(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックス製ハニカム構造体(以下、単に「ハニカム構造体」と称す。)は、自動車排ガス浄化用触媒担体、ディーゼル微粒子除去フィルタ、或いは燃焼装置用蓄熱体等の広範な用途に使用されている。ハニカム構造体は、成形原料(杯土)を混合及び調製した後、押出成形機を通じて所望のハニカム形状(例えば、円柱状)に押出成形する成形工程と、押し出されたハニカム成形体を所定の長さに生切断する生切断工程と、誘電乾燥及び熱風乾燥を組み合わせ、ハニカム成形体を乾燥させる乾燥工程と、乾燥させたハニカム成形体の端面仕上げを行う仕上げ工程と、ハニカム成形体を高温で焼成する焼成工程とを経ることで製造されている。
【0003】
生切断工程は、押出成形機によって押出成形された長尺状の未切断のハニカム成形体を細い金属ワイアー等の切断具を用いて所定の長さに切断するものである。押出成形直後の乾燥前のハニカム成形体は水分を多く含み、柔らかい。そのため、金属ワイアー等を利用して容易に切断することができる。しかしながら、金属ワイアーと接触することによってハニカム成形体の全体形状が変形したり、金属ワイアーとの切断面に変形(主にセルの変形)が生じることがある。
【0004】
そのため、乾燥工程後にハニカム成形体の端面を加工し、上記生切断工程によって生じたセル変形等を除去するための端面仕上げを行う仕上げ工程が行われる。
【0005】
径の大きなハニカム構造体(以下、「大型ハニカム構造体」と称す。)の場合、上記の仕上げ工程は、乾燥工程後のハニカム成形体の両端部分を、互いに離間して配置された一対のカッターの間を通して切断する仕上げ切断工程と、仕上げ切断工程の際に端面に生じたチッピングや送りマークを除去するために、ハニカム成形体の端面(切断面)を周知のカップ型砥石100(
図8参照)を用いて端面研削する端面研削工程とが実施される(例えば、特許文献1参照。)。仕上げ切断工程において、ハニカム成形体本体から除去される両端部分の切断片が薄いと、カッター刃先が外側に逃げて直角度不良となる可能性があり、切断直後にハニカム成形体本体がカッターからダメージを受ける可能性があった。前記の問題を避けるために、カッターによる両端部分の切断幅を、例えば、少なくとも10mm以上に設定する必要があった。これに対し、カップ型砥石による端面の研削量(研削深さ)は、例えば、1〜2mm程度であった。これにより、生切断工程で発生したセルの変形が除去されたハニカム成形体が形成され、その後の焼成工程にハニカム成形体が送られる。大型ハニカム構造体では焼成工程の後に、外周研削工程でハニカム構造体の外周面が研削加工されて、生切断工程で生じたハニカム成形体の全体形状の変形は除去され、外周コート工程で外周壁が形成される。一方、自動車排ガス浄化用触媒担体として使用されるハニカム構造体(以下、「自排ハニカム構造体」と称す。)の場合、上記仕上げ切断工程のみが実施される。従って自排ハニカム構造体では仕上げ切断工程において、生切断工程で生じたハニカム成形体の全体形状の変形も除去する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、仕上げ工程では、ハニカム成形体の両端部分を切断する仕上げ切断工程と、切断後の端面を端面研削する端面研削工程の二つの工程(大型ハニカム構造体の場合)、または仕上げ切断工程のみ(自排ハニカム構造体の場合)を行う必要があり、特に、仕上げ切断工程及び端面研削工程の双方を実施する大型ハニカム構造体の製造において、各工程毎に時間を要し、効率的なハニカム構造体の製造を阻害する要因ともなっていた。
【0008】
更に、仕上げ切断工程を行うためには、ハニカム成形体を正確に一対のカッターの間で位置決めする精度が求められていた。この位置決め精度が不十分な場合、ハニカム成形体の端面の側面に対する直角度不良の問題を生じることがあった。従って、仕上げ切断工程では、直角度を良好に仕上げるための位置決めの調整代も必要となる。
【0009】
しかしながら、乾燥後のハニカム成形体の両端部分の除去は、生切断工程の際に発生したハニカム成形体の全体形状の変形の長さ、ハニカム成形体の端面からのセルの変形の深さ、及びハニカム成形体のセルの直角度調整量の中のいずれか大きいものを基準として決定される。一例を挙げると、ハニカム成形体の全体形状の変形の長さは、自排ハニカム構造体の場合、隔壁の厚さが比較的厚く、かつ寸法精度が厳しくない条件であれば5mm程度である。なお、大型ハニカム構造体の場合は、後の工程で外周研削がなされるため、ハニカム成形体の全体形状の変形の長さに関しては特に制約がない。更に、生切断によるセルの変形の深さは、自排ハニカム構造体で5mm程度であり、自排ハニカム構造体よりも隔壁が厚い大型ハニカム構造体で3mm程度である。また、直角度調整代は、自排ハニカム構造体で1mm程度、大型ハニカム構造体で最大6mm程度である。
【0010】
乾燥後のハニカム成形体の両端部分を6mm程度除去すれば、生切断工程の際に発生した変形を除去しうる。一方、仕上げ切断時の切断代が少ないと、切断除去側からのカッターに対する反力が減少して、前記一対のカッターの刃先が外側に逃げて「ハの字」状に開く。その結果、切断後のハニカム成形体に直角度不良が生じることがある。また、切断直後に「ハの字」状に開いたカッターが元に戻るので、切断後のハニカム成形体と接触して、ハニカム成形体に損傷を与えることがある。これらの不具合を回避するために、切断代を10mm以上に設定している。仕上げ切断を端面研削に置き換えれば、除去量を削減することができ、大型ハニカム構造体の場合は仕上げ切断工程を省略することが出来る。上記を実現するためには、端面研削工程において少なくとも6mm以上の端面研削能力を有する研削用砥石が必要であった。
【0011】
端面研削に使用される一般的なカップ型砥石100(
図8参照)は、中央部が窪んだカップ状の砥石基板101を有し、当該砥石基板101の縁に当たる基板端面102(カップの縁に相当)に、超硬度のダイヤモンド砥粒等を焼結剤に混ぜて焼結固着した砥粒層103を有するものである。ここで、カップ型砥石100の研削量(研削深さ)の限界値は、基板端面102からの砥粒層103の高さHに依存し、通常5mm程度である。
【0012】
基板端面102からの砥粒層103の高さHを上記の限界値以上にすると、ハニカム成形体と砥粒層103とが接触した際の加工負荷が増加し、回転するカップ型砥石100の回転にぶれが生じ易くなる。そのため、端面を良好に研削することが難しくなる可能性があった。更に、基板端面102から上記限界値以上の高さに砥粒層103を形成すること自体が困難であり、上記加工負荷に伴って研削加工の途中に基板端面102から砥粒層103が脱落する可能性があった。その結果、安定した研削加工が行えないことがあった。すなわち、研削量による限界、加工精度の悪化、及び砥粒層103の形成の困難さから、従来のカップ型砥石100を用いて5mmを超える研削量の端面研削を行うことができなかった。
【0013】
したがって、大型ハニカム構造体及び自排ハニカム構造体において、生切断後のハニカム成形体を、端面研削工程のみで実施することは難しく、大型ハニカム構造体の場合、両端部分を粗切断する切断工程を省略することはできず、自排ハニカム構造体の場合、切断工程に替えて端面研削工程を実施することができなかった。
【0014】
そこで、本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、仕上げ工程におけるハニカム成形体の切断工程を省略または置換し、端面研削工程のみでハニカム成形体の端面の仕上げを可能とするハニカム構造体の製造方法及び当該製造方法に使用される研削用砥石が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、上記課題を解決したハニカム構造体の製造方法、及び研削用砥石が提供される。
【0016】
[1]円板状の砥石基板、前記砥石基板の外周面に焼結固着して形成された粗砥粒層、及び前記粗砥粒層の
一方の粗層面
及び他方の粗層面から前記砥石基板の円板面に直交する方向に沿って
それぞれ延設され、前記粗砥粒層を構成する粗砥粒より細かい粒径の細砥粒を使用して前記粗砥粒層に焼結固着して形成された
一対の細砥粒層を有する研削用砥石を用い、互いの前記細砥粒層を対向させた状態で所定の間隔を空けて配置された一対の前記研削用砥石を回転軸に従って回転させる砥石回転工程と、成形原料を成形して、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有し、押出成形、切断および乾燥により形成されたハニカム成形体を、前記ハニカム成形体の中心軸方向に直交する方向に沿って、一対の前記研削用砥石の間に搬送する搬送工程と、搬送された前記ハニカム成形体の前記端面を、回転する前記研削用砥石で端面研削する端面研削工程と、端面研削された前記ハニカム成形体を焼成する焼成工程とを有
し、前記研削用砥石の前記細砥粒層は、前記粗砥粒層の前記粗層面の外端から前記研削用砥石の回転軸の側に傾斜した傾斜面を備える傾斜部を有し、前記傾斜部の前記傾斜面、及び、前記細砥粒層の細層面を延長した仮想延長線の間のなす角度は、15°〜30°の範囲に設定されているハニカム構造体の製造方法。
【0017】
[2]前記焼成工程によって焼成されたハニカム構造体の外周部を研削加工する外周研削工程と、研削加工された前記ハニカム構造体の前記外周部に、外周コート材を塗布し乾燥させる外周壁形成工程とを更に有する前記[1]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0018】
[3]前記端面研削工程は、前記ハニカム成形体の前記端面を少なくとも6mm以上端面研削する前記[1]または[2]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0019】
[4]前記粗砥粒層は、前記砥石基板より厚く形成されている前記[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0020】
[5]前記粗砥粒層の互いに対向する一対の前記粗層面に、前記細砥粒層がそれぞれ焼結固着して形成された前記[1]〜[4]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0023】
[6]円板状の砥石基板と、前記砥石基板の外周面に焼結固着して形成された粗砥粒層と、前記粗砥粒層の一方の粗層面及び他方の粗層面から前記砥石基板の円板面に直交する方向に沿ってそれぞれ延設され、前記粗砥粒層を構成する粗砥粒より細かい粒径の細砥粒を使用して前記粗砥粒層に焼結固着して形成された一対の細砥粒層とを有
する研削用砥石であって、前記細砥粒層は、前記粗砥粒層の前記粗層面の外端から前記研削用砥石の回転軸の側に傾斜した傾斜面を備える傾斜部を更に有し、前記傾斜部の前記傾斜面、及び、前記細砥粒層の細層面を延長した仮想延長線の間のなす角度は、15°から30°の範囲に設定されている研削用砥石。
【0024】
[
7]前記粗砥粒層は、前記砥石基板の基板厚さよりも厚く形成されている前記[
6]に
記載の研削用砥石。
【0025】
[
8]前記粗砥粒層の互いに対向する一対の前記粗層面に、前記細砥粒層がそれぞれ焼
結固着されている前記[
6]または[
7]に記載の研削用砥石。
【発明の効果】
【0028】
本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、仕上げ工程におけるハニカム成形体の切断工程を省略または置換し、端面研削工程のみでハニカム成形体の端面の仕上げを可能とするハニカム構造体の製造方法が提供される。
【0029】
本発明の研削用砥石によれば、上記ハニカム構造体の製造方法による効果に加え、粗砥粒層の各粗層面に一対の細砥粒層を挟み込むようにして研削用砥石を構成することで、取付方向を変更することにより、研削用砥石自体を交換することなく、新たなハニカム成形体の研削加工を行うことができ、研削用砥石の製作コストの低減化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しつつ本発明の一実施形態のハニカム構造体の製造方法、及び研削用砥石について詳述する。なお、本発明のハニカム構造体の製造方法、及び研削用砥石は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、種々の設計の変更、修正、及び改良等を加え得るものである。
【0032】
本発明の一実施形態のハニカム構造体の製造方法1は、
図1〜
図4に主として示す研削用砥石10を用いるものであり、互いの細砥粒層11a(または細砥粒層11b、詳細は後述する。)を対向させた状態で所定の間隔を空けて配置された一対の研削用砥石10を回転軸Dに従って回転させる砥石回転工程と、成形原料を成形して、流体の流路となる一方の端面21aから他方の端面21bまで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有し、押出成形、生切断、及び乾燥の各工程を経て形成されたハニカム成形体20を、ハニカム成形体20の中心軸B方向に直交する搬送方向C(図
3参照)に沿って、一対の研削用砥石10の間に搬送する搬送工程と、搬送されたハニカム成形体20の端面21a,21bを、回転する研削用砥石10で端面研削する端面研削工程と、端面研削されたハニカム成形体20を焼成する焼成工程とを主に有している。更に、本実施形態のハニカム構造体の製造方法1は、焼成されたハニカム構造体の外周部を研削加工する外周研削工程と、研削加工されたハニカム構造体の外周部に、外周コート材を塗布し乾燥させる外周壁形成工程とを有するものでもよい。
【0033】
ハニカム構造体の製造方法1は、従来の仕上げ工程において使用される端面研削装置(図示しない)及び端面研削装置にハニカム成形体20を搬送する搬送装置(図示しない)を利用して実施される。既存の端面研削装置等の設備を利用しつつ、端面研削装置に装着する研削用砥石10を新規なものとすることで、研削用砥石10の研削量(研削深さ)の上限値をアップさせ、ハニカム成形体20の両端部分を切断する切断工程を省略、または端面研削工程に置換することができる。
【0034】
本実施形態の研削用砥石10は、アルミニウム製の円板状の砥石基板12と、該砥石基板12に焼結固着して形成された粗砥粒層13と、粗砥粒層13を双方向から挟み込むようにして焼結固着して形成された一
対の細砥粒層11a,11bとを有している。すなわち、砥石基板12に対し、粒径の異なる二種類の砥粒を用いた二つの砥粒層13,11a,11bが設けられている。
【0035】
砥石基板12は、予め規定された砥石基板の厚さH1で形成された円板状の部材であり、回転軸Dから少し離間した位置に、基板上面12a及び基板底面12bを貫通する合計16個の貫通孔部14a,14bが、互いに等間隔で穿設されている。
【0036】
回転軸Dを中心に45°の間隔で配置された8個の貫通孔部14aは、基板上面12a側の開孔径に対し、基板底面12b側の開孔径が小さくなるように設定され、砥石基板12の内部で開孔径が変化する段差が設けられている。一方、回転軸Dを中心にそれぞれの貫通孔部14aから22.5°ずれた位置に配置された8個の貫通孔部14bは、基板底面12b側の開孔径に対し、基板上面12a側の開孔径が小さくなるように設定され、砥石基板12の内部で開
孔径が変化する段差が設けられている。
【0037】
これにより、基板上面12a側から貫通孔部14aに対して、固定用ボルト(図示しない)を挿入し、基板底面12bを通って端面研削装置の取付部(図示しない)に螺設することで、基板上面12aから固定用ボルトのボルト頭部が突出することなく、端面研削装置に本実施形態の研削用砥石10を強固に固定することができる。そのため、ハニカム成形体20を研削する際に、上記固定用ボルトがハニカム成形体20の搬送を阻害することがない。更に、研削用砥石10の基板上面12a及び基板底面12bを反転させて端面研削装置に螺設する場合も同様に、固定用ボルトがハニカム成形体20の搬送を阻害することがない。
【0038】
粗砥粒層13は、砥石基板12の円板面15に沿って、当該円板面15を被覆するように形成されたものであり、断面が略矩形状であり、全体として円環状を呈している。粗砥粒層13は、従来のカップ型砥石100(
図8参照)と同様に、周知の砥粒及び結合剤を所定比率で混合した混合物を焼結固着することによって形成される。すなわち、砥石基板12の円板面15に係る混合物を所定厚さになるように塗着し、更に塗着形状を整えた後、高温で焼結することにより、円板面15に強固に接合された粗砥粒層13が形成される。
【0039】
粗砥粒層13を形成する砥粒及び結合剤の種類は特に限定されるものではなく、従来から使用されているものを任意に選択して使用することができる。例えば、砥粒としては、超硬質のダイヤモンド砥粒、CBN(Cubic Boron Nitride)砥粒(立方晶窒化硼素砥粒)等を用いることができる。一方、結合剤としては、レジンボンド、メタルボンド、及びこれらを一定の比率で混合したレジン−メタルボンド(レジメタ)、あるいはビトリファイドボンド等を用いることができる。
【0040】
本実施形態の研削用砥石10において、粗砥粒層13及び後述する細砥粒層11a,11bは、砥粒としてダイヤモンド砥粒が選択され、当該ダイヤモンド砥粒をレジン−メタルボンドからなる結合剤を用いて焼結固着したものが採用されている。また、使用する砥粒の粒径は、後述する細砥粒層11a,11bで使用する砥粒の粒径よりも大きなものが用いられる。そのため、粗砥粒層13では、ハニカム成形体20は、研削面が粗く削られるものの、一回のハニカム成形体20との接触によって研削量を多くすることができる。
【0041】
更に、粗砥粒層13は、砥石基板12の円板面15に焼結固着する際に、砥石基板の厚さH1(基板上面12aから基板底面12bに至る長さに相当、
図4参照。)よりも、粗砥粒層13の高さH2が厚くなるように形成されている。その結果、砥石基板12の基板上面12a及び基板底面12bに対し、粗砥粒層13の一方の粗層面16a及び他方の粗層面16bがそれぞれ上方または下方に突出している。本実施形態の研削用砥石10において、この突出した部分の高さ、すなわち、砥石基板12の基板上面12a(または基板底面12b)からの高さH3は約5mmに設定されている。
【0042】
細砥粒層11a,11bは、粗砥粒層13を形成した後に粗砥粒層13の一方の粗層面16a及び他方の粗層面16bにそれぞれ研削用砥石10の回転軸方向(
図2における紙面上下方向に相当)に延設されたものである。なお、細砥粒層11a,11bは、粗砥粒層13と同一の手法で形成され、砥粒及び結合剤を用いてそれぞれの粗層面16a,16bに焼結固着して形成される。
【0043】
細砥粒層11a,11bに使用する砥粒の粒径は、前述した粗砥粒層13で使用する砥粒の粒径よりも小さなものが用いられる。そのため、細砥粒層11a,11bでは、ハニカム成形体20は、一回の接触によって削り取られる量は小さいものの、研削面を滑らかにすることができる。
【0044】
更に、細砥粒層11a,11bは、粗砥粒層13の粗層面16a,16bの外端縁16cから研削用砥石10の回転軸Dの側に傾斜した傾斜面17aを備える傾斜部17を有している。傾斜部17の傾斜面17aと、細砥粒層11a,11bの細層面18a,18bを研削用砥石10の円板面方向に延長した仮想延長線Lの間のなす角度θが、15°から30°の範囲、更に好ましくは17°〜27°の範囲に設定されている。ここで、研削用砥石10の砥石幅W1に対し、細層面の幅W2が狭くなっている。
【0045】
なす角度θが30°よりも大きいと、研削対象のハニカム成形体20との間の加工負荷が大きくなる。一方、15°よりも小さいと、傾斜部17の傾斜面17aの距離が長くなり、最終的なハニカム成形体20の長さまで加工するのに時間を要することがある。そのため、なす角度θは上記範囲に設定されている。
【0046】
細砥粒層11a,11bは、円板面側が回転軸D側に傾斜した断面略台形状を示し、全体として円環状を呈している(
図4参照)。なお、本実施形態において、同一形状の細砥粒層11a,11bを示したが、これに限定されるものではなく、例えば、傾斜部17の傾斜面17aを異なるなす角度θで形成したものや、あるいは、粗層面16a,16bからの細砥粒層11a,11bの層厚を変化させてもよい。
【0047】
上記構成の研削用砥石10を用いてハニカム成形体20の端面研削が行われる。
図3に模式的に示すように、押出成形、生切断、および乾燥の各工程を経て仕上げ工程に送られたハニカム成形体20は、ハニカム成形体20の中心軸方向Bに直交する方向(搬送方向C)に沿って搬送される。
【0048】
搬送先の端面研削装置には、予め一対の研削用砥石10が互いの細砥粒層11a,11a同士を対向させた状態で、ハニカム成形体20の長さに一致する間隔だけ離間して配置されている。端面研削装置に装着された研削用砥石10は、回転軸Dに従って所定の回転方向Rに回転数を同期させて回転している。回転する一対の研削用砥石10の間にハニカム成形体20が搬送される。
【0049】
回転する研削用砥石10に近接したハニカム成形体20は、始めに研削用砥石10の最外に位置する粗砥粒層13と接触する。更に具体的に説明すると、ハニカム成形体20の角部23を含む外周部22が接触する。ここで、粗砥粒層13は、粒径の大きな砥粒を使用して形成されているため、ハニカム成形体20の搬送に伴って、一方の端面21aを一回の接触による研削量を大きくして研削することができる。
【0050】
図4においてハッチング領域Eで示した部分が、粗砥粒層13によって研削される部分である。これにより、カッターを利用した粗切断と略同一の効果を奏することができる。しかしながら、比較的粒径の大きな砥粒を使用するため、研削面は粗い状態である。
【0051】
この状態で更にハニカム成形体20の搬送を継続することにより、ハニカム成形体20の外周部22の一部は、傾斜部17を有する細砥粒層11aと接触する。これにより、粗砥粒層13で削り取られたハッチング領域Eより下方の部分(ハッチング領域F)は、細かな粒径の砥粒を用いて形成された細砥粒層11aによって研削される。その結果、ハニカム成形体20の端面21aは、平面度の高い滑らかな面となる。
【0052】
これにより、既存のカップ型砥石100を用いた端面研削と同一の効果を奏することができる。最終的に、ハニカム成形体20の端面21aは、細砥粒層11aの細層面18aと一致する位置まで研削される。なお、同様の処理が対向する研削用砥石10においても実施される。その結果、ハニカム成形体20の一方の端面21a及び他方の端面21bを同時に研削加工することができる。
【0053】
これにより、粒径の異なる二種類の砥粒を使用してそれぞれ粗砥粒層13及び細砥粒層11a,11bを設け、始めに粗砥粒層13による粗研削、その後に細砥粒層11a,11bによる細研削を行うことにより、研削用砥石10の研削量(研削深さ)の上限値をアップさせることができる。本実施形態の研削用砥石10によれば、少なくとも6mm以上端面研削することができる。その結果、従来の一対のカッターを用いた粗切断の作業を省略することができ、研削用砥石10のみでハニカム成形体20の端面仕上げを行うことができる。これにより、特に、大型ハニカム構造体の製造において、両端部分を切断するプロセスの省略が可能となり、ハニカム成形体20の形成に係るコストを削減することができる。
【0054】
加えて、本実施形態の研削用砥石10は、粗砥粒層13の両側(
図2における紙面上下方向)から挟み込むように一対の細砥粒層11a,11bが形成されている。そのため、ハニカム成形体20に対する仕上げ工程を継続し、特に細砥粒層11aの研削性能が低下した場合、研削用砥石10の固定方向を反転し、他方の細砥粒層11b同士を対向するように端面研削装置に固定することができる。これにより、研削用砥石10の研削性能が復活し、良好な端面21a,21b等に対する仕上げ工程を行うことができる。すなわち、研削用砥石10に要するコストの削減も可能となる。
【0055】
その後、仕上げ工程の完了したハニカム成形体を焼成することでハニカム構造体が製造される。なお、必要に応じて、焼成後のハニカム構造体の外周部を研削加工し、当該外周部に外周壁を形成し、外周コートハニカム構造体とすることもできる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明のハニカム構造体の製造方法、及び研削用砥石について、下記の実施例に基づいて説明するが、本発明のハニカム構造体の製造方法、及び研削用砥石は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
(1)加工負荷の比較
本実施形態の研削用砥石と、カップ型砥石(
図8参照)とをそれぞれ用い、ハニカム成形体の研削加工時における加工負荷を測定し、それぞれ比較した。なお、ハニカム成形体の端面からの研削深さをそれぞれ2mm、5mm、及び7mmにした時の結果を以下に示す。ここで、搬送方向Cに対して直交し、かつ下方側をX軸とし、搬送方向Cと反対方向をY軸とし、搬送方向Cに直交する方向(ハニカム成形体の中心軸方向Bに一致)をZ軸として、それぞれ軸方向における加工負荷の値(N)を計測した(
図3参照)。
【0058】
これによると、研削深さが2mm(
図5)及び5mm(
図6)の場合、従来のカップ型砥石と本実施形態の研削用砥石の間ではそれぞれのX軸、Y軸、Z軸において加工負荷にほとんど違いが認められなかった。すなわち、研削深さが5mm程度までであれば、本実施形態の研削用砥石はほぼ同等の性能を発揮することが確認された。
【0059】
一方、研削深さが7mm(
図7)の場合、従来のカップ型砥石の加工負荷の値が大きいのに対し、本実施形態の研削用砥石は加工負荷の値が小さく抑えられた。すなわち、本実施形態の研削用砥石のように、円板状の研削基板の外周面に粗砥粒層を設け、かつ当該粗砥粒層の粗層面に異なる粒径の砥粒を用いた細砥粒層を形成することにより、研削深さが7mmのような大きな場合であっても加工負荷を著しく減少させることができる。
【0060】
これにより、研削深さが7mmの場合であっても安定してハニカム成形体の端面の研削を行うことができる。そのため、ハニカム成形体の端面にセル欠けやチッピング等の不良を生じる虞が小さくなり、効率的にハニカム成形体の形成が可能となる。
【0061】
(2)研削用砥石による研削
実施例1〜3及び比較例1〜6の研削用砥石を用いて、ハニカム成形体を端面研削した端面研削の条件予及び評価の結果を下記表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
(2−1)ハニカム成形体及び端面研削条件
研削対象のワークとなるハニカム成形体のハニカム径、ハニカム長さ、隔壁の厚さ、及びセル密度、及び研削用砥石の加工速度及び砥石周速に関するデータを上記表1の上段位置に示している。また、端面研削に使用した実施例1〜3及び比較例1〜6の研削用砥石の種類、研削用砥石のサイズ(傾斜面のなす角度θ、研削用砥石の高さH4、砥石幅W1、粗粒層の高さH2、細層面の幅W2、砥石の外径:
図4参照)、細粒層及び粗粒層の砥石の番手に関するデータを上記表1の中段位置に示している。また、研削用砥石の種類において、「ハイブリッドタイプ」が本発明の異なる粒径の二種類の番手(#120,#80)の砥石を使用した研削用砥石を示し、「シングルタイプ」が一種類の番手(#120)の砥石を使用した研削用砥石を示している。また、カップ型砥石は従来から端面研削において使用されている周知のものである。
【0064】
(2−2)端面の評価基準
上記(2−1)の端面研削条件に基づいてハニカム成形体の端面研削を行い、端面研削加工後のハニカム成形体の端面を目視により確認した。端面研削加工後に端面の“チッピング”及び“送りマーク”の有無及び長さに基づいて研削用砥石を評価した。評価基準を具体的に示すと、端面に“チッピング”がなく(0個)、かつ、送りマークの長さが35μm以下の場合、量産可能なレベルの品質にあるものとして“良好”の評価とした。一方、上記2つの条件をいずれか一方でも満たさない場合、量産不可のレベルにあるものとして、“不良”の評価とした。
【0065】
(2−3)研削用砥石の評価結果
上記(2−2)の評価基準に基づいて、実施例1〜3、比較例1〜6の研削用砥石について、ハニカム成形体の端面研削を行った結果を、表1の下段位置に示す。各研削用砥石について、端面に対する研削量を三段階(2mm、5mm、7mm)に変化させ、それぞれの研削量におけるチッピング及び送りマークを確認した。
【0066】
これによると、実施例1〜3の研削用砥石を使用した場合、チッピング及び送りマークのいずれにおいても良好な評価であった。ハニカム成形体の隔壁の隔壁厚さの違い、ハニカム径及びハニカム長さの違い、及び研削用砥石の傾斜面のなす角度θの違いによって特に差異は認められなかった。その結果、本発明の研削用砥石は、ハニカム成形体の端面研削に特に有用であることが示された。
【0067】
一方、比較例1及び比較例2の場合(シングルタイプの研削用砥石を使用)、研削量が浅い2mm及び5mmでは、良好な評価が得られるものの、研削量が深くなる7mmの場合、チッピング及び送りマークのいずれもが不良となった。この結果は、上記(1)における加工負荷の比較と同じ傾向を示した。すなわち、研削量が深くなるにつれて、シングルタイプの研削用砥石の場合、加工負荷が過剰となることが予想され、良好な端面研削が行えなくなると推察される。
【0068】
更に、比較例3及び比較例4の場合(カップ型砥石を使用)、比較例1及び比較例2と同様に、研削量が浅い2mm及び5mmでは、良好な評価が得られるものの、研削量が深くなった場合、カップ型砥石の砥粒部寸法を超過したため、端面研削自体の加工が不可となった。
【0069】
一方、比較例5に示すように、ハニカム成形体の隔壁の厚さが薄い場合(0.08mm/3.15mil)、チッピング及び送りマークにおいて良好な評価を得た。しかしながら、隔壁の厚さが厚くなるに従って、一種類の番手(#120)の砥粒層しか備えていないため、端面研削が不良になることが予想される。また、比較例6は、従来型のカップ型砥石を使用したものであり、この場合、研削量の限界が2mmとなる。
【0070】
上記に示したように、本発明のハニカム構造体の製造方法、及び研削用砥石によれば、従来のカップ型砥石と比べて研削量を大幅に向上させることができる。その結果、特に、従来は乾燥後の切断工程及び端面研削工程が必要であった大型ハニカム構造体に対し、端面研削工程のみで仕上げ工程を行うことができ、ハニカム構造体の製造効率を向上させることができる。加えて、従来は切断工程のみで実施されて自排ハニカム構造体に対しても、研削用砥石の研削量を向上させたことにより、切断工程に替えて端面研削工程のみで仕上げ工程を実施することができる。なお、自排ハニカム構造体の製造に用いる場合、隔壁が厚く、寸法精度が厳密に要求されないものへの使用が好適である。これにより、端面研削による仕上げ代を少なくとも5mm程度抑えることが可能となる。