(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ナノ微粒子が、マクロライド系抗菌剤と、生理的に許容される塩及び/又は生理的に許容される糖と、生理的に許容されるポリオール及び/又は水と、分散安定剤とを混合することにより製造された微粒子であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の水性懸濁液剤。
前記マクロライド系抗菌剤がエリスロマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン、アジスロマイシン、ジョサマイシン、ロキタマイシン、又はキタサマイシンである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の水性懸濁液剤。
【発明を実施するための形態】
【0035】
1.マクロライド系抗菌剤の微粒子を含有する水性懸濁液剤
マクロライド系抗菌剤の微粒子は、マクロライド系抗菌剤と、生理的に許容される塩及び/又は生理的に許容される糖と、生理的に許容されるポリオール及び/又は水と、分散安定剤とを混合することにより製造することができる。好ましくは、本発明のマクロライド系抗菌剤の微粒子は、粉砕する工程中若しくは該工程後に、レシチンを添加することにより製造することができる。
【0036】
マクロライド系抗菌剤の微粒子の製造に用いられるポリオールは、生理学上特に問題を生じることなく摂取することができるポリオールであれば特に限定されない。生理的に許容されるポリオールとして、好ましくは、塩に対する溶解性の低いもの、水に対する溶解性が高いもの、凝固点が低いもの及び/又は引火点が高いものである。また、粉砕後の除去を簡便に行う場合には、生理的に許容されるポリオールは、水に対する溶解性が高いことが好ましい。
【0037】
ポリオールとしては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、及び、ジエチレングリコール等を挙げることができ、好ましくは、プロピレングリコール又はグリセリンである。ポリオールの粘度としては、好ましくは、1〜100,000(mPa・S)であり、より好ましくは5〜10,000(mPa・S)であり、さらに好ましくは、10〜2,000(mPa・S)である。
【0038】
ポリオールの使用量は、粉砕対象である有機化合物1質量部に対して、0.2〜50質量部であることが好ましく、0.4〜15質量部であることがより好ましく、0.6〜10質量部であることがさらに好ましい。また、使用するポリオールの種類は、粉砕対象である有機化合物の溶解性を考慮して、適宜決定することができる。さらに、該ポリオールは1種類のポリオールを用いてもよく、2種類以上のポリオールを混合して用いてもよい。
【0039】
本実施の形態に係る製造方法に用いられる塩は、生理学上特に問題を生じることなく摂取することができる塩であれば特に限定されない。生理学的に許容される塩として、好ましくは、ポリオールに対する溶解性が低い塩、水に対する溶解性が高い塩及び/又は吸湿性の少なく有機化合物の微粉砕化に適した硬さを有している塩である。塩として、より好ましくは、これらの性質の2以上を備える塩である。塩のポリオールに対する溶解度は、好ましくは、10(質量/容量)%以下である。また、粉砕後に塩の除去を簡便にする場合には、好適な塩は水に対する溶解性が高いものである。
【0040】
好適な塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、及びリン酸水素二カリウム等が挙げられる。さらに好適な塩として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、クエン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム等を挙げることができ、好ましくは塩化ナトリウムである。
【0041】
また、塩は、マクロライド系抗菌剤と混合する前に、粉砕等を行って、粒子径を整えておいてもよい。塩の粒子径を予め調整する場合、粒子のDvとして、例えば、5〜300μm、10〜200μmであってもよいが、好ましくは0.01〜300μmであり、より好ましくは0.1〜100μmであり、更に好ましくは、0.5〜50μmである。また、該塩の使用量は、有機化合物1質量部に対して、0〜100質量部であることが好ましく、0.2〜50質量部であることがより好ましく、0.5〜30質量部であることが更に好ましい。さらに、該塩は1種類の塩を用いてもよく、2種類以上の塩を混合して用いてもよい。
【0042】
例えば、本発明のマクロライド系抗菌剤の微粒子は、「粉砕工程」、「レシチンの混合工程」、「濾過・水洗工程」および「乾燥工程」を順に経て製造される。ただし、「粉砕工程」と「レシチンの混合工程」を統合した一つの工程とし、粉砕しながら粉砕粒子にレシチンを混合するようにしても良い。好ましくは、マクロライド系抗菌剤の微粒子を含む懸濁液の製造は、各工程を経て得られたマクロライド系抗菌剤の微粒子に、必要に応じて分散剤を加えて水と混合することにより行うことができる。例えば、マクロライド系抗菌剤の微粒子を含む懸濁液は、「濾過・水洗工程」および「乾燥工程」を省略して「粉砕工程」および「レシチン混合工程」を経て得られたマクロライド系抗菌剤の微粒子に必要に応じて分散剤を加えて水と混合することにより製造することもできる。以下、「粉砕工程」、「レシチンの混合工程」、「濾過(分離)・水洗工程」および「乾燥工程」について説明する。
【0043】
(粉砕工程)
マクロライド系抗菌剤の微粒子の製造方法において、マクロライド系抗菌剤を湿式粉砕するために用いられる粉砕装置は、機械的手段によってマクロライド系抗菌剤を微細にできる能力を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。該粉砕装置として、例えば、ニーダー、二本ロール、三本ロール、フレットミル、フーバーマーラ、円盤ブレード混練分散機、二軸エクストルーダー等の通常用いられている粉砕装置を挙げることができる。
【0044】
マクロライド系抗菌剤を粉砕するには、粉砕装置内に有機化合物、塩および分散安定剤を投入し、ポリオールを少しずつ加えながら混練するのが好ましい。混練時の粘度は、粉砕されるマクロライド系抗菌剤、塩、ポリオールの種類によって適宜決定することができる。粉砕温度は、粉砕されるマクロライド系抗菌剤や、粉砕装置等を考慮して適宜決定することができる。粉砕温度として、マクロライド系抗菌剤の融解あるいは分解を低減できる温度であれば、特に制限はないが、好ましくは−50〜50℃であり、より好ましくは−20〜30℃であり、最も好ましくは、−10〜25℃である。また、粉砕時間は、粉砕されるマクロライド系抗菌剤、粉砕装置等を考慮して適宜決定することができる。粉砕時間は、例えば、0.5〜50時間程度とすることができ、好ましくは、1〜30時間であり、より好ましくは、1.5〜20時間であり、最も好ましくは、2〜10時間である。
【0045】
分散安定剤の使用量は、粉砕対象であるマクロライド系抗菌剤1質量部に対して、0.002〜10質量部であることが好ましく、0.01〜5質量部であることがより好ましく、0.1〜1質量部であることがさらに好ましい。また、使用する分散安定剤の種類は、粉砕対象である有機化合物の種類を考慮して、適宜決定することができる。さらに、分散安定剤は1種類を用いてもよく、2種類以上の異なるものを混合して用いてもよい。
【0046】
(レシチンの混合工程)
レシチンは、粉砕中もしくは粉砕終了後の混練物と混合される。なお、この混練物に、分散安定剤が含まれていなくても良い。混合工程は、粉砕装置にて粉砕した後若しくは粉砕中にレシチンを混合して、同じ粉砕装置内で混練を継続することにより行うことができる。その他、混合用の別の装置(混合装置)を用意して、粉砕後の混練物を当該混合装置に移し、そこにレシチンを加えて混合工程を行うこともできる。レシチンの使用量は、粉砕対象であるマクロライド系抗菌剤1質量部に対して、0.01〜10質量部であることが好ましく、0.05〜2質量部であることがより好ましく、0.1〜1.0質量部であることがさらに好ましい。レシチンは単独でも良いが、ポリオールとレシチンの混和物を加えることもできる。その場合、レシチンとポリオールとの混合比(重量比)は、レシチン1質量部に対してポリオール1〜10質量部、より好ましくは1.5〜5質量部、さらに好ましくは2〜4質量部である。
【0047】
(濾過(分離)・水洗工程)
レシチンの混合後、必要に応じて濾過および水洗を行い、塩及びポリオールを除去することができる。具体的には、レシチン混合後の混練物を、溶媒中に入れて、ホモジナイザー等を用いて均一に混合した後、濾過及び水洗を行うことにより、塩およびポリオールを除去することができる。該混練物を均一に混合する際に使用する溶媒は、ポリオールおよび塩が溶解し易く、かつ微粉砕されたマクロライド系抗菌剤が溶解し難い溶媒であって、かつ、生理学的に許容される溶媒であれば、特に限定されるものではない。該溶媒としては、水が好ましいが、水以外の溶媒も使用することができる。該水以外の溶媒として、例えば、酢酸、メタノール、エタノール等の有機溶媒と水との混合液がある。また、濾過方法は、特に限定されるものではなく、通常、マクロライド系抗菌剤の含有物を濾過するために用いられる公知の方法で行うことができる。該濾過方法として、例えば、減圧濾過法、加圧濾過法、限外濾過膜法がある。また、濾過と同様に塩およびポリオールを除去する方法として、遠心分離法がある。遠心分離の具体的な方法は、レシチン混合後の混練物を、溶媒中に入れて、ホモジナイザー等を用いて均一に混合した後、遠心分離機にて微粉砕された有機化合物を沈降させ、上澄を除去する。この操作を繰り返すことにより、塩及びポリオールを除去できる。上澄液の電気伝導度を測定することにより、洗浄の終点を求めることができる。すなわち、例えば、上澄液の電気伝導度が10μS/cmであれば、塩化ナトリウムの濃度は約5ppmと予測できるので、物質の特性に合わせて、終点の電気伝導度を決めればよい。
【0048】
微粉砕したマクロライド系抗菌剤の粒子は、通常、高い表面エネルギーを有しているため、凝集し易い。従って、塩等を除去した後、二次凝集を防止するための添加剤を加えてもよい。該二次凝集防止剤として、例えば、アルキル硫酸塩、N−アルキロイルメチルタウリン塩、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、クエン酸ナトリウム、精製大豆レシチン、リン脂質、D−ソルビトール、乳糖、キシリトール、アラビアゴム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、スルホコハク酸エステル塩、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルメロースナトリウム、カルボキシビニルポリマー(CVP)、N−アシル−グルタミン酸塩、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、カゼインナトリウム、L−バリン、L−ロイシン、L−イソロイシン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等がある。特に、アルキル硫酸塩およびN−アルキロイルメチルタウリン塩が好ましく、その中でも特に、ドデシル硫酸ナトリウムおよびN−ミリストイルメチルタウリンナトリウムが好ましい。二次凝集防止剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上の二次凝集防止剤を混合して用いてもよい。
【0049】
(乾燥方法)
塩及びポリオールを除去(完全に除去していない場合でも低減できていれば、「除去」という)した後、必要に応じて乾燥処理を行うことにより微粉砕したマクロライド系抗菌剤の粒子から、塩等の除去に用いた溶媒を除去することができる。該乾燥方法は、特に限定されるものではなく、通常、有機化合物を乾燥するために用いられる方法で行うことができる。該乾燥方法として、例えば、減圧乾燥法、凍結乾燥法、噴霧乾燥法、凍結噴霧乾燥法等がある。該乾燥における乾燥温度や乾燥時間等は特に制限されるものではないが、医療用複合有機化合物粒子の化学的安定性の保持及び粒子の二次凝集を防止するために、該乾燥は低温で行うことが好ましく、減圧乾燥法、凍結乾燥法、噴霧乾燥法、凍結噴霧乾燥法で行うことが好ましい。
【0050】
(懸濁)
「粉砕工程」、「レシチンの混合工程」、「濾過・水洗工程」および「乾燥工程」のいずれかの工程の終了時点で得られたマクロライド系抗菌剤の微粒子(例えば、「粉砕工程」および「レシチン混合工程」を経て得られたマクロライド系抗菌剤の微粒子)は、必要に応じて分散剤を加えて水と混合し、必要に応じて超音波処理を施すことにより懸濁させることができる。
【0051】
本明細書でいう「平均粒子径」又は「Dv」とは、動的光散乱光子相関法によって測定される粒度分布における算術平均径を意味する。50%径(メディアン径、D50ともいう)は、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径を意味する。「90%径」とは、上記測定法にて測定される粒度分布において粒子径の小さい側から順に0(最小)〜100%(最大)までカウントしたときの90%の位置にある粒子径(D90)を意味する。「10%径」とは、上記測定法にて測定される粒度分布において粒子径の小さい側から順に0(最小)〜100%(最大)までカウントしたときの10%の位置にある粒子径(D10)を意味する。特に本明細書に記載された水性懸濁液剤が粘性である場合、特に明示されない限りにおいて、平均粒子径(Dv)及び90%径(D90)は、粘度補正後の平均粒子径(Dv)及び90%径(D90)を意味する。動的光散乱光子相関法による測定方法、粒度分布の算出方法、及び粘度補正方法については、当技術分野において広く知られている。
【0052】
2.医薬組成物
また、本発明は、マクロライド系抗菌剤のナノ微粒子を含有することを特徴とする医薬組成物に関する。好ましくは、本発明の医薬組成物は非経口投与用医薬組成物であり、例えば、注射剤又は局所適用製剤とすることができる。本明細書において、「局所適用製剤」とは、局所に投与することを目的とした製剤、又は、局所に投与することに適した製剤を意味する。本明細書において、医薬組成物の種類は特に限定されず、剤型としては、眼用局所適用製剤(例えば、点眼剤)、耳用局所適用製剤(例えば、点耳剤)、鼻用局所適用製剤(例えば、点鼻剤)、懸濁剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、吸入剤、注射剤(例えば、静脈注射用注射剤、皮下投与用注射剤、筋肉注射用注射剤、点滴)等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製することができる。好ましくは、本発明の医薬組成物は分散安定剤を含有する。注射剤の場合には、本発明のマクロライド系抗菌剤のナノ微粒子を水に懸濁させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水或いはブドウ糖溶液に懸濁させてもよく、また分散剤、緩衝剤や保存剤を添加してもよい。本発明の医薬組成物は、例えば、静脈内投与用、筋肉内投与用、若しくは皮下投与用などの注射剤、点滴剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、点眼剤、点耳剤、点鼻剤、吸入剤などの形態の非経口投与用医薬組成物として調製することができる。
【0053】
本発明の医薬組成物は、薬理学的に許容される担体(製剤用添加物)を含有していてもよい。医薬組成物の製造に用いられる製剤用添加物の種類、有効成分に対する製剤用添加物の割合、又は医薬組成物の製造方法は、組成物の形態に応じて当業者が適宜選択することが可能である。製剤用添加物としては無機又は有機物質、或いは固体又は液体の物質を用いることができ、一般的には、有効成分重量に対して1重量%から90重量%の間で配合することができる。具体的には、その様な物質の例として乳糖、ブドウ糖、マンニトール、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、蔗糖、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、イオン交換樹脂、メチルセルロース(MC)、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、トラガント、ベントナイト、ビーガム、酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、脂肪酸グリセリンエステル、精製ラノリン、グリセロゼラチン、ポリソルベート、マクロゴール、植物油、ロウ、流動パラフィン、白色ワセリン、フルオロカーボン、非イオン性界面活性剤、プロピレングルコール、水、塩化ベンザルコニウム、塩酸、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、エデト酸2ナトリウム、ポロキサマー407、ポリカルボフィル等が挙げられる。
【0054】
本発明の水性懸濁液剤又は医薬組成物は、キットの形態で、外箱、容器、希釈剤、濁液剤、及び/又は調製方法・投与方法に関する説明書と共に含めることができる。本発明の水性懸濁液剤又は医薬組成物がキットとして供給される場合、該水性懸濁液剤又は医薬組成物のうち異なる構成成分が別々の容器中に包装され、一つのキットに含まれていてもよいし、あるいは、該水性懸濁液剤又は医薬組成物のうち一以上の一部の構成成分(少なくとも、マクロライド系抗菌剤のナノ微粒子を含む)のみがキットに含まれ、別の構成成分がキットとは別に提供されていてもよい。また、本発明の水性懸濁液剤又は医薬組成物がキットとして供給される場合、本発明の水性懸濁液剤又は医薬組成物を得るため、好ましくは、必要な構成成分が使用直前に混合される。
【0055】
例えば、本発明のキットは、以下のキットとすることができる:
(a) マクロライド系抗菌剤のナノ微粒子を備える、マクロライド系抗菌剤のナノ微粒子を含有することを特徴とする医薬組成物を調製するためのキット;あるいは、
マクロライド系抗菌剤のナノ微粒子を含有する水性懸濁液剤を備える、マクロライド系抗菌剤のナノ微粒子を含有することを特徴とする医薬組成物を調製するためのキット
(b) 前記ナノ微粒子の平均粒子径が500nm以下でD90粒子径が1500nm以下である(a)に記載のキット;
(c) 前記ナノ微粒子が、マクロライド系抗菌剤と、生理的に許容される塩及び/又は生理的に許容される糖と、生理的に許容されるポリオール及び/又は水と、分散安定剤とを混合することにより製造された微粒子であることを特徴とする、(a)又は(b)に記載のキット;
(d) 前記マクロライド系抗菌剤がエリスロマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン、アジスロマイシン、ジョサマイシン、ロキタマイシン、又はキタサマイシンである(a)〜(c)のいずれか1項に記載のキット;
(e) 更に、分散安定剤を備えることを特徴とする、(a)〜(d)のいずれか1項に記載のキット;
(f) 前記分散安定剤が界面活性剤、凝集防止剤、粘度調製剤である(e)に記載のキット;
(g) 前記界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリソルベート80、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、及び/又は、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールである、(f)に記載のキット;
(h) 前記凝集防止剤が、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、及び/又は、ポリビニルピロリドンである、(f)に記載のキット;
(i) 前記粘度調製剤が、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及び/又は、ヒドロキシエチルセルロースである(f)に記載のキット;
(j) マクロライド系抗菌剤のナノ微粒子を含有することを特徴とする医薬組成物の刺激性が低いことを特徴とする、(a)〜(i)のいずれか1項に記載のキット;
(k) マクロライド系抗菌剤のナノ微粒子を、マクロライド系抗菌剤のナノ微粒子を含有する水性懸濁液剤として備える、(a)〜(j)のいずれか1項に記載のキット;
(l) 非経口投与用医薬組成物を調製するためのキットである、(a)〜(k)のいずれか1項に記載のキット;
(m) 注射剤又は局所適用製剤を調製するためのキットである、(l)に記載のキット。
(n) 眼用局所適用製剤、耳用局所適用製剤、鼻用局所適用製剤、又は肺用局所適用製剤を調製するためのキットである、(m)に記載のキット。
(o) 点眼剤、点耳剤、点鼻剤、又は吸入剤を調製するためのキットである、(n)に記載のキット。
(p) 眼、耳、鼻、又は肺の炎症性疾患又は感染性疾患の治療薬又は予防薬を調製するためのキットである、(a)〜(o)のいずれか1項に記載のキット。
【0056】
よって、一態様において、本発明は、マクロライド系抗菌剤のナノ微粒子を含有する水性懸濁液剤と希釈剤とを混合することを含む、マクロライド系抗菌剤のナノ微粒子を含有する水性医薬組成物の調製方法であってもよい。あるいは、本発明は、マクロライド系抗菌剤のナノ微粒子と懸濁剤とを混合することを含む、マクロライド系抗菌剤のナノ微粒子を含有する、水性懸濁液剤又は水性医薬組成物の調製方法であってもよい。
【0057】
特に、本発明の医薬組成物(例えば、注射剤、眼用局所適用製剤(好ましくは、点眼剤)、耳用局所適用製剤(好ましくは、点耳剤)、鼻用局所適用製剤(好ましくは、点鼻剤)、又は肺用局所適用製剤(好ましくは、吸入剤))を調製する場合、そのpH及び浸透圧については、局所適用製剤として許容されることを限度として、特に制限されないが、pH5〜9.5とすることが好ましく、pH6〜9がより好ましく、pH7〜9が更に好ましい。該製剤(軟膏剤以外の場合)の生理食塩液に対する浸透圧比としては、例えば0.3〜4.3であり、好ましくは0.3〜2.2、特に好ましくは0.5〜1.5程度である。pHや浸透圧の調節は、pH調整剤、等張化剤、塩類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。
【0058】
本明細書において、懸濁剤及び/又は希釈剤は水を主成分として含有することができる。また、本明細書において医薬組成物、懸濁剤及び/又は希釈剤は、必要に応じて添加物として、増粘剤、界面活性剤、防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤、pH調節剤、等張化剤、緩衝剤などの各種添加剤を含有していてもよい。
【0059】
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤としては、例えば、ソルビン酸またはその塩(ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸トリクロカルバンなど)、パラオキシ安息香酸エステル(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチルなど)、アクリノール、塩化メチルロザニリン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン又はその塩、ポリヘキサメチレンビグアニド、アルキルポリアミノエチルグリシン、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、クロロブタノール、イソプロパノール、エタノール、フェノキシエタノール、リン酸ジルコニウムの銀、マーキュロクロム、ポピヨンヨードなどの担持体、チメロサール、デヒドロ酢酸、クロルキシレノール、クロロフェン、レゾルシン、オルトフェニルフェノール、イソプロピルメチルフェノール、チモール、ヒノキチオール、スルファミン、リゾチーム、ラクトフェリン、トリクロサン、8−ヒドロキシキノリン、ウンデシレン酸、カプリル酸、プロピオン酸、安息香酸、ハロカルバン、チアベンダゾール、ポリミキシンB、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、ポリリジン、過酸化水素、塩化ポリドロニウム、Glokill(商品名:例えば、Glokill PQ、ローディア社製)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン−(ジメチルイミニオ)エトレンジクロリド]、ポリエチレンポリアミン・ジメチルアミンエピクロルヒドリン重縮合物(商品名:例えば、Busan1157、バックマン社製)、ビグアニド化合物(コスモシルCQ(商品名、ポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩を約20重量%含有、アピシア社製))など、及びその薬理学的に許容される塩類等が挙げられる。
【0060】
pH調整剤としては、例えば、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸など)、有機酸(乳酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、プロピオン酸、酢酸、アスパラギン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、グルタミン酸、アミノエチルスルホン酸など)、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム、無機塩基(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなど)、有機塩基(モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、リジンなど)、ホウ砂、及びその薬理学的に許容される塩類等が挙げられる。
【0061】
等張化剤としては、例えば、無機塩類(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、チオ硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなど)、多価アルコール類(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、1,3−ブチレングリコールなど)、糖類(例えば、ブトウ糖,マンニトール,ソルビトールなど)等が挙げられる。
【0062】
緩衝剤としては、例えば、トリス緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。具体的には、ホウ酸またはその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウムなど)、リン酸又はその塩(リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムなど)、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなど)、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウムなど)等が挙げられる。
【0063】
本発明の医薬組成物の調製は、適宜公知の方法で行うことができ、例えば、蒸留水または精製水等の適当な希釈剤中で、マクロライド系抗菌剤のナノ微粒子を含有する水性懸濁液剤と任意の配合成分とを混合して、上記の浸透圧及びpHに調整し、無菌環境下、高圧蒸気滅菌あるいはろ過滅菌処理し、洗浄滅菌済みの容器に無菌充填することにより製造することができる。
【0064】
本発明の医薬組成物は、炎症性疾患又は感染性疾患の治療薬又は予防薬とすることができる。例えば、本発明の医薬組成物は、感染に起因する炎症性疾患又は感染性疾患の治療用又は予防用とすることができる。よって、本発明は、医薬(炎症性疾患又は感染性疾患の治療薬又は予防薬)として使用するためのマクロライド系抗菌剤のナノ微粒子および分散安定剤を含有することを特徴とする水性懸濁液剤を包含する。
【0065】
本明細書において、炎症性疾患又は感染性疾患とは、全身性の炎症性疾患及び感染性疾患、並びに局所性の炎症性疾患又は感染性疾患を包含する。炎症性疾患には、感染に起因する炎症性疾患の他、アレルギー性の炎症性疾患(例えば、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性皮膚炎、アレルギー性湿疹、アレルギー性喘息、アレルギー性肺炎)も含まれる。全身性の炎症性疾患としては、表在性・深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、乳腺炎、骨髄炎、扁桃炎、肺炎、腎盂腎炎、尿道炎、淋菌感染症、梅毒、子宮内感染、猩紅熱、ジフテリア、百日咳、外傷・熱湯及び手術等の二次感染、咽頭・喉頭炎、気管支炎、慢性呼吸器病変の二次感染、歯冠周囲炎、歯周組織炎、破傷風、膀胱炎、前立腺炎、感染性腸炎、顎炎、感染性関節炎、胃炎等の全身の炎症性疾患又は感染性疾患を挙げることができる。
【0066】
具体的には、本発明の医薬組成物は、眼の炎症性疾患及び感染性疾患並びにそれらに付随する多様な症状を治療または予防するために使用することができる。眼の炎症性疾患及び感染性疾患としては、例えば、眼瞼炎、眼瞼結膜炎、マイボーム腺炎、急性もしくは慢性麦粒腫、霰粒腫、涙嚢炎、涙腺炎、および酒さ性座瘡を含む眼瞼の症状;結膜炎、新生児眼炎、およびトラコーマを含む結膜の症状;角膜潰瘍、表在性角膜炎および角膜実質炎、角結膜炎、異物、および術後感染症を含む角膜の症状;ならびに眼内炎、感染性ブドウ膜炎、および術後感染症を含む前眼房およびブドウ膜の症状を挙げることができる。感染症の予防としては、手術等の外科処置前、感染性症状を呈する者との接触前に投与することを含む。予防のために使用する場合、例えば、眼瞼形成術、霰粒腫の摘出、瞼板縫合術、カニュアリキュリや涙管排液システムのための手術、および眼瞼と涙器に関係する他の外科処置といった外科処置;翼状片、結膜脂肪斑および腫瘍の摘出、結膜移植、切り傷、火傷および擦過といった外傷性の傷、および結膜被覆術を含む結膜の手術;異物の除去、角膜切開術および角膜移植を含む角膜の手術;光屈折率処置を含む屈折率手術;ブレブの濾過を含む緑内障手術;前眼房の穿刺;光彩切除術;白内障手術;網膜手術;ならびに外眼筋に関係する手術の前に投与することができる。また、新生児眼炎の予防も本明細書における予防に含まれる。
【0067】
例えば、本発明の医薬組成物は、耳の炎症性疾患又は感染性疾患に付随する多様な症状の治療又は予防に使用することができる。耳の炎症性疾患又は感染性疾患としては、例えば、中耳炎、又は外耳炎を挙げることができる。感染症の予防とは、手術並びに他の疑われる感染性状態若しくは接触の前の術前処置を含む。予防的状況の例としては、耳の外傷若しくは損傷を伴う外科的処置及びその他の手術又は処置の前の治療が挙げられる。
【0068】
また、本発明の医薬組成物は、鼻の炎症性疾患又は感染性疾患に付随する多様な症状を治療又は予防することができる。なお、本明細書全体にわたって「鼻の炎症性疾患又は感染性疾患」、及び「鼻用局所適用製剤」の語における「鼻」とは、上気道全体を含む意味であり、例えば鼻腔、鼻咽喉、咽頭、及び喉頭を含むものである。鼻の炎症性疾患又は感染性疾患としては、例えば、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、及び鼻炎を挙げることができる。
【0069】
また、本発明の医薬組成物は、肺の炎症性疾患又は感染性疾患に付随する多様な症状の治療又は予防に使用することができる。なお、本明細書全体にわたって「肺の炎症性疾患又は感染性疾患」、及び「肺用局所適用製剤」の語における「肺」とは、下気道全体を含む意味であり、例えば気管、気管支、細気管支、及び肺を含むものである。肺の炎症性疾患又は感染性疾患としては、例えば、肺炎、気管支炎、アレルギー性肺炎、及び喘息等を挙げることができる。
【0070】
より好ましくは、本発明の医薬組成物は多様な細菌または寄生虫により引き起こされる感染性疾患(例えば、眼、耳、鼻又は肺の感染性疾患)の治療または予防に使用することができる。そのような微生物としては、例えば、黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌を含むブドウ球菌属;肺炎連鎖球菌および化膿連鎖球菌ならびにC、FおよびG群の連鎖球菌およびビリダンス群の連鎖球菌を含む連鎖球菌属;バイオタイプIIIを含むインフルエンザ菌;軟性下疳菌;モラクセラ・カタラリス;淋菌および髄膜炎菌を含むナイセリア属;トラコーマクラジミア、オウム病クラジミアおよびクラジミア・ニューモニエを含むクラジミア属;ヒト結核菌およびトリ結核菌細胞内複合体ならびにミコバクテリウム・マリナム、ミコバクテリウム・フォルツイツムおよびカメ結核菌を含む非定型ミコバクテリウム菌を含むミコバクテリウム属;百日咳菌;カンピロバクター・ジェジュニ;レジオネラ・ニューモフィラ;バクテロイデス・ビビウス;ウェルシュ菌;ペプトストレプトコッカススピーシーズ;ボレリア・ブルグドルフェリ;肺炎マイコプラスマ;梅毒トレポネーマ;ウレアプラスマ・ウレアリチカム;トキソプラスマ;マラリア;ならびにノセマを挙げることができる。
【0071】
3.治療方法・予防方法
本発明の医薬組成物は、それを必要とする患者に有効量を投与することにより、炎症性疾患又は感染性疾患の治療又は予防に用いることができる。よって、本発明は、マクロライド系抗菌剤のナノ微粒子(および分散安定剤)を含有することを特徴とする水性懸濁液剤を含む医薬組成物を、それを必要とする患者に有効量を投与することを含む、炎症性疾患又は感染性疾患の治療方法又は予防方法に関する。ここで、対象となる患者は、哺乳類に分類される任意の動物を意味し、これに限定されるものではない。例として、ヒト;イヌ、ネコ、ウサギなどの愛玩動物;ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜動物を含み、好ましくは、ヒトである。
【0072】
本発明の医薬組成物の投与量及び投与回数は特に限定されず、治療対象疾患の悪化・進展の防止及び/又は治療の目的、疾患の種類、患者の体重や年齢などの条件に応じて、医師の判断により適宜選択することが可能である。一般的には、成人一日あたりの投与量は0.01〜1000mg(有効成分重量)程度であり、一日1回又は数回投与することができる。投与経路は、注射又は局所投与であり、例えば、静脈注射、筋肉内注射、若しくは皮下注射、点滴、点眼、点耳、点鼻、経皮、経粘膜、吸入等が挙げられる。
【0073】
本発明の医薬組成物が注射剤の場合、成人に対して一日量0.001〜100mg(有効成分重量)を連続投与又は間欠投与することができる。
【0074】
本発明の水性医薬組成物が局所投与用の場合、患部、患部の周辺部又は患部を含む臓器などの局所に直接投与されるものである。例えば、本発明の医薬組成物は眼用局所適用製剤、耳用局所適用製剤、鼻用局所適用製剤、又は肺用局所適用製剤とすることができる。本発明の医薬組成物が局所投与用製剤の場合、日常的に適用することもできるし、局所の炎症性疾患又は感染性疾患が発症した後に、任意の回数適用することができる。また、適用量は、症状等に応じて適宜調製することができ、通常一日あたり1〜6回程度点眼し、1回に1〜3滴程度適用する。
【0075】
以下に実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、これは本発明の範囲を限定するものではない。なお、本願明細書全体を通じて引用する文献は、参照によりその全体が本願明細書に組み込まれる。
【0076】
(実施例1)クラリスロマイシン粉砕Dough(ドウ)の作製
0.5Lトリミックス(井上製作所製)に、平均粒子径10,370nmのクラリスロマイシン(融点:217−220℃;Assia Chemical Industries Ltd.)10g、粉砕した塩化ナトリウム(平均粒子径:5μm)10g、マンニトール(和光純薬工業社製)60g、ポリビニルピロリドンK25(和光純薬工業社製)3g、及び水添大豆レシチンPHOSPHOLIPON 90H(エイチ・ホルスタイン社製)5gを仕込んで均一に混合した後、グリセリン20gを注入し内容物をこね粉状に保って、5℃で5時間粉砕を行った。得られた混練ドウは回収量93g(回収率 86%)であった。
【0077】
得られた混練ドウ100mgに0.1%HCO−60(日本サーファクタント工業社製)を3g加え、浴槽型超音波分散機(型式:VS−100III、アズワン社製)を使用して数分間、分散処理を行った。クラリスロマイシンの粒度分布を粒度分布測定装置(装置名:DeLsaNano、ベックマン・コールター社製)により測定した結果、平均粒子径(Dv)144.7nm、10%径(D10)81.4nm、50%径(D50)124.6nm、90%径(D90)197.0nmであった。
【0078】
(実施例2)分散剤(界面活性剤)の検討
(1)クラリスロマイシン0.1%製剤の作製(HCO−60;日本サーファクタント工業社製)
実施例1で得られたトリミックス粉砕後のクラリスロマイシン混練物(混練ドウ)0.5gを50mLのガラスバイアルに計り取り、そこに0.1%HCO−60(日本サーファクタント工業社製)水溶液44gを加え、浴槽型超音波分散機(型式:VS−100III、アズワン社製)を使用して1〜2分間、分散処理を行った。さらにプローブ式超音波分散機(型式:S−4000、MISONIX社製)にて1分間、分散処理を行った。該分散液中のクラリスロマイシンの粒度分布を粒度分布測定装置(装置名:DeLsaNano、ベックマン・コールター社製、以下同様)により測定した結果、平均粒子径(Dv)146.0nm、10%径(D10)72.5nm、50%径(D50)119.2nm、90%径(D90)220.3nmであった。
【0079】
(2)クラリスロマイシン0.1%製剤の作製(Tween80;関東化学社製)
前記実施例2(1)における「0.1%HCO−60(日本サーファクタント工業社製)」を「0.1%Tween80(関東化学社製)」に替えた以外は実施例2(1)と同様に処理を行った。クラリスロマイシンの粒度分布は、平均粒子径(Dv)198.5nm、10%径(D10)84.3nm、50%径(D50)154.9nm、90%径(D90)291.3nmであった。
【0080】
(3)クラリスロマイシン0.1%製剤の作製(MYS−40;日本サーファクタント工業社製)
前記実施例2(1)における「0.1%HCO−60(日本サーファクタント工業社製)」を「0.1%MYS−40(日本サーファクタント工業社製)」に替えた以外は実施例2(1)と同様に処理を行った。クラリスロマイシンの粒度分布は、平均粒子径(Dv)142.2nm、10%径(D10)72.4nm、50%径(D50)118.8nm、90%径(D90)208.1nmであった。
【0081】
(実施例3)ナノ化クラリスロマイシン分散液の安定性試験
実施例2において作製したナノ化クラリスロマイシンの各分散液約4mLを9mLのスクリュー管に分注して蓋をしっかり閉め、室温にて保存し、1日後の安定性を目視等により評価した。結果を表1に示す。本結果より、分散剤としてHCO−60が優れていることが示された。
【0083】
(実施例4)増粘剤の検討
(1)クラリスロマイシン0.1%製剤の作製(HPMC 60SH−50;信越化学工業社製)
実施例1で得られたトリミックス粉砕後のクラリスロマイシン混練物(混練ドウ)1gを50mLのガラスバイアルに計り取り、そこに0.1%HCO−60水溶液44gを加え、浴槽型超音波分散機(型式:VS−100III、アズワン社製)を使用して1〜2分間、分散処理を行った。さらに高圧ホモジナイザー(型式:L01、三和エンジニアリング株式会社製)を使用して、高圧化(90MPa)にて分散処理を行った。該分散液中のクラリスロマイシンの粒度分布を粒度分布測定装置(装置名:DelsaNano、ベックマン・コールター社製、以下同様)により測定した結果、平均粒子径(Dv)154.9nm、10%径(D10)77.1nm、50%径(D50)113.2nm、90%径(D90)224.9nmであった。
上記分散液に、0.9%HPMC 60SH−50水溶液を22g添加してマグネチックスターラで撹拌し、最後に精製水を加えて89gに調整して撹拌混合し、最終製剤とした。該製剤中のクラリスロマイシンの粒度分布を粒度分布測定装置により測定した結果、平均粒子径(Dv)327.8nm、10%径(D10)189.5nm、50%径(D50)284.4nm、90%径(D90)423.0nmであった。さらに粘度補正により粒度分布を再計算した結果、平均粒子径(Dv)170.1nm、10%径(D10)98.6nm、50%径(D50)148.6nm、90%径(D90)223.3nmであった。
【0084】
(2)クラリスロマイシン0.1%製剤の作製(HPMC 60SH−4000;信越化学工業社製)
前記実施例4(1)における「0.9%HPMC 60SH−50水溶液を22g添加してマグネチックスターラで撹拌し」を「0.9%HPMC 60SH−4000水溶液を22g添加してプローブ式超音波分散機(型式:S−4000、MISONIX社製)にて1分間分散させ」に替えた以外は実施例4(1)と同様の処理を行い、最終製剤とした。粘度補正前の粒度分布は、平均粒子径(Dv)1017.7nm、10%径(D10)441.8nm、50%径(D50)818.3nm、90%径(D90)1629.6nmであった。また、粘度補正後の粒度分布は、平均粒子径(Dv)219.4nm、10%径(D10)98.5nm、50%径(D50)183.6nm、90%径(D90)370.2nmであった。
【0085】
(3)クラリスロマイシン0.1%製剤の作製(HPMC 65SH−4000;信越化学工業社製)
前記実施例4(2)における「0.9%HPMC 60SH−4000水溶液を22g添加して」を「1%HPMC 65SH−4000水溶液を23g添加して」に替えた以外は実施例4(2)と同様の処理を行い、最終製剤とした。粘度補正前の粒度分布は、平均粒子径(Dv)990.1nm、10%径(D10)424.8nm、50%径(D50)840.2nm、90%径(D90)1565.5nmであった。また、粘度補正後の粒度分布は、平均粒子径(Dv)219.4nm、10%径(D10)93.5nm、50%径(D50)183.4nm、90%径(D90)342.0nmであった。
【0086】
(4)クラリスロマイシン0.1%製剤の作製(HPMC 90SH−4000SR;信越化学工業社製)
前記実施例4(2)における「0.9%HPMC 60SH−4000水溶液を22g添加して」を「1%HPMC 90SH−4000SR水溶液を8g添加して」に替えた以外は実施例4(2)と同様に処理を行い、最終製剤とした。粘度補正前の粒度分布は、平均粒子径(Dv)425.0nm、10%径(D10)146.9nm、50%径(D50)332.6nm、90%径(D90)715.6nmであった。また、粘度補正後の粒度分布は、平均粒子径(Dv)219.4nm、10%径(D10)71.1nm、50%径(D50)157.7nm、90%径(D90)334.4nmであった。
【0087】
(5)クラリスロマイシン0.1%製剤の作製(MC SM−15;信越化学工業社製)
前記実施例4(1)における「0.9%HPMC 60SH−50水溶液を22g添加して」を「1%MC SM−15水溶液を33g添加して」に替えた以外は実施例4(1)と同様に処理を行い、最終製剤とした。粘度補正前の粒度分布は、平均粒子径(Dv)325.5nm、10%径(D10)158.1nm、50%径(D50)271.3nm、90%径(D90)474.8nmであった。また、粘度補正後の粒度分布は、平均粒子径(Dv)167.8nm、10%径(D10)81.4nm、50%径(D50)141.1nm、90%径(D90)246.9nmであった。
【0088】
(6)クラリスロマイシン0.1%製剤の作製(MC SM−100;信越化学工業社製)
前記実施例4(1)における「0.9%HPMC 60SH−50水溶液を22g添加して」を「1%MC SM−100水溶液を33g添加して」に替えた以外は実施例4(1)と同様に処理を行い、最終製剤とした。粘度補正前の粒度分布は、平均粒子径(Dv)608.4nm、10%径(D10)258.8nm、50%径(D50)499.1nm、90%径(D90)979.6nmであった。また、粘度補正後の粒度分布は、平均粒子径(Dv)199.8nm、10%径(D10)81.6nm、50%径(D50)160.5nm、90%径(D90)321.3nmであった。
【0089】
(7)クラリスロマイシン0.1%製剤の作製(PVA−204C;クラレ社製)
前記実施例4(1)における「0.9%HPMC 60SH−50水溶液を22g添加して」を「2%PVA−204C水溶液を33g添加して」に替えた以外は実施例4(1)と同様に処理を行い、最終製剤とした。粘度補正前の粒度分布は、平均粒子径(Dv)197.1nm、10%径(D10)109.3nm、50%径(D50)169.1nm、90%径(D90)268.6nmであった。また、粘度補正後の粒度分布は、平均粒子径(Dv)142.4nm、10%径(D10)80.1nm、50%径(D50)123.3nm、90%径(D90)196.1nmであった。
【0090】
(8)クラリスロマイシン0.1%製剤の作製(PEG−4000;関東化学社製)
前記実施例4(1)における「0.9%HPMC 60SH−50水溶液を22g添加して」を「2%PEG−4000水溶液を33g添加して」に替えた以外は実施例4(1)と同様に処理を行い、最終製剤とした。粘度補正前の粒度分布は、平均粒子径(Dv)160.6nm、10%径(D10)82.1nm、50%径(D50)133.1nm、90%径(D90)235.6nmであった。また、粘度補正後の粒度分布は、平均粒子径(Dv)149.4nm、10%径(D10)68.0nm、50%径(D50)110.3nm、90%径(D90)201.1nmであった。
【0091】
(9)クラリスロマイシン0.1%製剤の作製(PVP K30;和光純薬工業社製)
前記実施例4(1)における「0.9%HPMC 60SH−50水溶液を22g添加して」を「4%PVP K30水溶液を33g添加して」に替えた以外は実施例4(1)と同様に処理を行い、最終製剤とした。粘度補正前の粒度分布は、平均粒子径(Dv)212.7nm、10%径(D10)108.2nm、50%径(D50)176.4nm、90%径(D90)309.4nmであった。また、粘度補正後の粒度分布は、平均粒子径(Dv)157.0nm、10%径(D10)78.9nm、50%径(D50)130.4nm、90%径(D90)231.4nmであった。
【0092】
(実施例5)製剤の安定性試験
(1)安定性への増粘剤の影響の検討1
実施例4で作製したナノ化クラリスロマイシンの各分散液約4mLを9mLのスクリュー管に分注して蓋をしっかり閉め、40℃にて保存し、7日後の安定性を目視等により評価した。結果を表2に示す。本実験結果によって、増粘剤として、HPMC(60SH−50)とMC(SM15)が優れることが示された。
【0094】
(2)安定性への増粘剤の影響の検討2
実施例5(1)より、増粘剤としてHPMC及びMCが優れることが示されたため、さらにHPMCの種類とMCの種類による安定性への影響を調べるため試験を行った。実施例4で作製したナノ化クラリスロマイシンの各分散液約4mLを9mLのスクリュー管に分注して蓋をしっかり閉め、25℃にて保存し、14日後の安定性を目視等により評価した。結果を表3に示す。本結果により、実施例4(2)、(3)、(4)及び(6)において用いたHPMCシリーズとMCシリーズは、いずれも増粘剤として好適であることが示された。
【0096】
(実施例6)In vitro抗菌試験(最小発育阻止濃度試験)
(1)製剤の作製:クラリスロマイシン0.3%製剤作製
実施例1で得られたトリミックス粉砕後のクラリスロマイシン混練物(混練ドウ)3gを50mLのガラスバイアルに計り取り、そこに1%HCO−60水溶液10gを加え、浴槽型超音波分散機(型式:VS−100III、アズワン社製)を使用して1〜2分間、分散処理を行った。さらにプローブ式超音波分散機(型式:S−4000、MISONIX社製)にて1分間、分散処理を行った。該分散液中のクラリスロマイシンの粒度分布を粒度分布測定装置により測定した結果、平均粒子径(Dv)246.0nm、10%径(D10)103.7nm、50%径(D50)196.4nm、90%径(D90)393.8nmであった。
【0097】
上記分散液に、0.9%HPMC 60SH−50水溶液を22g添加してマグネチックスターラで撹拌し、最後に精製水を加えて89gに調整して撹拌混合し、最終製剤とした。該製剤中のクラリスロマイシンの粒度分布を粒度分布測定装置により測定した結果、平均粒子径(Dv)328.9nm、10%径(D10)167.3nm、50%径(D50)270.4nm、90%径(D90)481.2nmであった。さらに粘度補正により粒度分布を再計算した結果、平均粒子径(Dv)162.4nm、10%径(D10)82.0nm、50%径(D50)133.6nm、90%径(D90)239.9nmであった。
【0098】
(2)最少発育阻止濃度(MIC)測定試験
微量液体希釈法による最小発育阻止濃度(MIC)測定法(日本化学療法学会標準法)を応用して、MIC試験を行った。被験物質として、実施例6(1)で調製したクラリスロマイシン懸濁液(被験物質1)を使用し、比較のための対照(コントロール)として、未粉砕のクラリスロマイシン懸濁液(被験物質2)、クラリスロマイシンのDMSO溶液(被験物質3)を使用した。
【0099】
(2−1)被験物質含有培地の調製
各被験物質を希釈調製前にボルテックスミキサーにて15秒以上撹拌した。クラリスロマイシン含有サンプル(被験物質1〜3)は、Staphylococcus aureus subsp. aureus接種用培地として、ミューラーヒントンIIブロスで250μg/mLに希釈した後、2倍段階希釈を行い、最終薬剤濃度として0.012〜25μg/mLを含有する培地を調製した。また、Pseudomonas aeruginosa接種用培地として、ミューラーヒントンIIブロスで1000μg/mLに希釈した後、2倍段階希釈を行い、最終薬剤濃度として0.049〜100μg/mLを含有する培地を調製した。
作製した各被験物質含有培地をU字型ウェルマイクロプレートに1ウェルあたり0.1±0.02mL分注した。対照として薬剤不含有培地を2ウェルにそれぞれ分注した。
【0100】
(2−2)接種菌液の調製
ミューラーヒントンII寒天培地にてtaphylococcus aureus subsp. aureus又はPseudomonas aeruginosaを一夜培養した。寒天平板上の新鮮培養菌を滅菌生理食塩液で0.5McFarand(約10
8CFU/mL)相当に懸濁し、これを滅菌生理食塩液でさらに10倍に希釈(約10
7CFU/mL)して接種菌液を調製した。
【0101】
(2−3)接種菌液の接種及び培養
被験物質含有培地及び被験物質不含有培地を分注した各ウェルに、前記(2−2)で調製したStaphylococcus aureus subsp. aureus又はPseudomonas aeruginosaの接種菌液を0.005mL接種した(最終接種菌量:約10
4CFU/ウェル)。被験物質不含有培地ウェルに菌液を接種しないものをネガティブコントロールとした。接種後、35±1℃で18〜24時間培養した。
【0102】
(2−4)判定
対照に用いた被験物質不含有培地ウェルでの発育を確認した後、菌の発育が肉眼的に認められないウェルの中、最小の薬剤濃度をもって最小発育阻止濃度(MIC)とした。具体的には、肉眼的に混濁または直径1mm以上の沈殿が認められた場合、及び沈殿物の直径が1mm以下であっても沈殿塊が2個以上認められた場合には発育陽性(+)とし、肉眼的に混濁または沈殿が認められない場合、及び沈殿があっても直径が1mm以下で1個の場合には発育阻止(−)として判定した。
【0103】
(3)結果
結果を表4に示す。この結果から、ナノ化したクラリスロマイシンは、未粉砕及び溶解させたクラリスロマイシンと同等の抗菌活性を保持していることが示された。
【0105】
(実験例7) 眼刺激性試験
(1) ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤の作製
(1−1)クラリスロマイシンの粉砕
1Lトリミックス(井上製作所製)に、平均粒子径10,370nmのクラリスロマイシン(融点:217−220℃;Assia Chemical Industries Ltd.)30.1g、マンニトール(和光純薬社製)90.1g、ポリビニルピロリドンK25(和光純薬工業社製)8.9g、及び水添大豆レシチンPHOSPHOLIPON 90H(エイチ・ホルスタイン社製)12.0gを仕込んで均一に混合した後、グリセリン21.5gを注入し内容物をこね粉状に保って、5℃で5時間粉砕を行った。得られた混練ドウは回収量136.6g(回収率 84%)であった。
【0106】
(1−2)ナノ化クラリスロマイシンの粒度分布測定
得られた混練ドウ100mgに0.1%HCO−60(日本サーファクタント工業社製)を3g加え、浴槽型超音波分散機(型式:VS−100III、アズワン社製)を使用して数分間、分散処理を行った。クラリスロマイシンの粒度分布を粒度分布測定装置(装置名:DeLsaNano、ベックマン・コールター社製)により測定した結果、平均粒子径(Dv)は159.7nmであった。
【0107】
(1−3)ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤(クラリス濃度0.3%)の作製
トリミックス粉砕後のクラリスロマイシン混練物(混練ドウ)1.25gを50mLのガラスバイアルに計り取り、そこに1%HCO−60(日本サーファクタント工業社製)水溶液10gを加え、浴槽型超音波分散機(型式:VS−100III、アズワン社製)を使用して1〜2分間、分散処理を行った。さらにプローブ式超音波分散機(型式:S−4000、MISONIX社製)にて1分間、分散処理を行った。その後、1%HCO−60水溶液10g、1%HPMC(60SH−50)水溶液17.5g、1M Tris緩衝液7.5g、0.1%塩化ベンザルコニウム水溶液0.75gを順に添加し、さらに精製水を添加して全体量を75gとした。最後にマグネチックスターラーにて30分間撹拌し、ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤(クラリス濃度0.3%)とした。
【0108】
(1−4)ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤(クラリス濃度1.0%)の作製
トリミックス粉砕後のクラリスロマイシン混練物(混練ドウ)4.05gをビーカーに計り取り、そこに1%HCO−60(日本サーファクタント工業社製)水溶液33.5gを加え、浴槽型超音波分散機(型式:VS−100III、アズワン社製)を使用して1〜2分間、分散処理を行った。さらにプローブ式超音波分散機(型式:S−4000、MISONIX社製)にて1分間、分散処理を行った。その後、1%HPMC(60SH−50)水溶液17.5g、1M Tris緩衝液7.5g、0.1%塩化ベンザルコニウム水溶液0.75gを順に添加し、さらに精製水を添加して全体量を75gとした。最後にマグネチックスターラーにて30分間撹拌し、ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤(クラリス濃度1.0%)とした。
【0109】
(1−5)クラリスロマイシン原末懸濁液剤(クラリス濃度1.0%)の作製
クラリスロマイシン0.75gをビーカーに計り取り、そこに1%HCO−60(日本サーファクタント工業社製)水溶液33.5gを加え、浴槽型超音波分散機(型式:VS−100III、アズワン社製)を使用して1〜2分間、分散処理を行った。さらにプローブ式超音波分散機(型式:S−4000、MISONIX社製)にて1分間、分散処理を行った。その後、1%HPMC(60SH−50)水溶液17.5g、1M Tris緩衝液7.5g、0.1%塩化ベンザルコニウム水溶液0.75gを順に添加し、さらに精製水を添加して全体量を75gとした。最後にマグネチックスターラーにて30分間撹拌し、クラリスロマイシン原末懸濁液剤(クラリス濃度1.0%)とした。
【0110】
(2) 評価試験
(2−1) ウサギに、それぞれ、(a)生理食塩水、上記(1)で作製した(b)ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤(クラリスロマイシン濃度0.3%)、(c)ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤(クラリスロマイシン濃度1.0%)、(d)クラリスロマイシン原末懸濁液剤(クラリスロマイシン濃度1.0%)、あるいは、(e)Azasite(登録商標)(陽性対照)(アジスロマイシン濃度0.3%)を30分〜数時間間隔で1日1回〜20回点眼した後、フルオレセインを点眼し、角膜染色斑を観察することで眼刺激性を評価する。
【0111】
(2−2) ウサギの片眼に、それぞれ、上記(1)で作製した(b)ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤(クラリスロマイシン濃度0.3%)、(c)ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤(クラリスロマイシン濃度1.0%)を50μL点眼し、6時間にわたり眼刺激性を目視により評価した。その結果、(b)及び(c)の両ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤とも、瞬目回数の増加、眼の充血及び分泌物は観察されず、眼刺激性は認められなかった。
【0112】
(2−3) ウサギの片眼に対象として生理食塩液を、対側眼に上記製剤(b)〜(e)を30分〜数時間間隔で1日1回〜20回点眼し、瞬目回数と眼刺激性を評価する。眼刺激性の評価については、投与前、最終投与後1、3、5、24時間に両眼の角膜、虹彩及び結膜について観察し、Draizeの評価基準に従いスコア化し判定する。
【0113】
ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤の眼刺激性は、陽性対照であるAzasiteの眼刺激性と比較して、同等または低いと考えられる。
【0114】
(実施例8)感染性モデル動物を用いた薬効試験
(1) 白色ウサギの角膜に創を作成した後、緑膿菌を点眼することで角膜感染症モデルを作製する。ウサギの片眼に生理食塩液、対側眼に実施例7で調製した製剤(b)〜(e)を菌接種数時間後から1日1回〜10回、3日〜5日間点眼し、菌接種数時間後から24時間ごとに4〜8日間にわたり、外眼部感染症状の観察を行なう。外眼部感染症状は秦野等・中村等の評価基準またはDraizeの評価基準に従いスコア化し判定する。
【0115】
(2) 白色ウサギの結膜嚢内に緑膿菌を接種することで角膜感染症モデルを作製する。角膜炎の発症を確認(菌接種5〜10時間)後、片眼に生理食塩液、対側眼に実施例7で調製した製剤(b)〜(e)を1日1回〜10回、3日〜5日間点眼し、菌接種数時間後から24時間ごとに4〜8日間にわたり、外眼部感染症状の観察を行なう。外眼部感染症状は秦野等・中村等の評価基準またはDraizeの評価基準に従いスコア化し判定する。
【0116】
(3) 白色ウサギの角膜に創を作成した後、黄色ブドウ球菌を点眼することで角膜感染症モデルを作製する。ウサギの片眼に生理食塩液、対側眼に実施例7で調製した製剤(b)〜(e)を菌接種数時間後から1日1回〜10回、3日〜5日間点眼し、菌接種数時間後から24時間ごとに4〜8日間にわたり、外眼部感染症状の観察を行なう。外眼部感染症状は秦野等・中村等の評価基準またはDraizeの評価基準に従いスコア化し判定する。
【0117】
(4) 白色ウサギの角膜実質内に黄色ブドウ球菌を注入することで角膜感染症モデルを作製する。ウサギの片眼に生理食塩液、対側眼に実施例7で調製した製剤(b)〜(e)を菌接種数時間後から1日1回〜10回、3日〜5日間点眼し、菌接種数時間後から24時間ごとに4〜8日間にわたり、外眼部感染症状の観察を行なう。外眼部感染症状は秦野等・中村等の評価基準またはDraizeの評価基準に従いスコア化し判定する。
【0118】
ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤の目視による眼刺激性(角膜混濁、眼瞼結膜充血、眼瞼結膜浮腫、球結膜充血)は、陽性対照であるAzasiteと比較して、同等または低いと考えられる。またナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤の抗菌・抗炎症効果は、陽性対照であるAzasiteと比較して、同等またはそれ以上であると考えられる。
【0119】
(実施例9)炎症性モデル動物を用いた薬効試験
(1) ラットの上眼瞼結膜に2%アラキドン酸を注射することで急性結膜浮腫(結膜炎モデル)を作製する。アラキドン酸を注射する前に、15分〜30分おきに1回〜数回、実施例7で調製した製剤(a)〜(e)を点眼し、アラキドン酸注射の3時間〜6時間後にラットを屠殺し、眼瞼縁に沿って浮腫部位を切り離し、その重量を測定する。製剤点眼群の生理食塩液点眼群に対する浮腫重量の減少割合を計算し、結膜浮腫に対する抑制効果を評価する。
【0120】
(2) ラットの上眼瞼結膜に1%カラゲニンを注射することで急性結膜浮腫(結膜炎モデル)を作製する。カラゲニンを注射する前に、15分〜30分おきに1回〜4回、実施例7で調製した製剤(a)〜(e)を点眼し、カラゲニン注射の3時間〜6時間後にラットを屠殺し、眼瞼縁に沿って浮腫部位を切り離し、その重量を測定する。製剤点眼群の生理食塩液点眼群に対する浮腫重量の減少割合を計算し、結膜浮腫に対する抑制効果を評価する。
【0121】
(3) ラットの上眼瞼結膜に1%カラゲニンを注射することで急性結膜浮腫(結膜炎モデル)を作製する。またカラゲニンを注射直後に1%エバンスブルーを尾静脈より投与する。カラゲニンを注射する前に、15分〜30分おきに1回〜4回、片眼(右眼)には実施例7で調製した製剤(b)〜(e)を点眼し、対側眼(左眼)には生理食塩液を点眼し、カラゲニン注射の3時間〜6時間後にラットを屠殺し、眼瞼皮膚を摘出する。該眼瞼皮膚をファルコンチューブに入れ、ホルムアミドを加えて一晩冷蔵庫内で浸漬し、遠心分離後の上清に含まれるエバンスブルーの色素量を、分光光度計を用いて620nmの吸光度から求める。結膜浮腫に対する抑制効果は、以下に示す色素漏出量の抑制率として評価する。
抑制率(%)={(左眼の色素漏出量−右眼の色素漏出量)/左眼の色素漏出量}×100
【0122】
(4) ラットの上眼瞼結膜に1%ホルマリンを注射することで急性結膜浮腫(結膜炎モデル)を作製する。ホルマリンを注射する前に、15分〜30分おきに1回〜4回、実施例7で調製した製剤(a)〜(e)を点眼し、ホルマリン注射の3時間〜6時間後にラットを屠殺し、眼瞼縁に沿って浮腫部位を切り離し、その重量を測定する。製剤点眼群の生理食塩液点眼群に対する浮腫重量の減少割合を計算し、結膜浮腫に対する抑制効果を評価する。
【0123】
(5) ラットの上眼瞼結膜に10%カオリンを注射することで急性結膜浮腫(結膜炎モデル)を作製する。カオリンを注射する前に、15分〜30分おきに1回〜4回、実施例7で調製した製剤(a)〜(e)を点眼し、カオリン注射の3時間〜6時間後にラットを屠殺し、眼瞼縁に沿って浮腫部位を切り離し、その重量を測定する。製剤点眼群の生理食塩液点眼群に対する浮腫重量の減少割合を計算し、結膜浮腫に対する抑制効果を評価する。
【0124】
(6) ラットの結膜嚢内に10%クロトン油を点眼することで急性結膜浮腫(結膜炎モデル)を作製する。クロトン油を点眼する前に、30分〜50分間隔で1回〜4回、実施例7で調製した製剤(a)〜(e)を点眼し、クロトン油の最後の点眼より2〜6時間後にラットを屠殺し、眼瞼縁に沿って浮腫部位を切り離し、その重量を測定する。製剤点眼群の生理食塩液点眼群に対する浮腫重量の減少割合を計算し、結膜浮腫に対する抑制効果を評価する。
【0125】
(7) ウサギの硝子体に牛血清アルブミンを注入することでブドウ膜炎を作製する(一次的ブドウ膜炎)。さらにこの炎症が収まった後(牛血清アルブミンの硝子体注入27〜29日後)、再び牛血清アルブミンを耳静脈より注入してブドウ膜炎を再発させる(二次的ブドウ膜炎)。一次的ブドウ膜炎と二次的ブドウ膜炎に対して、実施例7で調製した製剤(a)〜(e)を30分〜数時間間隔で1日1回〜6回点眼し、生理食塩液点眼群と製剤投与群で外眼部炎症症状(角膜混濁、眼瞼結膜充血、眼瞼結膜浮腫、球結膜充血)と内眼部炎症症状(虹彩充血、虹彩形態的変化、前房混濁)を採点基準によりスコア化してブドウ膜炎の指標とする。
【0126】
ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤の目視による眼刺激性(角膜混濁、眼瞼結膜充血、眼瞼結膜浮腫、球結膜充血)は、陽性対照であるAzasite(登録商標)と比較して、同等または低いと考えられる。またナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤の抗炎症効果は、陽性対照であるAzasite(登録商標)と比較して、同等またはそれ以上であると考えられる。
【0127】
(実施例10)ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤の安定性試験
実施例7(1)で作製したナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤(クラリスロマイシン濃度0.3%及び1.0%)を容量9mLのスクリュー管に6〜8g計り取り、各々5℃、25℃、40℃に設定した恒温恒湿器の中に静置し、14日間にわたり安定性試験を行った。7日後と14日後にクラリスロマイシンの濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量し、製剤調製直後のクラリスロマイシン濃度を100%としたときの残存率を求めることで安定性を評価した。HPLCの分析条件は以下の通りとした。
装置:Waters alliance
カラム:Inertsil ODS 4.6mm×150mm
カラム温度:50℃
溶離液:20mM KH2PO4/CH3CN(8:2)
検出波長:210nm
【0128】
安定性試験の結果を表5に示す。クラリスロマイシンは、5℃、25℃及び40℃の各温度において14日間にわたり、分解は認められず安定であった。
【0130】
(実施例11)ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤の眼内動態試験
実施例7(1)で作製した(b)ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤(クラリスロマイシン濃度0.3%)、(c)ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤(クラリスロマイシン濃度1.0%)、(d)クラリスロマイシン原末懸濁液剤(クラリスロマイシン濃度1.0%)、あるいは、(e)Azasite(登録商標)(陽性対照)(アジスロマイシン濃度0.3%)を5分〜30分間隔で1回〜10回ウサギに点眼し、点眼30分、1、2、4、6時間後の外眼部各組織(結膜、角膜、房水)中のクラリスロマイシン濃度をHPLCまたはLC/MS/MS等により測定する。
【0131】
ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤では、結膜、角膜及び房水中のクラリスロマイシン濃度がクラリスロマイシン原末懸濁液剤の場合より高く、陽性対照であるAzasiteの場合と比較すると同等または高いと考えられる。
【0132】
(実施例12)クラリスロマイシン粉砕Dough(ドウ)の作製
0.5Lトリミックス(井上製作所製)に、平均粒子径10,370nmのクラリスロマイシン(融点:217−220℃;Assia Chemical Industries Ltd.)30g、マンニトール(和光純薬工業社製)90g、ポリビニルピロリドンK25(和光純薬工業社製)9g、及び水添大豆レシチンPHOSPHOLIPON 90H(エイチ・ホルスタイン社製)12gを仕込んで均一に混合した後、グリセリン23.6gを注入し内容物をこね粉状に保って、10℃で6時間粉砕を行った。得られた混練ドウは回収量145.8g(回収率 88.5%)であった。
【0133】
得られた混練ドウ100mgに0.1%HCO−60(日本サーファクタント工業社製)を3g加え、浴槽型超音波分散機(型式:VS−100III、アズワン社製)を使用して数分間、分散処理を行った。クラリスロマイシンの粒度分布を粒度分布測定装置(装置名:DeLsaNano、ベックマン・コールター社製)により測定した結果、平均粒子径(Dv)146.8nm、10%径(D10)85.5nm、50%径(D50)131.1nm、90%径(D90)222.0nmであった。
【0134】
(実施例13)アジスロマイシン粉砕Dough(ドウ)の作製
0.5Lトリミックス(井上製作所製)に、平均粒子径74.99μmのアジスロマイシン2水和物(融点:133−135℃;東京化成工業社製)5g、塩化ナトリウム(トミタソルトK30、富田製薬社製)60g、水添大豆レシチン(PHOSPHOLIPON 90H、エイチ・ホルスタイン社製)/グリセリン(純正化学社製)混合物(1:3)8g、及びグリセリン9.6gを投入し、内容物をこね粉状に保って、5℃で2時間粉砕を行った。得られた混練ドウは回収量74.8g(回収率 90.6%)であった。
【0135】
得られた混練ドウ100mgに0.05%MYS−40(日本サーファクタント工業社製)/0.05%プロノン407P(日本油脂社製)混合液を5g加え、浴槽型超音波分散機(型式:VS−100III、アズワン社製)を使用して数分間、分散処理を行った。さらに精製水を45g添加して浴槽型超音波分散機を使用して数分間、分散処理を行なった。アジスロマイシンの粒度分布を粒度分布測定装置(装置名:DeLsaNano、ベックマン・コールター社製)により測定した結果、平均粒子径(Dv147.3nm、10%径(D10)88.9nm、50%径(D50)130.1nm、90%径(D90)188.2nmであった。
【0136】
(実施例14)ロキシスロマイシン粉砕Dough(ドウ)の作製
0.5Lトリミックス(井上製作所製)に、平均粒子径121.3μmのロキシスロマイシン(融点:122−126℃;和光純薬工業社製)5g、塩化ナトリウム(オシオミクロンT−0、赤穂化成社製)60g、水添大豆レシチン(PHOSPHOLIPON 90H、エイチ・ホルスタイン社製)/グリセリン(純正化学社製)混合物(1:3)8g、及びグリセリン9.6gを投入し、内容物をこね粉状に保って、5℃で2時間粉砕を行った。得られた混練ドウは回収量81.6g(回収率 98.4%)であった。
【0137】
得られた混練ドウ100mgに0.05%MYS−40(日本サーファクタント工業社製)/0.05%プロノン407P(日本油脂社製)混合液を5g加え、浴槽型超音波分散機(型式:VS−100III、アズワン社製)を使用して数分間、分散処理を行った。さらに精製水を25g添加して浴槽型超音波分散機を使用して数分間、分散処理を行なった。ロキシスロマイシンの粒度分布を粒度分布測定装置(装置名:DeLsaNano、ベックマン・コールター社製)により測定した結果、平均粒子径(Dv234.5nm、10%径(D10)119.0nm、50%径(D50)195.0nm、90%径(D90)341.5nmであった。
【0138】
(実施例15)0.3%ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤の作製
実施例12で得られたトリミックス粉砕後のクラリスロマイシン混練物(混練ドウ)2.55gを50mLのガラスバイアルに計り取り、そこに1%HCO−60水溶液20.0gを加え、浴槽型超音波分散機(型式:VS−100III、アズワン社製)を使用して1〜2分間、分散処理を行った。さらにプローブ式超音波分散機(型式:S−4000、MISONIX社製)にて1分間(30秒を2回)、分散処理を行った。該分散液中のクラリスロマイシンの粒度分布を粒度分布測定装置(装置名:DelsaNano、ベックマン・コールター社製)により測定した結果、平均粒子径(Dv)は219.2nmであった。
【0139】
上記分散液に、1%HCO−60水溶液20.0g、1%HPMC 60SH−50水溶液35.0g、1M Tris緩衝液(pH7.5)15.0g、0.1%塩化ベンザルコニウム(BAC)水溶液1.5gを添加してマグネチックスターラで撹拌し、最後に精製水を加えて150gに調整して撹拌混合し、0.3%製剤とした。該製剤中のクラリスロマイシンの粒度分布を粒度分布測定装置により測定した結果、平均粒子径(Dv)391.9nm、10%径(D10)205.3nm、50%径(D50)326.1nm、90%径(D90)556.5nmであった。
【0140】
(実施例16)1.0%ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤の作製
実施例12で得られたトリミックス粉砕後のクラリスロマイシン混練物(混練ドウ)5.55gをガラスビーカーに計り取り、そこに1%HCO−60水溶液46.7gを加え、浴槽型超音波分散機(型式:VS−100III、アズワン社製)を使用して1〜2分間、分散処理を行った。さらにプローブ式超音波分散機(型式:S−4000、MISONIX社製)にて1分間(30秒を2回)、分散処理を行った。該分散液中のクラリスロマイシンの粒度分布を粒度分布測定装置(装置名:DelsaNano、ベックマン・コールター社製)により測定した結果、平均粒子径(Dv)は217.6nmであった。
【0141】
上記分散液に、1%HPMC 60SH−50水溶液23.3g、1M Tris緩衝液(pH7.5)7.5g、0.1%塩化ベンザルコニウム(BAC)水溶液1.0gを添加してマグネチックスターラで撹拌し、最後に精製水を加えて100gに調整して撹拌混合し、1.0%製剤とした。該製剤中のクラリスロマイシンの粒度分布を粒度分布測定装置により測定した結果、平均粒子径(Dv)548.1nm、10%径(D10)294.4nm、50%径(D50)484.4nm、90%径(D90)785.6nmであった。
【0142】
(実施例17)ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤の眼内薬物動態試験
実施例15で作製した0.3%ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤(以下、0.3%ナノ化製剤)、実施例16で作製した1.0%ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤(以下、1.0%ナノ化製剤)および1.0%クラリスロマイシン原末懸濁液剤(以下、1.0%原末製剤)の3種類の製剤を用いて、下記の通りに眼内薬物動態試験を行った。
ウサギ(系統Kbl:JW、雄)の下眼瞼を穏やかに引き離し、左眼の結膜嚢内に各製剤50μLをピペットを用いて単回点眼投与し、その後、上下眼瞼を緩やかに合わせ、約2秒間保持した。点眼30分、2、4、6時間後の各時点で血漿、眼房水および結膜を採取しクラリスロマイシン濃度をLC−MS/MSで測定した。
【0143】
血漿の採取は、以下の方法により行った。耳介静脈から約1mL採血した後、速やかに遠心分離(4℃、1710×g、3000rpm)して血漿を得た。得られた血漿は分析するまで、超低温フリーザー(−70℃以下)で凍結保存した。
【0144】
眼房水および結膜の採取は次の方法により行った。上記採血後、ペントバルビタール水溶液を耳介静脈内投与して麻酔を行ない、放血安楽死させた。注射用水で眼をよく洗浄した後、眼房水を採取した。その後、結膜を採取した。採取した眼房水および結膜は、それぞれ重量を測定した後、液体窒素にて凍結し、分析するまで超低温フリーザー(−70℃以下)で凍結保存した。
【0145】
各試料の前処理は次の方法により行った。血漿の場合、血漿20μLにアセトニトリル50μLを加えて十分に撹拌した後、遠心(13100×g、4℃、5分)し、上清2μLをLC−MS/MSに注入した。眼房水の場合、眼房水20μLにアセトニトリル50μLを加えて十分に撹拌した後、遠心(13100×g、4℃、5分)し、上清2μLをLC−MS/MSに注入した。結膜の場合、結膜の湿重量の9倍容量の超純水を加えてホモジナイズし、結膜ホモジネート20μLにアセトニトリル50μLを加えて十分に撹拌した後、遠心(13100×g、4℃、5分)し、上清2μLをLC−MS/MSに注入した。
【0146】
HPLC分析条件は以下のとおりとした:
カラム Inertsil ODS−4 HP(GL Science社)
移動相A 20mM ギ酸アンモニウム
移動相B アセトニトリル
グラジエント 時間(min) 移動相A(%) 移動相B(%)
0.00 60 40
3.00 20 80
4.50 20 80
4.51 60 40
6.00 60 40
流速 0.2 mL/min
カラム温度 40℃
オートサンプラ―温度 4℃
注入量 2μL
分析時間 6分間
【0147】
MS/MS分析条件は以下のとおりとした:
Ion Source:Electrospray ionization(ESI)
Scan Type:Multiple reaction monitoring (MRM)
Polarity:Positive
Source Temperature:500℃
モニターイオン: 化合物 Q1(m/z) Q3(m/z)
クラリスロマイシン 749.00 158.00
【0148】
結果を
図1〜3に示す。ナノ化クラリスロマイシンは、原末と比較して、眼房水および結膜への移行性が高く、血液への移行性はほぼ同等であることが示された。
【0149】
(実施例18)ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤の薬効試験1
ウサギを用いて、角膜潰瘍モデルを作製し、黄色ブドウ球菌感染により結膜炎を発症させて、ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤(点眼液)の薬効評価を下記の通り行った。
【0150】
角膜潰瘍モデルの作製は次の方法で行った。日本白色種ウサギ(系統 Slc:JW/CSK、雄)をペントバルビタールナトリウム麻酔(耳介静脈内投与)下で外眼部を生理食塩液にて洗浄し、0.4%塩酸オキシブプロカインにて角膜に局所麻酔を施した。ウサギの眼球を薬さじで圧迫脱臼させ、6mm直径のトレパン(カストロヴィーホー氏角膜移植用トレパン)で角膜中央に円形の浅い傷を作製し、円形の創の内側に26G×1/2 SB針で縦横2条の“#”字型の角膜実質に至る創を作製した。
【0151】
菌液接種は以下の方法で行った。マイクロピペットとチップを用いて、1×10
9cfu/mL濃度の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus;St.aureus ATCC25923株)液を50μL/eyeの割合で角膜に1回滴下し、瞬目させ、眼瞼上より軽く2〜3回マッサージした。さらに1回滴下し、瞬目させ、眼瞼上より軽く2〜3回マッサージした(1眼当たり0.1mLを角膜上滴下投与した)。
【0152】
被験物質としては、AzaSite(1% azithromycin ophthalmic solution)、実施例15で作製した0.3%ナノ化クラリス製剤、実施例16で作製した1.0%ナノ化クラリス製剤、1.0%クラリスロマイシン原末懸濁液およびVehicle(上記0.3%ナノ化クラリス製剤からクラリスロマイシンを除いた組成のもの)を試験に供した。
【0153】
被験物質の投与は、次の方法で行った。マイクロピペットとチップを用いて下眼瞼をゆるやかに引き、結膜嚢内に被験物質を50μL/eye滴下した。投与期間は4日間とし、菌液接種日(初日)は2回投与(菌液接種後4時間と8時間)とし、2〜4日は1日3回(4時間間隔)投与した。
【0155】
観察および薬効評価・判定は次のように行った。角膜感染部位、角膜、虹彩および結膜の臨床観察は、細隙灯顕微鏡により菌液接種後1日目から菌液接種後7日目まで7日間、1日1回実施した。薬効評価・判定は以下に示す秦野等・中村等の評価基準(表7)に従った角膜所見の評価およびDraize J.H.et. al.の評価基準(表8)に従った角膜・虹彩・結膜所見の評価を採用した。なお、Draize J.H.et. al.の評価基準を利用した評価は、以下のとおりに行った:
角膜=A×B×5 (最大 80点)
虹彩=×5 (最大 10点)
結膜=(A+B+C)×2 (最大 20点)
トータルスコア=角膜+虹彩+結膜(最大 110点)
【0158】
表9に秦野等・中村等の評価基準による角膜感染部位のスコアの結果をまとめた。また、
図4には、各被験物質におけるスコアの経時変化(薬効評価)を示した。
【0160】
表10にDraizeらの評価基準による角膜・虹彩・結膜感染部位のスコアの結果をまとめた。
図5には、各被験物質におけるスコアの経時変化(薬効評価)を示した。
【0162】
図4および
図5より、ナノ化クラリスロマイシン懸濁液(点眼剤)の抗炎症効果は、陽性対照であるAzaSiteと比較して同等以上であった。また1.0%クラリスロマイシン原末製剤は、6日目以降、抗炎症効果の減弱が認められたが、ナノ化クラリスロマイシン懸濁液(点眼剤)は7日間に渡って、抗炎症効果を示した。従って、ナノ化することで、原末と比較して薬効の長期持続が期待できることが分かった。
【0163】
(実施例19)ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤の薬効試験2
ウサギを用いて、角膜潰瘍モデルを作製し、黄色ブドウ球菌感染により結膜炎を発症させて、ナノ化クラリスロマイシン懸濁液剤(点眼液)の薬効評価を行った。実施例18と比較して、本実施例では、点眼剤の投与開始時間の遅延による治療効果を検討した。
【0164】
角膜潰瘍モデルの作製方法、菌液接種方法および薬効評価・判定は、実施例18と同様に行った。被験物質は、実施例15で作製した0.3%ナノ化クラリス製剤およびVehicle(上記0.3%ナノ化クラリス製剤からクラリスロマイシンを除いた組成のもの)を使用した。投与回数等を下表にまとめた。
【0166】
表12及び表13に秦野等・中村等の評価基準による角膜感染部位のスコアの結果をまとめた。
図6には、各被験物質におけるスコアの経時変化(薬効評価)を示した。
【0169】
表14及び表15にDraizeらの評価基準による角膜・虹彩・結膜感染部位のスコアの結果をまとめた。
図7には、各被験物質におけるスコアの経時変化(薬効評価)を示した。
【0172】
図6および
図7より、点眼剤の投与開始時間を遅延させても同等の抗炎症効果が得られることが分かった(
図7の3群と4群の比較)。また点眼剤の投与回数を増やすことで、より高い抗炎症効果が得られることが分かった(
図7の4群と5群の比較)。