(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1では、マグネシウムを凝集、収集するために、マグネシウム粉末を含む溶液を酸性またはアルカリ性にしなければならない。これをワイヤ放電加工機に適用する場合は、加工液を酸性またはアルカリ性にしなければならないため、ワイヤ放電加工機や加工対象物の腐食が問題となる上、電気伝導度が大きくなり過ぎるという問題がある。したがって、ワイヤ放電加工機への適用が困難である。
【0009】
そこで、本発明は、加工によって発生した加工屑の酸化を抑えるワイヤ放電加工機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、脱イオン水の加工液中で加工対象物に対して放電加工を行うワイヤ放電加工機であって、放電加工によって発生した加工屑を前記加工液から除去するフィルタと、前記フィルタの内部に貯留された前記加工液を加熱する加熱装置と、を備える。
【0011】
この構成により、フィルタに含まれる加工液を加熱することができるので、フィルタに付着した加工屑と加熱された加工液とを反応させることができる。この加熱された加工液と反応した加工屑は、酸化し難くなる。したがって、フィルタが乾燥した場合であってもフィルタの発火を防止することができる。
【0012】
本発明は、ワイヤ放電加工機であって、前記フィルタを収容する収容槽を備え、前記加熱装置は、前記収容槽に貯留された前記加工液を加熱してもよい。これにより、収容槽に貯留された加工液を加熱すればよいので、フィルタの内部の貯留された加工液を簡単に加熱することができる。
【0013】
本発明は、ワイヤ放電加工機であって、放電加工を行うために前記加工液を貯留する加工槽と、前記加工槽から排出された前記加工屑を含む前記加工液を一時的に貯留する汚水槽と、をさらに備え、前記加熱装置は、前記加工槽および前記汚水槽の少なくとも一方において、貯留されている前記加工屑を含む前記加工液をさらに加熱してもよい。これにより、加工屑を含む加工液がフィルタに流れる前に、加工屑を含む加工液を加熱することができるので、酸化し難い加工屑がフィルタに付着する。したがって、フィルタが乾燥した場合であってもフィルタの発火を防止することができる。
【0014】
本発明は、ワイヤ放電加工機であって、放電加工を行うために前記加工液を貯留する加工槽と、前記加工槽から排出された前記加工屑を含む前記加工液を一時的に貯留する汚水槽と、前記汚水槽と前記フィルタとを繋ぎ、前記汚水槽から前記フィルタへ前記加工液を流すための管路と、をさらに備え、前記加熱装置は、前記管路で前記加工液をさらに加熱してもよい。これにより、加工屑を含む加工液がフィルタに流れる前に、加工屑を含む加工液を加熱することができるので、酸化し難い加工屑がフィルタに付着する。したがって、フィルタが乾燥した場合であってもフィルタの発火を防止することができる。
【0015】
本発明は、ワイヤ放電加工機であって、前記収容槽は、前記加工液を貯留するか否かを切り換える栓を有し、前記加熱装置による加熱時に前記栓を閉めて、前記フィルタが前記加工液に浸漬するように前記加工液を貯留してもよい。このように、フィルタに含まれる加工液を簡単に加熱することができるので、フィルタに付着した加工屑と加熱した加工液とを反応させることができる。
【0016】
本発明は、ワイヤ放電加工機であって、前記収容槽は、前記フィルタによって前記加工屑が除去された前記加工液を貯留する清水槽であってもよい。これにより、フィルタに含まれる加工液を簡単に加熱することができるので、フィルタに付着した加工屑と加熱した加工液とを反応させることができる。また、ワイヤ放電加工機の構成を簡略化することができ、コストが低廉になる。
【0017】
本発明は、ワイヤ放電加工機であって、前記加熱装置は、前記加工液中の前記加工屑に含まれるマグネシウムが水酸化マグネシウムに変化する所定の温度まで少なくとも加熱してもよい。これにより、加工屑が酸化してしまうことを確実に防止することができ、フィルタの発火を確実に防止することができる。
【0018】
本発明は、ワイヤ放電加工機であって、前記加熱装置は、発熱体を有し、前記発熱体の熱を用いて前記加工液を加熱してもよい。これにより、簡単に加工液を加熱することができる。
【0019】
本発明は、ワイヤ放電加工機であって、前記加熱装置は、前記ワイヤ放電加工機の前記加工液の温度より高い所定の温度以上の前記加工液を前記ワイヤ放電加工機に供給することで、前記ワイヤ放電加工機内の前記加工液を加熱してもよい。これにより、簡単に加工液を加熱することができるとともに、ワイヤ放電加工機内の加工液中に含まれる加工屑の濃度を減らすことができる。
【0020】
本発明は、ワイヤ放電加工機であって、前記加熱装置を駆動制御する制御装置をさらに備え、前記制御装置は、オペレータによって前記ワイヤ放電加工機の電源をオフにする操作が行なわれると、前記加熱装置を駆動して前記加工液の加熱を開始し、所定の時間が経過すると前記加熱装置の駆動を停止して前記加工液の加熱を終了した後、前記ワイヤ放電加工機の電源をオフにしてもよい。これにより、電源のオフによってフィルタが乾燥した場合であっても、フィルタの発火を防止することができる。また、電気代を節約することができるとともに、加工液の加熱によって放電加工の加工精度が低下することを防止することができる。
【0021】
本発明は、ワイヤ放電加工機であって、前記加熱装置を駆動制御する制御装置をさらに備え、前記制御装置は、オペレータによって前記フィルタの交換を指示する操作が行なわれると、前記加熱装置を駆動して前記加工液の加熱を開始し、所定の時間が経過すると前記加熱装置の駆動を停止して前記加工液の加熱を終了した後、フィルタの交換が可能であることをオペレータに報知してもよい。これにより、加熱された後にフィルタが交換されるので、交換によって取り出された使用済のフィルタが乾燥によって発火することを防止することができる。また、電気代を節約することができるとともに、加工液の加熱によって放電加工の加工精度が低下することを防止することができる。
【0022】
本発明は、ワイヤ放電加工機であって、前記加熱装置を駆動制御する制御装置と、前記加工液に含まれる加工屑の濃度を検出する濃度検出部と、をさらに備え、前記制御装置は、前記濃度検出部により閾値以上の濃度が検出されると、前記加熱装置を駆動して前記加工液の加熱を開始し、所定の時間が経過すると前記加熱装置の駆動を停止して前記加工液の加熱を終了してもよい。このように、加工液を加熱しなければフィルタが発火する虞がある場合にだけ、加工液を加熱するので、電気代を節約することができるとともに、加工液の加熱によって放電加工の加工精度が低下することを防止することができる。
【0023】
本発明は、ワイヤ放電加工機であって、前記加熱装置を駆動制御する制御装置をさらに備え、前記制御装置は、前記ワイヤ放電加工機の動作を停止するアラームが発生した場合は、前記加熱装置を駆動して前記加工液の加熱を開始し、所定の時間が経過すると前記加熱装置の駆動を停止して前記加工液の加熱を終了してもよい。これにより、電源のオフによってフィルタが乾燥した場合であっても、フィルタの発火を防止することができる。また、電気代を節約することができるとともに、加工液の加熱によって放電加工の加工精度が低下することを防止することができる。
【0024】
本発明は、ワイヤ放電加工機であって、前記加熱装置を駆動制御する制御装置をさらに備え、前記制御装置は、オペレータによって選択された加工条件が、マグネシウムを含有する前記加工対象物を加工するための加工条件である場合は、前記加工液の加熱を許可してもよい。これにより、電気代を節約することができる。
【0025】
本発明は、ワイヤ放電加工機であって、前記加熱装置を駆動制御する制御装置をさらに備え、前記制御装置は、オペレータによって選択された前記加工対象物の材料が、マグネシウムを含有する材料である場合は、前記加工液の加熱を許可してもよい。これにより、電気代を節約することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、フィルタに含まれる加工液を加熱することができるので、フィルタに付着した加工屑と加熱された加工液とを反応させることができる。この加熱された加工液と反応した加工屑は、酸化し難くなる。したがって、フィルタが乾燥した場合であってもフィルタの発火を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係るワイヤ放電加工機について、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。
【0029】
図1は、ワイヤ放電加工機10の概略構成図である。ワイヤ放電加工機10は、加工液中で、ワイヤ電極12と図示しない加工対象物(被加工物)の間に発生する放電によって加工対象物に対して放電加工を施す工作機械である。ワイヤ放電加工機10は、加工機本体14、加工液処理装置16、および、制御装置18を備える。
【0030】
ワイヤ電極12の材質は、例えば、タングステン系、銅合金系、黄銅系等の金属材料である。一方、加工対象物の材質は、例えば、鉄系材料または超硬材料等の金属材料であり、本実施の形態では、少なくともマグネシウムを含有するものとする。なお、本実施の形態では、少なくともマグネシウムを含有する加工対象物という場合は、マグネシウムのみで形成された加工対象物も含むものとする。
【0031】
加工機本体14は、加工対象物に向けてワイヤ電極12を供給する供給系統20aと、加工対象物からのワイヤ電極12を回収する回収系統20bとを備える。
【0032】
供給系統20aは、ワイヤ電極12が巻かれたワイヤボビン22と、ワイヤボビン22に対してトルクを付与するトルクモータ24と、ワイヤ電極12に対して摩擦による制動力を付与するブレーキシュー26と、ブレーキシュー26に対してブレーキトルクを付与するブレーキモータ28と、ワイヤ電極12の張力の大きさを検出する張力検出部30と、ワイヤ電極12をガイドする上ワイヤガイド32とを備える。
【0033】
回収系統20bは、ワイヤ電極12をガイドする下ワイヤガイド34と、ワイヤ電極12を挟持可能なピンチローラ36およびフィードローラ38と、ピンチローラ36およびフィードローラ38により搬送されたワイヤ電極12を回収するワイヤ回収箱40とを備える。
【0034】
加工機本体14は、放電加工の際に使用される脱イオン水の加工液を貯留可能な加工槽42を備え、加工槽42内に、上ワイヤガイド32および下ワイヤガイド34が配置されている。この加工槽42は、ベース部44上に載置されている。加工対象物は、上ワイヤガイド32と下ワイヤガイド34との間に設けられている。上ワイヤガイド32および下ワイヤガイド34は、ワイヤ電極12を支持するダイスガイド32a、34aを有する。また、下ワイヤガイド34は、ワイヤ電極12の向きを変えながらピンチローラ36およびフィードローラ38に案内するガイドローラ34bを備える。
【0035】
加工対象物は、ベース部44に設けられた図示しないテーブルによって支持されており、テーブルは、加工槽42内に配置されている。加工機本体14(ワイヤ放電加工機10)は、テーブルの位置と、ダイスガイド32a、34aによって支持されたワイヤ電極12との位置とを相対的に移動させながら、加工対象物に対して加工を行う。
【0036】
加工液処理装置16は、加工槽42に発生した加工屑(スラッジ)を除去するとともに、電気抵抗率・温度の調整等を行うことで加工液の液質を管理する装置である。加工液処理装置16については後で、詳しく説明する。制御装置18は、加工機本体14および加工液処理装置16を制御する。制御装置18についても後で簡単に説明する。
【0037】
図2は、ワイヤ放電加工機10の要部構成、特に加工液処理装置16の構成を示す図である。加工液処理装置16は、汚水槽50、フィルタ52、および、清水槽54を少なくとも備える。汚水槽50は、加工槽42から排出された加工液を一時的に貯留する。ここで、加工槽42の加工液には、放電加工によって発生した加工屑が混ざっているため、加工槽42から汚水槽50に排出される加工液は加工屑を含むことになる。つまり、汚水槽50は、加工屑によって汚染された加工液を一時的に貯留する。なお、加工槽42は、貯留している加工液を、符号Aに示すように汚水槽50に流出(排出)するような構成を有している。なお、加工対象物は、マグネシウムを含有する材質なので、加工屑もマグネシウムを含む。
【0038】
汚水槽50に貯留された加工液は、ポンプP1によって汲み上げられ管路(配管)56を通って、フィルタ52に供給される。管路56は、汚水槽50とフィルタ52とを接続し、汚水槽50からフィルタ52へ加工液を流すためのものであり、ポンプP1は、管路56に設けられている。フィルタ52によって濾過された加工液(フィルタ52を通過した加工液)は、管路(配管)58を通って清水槽54に送られる。なお、管路58は、フィルタ52と清水槽54とを接続し、フィルタ52を通過した加工液を清水槽54に流すためのものである。フィルタ52は、加工液から加工屑を除去するものであり、汚水槽50の加工液をフィルタ52に通した後、清水槽54に送ることで、加工屑が除去された加工液を清水槽54に送ることができる。
【0039】
清水槽54は、加工屑が除去された加工液を一時的に貯留する。清水槽54に貯留された加工液は、ポンプP2によって汲み上げられ管路(配管)60を通って、上下ワイヤガイド62に供給される。上下ワイヤガイド62は、上ワイヤガイド32および下ワイヤガイド34の総称である。上下ワイヤガイド62(少なくとも上ワイヤガイド32)は、供給された加工屑が除去された加工液を噴出する。これにより、上下ワイヤガイド62から加工液を噴出しながら放電加工を行うことで、ワイヤ電極12と加工対象物との間を、放電加工に適した清浄な加工液で満たすことができ、加工屑によって放電加工の精度が低下することを防止することができる。
【0040】
また、清水槽54に貯留された加工液は、ポンプP3によって汲み上げられ管路(配管)64を通って加工槽42に供給される。ポンプP1〜P3は、制御装置18の制御によって駆動する。
【0041】
ワイヤ放電加工機10(加工液処理装置16)は、加工液を加熱する加熱装置66を備える。加熱装置66は、加工屑を含む加工液が貯留するまたは流れる加工槽42、汚水槽50、フィルタ52、および、管路56の少なくとも1つで、加工液を加熱する。なお、加熱装置66は、加工屑を含まない加工液が貯留するまたは流れる清水槽54および管路58、60、64の少なくとも1つで加工液を加熱してもよい。
【0042】
加熱装置66は、ヒータ、熱風器、または、高周波加熱器等で構成される発熱体66aを1つ以上有し、この1つ以上の発熱体66aを用いて、加工液を加熱する。例えば、加工槽42で加工液を加熱する場合は、発熱体66aが加工槽42に設けられる。同様に、汚水槽50、清水槽54、管路56、58、60、64で加工液を加熱する場合は、汚水槽50、清水槽54、管路56、58、60、64に発熱体66aが設けられる。また、フィルタ52に含まれる加工液を加熱する場合は、フィルタ52にまたはその近傍に発熱体66aが設けられる。
【0043】
加工液を加熱して熱水(例えば、60度以上)にすることで、マグネシウムを含む加工屑は、熱水と反応して水酸化マグネシウムの加工屑に変化する。水酸化マグネシウムは、水に溶け難く反応性が低い物質である。したがって、マグネシウムの加工屑を水酸化マグネシウムの加工屑にすることで、加工屑の周りに水がなくなっても、酸化し難くなり(加工屑が空気中の酸素(O
2)または二酸化炭素(CO
2)と反応し難くなり)、発火の危険性がない。これにより、安全にフィルタ52を交換することができる。なお、水酸化マグネシウムの反応式は、以下のとおりとなる。
【0044】
Mg+H
2O →Mg(OH)
2+H
2(熱水のみで反応)
【0045】
なお、加熱装置66は、加工液の温度が所定の温度Tm以上となる温度まで加工液を加熱する。この所定の温度Tmとは、少なくとも加工液中の加工屑に含まれるマグネシウムが水酸化マグネシウムに変化する温度(例えば、60度)である。加工液の温度とは、少なくとも加工液を加熱する場所、個所のみでの加工液の温度のことを意味し、ワイヤ放電加工機10の全体の加工液の温度のことを意味しない。例えば、加工槽42または汚水槽50で加工液を加熱する場合は、加工槽42または汚水槽50の加工液の温度が所定の温度Tm以上になるまで加熱することを意味する。また、管路56の加工液を加熱する場合は、管路56の加工液の温度が所定の温度Tm以上になるまで加熱することを意味する。
【0046】
図3は、フィルタ52の周辺を加熱してフィルタ52に含まれる加工液を加熱する例を示す図である。ワイヤ放電加工機10は、フィルタ52を収納する水槽(収容槽)68を備える。水槽68は、加工液を一時的に貯留するものであり、フィルタ52の少なくとも一部が浸漬するように加工液を貯留する。水槽68は、加工液を貯留するか否かを切り換える栓68aを有する。この栓68aは、制御装置18の制御の下、図示しないアクチュエータによって開閉する。
【0047】
栓68aが開けられている場合は、フィルタ52を通過した加工液が、管路58を通って清水槽54に供給される。また、栓68aが閉められている場合は、フィルタ52を通過した加工液が水槽68に溜まる。制御装置18は、フィルタ52に含まれる加工液を加熱しない場合、つまり、通常時には、前記アクチュエータを介して栓68aを開いた状態にし、フィルタ52に含まれる加工液を加熱する場合は、前記アクチュエータを介して栓68aを閉じた状態にする。栓68aを閉じてフィルタ52を加工液に浸漬させた状態で、加工液を加熱することで、水槽68に貯留された加工液が加熱される。これにより、フィルタ52に付着する微細なマグネシウムを含む加工屑が熱水と反応して水酸化マグネシウムの加工屑となる。なお、フィルタ52に含まれる加工液を加熱する発熱体66aは、水槽68に設けられている。
【0048】
ワイヤ放電加工機10は、加工液に含まれる加工屑の濃度を検出する濃度検出部70を備える。この濃度検出部70は、加工槽42および汚水槽50の少なくとも一方に設けられる。濃度検出部70が検出した検出信号(加工屑の濃度値)は、制御装置18に送られる。濃度検出部70として、例えば、吸光光度計やイオン計等のマグネシウムの濃度を検出するセンサを用いる。
【0049】
図4は、制御装置18の構成図である。制御装置18は、入力部80、制御部82、記憶媒体84、および、表示部86を備える。入力部80は、情報および指令等を入力するためにオペレータによって操作される操作部である。入力部80は、数値データ入力用のテンキー、各種ファンクションキー(例えば、電源ボタン等)、キーボード、および、タッチパネル等によって構成される。制御部82は、CPU等のプロセッサとプログラムが記憶されたメモリチップとを有し、プロセッサがこのプログラムを実行することによって、本実施の形態の制御部82として機能する。記憶媒体84は、制御部82による制御に必要なデータ等を格納しており、バッファメモリとしても機能する。表示部86は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等によって構成され、必要な情報等を表示する。なお、入力部80のタッチパネルは、表示部86の表示画面に設けられている。
【0050】
制御部82は、加工対象物を支持するテーブルの位置と、ダイスガイド32a、34aによって支持されたワイヤ電極12の位置との相対位置(相対移動)を制御するとともに、ワイヤ電極12に流れる電流も制御する。また、制御装置18は、加工液処理装置16のポンプP1〜P3の駆動制御、加熱装置66の駆動制御、および、栓68aの開閉制御等も行なう。
【0051】
制御部82は、加工対象物の加工を行うときは常時、加熱装置66を駆動して、加工液を加熱させてもよいが、この場合だと加熱のための電気代が増大するとともに、加工液の温度上昇により加工精度が低下してしまう。したがって、制御部82は、所定の条件をトリガーとして、加熱装置66を駆動させて加工液を加熱させる。
【0052】
トリガーとなる所定の条件は、例えば、(1)オペレータによる入力部80の操作によって、ワイヤ放電加工機10の電源をオフにする指示がされた場合、(2)オペレータによる入力部80の操作によって、フィルタ52の交換を指示する操作がされた場合、(3)濃度検出部70が検出した加工屑の濃度が閾値以上の場合、(4)ワイヤ放電加工機10の動作を停止するアラームが発生した場合、(5)オペレータによる入力部80の操作によって、選択された加工条件がマグネシウムを含有する加工対象物を加工する加工条件である場合、(6)オペレータによる入力部80の操作によって、選択された加工対象物の材料が、マグネシウムを含有する材料である場合、等がある。
【0053】
ワイヤ放電加工機10の電源がオフになると、微細な加工屑が付着したフィルタ52に含まれる加工液が少なくなり、加工屑が空中の酸素または二酸化炭素と反応して酸化してしまう。したがって、上記(1)、(4)をトリガーとして、制御部82は、加熱装置66を制御して加工液を加熱する。これにより、フィルタ52に付着した微細な加工屑に含まれるマグネシウムは二酸化マグネシウムに変化し、酸化し難くなる。そして、制御装置18は、加工液の加熱が終了すると、ワイヤ放電加工機10の電源をオフにする。
【0054】
フィルタ52を交換すると、交換された使用済のフィルタ52に含まれる加工液が少なくなり、フィルタ52に付着した微細な加工屑が空中の酸素または二酸化炭素と反応して酸化してしまう。したがって、上記(2)をトリガーとして、制御部82は、加熱装置66を制御して加工液を加熱する。そして、制御装置18は、加工液の加熱が終了すると、フィルタ52が交換可能であることを表示部86に表示する。これにより、加工液の加熱が終了してから、オペレータはフィルタ52を交換することになる。交換によって取り出された使用済のフィルタ52に付着した加工屑に含まれるマグネシウムは、二酸化マグネシウムに変化しているので、酸化し難くなる。なお、この場合、制御装置18は、加工液の加熱中に、「加熱が終了するまでフィルタの交換をお待ちください。」といった内容を表示部86に表示してもよい。
【0055】
また、加工液に含まれる加工屑の濃度が閾値より小さい場合は、加工屑が酸化しても、問題にならない。したがって、上記(3)をトリガーとして、制御部82は、加熱装置66を制御して加工液を加熱する。
【0056】
加工液の加熱を終了するタイミングとしては、加工液の加熱を開始してから所定の時間(一定時間)Tiが経過したタイミングであってもよい。この所定の時間Tiは、少なくとも加工液の温度が所定の温度Tmになるために要する時間である。また、ワイヤ放電加工機10に、加工液の温度を検出する温度検出部を設け、温度検出部が検出した温度が所定の温度Tm(例えば、60度)以上となった場合に、加工液の加熱を終了してもよい。
【0057】
加工対象物にマグネシウムを含まない場合は、加工液を加熱する必要はないので、上記(5)、(6)をトリガーとして、制御部82は、加工液の加熱を許可する、または、加熱装置66を制御して加工液を加熱する。これにより、マグネシウムを含む加工屑が発生する場合にのみ、加工液を加熱することができる。上記(5)、(6)をトリガーとして、加工液の加熱を許可する場合は、さらに、制御装置18は、上記(1)〜(4)に示す所定の条件が成立した場合に、加工液の加熱を開始する。
【0058】
なお、ワイヤ放電加工機10に図示しないアラーム機能付きセンサが複数搭載されており、複数のアラーム機能付きセンサは、ワイヤ放電加工機10の各部の不具合を検出し、それに応じたアラーム(例えば、ワイヤ放電加工機10の動作を停止するアラーム)を出力する。
【0059】
また、オペレータが入力部80を操作することで、加工液の加熱機能のオンオフを選択することができるようにしてもよい。この場合は、制御部82(制御装置18)は、加熱機能がオンの場合にのみ、加工液の加熱を許可する。また、オペレータが入力部80を操作することで、どの箇所・場所(例えば、加工槽42、汚水槽50、管路56等)で加熱を行うのかを1つまたは複数選択できるようにしてもよい。この場合は、制御部82(制御装置18)は、選択された個所で加工液の加熱を行う。さらに、オペレータが入力部80を操作することで、放電加工中に、常時加熱するのか所定の条件が成立した場合にのみ加熱するのかを選択できるようにしてもよい。制御部82(制御装置18)は、この選択にしたがって、加工液を加熱する。オペレータが入力部80を操作することで、所定の条件(1)〜(6)のうち、どの所定の条件が成立した場合に、加工液の加熱を行うのかを1つまたは複数選択してもよい。この場合は、制御部82(制御装置18)は、選択された所定の条件が成立すると加工液の加熱を開始する。
【0060】
[変形例]
上記実施の形態は、以下のように変形してもよい。
【0061】
(変形例1)
図5は、変形例1のワイヤ放電加工機10の要部構成、特に加工液処理装置16の構成を示す図である。なお、上記実施の形態と同一の構成については同一の符号を付し、異なる部分だけを説明する。変形例1の加熱装置66Aは、加熱された高熱の新しい加工液(以下、高熱の新加工液と呼ぶ場合がある。)をワイヤ放電加工機10に供給することで、ワイヤ放電加工機10の加工液を加熱するというものであり、その点が上記実施の形態と異なる。
【0062】
加熱装置66Aは、1つ以上のノズル100を有し、1つ以上のノズル100から高熱の新加工液を、ワイヤ放電加工機10に供給する。加熱装置66Aは、加工槽42、汚水槽50、フィルタ52、および、管路56の少なくとも1つで、加工液を加熱し、必要に応じて、清水槽54および管路58、60、64の少なくとも1つで加工液を加熱する。
【0063】
したがって、加熱装置66Aのノズル100を、加工槽42、汚水槽50、管路56、水槽68の少なくとも1つに設ける。また、必要に応じてノズル100を、清水槽54および管路58、60、64の少なくとも1つに設けてもよい。また、フィルタ52に含まれる加工液を加熱する場合は、フィルタ52の近傍にノズル100が設けられる。
【0064】
加工槽42で加工液を加熱する場合は、加熱装置66Aは、加工槽42に設けられたノズル100から高熱の新加工液を噴出する。これにより、加工槽42に元から存在する加工液と供給された高熱の新加工液とが混ざり合うことで、加工槽42の加工液が昇温する。同様に、汚水槽50、清水槽54、管路56、58、60、64で加工液を加熱する場合は、加熱装置66Aは、加工槽42に設けられたノズル100から高熱の新加工液を噴出する。これにより、汚水槽50、清水槽54、管路56、58、60、64の加工液が昇温する。
【0065】
また、フィルタ52に含まれる加工液を加熱する場合は、水槽68に設けられたノズル100から高熱の新加工液を噴出することで、フィルタ52に含まれる加工液を昇温させる。なお、水槽68に設けられたノズル100から高熱の新加工液を噴出する場合は、水槽68の栓68aは閉じた状態となっていることは言うまでもない。
【0066】
このノズル100から噴出される高熱の新加工液の温度は、ワイヤ放電加工機10の加工液(元から存在する加工液)の温度より高く、且つ、上記実施の形態で説明した所定の温度Tm(例えば、60度)以上の温度である。
【0067】
このように、高熱の新加工液をワイヤ放電加工機10に供給するので、ワイヤ放電加工機10の加工液を加熱することができるとともに、ワイヤ放電加工機10の加工液に含まれる加工屑の濃度を減らすことができる。
【0068】
なお、加熱装置66Aによって高熱の新加工液をワイヤ放電加工機10に供給すると、ワイヤ放電加工機10内の加工液量が増えてしまうので、図示しないポンプを用いて、ワイヤ放電加工機10の加工液を排出してもよい。この場合、加工液を排出する場所と高熱の新加工液を供給する場所とを異ならせることが好ましい。例えば、汚水槽50に高熱の新加工液を供給する場合は、汚水槽50以外の場所(例えば、加工槽42、清水槽54等)の加工液を排出する。
【0069】
(変形例2)
図6は、変形例2のワイヤ放電加工機10の要部構成、特に加工液処理装置16の構成を示す図である。なお、上記実施の形態または上記変形例1と同一の構成については同一の符号を付し、異なる部分だけを説明する。変形例2のフィルタ52は、清水槽54に浸漬されている点で、上記実施の形態と異なる。つまり、変形例2では、清水槽54がフィルタ52を収容する収容槽となる。
【0070】
上述したように、ポンプP1によって汚水槽50に貯留されている加工液が管路56を通って、清水槽54に収容されているフィルタ52に導かれる。フィルタ52によって濾過された加工液(加工屑が除去された加工液)は、清水槽54に貯留される。清水槽54に貯留された加工液によってフィルタ52は浸漬されている。清水槽54に貯留されている加工屑が除去された加工液は、ポンプP2、P3によって汲み上げられ、管路60、64を通って加工槽42に供給されることになる。
【0071】
このように、フィルタ52を清水槽54に設け、清水槽54に貯留された加工液によってフィルタ52を浸漬するので、上記実施の形態で説明したような、水槽68が不要になるとともに、発熱体66a(ノズル100)を水槽68に設ける必要もない。つまり、フィルタ52に含まれる加工液を加熱したい場合は、清水槽54に貯留されている加工液を加熱すればよい。これによって、ワイヤ放電加工機10(加工液処理装置16)の構成を簡略化することができ、コストが低廉になる。
【0072】
なお、上記実施の形態および変形例1、2では、制御装置18によって、加工液処理装置16を制御するようにしたが、ワイヤ放電加工機10以外の外部制御装置によって加工液処理装置16を制御してもよい。
【0073】
このように、上記実施の形態および変形例1、2のいずれかで説明した、ワイヤ放電加工機10は、放電加工によって発生した加工屑を加工液から除去するフィルタ52と、フィルタ52の内部に貯留された加工液を加熱する加熱装置66(または66A)と、を備える。これにより、フィルタ52に含まれる加工液を加熱することができるので、フィルタ52に付着した加工屑と加熱された加工液とを反応させることができる。この加熱された加工液と反応した加工屑は、酸化し難くなる。したがって、フィルタ52が乾燥した場合であってもフィルタ52の発火を防止することができる。
【0074】
ワイヤ放電加工機10は、フィルタ52を収容する収容槽(清水槽54または水槽68)を備え、加熱装置66(または66A)は、収容槽(清水槽54または水槽68)に貯留された加工液を加熱してもよい。これにより、収容槽(清水槽54または水槽68)に貯留された加工液を加熱すればよいので、フィルタ52の内部の貯留された加工液を簡単に加熱することができる。
【0075】
ワイヤ放電加工機10は、放電加工を行うために加工液を貯留する加工槽42と、加工槽42から排出された加工屑を含む加工液を一時的に貯留する汚水槽50と、汚水槽50とフィルタ52とを繋ぎ、汚水槽50からフィルタ52へ加工液を流すための管路56と、をさらに備える。加熱装置66(または66A)は、加工槽42および汚水槽50の少なくとも一方において、貯留されている加工屑を含む加工液をさらに加熱してもよい。また、加熱装置66(または66A)は、管路56で加工液をさらに加熱してもよい。これにより、加工屑を含む加工液がフィルタ52に流れる前に、加工屑を含む加工液を加熱することができるので、酸化し難い加工屑がフィルタ52に付着する。したがって、フィルタ52が乾燥した場合であってもフィルタ52の発火を防止することができる。
【0076】
収容槽(水槽68)は、加工液を貯留するか否かを切り換える栓68aを有し、加熱装置66(または66A)による加熱時に栓68aを閉めて、フィルタ52が加工液に浸漬するように加工液を貯留してもよい。このように、フィルタ52に含まれる加工液を簡単に加熱することができるので、フィルタ52に付着した加工屑と加熱した加工液とを反応させることができる。
【0077】
収容槽は、フィルタ52によって加工屑が除去された加工液を貯留する清水槽54であってもよい。これにより、フィルタ52に含まれる加工液を簡単に加熱することができるので、フィルタ52に付着した加工屑と加熱した加工液とを反応させることができる。また、ワイヤ放電加工機10の構成を簡略化することができ、コストが低廉になる。
【0078】
加熱装置66(または66A)は、加工液中の加工屑に含まれるマグネシウムが水酸化マグネシウムに変化する所定の温度Tmまで少なくとも加熱する。これにより、加工屑が酸化してしまうことを確実に防止することができ、フィルタ52の発火を確実に防止することができる。
【0079】
加熱装置66は、発熱体66aを有し、発熱体66aの熱を用いて加工液を加熱してもよい。これにより、簡単に加工液を加熱することができる。
【0080】
加熱装置66Aは、ワイヤ放電加工機10の加工液の温度より高い所定の温度Tm以上の加工液をワイヤ放電加工機10に供給することで、ワイヤ放電加工機10内の加工液を加熱してもよい。これにより、簡単に加工液を加熱することができるとともに、ワイヤ放電加工機10内の加工液中に含まれる加工屑の濃度を減らすことができる。
【0081】
ワイヤ放電加工機10は、加熱装置66(または66A)を駆動制御する制御装置18をさらに備える。制御装置18は、オペレータによってワイヤ放電加工機10の電源をオフにする操作が行なわれると、加熱装置66(または66A)を駆動して加工液の加熱を開始する。そして、制御装置18は、加熱を開始してから所定の時間Tiが経過し、または、加工液の温度が所定の温度Tm以上になると加熱装置66(または66A)の駆動を停止して加工液の加熱を終了した後、ワイヤ放電加工機10の電源をオフにしてもよい。これにより、電源のオフによってフィルタ52が乾燥した場合であっても、フィルタ52の発火を防止することができる。また、電気代を節約することができるとともに、加工液の加熱によって放電加工の加工精度が低下することを防止することができる。
【0082】
制御装置18は、オペレータによってフィルタ52の交換を指示する操作が行なわれると、加熱装置66(または66A)を駆動して加工液の加熱を開始する。そして、制御装置18は、加熱を開始してから所定の時間Tiが経過し、または、加工液の温度が所定の温度Tm以上になると加熱装置66(または66A)の駆動を停止して加工液の加熱を終了した後、フィルタ52の交換が可能であることを表示部86に表示することで、オペレータに報知してもよい。これにより、加熱された後にフィルタ52が交換されるので、交換によって取り出された使用済のフィルタ52が乾燥によって発火することを防止することができる。また、電気代を節約することができるとともに、加工液の加熱によって放電加工の加工精度が低下することを防止することができる。
【0083】
ワイヤ放電加工機10は、加工液に含まれる加工屑の濃度を検出する濃度検出部70をさらに備える。制御装置18は、濃度検出部70により閾値以上の濃度が検出されると、加熱装置66(または66A)を駆動して加工液の加熱を開始する。そして、制御装置18は、加熱を開始してから所定の時間Tiが経過し、または、加工液の温度が所定の温度Tm以上になると加熱装置66(または66A)の駆動を停止して加工液の加熱を終了してもよい。このように、加工液を加熱しなければフィルタ52が発火する虞がある場合にだけ、加工液を加熱するので、電気代を節約することができるとともに、加工液の加熱によって放電加工の加工精度が低下することを防止することができる。
【0084】
制御装置18は、ワイヤ放電加工機10の動作を停止するアラームが発生した場合は、加熱装置66(または66A)を駆動して、加工液の加熱を開始する。そして、制御装置18は、加熱を開始してから所定の時間Tiが経過し、または、加工液の温度が所定の温度Tm以上になると加熱装置66(または66A)の駆動を停止して加工液の加熱を終了してもよい。これにより、電源のオフによってフィルタ52が乾燥した場合であっても、フィルタ52の発火を防止することができる。また、電気代を節約することができるとともに、加工液の加熱によって放電加工の加工精度が低下することを防止することができる。
【0085】
制御装置18は、オペレータによって選択された加工条件が、マグネシウムを含有する加工対象物を加工するための加工条件である場合は、加工液の加熱を許可してもよい。また、制御装置18は、オペレータによって選択された加工対象物の材料が、マグネシウムを含有する材料である場合は、加工液の加熱を許可してもよい。これにより、電気代を節約することができる。加工対象物がマグネシウムを含まない場合は、加工屑もマグネシウムを含まないので、加工液を加熱する必要がないからである。