(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6407704
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】電動式直動アクチュエータおよび電動式ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20181004BHJP
F16H 19/02 20060101ALI20181004BHJP
F16H 25/20 20060101ALI20181004BHJP
F16C 19/32 20060101ALI20181004BHJP
F16C 33/46 20060101ALI20181004BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20181004BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20181004BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20181004BHJP
H02K 7/06 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
F16H25/24 A
F16H19/02 M
F16H19/02 P
F16H25/20 D
F16C19/32
F16C33/46
F16C33/64
F16D65/18
H02K7/116
H02K7/06 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-258572(P2014-258572)
(22)【出願日】2014年12月22日
(65)【公開番号】特開2016-118264(P2016-118264A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】山崎 達也
(72)【発明者】
【氏名】江口 雅章
【審査官】
塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/053469(WO,A1)
【文献】
特開2012−149747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
F16C 19/32
F16C 33/46
F16C 33/64
F16D 65/18
F16H 19/02
F16H 25/20
H02K 7/06
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(20)内に円筒状の外輪部材(21)を組込み、その外輪部材(21)の軸心上に電動モータ(24)によって回転駆動される回転軸(34)を設け、その回転軸(34)の外径面と前記外輪部材(21)の内径面間に組み込まれた複数の遊星ローラ(49)を前記回転軸(34)を中心にして回転自在に支持されたキャリア(40)によって回転自在に支持し、その遊星ローラ(49)の外径面には前記外輪部材(21)の内径面に設けられた螺旋突条(51)に噛合する螺旋溝または円周溝(52)を形成し、前記遊星ローラ(49)のそれぞれと前記キャリア(40)に設けられたディスク(41a)の対向面間に、前記遊星ローラ(49)に負荷されるスラスト荷重を支持するスラスト保持器ころ(53)を組み込み、前記回転軸(34)の回転により、その回転軸(34)との摩擦接触により遊星ローラ(49)を自転および公転させて前記外輪部材(21)とキャリア(40)を相対的に軸方向に直線移動させるようにした電動式直動アクチュエータにおいて、
前記複数のスラスト保持器ころ(53)と前記ディスク(41a)の対向面間に、複数のスラスト保持器ころ(53)のそれぞれに共通の環状軌道盤(57)を組み込んだことを特徴とする電動式直動アクチュエータ。
【請求項2】
前記軌道盤(57)が、塑性加工により成形されて、スラスト保持器ころ(53)と対向する軌道面(62)が熱処理された請求項1に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項3】
ハウジング(20)内に円筒状の外輪部材(21)を組込み、その外輪部材(21)の軸心上に電動モータ(24)によって回転駆動される回転軸(34)を設け、その回転軸(34)の外径面と前記外輪部材(21)の内径面間に組み込まれた複数の遊星ローラ(49)を前記回転軸(34)を中心にして回転自在に支持されたキャリア(40)によって回転自在に支持し、その遊星ローラ(49)の外径面には前記外輪部材(21)の内径面に設けられた螺旋突条(51)に噛合する螺旋溝または円周溝(52)を形成し、前記遊星ローラ(49)のそれぞれと前記キャリア(40)に設けられたディスク(41a)の対向面間に、前記遊星ローラ(49)に負荷されるスラスト荷重を支持するスラスト保持器ころ(53)を組み込み、前記回転軸(34)の回転により、その回転軸(34)との摩擦接触により遊星ローラ(49)を自転および公転させて前記外輪部材(21)とキャリア(40)を相対的に軸方向に直線移動させるようにした電動式直動アクチュエータにおいて、
前記ディスク(41a)の前記スラスト保持器ころ(53)と対向する内側面を複数のスラスト保持器ころ(53)のそれぞれに共通の軌道面(68)としたことを特徴とする電動式直動アクチュエータ。
【請求項4】
前記ディスク(41a)が、塑性加工により成形されて、前記軌道面(68)が熱処理された請求項3に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項5】
電動式直動アクチュエータ(A)によりブレーキパッド(14)を直線駆動し、そのブレーキパッド(14)でディスクロータ(10)を押圧して、そのディスクロータ(10)に制動力を付与するようにした電動式ブレーキ装置において、
前記電動式直動アクチュエータ(A)が請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電動式直動アクチュエータからなることを特徴とする電動式ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブレーキパッド等の被駆動部材を直線駆動する電動式直動アクチュエータおよびその電動式直動アクチュエータを用いた電動式ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータのロータ軸の回転運動を運動変換機構によって軸方向に移動自在に支持された被駆動部材の直線運動に変換する電動式直動アクチュエータとして下記の特許文献1に記載されたものが従来から知られている。
【0003】
その特許文献1に記載された電動式直動アクチュエータにおいては、電動モータによって回転駆動される回転軸と外輪部材との間に複数の遊星ローラを組込み、その遊星ローラを回転軸を中心にして回転自在に支持されたキャリアで回転自在に支持し、上記回転軸の回転により、その回転軸との摩擦接触によって遊星ローラを自転させつつ公転させ、その遊星ローラの外径面に形成された螺旋溝または円周溝と外輪部材の内径面に設けられた螺旋突条との噛み合いによって外輪部材またはキャリアを相対的に軸方向に直線移動させるようにしている。
【0004】
また、複数の遊星ローラのそれぞれとキャリアを形成する一対のディスクの一方のディスクの対向面間にスラストころ軸受を組み込み、そのスラストころ軸受によって遊星ローラに負荷されるスラスト荷重を支持し、遊星ローラの自転による回転抵抗の低減化を図るようにしている。
【0005】
上記電動式直動アクチュエータにおいては、遊星ローラに設けられた螺旋溝または円周溝と外輪部材に設けられた螺旋突条との噛み合いによって外輪部材またはキャリアを相対的に軸方向に直線移動させる構成であるため、遊星歯車式等の減速機構を別途組み込むことなく大きな増力機能を確保することができ、直動ストロークが比較的小さい電動式ブレーキ装置への採用に好適であるという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−90959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載された電動式直動アクチュエータにおいては、複数の遊星ローラのそれぞれを回転自在に支持するスラストころ軸受が、複数のスラストころを保持器によって放射状に保持するスラスト保持器ころと単一の軌道盤とからなり、そのスラスト保持器ころと軌道盤とを遊星ローラを回転自在に支持するローラ軸のそれぞれに対して別々に組込む必要があるため、キャリアの組立てに手間がかかり、また、組み付け順序の間違いによって組み付け位置に間違いが生じたり組み込み忘れを生じる可能性があった。
【0008】
この発明の課題は、スラストころ軸受の部品点数を低減し、遊星ローラを支持するキャリアの組立ての容易化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、第1の発明においては、ハウジング内に円筒状の外輪部材を組込み、その外輪部材の軸心上に電動モータによって回転駆動される回転軸を設け、その回転軸の外径面と前記外輪部材の内径面間に組み込まれた複数の遊星ローラを前記回転軸を中心にして回転自在に支持されたキャリアによって回転自在に支持し、その遊星ローラの外径面には前記外輪部材の内径面に設けられた螺旋突条に噛合する螺旋溝または円周溝を形成し、前記遊星ローラのそれぞれと前記キャリアに設けられたディスクの対向面間に、前記遊星ローラに負荷されるスラスト荷重を支持するスラスト保持器ころを組み込み、前記回転軸の回転により、その回転軸との摩擦接触により遊星ローラを自転および公転させて前記外輪部材とキャリアを相対的に軸方向に直線移動させるようにした電動式直動アクチュエータにおいて、前記複数のスラスト保持器ころと前記ディスクの対向面間に前記複数のスラスト保持器ころのそれぞれに共通の環状軌道盤を組み込んだ構成を採用したのである。
【0010】
上記構成からなる電動式直動アクチュエータにおいて、軌道盤を金属部材の塑性加工により成形してコストの低減を図り、スラスト保持器ころと対向する軌道面を熱処理して硬度を高めて耐久性の向上を図るのがよい。
【0011】
また、第2の発明においては、上記第1の発明に係る環状軌道盤を省略し、キャリアにおけるディスクのスラスト保持器ころと対向する内側面を複数のスラスト保持器ころのそれぞれに共通の軌道面とした構成を採用したのである。
【0012】
上記第2の発明に係る電動式直動アクチュエータにおいて、ディスクを金属部材の塑性加工により成形し、スラスト保持器ころのころを転がり案内する軌道面を熱処理して硬度を高めて耐久性の向上を図るのがよい。
【0013】
さらに、第3の発明においては、電動式直動アクチュエータによりブレーキパッドを直線駆動し、そのブレーキパッドでディスクロータを押圧して、そのディスクロータに制動力を付与するようにした電動式ブレーキ装置において、前記電動式直動アクチュエータとして上記第1の発明又は第2の発明に係る電動式直動アクチュエータを用いた構成を採用したのである。
【0014】
上記の構成からなる電動式直動アクチュエータにおいて、電動モータの駆動により回転軸を回転すると、その回転軸との摩擦接触によって遊星ローラが自転しつつ公転し、遊星ローラの外径面に形成された螺旋溝または円周溝と外輪部材の内径面に設けられた螺旋突条の噛合により外輪部材またはキャリアが相対的に軸方向に直線移動する。
【0015】
このため、外輪部材またはキャリアに電動式ブレーキ装置のブレーキパッドを接続することにより、ブレーキパッドを直線駆動してディスクロータに押し付けることができ、ディスクロータに制動力を付与することができる。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明のように、環状軌道盤を複数のスラスト保持器ころのそれぞれに共通とし、あるいは、第2の発明のように、キャリアにおけるディスクのスラスト保持器ころと対向する内側面を複数のスラスト保持器ころのそれぞれに共通の軌道面とすることにより、スラストころ軸受の部品点数を低減し、キャリアの組立ての容易化を図り、部品の組込み間違いや、組み込み忘れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明に係る電動式直動アクチュエータの実施の形態を示す縦断面図
【
図6】
図1の共通軌道盤の組み込み部を拡大して示す断面図
【
図7】この発明に係る電動式直動アクチュエータの他の実施の形態を示す断面図
【
図8】この発明に係る電動式ブレーキ装置の実施の形態を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1乃至
図6は、
図8および
図9に示す電動式ブレーキ装置に採用された電動式直動アクチュエータAを示す。
【0019】
図8および
図9に示す電動式ブレーキ装置においては、図示省略した車輪と一体に回転するディスクロータ10の外周囲にキャリパ11を設け、そのキャリパ11の一端部にディスクロータ10のアウタ側面の外周部と軸方向で対向する爪部12を設け、その爪部12でアウタ側ブレーキパッド13を支持している。
【0020】
また、ディスクロータ10のインナ側面の外周部にインナ側ブレーキパッド14を対向配置し、そのインナ側ブレーキパッド14をキャリパ11の他側部に設けられた電動式直動アクチュエータAによりディスクロータ10に向けて移動させるようにしている。
【0021】
ディスクロータ10のインナ側面の外周部にはマウント15が設けられている。マウント15は図示省略したナックルに支持されて固定の配置とされている。マウント15の両側部には対向一対のピン支持片16が設けられ、そのピン支持片16のそれぞれ端部にディスクロータ10に対して直交方向に延びるスライドピン17が設けられ、そのスライドピン17のそれぞれによってキャリパ11がスライド自在に支持されている。
【0022】
また、マウント15は、図では詳細に示されていないが、アウタ側ブレーキパッド13およびインナ側ブレーキパッド14のそれぞれを回転不能(回り止め)とする状態でディスクロータ10に向けて移動可能に支持している。
【0023】
図1に示すように、電動式直動アクチュエータAはハウジング20を有する。ハウジング20は、
図8に示すキャリパ11に一体的に設けられて筒状をなし、その内側には筒状の外輪部材21がスライド自在に組み込まれている。
【0024】
ハウジング20の一端には径方向外方に向けてベースプレート22が設けられ、そのベースプレート22の外側面およびハウジング20の一端開口がカバー23によって覆われており、上記ベースプレート22とカバー23とでギヤケースを形成している。
【0025】
ベースプレート22には電動モータ24が支持され、その電動モータ24のロータ軸25の回転は、ベースプレート22とカバー23とで形成されるギヤケース内のギヤ減速機構30により減速されて出力される。
【0026】
図1および
図9に示すように、ギヤ減速機構30は、電動モータ24のロータ軸25に取付けられた入力ギヤ31と、その入力ギヤ31に噛合する中間ギヤ32と、その中間ギヤ32に噛合する出力ギヤ33とからなり、上記出力ギヤ33の外径は入力ギヤ31の外径より大径とされている。
【0027】
図1に示すように、出力ギヤ33は回転軸34の一端部に支持されている。回転軸34はハウジング20の一端部内に組み込まれた軸支持部材35を貫通し、その貫通部に組み込まれた複数の軸受36により回転自在に支持されて外輪部材21と同軸上の配置とされている。
【0028】
ここで、軸支持部材35は、ハウジング20の内径面に取り付けられた止め輪37と、ハウジング20の一端部に設けられた内向きのフランジ38によって軸方向に位置決めされている。
【0029】
図1および
図2に示すように、回転軸34上には、その回転軸34を中心にして外輪部材21内で回転可能なキャリア40が組み込まれている。
図2および
図3に示すように、キャリア40は、軸方向で対向する一対のディスク41a、41bと、そのディスク41a、41b間の間隔を一定に保持する複数の柱部材42からなる。
【0030】
一対のディスク41a、41bのそれぞれには軸方向で対向する一対の接続孔43の複数が周方向に等間隔に形成され、その軸方向で対向する一対の接続孔43に柱部材42の両端部が負の嵌め合い隙間をもって嵌合されている。すなわち、柱部材42の両端部が接続孔43に圧入嵌合され、その圧入嵌合によりディスク41a、41bと柱部材42は結合状態とされてキャリア40の組立てとされている。
【0031】
ここで、
図3に示すように、柱部材42は4本とされ、その4本の柱部材42が周方向に90°の間隔をおいて設けているが、柱部材42の数は4本に限定されるものではなく、少なくとも3本以上あればよい。
【0032】
キャリア40は、
図2に示すように、一対のディスク41a、41bのそれぞれの内径面に組み込まれたすべり軸受44により回転軸34を中心にして回転自在に支持され、上記回転軸34の軸端部に取付けられた止め輪45により回転軸34の軸端から抜け出るのが防止されている。
【0033】
キャリア40における一対のディスク41a、41bのそれぞれには、軸方向で対向する一対の軸挿入孔46が周方向に間隔をおいて形成されている。対向一対の軸挿入孔46のそれぞれにはローラ軸47の軸端部が挿入され、それぞれのローラ軸47に対向一対の軸受48が嵌合され、その軸受48によって遊星ローラ49が回転自在に支持されている。
【0034】
ここで、一対のディスク41a、41bに形成された軸挿入孔46は径方向に長い長孔とされている。ローラ軸47はその長孔の両端に当接する範囲において移動自在とされ、それぞれのローラ軸47の軸端部を包み込むようにかけ渡された径方向に弾性変形可能な弾性リング50によりローラ軸47が内向きに付勢されて、遊星ローラ49が回転軸34の外径面に押し付けられている。このため、回転軸34が回転すると、その回転軸34の外径面に対する摩擦接触によって遊星ローラ49が回転するようになっている。
【0035】
図2および
図3に示すように、遊星ローラ49の外径面には、外輪部材21に設けられた断面V字状の螺旋突条51のピッチと同一のピッチで複数の円周溝52が形成され、その円周溝52に螺旋突条51が噛合している。なお、円周溝52に代えて、螺旋突条51とリード角が相違してピッチが同一とされた螺旋溝を形成してもよい。
【0036】
キャリア40における一対のディスク41a、41bのうち、軸支持部材35側に位置するインナ側ディスク41aと複数の遊星ローラ49のそれぞれの対向部間にはスラスト保持器ころ53が組み込まれている。
【0037】
図4乃至
図6に示すように、スラスト保持器ころ53は、環状板から成る保持器54に径方向に長く延びる複数のポケット55を放射状に設け、それぞれのポケット55にころ56を組み込んだ構成とされ、上記ポケット55の開口部における幅寸法はころ56の外径より小さくされてころ56を抜止めしている。
【0038】
遊星ローラ49の端面49aは軌道面とされ、その軌道面49aでころ56が転がり案内される。軌道面49aは熱処理されて硬度が高められている。また、軌道面49aは研磨加工されて面粗さRaが0.2以下とされている。
【0039】
複数のスラスト保持器ころ53とキャリア40におけるインナ側ディスク41aの対向面間には、複数のスラスト保持器ころ53のそれぞれに共通の軌道盤57が組み込まれている。
【0040】
軌道盤57は、環状をなし、回転軸34が挿通される中心孔58の周囲に複数のローラ軸47のそれぞれが挿通される軸挿入孔60と、キャリア40の複数の柱部材42のそれぞれが挿通される挿通孔61が設けられている。
【0041】
軌道盤57は、金属部材のプレスによる塑性加工により成形され、スラスト保持器ころ53のころ56を転がり案内する軌道面62は熱処理され、面粗さRaは0.2以下とされている。
【0042】
図1に示すように、キャリア40におけるインナ側ディスク41aと回転軸34を回転自在に支持する前述の軸支持部材35間にはバックアッププレート63とスラスト軸受64とが組み込まれ、外輪部材21から遊星ローラ49を介してキャリア40に負荷される軸方向の反力を上記スラスト軸受64で支持するようになっている。
【0043】
外輪部材21のアウタ側端部内にはカバー65が嵌合されている。外輪部材21の先端面には回り止め溝66が形成され、その回り止め溝66と
図8に示すインナ側ブレーキパッド14のバックプレート18に設けられた回り止め突起19の係合によって外輪部材21はインナ側ブレーキパッド14に対して回り止めされている。
【0044】
ハウジング20と外輪部材21のアウタ側端部間にはブーツ67が取り付けられ、そのブーツ67によってハウジング20のアウタ側の開口端と外輪部材21の先端部間が密閉されている。
【0045】
実施の形態で示す電動式ブレーキ装置は上記の構成からなり、
図8は、ディスクロータ10に対する制動力の解除状態を示し、一対のブレーキパッド13、14はディスクロータ10に対して離反している。
【0046】
上記のような制動力の解除状態において、
図1に示す電動モータ24を駆動すると、その電動モータ24のロータ軸25の回転がギヤ減速機構30により減速されて回転軸34に伝達され、回転軸34が制動方向に回転する。
【0047】
回転軸34の外径面には、複数の遊星ローラ49のそれぞれ外径面が弾性接触しているため、上記回転軸34の回転により遊星ローラ49が回転軸34との接触摩擦により、自転しつつ公転する。
【0048】
このとき、遊星ローラ49の外径面に形成された円周溝52は外輪部材21の内径面に設けられた螺旋突条51に噛合しているため、その円周溝52と螺旋突条51の噛合によって外輪部材21が軸方向に移動し、その外輪部材21に当接されたインナ側ブレーキパッド14がディスクロータ10に当接して、そのディスクロータ10を軸方向に押圧し始める。その押圧力の反力により爪部12に支持されたアウタ側ブレーキパッド13がディスクロータ10に接近する方向に向けてキャリパ11が移動し、アウタ側ブレーキパッド13がディスクロータ10に当接して、そのアウタ側ブレーキパッド13がインナ側ブレーキパッド14とでディスクロータ10の外周部を軸方向両側から強く挟持し、ディスクロータ10に制動力が負荷される。
【0049】
上記のような制動力の付与時、外輪部材21から遊星ローラ49に軸方向荷重が負荷され、その軸方向荷重はスラスト保持器ころ53と共通軌道盤57の接触部で支持される。ここで、ころ56は共通軌道盤57の軌道面62によって転がり案内されるため、遊星ローラ49は常に円滑に回転する。
【0050】
ディスクロータ10の制動後、電動モータ24のロータ軸25を逆回転させると、
図1に示す回転軸34が前述と逆方向に減速回転され、自転しつつ公転する遊星ローラ49の円周溝52と螺旋突条51の噛合によって外輪部材21が
図8に示す位置まで後退動し、アウタ側ブレーキパッド13およびインナ側ブレーキパッド14がディスクロータ10の挟持を解除し、制動力の解除状態とされる。
【0051】
実施の形態で示す電動式直動アクチュエータAにおいては、
図6に示すように、キャリア40におけるインナ側ディスク41aと複数の遊星ローラ49のそれぞれの対向部間にスラスト保持器ころ53を組み込み、その複数のスラスト保持器ころ53とインナ側ディスク41aの対向面間に、複数のスラスト保持器ころ53のそれぞれに共通の軌道盤57を組み込んで遊星ローラ49を回転自在に支持するスラストころ軸受を形成しているため、複数のスラスト保持器ころのそれぞれに軌道盤を設けたスラストころ軸受を採用する場合に比較して部品点数を大幅に低減することができる。
【0052】
その結果、キャリア40の組立ての容易化を図り、スラストころ軸受を形成する部品の組込み間違いや、組み込み忘れの防止に効果を挙げることができる。
【0053】
図7は、電動式直動アクチュエータの他の実施の形態を示す。この実施の形態においては、
図6に示す共通の軌道盤57を省略し、キャリア40におけるインナ側ディスク41aのスラスト保持器ころ53と対向する内側面を複数のスラスト保持器ころ53のそれぞれに共通の軌道面68としている点で
図6と相違している。このため、
図6と同一の部品には同一の符号を付して説明を省略する。
【0054】
ここで、ディスク41aは金属部材のプレスによる塑性加工により成形され、スラスト保持器ころ53のころ56を転がり案内する軌道面68が熱処理され、研磨加工されて面粗さRaが0.2以下とされている。
【0055】
図7に示すように、インナ側ディスク41aのスラスト保持器ころ53と対向する内側面を複数のスラスト保持器ころ53のそれぞれに共通の軌道面68とすることにより、
図6に示すものと比較して部品点数をさらに低減することができ、キャリア40の組立てのさらなる容易化を図り、スラストころ軸受を形成する部品の組込み間違いや、組み込み忘れの防止により効果を挙げることができる。
【符号の説明】
【0056】
A 電動式直動アクチュエータ
10 ディスクロータ
13、14 ブレーキパッド
20 ハウジング
21 外輪部材
24 電動モータ
34 回転軸
40 キャリア
41a、41b ディスク
49 遊星ローラ
49a 端面(軌道面)
51 螺旋突条
52 円周溝
53 スラスト保持器ころ
57 軌道盤
62 軌道面
68 軌道面