(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408142
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】同所性人工膀胱体内プロステーシス
(51)【国際特許分類】
A61F 2/04 20130101AFI20181004BHJP
【FI】
A61F2/04
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-515798(P2017-515798)
(86)(22)【出願日】2015年9月28日
(65)【公表番号】特表2017-529928(P2017-529928A)
(43)【公表日】2017年10月12日
(86)【国際出願番号】IB2015057424
(87)【国際公開番号】WO2016051330
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2017年12月13日
(31)【優先権主張番号】MI2014A001706
(32)【優先日】2014年9月30日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】516284714
【氏名又は名称】アントニオ・サンブッセティ
【氏名又は名称原語表記】Antonio SAMBUSSETI
(73)【特許権者】
【識別番号】516386764
【氏名又は名称】ジャンニ・カンカリーニ
【氏名又は名称原語表記】Gianni CANCARINI
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ・サンブッセティ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンニ・カンカリーニ
【審査官】
松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−525832(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/057444(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/060911(WO,A1)
【文献】
特表2001−513001(JP,A)
【文献】
特表2013−533017(JP,A)
【文献】
特表2013−529488(JP,A)
【文献】
特表2001−524009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/02 − 2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PGA繊維布地で作られたケーシングであって、患者の尿管に接続するための第1コネクタと、患者の尿道に接続するための第2コネクタと、を有するケーシングを含み、
前記ケーシング内に挿入され、および前記ケーシングから独立している膨張性要素であって、前記ケーシングを適切な位置に支持および維持する膨張形状と、収縮形状と、の間で切替え可能である膨張性要素をも含むことを特徴とする同所性人工膀胱体内プロステーシス。
【請求項2】
前記膨張性要素は、乱層構造の熱分解炭素で覆われた外面を有することを特徴とする請求項1に記載の体内プロステーシス。
【請求項3】
前記膨張性要素は、膨張形状において実質的に球形の形状を有することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の体内プロステーシス。
【請求項4】
前記膨張性要素は、充填流体を導入しおよび抽出するためのバルブを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の体内プロステーシス。
【請求項5】
前記バルブは、前記第1コネクタおよび/または前記第2コネクタから独立していることを特徴とする請求項4に記載の体内プロステーシス。
【請求項6】
前記膨張性要素は、多層シリコーン膜によって構成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の体内プロステーシス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同所性人工膀胱体内プロステーシス(endoprosthesis)に関する。
【0002】
本発明は、患者の膀胱が深刻な難病を患い、正しい機能を損なっている場合、患者の膀胱の代替に利用される。
【背景技術】
【0003】
公知の膀胱体内プロステーシスは、生体適合性および生分解性材料でできた層で覆われた不透過性の層状シリコーン膜で作られたバルーンケーシングを含む。公知技術によると、生体適合性がありかつ生分解性がある被覆材料は、PGA繊維から成る布地である。
【0004】
ケーシングは、十分に堅く、その形状および可撓性を安定して維持することができ、空にするために手動で圧縮することができる。
【0005】
ケーシングは、ケーシングの下部に配置され、患者の尿道と接続する接続要素を有する。同様に、2つの接続体が頂部に配置され、尿管との接続を可能にする。
【0006】
接続体も、生分解性材料で覆われている。
【0007】
患者に体内プロステーシスを埋植した後、ケーシングの被膜の周りに筋繊維組織層または繊維性カプセル(不透過性ではない)が形成され、生分解性材料が分解する。このようにして、体内プロステーシスの周囲に人工膀胱が生成される。
【0008】
吸収の間、移行上皮層が形成されるが、これは尿路上皮とも呼ばれ、不透過性であることが有利である。移行上皮層は、人工器官と形成される人工膀胱の正常な機能を確保するために不可欠である。
【0009】
このタイプの体内プロステーシスの獲得は、複雑および高価である。
【0010】
実際に、生体適合性がありかつ生分解性がある材料で作られた被膜は、シリコーンケーシングに適合するために得られなければならない。
【0011】
事実、ケーシングおよび被膜の正確な相対的サイジングには、極度の精度が必要である。被膜は、コネクタを覆うことも知られている。
【0012】
これは、獲得を複雑に、長く、および高価にする。
【0013】
例えばWO2014/057444にあるような他の公知の解決策は、同所性人工膀胱体内プロステーシスを開示しており、それは十分に堅く、バルーンのような形状の袖口を含み、尿を含むのに適した空間を規定する内面および外面を含む。この解決策によれば、袖口を十分に硬くするのに適した多層シリコーン製の材料の層を使用することによって、袖口の剛性およびそれらの安定した伸長位置が得られ、バルーン形状を維持すると同時に、膀胱自体を排出させることを目的とする外部圧力によって引き起こされる変形を許容するように十分に可撓性がある。
【0014】
別の解決策は、体腔内に挿入されたバルーンの内部に加圧流体を供給するのに適したデバイスとしてWO98/50100に開示されており、病状に冒された前記空洞の組織拡張を可能にし、およびそれを引き起こすことを目的としている。
【0015】
WO2007/075545のような他の公知の文献は、体腔からまたは手術によって得られた空洞から液体を排出するためのカテーテルまたはデバイスを開示しているが、このデバイスは、シャフトと、シャフトの端部に接続された膨張可能なバルーンと、膨張可能なバルーンの外側に配置された透過性の層と、を含み、このシャフトは、排液を排出する導管を含み、およびバルーン内に加圧流体を送り込んでバルーンを膨張させる導管をも含む。
【0016】
別の文献、US4219026は、シャフトに沿って延びる導管または内腔が設けられた細長いシャフトを有する膀胱止血カテーテルを開示しており、それは、伸縮性の材料でできたシャフトの末端部を覆う膨張可能なバルーンをも含み、そのバルーンは、膨張した場合、膀胱を満たし、および必要な圧力を加えて出血を終了させるのに適したほぼ球形を取る。
【0017】
人工膀胱プロステーシスは、FR2759575にも開示されており、そこでは異なる材料でできた内部層および外部層を含む二重層材料でできた収容要素を含み、その異なる材料は、移植拒絶反応を避けつつ、および収容要素の尿が収容要素自体に損傷を与える可能性があるという事実に関連する欠点を回避しつつ、患者体内に収容要素を埋植することを可能にするのに適しており、および更に、その二重層材料は、収容要素自体の堅い形状を保つことを目的として実現される。
【0018】
別の人工膀胱は、WO2007/095193に開示され、そこでは人工膀胱は互いに接合された2つの半球部分を含む構造によって規定され、手術前または手術中に前記部分の操作を可能にし、および前記2つの部分の接続を可能にするのに適した外部フランジが設けられている。
【0019】
膀胱プロステーシスについての全ての公知の解決策は、構造上の観点、埋植または手術などの下で複雑であり、その結果、それらは高価である。
【発明の概要】
【0020】
この文脈で、本発明の根底にある技術的課題は、先行技術の上記の欠点を克服する同所性人工膀胱体内プロステーシスを提案することである。
【0021】
特に、本発明の目的は、製造がより簡単で迅速なる同所性人工膀胱体内プロステーシスを提供することである。
【0022】
指定された技術課題および指定された対象は、添付の請求項の1つ以上に記載された技術的特徴を含む同所性人工膀胱体内プロステーシスによって実質的に達成される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の図面に示されているように、好ましいが排他的ではない具体例の同所性人工膀胱体内プロステーシスの例示的な、したがって非限定的な説明から明らかになるであろう。
【0024】
【
図1】本発明に係る第1形状の同所性人工膀胱体内プロステーシスの概略図である。
【
図2】第2形状の
図1の体内プロステーシスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
添付の図面を参照すると、参照番号1は、本発明に係る同所性人工膀胱体内プロステーシスの全体を示している。
【0026】
体内プロステーシス1は、PGA繊維布地で作られたケーシング2を含む。
【0027】
布地に使用されるPGA(ポリグリコライドまたはポリグリコール酸)は、これでケーシング2が得られるものであるが、好適にはホモポリマーである。PGAは、生体適合性が高く吸収可能なポリマであり、尿に耐性がある。詳細には、PGAの吸収時間は、約1ヶ月である。
【0028】
ケーシング2の布地は、編地、織布または不織布を生じさせる種々の方法でPGA糸を織ることにより得ることができる。
【0029】
好適には、ケーシング2の布地は、編地であり、更に好適には、縦編地である。
【0030】
このような場合、ケーシング2の布地は、粗い表面を有し、網目が十分に小さいネット形状をとることができる。
【0031】
詳細には、その横糸の間質腔は、約0.02mm
2に等しい穴の平均面積に対応する200μm未満、好適には約160μm未満である。これにより、尿の不浸透性が確保され、漏れを防止する。
【0032】
更に、一旦体内プロステーシス1が挿入されると、被膜には血液、特に血漿が含浸され、抗生物質薬物が有効になる。
【0033】
更に、ケーシング2の布地は、好適には、より大きな表面粗さおよびより大きな剛性および不透過性を与えるように織られる。布地の粗さが大きいほど、繊維状カプセルの接着の危険性が限定される。
【0034】
単に一例として、ケーシング2の布地は実質的に0.3mm〜0.6mmの間の、より好適には、0.4mm〜0.53mmの間の、更により好適には、実質的に0.45mmの厚さを有する。
【0035】
更に、ケーシングの布地が得られる糸は、50〜200デニール(denier)の密度を有する。
【0036】
ケーシング2は、実質的に球形であり、吸収性の縫合糸によって患者の尿管に接続される第1コネクタ3を有する。
【0037】
ケーシング2はまた、吸収性の縫合糸によって患者の尿道に接続される第2コネクタ4を有する。
【0038】
ケーシング2は、2つの半球キャップを接合することによって得ることができる。代わりに、ケーシング2は単一片で得ることができる。
【0039】
単に一例として、ケーシング2は、300cm
3〜400cm
3の間、好適には実質的に350cm
3に等しい容積を有する。
【0040】
体内プロステーシス1はまた、ケーシング2内に配置された膨張性要素5を含む。
【0041】
膨張性要素5は、膨張形状(
図2)と収縮形状(
図1)との間で切替え可能である。
【0042】
膨張形状では、膨張性要素5は、拡大し、ピンと張り、および動作可能な形状でケーシング2を支える。
【0043】
膨張形状は、PGAケーシング2の進行性の溶解と同時に生じる人工膀胱の形成に必要な全時間にわたって維持される。
【0044】
通常、前述のように、PGA繊維の溶解に必要な時間は約1ヶ月である。
【0045】
したがって、膨張形状における膨張性要素5は、ケーシング2のための構造的機能を有する。
【0046】
実際に、一例として、膨張性要素5は、膨張した形態で、300cm
3〜400cm
3、好適には実質的に350cm
3に等しい容積を有する。
【0047】
収縮形状は、代わりに、体内プロステーシス1が患者に埋植される前に、体内プロステーシス1を格納するステップ中に選択される。更に、ケーシング2の溶解に続いて、人工膀胱が形成され、膨張性要素5が、例えば、膀胱瘻造設術によって除去されなければならない場合に、収縮形状は、回復される。
【0048】
膨張性要素5は、シリコーン膜によって構成される。好適には、膨張性要素5は、多層シリコーン膜によって構成される。
【0049】
単に一例として、膜は、それぞれが約30μmの厚さの実質的に20の層を含む。
【0050】
膨張性要素5を得る膜は、500μm〜700μmの間の厚さを有し、好適には、膜の厚さは実質的に600μmである。
【0051】
膨張性要素5は、充填流体を収容するための密封容器6の方に向けられた内面5aを有する。
【0052】
さらに、膨張性要素5は、ケーシング2の方に内部に向けられた外面5bを有する。
【0053】
有利には、膨張性要素5の外面5bは、乱層構造の熱分解炭素の層で覆われる。
【0054】
乱層構造の熱分解炭素の層は、0.2μm〜0.3μmの間の厚さを有する。
【0055】
膨張性要素5の外面5bに炭素層を塗布することにより、形成される繊維状カプセルがケーシング2自体に付着する危険性を回避することができる。更に、乱層構造の熱分解炭素の層は、尿によるクラストの形成を防止する。
【0056】
外面5bに炭素層を塗布することにより、尿によって引き起こされる腐食から膨張性要素5を保護することも可能になる。
【0057】
膨張形状では、膨張性要素5は、実質的に球形の形状を有する。
【0058】
膨張性要素5は、バルブ7を有し、バルブ7は、密封容器6の内部への充填流体の導入および抽出を可能にする。
【0059】
単に一例として、充填流体は、生理学的溶液である。
【0060】
膨張性要素5はケーシング2から独立していることが観察される。言い換えれば、膨張性要素5は、ケーシング2から完全に取り外される。更に言い換えれば、ケーシング2と膨張性要素5との間に配置されるいかなるタイプの接続手段も設けられていない。
【0061】
より詳細には、バルブ7は、第1コネクタ3および/または第2コネクタ4から独立している。言い換えれば、バルブ7は、第1コネクタ3および/または第2コネクタ4と全く接続されていない。
【0062】
膨張性要素5は、体内プロステーシス1の製造中に、ケーシング2内に挿入されることも観察される。
【0063】
使用中、本発明に係る体内プロステーシス1は、患者の自然な膀胱が除去されると、例えば重篤な疾患によって損なわれると、埋植される。
【0064】
吸収性の縫合糸によって前述しているように、尿管との接続が得られると、膨張性要素5は、膨張形状になる。これを行うために、外科医は、例えば適切な診断器具を用いてバルブ7を識別し、および患者の尿道を通して生理学的溶液を移送するための管により、第2コネクタ4を通って、バルブ7に達する。次に、外科医は、密封容器6にアクセスして、密封容器6が正しい方法で充填されるまで生理的溶液で満たす。
【0065】
バルブ7が解放され、膨張性要素5の正確な膨張が、その配置と共に確認されると、第2コネクタ4は、吸収性の縫合糸によって尿道に固定され、手術部位が再閉鎖される。
【0066】
この点で、人工膀胱の再建を可能にするために、あらかじめ設定された期間待つ必要がある。
【0067】
前記期間が経過した後、外科医は、手術部位を再び開き、膨張性要素5を収縮形状に戻す。人工膀胱が正常に形成されたので、その機能は終了した。
【0068】
膨張性要素5が収縮すると、外科医は、人工膀胱を切ってその内部にアクセスし、今収縮した膨張性要素5を追跡してそれを抜き取る。
【0069】
その後の人工膀胱および手術部位の再閉鎖は、体内プロステーシス1の埋植操作を完結させる。
【0070】
更に、患者の尿道に挿入される尿排液管(図示せず)を設けることができる。
【0071】
排液管は、患者の括約筋を越えて第2コネクタ4に達し、そこに固定される。排液管の端部は、ダクロン(登録商標)メッシュを含み、接続を達成する。
【0072】
排液管は、シリコーン製であり、クラストを防止するために乱層構造の熱分解炭素の層で(内部および/または外部が)覆われている。
【0073】
排液管は、15cmの最小の長さを有する。
【0074】
排液管は、実質的に円形の断面を有する。内径は、約6mmであり、外径は、約9mmである。
【0075】
このようにして説明された本発明は、あらかじめ設定された目的を達成する。
【0076】
実際に、体内プロステーシスの製造中に、膨張性要素を使用してPGAケーシングに導入することにより、体内プロステーシス自体の達成が大幅に単純化することを可能にする。
【0077】
実際に、吸収性の布地から作られたケーシングおよび膨張性要素は、互いに独立して得られ、特定の手段および精度は必要とされない。