特許第6407769号(P6407769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6407769
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】カレントトランス
(51)【国際特許分類】
   H01F 38/30 20060101AFI20181004BHJP
   H01F 27/32 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   H01F38/30
   H01F27/32 150
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-44273(P2015-44273)
(22)【出願日】2015年3月6日
(65)【公開番号】特開2016-164909(P2016-164909A)
(43)【公開日】2016年9月8日
【審査請求日】2018年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】宮本 正実
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 元一郎
(72)【発明者】
【氏名】池谷 剛
(72)【発明者】
【氏名】佐野 哲也
【審査官】 竹下 翔平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−156323(JP,A)
【文献】 実開平4−76028(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00−21/12
27/00
27/02
27/06
27/08
27/23
27/26
27/28−27/29
27/30−27/32
27/36
27/42
38/20−38/42
41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の一次側コイルがインサート成型によって埋め込まれるとともに、外周部に形成された巻線部に二次側コイルが巻回されたボビンと、このボビンを囲繞して閉磁路を形成するコアとを備えたカレントトランスにおいて、
上記ボビンは、上記一次側コイルがインサート成型によって絶縁性樹脂に埋め込まれるとともに当該一次側コイルの端子および上記インサート成型時に上記一次側コイルを保持するためのコイル保持部を外面から突出させた一次側インサート体と、この一次側インサート体および上記コイル保持部がインサート成型によって絶縁性樹脂に埋め込まれるとともに上記一次側インサート体に隣接して上記巻線部が上記一次側コイルと同軸的に形成された二次側インサート体とからなることを特徴とするカレントトランス。
【請求項2】
上記ボビンには、上記二次側インサート体の上記巻線部の中心部から上記一次側インサート体の上記一次側コイルの中心部を貫通して上記コアが挿入される貫通孔が形成されるとともに、上記一次側インサート体の外周面であって上記貫通孔と上記コイル保持部との間に、上記コイル保持部と上記コアとの間の沿面距離を増加させる凸部または凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のカレントトランス。
【請求項3】
上記一次側インサート体には、上記二次側インサート体の成型時に上記一次側インサート体を金型内に保持することにより成型後に端面が上記ボビンの外周面に露出する支承部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のカレントトランス。
【請求項4】
上記一次側コイルは、上記一次側インサート体内において上記巻線部から離間する方向に屈曲されて上記ボビンから外方へ延出されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のカレントトランス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型化を図る際にも、実装スペースを広げることなく所望の絶縁距離を確保することが可能になるカレントトランスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信機器用や車載用として用いられている電流検出トランス(以下、カレントトランスと称する。)は、例えば下記特許文献1、2に見られるように、外周部に二次側コイルが巻回されるボビンの一方のフランジ内に、電流を検出する回路に接続される一次側コイルを同軸的に埋め込んだ構成が採用されている。
【0003】
図6図8は、従来のこの種のカレントトランスを示すもので、銅板等を打ち抜き加工してU字状に形成されるとともに両端部1aが実装端子とされた一次側コイル1および二次側コイルの実装端子2aが、インサート成型によって絶縁性樹脂からなるボビン3内に埋め込まれ、ボビン3の外周部に形成された巻線部3aに二次側コイル2が巻回されてその端部が実装端子2aに絡げられるとともに、ボビン3の外周および中心部の貫通孔に、一対のE型コア4が対向配置されたものである。
【0004】
ここで、一次側コイル1には、U字状の頂部に外方に突出するコイル保持部1bが一体に形成されており、インサート成型によってボビン3を射出成型する際に、金型内において上記コイル保持部1bを金型内に保持して位置決めすることにより、樹脂圧による一次側コイルの上下動を防止するようになっている。
【0005】
この結果、上記カレントトランスにおいては、ボビン3内に一次側コイル1および二次側コイルの実装端子2aを、互いの実装端子1a、2aが互いに反対側に引き出されるように配置しているにも拘わらず、ボビン3の二次側コイルの実装端子2aの引き出し側の外面3aに一次側コイル1のコイル保持部1bが露出してしまう。
【0006】
このため、図8(c)に示すように、コイル保持部1b(一次側コイル1)と二次側コイル2との距離Lあるいはその実装端子2aとの距離Lが短くなり、所望の沿面距離を確保するためには、ボビン3のサイズを大きくして対応せざるを得ないという問題点があり、広い実装スペースが必要となって搭載機器の小型化を図るうえでの阻害要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−77744号公報
【特許文献2】特開2003−297644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ボビンを大型化することなく所望の絶縁距離を確保することができ、よって一層の小型化を実現することが可能になるカレントトランスを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、板状の一次側コイルがインサート成型によって埋め込まれるとともに、外周部に形成された巻線部に二次側コイルが巻回されたボビンと、このボビンを囲繞して閉磁路を形成するコアとを備えたカレントトランスにおいて、上記ボビンは、上記一次側コイルがインサート成型によって絶縁性樹脂に埋め込まれるとともに当該一次側コイルの端子および上記インサート成型時に上記一次側コイルを保持するためのコイル保持部を外面から突出させた一次側インサート体と、この一次側インサート体および上記コイル保持部がインサート成型によって絶縁性樹脂に埋め込まれるとともに上記一次側インサート体に隣接して上記巻線部が上記一次側コイルと同軸的に形成された二次側インサート体とからなることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記ボビンには、上記二次側インサート体の上記巻線部の中心部から上記一次側インサート体の上記一次側コイルの中心部を貫通して上記コアが挿入される貫通孔が形成されるとともに、上記一次側インサート体の外周面であって上記貫通孔と上記コイル保持部との間に、上記コイル保持部と上記コアとの間の沿面距離を増加させる凸部または凹部が形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記一次側インサート体には、上記二次側インサート体の成型時に上記一次側インサート体を金型内に保持することにより成型後に端面が上記ボビンの外周面に露出する支承部が形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記一次側コイルは、上記一次側インサート体内において上記巻線部から離間する方向に屈曲されて上記ボビンから外方へ延出されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜4のいずれかに記載の発明によれば、先ずコイル保持部を利用して一次側コイルのみをインサート成型によって一次側インサート体に埋設し、さらにこの一次側インサート体をインサート成型によって二次側インサート体に埋設しているために、一次側インサート体から突出する上記コイル保持部を、二次側インサート体の内部に埋設することができる。
【0014】
この結果、上記コイル保持部(一次側コイル)と、二次側コイルおよびその実装端子との間の沿面距離を考慮する必要が無いために、ボビンを大型化することなく一次側コイルと二次側コイルとの間に所望の絶縁距離を確保することができ、よって一層の小型化を実現することも可能になる。
【0015】
ところで、上述したように一次側インサート体をインサート成型して二次側インサート体内に埋め込むことにより、一次側インサート体から露出するコイル保持部を完全に絶縁性樹脂で覆うことができるが、一次側インサート体と二次側インサート体の界面は、完全に密着させることはできない。このため、上記界面は、一次側インサート体から露出するコイル保持部と貫通孔内に挿入されたコアとの間の沿面距離として考慮する必要がある。
【0016】
したがって、請求項2に記載の発明のように、一次側インサート体の外周面であって上記貫通孔とコイル保持部との間に、コイル保持部とコアとの間の沿面距離を増加させる凸部または凹部を形成すれば、ボビンの小型化を図る場合にも、所望の沿面距離を確保することができて好適である。
【0017】
また、一次側インサート体をインサート成型して二次側インサート体とする際に、当該一次側インサート体が金型内において樹脂圧により移動する可能性がある場合には、請求項3に記載の発明のように、上記一次側インサート体に、上記二次側インサート体の成型時に上記一次側インサート体を金型内に保持する支承部を形成することが好ましい。なお、この支承部を形成した場合には、当該支承部の端面は、ボビンの外周面に露出することになる。
【0018】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、一次側コイルを一次側インサート体内において巻線部から離間する方向に屈曲してボビンから外方へ延出させているために、上記一次側コイルを実装面により近い部分から外方に延出させることができ、この結果巻線部に巻回される二次側コイルとの間の沿面距離を長く確保することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態を示す全体の斜視図である。
図2】一次側インサート体の構造を示す分解斜視図である。
図3図1の分解斜視図である。
図4図1のカレントトランスを示すもので、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
図5】(a)は図1の底面図、(b)は図4(a)のA−A線視断面図である。
図6】従来のカレントトランスを示す全体の斜視図である。
図7図6の分解斜視図である。
図8図6のカレントトランスを示すもので、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1図5は、本発明に係るカレントトランスの一実施形態を示すもので、このカレントトランスのボビン10は、一次側コイル11が絶縁性樹脂を用いたインサート成型によって一次側インサート体12内に埋め込まれ、さらにこの一次側インサート体12が絶縁性樹脂を用いたインサート成型によって二次側インサート体13内に埋め込まれることによって形成されたものである。
【0021】
上記一次側コイル11は、銅板等を打ち抜き加工することによって外観略U字状に形成されたもので、両端の先端部分が実装端子11aとされている。ここで、一次側コイル11は、実装端子11a側に向けて順次同じ面外方向に2段階に屈曲されることにより、2つの平行部分11c、11dが形成され、先端側の平行部分11dの裏面が、実装基板への接合面となっている。また、この一次側コイル11の中央部には、外方に突出するコイル保持部11bが一体に形成されている。
【0022】
そして、この一次側コイル11は、一次側インサート体12の外面から金型内において保持されていたコイル保持部11bの先端部分を突出させるとともに、一段目の平行部分11cの中央部から先端側を延出させて、上記一次側インサート体12内に埋設されている。
【0023】
この一次側コイル11を内包した一次側インサート体12には、一次側コイル11の中心部を貫通する貫通孔14が形成されている。また、一次側インサート体12の外周面であって貫通孔14とコイル保持部11bの突出部分との間には、コイル保持部11bの延在方向と直交する方向に環状に突出する2条の凸部15a、15bが、コイル保持部11bの延在方向に間隔をおいて一体成型されている。
【0024】
加えて、環状の凸部15a、15bの対向辺には、後述する二次側インサート体13にインサート成型される二次側コイル17の実装端子17aとの間に介在される凸部16a、16bが一体に形成されている。
【0025】
さらに、この一次側インサート体12には、上記凸部16bの外方にそれぞれ支柱(支承部)18が一体成型されている。これらの支柱18は、二次側インサート体13の成型時に一次側インサート体12を金型内に保持するためのもので、両端面18aが二次側インサート体13の外形を画成するキャビティの内面に当接する寸法に形成されている。
【0026】
以上の構成からなる一次側インサート体12をインサート成型した二次側インサート体13には、一次側インサート体12に隣接して巻線部19が一次側コイル11と同軸的に形成されている。また、この巻線部19の反対側にはフランジ部20が形成されるとともに、巻線部19の中心部には、内部の一次側インサート体12の貫通孔14と連通する貫通孔21が形成されている。
【0027】
そして、このカレントトランスは、巻線部19に二次側コイル17が巻回されてその端部が実装端子17aに絡げられるとともに、ボビン10の外周および二次側インサート体13および一次側インサート体12に形成された貫通孔21、14に、一対のニッケル系のE型コア22の外足22aおよび中足22bがそれぞれ対向配置されることによって構成されている。なお、図中の符号18aは、二次側インサート体13の成型時に一次側インサート体12を金型内に保持することにより成型後にボビン10の表面に露出する支柱18の端面である。
【0028】
以上の構成からなるカレントトランスによれば、コイル保持部11bを利用して一次側コイル11のみをインサート成型によって一次側インサート体12に埋設し、さらにこの一次側インサート体12をインサート成型によって二次側インサート体13に埋設しているために、一次側インサート体12から突出するコイル保持部11bを、二次側インサート体13の絶縁性樹脂によって完全に覆うことができる。この結果、コイル保持部11bと、二次側コイル17やその実装端子17aとの間の沿面距離を考慮する必要が無い。
【0029】
しかも、一次側インサート体12の外周面であって貫通孔14とコイル保持部11bとの間に、コイル保持部11bの延在方向と直交する方向に環状に突出する2条の凸部15a、15bを一体に形成しているために、図5(b)に示すように、一次側インサート体12と二次側インサート体13との間の界面を介したコイル保持部11bとコアとの間の沿面距離Lを長く確保することができる。
【0030】
加えて、凸部15a、15bの対向辺に、二次側インサート体13にインサート成型される二次側コイル17の実装端子17aとの間に介装される凸部16a、16bを一体に形成しているために、同様に一次側インサート体12と二次側インサート体13との間の界面を介したコイル保持部11bと上記実装端子11aとの間の沿面距離も増加させることができる。
【0031】
さらに、一次側コイル11を、実装端子11a側に向けて順次巻線部19から離間する方向に2段階に屈曲することにより2つの平行部分11c、11dを形成し、一段目の平行部分11cの中央部から実装端子11a側をボビン10から外方に延出させているために、図4(b)に示すように、一次側コイル11を実装面により近い部分から外方に延出させることができ、この結果巻線部19に巻回される二次側コイル17との間の沿面距離L図8(b)に示した従来のカレントトランスにおける沿面距離Lよりも長く確保することができる。
【0032】
以上のように、上記カレントトランスによれば、ボビン10を大型化することなく一次側コイル11と二次側コイル17およびコア22との間に所望の絶縁距離を確保することができ、よって一層の小型化を実現することも可能になる。
【0033】
また、一次側インサート体12に、二次側インサート体13のインサート成型時に一次側インサート体12を金型内に固定するための支柱18を形成しているために、金型内において樹脂圧により一次側インサート体12が移動することを確実に防止することができる。
【0034】
なお、上記実施形態においては、一次側インサート体11に、二次側インサート体13の成型時に当該一次側インサート体12を金型内に保持するための支承部として、支柱18を一体に形成した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、金型の形状や絶縁性樹脂の射出方向等の条件によって、一次側インサート体12を金型内に保持するための様々な形態を採用することが可能である。
【符号の説明】
【0035】
10 ボビン
11 一次側コイル
11a 実装端子(端子)
11b コイル保持部
12 一次側インサート体
13 二次側インサート体
14、21 貫通孔
15a、15b、16a、16b 凸部
17 二次側コイル
17a 実装端子
18 支柱(支承部)
18a 端面
19 巻線部
22 E型コア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8