期間(day)
(b)孔食速度(mm/y)
取り外したSTB340の試験用伝熱管を縦割りし、水側表面の付着物を除去した後、水側表面に発生した全ての孔食部分の孔食深さを、マイクロデプスゲージを用いて計測する。また、取り外したSTKM11Aの試験用伝熱管の水側表面の付着物を除去した後、水側表面に発生した全ての孔食部分の孔食深さを、マイクロデプスゲージを用いて計測する。計測値の中で最も深い孔食深さ、即ち、最大孔食深さの値を用いて、次式によって孔食速度を求める。次式は、孔食速度において、孔食深さが経過時間の1/3乗に比例して進行すると仮定している。
P=(Dm)/(T/365)
1/3
ここで P:孔食速度(mm/y)
Dm:最大孔食深さ(mm)
T:全試験期間(day)
【0073】
(供試薬剤)
(1)(A)成分:平均縮合度(n)13の縮合リン酸ナトリウム(略号:PP)
上述の縮合リン酸塩の調製方法に準じて製造した。(有効成分濃度はPO
4換算で表示)
(2)(B)成分:アクリル酸(略号:AA)、マレイン酸(略号:MA)を構成単位として含み、次亜リン酸及び/又は次亜リン酸塩の存在下に重合させて得る有機リン酸含有共重合体
下記の表1に示された、構成単位の比率が異なる9種を下記の合成方法にて製造した。
(略号:AA−MA−P−1〜AA−MA−P−9)(有効成分濃度はポリマー固形分換算で表示)
(3)(C)成分:40%アクリル酸(略号:AA)と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(略号:AMPS)との共重合体(平均分子量10000、AA/AMPS重合モル比:80/20)(略号:AA−AMPS)。特開平11−181479号公報記載の方法に準じて製造した。(有効成分濃度はポリマー固形分換算で表示)
(4)リン酸(試薬、関東化学(株)製)(有効成分濃度はPO
4換算で表示)
(5)塩化亜鉛(試薬、関東化学(株)製)(有効成分濃度は亜鉛換算で表示)
(6)ポリマレイン酸(平均分子量500):「BELCLENE200LA」(商品名、BWA社製)(有効成分濃度はポリマー固形分換算で表示)
(7)ポリアクリル酸:「アロンT−50」(商品名、東亜合成(株)製)(有効成分濃度はポリマー固形分換算で表示)
(8)アクリル酸と次亜リン酸の共重合体(略号:AA−P):「BELCLENE500」(商品名、BWA社製)(有効成分濃度はポリマー固形分換算で表示)
(9)1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(略号:HEDP):「キレストPH−210」(商品名、キレスト(株)製)(有効成分濃度はPO
4換算で表示)
(10)2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(略号:PBTC):「キレストPH―430」(商品名、キレスト(株)製)(有効成分濃度はPO
4換算で表示)
【0074】
(AA−MA−Pの合成方法)
無水マレイン酸19.6g、水73.6gを加え、これに50%水酸化ナトリウム水溶液36.8gを徐々に添加して無水マレイン酸を溶解し、これにさらに次亜リン酸ナトリウム1水塩21.2gを加えた。この溶液のpHは14以上であった。窒素を流しつつ溶液を80℃に加熱した後、31%濃度の過酸化水素水3gを水20gで溶解した溶液とアクリル酸28.8gをそれぞれ1.5時間かけて滴下した。滴下後さらに80℃で2.5時間加熱を続けた。この反応液のpHは4.6であった。イオンクロマト法により残存モノマー濃度を測定したところモノマーの反応率はほぼ100% であった。この反応液の1%水溶液1mLに、トリエチルアミン10μL、3000ppm塩化第2水銀水溶液200μL、エタノール1mLを加えて110℃で20分間加熱し、未反応の次亜リン酸をリン酸ジメチルエステルに変化させ、表1に示す(B)成分のAA−MA−P−1を得た。
【0075】
ここで、AA−MA−P−1合成系における次亜リン酸の有機リン酸への転化率は、JIS K0101:1998「工業用水試験方法」のリンの分別測定によって計算できる。即ち、未反応の次亜リン酸は加水分解性リンとして測定でき、合成反応に関与せず次亜リン酸からオルトリン酸に変化した部分はリン酸イオンとして測定でき、また、合成された有機リン酸含有共重合体を含め、合成系内の全てのリンは全リンとして測定できる。これらのリンの分別測定値に基づいて、次式によりAA−MA−P−1合成系における次亜リン酸の有機リン酸への転化率を計算したところ97%であった。
有機リン酸の転化率(%)={(TP)−(IP)−(OP)}/(TP)×100
ここで TP:全リン
IP:加水分解性リン
OP:リン酸イオン
【0076】
以下、同様の方法により表1に示すアクリル酸とマレイン酸と次亜リン酸の共重合体AA−MA−P−2〜AA−MA−P−9を合成した。これらの合成系における有機リン酸への転化率は全て90%以上であった。
【0077】
【表1】
【0078】
2.孔食抑制効果の評価試験結果
孔食抑制効果の評価試験結果を表2〜5に示した。表2は第一の態様であって全熱負荷が短時間でかかった場合、表3は第一の態様であって熱負荷が段階的に順次かかった場合、表4は第二の態様であって全熱負荷が短時間でかかった場合、表5は第二の態様であって熱負荷が段階的に順次かかった場合のそれぞれの孔食抑制効果の評価試験結果を示している。尚、全熱負荷が短時間でかかった場合は、STB340の試験用伝熱管と全てのSTKM11Aの試験用伝熱管の孔食深さの計測値から最大孔食深さを選択して孔食速度を算出した。一方、熱負荷が段階的に順次かかった場合は、最初の熱負荷は熱交換器7のSTB340試験用伝熱管とSTKM11A試験用伝熱管の1基の計2基にかかり、以後、残りの4基のSTKM11A試験用伝熱管に対して最初の熱負開始後1日に1基ずつ4日間かけて順次熱負荷がかかったため、表3と表5では、最初の熱負開始後1日目〜4日目に熱負荷がかかった各1基のSTKM11A試験用伝熱管の孔食深さの計測値から最大孔食深さを選択して孔食速度を算出した。表2と表4の結果より腐食速度と孔食速度の相関は認められなかったので、表3と表5では孔食速度のみを評価した。
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
例えば、表2の実施例1と比較例1、2の結果を比較することにより、本発明における(A)成分と(B)成分の相乗的な孔食抑制効果が明らかになった。また、実施例と従来一般的に実施されている初期処理方法である比較例3の結果を比較すると、腐食速度(mdd)は共に5mdd以下であるが、孔食速度(mm/y)は、実施例では0.4mm/y以下であるのに対し、比較例3では0.5mm/y以上であって、両者には明確な差異が認められ、本発明の、鉄系金属の孔食に対する優れた抑制効果が明らかになった。そして、複雑化した初期処理工程を模した表3〜表5の結果においても、表2で明らかにされた本発明の効果が同様に示されている。
【0084】
常温初期処理工程において1回添加された薬剤は濃縮され、平常処理工程に移行した時点で開始される強制ブローによって外部環境に排出されるが、例えば、表2の実施例1と従来一般的に実施されている初期処理方法である比較例3の常温初期処理工程での亜鉛添加量とリン酸添加量を比べると、実施例1では亜鉛化合物を使用せず、また、リン酸添加量においては(実施例1)/(比較例3)=25/70=0.36であって、大幅なリン化合物の使用量の削減が可能であることが示された。そして、複雑化した初期処理工程を模した表3〜表5の結果においても、表2で示されたこの結果が同様に示されている。