(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、冷媒又は潤滑剤を効率的に軸受内部に供給するためには、軸受に特殊な構造が必要であった。このような特殊な構造を持つ軸受は、コストがかかると同時に、延命機能を持たない主軸と部品を共通化することができなかった。
また、安価でメンテナンス性の高い非接触シール付きグリース潤滑軸受を使用することはできなかった。なぜなら、通常の非接触シール付き軸受に外部から冷媒又は潤滑剤を供給しようとすると、軸受シールと軸受の隙間が小さく、高圧を必要としたためである。このような場合、高圧を用いて冷媒又は潤滑剤を供給しても、冷媒又は潤滑剤の一部は軸受シールに跳ね返され、軸受内部に至らなかった冷媒又は潤滑剤が、工作機械や電動機の電気部品等に付着し、逆に主軸の寿命を縮めてしまうおそれがあった。
また、オイルシール等の接触式シールでは、工作機械の主軸が高速回転をするため、冷媒又は潤滑剤の流出防止を抑制することができなかった。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、工作機械の主軸軸受の故障の兆候を捕らえ、主軸が焼き付くまでの時間を延命できる主軸軸受保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る主軸軸受保護装置(例えば、後述の主軸軸受保護装置1,2)は、主軸(例えば、後述の主軸153)を回転可能に支持する軸受(例えば、後述の軸受14,24)を保護する主軸軸受保護装置であって、前記軸受よりも軸方向外側に設けられ且つ前記主軸とともに回転する回転翼(例えば、後述の151,251)を有する回転部(例えば、後述の15,25)と、前記回転翼と前記軸受の間に冷媒又は潤滑剤を供給する供給部(例えば、後述の供給部12,22)と、前記軸受の異常を検出する検出部(例えば、後述の検出部13,23)と、前記検出部が前記軸受の異常を検出した場合に、前記供給部による冷媒又は潤滑剤の供給と前記主軸の回転数を制御する制御部(例えば、後述の制御部11,21)と、を備える。
【0008】
前記検出部は、前記軸受の振動数、前記軸受の温度及び前記軸受から発する音の音量のうち少なくとも1つが、所定の閾値又は所定の変化率を超えて変化した場合に、前記軸受の異常を検出することが好ましい。
【0009】
前記冷媒又は潤滑剤は、油、水、グリース及び圧縮気体のうち少なくとも1つであることが好ましい。
【0010】
前記回転部は、電動機(例えば、後述の電動機3)の電動機ロータ(例えば、後述の電動機ロータ152)を含んで構成されていても良い。
【0011】
前記回転部は、主軸本体(例えば、後述の主軸頭256)の主軸ロータ(例えば、後述の主軸ロータ252)を含んで構成されていても良い。
【0012】
また、本発明に係る工作機械(例えば、後述の工作機械4)は、上記いずれかの主軸軸受保護装置を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、工作機械の主軸軸受の故障の兆候を捕らえ、主軸が焼き付くまでの時間を延命できる主軸軸受保護装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、第2実施形態の説明において、第1実施形態と共通する構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0016】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る主軸軸受保護装置1の構成を示す図である。
本実施形態に係る主軸軸受保護装置1は、電動機3に設けられ、該電動機3の主軸153を回転可能に支持する軸受14を保護する。この主軸軸受保護装置1は、回転翼151を有する回転部15と、軸受14の異常を検出する検出部13と、冷媒又は潤滑剤を供給する供給部12と、供給部12による冷媒又は潤滑剤の供給及び回転部15の回転数を制御する制御部11と、を備える。
【0017】
供給部12は、貯蔵部121と、開放弁122と、圧縮部123と、供給管124と、を含んで構成される。
貯蔵部121に貯蔵された冷媒又は潤滑剤は、制御部11によって開放弁122が開放されている際は、該開放弁122を経由して圧縮部123に導入される。圧縮部123は、制御部11によって指定された圧縮率で、供給管124を介して冷媒又は潤滑剤を主軸153近傍に供給する。制御部11が圧縮率を上昇させると、それに応じて主軸153近傍に供給される冷媒又は潤滑剤の供給量が増加し、制御部11が圧縮率を下降させると、それに応じて主軸153近傍に運搬される冷媒又は潤滑剤の供給量は減少する。
【0018】
より詳しくは、供給管124の先端は、回転翼151と軸受14(上方の軸受141)との間に配置される。これにより、供給部12は、回転翼151と軸受14との間に冷媒又は潤滑剤を供給する。
【0019】
軸受14は、高速回転に適した非接触シール付き軸受が好ましく用いられる。
図1に見られるように、軸受14は、電動機ステータ17を挟んで、
図1の紙面に向かって上方(以下同様)に配置された軸受141と下方に配置された軸受142とを含んで構成される。上方の軸受141は上部ブラケット18に支持され、下方の軸受142は下部ブラケット19に支持される。
【0020】
回転部15は、回転翼151と、電動機ロータ152と、主軸153と、を含んで構成される。回転翼151は、上方に配置された軸受141よりも軸方向外側(上方)に設けられ、主軸153周りに円環状に形成される。また、上方から回転翼151及び電動機ロータ152が、主軸153に対して一体化される。すなわち、これらの回転軸は一致し、一体的に回転する。
【0021】
より詳しくは、回転翼151は、供給部12に含まれる供給管124の上方であって、回転部15の回転数を検知する電動機回転センサ16の下方に、主軸153と一体に設置される。上記のように、供給部12が備える供給管124によって、回転翼151の下側に冷媒又は潤滑剤が供給されるが、主軸153の回転に伴い回転翼151が回転することで、上方から下方に向かう冷媒又は潤滑剤の流れが形成される。これにより、回転翼151によって下方に指向される冷媒又は潤滑剤は、上方の軸受141を通って電動機ステータ17を経由し、下方の軸受142に至る。
【0022】
検出部13は、軸受14の振動数、軸受14の温度及び軸受14から発する音の音量のうち少なくとも1つを検知する。この検知結果を基に、軸受14の異常を検出し、上記の検知結果と、異常を検出した場合は異常検出結果とを制御部11に送信する。
【0023】
制御部11は、検出部13から受信した検知結果及び異常検出結果に基づき、供給部12による冷媒又は潤滑剤の供給と主軸153(回転部15)の回転数を制御する。
【0024】
なお、上記の冷媒又は潤滑剤としては、例えば油、水、グリース及び圧縮気体のうち少なくとも1つであって良い。
【0025】
図2は、制御部11による、冷媒又は潤滑剤の供給及び主軸153(回転部15)の回転数の制御の概念図を示す図である。
ここで、軸受(主軸軸受)14の保護量は、冷媒又は潤滑剤の流量に比例する。また、冷媒又は潤滑剤の最大流量は、圧縮率を一定とした場合、回転翼151の回転数、すなわち主軸153(回転部15)の回転数に比例する。すなわち軸受14の保護量は、モータ回転数に比例する。これを示すのが、
図2内の点線で描かれたグラフである。
一方で、軸受14へのダメージ量は、軸受転動体への圧力(遠心力)に比例するため、主軸153(回転部15)の回転数の二乗に比例する。これを示すのが、
図2内の実線で描かれたグラフである。
【0026】
具体的に述べると、軸受14の軸受シールを冷媒又は潤滑剤が貫通するような高圧で、軸受14に冷媒又は潤滑剤を供給する際、主軸153及び回転翼151の回転数が高いほど、冷媒又は潤滑剤の高い圧力に対抗することができるため、軸受14の内部に多量の冷媒又は潤滑剤を供給でき、軸受14の延命効果は高まる。一方で、主軸153の回転数が高いほど、軸受14は壊れやすくなる。そこで、軸受14の異常量(軸受14の振動数、温度、軸受から発する音の音量の異常量)の上昇が最小となるように、異常量を制御部11にフィードバックさせ、冷媒又は潤滑剤の供給量と主軸153の回転数とを制御する。
【0027】
図2において、回転数=aで軸受14の保護量とダメージ量とが釣り合うため、検出部13によって検出される軸受14の異常量は、回転数=aよりも右、すなわちaよりも高い回転数では上昇する。逆に、回転数=aよりも左、すなわちaよりも少ない回転数では、軸受14の保護量がダメージ量を上回るため、異常量は下降する。とりわけ、回転数=a/2の場合は、軸受14の保護量から軸受14のダメージ量を引いた差分Dが最大となるため、軸受14の異常量の増加を最大限防止することが可能となる。
【0028】
そこで、本実施形態においては、主軸153をできるだけ長く回転させるため、上記の異常量が所定の閾値を超えて、又は、所定の変化率を超えて変化した場合、軸受14に冷媒又は潤滑剤を供給する。最大流量供給しても異常量が増加する場合は、制御部11が、主軸153(回転部15)の回転を、検出部13により検知される異常量が上昇しなくなる回転数まで落とす。異常量の上昇の停止を確認後、制御部11が、異常量上昇停止時の回転数の半分の回転数まで主軸153(回転部15)の回転数を落とすことにより、異常量の上昇を最大限防止し、主軸153を可能な限り最も長く使用することができる。なお、最大流量の冷媒又は潤滑剤を供給することのみにより、異常量が上昇しなくなったものの、しばらくしてから異常量が再び上昇に転じた場合は、異常量の上昇が一旦停止した時点の回転数の半分の回転数まで、主軸153(回転部15)の回転数を落とすようにしても良い。
【0029】
上述のとおり、回転翼151には、冷媒又は潤滑剤の最大流量がその回転数に比例するという特性があると同時に、軸受14へのダメージ量が主軸153の回転数の二乗に比例することを勘案して、主軸153及び軸受14を最も長持ちさせるために、制御部11は上記の冷媒又は潤滑剤の供給量及び回転数の制御を実行する。
【0030】
図3は、本実施形態に係る主軸軸受保護装置1における処理を示すフローチャートである。
【0031】
先ず、ステップS1において、検出部13が軸受14の異常を検出する。
【0032】
次に、ステップS2において、供給部12が軸受14に冷媒又は潤滑剤を供給する。
【0033】
次に、ステップS3において、検出部13が、軸受14の異常量(軸受14の振動数、温度、軸受から発する音の音量の異常量)が上昇しているか否かを判定する。この判定がYESの場合、処理はステップS4に移る。この判定がNOの場合、処理はステップS2に戻り、供給部12による冷媒又は潤滑剤の供給を継続する。
【0034】
次に、ステップS4において、制御部11が圧縮部123における圧縮率を高める。
【0035】
次に、ステップS5において、現時点での圧縮率が最高圧縮率か否かを制御部11が判定する。この判定がYESの場合、処理はステップS6に移る。この判定がNOの場合、処理はステップS2に戻り、供給部12による冷媒又は潤滑剤の供給を継続する。
【0036】
次に、ステップS6において、制御部11が主軸153の回転数を落とす。
【0037】
次に、ステップS7において、主軸153の回転数が0になったか否かについて、制御部11が判定する。この判定がYESの場合は、本実施形態に係る主軸軸受保護装置1の処理を終了する。この判定がNOの場合、処理はステップS8に移る。
【0038】
次に、ステップS8において、検出部13が、軸受14の異常量が上昇しているか否かを判定する。この判定がYESの場合、処理はステップS6に戻り、制御部11が主軸153の回転数を更に落とす。この判定がNOの場合、すなわち異常量の上昇が停止した場合、処理はステップS9に移る。
【0039】
次に、ステップS9において、制御部11が主軸153の回転数を、異常量上昇停止時点での主軸153の回転数の1/2の回転数に落とす。
【0040】
その後、処理はステップS2に戻り、供給部12による冷媒又は潤滑剤の供給を継続する。
【0041】
以上のように、本実施形態の主軸軸受保護装置1においては、検出部13で検出される軸受14での異常量に基づいて、制御部11が冷媒又は潤滑剤の供給量及び主軸153の回転数を制御する。また上記のように、冷媒又は潤滑剤は、複数の軸受14のうち、供給部の上方であって、回転部の回転数を検知する電動機回転センサ等の電気部品の下方に設けられた回転翼151を用いて軸受14に供給される。従って、通常の非接触シール付き軸受に特殊な構造を付与することなく、該軸受14の焼き付けを防止しながら、該軸受14を延命させることが可能となる。これにより、主軸153にダメージが発生した場合の修理を、加工ラインのメンテナンス期間中に実施できる可能性が高まる。また、特殊な構造を持つ軸受14を使用する必要性がないので、部品を共通化できコストアップを最小限にできる。
更には、回転翼151が回転することで、上方から下方へ冷媒や潤滑剤の流れが形成され、冷媒や潤滑剤は電気部品に付着することがない。これにより、軸受14内部に冷媒や潤滑剤を効率よく供給することができる。
【0042】
[第2実施形態]
図4は、本発明の第2実施形態に係る主軸軸受保護装置2の構成を示す図である。
【0043】
第2実施形態に係る主軸軸受保護装置2の構成要素のうち、制御部21、供給部22、検出部23、軸受24の各々は、第1実施形態に係る主軸軸受保護装置1の構成要素のうち、制御部11、供給部12、検出部13、軸受14の各々と同様の構成を有する。
【0044】
第1実施形態に係る主軸軸受保護装置1は、電動機3の主軸153を回転可能に支持する軸受14の異常を検知するものであるが、第2実施形態に係る主軸軸受保護装置2は、主軸電動機26に連結された工作機械4の、主軸253(主軸ロータ252)の回転に用いる軸受24の異常を検知するものである。
【0045】
なお、軸受24としては、上方に配置された軸受241と、中段に配置された軸受242と、下方に配置された軸受243を含んで構成され、これら軸受の異常が検知される。また、回転翼251の配置は、第1実施形態と同様に上方に配置された軸受241の上方に配置される。
【0046】
具体的には、第2実施形態に係る主軸軸受保護装置2は、第1実施形態に係る主軸軸受保護装置1に比較して、主として、回転部25が主軸ロータ252及び結合ギア254を備える点と、主軸頭256に回転部25及び検出部23が備わる点で相違する。
具体的には、
図4に示すように回転部25は、工作機械4のハウジング20内の主軸頭256に回転可能に支持されている。回転部25においては、主軸253に対して結合ギア254が一体化されており、これら各々の回転軸は一致する。更に、主軸電動機26側の結合ギア27と、工作機械4側の回転部25に含まれる結合ギア254とが互いに係合することにより、主軸電動機26のロータの回転は、回転部25の回転に伝達される。
【0047】
検出部23は、主軸電動機26ではなく、工作機械4側の主軸253を回転させるための軸受24の異常を検出する。
【0048】
軸受24の異常を検出した後の動作フロー自体は、
図3に記載の主軸軸受保護装置1の動作フローと同一である。
【0049】
第2実施形態においても第1実施形態と同様に、通常の非接触シール付き軸受に特殊な構造を付与することなく、該軸受24の焼き付けを防止しながら、該軸受24を延命させることが可能となる。これにより、主軸253にダメージが発生した場合の修理を、加工ラインのメンテナンス期間中に実施できる可能性が高まる。また、特殊な構造を持つ軸受を使用する必要性がないので、部品を共通化できコストアップを最小限にできる。
また、回転翼251が回転することで、上方から下方へ冷媒の流れが形成され、冷媒は電気部品に付着することがない。これにより、軸受24の内部に冷媒や潤滑剤を効率よく供給することができる。
また、電動機に連結して用いられる工作機械4の主軸253のダメージを最大限防止することが可能となる。
【0050】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限るものではない。また、これらの実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、これらの実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0051】
本発明の第1及び第2の実施形態において、検出部は、軸受の振動数、軸受の温度及び軸受から生じる音の音量のいずれか1つ又はその組み合わせの検知を基に、軸受の異常を検出するとしたが、軸受の異常の検出方法はこれに限られない。例えば、軸受から生じる音の周波数の検知を基に、軸受の異常を検出しても良い。
【0052】
主軸軸受保護装置1又は2による制御方法は、ソフトウェアにより実現される。ソフトウェアによって実現される場合には、このソフトウェアを構成するプログラムが、コンピュータ(主軸軸受保護装置1又は2)にインストールされる。また、これらのプログラムは、リムーバブルメディアに記録されてユーザに配布されてもよいし、ネットワークを介してユーザのコンピュータにダウンロードされることにより配布されてもよい。更に、これらのプログラムは、ダウンロードされることなくネットワークを介したWebサービスとしてユーザのコンピュータ(主軸軸受保護装置1又は2)に提供されてもよい。