(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0022】
[1] 複数の細孔が形成された多孔質構造を有し、ZrO
2粒子と、前記ZrO
2粒子の表面に存在する異種材料と、を前記多孔質構造の骨格として有し、前記異種材料が、第1群より選択される少なくとも一種、第2群より選択される少なくとも一種、または、前記第1群より選択される少なくとも一種と前記第2群より選択される少なくとも一種との両方、を含むものであり、前記第1群が、SiO
2、TiO
2、La
2O
3、Al
2O
3、SrO、Gd
2O
3、Nb
2O
5、Y
2O
3、及び、これらの2種以上からなる複合酸化物からなる群であり、前記第2群が、SiO
2、TiO
2、La
2O
3、Al
2O
3、SrO、Gd
2O
3、Nb
2O
5、Y
2O
3からなる群より選択される少なくとも一種とZrO2との複合酸化物からなる群であり、前記異種材料の含有割合が、0.1〜15体積%であり、前記異種材料は、少なくともZrO
2粒子間に
介在している多孔質材料。
【0023】
このような多孔質材料は、断熱性能に優れた断熱膜の材料として用いることができる。より具体的には、本発明の多孔質材料では、異種材料がZrO
2粒子の表面に存在することにより、ZrO
2粒子と異種材料の粒界におけるフォノン散乱が増えるため、熱伝導率を低くすること(低熱伝導化)ができる。
【0024】
多孔質材料は、複数の細孔が形成された多孔質構造を有している。即ち、多孔質材料は、立体的な網目構造の骨格を有しており、この骨格以外の空隙が多孔質材料の気孔になっている。そして、この多孔質材料は、ZrO
2粒子と、このZrO
2粒子の表面に存在する異種材料と、を多孔質構造の骨格として有しているものである。
【0025】
なお、「ZrO
2粒子の表面に異種材料が存在する」とは、異種材料がZrO
2粒子間に介在している状態を含む概念である。また、ZrO
2粒子同士が小さな接点で接触しつつ、その接点の周辺(つまり、接触するZrO
2粒子同士が作るネック(くびれた部分)の周辺)に異種材料が存在する状態を含む概念である。
【0026】
多孔質材料は、平均気孔径が0.5〜500nmであることが好ましく、1〜300nmであることが更に好ましく、10〜100nmであることが特に好ましい。上記平均気孔径は、小さいほど熱伝導率が低くなるため好ましいが、製造コストが高くなるおそれがある。一方、500nm超であると、熱伝導率が高くなりすぎるおそれがある。ここで、本明細書において「多孔質材料の平均気孔径」は、水銀ポロシメーター(水銀圧入法)を用いて測定した値である。平均気孔径が10nm以下の場合は、ガス吸着法にて測定する。
【0027】
多孔質材料は、気孔率が20〜90%であることが好ましく、20〜80%であることが更に好ましい。上記気孔率が20%未満であると、熱伝導率が高くなるおそれがある。一方、90%超であると、ZrO
2粒子同士の結合が弱く、強度が低下するおそれがある。ここで、本明細書において「気孔率」は、水銀ポロシメーター(水銀圧入法)で測定した値である。
【0028】
多孔質材料の形状は、特に制限はないが、例えば、球状、板状、繊維状、針状、塊状等を挙げることができる。これらの中でも、多孔質材料を原料に含む組成物を基材に塗布して断熱膜を形成する場合にこの多孔質材料が層状に配置されるという観点から、板状であることが好ましい。板状である場合、表面の形状は、正方形、四角形、三角形、六角形、円形、不定形等のいずれの形状であってもよい。
図1は、板状の多孔質材料1を示している。なお、
図1は、本発明の多孔質材料の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【0029】
多孔質材料は、アスペクト比が3以上の板状で、最小長が0.1〜50μmであることが好ましい。更に、多孔質材料は、アスペクト比が3〜10の板状で、最小長が0.5〜30μmであることが好ましい。多孔質材料が上記条件を満たすことにより、これを、後述するマトリックスに分散させて断熱膜を形成した場合に、厚さ方向に多孔質材料の最小長方向が揃うことになる。そのため、断熱膜の厚さ方向への伝熱が生じ難くなり易く、更に良好に熱伝導率が低くなる。
【0030】
アスペクト比とは、多孔質材料の最大長/最小長で定義される。最大長とは、画像解析で得られる画像において、多孔質材料を一組の平行な面で挟んだと想定したとき、この一組の平行な面の間の距離のうち最大となる長さ(
図1中、符号「M」で示す)のことである。最小長とは、同様に、画像解析で得られる画像において、多孔質材料を一組の平行な面で挟んだと想定したとき、この一組の平行な面の間の距離のうち最小となる長さ(
図1中、符号「m」で示す)のことであり、板状である場合はいわゆる厚さに相当する。なお、アスペクト比は、20個の多孔質材料についての平均値である。
【0031】
「板状の多孔質材料」には、平板状(平らで湾曲していない板)のみならず、湾曲した板状のものや、厚み(最小長)が一定ではない板状のものも含まれる。
【0032】
多孔質材料は、内部が空洞の中空粒子であってもよいし、このような空洞の無い粒子であってもよい。なお、「空洞」は、多孔質構造の気孔とは異なるものであり、この気孔よりも大きいものを意味する。
【0033】
なお、多孔質材料の骨格を構成するZrO
2粒子の確認、及びこのZrO
2粒子上の異種材料の種類の確認は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて行うことができる。
【0034】
多孔質材料は、1mm以下の大きさの粒子状であることが好ましい。多孔質材料の大きさは、画像解析で得られた画像を用いて、10個以上の粒子を計測し、その平均値を算出した値である。
【0035】
[1−1−1]ZrO
2粒子:
ZrO
2粒子は、平均粒子径が10nm〜1μmであることが好ましく、10nm〜500nmであることが更に好ましく、10nm〜100nmであることが特に好ましい。上記平均粒子径は、小さいほど熱伝導率が低くなるために好ましいが、10nm未満であると製造コストが高くなるおそれがある。一方、1μm超であると、熱伝導率が高くなるおそれがある。なお、「ZrO
2粒子の平均粒子径」は、以下のように測定した値である。TEMを用いた観察によって得た微構造の画像を用い、10個以上のZrO
2粒子の粒子径を計測し、その平均値を算出した。また、ZrO
2粒子は他の元素(例えば、Mg,Ca,Yなど)を固溶していてもよく、部分安定化ジルコニアや完全安定化ジルコニアであってもよい。
【0036】
[1−1−2]異種材料:
異種材料の含有割合は、0.1〜30体積%であることが好ましく、0.1〜20体積%であることが更に好ましく、0.1〜15体積%であることが特に好ましい。上記範囲内であることにより、ZrO
2の特性を維持したまま、熱伝導率をさらに低減できるという利点がある。異種材料の含有割合が上記下限値未満であると、熱伝導率の低減効果が不十分であるおそれがある。上記上限値超であると、ZrO
2の有する耐熱性や強度などの材料特性において不具合が生じるおそれがある。
【0037】
なお、異種材料の含有割合は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて元素分析した値である。
【0038】
異種材料は、ZrO
2粒子間に存在していることが好ましい。つまり、異種材料がZrO
2粒子間に介在していること(別言すれば、異種材料は、ZrO
2粒子の粒界に存在していること)が好ましい。このように、異種材料がZrO
2粒子間に存在することにより、ZrO
2粒子の粒界におけるフォノン散乱が更に増えるため、熱伝導率を更に低くすることができる。
図2は、異種材料30がZrO
2粒子20,20間に存在している状態を示している。
図2は、本発明の多孔質材料の一実施形態を拡大して模式的に示す拡大図である。
【0039】
異種材料は、ZrO
2粒子内に固溶していることも好ましい。このようにZrO
2粒子内に異種材料が固溶すると、更に熱伝導率を低くすることができる。
【0040】
なお、「ZrO
2粒子内に異種材料が固溶する」とは、ZrO
2粒子内に異種材料を構成する元素の一部がZrO
2粒子の結晶構造内に存在している状態であることを意味する。例えば、ZrO
2粒子の結晶構造中のZrのサイトに、異種材料であるTiO
2のTiが置換することを意味する。このような状態であることは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた元素分析と共に、X線回折による結晶構造解析をすることで確認することができる。
【0041】
異種材料は、第1群より選択される少なくとも一種、第2群より選択される少なくとも一種、または、第1群より選択される少なくとも一種と第2群より選択される少なくとも一種との両方、を含むものである。つまり、異種材料は、例えば、SiO
2、TiO
2、La
2O
3、Al
2O
3などの単独であってもよいし、これらから適宜選択した複数であってもよい。例えば、異種材料がTiO
2である場合、ZrO
2粒子内にTiが固溶するため、更に熱伝導率を低くすることができる。
【0042】
異種材料は、SiO
2、TiO
2、La
2O
3、及びLa
2Zr
2O
7からなる群より選択される少なくとも2種以上であることも好ましい態様である。このように、SiO
2、TiO
2、La
2O
3、及びLa
2Zr
2O
7からなる群より選択される少なくとも2種以上がZrO
2粒子の表面に存在すると、更に熱伝導率が低くなるという利点がある。
【0043】
異種材料が2種類である場合、これらの体積比の値は、1/9〜9であることが好ましい。上記比の値が上記範囲外であると、両者を共添加する効果が認められなくなる場合がある。
【0044】
異種材料の直径は、ZrO
2粒子の直径よりも小さいことが好ましい。このようにすることで、ZrO
2の特性を維持し易くなるという利点がある。なお、「異種材料の直径」とは、異種材料の平均粒子径ということもできる。また、「ZrO
2粒子の直径」とは、ZrO
2粒子の平均粒子径ということもできる。
【0045】
異種材料は、平均粒子径が0.1〜300nmであることが好ましく、0.1〜100nmであることが更に好ましく、0.1〜50nmであることが特に好ましい。上記平均粒子径は、小さいほど好ましいが0.1nm未満であると製造コストが高くなるおそれがある。一方、300nm超であると、ZrO
2の有する耐熱性や強度などの材料特性において不具合が生じるおそれがある。つまり、耐熱性が低くなったり、強度が低下したりするおそれがある。なお、「異種材料の平均粒子径」は、上述したZrO
2粒子の平均粒子径と同様にして測定した値である。
【0046】
本発明の多孔質材料は、ZrO
2粒子及び異種材料以外に、その他の粒子を含有していてもよい。その他の粒子を含有する場合、ZrO
2粒子及び異種材料の合計の含有割合は、90%以上であることが好ましい。上記ZrO
2粒子及び異種材料の合計の含有割合が90%未満であると、ZrO
2の有する耐熱性や強度などの材料特性において不具合が生じるおそれがある。つまり、耐熱性が低くなったり、強度が低下したりするおそれがある。
【0047】
本発明の多孔質材料は、熱伝導率が1W/mK以下であることが好ましく、0.5W/mK以下であることが更に好ましく、0.3W/mK以下であることが特に好ましい。このような熱伝導率の多孔質材料が断熱膜に含有されると、断熱効果を良好に向上させることができる。「多孔質材料の熱伝導率」は、以下のようにして算出される値である。まず、水銀ポロシメーターで多孔質材料の密度を測定する。次に、DSC法で多孔質材料の比熱を測定する。次に、光交流法で多孔質材料の熱拡散率を測定する。その後、熱拡散率×比熱×密度=熱伝導率の関係式から、多孔質材料の熱伝導率を算出する。
【0048】
本発明の多孔質材料は、フィラーとして好適に用いることができる。
【0049】
[2]多孔質材料の製造方法:
本発明の多孔質材料の製造方法の一実施形態は、グリーンシート形成用スラリーを調製するスラリー調製工程と、グリーンシートを形成するグリーンシート形成工程と、焼成体を作製する焼成体作製工程と、焼成体を解砕して多孔質材料を得る解砕工程と、を有する。上記スラリー調製工程は、ZrO
2粒子、異種材料、及び造孔材を含むグリーンシート形成用スラリーを調製する工程である。上記グリーンシート形成工程は、グリーンシート形成用スラリーを膜状に形成してグリーンシートを形成する工程である。上記焼成体作製工程は、形成したグリーンシートを焼成して膜状の焼成体を作製する工程である。上記解砕工程は、焼成体を解砕して多孔質材料を得る工程である。
【0050】
このような多孔質材料の製造方法は、上記各工程を有するため、断熱性能に優れた断熱膜の材料として用いることができる多孔質材料を製造することができる。
【0051】
[2−1]スラリー調製工程:
グリーンシート形成用スラリーに含まれるZrO
2粒子及び異種材料は、上述した本発明の多孔質材料のZrO
2粒子及び異種材料と同様のものである。
【0052】
造孔材は、焼成体作製工程において消失して複数の気孔を形成するものであれば特に制限はない。造孔材としては、例えば、カーボンブラック、ラテックス粒子、メラミン樹脂粒子、ポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子、ポリエチレン粒子、ポリスチレン粒子、発泡樹脂、吸水性樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、粒子サイズが小さく、多孔質材料に小さな気孔を形成しやすいという利点があるため、カーボンブラックが好ましい。
【0053】
グリーンシート形成用スラリーには、ZrO
2粒子、異種材料、及び造孔材以外に、バインダー、可塑剤、溶剤などのその他の成分を含有させることができる。
【0054】
バインダーとしては、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアクリル樹脂等を挙げることができる。可塑剤としては、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジオクチル(DOP)等を挙げることができる。溶剤としては、キシレン、1−ブタノール等を挙げることができる。
【0055】
グリーンシート形成用スラリー中のZrO
2粒子の含有割合は、5〜20体積%であることが好ましい。
【0056】
グリーンシート形成用スラリー中の異種材料の含有割合は、0.1〜5体積%であることが好ましい。
【0057】
グリーンシート形成用スラリー中の造孔材の含有割合は、0〜20体積%であることが好ましい。
【0058】
グリーンシート形成用スラリー中の「その他の成分」の含有割合は、70〜90体積%であることが好ましい。
【0059】
グリーンシート形成用スラリーの粘度は、0.1〜10Pa・sが好ましい。なお、このような粘度とするには、真空脱泡処理を施す方法が挙げられる。
【0060】
[2−2]グリーンシート形成工程:
グリーンシートは、焼成後の厚さが10〜50μmとなるような膜状であることが好ましい。
【0061】
グリーンシート形成用スラリーを膜状に形成する方法としては、従来公知の方法を採用することができるが、例えば、ドクターブレード装置を用いた方法を採用することができる。
【0062】
[2−3]焼成体作製工程:
グリーンシートの焼成条件は、適宜設定することができるが、例えば、800〜2300℃で0.5〜20時間とすることが好ましく、800〜1800℃で5〜20時間であることが更に好ましく、800〜1300℃で5〜20時間であることが特に好ましい。
【0063】
[2−4]解砕工程:
焼成体を解砕する方法としては、例えば、乾式ビーズミル、ローラーミルなどを用いて焼成体を室温で解砕することができる。特に、「アスペクト比が3以上の板状で、最小長が0.1〜50μmである」多孔質粒子を得るためには、気流式分級機を用い、整粒(分級)することが好ましい。
【0064】
[3]断熱膜:
本発明の断熱膜は、本発明の多孔質材料を材料として含むものである。このような断熱膜は、断熱性能に優れている。
【0065】
図3を用いて、断熱膜3を説明する。断熱膜3は、本発明の一実施形態の多孔質材料1(フィラー10)と、この多孔質材料1を分散させるマトリックス3mと、を有している。つまり、多孔質材料1が、この多孔質材料1を結合するためのマトリックス3mに分散して配置されている。マトリックスとは、多孔質材料の周囲やこれらの粒子間に存在する成分であり、これらの粒子間を結合する成分である。
図3は、本発明の断熱膜3の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【0066】
本発明の断熱膜は、マトリックスとして、セラミックス、ガラス、及び樹脂の少なくとも一種を含むことが好ましい。耐熱性が良好となるという観点から、マトリックスとしてはセラミックスまたはガラスがより好ましい。より具体的には、マトリックスとなる材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、窒化けい素、酸窒化けい素、炭化けい素、酸炭化けい素、カルシウムシリケート、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノシリケート、リン酸アルミニウム、カリウムアルミノシリケート、ガラス等を挙げることができる。これらは熱伝導率が低くなるという観点から非晶質であることが好ましい。また、マトリックスの材料がセラミックスの場合は、マトリックスは、粒径が500nm以下の微粒子の集合体であることが望ましい。粒径が500nm以下の微粒子の集合体をマトリックスとすることにより、熱伝導率を更に低くすることができる。また、マトリックスとなる材料が樹脂の場合、マトリックスとしては、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0067】
断熱膜は、この断熱膜の全体の気孔率が10〜90%であり、マトリックスの気孔率が0〜70%であることが好ましい。
【0068】
断熱膜は、厚さが0.1〜5mmであることが好ましい。このような厚さとすることにより、断熱膜によって被覆される基材の特性に悪影響を与えることなく、断熱効果を得ることができる。なお、断熱膜の厚さは、その用途に応じて上記範囲内で適宜選択することができる。
【0069】
断熱膜は、熱容量が1500kJ/m
3K以下であることが好ましく、1000kJ/m
3K以下であることが更に好ましく、500kJ/m
3K以下であることが最も好ましい。本明細書において、熱容量は、一般的には容積比熱と呼ばれる単位体積当たりで議論することとするため、単位はkJ/m
3Kである。このように低熱容量であると、例えば、エンジン燃焼室に断熱膜を形成した場合、燃料の排気後、エンジン燃焼室内のガス温度を低下させ易くなる。これにより、エンジンの異常燃焼などの問題を抑制することができる。
【0070】
断熱膜は、熱伝導率が1.5W/mK以下であることが好ましく、1W/mK以下が更に好ましく、0.5W/mK以下が特に好ましい。このように低熱伝導率であることにより、伝熱を抑制することができる。
【0071】
本発明の断熱膜は、例えば、「エンジン燃焼室を構成する表面」上に形成される断熱膜として用いることができる。また、本発明の断熱膜は、「自動車の排気管の内壁」に形成される断熱膜、発熱部からの熱を遮りたい場合の断熱膜として用いることができる。
【0072】
本発明の断熱膜は、コーティング組成物を基材上に塗布し、乾燥して形成させることができる。また、乾燥後に熱処理して形成させることもできる。このとき、塗布と乾燥または熱処理とを繰り返し行うことで断熱膜を積層させて厚い断熱膜(断熱膜の積層体)を形成することができる。または、断熱膜を仮の基材上に形成させた後、この仮の基材を除去することで、単独で薄板状に形成させた断熱膜を作製し、この断熱膜を、目的とする基材(「仮の基材」とは異なる基材)に接着または接合させてもよい。
【0073】
基材としては、金属、セラミックス、ガラス、プラスチック、木材、布、紙等を用いることができる。特に、基材が金属の場合の例として、鉄、鉄合金、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル合金、コバルト合金、タングステン合金、銅合金などが挙げられる。
【0074】
コーティング組成物は、上記多孔質材料と、無機バインダー、無機高分子、酸化物ゾル、及び水ガラスからなる群より選択される一種以上と、を含むものを用いることができる。更に、コーティング組成物は、緻密質なフィラー、粘性調整剤、溶媒、分散剤等を含んでいてもよい。
【0075】
コーティング組成物に含まれる具体的な物質は、セメント、ベントナイト、リン酸アルミニウム、シリカゾル、アルミナゾル、ベーマイトゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラエチル、ポリシラザン、ポリカルボシラン、ポリビニルシラン、ポリメチルシラン、ポリシロキサン、ポリシルセスキオキサン、ジオポリマー、ケイ酸ナトリウム等である。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
ZrO
2原料(ZrO
2粒子)であるジルコニア粉末に、異種材料としてSiO
2、造孔材としてカーボンブラック、バインダーとしてポリビニルブチラール樹脂(PVB)、可塑剤としてフタル酸ジオクチル(DOP)、及び、溶剤としてキシレンと1−ブタノールを加えた。これを原料組成物とした。原料組成物中の各成分の添加量は、ジルコニア粉末10.8体積%、SiO
21.2体積%、バインダー10.8体積%、可塑剤6体積%、溶剤71.2体積%であった。なお、表1中、各成分の「体積%」は、ZrO
2粒子、異種材料、及び造孔材の合計に対する各成分の「体積%」を示している。
【0078】
次に、この原料組成物をボールミルにて30時間混合し、グリーンシート成形用スラリー(コーティング組成物)を調製した。その後、このスラリーに真空脱泡処理を行った後、粘度を4Pa・sに調整した。その後、上記スラリーを、ドクターブレード装置によって焼成後の厚さが10μmとなるように膜状に塗工し、グリーンシートを形成した。このグリーンシートを縦50mm×横50mmの寸法となるように切断した。その後、この成形体を、600℃で5時間脱脂した後、1100℃で2時間焼成して、薄板状の焼成体を得た。その後、得られた焼成体を、乾式ビーズミルを用いて解砕して、多孔質材料を得た。
【0079】
次に、得られた多孔質材料は、ZrO
2粒子の直径が60nmであり、異種材料(SiO
2)の直径が15nmであった。多孔質材料は、平均気孔径が0.13μmであり、気孔率が63%であった。また、多孔質材料は、熱伝導率が0.15W/mKであり、熱容量が840kJ/m
3Kであった。なお、「多孔質材料の熱伝導率及び熱容量」は、それぞれ、焼成体(解砕前のもの)の熱伝導率、熱容量を測定した値のことである。また、得られた多孔質材料のアスペクト比が5で、最小長が10μmであった。結果を表1に示す。
【0080】
図4は、透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影した本実施例の多孔質材料の断面を示す写真である。
【0081】
[異種材料の含有割合]
異種材料の含有割合は、多孔質材料を化学分析することにより得た。得られた分析結果をもとに、異種材料として添加した化合物(実施例1の場合はSiO
2)に換算した含有量を体積%として算出した。
【0082】
[多孔質材料の熱伝導率]
多孔質材料の熱伝導率は、以下のように測定する。まず、多孔質材料と同材料を別途、0.5mm×5mm×30mmに成形したものを焼成し、光交流法により熱拡散率を、同材料をDSC法により比熱を測定し、熱拡散率、比熱、密度(見かけ粒子密度)の積を多孔質材料の熱伝導率とした。見かけ粒子密度は、水銀を用いた液浸法により測定した。
【0083】
[多孔質材料の熱容量]
多孔質材料の熱容量は、以下のように測定する。まず、多孔質材料と同材料を別途、0.5mm×5mm×30mmに成形したものを焼成し、DSC法により比熱を測定し、比熱、密度(見かけ粒子密度)の積を多孔質材料の熱容量とした。見かけ粒子密度は、水銀を用いた液浸法により測定した。
【0084】
次に、マトリックス材(マトリックスとなる材料)と多孔質材料を体積比で20:80になるように混合する。そして、この組成物を、基材であるアルミニウム合金上に塗布し、乾燥後、200℃で2時間熱処理して、基材上に断熱膜(厚さ100μm)を形成した。
【0085】
得られた断熱膜は、熱伝導率が0.3W/mKであった。また、断熱膜は、熱容量が800kJ/m
3Kであった。
【0086】
[断熱膜の熱伝導率、熱容量]
断熱膜の熱伝導率は、レーザーフラッシュ2層モデルにて断熱膜の厚さ方向に平行な断面における熱伝導率を測定した。断熱膜の熱容量は、断熱膜を粉砕した後、DSC法で比熱を測定し、比熱×密度(見かけ粒子密度)の積から算出した。
【0087】
(実施例2〜16、比較例1)
まず、実施例1と同様にして表1に示す条件で多孔質材料を得た。次に、実施例1と同様にして上記各測定を行った。結果を表1に示す。
【0088】
図5は、透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影した実施例2の多孔質材料の断面を示す写真である。
【0089】
【表1】
【0090】
実施例1〜16の多孔質材料は、比較例1の多孔質材料に比べて、断熱性能に優れた断熱膜の材料として用いることができることが確認できた。