(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記底壁部は、前記回転部材が前記第2回転方向に回転することにより掻き上げられる潤滑油の飛散方向前側から飛散方向後側に向かうに伴い上り傾斜となる上り傾斜部を有しており、
前記貫通孔は、前記上り傾斜部に形成されるよう構成されている
請求項1または2に記載のオイルガータ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したオイルガータでは、ファイナルドリブンギヤの回転方向が逆転した場合には、ファイナルドリブンギヤによって掻き上げられた潤滑油を捕集することができなくなるため、ファイナルドリブンギヤの回転方向が逆転した場合における潤滑油の捕集という点において、なお改良の余地がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、潤滑油を掻き上げる回転部材の回転方向に関わらず十分な潤滑油を捕集可能なオイルガータおよびこれを備える変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のオイルガータおよびこれを備える変速機は、上述の目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明に係るオイルガータの好ましい形態によれば、回転部材が第1回転方向に回転することにより掻き上げられる潤滑油を導入可能な導入流路部を備えるオイルガータが構成される。導入流路部は、掻き上げられる潤滑油の飛散方向に沿う方向に延在するように構成された底壁部を備えている。当該底壁部は、回転部材の外周面側を向くように構成された下面と、回転部材の外周面とは反対側を向き導入流路部に導入された潤滑油を下流に向けて流すように構成された上面と、を有している。また、底壁部には、上面から下面まで貫通する貫通孔が設けられている。そして、下面には、回転部材が第1回転方向とは逆方向となる第2回転方向に回転することにより掻き上げられる潤滑油を貫通孔へ誘導すると共に、飛散方向を反転して貫通孔から上面に導入するように構成された誘導反転部が設けられている。
なお、誘導反転部は、導入流路部の底壁部の下面から回転部材の外周面に向かって突出するように構成された第1および第2突条部を有している。また、第1および第2突条部は、回転部材が第2回転方向に回転することにより掻き上げられる潤滑油の飛散方向前側から飛散方向後側に向かうに伴い互いに漸次近づき、飛散方向後側の端部において互いに接続された平面視略V字状またはU字状に構成されている。そして、貫通孔は、第1および第2突条部によって挟まれた領域内であって、第1および第2突条部の接続部近傍に配置されるように構成されている。
【0009】
本発明における「飛散方向」とは、典型的には、回転部材の回転軸に垂直な方向が該当し、例えば、回転部材の接線方向がこれに該当する。なお、「回転部材の回転軸に垂直な方向」とは、回転部材の回転軸の方向ベクトルに対して内積が0となる方向ベクトルを有する方向が該当する。
【0010】
また、本発明における「回転部材が第1回転方向に回転する」とは、回転部材が時計回り、あるいは、反時計回りに回転する態様が該当し、「第1回転方向」が時計回りの場合には「第2回転方向」は反時計回りと規定され、逆に、「第1回転方向」が反時計回りの場合には「第2回転方向」は時計回りと規定される。
【0011】
さらに、本発明における「下流に向けて流す」とは、導入流路部を流れる潤滑油を、当該導入流路部のうち掻き上げられた潤滑油が導入される側とは反対側に向かって流す態様が該当する。
【0012】
本発明によれば、回転部材が第1回転方向に回転する際には、回転部材によって掻き上げられる潤滑油を導入流路部の底壁部の上面に導入し、回転部材が第2回転方向に回転する際には、回転部材によって掻き上げられる潤滑油を下面に設けた誘導反転部によって飛散方向を反転した上で貫通孔を介して底壁部の上面に導入する構成であるため、回転部材の回転方向に関わらず、十分な量の潤滑油を捕集することができる。
また、回転部材が第2回転方向に回転することにより掻き上げられる潤滑油の飛散方向後側において第1および第2突条部を接続することにより第1および第2突条部を平面視略V字状またはU字状に構成し、当該V字またはU字の内側領域であってV字またはU字の頂点または頂部近傍に貫通孔を配置する構成であるため、簡易な構成でありながら飛散する潤滑油を効果的に貫通孔に誘導することができると共に、潤滑油の飛散方向を反転することができる。
【0015】
本発明に係るオイルガータの更なる形態によれば、貫通孔は、底壁部のうち導入流路部の延在方向に向かって左側端部または右側端部に配置されるよう構成されている。
【0016】
本形態によれば、回転部材が第1回転方向に回転することにより掻き上げられ導入流路部に導入されて底壁部の上面を下流に向けて流れる潤滑油の主流が、貫通孔による影響を受け難い構成であるため、潤滑油の捕集効率の低下を抑制することができる。
【0017】
本発明に係るオイルガータの更なる形態によれば、底壁部は、回転部材が第2回転方向に回転することにより掻き上げられる潤滑油の飛散方向前側から飛散方向後側に向かうに伴い上り傾斜となる上り傾斜部を有している。そして、貫通孔は、当該上り傾斜部に形成されるように構成されている。
【0018】
本形態によれば、貫通孔が上り傾斜部に形成される構成であるため、誘導反転部によって飛散方向が反転された潤滑油が貫通孔から底壁部の上面側に導入され易くなる。これにより、回転部材が第2回転方向に回転する場合において、効率的に潤滑油を捕集することができる。
【0019】
本発明に係るオイルガータの更なる形態によれば、上面には、当該上面を下流に向けて流れる潤滑油の貫通孔からの流出を防止する防止壁が設けられている。
【0020】
本形態によれば、底壁部の上面を下流に向けて流れる潤滑油が貫通孔から流出することを防止することができる。これにより、潤滑油の捕集効率の低下をさらに抑制することができる。また、誘導反転部に加えて防止壁によっても、回転部材が第2回転方向に回転することにより掻き上げられ飛散する潤滑油の飛散方向を反転することができるため、回転部材が第2回転方向に回転する際の潤滑油の捕集効率を向上することができる。
【0021】
本発明に係るオイルガータの更なる形態によれば、貫通孔は、導入流路部の延在方向に沿う方向に長手方向を有している。防止壁は、導入流路部の延在方向に対して交差する方向に延在する第1壁部と、当該第1壁部に連続するとともに導入流路部の延在方向に沿う方向に延在する第2壁部と、を備えている。そして、第2壁部は、貫通孔の長手方向の略中央部まで延在するよう構成されている。
【0022】
本形態によれば、貫通孔の長手方向の略中央部に亘って第2壁部が延在する構成であるため、底壁部の上面を下流に向けて流れる潤滑油が貫通孔から流出することを効果的に防止することができる。これにより、防止壁を備える態様のオイルガータにおける潤滑油の捕集効率の低下をさらに抑制することができる。
【0023】
本発明に係る変速機の好ましい形態によれば、入力軸と、出力軸と、変速機構と、ディファレンシャル機構と、上述したいずれかの態様の本発明に係るオイルガータと、ケースと、を備える変速機が構成される。変速機構は、変更可能なギヤ比をもって入力軸の回転を出力軸に伝達するように構成されている。ディファレンシャル機構は、出力軸に伝達された回転を車軸に伝達するように構成されている。また、ディファレンシャル機構は、リングギヤを有している。ケースは、入力軸,出力軸,変速機構,ディファレンシャル機構およびオイルガータを収容するように構成されている。そして、当該変速機は、リングギヤが掻き上げた潤滑油をオイルガータで捕集して、捕集した潤滑油を変速機構に供給するよう構成されている。本発明における「変速機構」は、典型的には、駆動歯車、当該駆動歯車と噛合う被駆動歯車およびシンクロ機構がこれに該当する。
【0024】
本発明によれば、上述したいずれかの態様の本発明に係るオイルガータを備えるから、本発明のオイルガータが奏する効果と同様の効果、例えば、潤滑油を掻き上げる回転部材の回転方向に関わらず十分な潤滑油を捕集することができる効果などを奏することができる。
【0025】
本発明に係る変速機の更なる形態によれば、オイルガータは、貫通孔が底壁部のうち導入流路部の延在方向に向かって左側端部または右側端部に配置されるように構成されいる。そして、リングギヤは、第2回転方向に回転した際に掻き上げた潤滑油を貫通孔に向かわせる方向のねじれ方向を有するはすば歯車として構成されている。
【0026】
本形態によれば、リングギヤが第2回転方向に回転した際の潤滑油を効果的に貫通孔に向かわせることができため、リングギヤの回転方向に関わらず十分な潤滑油を捕集することができる。なお、リングギヤが第1回転方向に回転した際には、掻き上げられた潤滑油は貫通孔とは反対方向に向かうことになるため、オイルガータの上面に導入されて下流に向けて流れる潤滑油の貫通孔からの流出を抑制することができる。これにより、潤滑油の捕集効率の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、潤滑油を掻き上げる回転部材の回転方向に関わらず十分な潤滑油を捕集することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【0030】
本実施の形態に係るオイルガータ20を備える変速機1は、
図1に示すように、入力軸2と、主軸4と、入力軸2の回転を変速を伴って主軸4に伝達する変速機構6と、主軸4の回転を車軸(図示せず)に伝達するディファレンシャル機構8と、本実施形態に係るオイルガータ20と、これらを収容する変速機ケース10と、を備えている。変速機1は、エンジンが横置き(車両の左右方向)に配置される所謂フロントエンジン・フロントドライブ(FF)式の車両に搭載されるFF車用の手動変速機として構成されている。
【0031】
入力軸2は、図示しないベアリングによって変速機ケース10に回転可能に支持されており、先端部(
図1における右側部分)には、図示しないクラッチがスプライン嵌合などにより取り付けられる。入力軸2は、クラッチを介してエンジン(図示せず)からの動力が入力されるように構成されている。
【0032】
主軸4は、入力軸2に平行に配置されており、図示しないベアリングによって変速機ケース10に回転可能に支持されている。主軸4は、本発明における「出力軸」に対応する実施構成の一例である。
【0033】
変速機構6は、
図1に示すように、入力軸2に固定的ないし回転自在に配置された複数の駆動歯車Gと、主軸4に固定的ないし回転自在に配置された複数の被駆動歯車G’と、リバースアイドラ機構16と、複数のシンクロ機構Sと、を備えている。
【0034】
駆動歯車Gのうち1速,2速駆動歯車G1,G2およびリバース駆動歯車GRは入力軸2に対して固定的に配置されており、3速,4速,5速および6速駆動歯車G3,G4,G5,G6は入力軸2に対して回転自在に配置されている。
【0035】
被駆動歯車G’のうち1速および2速被駆動歯車G’1,G’2は主軸4に対して回転自在に配置されており、3速,4速,5速,6速被駆動歯車G’3,G’4,G’5,G’6およびリバース被駆動歯車G’Rは主軸4に対して固定的に配置されている。1速,2速,3速,4速,5速および6速被駆動歯車G’1,G’2,G’3,G’4,G’5,G’6は、それぞれ1速,2速,3速,4速,5速および6速駆動歯車G1,G2,G3,G4,G5,G6と噛み合うように構成されている。
【0036】
リバースアイドラ機構16は、
図1に示すように、入力軸2および主軸4に平行に配置されたリバースアイドラ軸17と、リバースアイドラ軸17に回転自在に配置された第1および第2リバースアイドラ歯車18,19と、第1および第2リバースアイドラ歯車18,19間に配置されたシンクロ機構SRと、を備えており、入力軸2の回転を反転して後述するリングギヤ9に伝達する反転機構として構成されている。
【0037】
シンクロ機構Sは、3速駆動歯車と4速駆動歯車との間(S34)、5速駆動歯車と6速駆動歯車との間(S56)および1速被駆動歯車と2速被駆動歯車との間(S12)、第1および第2リバースアイドラ歯車18,19の間(SR)にそれぞれ配置されている。シンクロ機構Sは、図示は省略するが、シンクロハブと、カップリングスリーブと、シンクロナイザリングと、クラッチギヤと、を備えている。
【0038】
ディファレンシャル機構8は、図示しない左右の車輪に生ずる速度差(回転数差)を吸収しつつ動力を分配して伝達するように構成されており、大径のリングギヤ9を備えている。リングギヤ9は、主軸4に固定的に取り付けられた図示しない出力ギヤと噛み合っている。また、リングギヤ9は、右ねじれとなるはすば歯車として構成されている。即ち、リングギヤ9は、回転軸線を鉛直方向に向けて正面から見た場合に、歯筋が回転軸線に対して右上がりの傾斜を有している。リングギヤ9は、本発明における「回転部材」に対応する実施構成の一例である。
【0039】
変速機ケース10は、
図1に示すように、入力軸2や主軸4、変速機構6およびオイルガータ20を収容するように構成されたケース本体12と、クラッチ(図示せず)およびディファレンシャル機構8を収容するように構成されたクラッチハウジング14と、を備えている。変速機ケース10は、本発明における「ケース」に対応する実施構成の一例である。
【0040】
クラッチハウジング14は、
図2に示すように、入力軸2や主軸4を回転可能に支持する図示しないベアリングを取り付けるための取付部14aが形成されていると共に、オイルガータ20を設置するための設置部14bが形成されている。設置部14bは、
図2に示すように、クラッチハウジング14のうちディファレンシャル機構8を収容する部分の上方、即ち、リングギヤ9の上部に対応する位置に形成されている。
【0041】
オイルガータ20は、
図4ないし
図6に示すように、導入部30と、流路部60とを備えており、平面視略鉤状に構成されている。オイルガータ20は、
図1に示すように、長手方向長さが主軸4の全長とほぼ同じ長さとなるように構成されている。導入部30は、本発明における「導入流路部」に対応する実施構成の一例である。
【0042】
導入部30は、
図3に示すように、前進変速段においてリングギヤ9が回転することにより掻き上げられ飛散する潤滑油の飛散方向に沿って延在するように構成されており、
図4ないし
図6に示すように、底壁44と、底壁44の延在方向に沿う両側に立設された側壁32,34と、導入部30を第1導入部42と第2導入部52とに仕切るように構成された仕切壁36と、を備えている。底壁44は、本発明における「底壁部」に対応する実施構成の一例である。
【0043】
側壁32の一部は、
図7および
図9に示すように、底壁44の下面45b側に突出しており、突条部32aを構成している。側壁32には、
図7に示すように、仕切壁36を挟んで両側に貫通開口37,38が形成されている。また、側壁32には、
図5および
図8に示すように、第1および第2導入部42,52とは反対側に向かって突出するように三つの取付突起32bが形成されている。突条部32aは、本発明における「第1突条部」または「第2突条部」および「誘導反転部」に対応する実施構成の一例である。
【0044】
仕切壁36は、
図5および
図6に示すように、側壁32,34に交差する方向に延在している。これにより、導入部30が導入部30の延在方向(
図6の上下方向)に第1導入部42と第2導入部52とに仕切られる。仕切壁36は、
図4ないし
図6に示すように、曲面状に形成されている。具体的には、仕切壁36は、第2導入部52側に膨らむ円弧形状に形成されている。
【0045】
第1導入部42は、導入部30のうち前進変速段においてリングギヤ9が回転することにより掻き上げられ飛散する潤滑油の飛散方向前側(
図6の上側)に設けられており、
図4および
図6に示すように、側壁32,34と、仕切壁36と、底壁44と、から構成されている。
【0046】
底壁44は、
図7に示すように、上り傾斜部44aと、下り傾斜部44bと、を有している。上り傾斜部44aは、仕切壁36から遠ざかる方向に向かって上り傾斜となるように構成されている。下り傾斜部44bは、上り傾斜部44aに連続して形成され、上り傾斜部44aの頂部から遠ざかるに伴い下り傾斜となるように構成されている。
【0047】
上り傾斜部44aのうち側壁32との接続部近傍には、
図6および
図12ないし
図14に示すように、底壁44を上面45aから下面45bまで貫通する長孔46が形成されている。即ち、底壁44を下り傾斜部44b側から底壁44の延在方向に沿う方向に見た場合に、長孔46は底壁44の左端に設けられている(
図6の右端)。
【0048】
なお、長孔46は、底壁44の延在方向に沿う方向に長手方向を有している。長孔46は、本発明における「貫通孔」に対応する実施構成の一例である。また、上り傾斜部44aのうち側壁32との接続部近傍に長孔46が形成される態様は、本発明における「貫通孔は、底壁部のうち導入流路部の延在方向に向かって左側端部または右側端部に配置されるよう構成されている」に対応する実施構成の一例である。
【0049】
さらに、底壁44の上面45aには、
図6に示すように、長孔46の長手方向端部のうち仕切壁36から遠い側の端部の周囲を囲うように構成された囲いリブ48が形成されている。囲いリブ48は、本発明における「防止壁」に対応する実施構成の一例である。
【0050】
囲いリブ48は、
図6に示すように、側壁32から第1導入部42の延在方向に交差する方向に延出する第1部分48aと、当該第1部分48aに連続して形成されると共に長孔46の長手方向に沿って延在する第2部分48bと、から構成されている。第1部分48aは、本発明における「第1壁部」に対応し、第2部分48bは、本発明における「第2壁部」に対応する実施構成の一例である。
【0051】
第2部分48bは、
図6に示すように、長孔46の長手方向におけるほぼ中央まで延在しており、長孔46の周囲のほぼ半分に亘って延在するように構成されている。第2部分48bが長孔46の長手方向におけるほぼ中央まで延在している態様は、本発明における「第2壁部は、貫通孔の長手方向の略中央部まで延在するよう構成されている」態様に対応する実施構成の一例である。
【0052】
また、底壁44の下面45bには、
図9および
図10に示すように、導入部30の延在方向と交差する方向に延在するように構成された突条部47が形成されている。突条部47は、一端が側壁34に接続されると共に、他端が突条部32aの一端に接続されている。突条部47は、本発明における「第2突条部」または「第1突条部」および「誘導反転部」に対応する実施構成の一例である。
【0053】
突条部47および突条部32aは、長孔46の長手方向端部のうち仕切壁36から遠い側の端部の外側(
図10の左側)で接続されており、当該接続部から仕切壁36側に向かって互いの間隔が漸次開いていく平面視略V字状に構成されている。突条部47および突条部32aが長孔46の長手方向端部のうち仕切壁36から遠い側の端部の外側(
図10の左側)で接続され、当該接続部から仕切壁36側に向かって互いの間隔が漸次開いていく平面視略V字状に構成されている態様は、本発明における「第1および第2突条部は、回転部材が第2回転方向に回転することにより掻き上げられ飛散する潤滑油の飛散方向前側から飛散方向後側に向かうに伴い互いに漸次近づき、飛散方向後側の端部において互いに接続された平面視略V字状に構成」されている態様に対応する実施構成の一例である。
【0054】
即ち、底壁44の下面45bは、平面視略V字状の突条部32aおよび突条部47に挟まれた側の領域(
図10の右側)と、それ以外の領域(
図10の左側)と、に区画されており、長孔46は、突条部32aおよび突条部47に挟まれた側の領域内であって突条部32aおよび突条部47の接続部近傍に配置されている。
【0055】
第2導入部52は、
図6に示すように、側壁32と、側壁54と、仕切壁36と、終端壁56と、底壁58と、から構成されている。第2導入部52は、上方が開放された箱形状を有している。
【0056】
側壁54は、
図5,
図6および
図8に示すように、側壁34に対して平行に所定距離だけ側壁32側(
図5の左側)に離れて配置されており、導入部30の延在方向に沿って延在している。また、側壁54は、仕切壁36の一端に接続されている。これにより、側壁34と側壁54との間には側壁54の延在方向両端(
図6の上下方向端部)が開放された通路部39が形成されている。
【0057】
流路部60は、
図4ないし
図6に示すように、導入部30と直交する方向に沿う長手方向を有しており、二つの側壁62,64と、底面66と、を備え、長手方向に直交する断面形状が略U字状に形成されている。流路部60は、仕切壁36の側壁32に接続された側が流路部60の流路幅方向(長手方向と直交する方向、
図6における上下方向)のほぼ中央に配置されるように導入部30に接続されている。これにより、流路部60は、貫通開口37,38を介して第1および第2導入部42,52に連通する。
【0058】
流路部60は、導入部30に直交するように接続されて導入部30から直線的に延出する直線流路部72と、直線流路部72に対して曲折する曲折流路部74と、から構成されており、平面視略J字状を成している。側壁62が曲がり方向内側の側壁を構成し、側壁64が曲がり方向外側の側壁を構成している。曲折流路部74は、先端部ほど流路幅が狭くなるように構成されており、先端において開放されている。
【0059】
側壁62には、
図4ないし
図6に示すように、三つの開口82,84,86が、導入部30側(
図6の左側)から当該順序で形成されている。開口82,84は、側壁62のうち直線流路部72に対応する部分に形成され、開口86は、側壁62のうち曲折流路部74に対応する部分に形成されている。なお、開口82は、側壁62から底面66に亘って形成されている。
【0060】
また、側壁62のうち曲折流路部74に対応する部分の先端部には、
図4ないし
図6に示すように、曲がり方向内側(
図6における下側)に向かって突出するように突出流路88が形成されている。
【0061】
底面66は、導入部30側(
図6における左側)から先端部側(曲折流路部74側、
図6における右側)に向かうに伴い下り傾斜となるように構成されている。底面66には、
図4および
図6に示すように、三つの整流リブ92,94,96が、流路部60の長手方向に延在して形成されている。整流リブ92,94,96の高さは、側壁62,64よりも低く形成されている。
【0062】
こうして構成されたオイルガータ20は、
図1および
図2に示すように、リングギヤ9の上方であって主軸4およびリングギヤ9の回転軸間に対応する位置において、導入部30の延在方向がリングギヤ9の接線方向にほぼ沿う方向となるように設置部14bに設置される。このとき、導入部30の底壁44の下面45bはリングギヤ9の外周面側を向き、導入部30の底壁44の上面45aはリングギヤ9の外周面とは反対側、即ち、クラッチハウジング14の内壁面のうち設置部14bの上方に位置する部分を向いている。
【0063】
これにより、流路部60は、直線流路部72の長手方向と入力軸2および主軸4の軸線方向とが平行になるように配置されると共に、曲折流路部74の先端部が入力軸2側に向かように配置され、側壁62が入力軸2および主軸4側となるように配置される。
【0064】
次に、こうして構成された変速機1の動作、特にリングギヤ9によって掻き上げられた潤滑油が変速機構6などの潤滑必要部位に供給される際の動作について説明する。まず、変速機1が1速ないし6速の前進変速段で作動される場合について説明し、続いて、変速機1が後進変速段で作動される場合について説明する。
【0065】
変速機1が前進変速段で作動されリングギヤ9が回転すると(
図3における反時計回り)、変速機ケース10内に貯留された潤滑油が掻き上げられる。掻き上げられた潤滑油は、
図3に示すように、導入部30に導入される。ここで、変速機1が1速あるいは2速などのような低速変速段で作動されている場合には、リングギヤ9の回転速度は比較的低速であるため、リングギヤ9によって掻き上げられた潤滑油のほとんどは、第1導入部42で捕集され、仕切壁36に衝突して流れの方向が変えられる。変速機1が前進変速段で作動された際にリングギヤ9が回転する方向は、本発明における「第1回転方向」に対応する実施構成の一例である。
【0066】
仕切壁36によって流れの向きを変えられた潤滑油は、貫通開口37を通って流路部60に流入される。ここで、底壁44の上面45aには、囲いリブ48が形成されているため、第1導入部42で捕集され底壁44の上面45aを流れる潤滑油が長孔46から流出することを防止できる。しかも、囲いリブ48のうち第2部分48bが長孔46の長手方向におけるほぼ中央まで延在するように構成されているため、潤滑油の長孔46からの流出をより効果的に防止できる。
【0067】
なお、長孔46および囲いリブ48が、底壁44を下り傾斜部44b側から底壁44の延在方向に沿う方向に見た場合に、底壁44の左端に設けられているため、底壁44の上面45aを下流に向けて流れる潤滑油の主流が、長孔46や囲いリブ48によって影響を受け難い。これにより、潤滑油の捕集効率の低下を抑制することができる。
【0068】
しかも、リングギヤ9が右ねじれを有するはすば歯車として構成されているため、掻き上げられた潤滑油が底壁44のうち長孔46が配置されていない側、即ち、底壁44の右側(
図6の左側)に向かうことになる。これにより、潤滑油の長孔46からの流出をより効果的に抑制できる。また、仕切壁36が第1導入部42に捕集された潤滑油を流路部60に誘導する構成であるため、第1導入部42内で潤滑油が滞留することを抑制し得て、流路部60に迅速に導入できる。
【0069】
また、仕切壁36が第2導入部52側に膨らむ円弧形状に形成されているため、潤滑油の流れ方向を貫通開口37側に滑らかに変更できるため、仕切壁36が平面の場合に比べて潤滑油をより速やかに流路部60に誘導することができる。
【0070】
なお、底壁44が上り傾斜部44aを有しているため、仕切壁36に衝突してその反動で第1導入部42を逆流しようとする(潤滑油の飛散方向とは反対方向に流れようとする)潤滑油の動きを抑制できると共に、流路部60への誘導を促進できる。これにより、効率的かつ迅速に潤滑油を流路部60に誘導できる。なお、第1導入部42の底壁44を上り傾斜に形成するのみの構成であるため、構成も簡易である。
【0071】
流路部60に流入した潤滑油は、
図11に示すように、開口84,86、突出流路88および曲折流路部74の先端から流出する。開口84から流出した潤滑油は、3速被駆動歯車G’3上に供給され3速被駆動歯車G’3および3速駆動歯車G3と3速被駆動歯車G’3との噛合い部を潤滑する。開口86から流出した潤滑油は、4速被駆動歯車G’4上に供給され4速被駆動歯車G’4および4速駆動歯車G4と4速被駆動歯車G’4との噛合い部を潤滑する。突出流路88から流出した潤滑油は、6速駆動歯車G6上に供給され6速駆動歯車G6および6速駆動歯車G6と6速被駆動歯車G’6との噛合い部、6速クラッチギヤなどを潤滑する。
【0072】
また、曲折流路部74の先端から流出した潤滑油は、ケース本体12に形成された図示しない流路を通って入力軸2内に形成された軸内油路(図示せず)に供給される。軸内油路(図示せず)に供給された潤滑油は、入力軸2に形成された図示しない径方向孔を介して入力軸2上に配置されたシンクロ機構S等に供給される。
【0073】
なお、流路部60の底面66は、下流(曲折流路部74側)に向かうに伴って下り傾斜となるように構成されているため、リングギヤ9から遠い位置(曲折流路部74の先端部)まで迅速かつ効果的に潤滑油を供給することができる。また、曲折流路部74が先端に向かうに伴って流路幅が漸次狭くなるように構成されているため、潤滑油の流速を高めることができ、曲折流路部74の先端部(オイルガータ20の先端)まで潤滑油を効果的に流すことができる。
【0074】
そして、変速機1が3速ないし6速などのような高速変速段で作動されるようになると、リングギヤ9の回転速度が高速となるため、リングギヤ9によって掻き上げられ第1導入部42で捕集された潤滑油の一部が仕切壁36を乗り越えて第2導入部52に流入する。このとき、仕切壁36によって潤滑油の運動エネルギーが低減されるため効果的に第2導入部52で潤滑油を捕集することができる。ここで、第2導入部52の底壁58が貫通開口38に向かって下り傾斜となるように構成されているため、第2導入部52で捕集した潤滑油を貫通開口38を介して迅速に流路部60に導入できる。
【0075】
そして、流路部60に流入した潤滑油は、リングギヤ9の回転速度が低速のときと同様、開口84,86、突出流路88および曲折流路部74の先端から流出して各部(3速被駆動歯車G’3および3速駆動歯車G3と3速被駆動歯車G’3との噛合い部、4速被駆動歯車G’4および4速駆動歯車G4と4速被駆動歯車G’4との噛合い部、6速駆動歯車G6および6速駆動歯車G6と6速被駆動歯車G’6との噛合い部、6速クラッチギヤ、入力軸2内に形成された軸内油路(図示せず))に供給される。
【0076】
また、リングギヤ9で掻き上げられ導入部30に導入された潤滑油の一部は、
図11に示すように、通路部39を介して主軸4に形成された図示しない軸内油路に供給される。軸内油路(図示せず)に供給された潤滑油は、主軸4に形成された図示しない径方向孔を介して主軸4上に配置されたシンクロ機構S等に供給される。
【0077】
次に、変速機1が後進変速段で作動される場合について説明する。変速機1が後進変速段で作動されると、変速機1が前進変速段で作動される場合とは逆方向にリングギヤ9が回転する(
図3における時計回り、
図12における反時計回り)。これにより、変速機1が前進変速段で作動される場合とは逆方向に変速機ケース10内に貯留された潤滑油が掻き上げられる。変速機1が後進変速段で作動された際にリングギヤ9が回転する方向(変速機1が前進変速段で作動される場合とは逆方向)は、本発明における「第2回転方向」に対応する実施構成の一例である。
【0078】
変速機1が前進変速段で作動される場合とは逆方向にリングギヤ9が回転することにより掻き上げられた潤滑油の一部は、
図12に示すように、突条部32aおよび突条部47によって長孔46に誘導される。ここで、リングギヤ9が右ねじれを有するはすば歯車として構成されているため、前進変速段で作動される場合とは逆方向にリングギヤ9が回転すると、掻き上げられた潤滑油が長孔46の方向(
図10の下側)に向かって飛散することになる。
【0079】
これにより、潤滑油を効果的に長孔46に誘導することができる。このように、リングギヤ9のねじれ方向に合わせて、長孔46、突条部32aおよび突条部47を設けることにより、長孔46を介した第1導入部42への潤滑油の導入効率を向上することができる。そして、掻き上げられ飛散する潤滑油の一部は、突条部32aおよび突条部47に衝突することにより飛散方向が反転される。
【0080】
長孔46に誘導され飛散方向が反転された潤滑油は、
図12に示すように、長孔46から第1導入部42に導入される。ここで、長孔46が上り傾斜部44aに形成されているため、突条部32aおよび突条部47によって飛散方向が反転された潤滑油は、長孔46から第1導入部42に導入されやすい。
【0081】
一方、長孔46に誘導され突条部32aおよび突条部47によって飛散方向が反転されずに長孔46から第1導入部42に導入された潤滑油の一部は、囲いリブ48に衝突して、その流れ方向が反転される。このように、突条部32aおよび突条部47に加えて囲いリブ48によっても潤滑油の飛散方向を反転することができる構成であるため、潤滑油を効率的に第1導入部42内に導入することができる。
【0082】
こうして第1導入部42に導入された潤滑油は、底壁44の上り傾斜部44aにより仕切壁36に向けて流下され、仕切壁36によって貫通開口37に誘導されて、当該貫通開口37を通って流路部60に流入される。ここで、第1導入部42に導入された潤滑油が、底壁44の上り傾斜部44aにより仕切壁36に向けて流下する態様は、本発明における「導入流路部に導入された潤滑油を下流に向けて流す」態様に対応する実施構成の一例である。
【0083】
そして、流路部60に流入した潤滑油は、変速機1が前進変速段で作動された場合と同様、開口84,86、突出流路88および曲折流路部74の先端から流出して各部(3速被駆動歯車G’3および3速駆動歯車G3と3速被駆動歯車G’3との噛合い部、4速被駆動歯車G’4および4速駆動歯車G4と4速被駆動歯車G’4との噛合い部、6速駆動歯車G6および6速駆動歯車G6と6速被駆動歯車G’6との噛合い部、6速クラッチギヤ、入力軸2内に形成された軸内油路(図示せず))に供給される(
図11参照)。
【0084】
また、本実施の形態に係るオイルガータ20は、リングギヤ9に加えて1速被駆動歯車G’1によって掻き上げられた潤滑油を捕集するように構成されている。1速被駆動歯車G’1によって掻き上げられた潤滑油は、開口82を介して直線流路部72に取り込まれる。これにより、リングギヤ9の回転数が低い低速変速段(例えば、1速や2速)においても十分なオイル供給量を確保することができる。
【0085】
以上説明した本実施の形態に係る変速機1によれば、オイルガータ20のうちリングギヤ9の回転によって掻き上げられる潤滑油が導入される第1導入部42の上り傾斜部44aに長孔46を形成すると共に、当該上り傾斜部44aの下面45bに突条部32aおよび突条部47を設け、突条部32aおよび突条部47のなす角度が小さい側の領域内であって突条部32aおよび突条部47の接続部近傍に当該長孔46を配置する構成であるため、変速機1が後進変速段で作動され変速機1が前進変速段で作動された場合とは逆方向に回転されたリングギヤ9により掻き上げられた潤滑油を、突条部32aおよび突条部47によって長孔46に誘導できると共に潤滑油の飛散方向を反転して長孔46から第1導入部42に導入することができる。第1導入部42に導入された潤滑油は流路部60を介して潤滑必要部位としての変速機構6に供給される。
【0086】
もとより、変速機1が前進変速段で作動されリングギヤ9が回転することにより掻き上げられた潤滑油は、第1導入部42や第2導入部52で導入され流路部60を介して潤滑必要部位としての変速機構6に供給される。このように、リングギヤ9の回転方向に関わらず、十分な量の潤滑油を捕集することができるため潤滑性能を向上することができる。
【0087】
本実施形態では、突条部47の一端を側壁34に接続すると共に、他端を突条部32aの一端に接続する構成としたが、突条部47の一端は側壁34に接続されていなくても良い。
【0088】
本実施形態では、側壁32の一部を底壁44の下面45b側に突出させることにより突条部32aを形成する構成としたが、突条部32aは側壁32とは別体に設ける構成としても構わない。
【0089】
本実施形態では、底壁44の上り傾斜部44aに長孔46を形成する構成としたが、これに限らない。例えば、長孔46を底壁44の水平部に設ける構成とするなど、長孔46を介して第1導入部42に潤滑油を導入できれば底壁44のいずれの部分に長孔46を形成する構成であっても良い。
【0090】
本実施形態では、長孔46としたが、丸孔や四角孔あるいは他の形状をした孔であっても良い。
【0091】
本実施形態では、リングギヤ9が右ねじれとなるはすば歯車であるため、長孔46を底壁44の左端に設ける構成としたが、リングギヤ9が左ねじれとなるはすば歯車の場合には、長孔46は底壁44の右端に設ける構成とすれば良い。
【0092】
本実施形態では、突条部32aおよび突条部47を平面視略V字状となるように構成したが、これに限らない。例えば、突条部32aおよび突条部47を平面視略U字状となるように構成しても良い。この場合、長孔46はU字の底部近傍に設ける構成とすれば良い。
【0093】
本実施形態では、変速機1が前進変速段で作動されリングギヤ9の回転によって掻き上げられて第1導入部42に導入された潤滑油が、長孔46から流出することを防止するために長孔46の周囲を囲む囲いリブ48を設ける構成としたが、第1導入部42の上面45aを流れる潤滑油が長孔46から流出することを防止できれば良く、リブでなくても良い。例えば、
図13および
図14に例示する変形例のオイルガータ120に示すように、長孔46の概ね上部を覆う円蓋148を設ける構成としても構わない。当該構成によれば、第1導入部142で捕集して底壁44の上面を流れる潤滑油が長孔46から流下することを効果的に防止することができる。
【0094】
本実施形態では、囲いリブ48の第2部分48bを長孔46の長手方向におけるほぼ中央まで延在する構成としたが、これよりも短い構成としても良いし、長い構成としても良い。あるいは、第2部分48bを有さない構成としても構わない。
【0095】
本実施形態は、本発明を実施するための形態の一例を示すものである。したがって、本発明は、本実施形態の構成に限定されるものではない。