(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6407705
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 63/00 20060101AFI20181004BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20181004BHJP
A01N 31/04 20060101ALI20181004BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20181004BHJP
A61L 2/18 20060101ALI20181004BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20181004BHJP
A61L 101/34 20060101ALN20181004BHJP
A61L 101/38 20060101ALN20181004BHJP
A61L 101/46 20060101ALN20181004BHJP
【FI】
A01N63/00 A
A01P3/00
A01N31/04
A01N25/02
A61L2/18
A01P1/00
A61L101:34
A61L101:38
A61L101:46
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-260019(P2014-260019)
(22)【出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-121074(P2016-121074A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】原田 真里
【審査官】
三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−275747(JP,A)
【文献】
特開平01−262777(JP,A)
【文献】
特開平01−071805(JP,A)
【文献】
特開2005−151900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00−65/48
A01P 1/00−23/00
A23L 3/00− 3/3598
A61L 2/00− 2/28
A61L11/00−12/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)プロタミン〔以下、(a)成分という〕、並びに(b)グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール及びソルビトールから選ばれる1種以上の化合物〔以下、(b)成分という〕を含有する、食品加工設備又は調理器具用液体殺菌剤組成物であって、
(a)成分の含有量と(b)成分の含有量との質量比が、〔(a)成分の含有量〕/〔(b)成分の含有量〕で、0.001以上、0.5以下である、
食品加工設備又は調理器具用液体殺菌剤組成物。
【請求項2】
水を含有する、請求項1記載の食品加工設備又は調理器具用液体殺菌剤組成物。
【請求項3】
水の含有量が、組成物中、90質量%以上である、請求項2記載の食品加工設備又は調理器具用液体殺菌剤組成物。
【請求項4】
(a)プロタミン〔以下、(a)成分という〕、並びに(b)グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール及びソルビトールから選ばれる1種以上の化合物〔以下、(b)成分という〕を、食品加工設備又は調理器具に付着させる、食品加工設備又は調理器具の殺菌方法であって、
(a)成分、及び(b)成分を含有し、(a)成分の含有量と(b)成分の含有量との質量比が、〔(a)成分の含有量〕/〔(b)成分の含有量〕で、0.001以上、0.5以下である食品加工設備又は調理器具用液体殺菌剤組成物を用いて(a)成分と(b)成分とを食品加工設備又は調理器具に付着させる、
食品加工設備又は調理器具の殺菌方法。
【請求項5】
(a)成分及び(b)成分が食品加工設備又は調理器具に付着した状態で食品加工又は調理を行う、請求項4記載の食品加工設備又は調理器具の殺菌方法。
【請求項6】
前記食品加工設備又は調理器具用液体殺菌剤組成物が水を含有する、請求項4又は5記載の食品加工設備又は調理器具の殺菌方法。
【請求項7】
前記食品加工設備又は調理器具用液体殺菌剤組成物中の水の含有量が90質量%以上である、請求項6記載の食品加工設備又は調理器具の殺菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物、及び食品加工設備又は調理器具の殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レストラン等の厨房や食品工場等の食品を調理する現場では、まな板を含む各種調理器具を用いて食材を加工する。作業終了時には、洗浄剤あるいは殺菌剤配合洗浄剤等を用いて洗浄する。その後、必要に応じて、次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の殺菌剤水溶液に調理器具を浸漬したり、あるいは調理器具に次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の殺菌剤水溶液を湿布したり、アルコール製剤を調理器具に噴霧したりする等、調理器具の殺菌剤処理が行われる。
【0003】
しかし、次亜塩素酸ナトリウムに代表される殺菌剤水溶液に浸漬した場合には、殺菌処理直後は良好な殺菌性が得られるが、このような殺菌剤を用いた場合には必ず調理器具を濯ぐことが必要とされ、殺菌剤が濯がれた後は殺菌効果がないため、例えば翌日まで調理器具を放置する間に、調理器具に残った菌が再増殖してしまうことが挙げられる。
【0004】
このため、濯ぎをせずに食品加工設備又は調理器具を使用することができ、かつ、殺菌性が充分に高い殺菌剤の開発が強く望まれている。
【0005】
特許文献1には、プロタミンに代表されるカチオン性ポリペプチドとクロルヘキシジン塩に代表されるビス―グアニドまたはその塩を含む、バイオフィルム包理微生物の成長または増殖を減少させるための組成物を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2010−527335
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プロタミンは、天然由来の殺菌剤であり、安全性が高い。一方で、単品では抗菌スペクトルが狭く、また、多量に配合することはコストアップとなり好ましくない。本発明は、プロタミンの殺菌作用が発現しにくい菌に対してもプロタミンの殺菌性が有効に発現し、プロタミンの殺菌スペクトルを強化する食品加工設備又は調理器具の殺菌剤組成物、及びそれを用いた殺菌方法に関する。
【0008】
特許文献1の実施例はクロルヘキシジンを用いているが、過敏症等の報告例もあり、食品加工設備又は調理器具の殺菌剤組成物として用いることは好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(a)プロタミン、並びに(b)グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール及びソルビトールから選ばれる1種以上の化合物を含有する、食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、(a)プロタミン〔以下、(a)成分という〕、並びに(b)グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール及びソルビトールから選ばれる1種以上の化合物〔以下、(b)成分という〕を、食品加工設備又は調理器具に付着させる、食品加工設備又は調理器具の殺菌方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プロタミンを含有する食品加工設備又は調理器具の洗い流す必要のない、安全性の高い殺菌剤組成物において、プロタミンの殺菌効果を向上する組成物及びその殺菌方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<(a)成分>
プロタミンとしては、特に制限されるものではないが、例えばサケ、ニシン、ニジマス、マグロをはじめとする約50種類以上の魚からなる群より得られる1種以上の魚の白子を酸処理することにより、それぞれの魚の精子核中に存在するヌクレオプロタミンから精製されるプロタミンが挙げられる。(a)成分のプロタミンは、殺菌性のさらなる向上、安全性、経済性及び入手性の観点から、好ましくはサケ、ニシン、ニジマス、マグロ、ボラの白子から得られるプロタミンであり、より好ましくはサケの白子から得られるプロタミンである。また、(a)成分のプロタミンは、安全性の観点から、好ましくは食品又は食品添加物として使用できる品質水準のプロタミンである。
【0013】
(a)成分のプロタミンは、遊離プロタミン、プロタミン又はその塩が挙げられる。(a)成分のプロタミンは、殺菌性のさらなる向上及び配合性の観点から、好ましくはプロタミン酸塩、より好ましくはプロタミン硫酸塩及びプロタミン塩酸塩から選ばれる1種以上であり、入手性の観点から、より好ましくはプロタミン塩酸塩である。
【0014】
<(b)成分>
(b)成分は、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール及びソルビトールから選ばれる1種以上の化合物である。プロタミンによる殺菌性のさらなる向上の観点から、好ましくは、グリセリン、ポリグリセリン及びプロピレングリコールから選ばれる1種以上の化合物であり、より好ましくはグリセリン及びポリグリセリンから選ばれる1種以上の化合物である。ポリグリセリンは、グリセリン単位の平均縮合数が、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、そして、好ましくは50以下、より好ましくは15以下、より好ましくは10以下である。ポリグリセリンは、水酸基価が、好ましくは500以上、より好ましくは700以上、そして、好ましくは2000以下、より好ましくは1500以下である。
【0015】
<食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物>
本発明の食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物の(a)成分の含有量と(b)成分の含有量との質量比は、〔(a)成分の含有量〕/〔(b)成分の含有量〕で、プロタミンによる殺菌性のさらなる向上の観点から、好ましくは0.001以上、5以下である。同様の観点から、より好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.1以上であり、そして、より好ましくは3以下、より好ましくは2以下、より好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下である。
【0016】
本発明の食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物中の(a)成分の含有量は、殺菌性のさらなる向上の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0017】
本発明の食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物中の(b)成分の含有量は、殺菌性のさらなる向上の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であり、そして、組成物の粘性を下げる観点及び組成物を付着後の硬質表面が良好な感触である観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下である。
【0018】
本発明の食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物中の(a)成分と(b)成分の合計含有量は、殺菌性のさらなる向上の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上であり、そして、組成物の粘性を下げる観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下である。
【0019】
本発明の食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物は、水を含有することが好ましい。水の含有量は、組成物中、50質量%以上、または70質量%以上、または90質量%以上であって良く、そして、100質量%未満、または99.9質量%以下、または99質量%以下、または95質量%以下であっても良い。
【0020】
本発明の食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物の形態は固体、液体のいずれの形態であってもよいが、液体組成物が好ましい。本発明の食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物は、水を含有する液体組成物であることがより好ましい。水を含有する液体組成物である場合、20℃のpHは、使用時の安全性の観点から、好ましくは5以上、より好ましくは6以上であり、そして、好ましくは9以下、より好ましくは8以下である。
【0021】
本発明の食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物は、取扱い容易性の観点から、25℃の粘度が、好ましくは0.1mPa・s以上、より好ましくは0.5mPa・s以上であり、そして、好ましくは10mPa・s以下、より好ましくは5mPa・s以下である。尚、粘度はBM型粘度計(25℃、ローターNO.M1、回転数 60r/min、攪拌開始後から1分後)を用いて測定することができる。
【0022】
本発明の食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物は、本発明の効果および安全性を損なわない範囲で、他の成分、例えば(a)成分以外の界面活性剤、(a)成分以外の塩基性ポリペプチド、香料、防腐剤、pH調整剤、着色料等を含有しても良い。
防腐剤としては、一般的な防腐剤のほか、エタノールを組成物中に含有することができる。
【0023】
(a)成分以外の塩基性ポリペプチドとしてはポリリジン、ラクトフェリン、ラクトフェリシン、リゾチーム、ディフェンシンなどが挙げられる。本発明の食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物は、(a)成分以外の塩基性ポリペプチドを含有する事が好ましく、ポリリジンを含有する事がより好ましい。
【0024】
本発明の食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物の(a)成分の含有量と(a)成分以外の塩基性ポリペプチドの含有量との質量比は、〔(a)成分の含有量〕/〔(a)成分以外の塩基性ポリペプチドの含有量〕で、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、より好ましくは0.5以上であり、より好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上、そして、好ましくは10以下、より好ましくは7以下、より好ましくは5以下である。
【0025】
本発明の食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物中の(a)成分と(a)成分以外の塩基性ポリペプチドの含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.15質量%以上、より好ましくは0.18質量%以上であり、そして、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.7質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下である。
【0026】
本発明の食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物は、ベンジルアルコールを含有しても良い。その場合、ベンジルアルコールの含有量は、組成物中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.075質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.15質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.35質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.25質量%以下、より好ましくは0.22質量%以下である。
【0027】
(a)成分以外の界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、ノニオン界面活性剤及びカチオン界面活性剤から選ばれる界面活性剤が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキル又はアルケニルエーテル、アルキルグリコシド、アルキルアミンオキサイド、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミドが挙げられる。カチオン界面活性剤としては、モノ長鎖アルキル(炭素数8以上20以下)第四級アンモニウム塩、ジ長鎖アルキル(炭素数8以上20以下)第四級アンモニウム塩が挙げられる。(a)成分以外の界面活性剤の含有量は、組成物中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0028】
本発明の食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物は、使い勝手及び殺菌性のさらなる向上の観点から、均一透明な液体であることが好ましい。
【0029】
本発明の食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、組成の大部分を構成している水を最初に仕込み、その後各成分を順不同で添加した後、均一透明になるまで撹拌することが好ましい。その後、pHを測定し、所定のpHになるように無機酸又は無機塩基を用いて調整するのが望ましい。
無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。中でも安全性、環境への影響等の観点より塩酸、硫酸が好ましい。
無機塩基としては、水酸化物塩、ケイ酸塩、炭酸塩等が挙げられる。
【0030】
<食品加工設備又は調理器具の殺菌方法>
本発明の食品加工設備又は調理器具の殺菌方法は、本発明の(a)プロタミン、並びに(b)グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール及びソルビトールから選ばれる1種以上の化合物を食品加工設備又は調理器具に付着させる。
【0031】
本発明の対象となる食品加工設備は、食肉スライサー、製麺機、フライヤー、米飯製造機等の大型機器が挙げられる。また、本発明の対象となる調理器具は、まな板、包丁、ザル等が挙げられる。
【0032】
本発明の殺菌剤組成物を食品加工設備又は調理器具に付着させる方法としては、スプレー、塗布、浸漬などの方法が挙げられる。本発明の殺菌剤組成物を、スプレー又は塗布して食品加工設備又は調理器具に付着させることが好ましい。本発明の殺菌剤組成物を食品加工設備又は調理器具に付着させる操作を1回以上行うことができる。
【0033】
(a)成分及び(b)成分による殺菌効果を十分に発現させるために、本発明の殺菌方法では、殺菌剤組成物を適用後、食品加工設備又は調理器具を一定時間放置することが好ましい。すなわち、本発明の殺菌方法では、殺菌剤組成物を食品加工設備又は調理器具に適用後、(a)成分及び(b)成分が食品加工設備又は調理器具に付着した状態を保持することが好ましい。そして、その場合の保持する時間は、殺菌性のさらなる向上の観点から、好ましくは15分以上、より好ましくは60分以上、より好ましくは120分以上であり、より好ましくは240分以上であり、そして、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下、より好ましくは2日以下、より好ましくは24時間以下、より好ましくは10時間以下、より好ましくは6時間以下である。
【0034】
(a)成分及び(b)成分が付着した状態の保持は、開放系、密閉系のいずれで行ってもよいが、開放系のほうが好ましい。また、(a)成分及び(b)成分が付着した状態を保持する温度は、殺菌性のさらなる向上の観点から、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上であり、そして、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下である。
【0035】
本発明の殺菌方法では、食品加工設備又は調理器具に対する本発明の殺菌剤組成物の付着量は、殺菌性のさらなる向上の観点から、好ましくは0.002g/cm
2以上、より好ましくは0.003g/cm
2以上、より好ましくは0.004g/cm
2以上、より好ましくは0.005g/cm
2以上であり、そして、好ましくは0.04g/cm
2以下、より好ましくは0.030g/cm
2以下、より好ましくは0.025g/cm
2以下、より好ましくは0.02g/cm
2以下である。
【0036】
また、本発明の殺菌方法では、殺菌性のさらなる向上の観点より、(a)の付着量及び(b)の付着量が合計で、好ましくは4×10
−6g/cm
2以上、より好ましくは6×10
−6g/cm
2以上、より好ましくは8×10
−6g/cm
2以上、より好ましくは1×10
−5g/cm
2以上、そして、経済性の観点より、好ましくは8×10
−5g/cm
2以下、より好ましくは6×10
−5g/cm
2以下、より好ましくは5×10
−5g/cm
2以下、より好ましくは4×10
−5g/cm
2以下となるように、殺菌剤組成物を食品加工設備又は調理器具に付着させる。
【0037】
本発明の殺菌方法で、殺菌剤組成物が適用された食品加工設備又は調理器具は、殺菌剤組成物を適用後、(a)成分及び(b)成分が食品加工設備又は調理器具に付着した状態で使用することができる。ここで、「付着した状態で使用」とは、殺菌剤組成物が適用された食品加工設備又は調理器具に対して(a)成分及び(b)成分を低減する操作、例えば、すすぐ行為やふき取る行為をすることなしに、食品加工設備又は調理器具を使用することを意味する。例えば、殺菌剤組成物を適用後、食品加工設備又は調理器具を放置して水分などの揮発性成分が蒸発したような状態は、(a)成分及び(b)成分は付着した状態を維持しているといえる。従って、殺菌剤組成物を適用後、(a)成分及び(b)成分が食品加工設備又は調理器具に付着した状態で食品加工又は調理を行うことができる。
【0038】
上述した実施の形態に関し、本発明は以下の食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物及び食品加工設備又は調理器具の殺菌方法を開示する。
【実施例】
【0039】
実施例1〜8及び比較例1〜5
<殺菌剤組成物の調製>
水に(a)成分及び(b)成分を混合して殺菌剤組成物を調製した。(a)成分及び(b)成分の量は表1及び表2の通りである。実施例1〜8については、対照実験の組成物として、それぞれの組成において(b)成分を配合せず(b)成分の量を水に置き換えて(a)成分と水のみを含有する組成物を調製した。なお、実施例1〜8、比較例1〜5の組成物は、いずれも20℃におけるpHが6〜7であった。
【0040】
<生菌数の評価方法>
(1)殺菌剤組成物1mLとOD=0.1に調整した菌液1mLを添加し、混合して懸濁液とした。菌液は黄色ブドウ球菌(Staphylococcusaureus NBRC13276)を用いた。
(2)懸濁液を25℃で20時間静置した。
(3)懸濁液の殺菌効果を停止するため、懸濁液0.2mLをLP希釈液(ダイゴ、日本製薬(株)製)1.8mLに素早く投入し、懸濁液の10倍希釈液を得た。さらに10倍希釈液0.2mLと生理食塩水1.8mLを混合し、100質量倍希釈液を得て、同様の操作にて、1000質量倍希釈液及び10000質量倍希釈液及び100000質量倍希釈液を得た。
(4)直ちに、それぞれの希釈液0.1mLを、標準寒天培地(フードスタンプ「ニッスイ」、StandardMethod Agar(SMA)、日水製薬((株))製)に塗抹した。
(5)各SMAを37℃で24時間培養した後、発育したコロニー数をカウントし、菌数[cfu/mL]を求めた。菌数は10を底とする対数で表1に記載した。
【0041】
表1記載の薬剤を下記に示す。
・プロタミン:プロタミン塩酸塩(株式会社マルハニチロ食品製)
・ポリグリセリン:ポリグリセリン#310(水酸基価1050〜1090、阪本薬品工業株式会社製)
・水:滅菌水
【0042】
【表1】
【0043】
* コントロール実験の組成物((b)成分を含有しない組成物)の生菌数
** (殺菌効果指数)=Log
10〔(コントロールの生菌数)/(生菌数)〕
殺菌効果指数が大きいほど、殺菌性の向上効果が高いことを示す。
ここで、コントロールの生菌数は、実施例の水溶液の代わりに、(A)成分のみの水溶液を用いて実験を行い、求めた生菌数である。
【0044】
【表2】
【0045】
表1より、プロタミンと、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール及びソルビトールから選ばれる化合物とを併用することで、殺菌性が顕著に上昇した。
表2より、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール及びソルビトールは、単独での殺菌性が乏しいことが確認できた。
【0046】
処方例
表3に、本発明の食品加工設備又は調理器具用殺菌剤組成物の例を示す。
プロタミンは、実施例1等で用いたものと同じものである。
非イオン界面活性剤は、エマゾールL−120V(花王株式会社製:ポリオキシエチレン(平均付加モル数20)ソルビタンモノラウレート)である。
ポリリジンは、例えば、ε−ポリリジン(食品添加物、JNC株式会社製、重量平均分子量4,700)を用いることができる。
【0047】
【表3】
【0048】
*pH調整剤は、組成物の20℃のpHが7となる量で用いる。