特許第6407797号(P6407797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6407797
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】炭酸ジアルキルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 68/04 20060101AFI20181004BHJP
   C07C 69/96 20060101ALI20181004BHJP
   C07C 43/303 20060101ALI20181004BHJP
   C07C 41/50 20060101ALI20181004BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20181004BHJP
【FI】
   C07C68/04 A
   C07C69/96 Z
   C07C43/303
   C07C41/50
   !C07B61/00 300
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-100864(P2015-100864)
(22)【出願日】2015年5月18日
(65)【公開番号】特開2016-216380(P2016-216380A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2017年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】518018986
【氏名又は名称】三菱重工エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 紘志
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸男
(72)【発明者】
【氏名】安武 聡信
(72)【発明者】
【氏名】平山 晴章
(72)【発明者】
【氏名】吉田 香織
(72)【発明者】
【氏名】飯嶋 正樹
(72)【発明者】
【氏名】原田 英文
(72)【発明者】
【氏名】長島 広光
(72)【発明者】
【氏名】伊佐早 禎則
【審査官】 佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−256270(JP,A)
【文献】 特開2009−067759(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0263265(US,A1)
【文献】 特公昭35−003011(JP,B1)
【文献】 特開2011−173820(JP,A)
【文献】 YAMAZAKI et al.,Polymers Derived from Carbon Dioxide and Carbonates,Ind. Eng. Chem. Prod. Res. Dev.,1979年,18(4),pp.249-252
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノール、プロパノール、ブタノール及びペンタノールからなる群より選択される少なくとも1以上のアルコールとケトンとを原料として、触媒の存在下で反応させてケタールを生成する第一の合成工程と、
前記生成したケタールとCOとを触媒の存在下で反応させて炭酸ジアルキルを生成する第二の合成工程と
前記第一の合成工程で生成されたケタール、副生物及び未反応物からなる第一の混合物からケトンを分離し、前記第一の合成工程に原料として送る第一の分離・再生工程と、
前記第二の合成工程で生成された炭酸ジアルキル、副生物及び未反応物からなる第二の混合物からケタールを分離し、前記第二の合成工程に原料として送るケタール分離・再生工程と
を備えていることを特徴とする炭酸ジアルキルの製造方法。
【請求項2】
前記第一の合成工程の第一の混合物から少なくとも2つの脱水塔を用いて副生水を除去し、前記第一の合成工程に原料として送る除去工程を更に備えることを特徴とする請求項に記載の炭酸ジアルキルの製造方法。
【請求項3】
前記第二の混合物から副生物のケトンと未反応物のアルコールとを分離し、前記第一の合成工程に原料として送る第二の分離・再生工程を更に備えることを特徴とする請求項1または2に記載の炭酸ジアルキルの製造方法。
【請求項4】
前記第二の混合物からCOを分離し、前記第二の合成工程に原料として送るCO分離・再生工程を更に備えることを特徴とする請求項のいずれか一項に記載の炭酸ジアルキルの製造方法。
【請求項5】
前記アルコールがブタノールであり、前記ケトンがアセトンであり、前記ケタールがアセトンジブチルアセテートであり、前記炭酸ジアルキルが炭酸ジブチルであることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の炭酸ジアルキルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ジアルキルの製造方法に関し、特に、アルコールからポリカーボネートの原料となる炭酸ジアルキルを製造する炭酸ジアルキルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明性、耐衝撃性、耐熱性等に優れた樹脂であるポリカーボネートは、工業用材料向けの需要が順調に伸長している。このようなポリカーボネートの原料となる炭酸ジアルキルは、各種の方法で合成できることが報告されている。このような炭酸ジアルキルの主な合成法として、ホスゲンとアルコールとを反応させて炭酸ジアルキルを生成するホスゲン法が挙げられる。しかし、ホスゲンが強い毒性を有しているため、ホスゲンを使用しない製造法が切望されている。
【0003】
このような製造方法としては、メタノールからアセトンジメチルアセテートを生成し、これにCOを反応させて、炭酸ジメチルを生成する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に示す例には、生成する炭酸ジアルキルと生成中に存在する原料とが共沸し、共沸混合物が生じるという問題があった。また、炭酸ジアルキルを分離・精製する工程が多くなり、製品品質の炭酸ジアルキルを得ることが困難となり、且つ製造・設備コストが多くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4616589号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記事情に照らして、本発明は、生成する炭酸ジアルキルと原料との共沸を防ぎ、製品品質の炭酸ジアルキルを得るための工程数を効率よく減らして、且つ製造・設備コストを低減する炭酸ジアルキルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明に係る炭酸ジアルキルの製造方法は、エタノール、プロパノール、ブタノール及びペンタノールからなる群より選択される少なくとも1以上のアルコールとケトンとを原料として、触媒の存在下で反応させてケタールを生成する第一の合成工程と、前記生成したケタールとCOとを触媒の存在下で反応させて炭酸ジアルキルを生成する第二の合成工程とを少なくとも備える。
【0008】
また、本発明は、前記第一の合成工程で生成されたケタール、副生物及び未反応物からなる第一の混合物からケトンを分離し、前記第一の合成工程に原料として送る第一の分離・再生工程と、前記第二の合成工程で生成された炭酸ジアルキル、副生物及び未反応物からなる第二の混合物からケタールを分離し、前記第二の合成工程に原料として送るケタール分離・再生工程とを更に備えることができる。
【0009】
このような工程を備えることにより、第一の合成工程後のケトンをリサイクルして、必要量のケタールの合成に要するケトン量を低減すると共に、第二の合成工程後のケタールをリサイクルして、必要量の炭酸ジアルキルの合成に要するケタール量を低減することができる。その結果、炭酸ジアルキルの製造効率をより向上し、製造コストを削減できる。
【0010】
更に、本発明は、別の形態にて、前記第一の合成工程の第一の混合物から少なくとも2つの脱水塔を用いて副生水を除去し、前記第一の合成工程に原料として送る除去工程を更に備える形態とすることができる。
【0011】
このような形態であれば、原料中の水分量を低減して、第一の合成工程でのケタールの合成効率を向上すると共に、第一の合成工程の未反応物をリサイクルすることができる。その結果、炭酸ジアルキルの製造効率をより向上し、製造コストを削減できる。
【0012】
更に、本発明は、前記第二の混合物からケトンとアルコールを分離し、前記第一の合成工程に原料として送る第二の分離・再生工程を更に備えることが好適である。
【0013】
このような工程を備えることにより、例えば、ケタールの生成設備とケトンの生成設備との間にて、第二の合成工程後のケトンとアルコールをリサイクルして、第一の合成工程にて、必要量のケタールの合成に要するケトン量を低減することができる。その結果、炭酸ジアルキルの製造効率をより向上し、製造コストを削減できる。
【0014】
更にまた、本発明は、前記第二の混合物からCOを分離し、前記第二の合成工程に原料として送るCO分離・再生工程を更に備えることが好適である。
【0015】
このような工程を備えることにより、炭酸ジアルキルの製造プラントにて生成されるCOを排出することなく、また、製造プラント内でCOを固定化するための高価な設備や工程も設ける必要もない。このため、設備及び製造コストを低減すると共に、炭酸ジアルキルの製造効率をより向上することができる。
【0016】
また、前記アルコールをブタノールとし、更に前記ケトンをアセトンとし、前記ケタールをアセトンジブチルアセテートとし、前記炭酸ジアルキルを炭酸ジブチルとすることが好適である。
【0017】
このような原料であれば、炭素数が多いブタノールを原料としてもポリカーボネートの原料となる炭酸ジブチルを製造することができ、アルコールと炭酸ジアルキルとが共沸点組成を構成することを確実に防ぐことができる。また、炭酸ジブチルを容易に分離精製できるとともに、第一の合成工程後のブタノールを精製する必要がない。したがって、製品品質までブタノールの純度を高めるための工程及び設備の数を、メタノールを原料とした場合に比べて、減らすことができる。その結果、設備及び製造コストをより低減することができる。工業的に炭酸ジアルキル、特に炭酸ジブチルを大量生産する場合、製造・設備コスト、エネルギ消費量等を抑制することは、非常に重要である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、生成する炭酸ジアルキルと原料との共沸を防ぎ、製品品質の炭酸ジアルキルを得るための工程数を効率よく減らして、且つ製造・設備コストを低減する炭酸ジアルキルの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明に係る炭酸ジアルキルの製造方法の第一実施の形態について、そのシステムの概要を説明するための概念図である。
図2図2は、本発明に係る炭酸ジアルキルの製造方法の第二実施の形態について、そのシステムの概要を説明するための概念図である。
図3図3は、本発明に係る炭酸ジアルキルの製造方法について、実施例を説明するためのシステムの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る炭酸ジアルキルの製造方法について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0021】
[第一実施の形態]
本発明に係る炭酸ジアルキルの製造方法は、第一の合成工程と、第二の合成工程と、を少なくとも備えている。
【0022】
先ず、第一の合成工程では、炭素数2〜5のアルコールとケトン、例えばアセトンとを第一の原料とし、第一の触媒の存在下で下記式(1)のように反応させ、ケタールを生成する。
【化1】
【0023】
続く第二の合成工程では、前記生成したケタール、例えばアセテートとCOとを第二の原料とし、第二の触媒の存在下で下記式(2)のように反応させて炭酸ジアルキルを生成する。
【化2】
【0024】
第一の合成工程の原料のうちの1つは、エタノール(COH)、プロパノール(COH)、ブタノール(COH)、及びペンタノール(C11OH)からなる群より選択される少なくとも1以上の炭素数が2〜5のアルコールである。より具体的には、前記アルコールとして、エタノール、1−プロパノール(CHCHCHOH)、1−ブタノール(CHCHCHCH(OH))及び1−ペンタノール(CHCHCHCHCH(OH))が挙げられる。これらのうち、炭酸ジアルキル製造中の共沸を確実に回避できるとともに、実用的な観点より、ブタノールが好ましく、直鎖状の1−ブタノールがより好ましい。
【0025】
第一の合成工程の原料のうちの1つは、ケトンである。アルコールとともに炭酸ジアルキルを生成できるものであればよく、限定されない。より具体的には、前記ケトンとしては、アセトン(CHCOCH)、メチルエチルケトン(CHCOC)、ジエチルケトン(CHCHCOCHCH)等が挙げられる。これらのうち、実用的な観点より、また炭素数が多くなると、副生物の生成量が増加する可能性があるため、アセトンが好ましい。
【0026】
第一及び第二の合成工程の生成物及び原料となるケタールは、炭素数2〜5のアルコールから炭酸ジアルキルを生成できるものであればよく、限定されない。より具体的には、ケタールとしては、ケトンとしてアセトンを原料としたアセタールが好ましい。アセタールとしては、アセトンと炭素数2〜5のアルコールを第一の原料とした場合、アセトンジエチルアセテート((CO)C(CH)、アセトンジプロピルアセテート((CO)C(CH)、アセトンジブチルアセテート((CO)C(CH)及び、アセトンジペンチルアセテート((C11O)C(CH)である。これらのうち、実用的な観点から、アセトンジブチルアセテートが好ましい。
【0027】
第二の合成工程の生成物である炭酸ジアルキルは、原料のアルコールに応じて生成するものであればよく、特に限定されない。より具体的には、炭酸ジアルキルは、アセトンと炭素数2〜5のアルコールとを第一の原料とした場合、炭酸ジエチル((CO)CO)、炭酸ジプロピル((CO)CO)、炭酸ジブチル((CO)CO)、及び炭酸ジペンチル((C11O)CO)である。これらのうち、共沸を確実に回避でき、実用的な観点から、炭酸ジブチルが好ましい。
【0028】
第一又は第二の合成工程での温度及び圧力は、第一の原料からケタールが合成でき、且つ、第二の原料から炭酸ジアルキルが合成できる温度及び圧力であればよい。第一の合成工程での温度は、例えば−50℃〜50℃であり、好ましくは−20℃〜0℃であり、その圧力は、例えば0.01MPa〜1.0MPaであり、好ましくは常圧である。また、第二の合成工程での温度は、例えば100℃〜300℃であり、好ましくは150℃〜200℃であり、その圧力は、例えば10MPa〜50MPaであり、好ましくは10MPa〜30MPaである。このような範囲であれば、ブタノールを用いた場合の炭酸ジブチルの生成効率を向上することができる。
【0029】
なお、第一及び第二の合成工程では、第一及び第二の触媒として所定の触媒を用いる。第一の触媒としては、炭素数2〜5のアルコールとケトンからケタールを生成できる触媒を用いればよく、限定されない。例えば、固体酸点を有する化合物からなる担体に、強酸を担持させてなる強酸触媒(強酸性陽イオン交換樹脂等)を用いることができる。また、第二の触媒としては、ケタールとCOから炭酸ジアルキルを生成できる触媒を用いればよい。例えば、固体酸点を有するZrO、TiO、SiO等の化合物からなる担体に、リン酸、硫酸、スルホン酸等の酸を担持させてなる触媒を用いることができる。これらのうち、ZrO等の両性酸化物にリン酸を担持させた触媒が好ましい。このような触媒であれば、製造した炭酸ジアルキル量に対する副生物量を低減して、炭酸ジアルキルの分離・精製をより効率よく行うことができる。
【0030】
以上のように、第一の合成工程の原料をアセトンとブタノールとし、第二の合成工程の原料をアセトンジブチルアセテート(ADBA:Acetone dibutyl acetal)とCOとした場合、第一及び第二の合成工程を経て生成される前記炭酸ジアルキルは、炭酸ジブチル(DBC:Dibutyl carbonate)となる。
【0031】
また、本発明に係る炭酸ジアルキルの製造方法は、下記i〜vの工程を備えることができる。
i)前記第一の合成工程で生成されたケタール、副生物及び未反応物からなる第一の混合物からケトンを分離し、前記第一の合成工程に原料として送る第一の分離・再生工程、
ii)前記第二の合成工程で生成された炭酸ジアルキル、副生物及び未反応物からなる第二の混合物からケタールを分離し、前記第二の合成工程に原料として送るケタール分離・再生工程、
iii)前記第一の合成工程の第一の混合物から少なくとも2つの脱水塔を用いて副生水を除去し、前記第一の合成工程に原料として送る除去工程、
iv)前記第二の混合物から副生物のケトンと未反応物のアルコールとを分離し、前記第一の合成工程に原料として送る第二の分離・再生工程、及び/又は、
v)前記第二の混合物からCOを分離し、前記第二の合成工程に原料として送るCO分離・再生工程。
このような第一及び第二の分離・再生工程、ケタール分離・再生工程、除去工程及びCO分離・再生工程については、下記に具体例を示して詳述する。
【0032】
続いて、本発明に係る炭酸ジアルキルの製造方法について、図1に示すシステムの形態を参照しながら詳説する。なお、図示のシステムでは、アルコールをブタノールとし、ケタールをアセトンジブチルアセテート(以下、ADBAともいう。)とし、炭酸ジアルキルを炭酸ジブチル(以下、DBCともいう。)としている。
【0033】
図1に示す炭酸ジアルキル製造システム10は、ADBA合成器20(第一の合成装置)と、ADBA分離・精製塔30(第一の分離装置)と、DBC合成器40(第二の合成装置)と、DBC分離・精製塔50と、ADBA分離・精製塔60(第二の分離装置)と、を少なくとも備えている。
【0034】
ADBA合成器20に、冷却器21により所定の温度、例えば25℃の温度まで冷却し凝集した液相の状態のアセトンとブタノールとを少なくとも含む第一の原料を導入する。
ADBA合成器20では、例えば常圧及び−20℃の温度下にて、第一の原料として導入したアセトンとブタノールとから、その内部に充填した第一の触媒下でADBAを生成する(第一の合成工程)。ADBA合成器20から排出された混合液(第一の混合物)には、生成したADBA、副生水並びに未反応物のアセトン及びブタノールが含まれている。
前記混合液を、モレキュラーシーブ等の脱水剤を備えた脱水塔22に導入し、副生水を分離することによって脱水する。分離した副生水は系外へ排出すると共に、脱水したADBA、アセトン及びブタノールからなる混合液をADBA分離・精製塔30へ送る。
【0035】
ADBA分離・精製塔30は、棚段方式又は充填物方式の少なくとも1つ以上の蒸留塔を採用することができ、リボイラ31と、冷却器32と、回収塔33とを少なくとも備える。
ADBA分離・精製塔30では、ADBA、アセトン及びブタノールからなる混合液を導入し、その塔底の混合液をリボイラ31で加熱して、分離・精製塔30に還流する。これにより、ADBA分離・精製塔30内の混合液のうち沸点の低い物質から蒸発し、塔内を上昇する。その結果、ADBA分離・精製塔30に新たに導入されて塔内を落下する混合液と、上昇する蒸気とが気液接触する。
ADBA分離・精製塔30の上部側では、蒸気混合液のうち沸点の低い物質であるアセトンの濃度が高くなり、その下部側では、沸点の高い物質であるADBAとブタノールの濃度が高くなるという濃度分布が生じる。そして、ADBA分離・精製塔33の上部からアセトンの蒸気を排出し、排出された蒸気を冷却器32で凝縮させることにより、アセトンを液相の状態で回収塔33へ回収することができる。リボイラ31による加熱温度は、50℃以上200℃以下の範囲が好ましく、この範囲であれば、ADBA、アセトン及びブタノールからなる混合液からアセトンを効率よく分離・回収することができる。回収したアセトンは、第一の原料に混合してADBA合成器20に還流し、第一の合成工程の原料としてリサイクルする。
このようにして、ADBA分離・精製塔30では、ADBA合成器20での第一の合成工程で生成されたアセトンジブチルアセテート、副生物及び未反応物からなる第一の混合物からアセトンを分離し、第一の合成工程に原料として送る(第一の分離・再生工程)。
【0036】
他方、ADBA分離・精製塔30の下部から、混合物液からアセトンを分離したADBAとブタノールとの混合液をDBC合成器40に送る。
【0037】
DBC合成器40に、圧縮機41により、例えば30MPaまで加圧された液相の状態のCOと、ADBA及びブタノールからなる混合液とを導入する。第二の触媒を充填したDBC合成器40では、常圧より高い所定の圧力(第二の圧力)、例えば30MPaの圧力及び200℃の温度下にて、ADBAとCOとを所定の触媒下で反応させて、DBCを生成する。DBC合成器40から排出される混合液(第二の混合物)には、生成したDBC、副生物のアセトン並びに未反応物のADBA、ブタノール及びCOが含まれている。
このようにして、DBC合成器40では、ADBA合成器20での第一の合成工程で生成され、ADBA分離・精製塔30での第一の分離・再生工程を経たADBAにCOを反応させてDBCを生成する(第二の合成工程)。
【0038】
DBC合成器40から排出した混合液は、高圧状態のまま、CO分離装置42に送り込まれる。このとき、混合液には、生成したDBC、副生物のアセトン並びに未反応のADBA、ブタノール及びCOが混在している。
CO分離装置42では、常圧より高く、且つDBC合成器40で反応を行う第二の圧力より低い所定の圧力(第三の圧力)、例えば5MPaの圧力及び180℃の温度下にて、混合液中のCOを、ADBA、アセトン及びブタノールから分離する。
【0039】
CO分離装置42としては、液体を加熱する図示しない熱源を備えたCOストリッパや、フラッシュタンクを好適に用いることができる。
COストリッパは、いわゆる棚段方式又は充填物方式の蒸留塔と同様の構成を有し、高圧下で炭酸ジブチル、アセトン、COの混合物を焚き上げる。これにより、液相の状態のDBC、ADBA、アセトン及びブタノールはそのままで、気相の状態となったCOだけが上昇して、分離する。分離したCOは、COストリッパの上部から排出し、圧縮機43と冷却器44を経て第二の原料に混合し、DBC合成器40に還流してリサイクルする。また、フラッシュタンクは、高圧の液体を蒸発させ、低圧の蒸気と低圧の凝縮液に分離する装置である。フラッシュタンクも、COストリッパと同様、蒸気となったCOだけを分離し、圧縮機43と冷却器44を経て第二の原料に混合し、DBC合成器40に還流してリサイクルする。
このようにして、DBC合成器40での第二の合成工程にて生じた第二の混合物からCOを分離して、DBC合成器40に再び戻すことにより、DBCを合成するための第二の合成工程の原料として送る(CO分離・再生工程)。
【0040】
CO分離装置42から排出されたCOは、高圧を維持している。このため、DBC合成器40に循環してリサイクルするための昇圧の程度を低減することができる。例えば、圧縮機43にてCOを5MPaから30MPaの圧力まで昇圧する。このように、昇圧に用いる圧縮機43で必要とするエネルギを、常圧から昇圧させる場合と比較して大きく低減することができる。なお、DMC反応器40前にてCOと合流するADBA及びブタノールは、液相の状態であるので、昇圧するにしても、気相の状態と比較すれば、圧縮に必要なエネルギが少なくて済む。これにより、炭酸ジアルキルを製造するための必要なエネルギを抑えることができる。その結果、省コスト化、環境悪化の抑制といった効果を得ることができる。
【0041】
続いて、CO分離装置42は、第二の混合物からCOを分離した、DBC、ADBA、アセトン及びブタノールを液相の状態のまま排出し、DBC分離・精製塔50に送る。
【0042】
DBC分離・精製塔50は、棚段方式又は充填物方式の少なくとも1つ以上の蒸留塔を採用することができ、リボイラ51と、冷却器52と、回収塔53とを備えている。
DBC分離・精製塔50では、DBC、ADBA、アセトン及びブタノールの混合液を導入すると、塔底の混合液をリボイラ51で加熱し、DBC分離・精製塔50に還流する。これにより、DBC分離・精製塔50内の混合液のうち沸点の低い物質から蒸発し、塔内を上昇する。DBC分離・精製塔50に新たに導入されて塔内を落下する混合液と、上昇する蒸気とが気液接触する。
DBC分離・精製塔50の上部側では、混合液のうち沸点の低い物質であるADBA、アセトン及びブタノールの濃度が高くなり、その下部側では、沸点の高い物質であるDBCの濃度が高くなるという濃度分布が生じる。そして、DBC分離・精製塔50の上部から、ADBA、アセトン及びブタノールの蒸気を排出し、排出された蒸気を冷却器52で凝縮させることにより、回収塔53にて液相の状態で回収することができる。他方で、DBC分離・精製塔50の下部から、製品品質(例えば、純度:95%以上)を有するDBCを液相の状態で回収できる。リボイラ51による加熱温度は、150℃以上250℃以下の範囲が好ましく、この範囲であれば、DBC、ADBA、アセトン及びブタノールからなる混合液からDBCを効率よく回収することができる。
【0043】
続いて、DBC分離・精製塔50にてDBCを分離し回収塔53を経たADBA、アセトン及びブタノールを含む混合物をADBA分離・精製塔60へ送る。
【0044】
ADBA分離・精製塔60は、棚段方式又は充填物方式の少なくとも1つ以上の蒸留塔を採用することができ、リボイラ61と、冷却器62と、回収塔63とを備える。
ADBA分離・精製塔60では、ADBA、アセトン及びブタノールからなる混合液を導入し、塔底の混合液をリボイラ61で加熱して、分離・精製塔60に還流する。これにより、ADBA分離・精製塔60内の混合液のうち沸点の低い物質から蒸発し、塔内で上昇する。ADBA分離・精製塔60に新たに導入されて塔内を落下する混合液と、上昇する蒸気とが気液接触する。
ADBA分離・精製塔60の上部側では、混合液のうち沸点の低い物質であるアセトンとブタノールの濃度が高くなり、その下部側では、沸点の高い物質であるADBAの濃度が高くなるという濃度分布が生じる。そして、ADBA分離・精製塔60の上部から、アセトンとブタノールの蒸気を排出し、排出された蒸気を冷却器62で凝縮させることにより、アセトンとブタノールとを液相の状態で回収塔63へ回収できる。リボイラ61による加熱温度は、100℃以上200℃以下の範囲が好ましく、この範囲であれば、ADBA、アセトン及びブタノールからなる混合液から、リサイクルのためにADBAとアセトン及びブタノールとを効率よく分離・回収することができる。
【0045】
回収塔63にて回収したアセトン及びブタノールは、第一の原料に混合して第一のADBA合成器20に還流し、ADBAを生成するための原料としてリサイクルする。また、ADBA分離・精製塔60の下部から回収したADBAは、第二の原料に混合してDBC合成器40に還流し、DBCを生成するための第二の合成工程の原料としてリサイクルする。
このように、第二の混合物からアセトンとブタノールを分離し、前記第一の合成工程に原料として送る(第二の分離・再生工程)。また、第二の合成工程で生成された炭酸ジブチル、副生物及び未反応物からなる第二の混合物からアセトンジブチルアセテートを分離し、第二の合成工程に原料として送る(アセタール分離・再生工程)。
【0046】
[第二実施の形態]
本発明に係る炭酸ジアルキル製造方法の第二実施の形態について、図2のシステムを参照して説明する。本実施の形態に係る炭酸ジアルキル製造システムは、ADBA合成器120(第一の合成装置)と、少なくとも2つ以上の脱水塔121、122と、を少なくとも含む構成とすることができる。
【0047】
図2に示す形態では、その内部に第一の混合物を脱水するための脱水剤がそれぞれ充填された2つの脱水塔121、122を備えている。脱水剤としては、例えばモレキュラーシーブ、シリカゲル等の脱水剤を用いることができる。2つの脱水塔121、122は並列して配置され、開閉弁121a、121b及び122a、122bをそれぞれ備えている。開閉弁121a〜122bは、手動弁でも自動開閉弁でもよい。
本実施の形態では、脱水塔121、122を設け、何れか一方を吸着用、他方を吸着剤の再生用に用いることにより、稼働中のシステムにてADBA合成後の混合液からの脱水と、吸着剤の再生工程とを同時に実施する。
【0048】
例えば、図示の脱水塔121では、開閉弁121a、121bを開き、その内部の脱水剤により第一の混合物から副生水を除去している。それと同時に、脱水塔122では、開閉弁122a、122bを閉じ、内部の脱水剤が含む副生水を加熱処理により除去する。脱水塔122は、脱水塔121の脱水剤の脱水効率が低下した際に交換して使用する脱水塔として配置している。
【0049】
以上の構成によって、ADBA合成塔120での第一の合成工程にて生じた第一の混合物中の副生水は、脱水塔121及び/又は122により除去される。脱水塔121及び/又は122にて脱水した第一の混合物の一部は、ADBA合成塔120に還流して、第一の合成工程の原料とする。また、その残部は、流量調節計123(FIC:Flow Indication Controller)を経て脱水塔22に送る。
なお、脱水中の第一の混合物のADBA合成120及び/又は脱水塔22への送液方法は、バッチ式でも連続式でもよい。また、脱水塔22への送液は、混合液中の水分量が所定の量以下となった場合に実施すればよい。脱水により、第一の混合液中の水分量を、例えば0.01重量%以上1.0重量%以下の範囲内として第一の合成工程を実施することが好ましい。
このように、前記第一の合成工程の第一の混合物から少なくとも2つの脱水塔を用いて副生水を除去し、前記第一の合成工程に原料として送る(除去工程)。
【0050】
第二実施の形態によれば、第一の合成工程後の第一の混合物を、脱水塔に供給して脱水した後、第一の合成工程の原料としてリサイクルする。これにより、ADBA合成器20での第一の合成工程での原料中の水分が減少し、ADBA合成量を増加させることができる。
【0051】
また、第二実施の形態によれば、少なくとも2つの脱水塔を設置し、一方を脱水用として稼働しながら、他方を脱水剤の再生用として使用することにより、効率的な炭酸ジアルキルの効率的な製造を可能とする。更に、その後流に位置する脱水塔22への副生水の量が減少するため、脱水塔22の脱水剤の劣化速度を抑えることができる。これにより、炭酸ジアルキル製造方法の長期的な実施を可能とする。
【実施例】
【0052】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明することにより、本発明の効果を明らかにする。本発明に係る炭酸ジアルキルの製造方法は、本例によって制限されない。
【0053】
図3に本発明に係る炭酸ジアルキルの製造方法に用いる炭酸ジアルキルの製造システム10を示す。図3に示すように、炭酸ジアルキルの製造システム10によるDBC合成プロセスは、本発明に係る炭酸ジアルキルの製造方法の一形態であり、ブタノールからADBAを生成し、これにCOを反応させて、DBCを合成するプロセスである。システム10によるDBC合成プロセスでの各熱交換器(冷却器)、リボイラ21、31、44、51、61等に要する必要スチーム量を、プロセスシミュレータにより算出した。なお、図3では矢印を用いて必要スチームを算出した箇所を示している。
【0054】
また、比較例として、炭酸ジメチル合成プロセス(以下、DMC合成プロセスともいう。)での各熱交換器(冷却器)、リボイラ等に要する必要スチーム量をプロセスシミュレータにより算出した。なお、DMC合成プロセスは、メタノールからアセトンジメチルアセテート(ADA)をADA合成器にて生成し、これにCOを反応させて、DMCをDMC合成器にて合成するプロセスである。
【0055】
DBC合成プロセスでの各熱交換器(冷却器)、リボイラ等の必要スチーム量と、DMC合成プロセスでの各熱交換器(冷却器)、リボイラ等の必要スチーム量と比較した。必要スチーム量は、DMC1トン生成あたり、又は、DBC1トン生成あたりのスチーム量として、必要スチーム量を比較した。結果を下記表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
結果より、DMC合成プロセスの要する必要スチーム量を1とした場合、DBC合成プロセスに要する必要スチーム量は0.42であった。これにより、DBC合成プロセスであれば、DMC合成プロセスと比較して、必要スチーム量を1/2以下に低減できることがわかった。したがって、本発明に係る炭酸ジブチルの製造方法によれば、従来の炭酸ジメチルの製造方法よりも製造コストを低減できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る炭酸ジアルキルの製造方法によれば、生成する炭酸ジアルキルと原料との共沸を防ぐことができる。また、製品品質の炭酸ジアルキルを得るための工程数を効率よく減らすことができる。その結果、炭酸ジアルキルに要する製造・設備コストを低減できる。
【符号の説明】
【0059】
10:炭酸ジアルキル製造システム
20、120:ADBA合成器(第一の合成装置)
21、32、44、52、62:冷却器(熱交換器)
22、121、122:脱水塔
30、60:ADBA分離・精製塔
31、51、61:リボイラ
33、53、63:回収塔
40:DBC合成器(第二の合成装置)
41、43:圧縮機
50:DBC分離・精製塔
図1
図2
図3