【実施例】
【0119】
(6. 実施例)
(実施例6.1 実施例1、dB/dBマウスにおける創傷治癒でのポリ-N-アセチルグルコサミン
(pGlcNAc)パッチの効果)
(6.1.1 材料及び方法)
pGlcNAcパッチの調製。pGlcNAcパッチSyvekPatch(商標)(Marine Polymer Technolog
ies社, Danvers, MA)は、先に記載したように生産される微細藻類由来のナノ繊維からな
る(Vournakisらの文献、米国特許第5,623,064号及び第5,624,679号を参照されたく、そ
のそれぞれの内容は引用によりその全てが本明細書に組み込まれる)。簡潔には、微細藻
類は、規定の増殖培地を使用するユニークなバイオリアクタ条件で培養された。高密度培
養からの微細藻類の回収後、ナノ繊維を段階的分離及び精製プロセスを介して単離し、注
射用蒸留水(wfi)に懸濁される純粋なナノ繊維のバッチを生じた。繊維は、濃縮及びオ
ーブン乾燥によってパッチに配合され、包装され、ガンマ照射により殺菌された。ナノ繊
維は、平均20〜50nm×1〜2nm×〜100μmの寸法である。繊維のバッチは個々に、化学的及
び物理的な試験パラメータを使用して制御される品質であり、各バッチは発売前に厳しい
純度基準を満たした。最終的なバッチは、タンパク質、金属イオン及び他の成分を実質的
に含まないことが要求された。
【0120】
創傷モデル及び研究設計。ホモ接合体、遺伝的に糖尿病の8〜12週齢、Lep/r-dB/dB雄マ
ウス(株C57BL/KsJ-Lepr
db)を、国際実験動物ケアの調査及び認定(Assessment and Acc
reditation of Laboratory Animal Care International)(AAALAC)の適格施設において承
認された動物プロトコル下で使用した。手術日前に、毛を留め、脱毛した(Nair(登録商
標)、Church & Dwight社, Princeton, NJ)。手術日に、動物を秤量し、60mg/kgのネン
ブタール(ペントバルビタール)で麻酔した。皮膚及び皮筋の背面の1.0cm
2の領域を切除
し、創傷を撮影した。創傷は、pGlcNAcパッチで1時間(1時間の群、n=15)、24時間(24
時間の群、n=15)覆ったか、又は無処置のまま(NT群、n=15)にした。全ての創傷は、半
閉塞性ポリウレタン被覆材(Tegaderm(登録商標)、3M, St. Paul, MN)で覆った10及び
21日目に、群当たり7〜8匹の動物を安楽死させ、創傷を撮影し、切除し、10%の中性緩衝
ホルマリン溶液において固定した。群当たりN=15は1から10日目に観察され、及び群当た
りn=7〜8は14日目から21日目に観察した。
【0121】
創傷閉鎖分析。3人の盲検独立観察者は、週2回撮られたデジタル写真を、平面図法を使
用して0日目のはじめの写真と比較した。創傷閉鎖は、元の創傷域のパーセンテージとし
ての収縮(C)、再上皮化(E)及び開放創(O)を測定されることによって定量化した。
収縮し、再上皮化し、及び開いた創傷域の合計は、元の創傷サイズの100%に等しい(
図1
)(Yannas I.の文献 「成体における組織及び器官の再生(Tissue and Organ Regenerat
ion in adults.)」New York: Springer; 2001を参照されたい)。
【0122】
中心創傷横断面をパラフィン包埋し、切片化し、日常的なヘマトキシリン及びエオシン
(H&E)プロトコルに従って染色した。デジタル平面幾何学(Image J, NIH, Bethesda, M
D)で肉芽組織域及び厚みを分析するために、各創傷のパノラマ断面デジタル画像をAdobe
Photoshop CSソフトウェア(アドビシステムズ社、San Jose, CA)を使用して準備した
。
【0123】
免疫組織化学。パラフィン包埋切片を再水和し、増殖Ki-67の免疫組織化学的標識のた
めの抗原回復を、10mMのクエン酸ナトリウム(pH 6.0)中で10分間マイクロ波処理するこ
とにより達成した。凍結切片をアセトンで固定し、血管新生血小板内皮細胞接着因子1(P
ECAM-1)の免疫組織化学的標識について着色した。Ki-67(LabVision, Freemont, Ca)一
次抗体を室温で1時間インキュベートし、PECAM-1(Pharmingen, San Jose, CA)一次抗体
を終夜4℃でインキュベートした。PECAM-1シグナルは、チラミド増幅システム(Perkin E
lmer, Boston, MA)を使用して強化した。
【0124】
血管密度の定量化。創傷断面のデジタル色画像を定量化前に前処理し、背景と比較して
のPECAM-1陽性領域の均一なコントラストを保障した。ポジティブ染色のマスクは、ポジ
ティブ染色域において現れる5つの異なるクロモゲン色相をサンプリングすることにより
プログラムCorel PhotoPaint v.10 (Corel Corporation, Ottawa, Ontario, Canada)の色
マスク機能を使用して作成した。マスクした血管域は真黒に変わり、背景は真白となった
。黒及び白の発現は、分割機能を適用することにより、IPLabソフトウェア(BD Bioscien
ces Bioimaging、Rockville, MD)の領域定量化に使用した。組織領域は、元のH&E画像を
加工画像に投影することにより規定した。全画像に渡って定量化した血管密度は、血管域
の総肉芽組織域の比として表現した。4〜7の顕微鏡視野(20×)を使用して、各創傷及び
治療手順についての血管密度を評価した。
【0125】
細胞増殖の定量化。創傷は、血管密度定量化の方法と類似の様式でKi-67染色した断面
の画像分析を使用して、細胞増殖について分析した。Ki-67染色された創傷断面の高出力
デジタル画像を使用して、核の総数に相対的なKi-67陽性細胞の数を測定した。増殖の程
度は、20×倍率で4〜6視野を使用して全ての創傷節に渡って定量化し、増殖している核(
Ki-67陽性)の全核に対する比として表現した。
【0126】
統計解析。値は、テキスト及び図の平均±標準偏差として表現した。一元配置分散分析
法及び特別LSD試験を使用して、治療モード間の差異の有意性を決定した。多変量解析は
、Statistica v7.0(StatSoft社, Tulsa, OK)を使用して実施した。
【0127】
(6.1.2 結果)
統計解析。値は、テキスト及び図の平均±標準偏差として表現した。一元配置分散分析
法及び特別LSD試験を使用して、治療モード間の差異の有意性を決定した。多変量解析は
、Statistica v7.0(StatSoft社, Tulsa, OK)を使用して実施した。
【0128】
pGlcNAcパッチは、創傷治癒速度を変えた。pGlcNAcでの治療は、非治療と比較して時間
に渡ってより速い創傷閉鎖を誘導した。7、14及び17日目のNT群と比較して、1時間の群は
、擦傷表面(創傷の開いた部分)のより速い(p<0.01)減少を示した(
図2A)。1時間の
群はまた、平均16.6日で90%の閉鎖に達し、これはNT群(25.6日)より9日早かった(p<0
.01)(
図2B)。24時間の群は、18.2日で90%の閉鎖に達した(
図2B)。
【0129】
4、7、14及び2 1日目のNT群と比較して、1時間の群は、再上皮化の増加(p<0.01)を
示した(
図2C、2D)。4及び21日目でのNT群と比較して、24時間の群は、再上皮化の増加
(p<0.01)を示した(
図2C)。
【0130】
4及び17日目のNT群と比較して、24時間の群は収縮の減少(p<0.01)を示し;かつ、7
日目の1時間の群と比較して収縮を減少させた(p<0.01)(
図2E)。14日目のNT群と比較
して、1時間の群は、収縮の減少(p<0.01)を示した(
図2E)。
【0131】
pGlcNAcパッチは、血管密度及び増殖を増加させた。dB/dBマウスにおける1cm
2、全厚、
無処置の創傷は、術後8〜12日に50%閉鎖に達した(Chanらの文献、「遺伝的糖尿病マウス
での創傷閉鎖における組換え血小板由来増殖因子(Regranex)の効果(Effect of recomb
inant platelet-derived growth factor (Regranex) on wound closure in genetically
diabetic mice.)」J Burn Care Res 2006;27(2):202-5)。治療後の創傷治癒についての
病期分類の中間時点として10日目が選ばれた。
【0132】
増殖細胞がKi-67について染色された(
図3A)。PECAM-1(CD31)を選択して内皮細胞を
染色し、肉芽組織の血管密度を定量化した(
図3B)。NT及び24時間の群と比較して、1時
間の群は、血管密度及び細胞増殖に顕著な増加を示した(
図3A、3B)。PECAM-1及びKi-67
の結果を共にプロットし、異なる治療間での血管形成及び増殖の視覚的相関を与えた(図
3C)。
【0133】
肉芽組織域及び厚みは、4×倍率(群当たりn=7〜8)で顕微写真にて測定し、以下に示
すように、傷害及び治療様式に応答して新しく形成された組織による被覆レベルを評価し
た:
【表1】
【0134】
有意差は、NT、24時間及び1時間の群の間で、肉芽組織の量及び分布において観察され
なかった。
【0135】
pGlcNAcパッチの適用時間は異物反応を調整した。不溶性繊維に接した創傷の延長曝露
の効果を研究するために、パッチは、はじめに全追跡調査期間(3週)の間そのままにし
た。パッチの不溶性長繊維の長期にわたる存在は異物反応の形成を誘導し、肉芽組織形成
及び巨大多核細胞の増加により特徴づけられた。1又は24時間のパッチの適用は、いかな
る異物反応も誘導しなかった。
【0136】
(6.2 実施例2 dB/dBマウスの創傷治癒における短いポリ-N-アセチルグルコサミン(sNA
G)膜の効果)
(6.2.1 材料及び方法)
sNAG膜の調製。sNAG膜は、上記第6.1節に記載したように生産した微細藻類由来のナノ
繊維からなり、該繊維は照射によって短くなっている。簡潔には、出発物質は、1mg/mLの
濃度で、60gのpGlcNAcスラリーを含んだ。pGlcNAcスラリーの濃度は、5mLを0.2μmのフィ
ルターに濾過することにより確認した。15gのpGlcNAcを含んでいる15LのpGlcNAcスラリー
を、ウエットケークの形成まで濾過した。ウエイクケーク(wake cake)をそれからガンマ
線照射適合性容器であるホイルパウチに移し、200kGyガンマ線照射に供した。他の照射条
件は、
図4Aにおいて反映されるように、pGlcNAc組成物におけるそれらの効果について試
験した。
【0137】
創傷モデル及び研究設計。先の第6.1節に記載されている遺伝的マウスモデルを使用し
て、創傷治癒におけるsNAG膜の効果を試験した。
【0138】
創傷閉鎖分析。創傷閉鎖分析は、実質的に第6.1節に記載するように実施した。収縮し
、再上皮化し、及び開いた創傷域の合計は、元の創傷サイズの100%に等しい(
図5)(Yan
nas I.の文献「成体における組織及び器官の再生(Tissue and Organ Regeneration in a
dults.)」New York: Springer; 2001を参照されたい)。
【0139】
免疫組織化学。免疫化学は、実質的に第6.1節で先に記載した通りに実施した。
【0140】
血管密度定量化。血管密度定量化は、実質的に第6.1節で先に記載したようにに実行し
た。
【0141】
細胞増殖の定量化。細胞増殖の定量化は、実質的に第6.1節で先に記載したようにに実
行した。
【0142】
コラーゲン染色。創傷は、日常的方法を使用してコラーゲン成分について染色した。
【0143】
統計解析。創傷閉鎖の統計解析は、実質的に第6.1節で先に記載したように実行した。
【0144】
(6.2.2 結果)
統計解析。創傷閉鎖の統計解析は、実質的に第6.1節で先に記載したように実行した。
【0145】
pGlcNAc膜の照射の効果。照射はpGlcNAcの分子量を減らすが、照射は繊維のミクロ構造
を撹乱しなかった。pGlcNAcは、異なる状態の下で:乾燥、凍結乾燥された材料として;
乾燥した膜として;濃縮スラリー(ボリュームに対し30:70の重量)として;及び、薄い
スラリー(5mg/ml)として;照射を受けた。適切な分子量減少(500,000〜1,000,000ダル
トンの分子量に)は、乾燥ポリマーについて1,000kgy、及びウエットポリマーについて20
0kgyの照射線量で成し遂げられた(
図4A)。
【0146】
繊維の化学的及び物理的な構造は、赤外線の(IR)スペクトル(
図4B)、元素分析、及
び走査型電子顕微鏡(SEM)分析により検証されるように照射の全体にわたって維持され
た。照射を受けた繊維の顕鏡観察は、粒子長の減少を示した(
図4C及び4D)。大部分の繊
維は、約15μm未満の長さであって、平均長約4umである。
【0147】
sNAG膜は、創傷治癒速度を変えた。肉眼写真は、sNAG膜処置されたマウスの創傷が、無
処置のコントロールマウスの創傷より速やかに治癒したことを示す(
図6〜10を参照)。s
NAGでの治療は、無処置と比較して時間に渡ってより速い創傷閉鎖を誘導した。sNAG膜処
置マウスは、4、7、10、14、17、21及び25日目において、無処置のコントロールマウスと
比較して、擦傷表面(創傷の開いた部分)のより速やかな(p<0.05)減少を示した(
図1
1)。
【0148】
sNAG膜処置マウスは、わずか8日平均で50%閉鎖にも達し、これは無処置のコントロール
マウス(12日を越える)より4日早い(p<0.01)(
図12)。
【0149】
sNAG膜処置マウスは、平均15日未満で90%閉鎖にも達し、これは無処置のコントロール
マウス(およそ23日)より8日早い(p<0.01)(
図13)。
【0150】
28日目に、sNAG膜処置マウスにおいて全て(100%)の創傷は閉鎖したが、無処置のコン
トロールマウスにおいてにおいては85%の創傷だけが閉鎖した。
【0151】
sNAG膜処置マウスは、14及び17日目における無処置のコントロールマウスと比較して、
再上皮化の増加(p<0.05)を示した(
図14)。
【0152】
sNAG膜処置マウスは、4、7及び10日目における無処置のコントロールマウスと比較して
、収縮の減少(p<0.01)を示した(
図15)。
【0153】
sNAG膜は、血管密度及び増殖を増加させた。dB/dBマウスにおける1cm
2、全厚、無処置
の創傷は、術後8〜12日に50%閉鎖に達した(Chanらの文献、「遺伝的糖尿病マウスでの創
傷閉鎖における組換え血小板由来増殖因子(Regranex)の効果(Effect of recombinant
platelet-derived growth factor (Regranex) on wound closure in genetically diabet
ic mice.)」J Burn Care Res 2006;27(2):202-5)。治療後の創傷治癒についての病期分
類の中間時点として10日目が選ばれた。
【0154】
無処置のコントロールマウス対sNAG膜処置マウスにおける創傷端の組織学を、それぞれ
、
図16及び17に示す。増殖細胞をKi-67について染色した(
図18)。PECAM-1(CD31)を選
択し、内皮細胞を染色し、肉芽組織の血管密度を定量化した(
図19)。sNAG膜処置マウス
は、無処置のコントロールマウスと比較して、血管密度及び細胞増殖の顕著な増加を示し
た(
図16、17)。
【0155】
図20及び21に示すように、再上皮化及び肉芽組織域を、4×倍率(群当たりn=7〜8)に
て顕微写真で測定し、傷害及び治療様式に応答して新しく形成された組織による被覆のレ
ベルを評価した。
【0156】
sNAG膜の適用時間は異物反応を調整した。sNAG繊維に接した創傷の延長曝露の効果を研
究するために、全ての実験の間(4週)、sNAG膜を適用したままにした。
図22は、10日で
の異物反応の欠如を示す。さらに、異物反応は、全てのsNAG膜処置マウスでの研究全体に
わたって観察されなかった。
【0157】
sNAG膜はコラーゲン形成/配置を調整した。コラーゲン染色をsNAG治療マウス及び無処
置のマウスの両方において観察したが、コラーゲン束は治療を受けたマウスにおいてより
高密度かつ均一であり、これは、治療を受けたマウスにおける創傷繊維芽細胞の刺激増加
及びより高度な創傷治癒の進行を示唆した(
図22)。
【0158】
(6.3 実施例3 内皮細胞(EC)の動態及び血管新生におけるポリN-アセチルグルコサミ
ン(pGlcNAc)及びsNAGの効果)
(6.3.1 材料及び方法)
組織培養、成長因子及びトランスフェクション。プールされた複数のドナーのヒト臍帯
静脈内皮細胞(EC)(Cambrex)を、Cambrex手順により記載されるEC生育培地2SingleQuo
tsを補充した内皮基礎培地2(Cambrex)にて、37℃、5%CO
2で維持した。血清飢餓は、0.1
%のウシ胎仔血清(Gibco BRL)を補充したRPMI-1640中24時間80〜90%集密度の後、VEGF 1
65(20ng/ml、R&D Systems)での刺激、又はテキストに記載された量で無菌水中の高度に
精製されたpGlcNAcナノ繊維若しくはsNAGナノ繊維(Marine Polymer Technologies社, Dan
vers, Mass., USAにより提供される)での刺激により実施した。VEGFR阻害剤SU5416(10μ
m; R&D Systems)を使用する阻害については、細胞をVEGF、pGlcNAc又はsNAGによる刺激
の前に15分間前処理した。
【0159】
ヒトの臍帯静脈ECは、製造業者により記載されている手順においてAmaxa nucleofector
システムを使用してトランスフェクションし、80%までトランスフェクション効率を得た
。すべてのトランスフェクションは、GFP発現ベクター(pFP-C1; Clontech)又はGFP指示
RNA干渉(RNAi;Amaxa)を使用する緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現によりモニターした
。特にEts1に対して指示されたプラスミドベースRNAiはPandomics社から購入し、ドミナ
ントネガティブEts (dn-Ets)構築物は、pcDNA3発現ベクターにクローン化されたEts2のDN
A結合ドメインを含む。
【0160】
抗体及びウェスタンブロット解析。ウエスタンブロット解析に使用する抗体は、以下の
通りである:抗PI3K p85サブユニット(Upstate Biotechnology)、抗リン酸化型特異的V
EGFR2(Cell Signaling)、VEGFR2(Santa Cruz)、抗リン酸化型特異的p42/p44(Promeg
a)、及び抗リン酸化型特異的VEGFR2(BD Biosciences社)、抗p42/p44 Erk1/2、抗VEGFR
2及び抗Ets1(Santa Cruz)。
【0161】
処理した細胞をリン酸塩緩衝食塩水(PBS)で1回洗浄し、EDTA不含完全プロテアーゼ阻
害剤(Roche)及び200μM オルトバナジウム酸ナトリウムを補充した1×RIPA溶解緩衝液
(50mM トリス-HCl、pH 7.5、1% トリトンX-100、150mM NaCl、0.1% SDS、1% デオキシコ
ール酸ナトリウム、40mM NaF)において溶解した。タンパク質濃度をビシンコニン酸タン
パク質アッセイ(Pierce)で測定し、SDS-PAGEで分離し、イモビロン-Pポリフッ化ビニリ
デン膜(Millipore)に転写した。ウエスタン分析は、標準的方法に従った。タンパク質
は、Luminol試薬(Santa Cruz)を使用して視覚化した。
【0162】
細胞運動性及び増殖アッセイ。「掻爬」創傷閉鎖アッセイのために、ECをプラスチック
組織培養ディッシュ上でコンフルエントまで培養し、ピペット先端部材を使用して1回の
「創傷」を引き起こした。細胞をそれから、VEGF(20ng/ml)、テキストにおいて示され
る量のpGlcNAc若しくはsNAGで補充した、又は補充しない血清飢餓培地で16〜18時間イン
キュベートした。細胞をPBSで1回洗浄し、メタノールで10分間固定し、0.1% クリスタル
バイオレットで10分間染色して、完全に水でリンスした。創傷アッセイをデジタル画像治
療を備えているオリンピック光学顕微鏡を使用して10×倍で撮影し、移動距離を測定した
。
【0163】
修飾トランスウェルアッセイのために、トランスフェクションしたEC又はトランスフェ
クションしていないECを、20μg/μlのフィブロネクチン又はビトロネクチンでプレコー
トした8μmの孔サイズの浸潤チャンバー(Sigma)にまき、チャンバーあたり500μlの血清
飢餓培地中5×10
4細胞であり、500μlの飢餓培地を該ウェルに添加した。VEGF(20ng/ml
)、pGlcNAc又はsNAGを上部チャンバに添加した。細胞は、5%のCO
2存在下、37℃で12時間
インキュベートした。移動しなかった細胞は、各膜の上側を綿布でふくことにより除去し
た。移動した細胞をメタノールで10分間固定し、PBS中0.1μg/mlのエチジウムブロマイド
で染色した。移動した細胞は、ライカの蛍光顕微鏡を使用して計数した。各アッセイは最
低独立した3回の3回重複で実施し、トランスウェル当たり少なくとも6視野を計数した。
【0164】
インビトロ血管新生アッセイのために、ECを、成長因子を減らしたマトリゲルマトリク
ス(BD Laboratory)上に、血清飢餓培地中96ウェルプレートのウェルあたり1.6×10
4細
胞/50μlで、VEGF(20ng/ml)、pGlcNAc若しくはsNAGの存在下又は不在下においてまいた
。コード形成は、播種後8時間までで評価した。VEGF-、pGlcNAc-及びsNAG-治療細胞がコ
ードを形成し始めるときに細胞を固定して撮影する一方で、コントロールは単一の細胞層
を保持した。アッセイは2回反復で実行し、独立して2回繰り返した。
【0165】
細胞増殖/生存率評価のために、2つの異なるアッセイ法を使用した:血球計算板を使用
する直接的な細胞計数によるトリパンブルー排除、及び製造業者(Promega)により記載
されている手順でのMTT[3-(4,5-ジメチルチアゾール-2イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリ
ウムブロミド]アッセイ。
【0166】
抗体遮断。インテグリンにより媒介される細胞運動性及びシグナリングを遮断するため
に、pGlcNAc又はsNAGによる刺激前に、ECを、Chemicon Internationalから購入したαVβ
3若しくはα
5β
1(CD49e)に対して指示された遮断抗体、又はα5サブユニットに対して
指示された遮断抗体(Santa Cruz)を用い、実験的に決定された濃度(1μg/ml)で15分
間プレインキュベートした。正常ウサギ血清を陰性対照として使用した。αVβ
3抗体を使
用する細胞移動の阻害のために、トランスウェルをフィブロネクチン(20μg/μl)でよ
りもむしろビトロネクチン(Sigma)でプレコートした。VEGFRの活性化を防ぐために、EC
を、阻害剤であるSU5416(SU)で10μg/mlの濃度にて15分間プレインキュベートした。
【0167】
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応。半定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)のために
、cDNAを総RNA(2〜5μg)から合成し、製造業者により説明されている手順にてRNA-STAT
60(Tel-Test社)を使用して分離し、製造業者の指示に従ってオリゴ(dT)を使用するG
ibco BRLから購入したスーパースクリプトファーストストランド合成キットを用いた。PC
R反応は、等量のcDNA及び1.25μMの適切なプライマー対(Proligo社)を含んだ。プライ
マー配列は以下の通りである:
【化1】
サイクル条件は以下の通りだった:20〜35サイクルの94℃で5分間;94℃で1分間、50〜65
℃(プライマーTmに基づく)で1分間、72℃で1分間、及び45s+ 2s/サイクル;72℃で7分
間、並びに4℃への冷却。サイクル数は、使用する各プライマー対のアッセイの線形範囲
の中で実験的に決定された。全ての半定量的RTPCRは、内部標準としてS26プライマーをタ
ンデムで実施した。生成物を1〜1.5%のアガロースゲル上で流し(生成物サイズに基づく
)、バイオラドの分子イメージングシステムで視覚化した。
【0168】
リアルタイムPCRは、Mx3000PリアルタイムPCRシステムと組み合わせてBrilliant CYBR
green定量的PCR(QPCR)キットを使用して実行し、その両方ともストラタジーンから購入
した。リアルタイムは、少なくとも2つの独立した時間で少なくとも3回反復で実行した。
リボソームタンパク質サブユニットS26を検出する内部標準プライマーを使用した。
【0169】
(6.3.2 結果)
(6.3.2.1 pGlcNAc)
pGlcNAcは、血清飢餓により誘導される細胞死からECを保護した。pGlcNAc繊維がECに直
接効果を有したかどうか試験するために、血清飢餓されたEC細胞を、VEGFで、又は異なる
濃度のpGlcNAc繊維で処理した。
図24の血清飢餓後の48時間及び72時間に示すように、播
種された細胞の総数(コントロール)と比較して、48時間又は72時間後に細胞数において
約2倍の減少があった。48時間において、細胞数のこの減少は、VEGFの添加によって、又
は50若しくは100μg/mlのpGlcNAc繊維の添加によって救われた。72時間において、細胞数
の減少は、VEGFの添加によって救われ、又は100μg/mlのpGlcNAc繊維の添加によって大幅
に救われた。これらの結果は、VEGFの様に、pGlcNAc繊維治療が、血清欠乏により誘導さ
れる細胞死を防止したことを示した。
【0170】
pGlcNAcは代謝速度に影響しなかった。
図25に示すように、pGlcNAcは、MTTアッセイで
測定されるより高い代謝速度生じず、これはこの重合物質が、細胞増殖において著しい増
加を引き起こさないが、血清欠乏による細胞死から救っていたことを示した。
【0171】
pGlcNAcは細胞移動を増加させた。ECのpGlcNAc繊維治療が細胞運動性の変化を生じるか
どうか試験するために、「掻爬」創傷閉鎖アッセイ法を使用した。創傷領域への細胞の移
動は、50、100及び250μg/mlでpGlcNAcが存在する場合に著しく増加した。
図26に示すよ
うに、創傷閉鎖は、VEGF治療について観察されたものと類似していた。これらの結果は、
pGlcNAc治療がEC運動の増加を生じることを示した。
【0172】
pGlcNAcは、フィブロネクチンの方への遊走の増加を引き起こした。この細胞運動性の
増加がさらなる細胞侵入と相関したかどうか決定するために、EC運動性を、膜が細胞外基
質タンパク質であるフィブロネクチンでプレコートされたトランスウェルアッセイを使用
して測定した。
図27に示すように、pGlcNAc治療は、VEGFの添加により強化された(4倍)
フィブロネクチンの方への遊走において3倍の増加を生じた。
【0173】
pGlcNAcはコード形成を増加させた。細胞移動の刺激は、血管新生増加の必要条件であ
る。インビトロで、pGlcNAcが血管新生刺激性であったかどうか試験するために、マトリ
ゲルアッセイを実行した。ECを血清飢餓の状態の下で成長因子を減らしたマトリゲルにま
き、6時間以内にVEGF又はpGlcNAc繊維の存在下又は不在下でコード形成について評価した
。
図28に示すように、VEGF及びpGlcNAc処理の両方は、マトリゲル上でコード形成の増加
を生じた。これらの結果は、pGlcNAcが血管新生刺激性であることを示す。
【0174】
pGlcNAcは、細胞運動性に関与するエフェクタを誘導した。総RNAを血清飢餓されたEC(
SS)から分離し;SS を、VEGF、pGlcNAc、スフィンゴシイング(Sphingosiing)1-リン酸(
S1P)、又はZnで処理し;SSをVEGF又はS1Pで前処理した後、pGlcNAc処理し;SSをVEGF又
はpGlcNAcで前処理した後、VEGFR阻害剤であるSU5416(Su)で処理した。
図29Aに示すよ
うに、pGlcNAc処理は、EC運動の重要な制御因子であるEts1転写因子、並びにメタロチオ
ネイン2A(MT)、Akt3及びEdg3の発現を刺激した。
図29Bに示すように、リアルタイムPCR
は、Ets1がpGlcNAc処理によってほぼ2倍誘導されたことを示した。メッセージにおけるこ
のEts1増加は、
図29Cにおけるウエスタンブロット解析に示すより高いタンパク質発現を
伴った。
図29Aは、pGlcNAcにより刺激されるMT発現がVEGFR依存的であることも示した。
【0175】
pGlcNAcによるリン酸化型MAPK の誘導はVEGFR2依存的であった。pGlcNAc治療が、先に
示したVEGFRシグナリングの下流の経路の活性化を生じるかどうか試験するために、ECをV
EGF又はpGlcNAcで処理した。
図30Aに示すように、pGlcNAc処理は、MAPKのリン酸化の著し
い増加を生じた。この増加がVEGFR2依存的であったかどうか試験するために、ECをVEGFR
阻害剤で前処理した後、VEGF又はpGlcNAc処理した。結果は、pGlcNAcによるリン光体-MAP
Kの誘導がVEGFR2に依存していることを示した(
図30Bも参照されたい)。
【0176】
pGlcNAcはVEGFR2を活性化させなかった。pGlcNAcがVEGFRを活性化させたかどうか試験
するために、VEGFR2のリン酸化形態に対して指示された抗体を使用して、一連のウエスタ
ンブロットを実行した。
図31に示すように、VEGF処理は、総VEGFR2タンパク質レベルのタ
ーンオーバーを伴い、VEGFRの急速なリン酸化が生じたが、pGlcNAcは、示されるこれらの
初期の時点又は治療後6時間までのいずれにおいても効果を有しなかった(データ示さず
)。
【0177】
pGlcNAc誘導性の遊走はEts依存的であった。Ets1がpGlcNAcにより誘導される運動性に
必要であるかどうか試験するために、ドミナントネガティブ法並びにRNAiを使用してEts1
を阻害した。保存されたEts DNA結合ドメインを発現しているdn-Ets構築物をECにトラン
スフェクトした。dn-Etsを発現させた24時間後、細胞は、pGlcNAcでの処理後のトランス
ウェルアッセイにおけるフィブロネクチンの方への細胞移動の変化について評価した。図
32Aに示すように、Ets1活性並びにECにおいて発現される他のファミリーの阻害は、pGlcN
Acに応答してのEC遊走において著しい減少を生じた。dn-Etsの活性のためのコントロール
として、
図5Bは、dn-Etsの量を増加させたトランスフェクションが、総Ets1タンパク質の
減少をもたらしたことを示す。Ets1発現は、別のファミリーメンバーによって制御され得
るのみならず、自己制御されていることもあり得る。RNAiによる特異的なEts1の阻害は、
フィブロネクチン上でpGlcNAc誘導性の細胞運動の減少も生じた(
図32A、右面)。
図32B
に示すように、dn-Ets発現プラスミドによってトランスフェクトされた細胞において、Et
s1タンパク質発現は、プラスミド量の増加に伴って減少した。RNAi実験のためのコントロ
ールとして、
図32Cは、Ets1に対して指示された2つの量のプラスミド含有RNAiでトランス
フェクトされたECにおけるEts1の結果的発現レベルを示す。dn-Etsの発現は、細胞移動に
おいてEts1 RNAiより実質的な減少を生じ、これはおそらくECにおいて発現された他のフ
ァミリーメンバーのその遮断による。この知見は、pGlcNAcによる細胞運動性の誘導にお
けるEts1の役割を支持した。
【0178】
pGlcNAc誘導性の細胞運動はインテグリンを必要とした。pGlcNAcの効果がインテグリン
依存的であるかどうか試験するために、遮断抗体を使用して、ECのインテグリンにより媒
介されるシグナリングを破壊した。pGlcNAc誘導性細胞移動におけるこれらの抗体の効果
は、トランスウェルアッセイを使用して評価した。
図33Aは、フィブロネクチン(αVβ
3
受容体)に向かう遊走アッセイにおいて、αVβ
3又はα
5β
1(CD49e)インテグリンに対
して指示された抗体を使用した場合の結果を示す。
図33Bは、ビトロネクチンで被覆され
たトランスウェルにおいて、αVβ
3又はα
5β
1(CD49e)に対して指示された抗体を使用
する同様の実験を示す。いずれのインテグリン亜型の抗体遮断も、それらの同族の基質に
おけるpGlcNAc誘導性の細胞運動の阻害を生じた。これらの結果は、pGlcNAcが細胞運動性
をインテグリン活性化を介して刺激することを示す。結果は、インテグリン活性化を介し
て血管新生を刺激しているpGlcNAcとも整合している。
【0179】
pGlcNAc誘導性の細胞運動は、インテグリン係合を介するFAKの活性化に関与し得る。FA
Kは、インテグリンのクラスタリング及び活性化に応答してリン酸化される。FAKは、イン
テグリン及び成長因子により媒介される細胞運動性及び浸潤の重要な制御因子である。pG
lcNAcによるインテグリン活性化を試験するために、ECを時間増量のpGlcNAc繊維で処理し
、FAKリン酸化のレベルの変化をアッセイした。
図34に示すように、pGlcNAc処理は、処理
15分以内でFAKのリン酸化を生じた。これらの結果は、pGlcNAc誘導性の細胞運動が、イン
テグリン係合を介するFAKの活性化に関与し得ることを示す。
【0180】
pGlcNAcは、創傷治癒モデルにおける血管新生をもたらすインテグリン→Ets1経路を活
性化させる。多くのインテグリンサブユニットの転写制御におけるEts1の役割が説明され
ており、Ets1はインテグリンの上流に位置する。pGlcNAcによって誘導される運動性が、
インテグリン及びEts1の両方に依存するという発見は、Ets1がインテグリンの制御された
下流であり得ることを暗示する。インテグリン活性化がEts1発現の制御を生じることを確
認するために、α
5β
1(フィブロネクチン受容体)又はαVβ
3(ビトロネクチン受容体)
に対して指示された遮断抗体を使用して、pGlcNAcによるインテグリンを阻害した。
図35A
は、α
5β
1インテグリンの抗体遮断が、pGlcNAc誘導性Ets1発現の減少を生じることを示
す。α
5β
1インテグリンの遮断を使用するEts1発現のこの阻害は、タンパク質レベルに要
約される(
図35B)。しかしながら、αVβ
3インテグリン抗体は、ビトロネクチンにおけ
る運動性を遮断したが、Ets1のpGlcNAc誘導性発現に影響を及ぼさず(
図35)、これはビ
トロネクチンにおけるpGlcNAc誘導性の細胞運動がEts1非依存的であり得ることを示した
。合わせて考えると、これらの結果は、初代ECにおいてEts1を特定のインテグリンの下流
に位置させ、初代ECにおけるEts1発現に関するインテグリンシグナリングの潜在的特異性
を示す。したがって、これらの知見は、pGlcNAcが、創傷治癒モデルの血管新生をもたら
すインテグリン→Ets1経路を活性化できることを示す。
【0181】
pGlcNAc はVEGF及びIL1の発現を誘導した。pGlcNAc処理が、活性化したECにより分泌され
ることが知られている成長因子又はサイトカインの発現を誘導したかどうか試験するため
に、血清飢餓されたECをpGlcNAcで12時間処理し、VEGF、IL-1及びIL-8の発現の変化を評
価した。RT-PCR及びQPCRで示すように、(
図36A)、pGlcNAc処理は、VEGF及びIL-1両方の
発現増加を生じた。これらの知見は、別のインターロイキンであるIL-8の発現に変化がな
かったことから、ECのpGlcNAcに対する反応は特異的であることも示した。VEGF発現に対
するpGlcNAcの効果に続発する、VEGFにより制御されることが知られている転写因子であ
るEts1発現のpGlcNAc依存的な誘導を試験するために、pGlcNAcでの処理前に、VEGFRの活
性化を薬理学的阻害剤であるSU5416(SU)を使用して遮断した。QPCR(
図36B)で示すよ
うに、この阻害剤でのECの処理は、VEGFによるEts1の誘導を遮断したが、pGlcNAcによるE
ts1の誘導に効果を有しなかった。
【0182】
pGlcNAcは、FGF1及びFGFR3の発現を誘導した。pGlcNAc処理が血管新生関連因子の発現
を誘導したかどうか試験するために、ECをpGlcNAcで処理し、FGF1、FGF2、FGFR1、FGFR2
、FGFR3、スタビリン、IFNg、コラーゲンA18の発現における変化を評価した。
図37で示す
ように、pGlcNAc処理は、スタビリン及びコラーゲンA18の発現増加を生じた。
【0183】
(6.3.2.2 sNAG)
sNAGは細胞移動を増加させた。ECのsNAG繊維処理が細胞運動性の変化を生じるかどうか
試験するために、「掻爬」創傷閉鎖アッセイ法を使用した。創傷領域への細胞の移動は、
50及び100μg/ml両方のsNAG存在下で著しく増加した。創傷閉鎖は、pGlcNAc処理で観察さ
れたものと類似していた(
図38を参照)。これらの結果は、sNAG処理がEC運動の増加を生
じることを示した。
【0184】
sNAGは、代謝速度の著しい増加を誘導した。MTTアッセイで測定されたように、50、100
又は200μg/mlのsNAGは、VEGFより高いECの代謝速度を生じた(
図39)。
【0185】
sNAGは、血清欠乏により誘導される細胞死からECを保護しなかった。sNAG繊維がECに直
接効果を有したかどうか試験するために、血清飢餓されたEC細胞をVEGで、又は異なる濃
度のsNAG繊維で処理した。
図40に示すように、血清飢餓後の48時間で、播種された細胞の
総数(コントロール)と比較して、細胞数の約2倍の減少があった。細胞数のこの減少は
、VEGFの添加によって救われたが、50、100又は200μg/mlのsNAG繊維の添加によっては救
われなかった。これらの結果は、VEGFとは異なり、sNAG繊維処理が血清欠乏により誘導さ
れる細胞死を防止しなかったことを示した。
【0186】
sNAG はVEGF及びIL1の発現を誘導した。sNAG処理が、活性化されたECにより分泌される
ことが知られている成長因子又はサイトカインの発現を誘導したかどうか試験するために
、かつその効果をpGlcNAcと比較するために、血清飢餓されたECをpGlcNAc又はsNAGで12時
間処理し、VEGF、IL-1及びIL-8の発現における変化を評価した。
図41で示すように、sNAG
処理は、VEGF及びIL-1両方の発現増加を生じた。これらの知見は、別のインターロイキン
であるIL-8の発現において変化がなかったことから、ECのsNAGに対する反応が特異的であ
ることも示した。
【0187】
sNAGはFGF1及びFGFR3の発現を誘導した。sNAG処理が、血管新生関連因子の発現を誘導
したかどうか試験するために、ECをsNAGで処理し、FGF1、FGF2、FGFR1、FGFR2、FGFR3、
スタビリン、IFNg、コラーゲンA18の発現における変化を評価した。RT-PCR(
図37)で示
すように、sNAG処理は、FGF1及びFGFR3の発現増加を生じた。
【0188】
上記の結果は、pGlcNAc及びsNAGがEC運動性を誘導し、かつpGlcNAc及びsNAGの両方がVE
GF及びIL-1の発現を誘導することを証明する。
【0189】
上記の結果はまた、sNAGがMTTアッセイにおいて血清飢餓されたECの代謝速度を増加さ
せ、トリパンブルー排除試験において血清飢餓されたECのアポトーシスを救わないことを
証明する。
【0190】
(6.4 実施例4 sNAGの前臨床試験)
(6.4.1 試験物品)
上記第6.2.1節において前述したように生産できるsNAGを含む試験物品を利用した。試
験物品は、Marine Polymer Technologies社により無菌で供給された。
【0191】
(6.4.2 生体適合性試験−L929 MEM回避試験−ISO 10993-5)
試験物品の生体親和性をマウス繊維芽L929哺乳動物細胞において試験した。試験物品へ
の曝露後48時間のL929細胞において、生物反応性(等級0)は観察されなかった。ポジテ
ィブコントロール物品(等級4)及びネガティブコントロール物品(等級0)から得られた
観察された細胞反応によって、試験系の適合が確認された。プロトコルの基準に基づき、
試験物品は無毒性であるとみなされ、回避実験、すなわち国際標準化機構(ISO)10993-5
指針の要件を満たす。下記の表Iを参照されたい。
【表2】
【0192】
(6.4.3 筋肉内移植試験−ISO−4週間移植)
(6.4.2.1材料及び方法)
局所毒作用を誘導する試験物品の可能性を評価するために、筋肉内移植試験−ISO−4週
間移植(「筋肉内移植試験」)を使用した。簡潔にいうと、試験物品を4週間、ニュージ
ーランドホワイト種ウサギの傍脊椎筋組織に移植した。試験物品をそれから2つのコント
ロール物品を使用して別々に評価した:ポジティブコントロール・サージセル(Surgicel)
(ジョンソンアンドジョンソン、NJ)及びネガティブコントロール・高密度ポリエチレン
(ネガティブコントロールプラスチック)。
【0193】
試験及びコントロール物品の準備。試験物品を、幅およそ1mm及び長さ10mmで測定した
。2つのコントロール物品を準備した。ポジティブコントロールであるサージセル(C1)
を幅およそ1mm及び長さ10mmで測定し、無菌で受け取った。ネガティブコントロールプラ
スチック(C2)を幅およそ1mm及び長さ10mmで測定し、70%エタノールへの浸漬により殺菌
した。
【0194】
前投与手順。各動物を移植前に秤量した。試験の日に、動物の背面側を毛皮がない状態
で留め、抜け毛を掃除機で除去した。各動物を適切に麻酔した。移植前に、該領域を外科
調製溶液で拭いた。
【0195】
用量投与。4つの試験物品ストリップを、正中及び平行から脊柱におよそ2.5cm、並びに
互いにおよそ2.5cmで、各ウサギの傍脊椎筋の各々に外科的に移植した。試験物品ストリ
ップを片側の脊椎側に移植した。同様の様式で、ポジティブコントロール物品ストリップ
(サージセル)を各動物の反対側の筋肉に移植した。2つのネガティブコントロールスト
リップ(ネガティブコントロールプラスチック)を、試験物品に対し、及び脊椎(合計で
4つのストリップ)の一方のC1コントロール移植部位に対し、尾側で(尾部の方へ)移植
した。少なくとも8つの試験物品ストリップ、及び8つの各コントロール物品ストリップの
合計が評価のために必要とされる。
【0196】
投与後手順。動物を4週間維持した。移植部位及び毒性の臨床徴候の適切な治癒を保証
するためのこの期間、動物を毎日観察した。観察は全ての臨床症状を含んだ。観察期間の
終わりに、動物を秤量した。各動物を注射可能なバルビツール酸塩で犠牲とした。組織を
出血なく切るために充分な時間、経過させた。
【0197】
肉眼観察。試験物品又はコントロール物品が移植された傍脊椎筋をまとめて各動物から
切除した。筋肉組織は、慎重に外科用メスで移植部位のまわりで切り、組織を持ち上げる
ことにより切除した。切除された移植組織を肉眼的に調査したが、組織病理的評価のため
にこの組織の完全性を壊し得る過剰な侵襲的手順は使用しなかった。組織を10%の中性緩
衝ホルマリンを含んでいる適切に標識した容器中に置いた。
【0198】
組織病理学。ホルマリンでの固定の後、移植部位の各々をより大量の組織から切除した
。移植料を含む移植部位を肉眼的に検討した。各部位は、以下の基準を使用して、炎症、
カプセル化、出血、壊死及び変色の徴候について検討した:
0=正常
1=軽度
2=中程度
3=顕著
肉眼の観察の後、移植材料はインサイチュウでそのままにしておき、移植部位を含む組
織切片を加工した。ヘマトキシリン及びエオジン染色した切片の組織学的スライドをトキ
コン(Toxikon)で調製した。スライドを光学顕微鏡観察で評価し、等級分けした。
【0199】
移植の効果における病理学的評価。生体反応の以下のカテゴリを各移植部位について顕
鏡観察により評価した:
1.炎症反応:
a.多形核白血球
b.リンパ球
c.好酸球
d.プラズマ細胞
e.マクロファージ
f.巨細胞
g.壊死
h.変性
2.反応治癒
a.線維形成
b.脂肪浸潤
【0200】
反応の各カテゴリは以下の基準を使用し等級分けした:
0=正常
0.5=ごくわずか
1=軽度
2=中程度
3=顕著
【0201】
関連のある領域の相対寸法を、インプラント/組織界面から、正常組織及び通常の血管
分布の特徴を有する無影響領域までの領域の幅を評価することによりスコア化した。関連
のある領域の相対寸法は以下の基準を使用してスコア化した:
0=0mm、部位なし
0.5 =〜0.5mm、ごくわずか
1= 0.6〜1.0mm、軽度
2 =1.1〜2.0mm、中程度
3 =>2.0mm、顕著
【0202】
筋肉内移植試験は以下の参照に基づいて実施した:
1.ISO 10993-6、1994、医療機器の生物学的評価−パート6:移植後の局所効果につい
ての試験。
2.ISO 10993-12、2002、医療機器の生物学的評価−パート12:サンプル調製及び対照材
料。
3.ASTM F981-04、2004、筋肉及び骨における材料の効果に関する外科用移植材料につい
ての生体材料の互換性の評価のための標準実務。
4.ASTM F763-04、2004、移植材料の短期スクリーニングのための標準実務。
5.ISO/IEC 17025、2005、試験及び較正試験室の能力の一般的要件。
【0203】
筋肉内移植試験の結果は以下の基準に基づいて評価した:
1.算出速度:各移植部位について、合計スコアを決定する。各動物について試験部位の
平均スコアを、その動物のコントロール部位の平均スコアと比較する。全ての動物につい
て試験部位とコントロール部位との間の平均差を算出し、初期生体反応速度を以下の通り
に割り当てる:
0〜1.5 反応なし*
>1.5〜3.5 軽度の反応
>3.5〜6.0 中程度の反応
>6.0 顕著な反応
*負の計算値は0として報告する。
2.速度の変更:病理学観察者は、生体反応性の算出レベルを再調査する。全ての因子(
例えば、相対寸法、反応のパターン、炎症対回復)の観察に基づいて、病理学観察者は生
体反応速度を修正できる。速度の変更についての正当化は、物語報告にある(試験材料の
生体親和性に関する記述的物語報告は病理学観察者により提供される)。
【0204】
(6.4.2.2 結果)
結果は、試験物品が、4週間(0.2の生体反応速度)移植されるときに、ポジティブコン
トロールサージセルと比較した場合に非反応性であり;かつ、ネガティブコントロール高
密度ポリエチレン(ネガティブコントロールプラスチック)と比較した場合に非反応性(
0.0の生体反応速度)であった;ことを示した。
【0205】
臨床観察。下記の表IIは、試験物品及びコントロール移植部位の肉眼の評価の結果が、
4週間での炎症、カプセル化、出血、壊死又は変色の顕著な徴候を示さなかったことを示
す。いくつかの試験部位及び大部分のポジティブコントロールであるサージセルは肉眼的
に見られず、連続切片を顕微鏡的評価に供した。
【表3】
【0206】
移植部位観察(顕微鏡的)。下記の表IIIは、試験物品移植部位の顕微鏡的評価の結果
が、コントロール物品部位の各々と比較して、炎症、線維形成、出血、壊死又は退化の顕
著な徴候を示さなかったことを示す。4週間の生体反応速度(3匹の動物の平均)は0.2(C
1−サージセル)、及び0.0(C2−ネガティブコントロールプラスチック)であり、これは
コントロール移植部位のいずれと比較しても反応がないことを示す。病理学者は、インサ
イチュウで試験物品周辺に適度な多形及び組織球(マクロファージ)浸潤があったことを
記述し、これは試験材料の性質に与えられたものから予想外でなかった。
【表4】
【表5】
【表6】
【0207】
(6.4.4 皮内注試験−ISO10993-10)
試験物品の注射用USP 0.9%塩化ナトリウム(NaCl)抽出物及び綿実油(CSO)抽出物を
、ニュージーランドホワイト種ウサギの皮内注後に刺激をもたらすそれらの可能性につい
て評価した。試験物品部位は、コントロール物品を注射した部位より著しく大きな生体反
応を示さなかった。プロトコルの基準に基づき、試験物品は、無視可能な刺激物とみなさ
れ、ISO 10993-10指針の要件を満たす。結果は、以下に表IVで示す。
【表7】
【0208】
(6.4.5 クリグマン(Kligman)最大化試験−ISO 10993-10)
試験物品の注射用UPS 0.9%塩化ナトリウム(NaCl)抽出物及び綿実油(CSO)抽出物は
、誘発(0%感作)及び続く誘導期でハートレイモルモットに皮内反応を誘発しなかった。
したがって、クリグマンの評価法により規定されるように、これは等級I反応であり、試
験物品は弱いアレルギーを起こす可能性があるとして分類する。プロトコルの基準に基づ
き、等級Iの感作速度は著しいとはみなされず、試験物品はISO 10993-10指針の要件を満
たす。結果を下記表Vに示す。
【表8】
【0209】
(具体的実施態様、参考文献の引用)
本発明は、本明細書に記載される具体的実施態様による範囲に制限されない。実際、本
明細書に記載されるものに加えて本発明のさまざまな変更態様が、前述の説明及び添付の
図面から当業者にとって明らかになるであろう。そのような変更態様は、添付の特許請求
の範囲内にあることが意図される。
【0210】
特許出願、特許公報及び科学的刊行物を含む様々な参考文献が本明細書に引用されてお
り;そのような参考文献の各々の開示は、引用によりその全てが本明細書に組み込まれる
。