特許第6408124号(P6408124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408124
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】フィルム巻層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/193 20060101AFI20181004BHJP
   H01L 41/45 20130101ALI20181004BHJP
   B32B 27/06 20060101ALI20181004BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20181004BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20181004BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20181004BHJP
   B32B 7/06 20060101ALI20181004BHJP
   C09J 7/25 20180101ALI20181004BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20181004BHJP
   C09J 7/40 20180101ALI20181004BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   H01L41/193
   H01L41/45
   B32B27/06
   B32B7/02 104
   B32B7/02 105
   B32B7/12
   B32B7/02 103
   B32B27/00 L
   B32B7/06
   C09J7/25
   C09J7/38
   C09J7/40
   C09J201/00
【請求項の数】18
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2017-503429(P2017-503429)
(86)(22)【出願日】2016年2月23日
(86)【国際出願番号】JP2016055297
(87)【国際公開番号】WO2016140110
(87)【国際公開日】20160909
【審査請求日】2017年6月1日
(31)【優先権主張番号】特願2015-40385(P2015-40385)
(32)【優先日】2015年3月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】谷本 一洋
(72)【発明者】
【氏名】小島 一記
(72)【発明者】
【氏名】北河 敏久
【審査官】 小山 満
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/054918(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/168188(WO,A1)
【文献】 特開2014−208432(JP,A)
【文献】 特開2003−108018(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0084204(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02672539(EP,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02985142(EP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0052244(US,A1)
【文献】 国際公開第2014/157232(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02979861(EP,A1)
【文献】 特開2014−086703(JP,A)
【文献】 特開2003−103910(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/002604(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/140110(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/00−41/47
B32B 27/06
B32B 7/02
B32B 7/06
B32B 7/12
B32B 27/00
C09J 7/25
C09J 7/38
C09J 7/40
C09J 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、DSC法で得られる結晶化度が20%〜80%であり、かつ、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が40〜700である高分子圧電フィルムと、
前記高分子圧電フィルムの少なくとも一方の主面上に設けられた機能層(X)と、
を有する積層フィルムがロール状に巻回してなり、
前記積層フィルムから前記機能層(X)を除去して得られた前記高分子圧電フィルムを、100℃で30分間加熱したときの寸法変化率が、MD方向に1.0%以下であり、
前記機能層(X)中の全窒素量は、0.05質量%〜10質量%であるフィルム巻層体。
【請求項2】
前記機能層(X)の酸価は、10mgKOH/g以下である請求項1に記載のフィルム巻層体。
【請求項3】
前記機能層(X)は、接着層である請求項1又は請求項2に記載のフィルム巻層体。
【請求項4】
前記機能層(X)の酸価は、0.01mgKOH/g以上である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のフィルム巻層体。
【請求項5】
前記機能層(X)は、前記高分子圧電フィルムに接触している請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のフィルム巻層体。
【請求項6】
前記積層フィルムは、前記高分子圧電フィルムと前記機能層(X)との間に、屈折率調整層、易接着層、ハードコート層、帯電防止層、及びアンチブロック層の少なくとも1つの層を有する請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のフィルム巻層体。
【請求項7】
前記高分子圧電フィルムは、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200〜60000の安定化剤(B)を、前記ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対して0.01質量部〜10質量部含む請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のフィルム巻層体。
【請求項8】
前記安定化剤(B)は、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200〜900の安定化剤(B1)と、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を1分子内に2以上有する重量平均分子量が1000〜60000の安定化剤(B2)と、を含む請求項に記載のフィルム巻層体。
【請求項9】
前記高分子圧電フィルムは、可視光線に対する内部ヘイズが50%以下であり、かつ、25℃において応力−電荷法で測定した圧電定数d14が1pC/N以上である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のフィルム巻層体。
【請求項10】
前記高分子圧電フィルムは、可視光線に対する内部ヘイズが13%以下であり、かつ、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200〜60000の安定化剤(B)を、前記ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対して0.01質量部〜2.8質量部含む請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のフィルム巻層体。
【請求項11】
前記ヘリカルキラル高分子(A)は、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載のフィルム巻層体。
【化1】
【請求項12】
前記ヘリカルキラル高分子(A)は、光学純度が95.00%ee以上である請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のフィルム巻層体。
【請求項13】
前記高分子圧電フィルム中における前記ヘリカルキラル高分子(A)の含有量は、80質量%以上である請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載のフィルム巻層体。
【請求項14】
前記積層フィルムは、さらに、前記機能層(X)から見て前記高分子圧電フィルムが配置されている側とは反対側に配置された離型フィルムと、を有する請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載のフィルム巻層体。
【請求項15】
前記積層フィルムは、MD方向の長さが10m以上である請求項14に記載のフィルム巻層体。
【請求項16】
請求項14又は請求項15に記載のフィルム巻層体の製造方法であって、
前記離型フィルムの主面に前記機能層(X)を形成するための機能層形成剤を付与して前記機能層(X)を形成する工程と、
前記機能層(X)から見て前記離型フィルムが配置されている側とは反対側にて、前記機能層(X)と前記高分子圧電フィルムとを貼り合わせて前記積層フィルムを形成する工程と、
形成した前記積層フィルムをロール状に巻回する工程と、
を含むフィルム巻層体の製造方法。
【請求項17】
請求項14又は請求項15に記載のフィルム巻層体の製造方法であって、
前記高分子圧電フィルムの少なくとも一方の主面に前記機能層(X)を形成するための機能層形成剤を塗布し、塗布した前記機能層形成剤を90℃以下の温度で乾燥させて機能層(X)を形成する工程と、
前記機能層(X)から見て前記高分子圧電フィルムが配置されている側とは反対側にて、前記機能層(X)と前記離型フィルムとを貼り合わせて前記積層フィルムを形成する工程と、
形成した前記積層フィルムをロール状に巻回する工程と、
を含むフィルム巻層体の製造方法。
【請求項18】
前記機能層(X)は接着層であり、前記機能層形成剤は接着剤である請求項16又は請求項17に記載のフィルム巻層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子圧電フィルムを有するフィルム巻層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(例えばポリ乳酸系高分子)を用いた高分子圧電材料が報告されている。
例えば、ポリ乳酸の成型物を延伸処理することで、常温で、10pC/N程度の圧電率を示す高分子圧電材料が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、ポリ乳酸結晶を高配向にするために、鍛造法と呼ばれる特殊な配向方法により18pC/N程度の高い圧電性を出すことも報告されている(例えば、特許文献2参照)。
特許文献1:特開平5−152638号公報
特許文献2:特開2005−213376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、高分子圧電体上には、高分子圧電体の保護や、高分子圧電体と他の部材(高分子フィルム、ガラス、電極等)との接着等を目的として、少なくとも一部が高分子圧電体に接触する層を設ける場合がある。かかる層としては、接着層が用いられる場合がある。
また、高分子圧電体を利用して実際にセンサやアクチュエータをデバイスとして製造する際、工業的にはロールトゥロールでの連続プロセスを採用することが生産性の観点から好ましい。そのためには高分子圧電体が長尺で巻き取られた回巻体(ロール体)を供給する必要がある。この時、高分子圧電体のロール体が接着層を備えていれば、後工程で接着層を形成する必要が無く、工程の簡略化が可能である。さらに、接着層を形成した状態でロールトゥロールでの連続プロセスを採用することができるため、デバイスを製造するまでのトータルの生産性が向上する。
ここで、ロールトゥロールの連続プロセスでは、ロール間の高分子圧電体にたわみが生じないようにする必要があり、高分子圧電体には工程の流れ方向(MD方向)に向かって張力が発生する。さらに、ポリ乳酸などの脂肪族系ポリエステル(ヘリカルキラル高分子)を含む高分子圧電体は耐熱性が低く、高分子圧電体に接着層を形成する工程で熱がかかると、張力によって高分子圧電体に伸びが生じ、高分子圧電体の寸法変化率を悪化させることがあり、あるいは、熱によりポリ乳酸などの脂肪族系ポリエステルが分解され、高分子圧電体の耐湿熱性を悪化させることがある。
また、高分子圧電体に圧電性を発現させるためには、分子鎖を一方向に配向させることが好ましいが、配向方向に引裂け易いという問題がある。
そのため、寸法変化率が悪化し、かつ、分子鎖が主に一方向に配向した高分子圧電体をデバイスとして利用しようとしたとき、高分子圧電体と積層する他部材との収縮差によって高分子圧電体にクラックが生じるおそれがある。
【0004】
本発明者は、鋭意検討の結果、ポリエステル(ヘリカルキラル高分子)を含む高分子圧電体と接着層等の機能層とを有する積層フィルムをロール状に巻回してなるフィルム巻層体では、ヘリカルキラル高分子を含む高分子圧電体の寸法変化率を小さくすることで、加熱したときの高分子圧電フィルムへのクラックの発生が抑制され、かつ、高分子圧電フィルムの耐湿熱性が向上することを見出した。
【0005】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、加熱したときの高分子圧電フィルムへのクラックの発生が抑制され、かつ、高分子圧電フィルムの耐湿熱性に優れるフィルム巻層体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を達成するための具体的手段は、例えば以下の通りである。
<1> 重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、DSC法で得られる結晶化度が20%〜80%であり、かつ、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が40〜700である高分子圧電フィルムと、前記高分子圧電フィルムの少なくとも一方の主面上に設けられた機能層(X)と、を有する積層フィルムがロール状に巻回してなり、前記積層フィルムから前記機能層(X)を除去して得られた前記高分子圧電フィルムを、100℃で30分間加熱したときの寸法変化率が、MD方向に1.0%以下であるフィルム巻層体。
<2> 前記機能層(X)の酸価は、10mgKOH/g以下である<1>に記載のフィルム巻層体。
<3> 前記機能層(X)は、接着層である<1>又は<2>に記載のフィルム巻層体。
<4> 前記機能層(X)の酸価は、0.01mgKOH/g以上である<1>〜<3>のいずれか1つに記載のフィルム巻層体。
<5> 前記機能層(X)中の全窒素量は、0.05質量%〜10質量%である、<1>〜<4>のいずれか1つに記載のフィルム巻層体。
<6> 前記機能層(X)は、前記高分子圧電フィルムに接触している<1>〜<5>のいずれか1つに記載のフィルム巻層体。
<7> 前記積層フィルムは、前記高分子圧電フィルムと前記機能層(X)との間に、屈折率調整層、易接着層、ハードコート層、帯電防止層、及びアンチブロック層の少なくとも1つの層を有する<1>〜<6>のいずれか1つに記載のフィルム巻層体。
<8> 前記高分子圧電フィルムは、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200〜60000の安定化剤(B)を、前記ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対して0.01質量部〜10質量部含む<1>〜<7>のいずれか1つに記載のフィルム巻層体。
<9> 前記安定化剤(B)は、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200〜900の安定化剤(B1)と、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を1分子内に2以上有する重量平均分子量が1000〜60000の安定化剤(B2)と、を含む<8>に記載のフィルム巻層体。
<10> 前記高分子圧電フィルムは、可視光線に対する内部ヘイズが50%以下であり、かつ、25℃において応力−電荷法で測定した圧電定数d14が1pC/N以上である<1>〜<9>のいずれか1つに記載のフィルム巻層体。
<11> 前記高分子圧電フィルムは、可視光線に対する内部ヘイズが13%以下であり、かつ、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200〜60000の安定化剤(B)を、前記ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対して0.01質量部〜2.8質量部含む<1>〜<10>のいずれか1つに記載のフィルム巻層体。
<12> 前記ヘリカルキラル高分子(A)は、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である<1>〜<11>のいずれか1つに記載のフィルム巻層体。
【0007】
【化1】
【0008】
<13> 前記ヘリカルキラル高分子(A)は、光学純度が95.00%ee以上である<1>〜<12>のいずれか1つに記載のフィルム巻層体。
<14> 前記高分子圧電フィルム中における前記ヘリカルキラル高分子(A)の含有量は、80質量%以上である<1>〜<13>のいずれか1つに記載のフィルム巻層体。
<15> 前記積層フィルムは、さらに、前記機能層(X)から見て前記高分子圧電フィルムが配置されている側とは反対側に配置された離型フィルムと、を有する<1>〜<14>のいずれか1つに記載のフィルム巻層体。
<16> 前記積層フィルムは、MD方向の長さが10m以上である<15>に記載のフィルム巻層体。
【0009】
<17> <15>又は<16>に記載のフィルム巻層体の製造方法であって、前記離型フィルムの主面に前記機能層(X)を形成するための機能層形成剤を付与して前記機能層(X)を形成する工程と、前記機能層(X)から見て前記離型フィルムが配置されている側とは反対側にて、前記機能層(X)と前記高分子圧電フィルムとを貼り合わせて前記積層フィルムを形成する工程と、形成した前記積層フィルムをロール状に巻回する工程と、を含むフィルム巻層体の製造方法。
<18> <15>又は<16>に記載のフィルム巻層体の製造方法であって、前記高分子圧電フィルムの少なくとも一方の主面に前記機能層(X)を形成するための機能層形成剤を塗布し、塗布した前記機能層形成剤を90℃以下の温度で乾燥させて機能層(X)を形成する工程と、前記機能層(X)から見て前記高分子圧電フィルムが配置されている側とは反対側にて、前記機能層(X)と前記離型フィルムとを貼り合わせて前記積層フィルムを形成する工程と、形成した前記積層フィルムをロール状に巻回する工程と、を含むフィルム巻層体の製造方法。
<19> 前記機能層(X)は接着層であり、前記機能層形成剤は接着剤である<17>又は<18>に記載のフィルム巻層体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加熱したときの高分子圧電フィルムへのクラックの発生が抑制され、かつ、高分子圧電フィルムの耐湿熱性に優れるフィルム巻層体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第一実施形態にて、離型フィルムに接着層を形成してフィルム巻層体を製造する方法を示す概略図である。
図2】本発明の第二実施形態にて、高分子圧電フィルムに接着層を形成してフィルム巻層体を製造する方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のフィルム巻層体の一実施形態について説明する。
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「フィルム」は、一般的に「フィルム」と呼ばれているものだけでなく、一般的に「シート」と呼ばれているものをも包含する概念である。
また、本明細書において、「(メタ)アクリル基」とは、アクリル基及びメタクリル基の少なくとも一方を表す。
【0013】
また、本明細書において、フィルム面とはフィルムの主面を意味している。ここで、「主面」とは、高分子圧電フィルムの表面の中で、最も面積の大きい面をいう。本発明で用いる高分子圧電フィルムは、主面を2つ以上有してもよい。例えば、高分子圧電フィルムが、10mm×0.3mm四方の面Aと、3mm×0.3mm四方の面Bと、10mm×3mm四方の面Cとをそれぞれ2面ずつ有する場合、当該高分子圧電フィルムの主面は面Cであり、2つの主面を有する。
なお、本明細書中において、「MD方向」とはフィルムの流れる方向(Machine Direction)であり、「TD方向」とは、前記MD方向と直交し、フィルムの主面と平行な方向(Transverse Direction)である。
【0014】
<フィルム巻層体>
本発明の一実施形態に係るフィルム巻層体は、重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、DSC法で得られる結晶化度が20%〜80%であり、かつ、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が40〜700である高分子圧電フィルムと、前記高分子圧電フィルムの少なくとも一方の主面上に設けられた機能層(X)と、を有する積層フィルムがロール状に巻回してなり、前記積層フィルムから前記機能層(X)を除去して得られた前記高分子圧電フィルムを、100℃で30分間加熱したときの寸法変化率が、MD方向に1.0%以下である。
【0015】
本実施形態に係るフィルム巻層体は、高分子圧電フィルムと、高分子圧電フィルムの少なくとも一方の主面上に設けられた機能層(X)と、を有する積層フィルムがロール状に巻回してなり、かつ、積層フィルムから機能層(X)を除去して得られた高分子圧電フィルムを、100℃で30分間加熱したときの寸法変化率が、MD方向に1.0%以下である。そのため、例えば、フィルム巻層体を用いて積層体を形成した場合に、加熱したときの高分子圧電フィルムへのクラックの発生が抑制され、かつ、高分子圧電フィルムに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の分解が抑制されており、高分子圧電フィルムの耐湿熱性に優れる。さらに、上記高分子圧電フィルムを、100℃で30分間加熱したときの寸法変化率がMD方向に1.0%以下であるため、寸法安定性に優れ、スピーカーやタッチパネルなどのデバイス等に組み込まれ使用される際に、寸法が変化しにくく、デバイス等の誤作動の発生が抑制される。
【0016】
また、本実施形態に係るフィルム巻層体は、高分子圧電フィルムを有し、この高分子圧電フィルムは、重量平均分子量(Mw)が、5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)(以下、「ヘリカルキラル高分子(A)」ともいう)を含む。ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量が、5万以上であることにより、ヘリカルキラル高分子(A)を成形体としたときの機械的強度が向上する。ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量が、100万以下であることにより、成形(例えば押出成形)によって高分子圧電フィルムを得る際の成形性が向上する。
【0017】
高分子圧電フィルムは、DSC法で得られる結晶化度が、20%〜80%である。このため、高分子圧電フィルムは、圧電性、透明性及び縦裂強度(特定方向についての引裂強さ)のバランスがよく、また高分子圧電フィルムを延伸するときに、白化や破断がおきにくく製造しやすい。
より詳細には、結晶化度が20%以上であることにより、高分子圧電フィルムの圧電性が高く維持され、結晶化度が80%以下であることにより、高分子圧電フィルムの縦裂強度及び透明性が低下することを抑制できる。
【0018】
高分子圧電フィルムは、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと結晶化度との積が40〜700である。この範囲に調整することで、高分子圧電フィルムの圧電性と透明性とのバランスが良好であり、かつ寸法安定性も高く、縦裂強度の低下が抑制される。
【0019】
[高分子圧電フィルム]
本実施形態に係るフィルム巻層体は、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、DSC法で得られる結晶化度が20%〜80%であり、かつ、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が40〜700である。
以下、高分子圧電フィルムの物性、高分子圧電フィルムに含まれる成分などについて詳細に説明する。
【0020】
〔光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)〕
本実施形態で用いる高分子圧電フィルムは、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含んでいる。光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)とは、分子構造が螺旋構造である分子光学活性を有し、重量平均分子量が5万〜100万である高分子をいう。
ヘリカルキラル高分子(A)としては、例えば、ポリペプチド、セルロース、セルロース誘導体、ポリ乳酸系高分子、ポリプロピレンオキシド、ポリ(β―ヒドロキシ酪酸)等を挙げることができる。前記ポリペプチドとしては、例えば、ポリ(グルタル酸γ−ベンジル)、ポリ(グルタル酸γ−メチル)等が挙げられる。前記セルロース誘導体としては、例えば、酢酸セルロース、シアノエチルセルロース等が挙げられる。
【0021】
ヘリカルキラル高分子(A)は、高分子圧電フィルムの圧電性を向上する観点から、光学純度が95.00%ee以上であることが好ましく、97.00%ee以上であることがより好ましく、99.00%ee以上であることがさらに好ましく、99.99%ee以上であることが特に好ましい。望ましくは100.00%eeである。ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度を上記範囲とすることで、圧電性を発現する高分子結晶のパッキング性が高くなり、その結果、圧電性が高くなるものと考えられる。
【0022】
本実施形態において、ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度は、下記式にて算出した値である。
光学純度(%ee)=100×|L体量−D体量|/(L体量+D体量)
すなわち、『「ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕との量差(絶対値)」を「ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕との合計量」で割った(除した)数値』に、『100』をかけた(乗じた)値を、光学純度とする。
【0023】
なお、ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いた方法により得られる値を用いる。具体的な測定の詳細については後述する。
【0024】
以上のヘリカルキラル高分子(A)の中でも、光学純度を上げ、圧電性を向上させる観点から、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有する高分子が好ましい。
【0025】
【化2】
【0026】
前記式(1)で表される繰り返し単位を主鎖とする化合物としては、ポリ乳酸系高分子が挙げられる。中でも、ポリ乳酸が好ましく、L−乳酸のホモポリマー(PLLA)又はD−乳酸のホモポリマー(PDLA)が最も好ましい。
【0027】
前記ポリ乳酸系高分子とは、「ポリ乳酸」、「L−乳酸又はD−乳酸と、共重合可能な多官能性化合物とのコポリマー」、又は、両者の混合物をいう。前記「ポリ乳酸」は、乳酸がエステル結合によって重合し、長く繋がった高分子であり、ラクチドを経由するラクチド法、溶媒中で乳酸を減圧下加熱し、水を取り除きながら重合させる直接重合法などによって製造できることが知られている。前記「ポリ乳酸」としては、L−乳酸のホモポリマー、D−乳酸のホモポリマー、L−乳酸及びD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むブロックコポリマー、L−乳酸及びD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むグラフトコポリマーが挙げられる。
【0028】
前記「共重合可能な多官能性化合物」としては、グリコール酸、ジメチルグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、3−ヒドロキシカプロン酸、4−ヒドロキシカプロン酸、5−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシメチルカプロン酸、マンデル酸等のヒドロキシカルボン酸、グリコリド、β−メチル−δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等の環状エステル、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テレフタル酸等の多価カルボン酸、これらの無水物、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、1,4−ヘキサンジメタノール等の多価アルコール、セルロース等の多糖類、α−アミノ酸等のアミノカルボン酸等を挙げることができる。
【0029】
上記「共重合可能な多官能性化合物」としては、例えば、国際公開第2013/054918号パンフレットの段落0028に記載の化合物が挙げられる。
【0030】
前記「L−乳酸又はD−乳酸と、共重合可能な多官能性化合物とのコポリマー」としては、らせん結晶を生成可能なポリ乳酸シーケンスを有する、ブロックコポリマー又はグラフトコポリマーが挙げられる。
【0031】
また、ヘリカルキラル高分子(A)中のコポリマー成分に由来する構造の濃度は20mol%以下であることが好ましい。例えば、ヘリカルキラル高分子(A)がポリ乳酸系高分子の場合、ポリ乳酸系高分子中の乳酸に由来する構造と、乳酸と共重合可能な化合物(コポリマー成分)に由来する構造と、のモル数の合計に対して、前記コポリマー成分が20mol%以下であることが好ましい。
【0032】
ヘリカルキラル高分子(A)(例えばポリ乳酸系高分子)は、例えば、特開昭59−096123号公報、及び特開平7−033861号公報に記載されている乳酸を直接脱水縮合して得る方法や、米国特許2,668,182号及び4,057,357号等に記載されている乳酸の環状二量体であるラクチドを用いて開環重合させる方法などにより製造することができる。
さらに、前記の各製造方法により得られたヘリカルキラル高分子(A)(例えばポリ乳酸系高分子)は、光学純度を95.00%ee以上とするために、例えば、ポリ乳酸をラクチド法で製造する場合、晶析操作により光学純度を95.00%ee以上の光学純度に向上させたラクチドを、重合することが好ましい。
【0033】
≪ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量≫
本実施形態で用いるヘリカルキラル高分子(A)は、重量平均分子量(Mw)が、5万〜100万である。
ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量が、5万以上であることにより、ヘリカルキラル高分子(A)を成形体としたときの機械的強度が向上する。ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量は、成形体としたときの機械的強度をより向上させる観点から、10万以上であることが好ましく、15万以上であることがさらに好ましい。
一方、ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量が、100万以下であることにより、成形(例えば押出成形)によって高分子圧電フィルムを得る際の成形性が向上する。ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量は、高分子圧電フィルムを得る際の成形性をより向上させる観点から、80万以下であることが好ましく、30万以下であることがさらに好ましい。
【0034】
また、ヘリカルキラル高分子(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、高分子圧電フィルムの強度の観点から、1.1〜5であることが好ましく、1.2〜4であることがより好ましい。さらに1.4〜3であることが好ましい。なお、ヘリカルキラル高分子(A)(例えば、ポリ乳酸系高分子)の重量平均分子量Mwと、分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、下記GPC測定方法により、測定される。
【0035】
−GPC測定装置−
Waters社製GPC−100
−カラム−
昭和電工株式会社製、Shodex LF−804
−サンプルの調製−
ヘリカルキラル高分子(A)を40℃で溶媒(例えば、クロロホルム)へ溶解させ、濃度1mg/mLのサンプル溶液を準備する。
−測定条件−
サンプル溶液0.1mLを溶媒〔クロロホルム〕、温度40℃、1mL/分の流速でカラムに導入する。
【0036】
カラムで分離されたサンプル溶液中のサンプル濃度を示差屈折計で測定する。ポリスチレン標準試料にてユニバーサル検量線を作成し、ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を算出する。
【0037】
ヘリカルキラル高分子(A)の例であるポリ乳酸系高分子としては、市販のポリ乳酸を用いてもよい。市販のポリ乳酸としては、例えば、PURAC社製のPURASORB(PD、PL)、三井化学株式会社製のLACEA(H−100、H−400)、NatureWorks LLC社製のIngeoTM biopolymer、等が挙げられる。
【0038】
ヘリカルキラル高分子(A)としてポリ乳酸系高分子を用いるとき、ポリ乳酸系高分子の重量平均分子量(Mw)を5万以上とするためには、ラクチド法、又は直接重合法によりヘリカルキラル高分子(A)を製造することが好ましい。
【0039】
本実施形態で用いる高分子圧電フィルムは、既述のヘリカルキラル高分子(A)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
本実施形態で用いる高分子圧電フィルムについて、ヘリカルキラル高分子(A)の含有量(2種以上である場合には総含有量。以下同じ。)には特に制限はないが、高分子圧電フィルム全質量に対して、80質量%以上であることが好ましい。
上記含有量が80質量%以上であることにより、圧電定数がより大きくなる傾向がある。
【0040】
≪MD寸法変化率≫
本実施形態に係るフィルム巻層体では、積層フィルムから機能層(X)を除去して得られた高分子圧電フィルムを、100℃で30分間加熱したときのMD方向の寸法変化率(MD寸法変化率)が、1.0%以下である。寸法変化率が小さいほど寸法安定性が高いことを示す。MD方向の寸法変化率は、以下のようにして求められる。
まず、積層フィルムから機能層(X)を除去し、延伸方向(MD方向)に50mm、延伸方向と直交する方向(TD方向)に50mmカットして、50mm×50mmの矩形フィルムを切り出す。なお、積層フィルムが離型フィルム、他の層等を有する場合には、機能層(X)とともに離型フィルム、他の層等も除去する。この矩形フィルムを100℃にセットしたオーブン中に吊り下げて、30分間アニール処理する。その後、アニール処理前後のMD方向のフィルム矩形辺長の寸法を高精度デジタル測長機(株式会社ミツトヨ製、ライトマチックVL−50AS)で測定する。そして、下式に従い、寸法変化率(%)を算出し、寸法安定性を評価する。
(式)寸法変化率(%)=100×|(アニール前のMD方向の辺長)−(アニール後のMD方向の辺長)|/(アニール前のMD方向の辺長)
【0041】
上記MD方向の寸法変化率は、寸法安定性をより高める観点から、0.9%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましい。
【0042】
≪結晶化度≫
高分子圧電フィルムの結晶化度は、DSC法によって求められるものである。高分子圧電フィルムの結晶化度は20%〜80%であり、30%〜70%が好ましく、35%〜60%がより好ましい。前記範囲に結晶化度があれば、高分子圧電フィルムの圧電性、透明性、縦裂強度のバランスがよく、また高分子圧電フィルムを延伸するときに、白化や破断がおきにくく製造しやすい。
結晶化度が20%以上であることにより、高分子圧電フィルムの圧電性が高く維持される。
また、結晶化度が80%以下であることにより、縦裂強度及び透明性が低下することを抑制できる。
【0043】
例えば、高分子圧電フィルムを製造する際の結晶化及び延伸の条件を調整することにより、高分子圧電フィルムの結晶化度を20%〜80%の範囲に調整することができる。
【0044】
≪規格化分子配向MORc≫
高分子圧電フィルムの規格化分子配向MORcは、2.0〜15.0であることが好ましい。規格化分子配向MORcは、ヘリカルキラル高分子(A)の配向の度合いを示す指標である「分子配向度MOR」に基づいて定められる値である。規格化分子配向MORcが2.0以上であれば、延伸方向に配列するヘリカルキラル高分子(A)の分子鎖(例えばポリ乳酸分子鎖)が多く、その結果、配向結晶の生成する率が高くなり、高分子圧電フィルムはより高い圧電性を発現することが可能となる。規格化分子配向MORcが15.0以下であれば、高分子圧電フィルムの縦裂強度が更に向上する。
【0045】
ここで、分子配向度MOR(Molecular Orientation Ratio)は、以下のようなマイクロ波測定法により測定される。すなわち、高分子圧電フィルムを、周知のマイクロ波透過型分子配向計(マイクロ波分子配向度測定装置ともいう)のマイクロ波共振導波管中に、マイクロ波の進行方向に高分子圧電フィルムの面(フィルム面)が垂直になるように配置する。そして、振動方向が一方向に偏ったマイクロ波を試料に連続的に照射した状態で、高分子圧電フィルムをマイクロ波の進行方向と垂直な面内で0〜360°回転させて、試料を透過したマイクロ波強度を測定することにより分子配向度MORを求める。
【0046】
規格化分子配向MORcは、基準厚さtcを50μmとしたときの分子配向度MORであって、下記式により求めることができる。
MORc=(tc/t)×(MOR−1)+1
(tc:補正したい基準厚さ、t:高分子圧電フィルムの厚さ)
規格化分子配向MORcは、公知の分子配向計、例えば王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA−2012AやMOA−6000等により、4GHzもしくは12GHz近傍の共振周波数で測定することができる。
【0047】
高分子圧電フィルムは、規格化分子配向MORcが3.0〜15.0であることがより好ましく、3.5〜10.0であることがさらに好ましく、4.0〜8.0であることが特に好ましい。
また、高分子圧電フィルムと中間層との密着性をより向上させる観点からは、規格化分子配向MORcは、7.0以下であることが好ましい。
【0048】
規格化分子配向MORcは、例えば、高分子圧電フィルムが延伸フィルムである場合には、延伸前の加熱処理条件(加熱温度及び加熱時間)、延伸の条件(延伸倍率、延伸温度及び延伸速度)等によって制御されうる。
【0049】
なお、規格化分子配向MORcは、位相差量(レターデーション)をフィルムの厚さで除した複屈折率Δnに変換することもできる。具体的には、レターデーションは大塚電子株式会社製RETS100を用いて測定することができる。またMORcとΔnとは大凡、直線的な比例関係にあり、かつΔnが0の場合、MORcは1になる。
例えば、ヘリカルキラル高分子(A)がポリ乳酸系高分子であり、かつ、高分子圧電フィルムの複屈折率Δnを測定波長550nmで測定した場合、規格化分子配向MORcが2.0であれば、複屈折率Δn 0.005に変換でき、規格化分子配向MORcが4.0であれば、複屈折率Δn 0.01に変換できる。
【0050】
≪規格化分子配向MORcと結晶化度との積≫
本実施形態において、高分子圧電フィルムの結晶化度と規格化分子配向MORcとの積は40〜700である。この範囲に調整することで、高分子圧電フィルムの圧電性と透明性とのバランスが良好であり、かつ寸法安定性も高く、縦裂強度の低下が抑制される。
高分子圧電フィルムの規格化分子配向MORcと結晶化度との積は、より好ましくは40〜600、さらに好ましくは100〜500、特に好ましくは125〜400、特に好ましくは150〜300である。
【0051】
例えば、高分子圧電フィルムを製造する際の結晶化及び延伸の条件を調整することにより、上記の積を上記範囲に調整することができる。
【0052】
また、規格化分子配向MORcは、高分子圧電フィルムを製造する際の結晶化の条件(例えば、加熱温度及び加熱時間)及び延伸の条件(例えば、延伸倍率、延伸温度及び延伸速度)によって制御されうる。
【0053】
≪圧電定数d14(応力−電荷法)≫
高分子圧電フィルムの圧電性は、例えば、高分子圧電フィルムの圧電定数d14を測定することによって評価することができる。
以下、応力−電荷法による圧電定数d14の測定方法の一例について説明する。
【0054】
まず、高分子圧電フィルムを、延伸方向(MD方向)に対して45°なす方向に150mm、45°なす方向に直交する方向に50mmにカットして、矩形の試験片を作製する。次に、株式会社昭和真空製のSIP−600の試験台に得られた試験片をセットし、アルミニウム(以下、Alとする)の蒸着厚が約50nmとなるように、試験片の一方の面にAlを蒸着する。次いで試験片の他方の面に同様に蒸着して、試験片の両面にAlを被覆し、Alの導電層を形成する。
【0055】
両面にAlの導電層が形成された150mm×50mmの試験片を、高分子圧電フィルムの延伸方向(MD方向)に対して45°なす方向に120mm、45°なす方向に直交する方向に10mmにカットして、120mm×10mmの矩形のフィルムを切り出す。これを、圧電定数測定用サンプルとする。
【0056】
得られたサンプルを、チャック間距離70mmとした引張試験機(AND社製、TENSILON RTG−1250)に、弛まないようにセットする。クロスヘッド速度5mm/minで、印加力が4Nと9N間を往復するように周期的に力を加える。このとき印加力に応じてサンプルに発生する電荷量を測定するため、静電容量Qm(F)のコンデンサーをサンプルに並列に接続し、このコンデンサーCm(95nF)の端子間電圧Vを、バッファアンプを介して測定する。以上の測定は25℃の温度条件下で行う。発生電荷量Q(C)は、コンデンサー容量Cmと端子間電圧Vmとの積として計算する。圧電定数d14は下式により計算される。
14=(2×t)/L×Cm・ΔVm/ΔF
t:サンプル厚(m)
L:チャック間距離(m)
Cm:並列接続コンデンサー容量(F)
ΔVm/ΔF:力の変化量に対する、コンデンサー端子間の電圧変化量比
【0057】
圧電定数d14は高ければ高いほど、高分子圧電フィルムに印加される電圧に対する高分子圧電フィルムの変位、逆に高分子圧電フィルムに印加される力に対し発生する電圧が大きくなり、高分子圧電フィルムとしては有用である。
具体的には、本実施形態における高分子圧電フィルムにおいて、25℃における応力−電荷法で測定した圧電定数d14は、1pC/N以上が好ましく、3pC/N以上がより好ましく、5pC/N以上がさらに好ましく、6pC/N以上が特に好ましい。また圧電定数d14の上限は特に限定されないが、透明性などのバランスの観点からは、ヘリカルキラル高分子を用いた高分子圧電フィルムでは50pC/N以下が好ましく、30pC/N以下がより好ましい。
また、同様に透明性とのバランスの観点からは共振法で測定した圧電定数d14が15pC/N以下であることが好ましい。
【0058】
≪透明性(内部ヘイズ)≫
本実施形態で用いる高分子圧電フィルムの透明性は、例えば、目視観察やヘイズ測定により評価することができる。
高分子圧電フィルムは、可視光線に対する内部ヘイズ(以下、単に「内部ヘイズ」ともいう)が50%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、13%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることがさらに好ましく、2.0%以下であることが特に好ましく、1.0%以下であることがもっとも好ましい。
本実施形態で用いる高分子圧電フィルムの内部ヘイズは、低ければ低いほどよいが、圧電定数などとのバランスの観点からは、0.01%〜15%であることが好ましく、0.01%〜10%であることがより好ましく、0.1%〜5%であることがさらに好ましく、0.1%〜1.0%であることが特に好ましい。
【0059】
本実施形態において、「内部ヘイズ」とは、高分子圧電フィルムの外表面の形状によるヘイズを除外したヘイズを指す。
また、ここでいう「内部ヘイズ」は、高分子圧電フィルムに対して、JIS−K7105に準拠して、25℃で測定したときの値である。
【0060】
より詳細には、内部ヘイズ(以下、「内部ヘイズH1」ともいう)は、以下のようにして測定された値を指す。
即ち、まず、シリコーンオイルで満たした光路長10mmのセルについて、光路長方向のヘイズ(以下、「ヘイズH2」ともいう)を測定した。次いで、このセルのシリコーンオイルに高分子圧電フィルムを、セルの光路長方向とフィルムの法線方向とが平行となるように浸漬させ、高分子圧電フィルムが浸漬されたセルの光路長方向のヘイズ(以下、「ヘイズH3」ともいう)を測定する。ヘイズH2及びヘイズH3は、いずれもJIS−K7105に準拠して25℃で測定する。
測定されたヘイズH2及びヘイズH3に基づき、下記式に従って内部ヘイズH1を求める。
内部ヘイズ(H1)=ヘイズ(H3)−ヘイズ(H2)
【0061】
ヘイズH2及びヘイズH3の測定は、例えばヘイズ測定機〔東京電色社製、TC−HIII DPK〕を用いて行うことができる。
また、シリコーンオイルとしては、例えば、信越化学工業株式会社製の「信越シリコーン(商標)、型番KF−96−100CS」を用いることができる。
【0062】
また、高分子圧電フィルムの厚さには特に制限はないが、10μm〜400μmが好ましく、20μm〜200μmがより好ましく、20μm〜100μmが更に好ましく、20μm〜80μmが特に好ましい。
【0063】
〔安定化剤(B)〕
本実施形態で用いる高分子圧電フィルムは、安定化剤(B)として、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200〜60000の化合物を含有してもよい。これにより、高分子圧電フィルムの耐湿熱性がより向上する。
更に、高分子圧電フィルムは、安定化剤(B)として、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を1分子内に1つ有することが好ましい。
安定化剤(B)としては、国際公開第2013/054918号の段落0039〜0055に記載された「安定化剤(B)」を用いることができる。
【0064】
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にカルボジイミド基を含む化合物(カルボジイミド化合物)としては、モノカルボジイミド化合物、ポリカルボジイミド化合物、環状カルボジイミド化合物が挙げられる。
モノカルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、等が好適である。
また、ポリカルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができる。従来のポリカルボジイミドの製造方法(例えば、米国特許第2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.0rg.Chem.28,2069−2075(1963)、Chemical Review 1981,Vol.81 No.4、p619−621)により、製造されたものを用いることができる。具体的には特許4084953号公報に記載のカルボジイミド化合物を用いることもできる。
ポリカルボジイミド化合物としては、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド、等が挙げられる。
環状カルボジイミド化合物は、特開2011−256337号公報、特開2013−256485号公報に記載の方法などに基づいて合成することができる。
カルボジイミド化合物としては、市販品を用いてもよく、例えば、東京化成工業株式会社製、B2756(商品名)、日清紡ケミカル株式会社製、カルボジライトLA−1、ラインケミー社製、Stabaxol P、Stabaxol P400、Stabaxol I(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0065】
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)としては、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピル、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、等が挙げられる。
【0066】
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にエポキシ基を含む化合物(エポキシ化合物)としては、フェニルグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン等が挙げられる。
【0067】
安定化剤(B)の重量平均分子量は、上述のとおり200〜60000であるが、200〜30000がより好ましく、300〜18000がさらに好ましい。
安定化剤(B)の重量平均分子量が上記範囲内であると、安定化剤がより移動しやすくなり、耐湿熱性の改良効果がより効果的に奏される。
安定化剤(B)の重量平均分子量は、200〜900であることが特に好ましい。なお、重量平均分子量200〜900は、数平均分子量200〜900とほぼ一致する。また、重量平均分子量200〜900の場合、分子量分布が1.0である場合があり、この場合には、「重量平均分子量200〜900」を、単に「分子量200〜900」と言い換えることもできる。
【0068】
高分子圧電フィルムが安定化剤(B)を含有する場合、高分子圧電フィルムは、安定化剤(B)を1種のみ含有してもよいし、2種以上含有してもよい。
高分子圧電フィルムがヘリカルキラル高分子(A)及び安定化剤(B)を含む場合、安定化剤(B)の含有量(2種以上である場合には総含有量。以下同じ。)は、ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対し、0.01質量部〜10質量部であることが好ましく、0.01質量部〜5質量部であることがより好ましく、0.01質量部〜3質量部であることがさらに好ましく、0.01質量部〜2.8質量部であることがさらに好ましく、0.1質量部〜2.8質量部であることがさらに好ましく、0.5質量部〜2質量部であることが特に好ましい。
上記含有量が0.01質量部以上であると、耐湿熱性がより向上する。
また、上記含有量が10質量部以下であると、透明性の低下がより抑制される。
【0069】
安定化剤(B)の好ましい態様としては、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を有し、かつ、数平均分子量が200〜900の安定化剤(B1)と、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を1分子内に2以上有し、かつ、重量平均分子量が1000〜60000の安定化剤(B2)と、を併用するという態様が挙げられる。なお、数平均分子量が200〜900の安定化剤(B1)の重量平均分子量は、大凡200〜900であり、安定化剤(B1)の数平均分子量と重量平均分子量とはほぼ同じ値となる。
安定化剤(B)として安定化剤(B1)と安定化剤(B2)とを併用する場合、安定化剤(B1)を多く含むことが透明性向上の観点から好ましい。
具体的には、安定化剤(B1)100質量部に対して、安定化剤(B2)が10質量部〜150質量部の範囲であることが、透明性と耐湿熱性の両立という観点から好ましく、30質量部〜100質量部の範囲であることがより好ましく、50質量部〜100質量部の範囲であることが特に好ましい。
【0070】
本実施形態で用いられる高分子圧電フィルムは、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を有し、かつ、重量平均分子量が200〜60000の安定化剤(B)を、ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対して0.01質量部〜10質量部含むことがより好ましい。
本実施形態で用いられる高分子圧電フィルムは、可視光線に対する内部ヘイズが13%以下であり、かつ、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を有し、かつ、重量平均分子量が200〜60000の安定化剤(B)を、ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対して0.01質量部〜2.8質量部含むことがさらに好ましい。これにより、高分子圧電フィルムは、圧電性、透明性及び耐湿熱性のバランスにより優れる。
【0071】
以下、安定化剤(B)の具体例(安定化剤SS−1〜SS−3)を示す。
【0072】
【化3】

【0073】
以下、上記安定化剤SS−1〜SS−3について、化合物名、市販品等を示す。
・安定化剤SS−1 … 化合物名は、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドである。重量平均分子量(この例では、単なる「分子量」に等しい)は、363である。市販品としては、ラインケミー社製「Stabaxol I」、東京化成工業株式会社製「B2756」が挙げられる。
・安定化剤SS−2 … 化合物名は、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)である。市販品としては、重量平均分子量約2000のものとして、日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトLA−1」が挙げられる。
・安定化剤SS−3 … 化合物名は、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド)である。市販品としては、重量平均分子量約3000のものとして、ラインケミー社製「Stabaxol P」が挙げられる。また、重量平均分子量20000のものとして、ラインケミー社製「Stabaxol P400」が挙げられる。
【0074】
(酸化防止剤)
また、本実施形態で用いる高分子圧電フィルムは、酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、ホスファイト系化合物及びチオエーテル系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
また、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系化合物又はヒンダードアミン系化合物を用いることがより好ましい。これにより、耐湿熱性及び透明性にも優れる高分子圧電フィルムを提供することができる。
【0075】
(その他の成分)
本実施形態で用いる高分子圧電フィルムは、本発明の効果を損なわない限度において、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン樹脂やポリスチレン樹脂に代表される公知の樹脂や、シリカ、ヒドロキシアパタイト、モンモリロナイト等の無機フィラー、フタロシアニン等の公知の結晶核剤等、その他の成分を含有していてもよい。
なお、高分子圧電フィルムがヘリカルキラル高分子(A)以外の成分を含む場合、ヘリカルキラル高分子(A)以外の成分の含有量は、高分子圧電フィルム全質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0076】
本実施形態で用いる高分子圧電フィルムは、本発明の効果を損なわない限度において、既述のヘリカルキラル高分子(A)(即ち、重量平均分子量(Mw)が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A))以外の光学活性を有するヘリカルキラル高分子を含んでいてもよい。
【0077】
なお、高分子圧電フィルムは、透明性の観点からは、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)以外の成分を含まないことが好ましい。
【0078】
−高分子圧電フィルムの製造方法−
本実施形態で用いる高分子圧電フィルムを製造する方法としては、結晶化度を20%〜80%に調整でき、かつ、規格化分子配向MORcと結晶化度との積を40〜700に調整できる方法であれば特に制限されない。
この方法として、例えば、ヘリカルキラル高分子(A)を含む組成物をフィルム状に成形する工程(成形工程)と、成形されたフィルムを延伸する工程(延伸工程)と、を含む方法によって好適に製造することができる。例えば、国際公開第2013/054918号の段落0065〜0099に記載の製造方法が挙げられる。
【0079】
(成形工程)
成形工程は、ヘリカルキラル高分子(A)と、必要に応じ安定化剤(B)等のその他の成分と、を含む組成物を、ヘリカルキラル高分子(A)の融点Tm(℃)以上の温度に加熱してフィルム形状に成形する工程である。この成形工程により、ヘリカルキラル高分子(A)と、必要に応じ安定化剤(B)等のその他の成分と、を含むフィルムが得られる。
【0080】
なお、本明細書中において、ヘリカルキラル高分子(A)の融点Tm(℃)、及び、ヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移温度(Tg)は、それぞれ、示差走査型熱量計(DSC)を用い、昇温速度10℃/分の条件でヘリカルキラル高分子(A)の温度を上昇させたときの融解吸熱曲線から求めた値を指す。融点(Tm)は、吸熱反応のピーク値として得られる値である。ガラス転移温度(Tg)は、溶融吸熱曲線の屈曲点として得られる値である。
【0081】
上記組成物は、ヘリカルキラル高分子(A)と、必要に応じ安定化剤(B)等のその他の成分と、を混合することにより製造することができる。
上記混合は、溶融混練であってもよい。
具体的には、上記組成物は、ヘリカルキラル高分子(A)と、必要に応じ安定化剤(B)等のその他の成分と、を溶融混練機〔例えば、東洋精機製作所製のラボプラストミル〕に投入し、ヘリカルキラル高分子(A)の融点以上の温度に加熱して溶融混練することにより製造してもよい。この場合、本工程では、ヘリカルキラル高分子(A)の融点以上の温度に加熱して溶融混練することによって製造された組成物を、ヘリカルキラル高分子(A)の融点以上の温度に維持した状態でフィルム形状に成形する。
溶融混練の条件としては、例えば、ミキサー回転数30rpm〜70rpm、温度180℃〜250℃、混練時間5分間〜20分間、といった条件が挙げられる。
【0082】
本成形工程において、組成物をフィルム状に成形する方法としては、溶融押出成形、プレス成形、射出成形、カレンダー成形、キャスト法による成形方法が使用される。また、Tダイ押出成形法などによりフィルム状に成形してもよい。
【0083】
Tダイ押出成形法により組成物をフィルム状に成形する場合、例えば、押出温度を、200℃〜230℃に調整することが好ましく、220℃〜230℃に調整することがより好ましい。
【0084】
成形工程では、組成物を上記温度に加熱し成形してフィルムとし、得られたフィルムを急冷してもよい。急冷により、本工程で得られるフィルムの結晶化度を調整することができる。
ここで、「急冷」とは、押出した直後に少なくともヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移温度Tg以下に冷やすことをいう。
本実施形態では、フィルムへの成形と急冷との間に他の処理が含まれないことが好ましい。
【0085】
急冷の方法は、水、氷水、エタノール、ドライアイスを入れたエタノール又はメタノール、液体窒素などの冷媒にフィルムを浸漬する方法;蒸気圧の低い液体スプレーをフィルムに吹き付け、蒸発潜熱によりフィルムを冷却する方法;等が挙げられる。
【0086】
また、連続的にフィルムを冷却するには、ヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移温度Tg以下の温度に管理された金属ロールとフィルムとを接触させるなどして、急冷することもできる。
また、冷却の回数は、1回のみであっても、2回以上であってもよい。
【0087】
成形工程で得られるフィルム(即ち、後述の延伸工程に供されるフィルム)は、非晶状態のフィルムであってもよいし、予備結晶化されたフィルム(以下、「予備結晶化フィルム」ともいう)であってもよい。
ここで、非晶状態のフィルムとは、結晶化度が3%未満であるフィルムをいう。
また、予備結晶化フィルムとは、結晶化度が3%以上(好ましくは3%〜70%)であるフィルムを指す。
ここで、結晶化度は、高分子圧電フィルムの結晶化度と同様の方法によって測定される値を指す。
【0088】
成形工程で得られるフィルム(非晶状態のフィルム、又は、予備結晶化フィルム)の厚さは、最終的に得られる高分子圧電フィルムの厚さと延伸倍率によって主に決められるが、好ましくは50μm〜1000μmであり、より好ましくは100μm〜800μm程度である。
【0089】
予備結晶化フィルムは、ヘリカルキラル高分子(A)と、必要に応じ安定化剤(B)等のその他の成分と、を含む非晶状態のフィルムを加熱処理して結晶化させることで得ることができる。
非晶状態のフィルムを予備結晶化するための加熱温度Tは特に限定されないが、製造される高分子圧電フィルムの圧電性や透明性など高める点で、ヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移温度Tgと以下の式の関係を満たし、結晶化度が3%〜70%になるように設定されることが好ましい。
Tg−40℃≦T≦Tg+40℃
(Tgは、ヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移温度を表す)
【0090】
非晶状態のフィルムを予備結晶化するための加熱時間は、最終的に得られる高分子圧電フィルムの、規格化分子配向MORcや結晶化度を考慮して適宜設定できる。
上記加熱時間は、5秒〜60分が好ましい。加熱時間が長くなるに従い、上記規格化分子配向MORcが高くなり、上記結晶化度が高くなる傾向となる。
例えば、ヘリカルキラル高分子(A)としてポリ乳酸系高分子を含む非晶状態のフィルムを予備結晶化する場合は、20℃〜170℃で、5秒〜60分加熱することが好ましい。
【0091】
非晶状態のフィルムを予備結晶化するには、例えば、上記の温度範囲に調整されたキャストロールを用いることができる。この予備結晶化用のキャストロールに、前述の静電密着法を利用して、高分子圧電フィルムを密着させて、予備結晶化するとともに、厚さのピークを調整することができる。例えば、フィルム全面を密着させるワイヤーピンニングを採用する場合、電極の位置の調整や材質、印加電圧等により、厚さのピークを調整することができる。
【0092】
(延伸工程)
延伸工程は、成形工程において得られたフィルム(例えば予備結晶化フィルム)を主として一軸方向に延伸する工程である。本工程により、延伸フィルムとして、主面の面積が大きな高分子圧電フィルムを得ることができる。
なお、主面の面積が大きいとは、高分子圧電フィルムの主面の面積が5mm以上であることをいう。また、主面の面積が10mm以上であることが好ましい。
【0093】
また、フィルムを主として一軸方向に延伸することで、フィルムに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の分子鎖を、一方向に配向させ、かつ高密度に整列させることができ、より高い圧電性が得られると推測される。連続プロセスにて一軸方向に延伸する方法としてはプロセスの流れ方向(MD方向)と延伸方向が一致した縦延伸であっても、プロセスの流れ方向に垂直な方向(TD方向)と延伸方向が一致した横延伸であっても良い。
【0094】
フィルムの延伸温度は、一軸方向への延伸のように引張力のみでフィルムを延伸する場合、フィルム(又は、フィルム中のヘリカルキラル高分子(A))のガラス転移温度より10℃〜20℃程度高い温度範囲であることが好ましい。
【0095】
延伸処理における延伸倍率(主延伸倍率)は、2倍〜10倍が好ましく、3倍〜5倍がより好ましく、3倍〜4倍が更に好ましい。これにより、より高い圧電性及び透明性を有する高分子圧電フィルムが得られる。
【0096】
なお、延伸工程において、圧電性を高めるための延伸(主延伸)をする際に、同時に又は逐次的に、前記主延伸の方向と交差(好ましくは、直交)する方向に成形工程において得られたフィルム(例えば、予備結晶化フィルム)を延伸(副次的延伸ともいう)してもよい。
なお、ここで言う「逐次的な延伸」とは、まず一軸方向に延伸した後に、前記延伸の方向と交差する方向に延伸する延伸方法をいう。
延伸工程にて副次的延伸を行なう場合、副次的延伸の延伸倍率は、1倍〜3倍が好ましく、1.1倍〜2.5倍がより好ましく、1.2倍〜2.0倍がさらに好ましい。これにより、高分子圧電フィルムの引裂強さをより高めることができる。
【0097】
延伸工程において、予備結晶化フィルムの延伸を行なう場合には、延伸直前にフィルムを延伸しやすくするために予熱を行なってもよい。この予熱は、一般的には延伸前のフィルムを軟らかくし延伸しやすくするために行なわれるものであるため、前記延伸前のフィルムを結晶化してフィルムを硬くすることがない条件で行なわれるのが通常である。しかし、上述したように本実施形態においては、延伸前に予備結晶化を行なう場合があるため、前記予熱を、予備結晶化を兼ねて行なってもよい。具体的には、予備結晶化工程における加熱温度や加熱処理時間に合わせて、予熱を通常行なわれる温度よりも高い温度や長い時間行なうことで、予熱と予備結晶化を兼ねることができる。
【0098】
(アニール工程)
本実施形態の製造方法は、必要に応じ、アニール工程を有していてもよい。
アニール工程は、上記延伸工程において延伸されたフィルム(以下、「延伸フィルム」ともいう)を、アニール(熱処理)する工程である。アニール工程により、延伸フィルムの結晶化をより進行させることができ、より圧電性が高い高分子圧電フィルムを得ることができる。
また、主に、アニールによって延伸フィルムが結晶化する場合は、前述の成形工程における、予備結晶化の操作を省略できる場合がある。この場合、成形工程で得られるフィルム(即ち、延伸工程に供されるフィルム)として、非晶状態のフィルムを選択できる。
【0099】
本実施形態において、アニールの温度は、80℃〜160℃であることが好ましく、100℃〜155℃あることがより好ましい。
【0100】
アニール(熱処理)の方法としては特に限定されないが、延伸されたフィルムを、加熱ロールへの接触、熱風ヒータや赤外線ヒータを用いて直接加熱する方法;延伸されたフィルムを、加熱した液体(シリコーンオイル等)に浸漬することにより加熱する方法;等が挙げられる。
【0101】
アニールは、延伸フィルムに一定の引張応力(例えば、0.01MPa〜100MPa)を印加し、延伸フィルムがたるまないようにしながら行うことが好ましい。
【0102】
アニールの時間は、1秒〜5分であることが好ましく、5秒〜3分であることがより好ましく、10秒〜2分であることがさらに好ましい。アニールの時間が5分以下であると生産性に優れる。一方、アニールの時間が1秒以上であると、フィルムの結晶化度をより向上させることができる。
【0103】
アニールされた延伸フィルム(即ち、高分子圧電フィルム)は、アニール後に急冷することが好ましい。アニール工程で行われることがある「急冷」は、既述の成形工程で行われることがある「急冷」と同様である。
冷却の回数は、1回のみであっても、2回以上であってもよく、さらには、アニールと冷却とを交互に繰り返し行なうことも可能である。
【0104】
[機能層(X)]
機能層(X)は、高分子圧電フィルムの少なくとも一方の主面上に設けられた層である。機能層(X)は、高分子圧電フィルムを保護するための層、他の層と高分子圧電フィルムとを貼り合せる層などとして機能する。機能層(X)は、高分子圧電フィルムに接触していることが好ましい。
【0105】
機能層(X)としては、接着層であることが好ましい。なお、本明細書中では、「接着」は粘着を包含する概念であり、「接着層」には粘着層も含まれる。以下では、機能層(X)の一形態である接着層について説明する。
【0106】
接着層は、接着性を有する層であり、接着層としては両面をセパレータでラミネートしてある両面テープ(OCA;Optical Clear Adhensive)を用いることができる。
また、上記接着層は、溶剤系、無溶剤系、水系などの粘着コート液、UV硬化型OCR(Optical Clear Resin)、ホットメルト接着剤、などを用いて形成することもできる。
【0107】
OCAとしては、光学用透明粘着シートLUCIACSシリーズ(日東電工株式会社製)や高透明両面テープ5400Aシリーズ(積水化学工業株式会社製)、光学粘着シートOpteriaシリーズ(リンテック株式会社製)、高透明性接着剤転写テープシリーズ(住友スリーエム株式会社製)、SANCUARYシリーズ(株式会社サンエー化研製)などが挙げられる。
【0108】
粘着コート液(接着塗工液)としては、SKダインシリーズ(綜研化学株式会社製)、ファインタックシリーズ(DIC株式会社製)、ボンコートシリーズ、LKGシリーズ(藤倉化成株式会社製)、コーポニールシリーズ(日本合成化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0109】
接着層としては、高分子圧電フィルムの加熱を防ぐ観点から、OCAの接着層、OCRを用いて形成された接着層、高分子圧電フィルム以外の部材(例えば、後述する離型フィルム)に粘着コート液を塗布して形成した接着層、高分子圧電フィルム以外の部材にホットメルト接着剤を使用して形成した接着層が好ましい。
【0110】
接着層の材料としては、特に限定されるものではないが、樹脂を含むことが好ましい。
樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、ナイロン−エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、クロロプレンゴム系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、水性高分子-イソシアネート系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム系樹脂、ニトリルゴム系樹脂、アセタール樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、臭素樹脂、デンプン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0111】
機能層(X)の膜厚は、特に限定されるものではないが、機能層(X)の密着力の維持と透過率の低下とを抑制する観点から、厚みを5μm以上とすることが好ましく、7μm〜100μmとすることがより好ましく、7μm〜60μmとすることがさらに好ましく、10μm〜30μmとすることが特に好ましい。
【0112】
−機能層(X)の酸価−
機能層(X)の酸価は、積層フィルムの湿熱環境下での劣化を抑制する観点から、10mgKOH/g以下であることが好ましく、5mgKOH/g以下であることがより好ましく、1mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。
機能層(X)の酸価は、高分子圧電フィルムと機能層(X)との密着力をより向上させる観点から、0.01mgKOH/g以上であることが好ましく、0.05mgKOH/g以上であることがより好ましく、0.1mgKOH/g以上であることがさらに好ましい。
本明細書において、機能層(X)の酸価は、機能層(X)1g中の遊離酸を中和するのに要するKOHの量(mg)を指す。このKOHの量(mg)は、溶媒に溶解又は膨潤させた機能層(X)を、フェノールフタレインを指示薬として0.005M KOH(水酸化カリウム)エタノール溶液によって滴定することにより測定される。
【0113】
機能層(X)の全窒素量は、0.05質量%〜10質量%であることが好ましく、0.2質量%〜5質量%であることがより好ましい。これにより、脂肪族系ポリエステル高分子圧電フィルムの耐湿熱性が向上する。
【0114】
[その他の層]
本実施形態に係るフィルム巻層体では、積層フィルムは、高分子圧電フィルムと機能層(X)との間に、その他の層を有していてもよい。その他の層として、例えば、易接着層、ハードコート層、屈折率調整層、アンチリフレクション層、アンチグレア層、易滑層、アンチブロック層、保護層、帯電防止層、放熱層、紫外線吸収層、アンチニュートンリング層、光散乱層、偏光層、ガスバリア層、色相調整層などが挙げられる。また、その他の層としては、前述のその他の層がそれぞれ有する機能のうちの2つ以上を兼ね備えた層であってもよく、2つ以上の層が順番に積層されていてもよい。これらの中でも、その他の層としては、屈折率調整層、易接着層、ハードコート層、帯電防止層、及びアンチブロック層の少なくとも1つの層が好ましい。
高分子圧電フィルムの両方の主面側にその他の層を備える場合は、2つのその他の層は同じ層であっても、異なる層であってもよい。
【0115】
その他の層の材料としては、特に限定されるものではないが、例えば金属や金属酸化物等の無機物;樹脂等の有機物;樹脂と微粒子とを含む複合組成物;などが挙げられる。樹脂としては、例えば、温度や活性エネルギー線で硬化させることで得られる硬化物を利用することもできる。つまり、樹脂としては、硬化性樹脂を利用することもできる。
【0116】
硬化性樹脂としては、例えばアクリル系化合物、メタクリル系化合物、ビニル系化合物、アリル系化合物、ウレタン系化合物、エポキシ系化合物、エポキシド系化合物、グリシジル系化合物、オキセタン系化合物、メラミン系化合物、セルロース系化合物、エステル系化合物、シラン系化合物、シリコーン系化合物、シロキサン系化合物、シリカ−アクリルハイブリット化合物、及びシリカ−エポキシハイブリット化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の材料(硬化性樹脂)が挙げられる。
これらの中でも、アクリル系化合物、エポキシ系化合物、シラン系化合物がより好ましい。
金属としては、例えば、Al、Si、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、In、Sn、W、Ag、Au、Pd、Pt、Sb、Ta及びZrから選ばれる少なくとも一つ、又は、これらの合金が挙げられる。
金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、及び酸化タンタル、またこれらの複合酸化物の少なくとも1つが挙げられる。
微粒子としては上述したような金属酸化物の微粒子や、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂などの樹脂微粒子などが挙げられる。さらにこれらの微粒子の内部に空孔を有する中空微粒子も挙げられる。
微粒子の平均一次粒径としては、透明性の観点から1nm以上500nm以下が好ましく、5nm以上300nm以下がより好ましく、10nm以上200nm以下が更に好ましい。500nm以下であることで可視光の散乱が抑制され、1nm以上であることで微粒子の二次凝集が抑制され、透明性の維持の観点から望ましい。
【0117】
その他の層の膜厚は、特に限定されるものではないが、0.01μm〜10μmの範囲が好ましい。上記厚さの上限値は、より好ましくは6μm以下であり、更に好ましくは3μm以下である。また、下限値はより好ましくは0.2μm以上であり、更に好ましくは0.3μm以上である。
但し、その他の層が複数の層からなる多層膜の場合には、上記厚さは多層膜全体における厚さを表す。
【0118】
その他の層を形成することにより、高分子圧電フィルム表面のダイラインや打痕などの欠陥が埋められ、外観が向上するという効果もある。この場合は高分子圧電フィルムとその他の層との屈折率差が小さいほど高分子圧電フィルムとその他の層と界面の反射が低減し、より外観が向上する。
【0119】
前述のその他の層を形成する方法としては、従来一般的に用いられていた公知の方法が適宜使用できるが、例えば蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学蒸着(CVD)法、めっき法などのドライコーティング法、ウェットコート法が挙げられる。ウェットコート法としては、例えばロールコート法、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、グラビアコート法が挙げられる。
例えば、その他の層が硬化性樹脂から形成される場合、硬化性樹脂、添加剤、溶剤等を含む材料が分散又は溶解されたコート液を塗布することで、その他の層が形成される。
【0120】
さらに必要に応じて、上記の通り塗布された前記材料(硬化性樹脂等)に対して乾燥により溶剤を揮発させたり、熱や活性エネルギー線(紫外線、電子線、放射線等)照射により硬化性樹脂を硬化させたりしてもよい。
【0121】
尚、上記硬化性樹脂の中でも、活性エネルギー線(紫外線、電子線、放射線等)照射により硬化された活性エネルギー線硬化樹脂が好ましい。活性エネルギー線硬化樹脂を含むことで、製造効率が向上し、またその他の層の形成によって生じる高分子圧電フィルムの性能低下をより抑制することができる。
【0122】
また、上記その他の層が硬化性樹脂から形成される場合、その他の層は、架橋密度を高める観点から、三次元架橋構造を有する三次元架橋樹脂を含むことが好ましい。
【0123】
三次元架橋構造を有する硬化物を作製する手段としては、硬化性樹脂として重合性官能基を3つ以上有するモノマー(3官能以上のモノマー)を用いる方法、重合性官能基を3つ以上有する架橋剤(3官能以上の架橋剤)を用いる方法等が挙げられ、また架橋剤として有機過酸化物などの架橋剤を用いる方法も挙げられる。尚、これらの手段を複数組み合わせて用いてもよい。
【0124】
3官能以上のモノマーとしては、例えば、1分子中に3つ以上の(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル化合物や、1分子中に3つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物等が挙げられる。
【0125】
また、「1分子中に3つ以上の(メタ)アクリル基を有する」とは、1分子中にアクリル基及びメタクリル基の少なくとも一方を有し、かつ、1分子中におけるアクリル基及びメタクリル基の総数が3つ以上であることを指す。
【0126】
ここで、その他の層に含まれる材料が三次元架橋構造を有する硬化物であるか否かを確認する方法としては、ゲル分率を測定する方法が挙げられる。
具体的には、その他の層を溶剤に24時間浸漬した後の不溶分からゲル分率を導くことができる。特に溶剤が水などの親水性の溶媒でも、トルエンのような親油性の溶媒でも、ゲル分率が一定以上のものが三次元架橋構造を有すると推定することができる。
【0127】
ウェットコート法の場合、コート液を高分子圧電フィルムの延伸前原反に塗工した後に高分子圧電フィルムを延伸しても、高分子圧電フィルム原反を延伸後にコート液を塗布してもよい。
ウェットコート法によるその他の層の(1層の)厚さとしては、数十nm〜10μmの範囲が好ましい。
またその他の層にはその目的に応じて屈折率調整剤や紫外線吸収剤、レベリング剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤などの各種有機物、無機物を添加することもできる。
尚、高分子圧電フィルム表面とその他の層との密着性や、高分子圧電フィルム表面への塗工性を向上させる観点から、コロナ処理やイトロ処理、オゾン処理、プラズマ処理などによって高分子圧電フィルム表面を処理することもできる。
【0128】
[離型フィルム]
本実施形態に係るフィルム巻層体では、積層フィルムは、機能層(X)から見て高分子圧電フィルムが配置されている側とは反対側に配置された離型フィルムをさらに有することが好ましい。本実施形態に係るフィルム巻層体は、高分子圧電フィルムと、機能層(X)と、離型フィルムとを有する積層フィルムをロール状に巻回することで得られ、この積層フィルムは、MD方向の長さが10m以上であることが好ましい。
【0129】
離型フィルムの材料としては、離型性(剥離性)を有する材料が好適に用いられる。離型フィルムは、単独のフィルムであってもよく、複数層からなる多層フィルムであってもよい。離型フィルムが、複数層からなる多層フィルムである場合、離型フィルムは、離型性を有する材料が接着層と対向する面に設けられた構造に形成されていることが好ましい。この場合、離型フィルムは、基材と離型性を有する材料とを含む構造に形成されていてもよい。
【0130】
離型性を有する材料としては、例えば、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のオレフィン樹脂;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂;ポリ塩化ビニル、スチレン(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル等のビニル樹脂;等が挙げられる。
また、離型性を有する材料としては、他にも、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ワックス樹脂等が挙げられる。
離型フィルムは、これらの単独のフィルムであってもよく、複数層からなる多層フィルムであってもよい。この場合、離型フィルムは、離型性を有する材料が接着層と対向する面に設けられた構造に形成されていることが好ましい。中でも、接着層との剥離性をより向上させる点から、接着層と対向する面に設ける離型性を有する材料は、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アルキッド樹脂、ワックス樹脂を用いることがより好ましく、シリコーン樹脂を用いることがさらに好ましい。
【0131】
シリコーン樹脂としては、例えば、両末端シラノール官能性ジメチルポリシロキサンとメチルハイドロジェンポリシロキサン又はメチルメトキシシロキサンとを有機錫系触媒の存在下で反応させたもの(熱縮合反応型);分子鎖両末端又は両末端及び側鎖にビニル基を有するメチルビニルポリシロキサンとメチルハイドロジェンポリシロキサンとを白金系触媒の存在下で反応させたもの(熱付加反応型);アルケニル基とメルカプト基を含有するシロキサンに光重合剤を加えたもの(紫外線硬化型(ラジカル付加型));熱付加反応型と同じ白金系触媒を用いたもの(紫外線硬化型(ヒドロシリル型));(メタ)アクリル基を含有するシロキサンに光重合剤を加えたもの(紫外線硬化型(ラジカル重合型));エポキシ基を含有するシロキサンにオニウム塩光開始剤を添加したもの(紫外線硬化型(カチオン重合型));ラジカル重合性基含有シロキサン(電子線硬化型、但し官能基はなくてもよく、また光開始剤がなくてもよい);が挙げられる。また、シリコーン樹脂の形態は、溶剤型、エマルジョン型、無溶剤型等の中から適宜選択して用いることができる。
【0132】
〔基材〕
離型フィルムが基材と離型性を有する材料とを含む構造に形成されている場合、基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、トリアセチルセルロース、セロハン、レーヨン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、芳香族ポリアミド、若しくはポリスルホン等の樹脂が挙げられ、これらの一軸又は二軸延伸フィルム、不織布、発泡体等が挙げられる。また、基材としては、ガラス、金属箔、セラミック、紙等の中から選択することもできる。
【0133】
離型フィルムには、接着層と対向する面以外の層に、必要に応じて、帯電防止剤、オリゴマー移行抑制剤、平滑化剤、易接着剤等のその他の材料を含む層を設けてもよい。例えば、離型フィルムが基材と離型性を有する材料とを含む構造に形成される場合には、基材と離型性を有する材料とが互いに対向する面、及び基材の離型性を有する材料と対向する面と反対側の面のいずれか一方、又は両方の面に、上記のその他の材料を含む層を設けることができる。
【0134】
離型フィルムの膜厚は、特に限定されるものではないが、離型のしやすさ及びハンドリングの観点から、5μm以上の範囲が好ましく、10μm〜100μmの範囲がより好ましく、20μm〜80μmの範囲が更に好ましく、30μm〜80μmの範囲が特に好ましい。
【0135】
離型フィルムを好適に剥離可能にするためには、接着層と高分子圧電フィルムとの接着力が接着層と離型フィルムとの接着力よりも大きいことが好ましい。
【0136】
離型フィルムを形成する方法としては、従来一般的に用いられていた公知の方法が適宜使用できる。例えば、離型フィルムは、離型フィルムを形成する樹脂を製膜機により押出製膜することで形成されてもよい。離型フィルムが、複数層からなる多層フィルムである場合には、製膜した各々の離型フィルムを接着剤により多層に形成してもよく、多層製膜機により共押出製膜して多層に形成してもよい。
また、離型フィルムが基材と離型性を有する材料とを含む構造に形成された複数層からなる多層フィルムである場合、製膜した基材と、製膜した離型性を有する材料とを接着剤により多層に形成してもよく、製膜した基材上に離型性を有する材料を押出製膜して多層に形成してもよく、又は基材を構成する材料と、離型性を有する材料とを多層製膜機により共押出製膜して多層に形成してもよい。
【0137】
さらに、ウェットコート法により形成してもよい。例えば、離型フィルムをウェットコート法で形成する場合、離型フィルムを形成するための材料(樹脂、添加剤等)が分散又は溶解されたコート液(離型フィルム用塗工液)を接着層上に塗布することで形成させることができる。また、離型フィルムが基材と離型性を有する材料とを含む構造に形成された複数層からなる多層フィルムである場合、離型フィルム用塗工液を基材上に塗布することで形成させることができる。
【0138】
離型性を有する材料をウェットコート法により形成する場合、上記離型性を有する材料を溶液又はエマルション液等の塗布液とし、これをロールコーター、コンマコーター、ダイコーター、メイヤーバーコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター等の公知の方法で接着層上、又は基材上に塗布・乾燥することで形成してもよい。
なお、離型フィルムが、複数層からなる多層フィルムである場合には、離型フィルムの接着層と対向する面と反対側の面、又は離型フィルムの接着層と対向する面と反対側の面に接する基材等に、コロナ放電処理、フレーム処理、オゾン処理等の表面活性化処理、あるいはアンカー処理剤を用いたアンカーコーティング処理を施してもよい。これらのような処理によって多層フィルムの密着性が向上するため、接着層との離型性より向上させることができる。
【0139】
<フィルム巻層体の製造方法>
本発明に係るフィルム巻層体の製造方法の実施形態について、以下に説明する。フィルム巻層体の製造方法としては、例えば、離型フィルム上に機能層(X)を形成し、機能層(X)と高分子圧電フィルムとを貼り合わせた後にフィルム巻層体とする方法、高分子圧電フィルム上に機能層(X)を形成し、機能層(X)と離型フィルムとを貼り合わせた後にフィルム巻層体とする方法などが挙げられる。
【0140】
[第一実施形態]
第一実施形態に係るフィルム巻層体の製造方法は、離型フィルムの主面に機能層(X)を形成するための機能層形成剤を付与して機能層(X)を形成する工程と、機能層(X)から見て離型フィルムが配置されている側とは反対側にて、機能層(X)と高分子圧電フィルムとを貼り合わせて積層フィルムを形成する工程と、形成した積層フィルムをロール状に巻回する工程と、を含む。この製造方法では、離型フィルム上に形成した機能層(X)と、高分子圧電フィルムとを貼り合わせて積層フィルムを形成し、形成した積層フィルムをロール状に巻回してフィルム巻層体を製造している。
【0141】
−機能層(X)の形成−
本実施形態に係るフィルム巻層体の製造方法は、離型フィルムの主面に機能層(X)を形成するための機能層形成剤を付与して機能層(X)を形成する工程を含む。このとき、フィルム状又はシート状の材料(例えば、前述のOCA)を機能層形成剤として離型フィルムの主面に付与して機能層(X)を形成してもよく、液状の機能層形成剤(例えば、粘着コート液)を離型フィルムの主面に付与し、付与した機能層形成剤を乾燥させて機能層(X)を形成してもよい。このとき、機能層形成剤の乾燥温度は、50℃〜150℃であることが好ましく、70℃〜130℃であることがより好ましい。また、離型フィルムの主面に機能層(X)を付与する際は、塗工装置を用いてもよい。
【0142】
ここで、機能層(X)としては接着層が好ましく、機能層形成剤としては接着剤が好ましい。そのため、離型フィルムの主面に接着剤を付与して接着層を形成してもよい。接着剤としては、前述のOCA、溶剤系、無溶剤系、水系などの粘着コート液、UV硬化型OCR、ホットメルト接着剤などが挙げられる。
【0143】
−積層フィルムの形成−
本実施形態に係るフィルム巻層体の製造方法は、前述のように、機能層(X)を形成した後、機能層(X)から見て離型フィルムが配置されている側とは反対側にて、機能層(X)と高分子圧電フィルムとを貼り合わせて積層フィルムを形成する工程を含む。これにより、高分子圧電フィルムの主面の鉛直方向において、高分子圧電フィルム、機能層(X)及び離型フィルムがこの順に積層された三層の積層フィルムが得られる。
【0144】
さらに、別の離型フィルムの主面に機能層(X)を形成し、この機能層(X)から見て離型フィルムが配置されている側とは反対側にて、この機能層(X)と、前述のように形成した三層の積層フィルムを構成する高分子圧電フィルムとを貼り合わせてもよい。これにより、高分子圧電フィルムの主面の鉛直方向において、離型フィルム、機能層(X)、高分子圧電フィルム、機能層(X)及び離型フィルムがこの順に積層された五層の積層フィルムが得られる。
【0145】
また、積層フィルムの形成に用いられる高分子圧電フィルムは、少なくとも一方の主面に前述のその他の層が配置されていてもよい。これにより、積層フィルムの形成時に、機能層(X)と、高分子圧電フィルムとの間に、その他の層が配置される。
【0146】
−フィルム巻層体の製造−
本実施形態に係るフィルム巻層体の製造方法は、形成した積層フィルムをロール状に巻回する工程と、を含む。これにより、ロール状のフィルム巻層体が得られる。
本実施形態の製造方法では、高分子圧電フィルムに機能層(X)を形成するのではなく、離型フィルムに機能層(X)を形成し、かつ形成した機能層(X)と高分子圧電フィルムとを貼り合わせている。そのため、高分子圧電フィルムを加熱する必要が無く、高分子圧電フィルムに伸びが生じることが抑制される。その結果、前述のようにして測定される寸法変化率を、MD方向に1.0%以下とすることができる。さらに、本実施形態の製造方法で得られるフィルム巻層体は、寸法安定性が高いため、加熱したときの高分子圧電フィルムへのクラックの発生が抑制され、かつ、高分子圧電フィルムの耐湿熱性に優れる。
【0147】
以下、ロールトゥロールの連続プロセスにより、フィルム巻層体を製造する方法の一例を、図1を用いて示す。図1は、本発明の第一実施形態にて、離型フィルムに接着層を形成してフィルム巻層体を製造する方法を示す概略図である。
【0148】
まず、フィルム巻層体製造装置10にて、ロール体に固定したロール状離型フィルム1から離型フィルム2を引き出し、引き出した離型フィルム2をもう一方のロール体で巻き取る。そして、ロール間の離型フィルム2に、塗工装置8を用いて接着剤3を塗工する。接着剤3を離型フィルム2に塗工した後、乾燥手段(乾燥炉)9により接着剤3を乾燥させ、離型フィルム2の主面に接着層4を形成する。
【0149】
また、ロール体に固定したロール状高分子圧電フィルム5から高分子圧電フィルム6を引き出し、引き出した高分子圧電フィルム6を、離型フィルム2に貼り合わせた後、離型フィルム2とともにロール体で巻き取る。そのため、離型フィルム2の主面に接着層4が形成されているとき、接着層4と高分子圧電フィルム6とを貼り合わせることで、積層フィルムが形成される。そして、形成した積層フィルムをロール状に巻回することで、フィルム巻層体7が得られる。
【0150】
ロールトゥロールの連続プロセスでは、ロール間のフィルムには、フィルムの流れ方向(MD方向)に向かって張力が発生する。そのため、ポリ乳酸などの脂肪族系ポリエステルを含む高分子圧電フィルムをロール間に設け、接着層を形成するときに熱を高分子圧電フィルムに加えた場合、高分子圧電フィルムは耐熱性が低いことから、発生した張力により、高分子圧電フィルムに伸びが生じ、高分子圧電フィルムの寸法安定性が悪化してしまうおそれがある。
【0151】
一方、図1に示すようなロールトゥロールの連続プロセスでは、離型フィルムに接着層を形成しているため、高分子圧電フィルムに熱を加える必要が無い。そのため、高分子圧電フィルムの伸びが抑制され、高分子圧電フィルムの寸法安定性を維持することができる。
【0152】
[第二実施形態]
次に、第二実施形態に係るフィルム巻層体の製造方法について説明する。なお、第一の実施形態と共通する事項については、その説明を省略する。第二実施形態に係るフィルム巻層体の製造方法は、前記高分子圧電フィルムの少なくとも一方の主面に前記機能層(X)を形成するための機能層形成剤を塗布し、塗布した前記機能層形成剤を90℃以下の温度で乾燥させて機能層(X)を形成する工程と、前記機能層(X)から見て前記高分子圧電フィルムが配置されている側とは反対側にて、前記機能層(X)と前記離型フィルムとを貼り合わせて前記積層フィルムを形成する工程と、形成した前記積層フィルムをロール状に巻回する工程と、を含む。この製造方法では、機能層形成剤を90℃以下の温度で乾燥させて機能層(X)を高分子圧電フィルム上に形成した後、高分子圧電フィルム上に形成した機能層(X)と、離型フィルムとを貼り合わせて積層フィルムを形成し、形成した積層フィルムをロール状に巻回してフィルム巻層体を製造している。
【0153】
−機能層(X)の形成−
本実施形態に係るフィルム巻層体の製造方法は、高分子圧電フィルムの少なくとも一方の主面に機能層(X)を形成するための機能層形成剤を塗布し、塗布した機能層形成剤を90℃以下の温度で乾燥させて機能層(X)を形成する工程を含む。このとき、機能層形成剤の乾燥温度は、50℃〜90℃であることが好ましく、60℃〜80℃であることがより好ましい。これにより、高分子圧電フィルムの寸法安定性をより好適に維持することができる。
【0154】
ここで、機能層(X)としては接着層が好ましく、機能層形成剤としては接着剤が好ましい。そのため、高分子圧電フィルムの主面に接着剤を付与して接着層を形成してもよい。接着剤としては、前述のOCA、溶剤系、無溶剤系、水系などの粘着コート液、UV硬化型OCR、ホットメルト接着剤などが挙げられる。
【0155】
−積層フィルムの形成−
本実施形態に係るフィルム巻層体の製造方法は、前述のように、機能層(X)を形成した後、機能層(X)から見て高分子圧電フィルムが配置されている側とは反対側にて、機能層(X)と離型フィルムとを貼り合わせて積層フィルムを形成する工程を含む。高分子圧電フィルムの一方の主面に機能層(X)を形成した場合、高分子圧電フィルムの主面の鉛直方向において、高分子圧電フィルム、機能層(X)及び離型フィルムがこの順に積層された三層の積層フィルムが得られる。高分子圧電フィルムの両方の主面に機能層(X)を形成した場合、高分子圧電フィルムの主面の鉛直方向において、離型フィルム、機能層(X)、高分子圧電フィルム、機能層(X)及び離型フィルムがこの順に積層された五層の積層フィルムが得られる。
【0156】
−フィルム巻層体の製造−
本実施形態に係るフィルム巻層体の製造方法は、形成した積層フィルムをロール状に巻回する工程と、を含む。これにより、ロール状のフィルム巻層体が得られる。
本実施形態の製造方法では、高分子圧電フィルムに機能層(X)を形成するときに、高分子圧電フィルム上の機能層形成剤を90℃以下の温度で乾燥させている。そのため、高分子圧電フィルム上の機能層形成剤を90℃超の温度で乾燥させて機能層(X)を形成するときと比較して、高分子圧電フィルムの伸びが抑制されている。その結果、前述のようにして測定される寸法変化率を、MD方向に1.0%以下とすることができる。さらに、本実施形態の製造方法で得られるフィルム巻層体は、寸法安定性が高いため、加熱したときの高分子圧電フィルムへのクラックの発生が抑制され、かつ、高分子圧電フィルムの耐湿熱性に優れる。
【0157】
以下、ロールトゥロールの連続プロセスにより、フィルム巻層体を製造する方法の一例を、図2を用いて示す。図2は、本発明の第二実施形態にて、離型フィルムに接着層を形成してフィルム巻層体を製造する方法を示す概略図である。
【0158】
まず、フィルム巻層体製造装置20にて、ロール体に固定したロール状高分子圧電フィルム11から高分子圧電フィルム12を引き出し、引き出した高分子圧電フィルム12をもう一方のロール体で巻き取る。そして、ロール間の高分子圧電フィルム12に、塗工装置18を用いて接着剤13を塗工する。接着剤13を高分子圧電フィルム12に塗工した後、乾燥手段(乾燥炉)19により接着剤13を90℃以下の温度で乾燥させ、高分子圧電フィルム12の主面に接着層14を形成する。
【0159】
また、ロール体に固定したロール状離型フィルム15から離型フィルム16を引き出し、引き出した離型フィルム16を、高分子圧電フィルム12に貼り合わせた後、高分子圧電フィルム12ともにロール体で巻き取る。そのため、高分子圧電フィルム12の主面に接着層14が形成されているとき、接着層14と離型フィルム16とを貼り合わせることで積層フィルムが形成される。そして、形成した積層フィルムをロール状に巻回することで、フィルム巻層体17が得られる。
【0160】
ロールトゥロールの連続プロセスでは、ロール間のフィルムには、フィルムの流れ方向(MD方向)に向かって張力が発生する。そのため、ポリ乳酸などの脂肪族系ポリエステルを含む高分子圧電フィルムをロール間に設け、接着層を形成するときに熱を高分子圧電フィルムに加えた場合、高分子圧電フィルムは耐熱性が低いことから、加えた熱によっては、発生した張力により、高分子圧電フィルムに伸びが生じ、高分子圧電フィルムの寸法安定性が悪化してしまうおそれがある。
【0161】
一方、本実施形態でのロールトゥロールの連続プロセスでは、高分子圧電フィルムに接着層を形成するときの接着剤の乾燥温度を90℃以下としているため、高分子圧電フィルムの伸びが抑制され、高分子圧電フィルムの寸法安定性を維持することができる。
【0162】
<フィルム巻層体の用途>
フィルム巻層体は、スピーカー、ヘッドホン、タッチパネル、リモートコントローラー、マイクロホン、水中マイクロホン、超音波トランスデューサ、超音波応用計測器、圧電振動子、機械的フィルター、圧電トランス、遅延装置、センサ、加速度センサ、衝撃センサ、振動センサ、感圧センサ、触覚センサ、電界センサ、音圧センサ、ディスプレイ、ファン、ポンプ、可変焦点ミラー、遮音材料、防音材料、キーボード、音響機器、情報処理機、計測機器、医用機器などの種々の分野で利用することができ、デバイスに用いた際のセンサ感度を高く維持することができる点から、特に各種センサの分野でフィルム巻層体を利用することが好ましい。
また、フィルム巻層体は、表示装置と組み合わせたタッチパネルとして用いることもできる。表示装置としては、例えば、液晶パネル、有機ELパネルなどを用いることもできる。
また、フィルム巻層体は、感圧センサとして、他方式のタッチパネル(位置検出部材)と組み合わせて用いることもできる。位置検出部材の検出方式としては抗膜方式、静電容量方式、表面弾性波方式、赤外線方式、光学方式等が挙げられる。
【実施例】
【0163】
以下、本発明のフィルム巻層体を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0164】
<製造例1:高分子圧電フィルムの作製>
ヘリカルキラル高分子(A)として、NatureWorks LLC社製のポリ乳酸(PLA)(品名:IngeoTM biopolymer、銘柄:4032D、重量平均分子量Mw:20万)を用意し、このポリ乳酸99質量部に対して、下記添加剤X(安定化剤(B))を1質量部添加してドライブレンドし原料を調製した。
調製した原料を押出成形機ホッパーに入れて、220℃〜230℃に加熱しながらTダイから押出し、50℃のキャストロールに0.5分間接触させて、厚さ150μmの予備結晶化フィルムを製膜した(成形工程)。得られた予備結晶化フィルムの結晶化度を測定したところ4.91%であった。
得られた予備結晶化フィルムを70℃に加熱しながらロールツーロールで、延伸速度1650mm/分で延伸を開始し、3.5倍までMD方向に一軸延伸し、一軸延伸フィルムを得た(延伸工程)。
その後、一軸延伸フィルムを、ロールツーロールで、130℃に加熱したロール上に78秒間接触させアニール処理した後(アニール工程)、50℃に設定したロールで急冷し、さらにロール状に巻き取ることで、高分子圧電フィルムを得た。
【0165】
−添加剤X(安定化剤(B))−
添加剤Xとしては、ラインケミー社製Stabaxol I(70質量部)、及び日清紡ケミカル株式会社製カルボジライトLA−1(30質量部)の混合物を用いた。
上記混合物における各成分の詳細は以下のとおりである。
Stabaxol I … ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(分子量(=重量平均分子量):363)
カルボジライトLA−1 … ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)(重量平均分子量:約2000)
【0166】
製造例1で用いたポリ乳酸の物性を以下の方法で測定した。結果は表1に示すとおりである。
【0167】
<光学純度>
製造例1で作製した高分子圧電フィルムに含まれるポリ乳酸の光学純度を、以下のようにして測定した。
まず、50mLの三角フラスコに1.0gのサンプル(上記高分子圧電フィルム)を秤り込み、ここに、IPA(イソプロピルアルコール)2.5mL及び5.0mol/L水酸化ナトリウム溶液5mLを加え、サンプル溶液とした。
次に、このサンプル溶液が入った三角フラスコを温度40℃の水浴に入れ、ポリ乳酸が完全に加水分解するまで、約5時間攪拌した。
上記約5時間の撹拌後のサンプル溶液を室温まで冷却した後、1.0mol/L塩酸溶液を20mL加えて中和し、三角フラスコを密栓してよくかき混ぜた。
次に、上記でかき混ぜたサンプル溶液の1.0mLを25mLのメスフラスコに取り分け、ここに下記組成の移動相を加え、25mLのHPLC試料溶液1を得た。
得られたHPLC試料溶液1をHPLC装置に5μL注入し、下記HPLC測定条件にてHPLC測定を行った。得られた測定結果から、ポリ乳酸のD体に由来するピークの面積とポリ乳酸のL体に由来するピークの面積とを求め、L体の量とD体の量とを算出した。得られた結果に基づき、光学純度(%ee)を求めた。
その結果、光学純度は、97.0%eeであった。なお、下記表1において、「LA」はポリ乳酸を表す。
−HPLC測定条件−
・カラム
光学分割カラム、(株)住化分析センター製 SUMICHIRAL OA5000
・HPLC装置
日本分光株式会社製 液体クロマトグラフィ
・カラム温度
25℃
・移動相の組成
1.0mM−硫酸銅(II)緩衝液/IPA=98/2(V/V)
(この移動相において、硫酸銅(II)、IPA、及び水の比率は、硫酸銅(II)/IPA/水=156.4mg/20mL/980mLである。)
・移動相流量
1.0mL/分
・検出器
紫外線検出器(UV254nm)
【0168】
<重量平均分子量及び分子量分布>
ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、下記GPC測定方法により、ポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
−GPC測定方法−
・測定装置
Waters社製GPC−100
・カラム
昭和電工株式会社製、Shodex LF−804
・サンプルの調製
製造例1で作製した高分子圧電フィルムを、40℃で溶媒〔クロロホルム〕へ溶解させ、濃度1mg/mLのサンプル溶液を準備した。
・測定条件
サンプル溶液0.1mLを溶媒(クロロホルム)、温度40℃、1mL/分の流速でカラムに導入し、カラムで分離されたサンプル溶液中のサンプル濃度を示差屈折計で測定した。ポリ乳酸の分子量は、ポリスチレン標準試料にてユニバーサル検量線を作成し、ポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)を算出した。
【0169】
製造例1で作製した高分子圧電フィルムの特性を、以下の方法で測定した。結果は表1に示すとおりである。
【0170】
<結晶化度>
製造例1で作製した高分子圧電フィルムを10mg正確に秤量し、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC−1)を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定し、融解吸熱曲線を得た。得られた融解吸熱曲線から、結晶化度を得た。
【0171】
<規格化分子配向MORc>
製造例1で作製した高分子圧電フィルムについて、規格化分子配向MORcを、王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA−6000により測定した。基準厚さtcは、50μmに設定した。
【0172】
<内部ヘイズ>
以下の方法により、製造例1で作製した高分子圧電フィルムの内部ヘイズ(以下、内部ヘイズ(H1)ともいう)を得た。
まず、ガラス板2枚の間に、シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製信越シリコーン(商標)、型番:KF96−100CS)のみを挟んだ積層体を準備し、この積層体の厚さ方向のヘイズ(以下、ヘイズ(H2)とする)を測定した。
次に、上記のガラス板2枚の間に、シリコーンオイルで表面を均一に塗らした上記高分子圧電フィルムを挟んだ積層体を準備し、この積層体の厚さ方向のヘイズ(以下、ヘイズ(H3)とする)を測定した。
次に、下記式のようにこれらの差をとることにより、高分子圧電フィルムの内部ヘイズ(H1)を得た。
内部ヘイズ(H1)=ヘイズ(H3)−ヘイズ(H2)
【0173】
ここで、ヘイズ(H2)及びヘイズ(H3)の測定は、それぞれ、下記測定条件下で下記装置を用いて行った。
測定装置:東京電色社製、HAZE METER TC−HIIIDPK
試料サイズ:幅30mm×長さ30mm
測定条件:JIS−K7105に準拠
測定温度:室温(25℃)
【0174】
<圧電定数d14(応力−電荷法)>
前述した「応力−電荷法による圧電定数d14の測定方法の一例」に従い、高分子圧電フィルムの圧電定数(詳細には、圧電定数d14(応力−電荷法))を測定した。
【0175】
【表1】
【0176】
<製造例2:接着塗工液の調製>
アクリル系粘着剤SKダイン1811L(綜研化学株式会社製)10kg、硬化剤TD−75(綜研化学株式会社製)20g、及びトルエン1kgを混合し、接着塗工液を得た。
【0177】
<製造例3:ハードコート層を有する高分子圧電フィルムの作製>
製造例1で作製した高分子圧電フィルムの一方の主面に、アクリル系樹脂コート液(東洋インキ社製、アンチブロックハードコートLIODURAS TYAB−014)をロールツーロールで塗工した。コート液が塗工された高分子圧電フィルムを80℃の加熱炉で乾燥した後、積算光量500mJ/cmの紫外線を照射して厚み2μmのハードコート層を形成した。さらに高分子圧電フィルムのもう一方の主面にも同様にして厚み2μmのハードコート層を形成して、両面にハードコート層が形成された高分子圧電フィルムを得た。
【0178】
〔実施例1〕
製造例2で得た接着塗工液を、離型フィルム(三井化学東セロ株式会社製SP−PET O3−BU)の離型面に対して、リバースグラビアコート方式、ライン速度2.5m/minにより塗布した。接着塗工液を塗布した離型フィルムに、温度100℃の乾燥炉を通過させて接着層を形成した。さらに接着層に対して離型フィルム(三井化学東セロ株式会社製SP−PET O3−BU)の離型面をラミネートしながら巻き取り、ロール状の積層体A(離型フィルム/接着層/離型フィルム)とした。そして、ロール状の積層体Aを1週間室温で保管して硬化を完了させた。接着層の厚みは25μmであった。
上記のようにして得たロール状の積層体Aの片側の離型フィルムをRtoR(ロールトゥロール)で剥離し、接着層に対して製造例1で作製した高分子圧電フィルムをラミネートしながら巻き取り、ロール状の積層体B(離型フィルム/接着層/高分子圧電フィルム)を得た。
さらに、別のロール状の積層体A(離型フィルム/接着層/離型フィルム)の片側の離型フィルムをRtoRで剥離し、露出させた接着層に対して積層体Bの高分子圧電フィルム面をラミネートしながら巻き取り、ロール状の積層体(フィルム巻層体:離型フィルム/接着層/高分子圧電フィルム/接着層/離型フィルム)を得た。
【0179】
〔実施例2〕
製造例2で得た接着塗工液を、製造例1で製造した高分子圧電フィルムに対して、リバースグラビアコート方式、ライン速度2.5m/minにより塗布した。接着塗工液を塗布した高分子圧電フィルムに、温度70℃の乾燥炉を通過させて接着層を形成した。さらに接着層に対して離型フィルム(三井化学東セロ株式会社製SP−PET O3−BU)の離型面をラミネートしながら巻き取り、ロール状の積層体C(離型フィルム/接着層/高分子圧電フィルム)を得た。
さらに、ロール状の積層体Cの高分子圧電フィルム面に、前述と同様にして接着層を形成し、離型フィルム(三井化学東セロ株式会社製SP−PET O3−BU)の離型面をラミネートしながら巻き取り、ロール状の積層体(フィルム巻層体:離型フィルム/接着層/高分子圧電フィルム/接着層/離型フィルム)を得た。そして、ロール状の積層体を1週間室温で保管して硬化を完了させた。接着層の厚みはそれぞれ25μmであった。
【0180】
〔実施例3〕
製造例1で作製した高分子圧電フィルムを、製造例3で作製したハードコート層を有する高分子圧電フィルムに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてロール状の積層体(フィルム巻層体:離型フィルム/接着層/ハードコート層を有する高分子圧電フィルム/接着層/離型フィルム)を得た。
【0181】
〔実施例4〕
製造例1で作製した高分子圧電フィルムを、製造例3で作製したハードコート層を有する高分子圧電フィルムに変更したこと以外は、実施例2と同様にしてロール状の積層体(フィルム巻層体:離型フィルム/接着層/ハードコート層を有する高分子圧電フィルム/接着層/離型フィルム)を得た。そして、ロール状の積層体を1週間室温で保管して硬化を完了させた。
【0182】
〔比較例1〕
乾燥炉の温度を70℃から100℃に変更したこと以外は、実施例2と同様にしてロール状の積層体(フィルム巻層体:離型フィルム/接着層/高分子圧電フィルム/接着層/離型フィルム)を得た。そして、ロール状の積層体を1週間室温で保管して硬化を完了させた。接着層の厚みはそれぞれ25μmであった。
【0183】
〔比較例2〕
製造例2で得た接着塗工液を、製造例1で作製した高分子圧電フィルムに対し、アプリケーターでハンドコートし、温度100℃のオーブンで乾燥を行い、接着層を形成した。さらに、接着層に対して離型フィルム(三井化学東セロ株式会社製SP−PET O3−BU)の離型面をローラーで貼合し、枚葉の積層体(離型フィルム/接着層/高分子圧電フィルム)を得た。
さらに、上記枚葉の積層体の高分子圧電フィルム面に、前述と同様にして接着層を形成し、離型フィルム(三井化学東セロ株式会社製SP−PET O3−BU)の離型面をローラーで貼合し、枚葉の積層体(離型フィルム/接着層/高分子圧電フィルム/接着層/離型フィルム)を得た。そして、枚葉の積層体を1週間室温で保管して硬化を完了させた。接着層の厚みはそれぞれ25μmであった。
【0184】
〔比較例3〕
製造例1で作製した高分子圧電フィルムを、製造例3で作製したハードコート層を有する高分子圧電フィルムに変更したこと以外は、比較例1と同様にしてロール状の積層体(フィルム巻層体:離型フィルム/接着層/ハードコート層を有する高分子圧電フィルム/接着層/離型フィルム)を得た。
【0185】
実施例1〜4及び比較例1、3で得たロール状の積層体ならびに比較例2で得た枚葉の積層体について、接着層の酸価、MD寸法変化率、MDクラック及び耐湿熱性を以下のようにして評価した。
評価結果を、表2に示す。なお、表2中の「−」は、測定データなしを表す。
【0186】
<接着層の酸価>
積層体から離型フィルムを剥離し、露出した接着層0.5gを溶媒(クロロホルム)に溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として0.005M KOH(水酸化カリウム)エタノール溶液によって滴定することで酸価を求めた。
【0187】
<MD寸法変化率>
積層体から離型フィルム及び接着層を除去して得られた高分子圧電フィルムを、延伸方向(MD方向)に50mm、延伸方向と直交する方向(TD方向)に50mmカットして、50mm×50mmの矩形フィルムを切り出した。この矩形フィルムを100℃にセットしたオーブン中に吊り下げて、30分間アニール処理した。その後、アニール処理前後のMD方向のフィルム矩形辺長の寸法を高精度デジタル測長機(株式会社ミツトヨ製、ライトマチックVL−50AS)で測定した。そして、下式に従い、寸法変化率(%)を算出し、寸法安定性を評価した。寸法変化率が小さいほど寸法安定性が高いことを示す。
(式)寸法変化率(%)=100×|(アニール前のMD方向の辺長)−(アニール後のMD方向の辺長)|/(アニール前のMD方向の辺長)
【0188】
<MDクラック>
積層体の両面の離型フィルムを剥離し、露出した接着層に東レ製ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)(銘柄:ルミラーT60−50)を、2kgロールを用いて貼り付けた。これにより、5つの層が積層された積層構造体とした。つまり、積層構造体は、PET/接着層/高分子圧電フィルム/接着層/PETの5層からなる。
上記積層構造体をピナクル刃で50mm×50mmの正方形に打ち抜いた。そして、得られた積層構造体(50mm×50mm)を85℃で500時間加熱した。その後、室温にて24時間放置し、MD方向へのクラック発生有無を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
A:積層構造体の高分子圧電フィルムにてクラックがない。
B:積層構造体の高分子圧電フィルムにクラックが発生している。
【0189】
<耐湿熱性>
積層体の製造後24時間以内の高分子圧電フィルムの重量平均分子量を測定した(初期Mw)。次に、製造後24時間以内の積層体から、長手方向50mm×幅方向50mmの矩形の試験片を用意し、この試験片を85℃85%RHに保った恒温恒湿器内に吊り下げ、120時間保持した。この試験片について高分子圧電フィルムの重量平均分子量を測定し(耐湿熱試験後Mw)、下記式で表されるMw維持率について以下の基準で評価した。
式: Mw維持率=耐湿熱試験後Mw/初期Mw
〔評価基準〕
A:Mw維持率≧0.6
B:0.6>Mw維持率≧0.35
C:Mw維持率<0.35
【0190】
【表2】
【0191】
実施例1〜4では、高分子圧電フィルムのMD寸法変化率を1.0%以下のフィルム巻層体を作製した。このフィルム巻層体では、加熱したときに高分子圧電フィルムにクラックが発生せず、かつ、高分子圧電フィルムの耐湿熱性が優れている(特に、実施例1)。
一方、比較例1、3では、高分子圧電フィルムのMD寸法変化率を1.0%以上のフィルム巻層体を作製したが、このフィルム巻層体では、加熱したときに高分子圧電フィルムにクラックが発生した。また、比較例2では、枚葉の積層体を作製したが、高分子圧電フィルムの耐湿熱性が不十分であった。
【0192】
2015年3月2日に出願された日本国特許出願2015−040385の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0193】
1、15 ロール状離型フィルム
2、16 離型フィルム
3、13 接着剤
4、14 接着層
5、11 ロール状高分子圧電フィルム
6、12 高分子圧電フィルム
7、17 フィルム巻層体
8、18 塗工装置
9、19 乾燥手段
10、20 フィルム巻層体製造装置
図1
図2