(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動源に駆動連結された入力部材と、車輪に駆動連結された出力部材と、前記入力部材から前記出力部材までの動力伝達経路上に設けられ、複数のプラネタリギヤの組合せからなり、ギヤ比に対応して順番に並ぶ第1、第2、第3、及び第4回転要素を有し、前記第3回転要素が前記出力部材に駆動連結されたプラネタリギヤセットと、油圧の給排により係脱し、前記第1、第2、及び第4回転要素に連結され、同時係合する組み合わせにより複数の変速段を選択的に形成可能な複数の係合要素と、を有する自動変速機構と、
前記係合要素に対して油圧を給排可能な油圧制御装置と、
前記油圧制御装置を電気的に制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記駆動源を停止して惰性走行を行う際に、前記第2回転要素又は前記第4回転要素に連結される全ての係合要素を解放し、前記駆動源が停止した後に前記第1回転要素を回転または停止させる係合要素の全てを係合する、
車両用駆動装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態に係る車両用駆動装置3の制御装置20を、
図1乃至
図3に沿って説明する。尚、本明細書中で駆動連結とは、互いの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、それら回転要素が一体的に回転するように連結された状態、あるいはそれら回転要素がクラッチ等を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いる。
【0012】
本実施形態の車両用駆動装置3を備える車両1の概略構成について
図1に沿って説明する。車両1は、内燃エンジン(駆動源)2と、車両用駆動装置3と、不図示の車輪等とを備えている。内燃エンジン2は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であり、車両用駆動装置3に連結されている。車両用駆動装置3は、自動変速機10と、ECU(制御装置)20と、油圧制御装置30と、機械式オイルポンプ(MOP)40と、電動オイルポンプ(元圧生成部、EOP)50と、ミッションケース(ケース)60とを備えている。
【0013】
自動変速機10は、自動変速機10の入力軸11と、発進装置12と、変速機構(自動変速機構)14の入力軸(入力部材)13と、変速機構14と、出力軸(出力部材)15とを、同一軸線上に並べて備えている。自動変速機10の入力軸11は、内燃エンジン2に接続されている。
【0014】
発進装置12は、トルクコンバータ(流体伝動装置)16と、それをロックアップし得るロックアップクラッチ17とを備えている。トルクコンバータ16は、自動変速機10の入力軸11に接続されたポンプインペラ16aと、作動流体である油を介してポンプインペラ16aの回転が伝達されるタービンランナ16bと、それらの間に配置されると共にワンウェイクラッチ16dにより一方向に回転が規制されたステータ16cとを有している。タービンランナ16bは、変速機構14の入力軸13に接続されている。ロックアップクラッチ17は、係合によりフロントカバー17aと変速機構14の入力軸13とを直接係合し、トルクコンバータ16をロックアップした状態にする。
【0015】
変速機構14は、ケース60に収容され、入力軸13側から順に、第1プラネタリギヤ(入力プラネタリギヤ)SP1と、第2及び第3プラネタリギヤSP2,SP3からなるプラネタリギヤセットPSと、を備えている。第1〜第3プラネタリギヤSP1〜SP3は、いずれもシングルピニオンプラネタリギヤにより構成されている。
【0016】
第1プラネタリギヤSP1は、第1サンギヤS1と、第1リングギヤR1と、それら第1サンギヤS1及び第1リングギヤR1に噛合する第1ピニオンP1を回転自在に支持する第1キャリヤCR1と、を有して構成されている。
【0017】
第1サンギヤS1は、変速機構14の入力軸13に常時駆動連結されている。また、第1リングギヤR1は、第1ブレーキB1によりケース60に対して係止(固定)自在となっている。そして、第1キャリヤCR1は、後述の第2プラネタリギヤSP2の第2リングギヤR2に駆動連結されていると共に、第2ブレーキB2によりケース60に対して係止(固定)自在となっている。
【0018】
プラネタリギヤセットPSは、所謂シンプソンタイプからなり、第2プラネタリギヤSP2と、第3プラネタリギヤSP3とを有して構成されている。第2プラネタリギヤSP2は、第2サンギヤS2と、第1キャリヤCR1に駆動連結された第2リングギヤR2と、それら第2サンギヤS2及び第2リングギヤR2に噛合する第2ピニオンP2を回転自在に支持する第2キャリヤCR2と、を有して構成されている。なお、第2プラネタリギヤSP2において、第2リングギヤR2はプラネタリギヤセットPSの第1回転要素、第2キャリヤCR2はプラネタリギヤセットPSの第2回転要素、第2サンギヤS2はプラネタリギヤセットPSの第4回転要素にそれぞれ相当する(
図3参照)。
【0019】
また、第3プラネタリギヤSP3は、第2サンギヤS2に駆動連結された第3サンギヤS3と、第2キャリヤCR2に駆動連結された第3リングギヤR3と、それら第3サンギヤS3及び第3リングギヤR3に噛合する第3ピニオンP3を回転自在に支持する第3キャリヤCR3と、を有して構成されている。なお、第3プラネタリギヤSP3において、第3リングギヤR3はプラネタリギヤセットPSの第2回転要素、第3キャリヤCR3はプラネタリギヤセットPSの第3回転要素、第3サンギヤS3はプラネタリギヤセットPSの第4回転要素にそれぞれ相当する(
図3参照)。
【0020】
プラネタリギヤセットPSにおける第2サンギヤS2及び第3サンギヤS3は、変速機構14の入力軸13との間に介在された第1クラッチC1に接続されており、つまり第2サンギヤS2及び第3サンギヤS3には、第1クラッチC1を介して入力軸13の回転が選択的に入力し得るように構成されている。
【0021】
プラネタリギヤセットPSにおける第2キャリヤCR2及び第3リングギヤR3は、変速機構14の入力軸13との間に介在された第2クラッチC2に接続されていると共に、ケース60に対して回転を係止し得る第4ブレーキB4に接続され、かつケース60に対して回転を一方向に規制するワンウェイクラッチF3に接続されている。つまり、第2キャリヤCR2及び第3リングギヤR3には、第2クラッチC2を介して入力軸13の回転が選択的に入力し得ると共に、その回転がワンウェイクラッチF3により内燃エンジン2からの回転方向に対して許容され、かつ逆の回転方向に対して規制(駆動力出力状態で係合)され、更に、その回転が第4ブレーキB4により係止し得るように構成されている。
【0022】
プラネタリギヤセットPSにおける第2リングギヤR2は、上述した第1キャリヤCR1を介してケース60に対して回転を係止し得る第2ブレーキB2に接続されており、かつ第1リングギヤR1は、ケース60に対して回転を係止し得る第1ブレーキB1に接続されており、つまり第2リングギヤR2は、第2ブレーキB2を解放して第1ブレーキB1が係止することで、第1キャリヤCR1から減速回転が入力し得ると共に、第1ブレーキB1を解放して第2ブレーキB2が係止されることで、その回転が係止し得るように構成されている。
【0023】
プラネタリギヤセットPSにおける第3キャリヤCR3は、出力軸15に接続されており、第2サンギヤS2及び第3サンギヤS3、第2キャリヤCR2及び第3リングギヤR3、及び第2リングギヤR2の回転状態により定まる回転を、出力軸15を介して不図示の車輪に出力する。
【0024】
ここで、プラネタリギヤセットPSにおける第2サンギヤ及び第3サンギヤは、第1クラッチC1を介して入力軸13に連結され、第2キャリヤCR2及び第3リングギヤR3は、第2クラッチC2を介して入力軸13に連結されている。したがって、これら第1クラッチC1及び第2クラッチC2は、プラネタリギヤセットPSの一回転要素を入力軸13に係脱するものであり、本実施形態ではこれらを入力クラッチとする。
【0025】
即ち、本実施形態では、変速機構14は、内燃エンジン2に駆動連結された入力軸13と、車輪に駆動連結された出力軸15と、入力軸13から出力軸15までの動力伝達経路上に設けられ入力軸13に駆動連結された第1プラネタリギヤSP1と、複数のプラネタリギヤSP2,SP3の組合せからなり、速度線図上での並び順に従い第1、第2、第3、及び第4回転要素を有し、動力伝達経路上の第1プラネタリギヤSP1よりも出力軸15側に設けられ、第3回転要素である第3キャリヤCR3が出力軸15に駆動連結されたプラネタリギヤセットPSと、油圧の給排により係脱し、同時係合する組み合わせにより複数の変速段を選択的に形成可能な複数の係合要素C1,C2,B1,B2,B4と、を有している。
【0026】
ECU20は、例えば、CPUと、処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備えており、油圧制御装置30の各ソレノイドバルブへの制御信号等、各種の信号を出力ポートから出力するようになっている。また、ECU20には、アクセル開度を検知するアクセル開度センサ71と、入力軸13の回転速度を検知する入力軸回転速度センサ72と、出力軸15の回転速度を検知する出力軸回転速度センサ73と、が接続されている。
【0027】
ECU20は、油圧制御装置30を電気的に制御するようになっている。ECU20は、運転者によるアクセルペダルの踏込量に応じたアクセル開度センサ71からの出力信号に基づいて、アクセル開度を演算するようになっている。ECU20は、出力軸回転速度センサ73からの出力信号に応じて得られた回転速度に基づいて、車速を演算するようになっている。また、ECU20は、アクセル開度と、車速と、入力軸回転速度センサ72により検知された入力軸13の回転速度と、等に基づいて、車両1の走行停止状態や運転者による加速要求(始動要求)を判断し、自動変速機10の変速段を適宜切り換えるようになっている。
【0028】
油圧制御装置30は、例えばバルブボディにより構成されており、機械式オイルポンプ40又は電動オイルポンプ50から供給された油圧からライン圧等を生成し、ECU20からの制御信号に基づいて第1及び第2クラッチC1,C2と、第1、第2、及び第4ブレーキB1,B2,B4とをそれぞれ制御するための油圧を給排可能になっている。
【0029】
機械式オイルポンプ40は、例えば、ポンプインペラ16aに駆動連結されており、入力軸11を介して内燃エンジン2に連動されるように駆動連結されている。尚、機械式オイルポンプ40と内燃エンジン2とは、スプロケット及びチェーンの組み合わせ、あるいはギヤ列等により適宜連結することができ、回転速度比は駆動連結の構成によって設定される。電動オイルポンプ50は、機械式オイルポンプ40とは独立して電動で駆動するようになっており、ECU20により制御される。電動オイルポンプ50は、内燃エンジン2の停止時に、少なくとも一部の係合要素を係合するためのライン圧を生成するための元圧を生成して供給するようになっている。
【0030】
以上のように構成された車両用駆動装置3は、
図1のスケルトンに示す各第1及び第2クラッチC1,C2、第1、第2、及び第4ブレーキB1,B2,B4、ワンウェイクラッチF3が、
図2の係合表に示す組み合わせで作動されることにより、
図3の速度線図に従って前進1速段(1st)〜前進6速段(6th)、及び後進段(Rev)が達成される。
【0031】
ここで、上述した車両1において、走行中に内燃エンジン2を停止して、ニュートラル状態にして惰性走行を行う場合について説明する。この場合、例えば、
図4(a)に示すように、入力クラッチである第1クラッチC1及び第2クラッチC2の一方のみを、車速に応じて選択して係合することが考えられる。即ち、高速時には第2クラッチC2のみを係合し、車速が落ちてくるのに伴い、第2クラッチC2から第1クラッチC1に掴み換えを行う。しかしながら、この場合、
図4(b)に示すように、高速走行時に第2クラッチC2を係合している場合には、プラネタリギヤセットPSにおいて、出力軸15に連結された第3キャリヤCR3は高速回転するのに対し、入力軸13に連結された第2クラッチC2は停止しているので、第2及び第3サンギヤS2,S3が過回転してしまう可能性がある。即ち、速度線図上で、第3回転要素CR3と、それに隣接する第2回転要素R3,CR2及び第4回転要素S3,S2との間で大きな高低差ができてしまうので、これらの間での速度線が急勾配になってしまい、いずれかの回転要素が前進6速段(最高速段)を超えて過回転してしまう可能性がある。
【0032】
そこで、本実施形態では、
図5(a)に示すように、第1ブレーキB1のみを係合するようにしている(図中、黒丸が係合)。即ち、ECU20は、内燃エンジン2を停止してニュートラル状態にして惰性走行を行う際に、内燃エンジン2の始動後に第1回転要素R2を回転させる係合要素(第1ブレーキB1)のうちの少なくとも一部の係合要素(第1ブレーキB1)を係合する。この場合、
図5(b)に示すように、第1リングギヤR1が回転固定されると共に、入力軸13に連結された第1サンギヤS1が停止しているので、第1キャリヤCR1及び第2リングギヤR2も停止する。これにより、第2及び第3サンギヤS2,S3は、高速走行時であっても、前進6速段である時と同等の回転速度に抑えられるので、
図4(b)に示すような過回転の発生を抑制することができる。即ち、速度線図上で、第3回転要素CR3と、それに隣接する第2回転要素R3,CR2及び第4回転要素S3,S2との間で大きな高低差ができてしまうことを抑制することができ、これらの間での速度線を急勾配にしてしまうことがなく、いずれかの回転要素が最高速段を超えて過回転してしまうことを抑制できる。
【0033】
また、本実施形態では、惰性走行中は常に第1ブレーキB1のみを係合して保持しているので、
図4(a)に示す例のように車速に応じてクラッチを掴み換える必要が無い。このため、惰性走行中の係合動作が不要になり、燃費向上及び電動オイルポンプ50の小型化を図ることができる。
【0034】
ここで、惰性走行後の内燃エンジン2の始動後に変速段を形成する際は、全ての係合要素を解放する場合に対して、新たに係合する係合要素は少ない方が応答性の観点から好ましい。また、内燃エンジン2の再始動時には惰性走行を開始した時点よりも車速が落ちていることが多いと考えられるため、内燃エンジン2の再始動時に最高速段を形成する必要がある場合は少ないと考えられる。更に、惰性走行で前進2速段のような低速にまで減速することも少ないと考えられる。このため、本実施形態では、惰性走行中には、内燃エンジン2の始動後に前進5速段及び前進3速段を形成するための第1ブレーキB1を係合し、最高速段及び前進2速段を形成するための第2ブレーキB2を解放している。これにより、燃費の向上を図りながらも、選択頻度が高いと考えられる前進5速段又は前進3速段を形成する際には一方の入力クラッチC1,C2を係合するだけでよく、前進5速段及び前進3速段を形成する際の通常走行への復帰の応答性を向上することができる。
【0035】
尚、ECU20は、惰性走行中に内燃エンジン2の始動要求があった場合に、係合中の第1ブレーキB1を利用して形成できる前進5速段及び前進3速段のいずれかを選択し、内燃エンジン2の始動後に選択した変速段を形成するようにしてもよい。即ち、車速やアクセル開度に基づく判断では前進4速段や最高速段を選択するような場合でも、通常走行への復帰の応答性を優先し、本来の変速段に近い前進5速段又は前進3速段を選択するようにしてもよい。
【0036】
あるいは、
図5(a)に示すように、惰性走行中に第1ブレーキB1のみを係合することには限られず、第2ブレーキB2のみを係合するようにしてもよい。この場合は、最高速段及び前進2速段への復帰の応答性を向上することができる。
【0037】
あるいは、
図6(a)に示すように、惰性走行中に第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2のみを係合するようにしてもよい(図中、黒丸が係合)。即ち、ECU20は、内燃エンジン2を停止してニュートラル状態にして惰性走行を行う際に、残りの係合要素(第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2)の全てを係合する。この場合、
図6(b)に示すように、第1リングギヤR1及び第1キャリヤCR1が回転固定されるので、第2リングギヤR2も回転固定される。これにより、第2及び第3サンギヤS2,S3は、高速走行時であっても、前進6速段である時と同等の回転速度に抑えられるので、
図4(b)に示すような過回転の発生を抑制することができる。
【0038】
ところで、上述したように、惰性走行後の内燃エンジン2の始動後に変速段を形成する際は、新たに係合する係合要素は少ない方が応答性の観点から好ましい。ここで、
図6に示す実施形態では、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を係合しているので、前進6速段、前進5速段、前進3速段、前進2速段を形成する際には一方のブレーキを解放して一方の入力クラッチC1,C2を係合すればよい。したがって、本実施形態によれば、惰性走行中に全ての係合要素を解放する場合に比べて、4つの変速段において、通常走行への復帰における応答性を向上することができる。
【0039】
この場合も、ECU20は、惰性走行中に内燃エンジン2の始動要求があった場合に、係合中の第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を利用して形成できる前進6速段、前進5速段、前進3速段、前進2速段のいずれかを選択し、内燃エンジン2の始動後に選択した変速段を形成するようにしてもよい。このため、前進4速段以外の前進2速段〜前進6速段を選択することができるので、通常走行に復帰する際の応答性を向上した変速段の選択肢が増え、選択肢が少ない場合に比べてドライバビリティを向上することができる。即ち、プラネタリギヤセットPSの回転速度に影響しない係合要素を係合保持しておくことで、1つの係合要素の係合のみで形成可能な変速段の数を増やし、通常走行への復帰時における違和感の少ないドライバビリティを実現することができる。
【0040】
尚、ECU20は、例えば、最高速段で走行中に内燃エンジン2を停止して惰性走行を開始した場合、第2ブレーキB2は既に保持しているため(
図9(a)参照)、第2リングギヤR2が回転固定されることで
図4(b)に示すような過回転の発生は抑制されている。このため、第1ブレーキB1の係合は内燃エンジン2を停止した直後に行わなくてもよく、余裕をもって第1ブレーキB1を係合することで電動オイルポンプ50の負荷を減らすことができる。
【0041】
上述したように、本実施形態では、ECU20は、
図5及び
図6に示すように、内燃エンジン2を停止して惰性走行を行う際に、第2回転要素R3,CR2又は第4回転要素S3,S2に連結される全ての係合要素C1,C2,B4を解放し、第1回転要素R2を回転または停止させる係合要素(第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2)のうちの少なくとも一部の係合要素を係合する。また、ECU20は、内燃エンジン2を停止して惰性走行を行う際に、第1回転要素R2を停止させる係合要素(第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2)のうちの少なくとも一部の係合要素を係合するようになっている。
【0042】
次に、車両用駆動装置3の動作について、
図7及び
図8のフローチャート、並びに
図9のタイムチャートに沿って説明する。ここでは、最高速段での通常走行中にアクセル開度が所定値以下のオフ状態になる等の所定条件を満たすことにより、内燃エンジン2を停止すると共に変速機構14をニュートラル状態にして惰性走行する場合の動作について説明し、更に惰性走行中にアクセル開度が所定値以上のオン状態になる等の所定条件を満たすことにより、内燃エンジン2を再始動すると共に変速機構14により適宜な変速段を形成して通常走行に復帰する場合の動作について説明する。また、ここでは、惰性走行中に第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を係合及び保持する場合(
図6)について説明している。また、
図9(a)及び
図9(b)中、N
5は前進5速段での同期回転速度、N
6は前進6速段での同期回転速度である。
【0043】
まず、アクセル開度が所定値以上のオン状態であり、ロックアップクラッチ17は係合状態であり、変速機構14が最高速段を形成して車両1が高速に通常走行しているものとする。このときは、第2クラッチC2及び第2ブレーキB2のみが係合している(
図9(a))。また、ECU20は、内燃エンジン2の駆動中に、エンジン停止指令がオンされたか否かを判断している(
図7のステップS1)。ここでのエンジン停止指令は、例えば、アクセル開度が所定値以下になる等の条件が満たされた場合にオンされるものとしている。ECU20が、エンジン停止指令がオンされていないと判断した場合は、処理を終了して再度ステップS1から実行する。
【0044】
運転者によりアクセルペダルが解放されてアクセル開度が所定値以下のオフ状態になると共に他の所定の条件も具備されると(
図9(a)のt1)、ECU20はエンジン停止指令がオンされたと判断し、内燃エンジン2を停止する(
図7のステップS2)。そして、ECU20は、ロックアップクラッチ17が係合状態であるか否かを判断する(
図7のステップS3)。ECU20が、ロックアップクラッチ17が係合状態でないと判断した場合は、ロックアップクラッチ17を係合する(
図7のステップS4)。これにより、内燃エンジン2を再始動する際に、トルクコンバータ16を介することによる駆動力伝達の遅れを防止することができる。
【0045】
ECU20は、エンジントルクが0Nm未満であるか否かを判断する(
図7のステップS5)。ECU20が、エンジントルクは0Nm未満でないと判断した場合は、処理を終了して再度ステップS1から実行する。ECU20が、エンジントルクは0Nm未満であると判断した場合は(
図9(a)のt2)、第1クラッチC1又は第2クラッチC2を解放する(
図7のステップS6)。本実施形態では、最高速段を形成しているので、第2クラッチC2が係合されているため、第1クラッチC1を解放したまま第2クラッチC2のみを解放するようにする。また、例えば、前進3速段を形成中に内燃エンジン2を停止して惰性走行する場合は、第1クラッチC1を解放するようにする。また、エンジントルクが0Nm未満である場合に第1クラッチC1又は第2クラッチC2を解放するのは、エンジントルクが例えば0Nm未満であれば各クラッチC1,C2を円滑に解放可能になるからであり、そのような各クラッチC1,C2を解放可能になるトルクであれば0Nmには限られない。
【0046】
続いて、ECU20は、第1ブレーキB1又は第2ブレーキB2を待機状態にする(
図9(a)のt3、
図7のステップS7)。本実施形態では、最高速段を形成していたので、第2ブレーキB2が係合されているため、第1ブレーキB1のみを待機状態にする。また、ここでの待機状態とは、係合要素に係合圧よりも低い油圧を供給して、例えば摩擦板同士の距離を係合する直前まで近接しておくことを意味する。
【0047】
ECU20は、エンジン回転速度が例えば500rpm以下になる前に、電動オイルポンプ50を始動する(
図7のステップS8)。これにより、エンジン回転速度が500rpm以下になって機械式オイルポンプ40ではライン圧の生成が困難になっても、代わりに電動オイルポンプ50によってライン圧生成用の元圧が供給されるようになる。
【0048】
続いて、ECU20は、エンジン回転速度が0rpm以下であるか否かを判断する(
図7のステップS9)。ECU20が、エンジン回転速度は0rpm以下でないと判断した場合は、処理を終了して再度ステップS1から実行する。ECU20が、エンジン回転速度は0rpm以下であると判断した場合は(
図9(a)のt4)、第1ブレーキB1又は第2ブレーキB2を係合して保持する(
図7のステップS10)。本実施形態では、第2ブレーキB2は既に係合されているため、第1ブレーキB1のみを係合して保持する。また、エンジン回転速度が0rpm以下である場合に第1ブレーキB1又は第2ブレーキB2を係合するのは、エンジン回転速度が例えば0rpm以下であれば各ブレーキB1,B2を円滑に係合可能になるからであり、そのような各ブレーキB1,B2を係合可能になる回転速度であれば0rpmには限られない。尚、ECU20は、第2ブレーキB2は既に保持しているため、第2リングギヤR2が回転固定されることで
図4(b)に示すような過回転の発生は抑制されている。このため、第1ブレーキB1の係合は内燃エンジン2を停止した直後に行わなくてもよく、余裕をもって第1ブレーキB1を係合することで電動オイルポンプ50の負荷を減らすようにしてもよい。
【0049】
ECU20が第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を係合することにより、変速機構14は、
図6(a)に示す係合表のように係脱され、
図6(b)に示す速度線図の状態で惰性走行するようになる。即ち、プラネタリギヤセットPSにおける第2回転要素R3,CR2又は第4回転要素S3,S2に連結される全ての係合要素C1,C2,B4を解放し、残りの全ての係合要素B1,B2が係合するようになっている。
【0050】
次に、内燃エンジン2は停止し、アクセル開度は所定値以下のオフ状態であり、ロックアップクラッチ17は係合状態であり、変速機構14では第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2のみが係合してニュートラル状態で車両1が惰性走行しているものとする(
図9(b))。ECU20は、惰性走行中に、エンジン始動指令がオンされたか否かを判断している(
図8のステップS11)。ここでのエンジン始動指令は、例えば、アクセル開度が所定値以上になる等の条件が満たされた場合にオンされるものとしている。ECU20が、エンジン始動指令がオンされていないと判断した場合は、処理を終了して再度ステップS11から実行する。
【0051】
運転者によりアクセルペダルが踏み込まれてアクセル開度が所定値以上のオン状態になると共に他の所定の条件も具備されると(
図9(b)のt5)、ECU20はエンジン始動指令がオンされたと判断し、内燃エンジン2を始動する(
図8のステップS12)。ECU20は、その時点での車速とアクセル開度に基づいて、その状況で適した変速段を設定する(
図8のステップS13)。ここで、本実施形態では第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2が係合していることから、係合中の第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を利用して形成できる前進6速段、前進5速段、前進3速段、前進2速段のいずれかを選択して形成するようにしてもよい。
【0052】
ECU20は、変速段の設定後、その変速段を形成するために、第1ブレーキB1又は第2ブレーキB2を解放する(
図8のステップS14)。尚、前進4速段を形成する場合は、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の両方を解放する。ここでは、前進5速段を形成するものとし、第2ブレーキB2を解放するようにしている(
図9(b)のt5)。
【0053】
ECU20は、機械式オイルポンプ40の回転速度がライン圧生成可能回転速度、例えば500rpmを超えたか否かを判断する(
図8のステップS15)。ECU20が、機械式オイルポンプ40の回転速度はライン圧生成可能回転速度を超えていないと判断した場合は、処理を終了して再度ステップS11から実行する。ECU20が、機械式オイルポンプ40の回転速度がライン圧生成可能回転速度を超えたと判断した場合は(
図9(b)のt6)、電動オイルポンプ50を停止する(
図8のステップS16)。また、機械式オイルポンプ40の回転速度がライン圧生成可能回転速度を超えた場合に電動オイルポンプ50を停止するのは、機械式オイルポンプ40の回転速度がライン圧生成可能回転速度を超えていれば機械式オイルポンプ40から吐出された油によってライン圧を生成可能になるからであり、そのようなライン圧を生成可能になる回転速度であれば500rpmには限られず、内燃エンジン2のアイドリング回転速度より小さい回転速度に設定するようにできる。
【0054】
続いて、ECU20は、第1クラッチC1又は第2クラッチC2を待機状態にする(
図8のステップS17)。尚、前進4速段を形成する場合は、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の両方を待機状態にする。ここでは、前進5速段を形成するので、第2クラッチC2を待機状態にするようにしている。
【0055】
ECU20は、同期差回転の絶対値を演算し、同期差回転の絶対値が50rpmより小さいか否かを判断する(
図8のステップS18)。ここで、同期差回転とは、エンジン回転速度と目標変速段の同期回転速度との差とする。また、ここでの判断は、適宜なタイマを設定することで、所定時間の間、回転同期を確実に判断するようにしている。ECU20が、同期差回転の絶対値は50rpmより小さくないと判断した場合は、処理を終了して再度ステップS11から実行する。ECU20が、同期差回転の絶対値は50rpmより小さいと判断した場合は(
図9(b)のt7)、第1クラッチC1又は第2クラッチC2を係合して保持する(
図8のステップS19、
図9(b)のt8)。尚、前進4速段を形成する場合は、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の両方を係合して保持する。ここでは、前進5速段を形成するので、第2クラッチC2を係合して保持するようにしている。また、同期差回転の絶対値が50rpmより小さい場合に第1クラッチC1又は第2クラッチC2を係合するのは、同期差回転の絶対値が例えば50rpmより小さければ各クラッチC1,C2を円滑に係合可能になるからであり、そのような各クラッチC1,C2を係合可能になる回転速度であれば50rpmには限られない。
【0056】
ECU20が第1ブレーキB1及び第2クラッチC2を係合することにより、変速機構14は、
図2に示す係合表のように係脱され、
図3に示す速度線図に基づいて、前進5速段を形成して通常走行に復帰するようになる。
【0057】
以上説明したように、本実施形態の車両用駆動装置3によると、内燃エンジン2を停止して惰性走行を行う際に、第2回転要素R3,CR2又は第4回転要素S3,S2に連結される全ての係合要素(第1クラッチC1、第2クラッチC2、第4ブレーキB4)を解放し、第1回転要素R2を回転又は停止させる係合要素(第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2)のうちの少なくとも一部の係合要素を係合するので、出力軸15に連結された第3回転要素CR3に速度線図上で隣接する第2回転要素R3,CR2及び第4回転要素S3,S2が停止固定されることが防止される。このため、速度線図上で大きな出力となる第3回転要素CR3に対して、隣接する第2回転要素R3,CR2及び第4回転要素S3,S2のいずれも出力が0にならないので、いずれかの回転要素が最高速段を超えて過回転してしまうことが抑制される。即ち、速度線図上で、第3回転要素CR3と、それに隣接する第2回転要素R3,CR2及び第4回転要素S3,S2との間で大きな高低差ができてしまうことを抑制することができ、これらの間での速度線を急勾配にしてしまうことがなく、いずれかの回転要素が最高速段を超えて過回転してしまうことを抑制できる。よって、内燃エンジン2を停止してニュートラル状態で惰性走行可能な変速機構14を有しながら、惰性走行中の回転要素の過回転を抑制することができるようになる。
【0058】
また、本実施形態の車両用駆動装置3によれば、惰性走行中に全ての係合要素を解放する場合に比べて、少なくとも1つの係合要素を係合しているので、通常走行への復帰における応答性を向上することができる。
【0059】
また、本実施形態の車両用駆動装置3では、ECU20は、内燃エンジン2を停止して惰性走行を行う際に、第1回転要素R2を停止させる係合要素(第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2)のうちの少なくとも一部の係合要素を係合するようになっている。このため、惰性走行中に第1回転要素R2が固定停止されるので、第3回転要素CR3に隣接する第2回転要素R3,CR2又は第4回転要素S3,S2が固定される場合に比べて、速度線の勾配を急峻にすることがなく、他の回転要素の過回転を抑制することができる。
【0060】
また、
図5に示す本実施形態の車両用駆動装置3では、ECU20は、内燃エンジン2を停止して惰性走行を行う際に、内燃エンジン2の始動後に第1回転要素R2を回転させる係合要素(第1ブレーキB1)のうちの少なくとも一部の係合要素(第1ブレーキB1)を係合するようになっている。このため、惰性走行中は常に第1ブレーキB1のみを係合して保持しているので、
図4(a)に示す例のように車速に応じてクラッチを掴み換える必要が無く、惰性走行中の係合動作が不要になり、燃費向上及び電動オイルポンプ50の小型化を図ることができる。また、惰性走行中には、内燃エンジン2の始動後に前進5速段及び前進3速段を形成するための第1ブレーキB1を係合し、最高速段及び前進2速段を形成するための第2ブレーキB2を解放している。これにより、燃費の向上を図りながらも、選択頻度が高いと考えられる前進5速段又は前進3速段を形成する際には一方の入力クラッチC1,C2を係合するだけでよく、前進5速段及び前進3速段を形成する際の通常走行への復帰の応答性を向上することができる。
【0061】
また、
図6に示す本実施形態の車両用駆動装置3では、ECU20は、内燃エンジン2を停止して惰性走行を行う際に、内燃エンジン2が停止した後に残りの係合要素(第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2)の全てを係合するようになっている。このため、前進6速段、前進5速段、前進3速段、前進2速段を形成する際には一方のブレーキを解放して一方の入力クラッチC1,C2を係合すればよく、惰性走行中に全ての係合要素を解放する場合に比べて、4つの変速段において、通常走行への復帰における応答性を向上することができる。また、ECU20は、惰性走行中に内燃エンジン2の始動要求があった場合に、係合中の第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を利用して形成できる前進6速段、前進5速段、前進3速段、前進2速段のいずれかを選択し、内燃エンジン2の始動後に選択した変速段を形成するようにでき、前進4速段以外の前進2速段〜前進6速段を選択することができるので、通常走行に復帰する際の応答性を向上した変速段の選択肢が増え、選択肢が少ない場合に比べてドライバビリティを向上することができる。即ち、プラネタリギヤセットPSの回転速度に影響しない係合要素を係合保持しておくことで、1つの係合要素の係合のみで形成可能な変速段の数を増やし、通常走行への復帰時における違和感の少ないドライバビリティを実現することができる。
【0062】
また、本実施形態の車両用駆動装置3では、ECU20は、惰性走行中に内燃エンジン2の始動要求があった場合に、係合中の係合要素を利用して形成できる変速段を選択し、内燃エンジン2の始動後に選択した変速段を形成するようにしてもよい。即ち、車速やアクセル開度に基づく判断では前進4速段を選択するような場合でも、通常走行への復帰の応答性を優先し、本来の変速段に近い前進5速段又は前進3速段を選択するようにできる。これにより、通常走行への復帰の応答性を向上することができる。
【0063】
また、本実施形態の車両用駆動装置3では、内燃エンジン2の停止時に、少なくとも一部の係合要素(第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2)を係合するための元圧を生成する電動オイルポンプ50を備えるようにしている。このため、内燃エンジン2が停止により機械式オイルポンプ40が停止しても、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の係合及び保持を実現することができる。
【0064】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態に係る車両用駆動装置3を、
図10乃至
図13に沿って説明する。本実施形態の車両用駆動装置3は、変速機構(自動変速機構)114が第1の実施形態と異なっており、前進8速段及び後進2速段を形成可能なものとしている。その他の構成については、第1の実施形態と同様であるので、符号を同じくして詳細な説明を省略する。
【0065】
図10に示すように、変速機構114は、ケース60に収容され、入力軸13側から順に、第1プラネタリギヤ(入力プラネタリギヤ)DP1と、第2及び第3プラネタリギヤSP2,DP3からなるプラネタリギヤセットPSと、を備えている。第1,第3プラネタリギヤSP1,SP3は、いずれもダブルピニオンプラネタリギヤにより構成され、第2プラネタリギヤSP2は、シングルピニオンプラネタリギヤにより構成されている。
【0066】
第1プラネタリギヤDP1は、第1サンギヤS1と、第1リングギヤR1と、それら第1サンギヤS1及び第1リングギヤR1に噛合する第1ピニオンP1及び第2ピニオンP2を回転自在に支持する第1キャリヤCR1と、を有して構成されている。
【0067】
第1サンギヤS1は、ケース60に対して固定されている。第1リングギヤR1は、第1クラッチC1及び第3クラッチC3に駆動連結されている。第1キャリヤCR1は、変速機構114の入力軸13に常時駆動連結されると共に、第4クラッチC4に駆動連結されている。
【0068】
プラネタリギヤセットPSは、第2プラネタリギヤSP2と、第3プラネタリギヤDP3とを有して構成されている。第2プラネタリギヤSP2は、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1に駆動連結された第2サンギヤS2と、第2サンギヤS2及び後述する第3リングギヤR3に噛合する第3ピニオンP3を回転自在に支持する第2キャリヤCR2と、を有して構成されている。なお、第2プラネタリギヤSP2において、第2サンギヤS2はプラネタリギヤセットPSの第1回転要素、第2キャリヤCR2はプラネタリギヤセットPSの第2回転要素にそれぞれ相当する(
図12参照)。
【0069】
また、第3プラネタリギヤDP3は、第1クラッチC1に駆動連結された第3サンギヤS3と、出力軸15に駆動連結された第3リングギヤR3と、第3サンギヤS3及び第3リングギヤR3に噛合する第4ピニオンP4及び第5ピニオンP5を回転自在に支持する第3キャリヤCR3と、を有して構成されている。なお、第3プラネタリギヤDP3において、第3キャリヤCR3はプラネタリギヤセットPSの第2回転要素、第3リングギヤR3はプラネタリギヤセットPSの第3回転要素、第3サンギヤS3はプラネタリギヤセットPSの第4回転要素にそれぞれ相当する(
図12参照)。
【0070】
プラネタリギヤセットPSにおいて、第3ピニオンP3と第5ピニオンP5とは1つのロングピニオンにより構成されている。プラネタリギヤセットPSにおける第2キャリヤCR2及び第3キャリヤCR3は、変速機構114の入力軸13との間に介在された第2クラッチC2に接続されていると共に、ケース60に対して回転を係止し得る第2ブレーキB2に接続され、かつケース60に対して回転を一方向に規制するワンウェイクラッチF1に接続されている。つまり、第2キャリヤCR2及び第3キャリヤCR3には、第2クラッチC2を介して入力軸13の回転が選択的に入力し得ると共に、その回転がワンウェイクラッチF1により内燃エンジン2からの回転方向に対して許容され、かつ逆の回転方向に対して規制(駆動力出力状態で係合)され、更に、その回転が第2ブレーキB2により係止し得るように構成されている。
【0071】
プラネタリギヤセットPSにおける第3リングギヤR3は、出力軸15に接続されており、第2キャリヤCR2及び第3キャリヤCR3、第2サンギヤS2及び第3サンギヤS3の回転状態により定まる回転を、出力軸15を介して不図示の車輪に出力する。
【0072】
ここで、プラネタリギヤセットPSにおける第3サンギヤは、入力軸13に駆動連結された第1キャリヤCR1に対して所定の減速比で駆動連結された第1リングギヤR1に、第1クラッチC1を介して連結され、第2キャリヤCR2及び第3キャリヤCR3は、第2クラッチC2を介して入力軸13に連結されている。したがって、これら第1クラッチC1及び第2クラッチC2は、プラネタリギヤセットPSの一回転要素を入力軸13に係脱するものであり、本実施形態ではこれらを入力クラッチとする。
【0073】
即ち、本実施形態では、変速機構114は、内燃エンジン2に駆動連結された入力軸13と、車輪に駆動連結された出力軸15と、入力軸13から出力軸15までの動力伝達経路上に設けられ入力軸13に駆動連結された第1プラネタリギヤDP1と、複数のプラネタリギヤSP2,DP3の組合せからなり、速度線図上での並び順に従い第1、第2、第3、及び第4回転要素を有し、動力伝達経路上の第1プラネタリギヤDP1よりも出力軸15側に設けられ、第3回転要素である第3リングギヤR3が出力軸15に駆動連結されたプラネタリギヤセットPSと、油圧の給排により係脱し、同時係合する組み合わせにより複数の変速段を選択的に形成可能な複数の係合要素C1,C2,C3,C4,B1,B2と、を有している。
【0074】
以上のように構成された車両用駆動装置3は、
図10のスケルトンに示す各第1〜第4クラッチC1〜C4、第1及び第2ブレーキB1,B2、ワンウェイクラッチF1が、
図11の係合表に示す組み合わせで作動されることにより、
図12の速度線図に従って前進1速段(1st)〜前進8速段(8th)、後進1速段(Rev1)及び後進2速段(Rev2)が達成される。
【0075】
本実施形態では、惰性走行中に、例えば、第1ブレーキB1のみを係合するようにしている。この場合、
図12に示すように、第1ブレーキB1によって第2サンギヤS2が停止する。これにより、第3サンギヤS3は、高速走行時であっても、前進8速段である時と同等の回転速度に抑えられるので、
図4(b)に示すような過回転の発生を抑制することができる。即ち、速度線図上で、第3回転要素R3と、それに隣接する第2回転要素CR3,CR2及び第4回転要素S3との間で大きな高低差ができてしまうことを抑制することができ、これらの間での速度線を急勾配にしてしまうことがなく、いずれかの回転要素が最高速段を超えて過回転してしまうことを抑制できる。
【0076】
また、本実施形態では、惰性走行中は常に第1ブレーキB1のみを係合して保持しているので、
図4(a)に示す例のように車速に応じてクラッチを掴み換える必要が無い。このため、惰性走行中の係合動作が不要になり、燃費向上及び電動オイルポンプ50の小型化を図ることができる。
【0077】
本実施形態では、惰性走行中には、内燃エンジン2の始動後に前進8速段及び前進2速段を形成するための第1ブレーキB1を係合し、他の変速段を形成するための第3クラッチC3及び第4クラッチC4を解放している。これにより、燃費の向上を図りながらも、前進8速段又は前進2速段を形成する際には一方の入力クラッチC1,C2を係合すればよく、前進8速段及び前進2速段を形成する際の通常走行への復帰の応答性を向上することができる。
【0078】
尚、ECU20は、惰性走行中に内燃エンジン2の始動要求があった場合に、係合中の第1ブレーキB1を利用して形成できる前進8速段及び前進2速段のいずれかを選択し、内燃エンジン2の始動後に選択した変速段を形成するようにしてもよい。即ち、車速やアクセル開度に基づく判断では他の変速段を選択するような場合でも、通常走行への復帰の応答性を優先し、本来の変速段に近い前進8速段又は前進2速段を選択するようにしてもよい。
【0079】
あるいは、惰性走行中に第1ブレーキB1のみを係合することには限られず、第3クラッチC3又は第4クラッチC4のみを係合するようにしてもよい。または、第1ブレーキB1の他に、第3クラッチC3又は第4クラッチC4を係合するようにしてもよい。これらの場合は、それぞれが入力クラッチC1,C2と共に形成可能な変速段への復帰の応答性を向上することができる。
【0080】
あるいは、惰性走行中に1つの係合要素のみを係合することには限られず、惰性走行中に第3,第4クラッチC3,C4及び第1ブレーキB1の全てを係合するようにしてもよい。即ち、ECU20は、内燃エンジン2を停止して惰性走行を行う際に、残りの係合要素(第3,第4クラッチC3,C4及び第1ブレーキB1)の全てを係合する。この場合、第1ブレーキB1により、第2サンギヤS2が回転固定される。これにより、第3サンギヤS3は、高速走行時であっても、前進8速段である時と同等の回転速度に抑えられるので、
図4(b)に示すような過回転の発生を抑制することができる。
【0081】
また、この場合、第3,第4クラッチC3,C4及び第1ブレーキB1を係合しているので、前進8速段、前進7速段、前進6速段、前進4速段、前進3速段、前進2速段を形成する際には2つの係合要素を解放して一方の入力クラッチC1,C2を係合すればよい。したがって、本実施形態によれば、惰性走行中に全ての係合要素を解放する場合に比べて、6つの変速段において、通常走行への復帰における応答性を向上することができる。
【0082】
この場合も、ECU20は、惰性走行中に内燃エンジン2の始動要求があった場合に、係合中の第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を利用して形成できる前進8速段、前進7速段、前進6速段、前進4速段、前進3速段、前進2速段のいずれかを選択し、内燃エンジン2の始動後に選択した変速段を形成するようにしてもよい。このため、前進5速段以外の前進2速段〜前進8速段を選択することができるので、通常走行に復帰する際の応答性を向上した変速段の選択肢が増え、選択肢が少ない場合に比べてドライバビリティを向上することができる。
【0083】
尚、ECU20は、例えば、最高速段で走行中に内燃エンジン2を停止して惰性走行を開始した場合、第1ブレーキB1は既に保持しているため(
図13(a)参照)、第2サンギヤS2が回転固定されることで
図4(b)に示すような過回転の発生は抑制されている。このため、第3,第4クラッチC3,C4の係合は内燃エンジン2を停止した直後に行わなくてもよく、余裕をもって第3,第4クラッチC3,C4を係合することで電動オイルポンプ50の負荷を減らすことができる。
【0084】
上述したように、本実施形態では、ECU20は、内燃エンジン2を停止して惰性走行を行う際に、第2回転要素CR3,CR2又は第4回転要素S3に連結される全ての係合要素C1,C2,B2を解放し、残りの係合要素(第3,第4クラッチC3,C4及び第1ブレーキB1)のうちの少なくとも一部の係合要素を係合するようになっている。また、ECU20は、内燃エンジン2を停止して惰性走行を行う際に、第1回転要素S2を停止させる係合要素(第3,第4クラッチC3,C4及び第1ブレーキB1)のうちの少なくとも一部の係合要素を係合するようになっている。
【0085】
次に、本実施形態の車両用駆動装置3の動作について、
図13のタイムチャートに沿って説明する。ここでは、前進8速段(最高速段)での通常走行中にアクセル開度が所定値以下のオフ状態になる等の所定条件を満たすことにより、内燃エンジン2を停止すると共に変速機構114をニュートラル状態にして惰性走行する場合の動作について説明し、更に惰性走行中にアクセル開度が所定値以上のオン状態になる等の所定条件を満たすことにより、内燃エンジン2を再始動すると共に変速機構114により適宜な変速段を形成して通常走行に復帰する場合の動作について説明する。また、ここでは、惰性走行中に第3,第4クラッチC3,C4及び第1ブレーキB1を係合及び保持する場合について説明している。また、
図13(a)及び
図13(b)中、N
6は前進6速段での同期回転速度、N
7は前進7速段での同期回転速度、N
8は前進8速段での同期回転速度である。
【0086】
まず、
図13(a)に示すように、アクセル開度が所定値以上のオン状態であり、ロックアップクラッチ17は係合状態であり、変速機構114が最高速段を形成して車両1が高速に通常走行しているものとする。このときは、第2クラッチC2及び第1ブレーキB1のみが係合している。
【0087】
運転者によりアクセルペダルが解放されてアクセル開度が所定値以下のオフ状態になると共に他の所定の条件も具備されると(t11)、ECU20はエンジン停止指令がオンされたと判断し、内燃エンジン2を停止する。
【0088】
ECU20が、エンジントルクは0Nm未満であると判断した場合は(t12)、第2クラッチC2を解放する。続いて、ECU20は、第3,第4クラッチC3,C4を待機状態にする(t13)。ここで、第3,第4クラッチC3,C4は同時に待機状態にせずに、片方ずつ順に実行する。これにより、必要油圧が過大になってしまうことを抑制できる。
【0089】
続いて、ECU20は、エンジン回転速度は0rpm以下であると判断した場合は(t14)、第3,第4クラッチC3,C4を係合して保持する。ECU20が第1ブレーキB1及び第3,第4クラッチC3,C4を係合することにより、変速機構114は、ニュートラル状態で惰性走行するようになる。即ち、プラネタリギヤセットPSにおける第2回転要素CR3,CR2又は第4回転要素S3に連結される全ての係合要素C1,C2,B2を解放し、残りの全ての係合要素C3,C4,B1が係合するようになっている。
【0090】
次に、
図13(b)に示すように、内燃エンジン2は停止し、アクセル開度は所定値以下のオフ状態であり、ロックアップクラッチ17は係合状態であり、変速機構114では第3,第4クラッチC3,C4及び第1ブレーキB1が係合してニュートラル状態で車両1が惰性走行しているものとする。
【0091】
運転者によりアクセルペダルが踏み込まれてアクセル開度が所定値以上のオン状態になると共に他の所定の条件も具備されると(t15)、ECU20はエンジン始動指令がオンされたと判断し、内燃エンジン2を始動する。ECU20は、その時点での車速とアクセル開度に基づいて、その状況で適した変速段を設定する。ここで、本実施形態では第3,第4クラッチC3,C4及び第1ブレーキB1が係合していることから、係合中の第3,第4クラッチC3,C4及び第1ブレーキB1を利用して形成できる前進8速段、前進7速段、前進6速段、前進4速段、前進3速段、前進2速段のいずれかを選択して形成するようにしてもよい。
【0092】
ECU20は、変速段の設定後、その変速段を形成するために、第3,第4クラッチC3,C4及び第1ブレーキB1の中から2つの係合要素を解放する。ここでは、前進6速段を形成するものとし、第3クラッチC3及び第1ブレーキB1を解放するようにしている(t15)。
【0093】
ECU20が、エンジン回転速度は500rpmを超えたと判断した場合は(t16)、電動オイルポンプ50を停止する。続いて、ECU20は、前進6速段を形成するために、第2クラッチC2を待機状態にする。ECU20は、同期差回転の絶対値は50rpmより小さいと判断した場合は(t17)、第2クラッチC2を係合して保持する(t18)。
【0094】
ECU20が第2クラッチC2及び第4クラッチC4を係合することにより、変速機構114は、
図11に示す係合表のように係脱され、
図12に示す速度線図に基づいて、前進6速段を形成して通常走行に復帰するようになる。
【0095】
以上説明したように、本実施形態の車両用駆動装置3によると、内燃エンジン2を停止して惰性走行を行う際に、第2回転要素CR3,CR2又は第4回転要素S3に連結される全ての係合要素(第1クラッチC1、第2クラッチC2、第2ブレーキB2)を解放し、残りの係合要素(第3,第4クラッチC3,C4及び第1ブレーキB1)のうちの少なくとも一部の係合要素を係合するので、出力軸15に連結された第3回転要素R3に速度線図上で隣接する第2回転要素CR3,CR2及び第4回転要素S3が停止固定されることが防止される。このため、速度線図上で大きな出力となる第3回転要素R3に対して、隣接する第2回転要素CR3,CR2及び第4回転要素S3のいずれも出力が0にならないので、いずれかの回転要素が最高速段を超えて過回転してしまうことが抑制される。よって、内燃エンジン2を停止してニュートラル状態で惰性走行可能な変速機構114を有しながら、惰性走行中の回転要素の過回転を抑制することができるようになる。
【0096】
尚、上述した第1及び第2の実施形態では、車両用駆動装置3は自動変速機10を有する場合について説明したが、これには限られない。例えば、車両用駆動装置3が第1電動機MG1と、第2電動機MG2と、動力分配機構と、を有するものとして、所謂スプリット方式のハイブリッド車に適用するようにしてもよい。この場合、プラネタリギヤセットPSの過回転を抑制できると共に、プラネタリギヤセットPSの回転速度に影響しない係合要素を係合保持しておくことで、1つの係合要素の係合のみで形成可能な変速段の数を増やし、通常走行への復帰時における違和感の少ないドライバビリティ及び早期回生を実現することができる。
【0097】
尚、第1及び第2の実施形態は、以下の構成を少なくとも備える。第1及び第2の実施形態の車両用駆動装置(3)は、駆動源(2)に駆動連結された入力部材(13)と、車輪に駆動連結された出力部材(15)と、前記入力部材(13)から前記出力部材(15)までの動力伝達経路上に設けられ、複数のプラネタリギヤ(SP1,SP2,SP3、DP1,SP2,DP3)の組合せからなり、ギヤ比に対応して順番に並ぶ第1、第2、第3、及び第4回転要素を有し、前記第3回転要素(CR3、R3)が前記出力部材(15)に駆動連結されたプラネタリギヤセット(PS)と、油圧の給排により係脱し、前記第1、第2、及び第4回転要素に連結され、同時係合する組み合わせにより複数の変速段を選択的に形成可能な複数の係合要素と、を有する自動変速機構(14、114)と、前記係合要素に対して油圧を給排可能な油圧制御装置(30)と、前記油圧制御装置(30)を電気的に制御する制御装置(20)と、を備え、前記制御装置(20)は、前記駆動源(2)を停止して惰性走行を行う際に、前記第2回転要素(CR2,R3、CR2,CR3)又は前記第4回転要素(S2,S3、S3)に連結される全ての係合要素(C1,C2,B4、C1,C2,B2)を解放し、前記第1回転要素(R2、S2)を回転または停止させる係合要素(B1,B2、B1,C3,C4)のうちの少なくとも一部の係合要素を係合する。この構成によれば、出力部材(15)に連結された第3回転要素(CR3、R3)にギヤ比に対応して隣接する第2回転要素(CR2,R3、CR2,CR3)及び第4回転要素(S2,S3、S3)が停止固定されることが防止される。このため、速度線図上で大きな出力となる第3回転要素(CR3、R3)に対して、隣接する第2回転要素(CR2,R3、CR2,CR3)及び第4回転要素(S2,S3、S3)のいずれも出力が0にならないので、いずれかの回転要素が最高速段を超えて過回転してしまうことが抑制される。即ち、駆動源(2)を停止してニュートラル状態で惰性走行可能な自動変速機構(14、114)を有しながら、惰性走行中の回転要素の過回転を抑制することができる。
【0098】
また、第1及び第2の実施形態の車両用駆動装置(3)では、前記制御装置(20)は、前記駆動源(2)を停止して惰性走行を行う際に、前記第1回転要素(R2、S2)を停止させる係合要素(B1,B2、B1,C3,C4)のうちの少なくとも一部の係合要素を係合する。この構成によれば、惰性走行中に第1回転要素(R2、S2)が固定停止されるので、第3回転要素(CR3、R3)に隣接する第2回転要素(CR2,R3、CR2,CR3)又は第4回転要素(S2,S3、S3)が固定される場合に比べて、速度線の勾配を急峻にすることがなく、他の回転要素の過回転を抑制することができる。
【0099】
また、第1及び第2の実施形態の車両用駆動装置(3)では、前記制御装置(20)は、前記駆動源(2)を停止して惰性走行を行う際に、前記駆動源(2)の始動後に前記第1回転要素(R2、S2)を回転させる係合要素(B1,B2、B1,C3,C4)のうちの少なくとも一部の係合要素を係合する。この構成によれば、惰性走行中は常に前記第1回転要素(R2、S2)を回転させる係合要素のみを係合して保持しているので、車速に応じてクラッチを掴み換える必要が無く、惰性走行中の係合動作が不要になり、燃費向上及び元圧生成部(50)の小型化を図ることができる。
【0100】
また、第1及び第2の実施形態の車両用駆動装置(3)では、前記制御装置(20)は、前記駆動源(2)を停止して惰性走行を行う際に、前記駆動源(2)が停止した後に前記第1回転要素(R2、S2)を回転または停止させる係合要素(B1,B2、B1,C3,C4)の全てを係合する。この構成によれば、惰性走行中に全ての係合要素を解放する場合に比べて、複数の変速段において、通常走行への復帰における応答性を向上することができる。
【0101】
また、第1及び第2の実施形態の車両用駆動装置(3)では、前記制御装置(20)は、前記惰性走行中に前記駆動源(2)の始動要求があった場合に、係合中の係合要素を利用して形成できる変速段を選択し、前記駆動源(2)の始動後に選択した前記変速段を形成する。この構成によれば、通常走行への復帰の応答性を向上することができる。
【0102】
また、第1及び第2の実施形態の車両用駆動装置(3)では、前記駆動源(2)の停止時に、前記少なくとも一部の前記係合要素を係合するための元圧を生成する元圧生成部(50)を備える。この構成によれば、駆動源(2)が停止により機械式オイルポンプが停止しても、係合要素の係合及び保持を実現することができる。