(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
発明の背景
光学波長板(光学位相差板としても公知である)は、偏光された光の偏光状態を制御するための鍵となる光学要素の1つである。これは種々の偏光光学系,例えば光学イメージング、ファイバー光学通信、波面補正、偏光コントローラー、および液晶ディスプレイ(LCD)等において広く用いられてきた。波長板の2つの重要な特徴はその光学レタデーションおよび光学分散である。波長板は強いまたは弱い光学レタデーション値、更に正常(normal)、フラット(flat)または逆(reversed)の光学分散を有することができる。
【0003】
図1は、2つの交差する偏光子1および2の間に挟まれる波長板3を示す。正常入射光について、透過T(出射光)は以下の関係に依存する。
【数1】
(式中、dは波長板厚み;Δn=n
x−n
y、ここでn
xおよびn
yは波長板におけるx方向およびy方向(面内)での屈折率;βは波長板光学軸(すなわちn
x軸)と偏光子1透過軸との間の角度;そしてλ
0は入射光の自由空間における波長である)。偏光子1の透過軸は水平方向であり、一方偏光子2の透過軸は垂直方向である。入射光は偏光しておりまたは偏光していないことができる。出射光Tは通常偏光しており、その透過は2つの項:(i)sin
22β;および(ii)sin
2(πΔnd/λ
0)に依存する。
【0004】
第2の項が一定値を有する場合、Tは波長板の配向に依存するのみである。β=0°または90°である場合、Tは最小であり:β=45°の場合、Tは最大である。一方、第1の項が一定数,例えば1.0、を有する場合、これはβ=45°に対応し、TはΔnd/λ
0に依存するのみである。Δndの項は波長板面内レタデーション,R
eと定義される:
【数2】
従って、正常入射光について、透過TはR
e/λ
0に依存する。関連する面外レタデーションR
thは:
【数3】
(式中、n
zはz方向(面外)における波長板屈折率である)
と定義される。
【0005】
入射光が複数波長を含む場合、全波長,例えば赤(R)、緑(G)、および青(B)の光について同じ透過を実現するために、R
e/λ
0は一定でなければならない。例えば、R
e(R)/λ
0(R)=R
e(G)/λ
0(G)=R
e(B)/λ
0(B)=1/4であり、これはアクロマートまたは広波長域1/4波長板である。
図2は、R
eとλとの間の理想的なアクロマート1/4波長板プロットを示す。
【0006】
波長板のR
eが波長λの増大に従って低減される場合、この波長板は正常光学分散を有する。殆どのポリマー(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、およびポリスチレン)はこの種の分散を示す。波長板のR
eが波長λの増大に従って増大する場合、この波長板は逆光学分散を有する。
【0007】
図2は、理想的なアクロマート波長板が、逆光学分散を有することを示す。実際には、これは実現が極めて困難である(Masayuki Yamaguchiら,Macromolecules 2009,42,9034−9040;Akihiko Uchiyamaら,Jpn.J.Appl.Phys.,Vol.42(2003)3503−3507;Akihiko Uchiyamaら,Jpn.J.Appl.Phys.,Vol.42(2003)6941−6945参照のこと)。LCDの画像品質を改善するために、波長板の光学分散を制御することは重要な役割を演じ、逆光学分散を示す波長板が高度に望ましい。更に、典型的なLCDの複雑性および他の層の分散を考慮し、波長板はしばしば、最適化された光学分散特性を有することが必要である。
【0008】
光学分散を定量する有用な手法は、パラメータA
Re,B
Re,A
Rth,およびB
Rthによるものである:
A
Re=R
e(450)/R
e(550) (4)
B
Re=R
e(650)/R
e(550) (5)
A
Rth=R
th(450)/R
th(550) (6)
B
Rth=R
th(650)/R
th(550) (7)
(式中、括弧内の450、550および650はナノメートル単位での波長である)。理想的なアクロマート波長板について、A
Re=A
Rth=0.818、そしてB
Re=B
Rth=1.182であり、そして分散カーブは
図2に示すような線形直線である。波長板が理想的でない逆分散を有する場合、A
ReおよびA
Rthは1.0未満を有することになり、B
ReおよびB
Rthは1.0超を有することになる。実際には、逆分散を有する殆どの材料は線形関係を有さない。A
Re,B
Re,A
Rth,およびB
Rthがすべて1.0に等しい場合、波長板はフラット分散である。A
ReおよびA
Rthが1.0超であり、そしてB
ReおよびB
Rthが1.0未満である場合、波長板は正常分散を有する。
【0009】
殆どの他のポリマーと異なり、セルロースエステル,例えばセルロースアセテート(CA)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、およびセルロースアセテートブチレート(CAB)から形成された波長板は、しばしば、そのポリマー鎖コンフォメーションおよび化学的組成に起因して逆光学分散を有する。しかし、A
Re,B
Re,A
Rth,およびB
Rthの値はまた、他の要素,例えば波長板を形成するための可塑剤、添加剤、およびプロセス条件に左右される。また、極めて低いヒドロキシルレベルを有するセルロースエステルは正常光学分散を示す可能性がある。
【0010】
幾つかのLCD用途において、より高い光学レタデーションおよびより大きい逆分散を有する波長板が望ましい。この場合A
Re,B
Re,A
Rth,およびB
Rthは理想的なアクロマート波長板に近接する。しかし、我々の検討は、典型的には、より高い光学レタデーションおよびより大きい逆分散を有することの間にはトレードオフが存在することを見出した。一般的に、我々は、波長板がより高い光学レタデーション値を有する場合、波長板はしばしば比較的フラットな分散カーブを示すことを見出した。一方、波長板がより大きい逆分散を示す場合、レタデーションは比較的低く、所定用途についての幾つかの要求に合致することができない。例として、
図3(a)および3(b)は、2種のセルロースエステル(CE)の面内および面外の光学分散カーブを示す。これは低い光学レタデーション(R
e(550)
CE1=31.35nmおよびR
th(550)
CE1=−60.32nm)は、CE2よりも大きい逆光学分散を有する。CE2(これは高い光学レタデーション(R
e(550)
CE2=88.40nmおよびR
th(550)
CE2=−211.20nm)を有する)は、CE1よりも大きいフラット光学分散を有する。
【0011】
従って、高い光学レタデーションおよびより大きい逆光学分散の両者を同時に有する光学波長板に対する当該分野の要求が存在する。本発明はこの要求、更に以下の説明および特許請求の範囲から明らかとなるであろう他のものに対処する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の詳細な説明
本発明に関し、逆光学分散を有する多層フィルムを提供する。該フィルムは:
(a)ヒドロキシル基の置換度(DS
OH)0〜0.5を有するセルロースエステルを含む層(A);および
(b)DS
OH0.5〜1.3を有するセルロースエステルを含む層(B);
を含み、
層(A)および層(B)のDS
OHが両者とも0.5であるとき、層(A)のセルロースエステルが層(B)のセルロースエステルと異なることを条件とする。
【0024】
層(A)および(B)のそれぞれを形成するセルロースエステルは、ランダムまたは位置選択的に置換されていることができる。位置選択性は、セルロースエステルにおけるC
6、C
3およびC
2での相対置換度(RDS)をカーボン13NMRで評価することにより測定できる(Macromolecules,1991,24,3050−3059)。1つのアシル置換の場合、または第2のアシル置換が少量(DS<0.2)存在する場合、RDSは環炭素の積分により直接最も容易に評価できる。2つ以上のアシル置換基が同様の量存在する場合、環RDSの評価に加え、カルボニル炭素の積分によって各置換基のRDSを独立に評価するためにセルロースエステルを追加の置換基で完全に置換することが必要な場合がある。従来のセルロースエステルにおいて、位置選択性は、一般的には観察されず、そしてC
6/C
3、C
6/C
2またはC
3/C
2のRDS比は一般的にはほぼ1以下である。つまり、従来のセルロースエステルはランダムコポリマーである。一方、適切な溶媒中に溶解したセルロースに1種以上のアシル化剤を添加する場合、セルロースのC
6位がC
2およびC
3よりも大幅に速くアシル化される。よって、C
6/C
3およびC
6/C
2の比は1よりも顕著に大きく、これは6,3−または6,2−が向上した位置選択的に置換されたセルロースエステルに特徴的である。
【0025】
本発明において有用なセルロースエステルはセルロースエステルを調製するための任意の公知の手段によって調製できる。
【0026】
層A用に有用なDS
OH 約0.0〜約0.5を有するランダムに置換されたセルロースエステルは第US2009/0054638号および第US 2009/0050842号(セルロースエステルの2種以上のブレンド物を除き、これらの内容は参照により本明細書に組入れる)に記載されている。
【0027】
第US2009/0054638号および第US2009/0050842号のセルロースエステルは混合エステルであり、例えば、アセチル、プロピニル、および/またはブチリルを基にするが、より長鎖の酸もまた使用できる。混合エステルは、処理のための適切な溶解性およびゲル形成低減を与えることができる。非アセチル置換度は、DS
NACという。プロピオニル/ブチリル置換度(DS
(Pr+Bu))はDS
NACの亜属であり、非アセチル基がプロピオニル基および/またはブチリル基である場合の非アセチル置換度を意味する。一態様において、アセチルは主なエステル形成性基である。別の態様において、セルロースエステルはセルロースアセテートプロピオネート(CAP)エステルである。別の態様において、セルロースエステルはセルロースアセテートブチレート(CAB)エステルである。別の態様において、セルロースエステルはセルロースアセテートプロピオネートブチレート(CAPB)エステルである。別の態様において、セルロースエステルは、アセテートの混合セルロースエステルであり、4個より多い炭素原子を有する酸鎖の少なくとも1つのエステル残基(例えばペンタノイルまたはヘキサノイル等)を含む。このような高級酸鎖エステル残基としては、これらに限定するものではないが、例えば、5,6,7,8,9,10,11,および12個の炭素原子を有する酸鎖エステルを挙げることができる。これらとしては、12個より多い炭素原子を有する酸鎖エステルも挙げることができる。別の態様において、4個より多い炭素原子を有する酸鎖の少なくとも1つのエステル残基を含む混合セルロースアセテートエステルは、プロピオニル基および/またはブチリル基を含むこともできる。
【0028】
一態様において、混合エステル系は、総置換度(DS)2.8〜3を有する(すなわち、ヒドロキシルDSは0〜0.2の間である)。別の態様において、総置換度は2.83〜2.98であり、そして更に別の態様において、総置換度は2.85〜2.95である。本発明の別の態様において、総置換度は総ヒドロキシレベルが所望のレタデーション挙動を生じるのに十分低いものである。
【0029】
第US2009/0054638号および第US 2009/0050842号に記載されるセルロースエステルは多くの合成ルートによって調製でき、例えば、これらに限定するものではないが、セルロースの酸触媒エステル化および加水分解が挙げられる。
【0030】
例えば、第US2009/0054638号および第US 2009/0050842号に記載されるように、セルロース(75g)を金属ラボブレンダー内で3バッチで毛羽立たせる。この毛羽立たせたセルロースを以下の4つのパラメータの1つで処理した。
【0031】
前処理A:毛羽立てたセルロースを、酢酸とプロピオン酸との混合物中に浸した。次いで反応を以下に示すように行った。
【0032】
前処理B:毛羽立てたセルロースを1Lの水に約1時間浸した。湿潤パルプをろ過し、4回酢酸で洗浄して酢酸湿潤パルプを得、反応を以下に示すように行った。
【0033】
前処理C:毛羽立てたセルロースを約1Lの水に約1時間浸した。湿潤パルプをろ過し、4回プロピオン酸で洗浄して、プロピオン酸湿潤パルプを得、反応を以下に示すように行った。
【0034】
前処理D:毛羽立てたセルロースを約1Lの水に約1時間浸した。湿潤パルプをろ過し、3回酢酸で、および3回プロピオン酸で、洗浄して、プロピオン湿潤パルプを得、反応を以下に示すように行った。
【0035】
反応:上記前処理の1つによる酸湿潤パルプを次いで2L反応ケトル内に入れ、そして酢酸またはプロピオン酸を添加した。反応物を15℃に冷却し、そして10℃の無水酢酸および無水プロピオン酸の溶液、ならびに2.59gの硫酸を添加した。初期の発熱の後、反応混合物を約25℃で30分間保持し、次いで反応混合物を60℃に加熱した。混合物の適切な粘度が得られた時点で、296mlの酢酸および121mlの水の50〜60℃の溶液を添加した。混合物を30分間撹拌し、次いで、4.73gの酢酸マグネシウム四水和物の、385mLの酢酸および142mLの水の溶液を添加した。この反応混合物を次いで下記に示す方法のうち1つによって沈殿させた。
【0036】
沈殿方法A:8Lの水を添加して反応混合物を沈殿させた。得られるスラリーをろ過して水で約4時間洗浄し、次いで60℃の強制換気オーブン内で乾燥させて、セルロースアセテートプロピオネートを得た。
【0037】
沈殿方法B:4Lの10%酢酸を添加して反応混合物を沈殿させ、次いで4Lの水を添加して沈殿物を硬化させた。得られるスラリーをろ過し、水で約4時間洗浄し、次いで60℃の強制換気オーブン内で乾燥させて、セルロースアセテートプロピオネートを得た。
【0038】
層A用に有用なDS
OH 約0.0〜約0.5を有する位置選択的に置換されたセルロースエステル、および層B用に有用なDS
OH 約0.5〜約1.3を有する位置選択的に置換されたセルロースエステルの例は、第US2010/0029927号,米国特許出願第12/539,817号、および第WO2010/019245号(これらの内容は参照により本明細書に組入れる)に記載されている。
【0039】
一般的に、第US2010/0029927号,米国特許出願第12/539,817号、および第WO2010/019245号は、イオン性液体中でのセルロースの溶解(これは次いでアシル化試薬と接触させる)に関する。従って、本発明について、セルロースエステルは、セルロース溶液を1種以上のC
1−C
20アシル化試薬と、所望の置換度(DS)および重合度(DP)を有するセルロースエステルを与えるのに十分な接触温度および接触時間で接触させることによって調製できる。よって得られるセルロースエステルは一般的に以下の構造を有する:
【化1】
(式中、R
2、R
3およびR
6は、水素(R
2、R
3およびR
6が同時に水素ではないことを条件とする)、または、エステル結合を介してセルロースに結合するC
1〜C
20の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基またはアリール基である)
【0040】
これらの方法で得られるセルロースエステルは、DS 約0.1〜約3.0の範囲、好ましくは約1.7〜約3.0を有することができる。これらの方法で得られるセルロースエステルの重合度(DP)は、少なくとも10である。より好ましいのはセルロースエステルのDPが少なくとも50である場合である。更に好ましいのはセルロースエステルのDPが少なくとも100である場合である。最も好ましいのはセルロースエステルのDPが少なくとも250である場合である。更に別の態様において、セルロースエステルのDPは約5〜約100である。より好ましいのはセルロースエステルのDPが約10〜約50である場合である。
【0041】
好ましいアシル化試薬は1種以上のC
1−C
20の直鎖または分岐鎖のアルキルまたはアリールカルボン酸無水物、カルボン酸ハロゲン化物、ジケテン、アルキルジケテン、またはアセト酢酸エステルである。カルボン酸無水物の例としては、これらに限定するものではないが、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、イソ酪酸無水物、吉草酸無水物、ヘキサン酸無水物、2−エチルヘキサン酸無水物、ノナン酸無水物、ラウリン酸無水物、パルミチン酸無水物、ステアリン酸無水物、安息香酸無水物、置換安息香酸無水物、無水フタル酸、および無水イソフタル酸が挙げられる。カルボン酸ハロゲン化物の例としては、これらに限定するものではないが、アセチルクロリド、プロピオニルクロリド、ブチリルクロリド、ヘキサノイルクロリド、2−エチルヘキサノイルクロリド、ラウロイルクロリド、パルミトイルクロリド、ベンゾイルクロリド、置換ベンゾイルクロリド、およびステアロイルクロリドが挙げられる。アセト酢酸エステルの例としては、これらに限定するものではないが、メチルアセトアセテート、エチルアセトアセテート、プロピルアセトアセテート、ブチルアセトアセテート、およびtert−ブチルアセトアセテートが挙げられる。最も好ましいアシル化試薬は、無水酢酸、無水プロピオン酸、酪酸無水物、2−エチルヘキサン酸無水物、ノナン酸無水物およびステアリン酸無水物の群から選択されるC
2−C
9の直鎖または分岐鎖のアルキルカルボン酸無水物である。アシル化剤は、セルロースがイオン性液体中に溶解した後に添加できる。所望であれば、アシル化試薬はセルロースをイオン性液体中に溶解させる前にイオン性液体に添加できる。
【0042】
イオン性液体中に溶解したセルロースのエステル化において、好ましい接触温度は約20℃〜約140℃である。より好ましい接触温度は約50℃〜約100℃である。最も好ましい接触温度は約60℃〜約80℃である。
【0043】
イオン性液体中に溶解したセルロースのエステル化において、好ましい接触時間は約1分〜約48時間である。より好ましい接触時間は約10分〜約24時間である。最も好ましい接触時間は約30分〜約5時間である。
【0044】
層B用に有用な、DS
OH 約0.5〜約1.3を有するランダムに置換されたセルロースエステルの例は、第US2009/0096962号(参照により本明細書に組入れる)に記載されている。
【0045】
第US2009/0096962号に記載されているセルロースエステルは多くの合成ルートによって調製でき、例えば、これらに限定するものではないが、適切な溶媒中または溶媒の混合物中の、先に調製したセルロースエステルの酸触媒加水分解、および適切な溶媒中または溶媒の混合物中の、先に調製したセルロースエステルの塩基触媒加水分解が挙げられる。加えて、高DS
OHセルロースエステルはセルロースから多くの公知の方法によって調製できる。高DS
OHセルロースエステルのための合成ルートの更なる詳細については、米国特許第2,327,770号;S.Gedonら,“Cellulose Esters, Organic Esters,”Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,Fifth Edition,Vol.5,pp.412−444,2004より,John Wiley & Sons,Hoboken,N.J.;およびD.Klemmら,“Comprehensive Cellulose Chemistry:Volume 2 Functionalization of Cellulose,” Wiley−VCH,New York,1998を参照のこと。
【0046】
一態様において、従来のセルロースエステル(例えば、これらに限定するものではないがCAB−381−20およびCAP−482−20,Eastman Chemical Companyから市販で入手可能)は、有機カルボン酸,例えば酢酸、プロピオン酸、もしくは酪酸、または有機カルボン酸(例えば酢酸、プロピオン酸、または酪酸)の混合物の中に溶解してドープを形成する。得られるセルロースエステルドープは、水および無機酸触媒(例えば、これらに限定するものではないが、硫酸、塩酸、およびリン酸)で処理してエステル基を加水分解してDS
OHを増大できる。
【0047】
上記に記載される同じ加水分解プロトコルは非酸性触媒、例えば塩基に関連する。加えて、固体触媒,例えばイオン交換樹脂を使用できる。加えて、加水分解前に初期セルロースエステルを溶解するために用いる溶媒は、有機酸溶媒ではない有機溶媒であることができる。これの例としては、これらに限定するものではないが、ケトン、アルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、およびN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)が挙げられる。
【0048】
高DS
OHのセルロースエステルを調製するための追加の方法としては、木材またはコットンからのセルロースからの高DS
OHセルロースエステルの調製が挙げられる。セルロースは高純度溶解グレード木材パルプまたはコットンリンターであることができる。セルロースは、代替として、任意の多くのバイオマス源(例えば、これらに限定するものではないがコーン繊維)から単離されることができる。
【0049】
本発明の一態様において、添加剤,例えば可塑剤、安定剤、UV吸収剤、耐ブロッキング剤、スリップ剤、潤滑剤、染料、顔料、レタデーション改良剤等をセルロースエステルと混合できる。これらの添加剤の例は、第US2009/0050842号,第US2009/0054638号,および第US2009/0096962号に見出され、これらの内容は参照により本明細書に組入れる。
【0050】
本発明に係る多層フィルムは溶媒共キャスト、溶融共押出、ラミネート、またはコーティング法により形成できる。これらの手順は一般的に当該分野で公知である。多層構造を形成するための溶媒共キャスト、溶融共押出、ラミネート、およびコーティング法の例は、第US2009/0050842号,第US2009/0054638号,および第US2009/0096962号に見出される。
【0051】
多層構造を形成するための溶媒共キャスト、溶融共押出、ラミネート、およびコーティング法の更なる例は、第US4,592,885号、第US7,172,713号、第US2005/0133953号、および第US2010/0055356号(これらの内容はその全部を参照により本明細書に組入れる)に見出される。
【0052】
多層フィルムは、A−B構造またはA−B−A構造(それぞれ
図4(a)および4(b))にて構成できる。2層構造の場合、層は異なるセルロースエステルを用いて形成される。3層構造では、上部および下部の層を同じセルロースエステルを用いて形成し、中部の層を異なるセルロースエステルを用いて形成する。他の構成,例えばA−X−B(ここでXは接着剤または結合層である)、およびB−A−Bが可能である。各層の厚みは同じまたは異なることができる。各層の厚みを変えることにより、所望の光学レタデーションおよび逆光学分散を得ることができる。延伸前の層Aの厚みは5μm〜50μmの範囲であることができ、延伸前の層Bの厚みは30μm〜100μmの範囲であることができる。
【0053】
所定の面内レタデーション(R
e)値を得るために、多層フィルムは延伸できる。延伸条件,例えば延伸温度、延伸比、延伸タイプ−一軸または二軸、予熱時間および予熱温度、ならびに延伸後アニールの時間および温度、を調整することにより、所望のR
e、R
th,および逆光学分散を実現できる。延伸温度は130℃〜200℃の範囲であることができる。延伸比は、機械方向(MD)で1.0〜1.4の範囲であることができ、横方向(TD)で1.1〜2.0の範囲であることができる。予熱時間は10〜300秒の範囲であることができ、予熱温度は延伸温度と同じであることができる。後アニール時間は0〜300秒の範囲であることができ、後アニール温度は10℃〜40℃の範囲で延伸温度未満であることができる。
【0054】
LCD用の光学波長板等の用途のために、所定の光学レタデーションR
eおよびR
th、更に光学分散が望ましい。よって、本発明の一態様において、一軸または二軸の延伸後の層Aの単層フィルムは、R
e(550) −80nm〜−10nm、R
th(550) 0nm〜100nm、A
ReおよびA
Rth 約1.0〜1.6、そしてB
ReおよびB
Rth 約1.0〜0.6を有する。別の態様において、少なくとも1つの方向における延伸後の層Aの単層フィルムは、R
e(550) 約10nm〜60nm、R
th(550) 約0nm〜−60nm、A
ReおよびA
Rth 約0.5〜1.0、そしてB
ReおよびB
Rth 約1.0〜1.3を有する。更に別の態様において、一軸または二軸の延伸後の層Aの単層フィルムは、R
e(550) −60nm〜−20nm、R
th(550) 0nm〜60nm、A
ReおよびA
Rth 1.2〜1.6、そしてB
ReおよびB
Rth 0.5〜0.8を有する。別の態様において、少なくとも1つの方向における延伸後の層Aの単層フィルムは、R
e(550) 約10nm〜40nm、R
th(550) 0nm〜−40nm、A
ReおよびA
Rth 約0.5〜0.8、そしてB
ReおよびB
Rth 約1.1〜1.3を有する。更に別の態様において、一軸または二軸の延伸後の層Aの単層フィルムは、R
e(550) 約−50nm〜−30nm、R
th(550) 約0nm〜40nm、A
ReおよびA
Rth 約1.4〜1.6、そしてB
ReおよびB
Rth 約0.5〜0.7を有する。別の態様において、少なくとも1つの方向における延伸後の層Aの単層フィルムは、R
e(550) 約15nm〜30nm、R
th(550) 約0nm〜−30nm、A
ReおよびA
Rth 約0.5〜0.7、そしてB
ReおよびB
Rth 約1.2〜1.3を有する。
【0055】
本発明の態様において、一軸または二軸の延伸後の層Bの単層フィルムは、R
e(550) 約10nm〜350nm、R
th(550) 約−100nm〜−400nm、A
ReおよびA
Rth 約0.97〜1.1、そしてB
ReおよびB
Rth 約0.97〜1.05を有する。別の態様において、一軸または二軸の延伸後の層Bの単層フィルムは、R
e(550) 約45nm〜300nm、R
th(550) 約−150nm〜−350nm、A
ReおよびA
Rth 約0.97〜1.0、そしてB
ReおよびB
Rth 約1.0〜1.05を有する。別の態様において、一軸または二軸の延伸後の層Bの単層フィルムは、R
e(550) 約55nm〜280nm、R
th(550) 約−180nm〜−300nm、A
ReおよびA
Rth 約0.97〜0.99、そしてB
ReおよびB
Rth 約1.0〜1.06を有する。
【0056】
一軸または二軸の延伸後、本発明に係る多層フィルムは、R
e(550) 約10nm〜300nm、R
th(550) 約−50nm〜−300nm、A
ReおよびA
Rth 約0.95〜1.0、そしてB
ReおよびB
Rth 約1.0〜1.06を有することができる。他の態様において、一軸または二軸の延伸後の多層フィルムは、R
e(550) 約40nm〜280nm、R
th(550) 約−70nm〜−300nm、A
ReおよびA
Rth 約0.90〜0.97、そしてB
ReおよびB
Rth 約1.05〜1.1を有することができる。別の態様において、一軸または二軸の延伸後の多層フィルムは、R
e(550) 約55nm〜250nm、R
th(550) 約−70nm〜−280nm、A
ReおよびA
Rth 約0.82〜0.95、そしてB
ReおよびB
Rth 約1.06〜1.18を有することができる。
【0057】
上記で報告される波長550nmについてのR
eおよびR
thの値はフィルム厚み30〜120μmを基にする。
【0058】
更に別の態様において、層Aおよび層Bは各々、R
e 0〜280nmおよびR
th −400〜+200nmを有することができる(フィルム厚み30〜120μmおよび光波長550nmで測定したとき)。
【0059】
現在、適切な視野角、コントラスト比、および色シフトを有するLCDを得るために2つ以上の補償フィルムを用いるのが一般的な実施である。例えば、広波長域1/4波長板は、1つの1/2波長板を1つの1/4波長板と組合せることによって実現する。これは
図5に示される(Pancharatnam,Proceedings of the Indian Academy of Science,Sec.A.,Vol.41.,130−136(1955);Tae−Hoon Yoonら,Optics Letters,Vol.25,No.20 1547−1549,2000参照のこと)。
図5中の1/2波長板および1/4波長板の両者は正常光学分散を有する。これらを特定の配向とともにラミネートした後、組合せは1/4波長板および逆光学分散のレタデーションを有する。しかしこの実施は不所望である。これはより多くの材料を消費し、構成が複雑であり、厚いディスプレイをもたらすからである。一方、我々は驚くべきことに、本発明の多層フィルム(例えば
図4(a)および4(b)に示すもの)は、LCDにおいて単独波長板として用いる場合、優れた視野角、コントラスト比、および色シフトを有する光学波長板を提供できることを見出した。更に、本発明のフィルムの個別の層は、逆光学分散を有するための互いに対しての特別な配向を必要としない。
【0060】
よって、別の側面において、本発明は液晶ディスプレイ用の光学波長板を提供する。光学波長板は、逆光学分散を有し、そして本発明に係る多層フィルムで構成されている。
【0061】
更に別の側面において、本発明は、本発明に係る光学波長板を含む液晶ディスプレイを提供する。
【0062】
本発明を以下の実施例によって更に例示できるが、これらの例は例示の目的のみで含まれ、発明の範囲の限定を意図しないことを理解すべきである。
【0063】
例
一般的な手順
溶液調製:セルロースエステル固体および10wt%可塑剤(固形分の総質量基準で)をCH
2Cl
2/メタノール(またはエタノール)の87/13wt%溶媒混合物に添加して、最終濃度5〜30wt%(セルロースエステル+可塑剤基準)を得た。混合物をシールし、ローラー上に置き、そして24時間混合して均一溶液を形成した。
【0064】
単層フィルムの溶媒キャスト:上記で調製した溶液をガラス板上にドクターブレードを用いてキャストして、所望の厚みを有するフィルムを得た。キャストはドラフト内で、45%〜50%に制御された相対湿度で行った。キャスト後、フィルムをカバーパン下で45分間乾燥させて溶媒蒸発量を低減した後、パンを取り除いた。フィルムを15分間乾燥させ、次いでフィルムをガラスから剥がし、強制換気オーブン内で10分間100℃でアニールした。100℃でのアニール後、フィルムをより高温(120℃)で更に10分間アニールした。
【0065】
フィルム延伸をBrueckner Karo IVラボフィルム延伸器で行った。延伸条件,例えば延伸比(MD:機械方向、TD:横方向)、延伸温度、ならびに前加熱および後アニールの時間および温度は、フィルムの最終の光学レタデーションおよび光学分散に影響する。これらの条件を変えて、用途の要求に従った具体的な光学レタデーションおよび光学分散を実現できる。
【0066】
フィルムの光学レタデーションおよび光学分散の測定は、J.A.Woollam M−2000V Spectroscopic Ellipsometer(スペクトル領域370〜1000nmを有する)を用いて行った。RetMeas(Retardation Measurement)プログラム(J.A.Woollam Co.,Inc.より)を用いて光学フィルムの面内(R
e)および面外(R
th)レタデーションを得た。特記がない限り、全ての報告される値は589nmで測定した。
【0067】
フィルムヘイズは、UltraScan XE(HunterLabより)で、標準的な較正および測定の手順を用いて測定した。
【0068】
例1(比較)
この例は、光学波長板における層Bに好適な単層フィルムの光学レタデーションおよび光学分散を示す。
【0069】
一般的な溶液調製に従い、ランダムに置換されたセルロースアセテートプロピオネート(DS
Ac=0.14,DS
Pr=1.71,DS
OH=1.15)を用いて以下の溶液を例1のために調製した:
総固形分 24g
セルロースエステル 21.6g
可塑剤 2.4g トリフェニルホスフェート
総溶媒 176g
塩化メチレン 153.12g
メタノール 22.88g
【0070】
上記の一般的な溶媒キャスト手順に従って、例1のための溶液を用いて単層フィルムを得た。フィルムを100℃および120℃でそれぞれ10分間アニールした後、これらを種々の延伸条件で一軸延伸または同時二軸延伸した。これらのフィルムの延伸条件ならびに光学およびフィルムのデータを表1に列挙する。
【表1】
【0071】
A
Re=A
Rth=0.818およびB
Re=B
Rth=1.182である理想アクロマート波長板に対し、表1中のデータは、これらのフィルムが若干の逆分散のみ示したことを示す。すなわち、これらのフィルムの分散カーブは本質的にフラットであった。
【0072】
例2(比較)
この例は、光学波長板における層Aに好適な単層フィルムの光学レタデーションおよび光学分散を示す。
【0073】
一般的な溶液調製に従い、ランダム(RDS:C
6=0.92,C
3=1.00,C
2=0.96)に置換されたセルロースアセテートプロピオネート(DS
Ac=1.49,DS
Pr=1.44,DS
OH=0.07)を用いて以下の溶液を例2のために調製した:
総固形分 24g
セルロースエステル 21.6g
可塑剤 2.4g トリフェニルホスフェート
総溶媒 176g
塩化メチレン 153.12g
メタノール 22.88g
【0074】
上記の一般的な溶媒キャスト手順に従って、例2のための溶液を用いて単層フィルムを得た。フィルムを100℃および120℃でそれぞれ10分間アニールした後、これらを種々の延伸条件で一軸延伸または同時二軸延伸した。これらのフィルムの延伸条件ならびに光学およびフィルムのデータを表2に列挙する。
【表2】
【0075】
A
Re=A
Rth=0.818およびB
Re=B
Rth=1.182である理想アクロマート波長板に対し、表2中のデータは、これらのフィルムが逆分散を示さなかったことを示す。事実、A
ReおよびA
Rthはすべて1より大きく、一方B
ReおよびB
Rthは1より小さかった。これは正常分散の特徴である。
【0076】
例3(比較)
この例は、光学波長板における層Aに好適な単層フィルムの光学レタデーションおよび光学分散を示す。
【0077】
位置選択的に置換されたセルロースベンゾエートプロピオネート(ここでベンゾエートは主にC
2およびC
3に位置する)を、米国特許出願第12/539,817号に従って調製した。325.26gのトリブチルメチルアンモニウムジメチルホスフェート([TBMA]DMP)を三口の1L丸底フラスコ(機械撹拌、N
2/減圧入口、およびiC10ダイヤモンドチップ赤外プローブ(Mettler−Toledo AutoChem,Inc.,Columbia,MD,USA)を備える)に添加した。フラスコを100℃油浴に入れ、[TBMA]DMPを17時間、減圧下(0.8〜1.4mmHg)で撹拌した。139.4gのNMP(30wt%)を[TBMA]DMPに添加し、次いで混合物を室温まで冷却した。室温で急速に撹拌しながら、34.97gのセルロース(7wt%、DPv(Cuene粘度から評価したときの重合度)1080)を溶液に添加した(9分添加)。混合物を更に3分間撹拌してセルロースを確実に良好に分散させた後、予熱した100℃の油浴をフラスコまで上げた。油浴を上げてから60分後、視認できる粒子はなく、溶液は淡琥珀色であった。セルロースを確実に完全に溶解させるために、撹拌を更に70分間継続した。2.1当量のPr
2O(プロピオン酸無水物)を、セルロース溶液に100℃で滴下添加(28分間添加)した。Pr
2O添加終了の10分後、全部で3当量の安息香酸無水物を液体として添加した(85℃で溶融した)。接触混合物を80分間撹拌した後、IRプローブを接触混合物から取り出した。接触混合物を直ちに、ホモジナイザーで混合しながら2.5LのMeOH中に注ぎ入れた。固形分をろ過で単離し、次いで10回、2L分割量のMeOHで洗浄した後、1晩10mmHg、50℃で乾燥させた。
1H NMRによる分析により、セルロースエステルがDS
Bz=0.29,DS
Pr=2.26,DS
OH=0.45を有することが明らかになった。定量カーボン13NMRによる分析は、生成物が、C
6=1.00,C
3=0.68,C
2=0.84の環RDSを有して位置選択的に置換されたことを示した。
【0078】
一般的な溶液調製に従い、位置選択的に置換されたセルロースベンゾエートプロピオネートを用いて、以下の溶液を例3のために調製した:
総固形分 24g
セルロースエステル 21.6g
可塑剤 2.4g トリフェニルホスフェート
総溶媒 176g
塩化メチレン 153.12g
メタノール 22.88g
【0079】
上記の一般的な溶媒キャスト手順に従って、例3のための溶液を用いて単層フィルムを得た。フィルムを100℃および120℃でそれぞれ10分間アニールした後、これらを種々の延伸条件で一軸延伸または同時二軸延伸した。これらのフィルムの延伸条件ならびに光学およびフィルムのデータを表3に列挙する。
【表3】
【0080】
A
Re=A
Rth=0.818およびB
Re=B
Rth=1.182である理想アクロマート波長板に対し、表2中のデータは、これらのフィルムが逆分散を示さなかったことを示す。事実、A
ReおよびB
Reの値はフィルムが正常分散を示したことを示した。
【0081】
例4(比較)
この例は、光学波長板における層Aに好適な単層フィルムの光学レタデーションおよび光学分散を示す。
【0082】
一般的な溶液調製に従い、ランダム(RDS:C
6=0.85,C
3=0.92,C
2=0.90)に置換されたセルロースアセテートプロピオネート(DS
Ac=0.79,DS
Pr=2.00,DS
OH=0.21)を用いて、以下の溶液を例4のために調製した:
総固形分 24g
セルロースエステル 21.6g
可塑剤 2.4g トリフェニルホスフェート
総溶媒 176g
塩化メチレン 153.12g
メタノール 22.88g
【0083】
上記の一般的な溶媒キャスト手順に従って、例4のための溶液を用いて単層フィルムを得た。フィルムを100℃および120℃でそれぞれ10分間アニールした後、これらを種々の延伸条件で一軸延伸または同時二軸延伸した。これらのフィルムの延伸条件ならびに光学およびフィルムのデータを表4に列挙する。
【表4】
【0084】
A
Re=A
Rth=0.818およびB
Re=B
Rth=1.182である理想アクロマート波長板に対し、表4中のデータは、これらのフィルムが逆分散を示さなかったことを示す。しかし、A
Re(0.49−0.58)についてのより小さい値およびB
Re(1.22−1.27)についてのより大きい値は、スロープが理想アクロメート波長板のものよりも大幅に大きいことを示した(
図2参照)。更に、R
th値(−22から−32)は所定のLCDにおいて用いるのに好適であるには小さすぎた。
【0085】
例5(比較)
この例は、光学波長板における層Aに好適な単層フィルムの光学レタデーションおよび光学分散を示す。
【0086】
一般的な溶液調製に従い、ランダム(RDS:C
6=0.84,C
3=0.92,C
2=0.88)に置換されたセルロースアセテートプロピオネート(DS
Ac=0.04,DS
Pr=2.69,DS
OH=0.27)を用いて、以下の溶液を例5のために調製した:
総固形分 24g
セルロースエステル 21.6g
可塑剤 2.4g トリフェニルホスフェート
総溶媒 176g
塩化メチレン 153.12g
メタノール 22.88g
【0087】
上記の一般的な溶媒キャスト手順に従って、例5のための溶液を用いて単層フィルムを得た。フィルムを100℃および120℃でそれぞれ10分間アニールした後、これらを種々の延伸条件で一軸延伸または同時二軸延伸した。これらのフィルムの延伸条件ならびに光学およびフィルムのデータを表5に列挙する。
【表5】
【0088】
A
Re=A
Rth=0.818およびB
Re=B
Rth=1.182である理想アクロマート波長板に対し、表5中のデータは、これらのフィルムが逆分散を示したことを示すが、異なるスロープを有する(
図2参照)。繰り返すが、R
th値(−29から−45)は所定のLCDにおいて用いるのに好適であるには小さすぎた。
【0089】
例6
この例は、溶媒共キャストによって得た2層光学波長板の光学レタデーションおよび光学分散を示す。
【0090】
ランダム(RDS:C
6=0.92,C
3=1.00,C
2=0.96)に置換されたセルロースアセテートプロピオネート(DS
Ac=1.49,DS
Pr=1.44,DS
OH=0.07)を用いて、以下の溶液を例6の層Aのために調製した:
総固形分 24g
セルロースエステル 21.6g
可塑剤 2.4g キシリトールペンタアセテート
総溶媒 276g
塩化メチレン 240.12g
メタノール 35.88g
【0091】
ランダムに置換されたセルロースアセテートプロピオネート(DS
Ac=0.14,DS
Pr=1.71,DS
OH=1.15)を用いて、以下の溶液を例6の層Bのために調製した:
総固形分 24g
セルロースエステル 21.6g
可塑剤 2.4g トリフェニルホスフェート
総溶媒 176g
塩化メチレン 153.12g
メタノール 22.88g
【0092】
溶液調製のための一般的な手順に従って、層AおよびBのための溶液を独立に調製した。層Bのための溶液をまずガラス板上にドクターブレードで所定厚みでキャストし、パンで5分間カバーした。次いで層Aのための溶液を層Bの上にキャストして、パンで45分間カバーした。カバーパンを取り除き、2層フィルムをガラス板上に更に15分間置いた。フィルムをガラス板から剥がし、次いで100℃および120℃でそれぞれ10分間アニールした。この方法で形成したフィルムを種々の延伸条件下で一軸延伸または同時二軸延伸した。これらのフィルムの延伸条件ならびに光学およびフィルムのデータを表6に列挙する。
【表6】
【0093】
例1に示すように、単層フィルムとして、層Bを形成するために用いたセルロースエステルはR
eについて大きい正の値を示し、R
thについて大きい負の値を示したが、フィルムはフラット分散を示した。例2に示すように、単層フィルムとして、層Aを形成するために用いたセルロースエステルは負のR
e値および正のR
th値を示し、フィルムは正常分散を示した。
【0094】
本発明に従い、2種のセルロースエステルを用いて2層光学波長板を構成した場合、2種のセルロースエステルのR
eおよびR
thの値は相加的であった。本開示で用いる用語「相加的」は2つの値の算術的合計を必ずしも意味せず、単純に、R
eの絶対値が例1に対して低下し、例2に対して増大するという意味で用いる。同様に、R
thの絶対値は例1に対して低下し、例2に対して増大する。顕著にも、ここで2層光学波長板は逆分散を示した。層AおよびBは互いに特別な配向を有さなかったことに留意することが重要である。更に、表6におけるデータが示すように、これらのフィルムは極めて低いヘイズを有する。よって、2層光学波長板は同時に、高い光学レタデーションと逆分散とを与えた。
【0095】
例7
この例は、溶媒共キャストによって得た3層光学波長板の光学レタデーションおよび光学分散を示す。
【0096】
層Aおよび層Bのための溶液は例6におけるものと同じであった。
【0097】
層Aのための溶液をまずガラス板上にドクターブレードで所定厚みでキャストし、パンで4分間カバーした。次いで層Bのための溶液を層Aの上にキャストして、パンで4分間カバーした。次いで溶液Aを用いた第3の層を層Bの上にキャストし、パンで45分間カバーした。カバーパンを取り除き、3層フィルムをガラス板上に更に15分間置いた。フィルムをガラス板から剥がし、次いで100℃および120℃でそれぞれ10分間アニールした。この方法で形成したフィルムを種々の延伸条件下で一軸延伸または同時二軸延伸した。これらのフィルムの延伸条件ならびに光学およびフィルムのデータを表7に列挙する。
【表7】
【0098】
例6と同様に、2種のセルロースエステルを用いて3層光学波長板を構成した場合、2種のセルロースエステルのR
eおよびR
thは相加的であり、逆分散および低ヘイズが得られた。よって、3層光学波長板は同時に、高い光学レタデーションと逆分散とを与えた。各層のためのセルロースエステル、層厚み、ならびに延伸およびアニールの条件を変えることにより、ある範囲のR
eおよびR
th、ならびに逆分散を有する光学波長板を構成することが可能であった。
【0099】
例8
この例は、溶媒コーティングによって得た2層光学波長板の光学レタデーションおよび光学分散を示す。
【0100】
層Aおよび層Bのための溶液は例6におけるものと同じであった。
【0101】
層Bのための溶液をまずガラス板上にドクターブレードで所定厚みでキャストし、パンで45分間カバーした。カバーパンを取り除き、フィルムをガラス板上に更に15分間置いた。次いで層Aのための溶液を層Bの上に層Bよりも大幅に小さい厚みでコートした。次いでコートされたフィルムをパンで20分間カバーした。カバーパンを取り外し、コートされたフィルムをガラス板に更に20分間置いた。フィルムをガラス板から剥がし、次いで100℃および120℃でそれぞれ10分間アニールした。この方法で形成したフィルムを種々の延伸条件下で一軸延伸または同時二軸延伸した。これらのフィルムの延伸条件ならびに光学およびフィルムのデータを表8に列挙する。
【表8】
【0102】
例6と同様に、2種のセルロースエステルを用いて2層光学波長板を構成した場合、2種のセルロースエステルのR
eおよびR
thは相加的であった。例6において、2層光学波長板は溶媒共キャストによって得た。一方この例において、2層光学波長板は、乾燥した層Bを層Aの溶液でコートすることによって得た。表8におけるデータを表6におけるものと比較し、光学レタデーションおよび光学分散が極めて類似することが明らかである。特に、両2層光学波長板は同時に、高い光学レタデーションと逆分散とを与えた。更に、両例におけるヘイズは低かった。よって、この例は、逆分散を有する光学波長板をコーティング法によって作製できることを示す。
【0103】
例9(比較)
この例は、溶媒ブレンドおよびキャストによって得たフィルムの光学レタデーションおよび光学分散を示す。
【0104】
2種のセルロースエステルを含む単独の溶液を、一般的な溶液調製プロセスに従って調製した。溶液中のセルロースエステルは例6におけるものと同じである:
総固形分 24g
セルロースエステルA 2.16gまたは4.32gのランダムに置換されたセルロースアセテートプロピオネート(DS
Ac=1.49,DS
Pr=1.44,DS
OH=0.07)
セルロースエステルB 19.44gまたは17.28gのランダムに置換されたセルロースアセテートプロピオネート(DS
Ac=0.14,DS
Pr=1.71,DS
OH=1.15)
可塑剤 2.4g トリフェニルホスフェート
総溶媒 176g
塩化メチレン 153.12g
メタノール 22.88g
【0105】
上記の一般的な溶媒キャスト手順に従い、溶液を用いて単層フィルムを得た。フィルムを100℃および120℃でそれぞれ10分間アニールした後、これらを種々の延伸条件で一軸延伸または同時二軸延伸した。これらのフィルムの延伸条件ならびに光学およびフィルムのデータを表9に列挙する。
【表9】
【0106】
例6および8と同様に、これらの単層ブレンドフィルムのR
eおよびR
thは相加的な効果を示した。しかし、フィルムヘイズはこの例では例6および8におけるよりも大幅に高かった。より高いフィルムヘイズは、明澄性が重要なLCDでは許容可能ではない。この例におけるより高いヘイズは、ブレンドとして非親和性である2種のセルロースエステルの結果であると考えられる。
【0107】
この例はまた、R
eおよびR
thの相加的な効果を得るために2種のセルロースエステルを密接にブレンドすることは必須ではないことを示す。各層について特定の配向を有さずに共キャスト法またはコーティング法によって形成された別個の層は同じR
eおよびR
thの相加的な効果をもたらすことができる。別個の層を有することにより、非親和性等の問題を回避できる。
【0108】
例10
この例は、溶媒共キャストによって得た3層光学波長板の光学レタデーションおよび光学分散を示す。
【0109】
ランダム(RDS:C
6=0.92,C
3=1.00,C
2=0.96)に置換されたセルロースアセテートプロピオネート(DS
Ac=1.49,DS
Pr=1.44,DS
OH=0.07)を用いて以下の溶液を例10の層Aのために調製した:
総固形分 24g
セルロースエステル 21.6g
可塑剤 2.4g キシリトールペンタアセテート
総溶媒 276g
塩化メチレン 240.12g
メタノール 35.88g
【0110】
ランダム(RDS:C
6=0.55,C
3=0.69,C
2=0.68)に置換されたセルロースアセテートプロピオネート(DS
Ac=1.41,DS
Pr=0.61,DS
OH=0.98)を用いて以下の溶液を例10の層Bのために調製した:
総固形分 24g
セルロースエステル 21.6g
可塑剤 2.4g トリフェニルホスフェート
総溶媒 176g
塩化メチレン 153.12g
メタノール 22.88g
【0111】
溶液調製の一般的な手順に従い、層AおよびBのための溶液を独立に調製した。層Aのための溶液をまずガラス板上にドクターブレードで所定厚みでキャストし、パンで4分間カバーした。次いで層Bのための溶液を層Aの上にキャストして、パンで4分間カバーした。次いで第3の層を溶液Aを用いて層Bの上にキャストし、パンで45分間カバーした。カバーパンを取り除き、3層フィルムをガラス板上に更に15分間置いた。フィルムをガラス板から剥がし、次いで100℃および120℃でそれぞれ10分間アニールした。この方法で形成したフィルムを種々の延伸条件下で一軸延伸または同時二軸延伸した。これらのフィルムの延伸条件ならびに光学およびフィルムのデータを表10に列挙する。
【表10】
【0112】
単層フィルムとして、セルロースエステルはR
eについて大きい正の値を示し、R
thについて大きい負の値を示したが、フィルムはフラット分散を示した点で、この例で層Bにおいて用いたセルロースエステルは例1のセルロースエステルと同様であった。例2に示すように、単層フィルムとして、層Aを形成するために用いたセルロースエステルは負のR
e値および正のR
th値を示し、フィルムは正常分散を示した。例7と同様に、2種のセルロースエステルをここで3層光学波長板を構成するのに用いた場合、2種のセルロースエステルのR
eおよびR
thは相加的である。加えて、3層光学波長板は高い光学レタデーションと逆分散とを同時に与えた。
【0113】
表10におけるデータを表7におけるものと比較し、この例において、A
ReおよびB
Reの値ならびにA
RthおよびB
Rthの値は、理想アクロマート波長板のものとより近いことが分かる。この例は、各層のセルロースエステルが光学波長板の構成における因子であることを示す。
【0114】
例11
この例は、溶媒共キャストによって得た3層光学波長板の光学レタデーションおよび光学分散を示す。
【0115】
位置選択的(RDS:C
6=1.00,C
3=0.68,C
2=0.84)に置換されたセルロースベンゾエートプロピオネート(ここでベンゾエートは主にC
2およびC
3に存在した)(DS
Bz=0.29,DS
Pr=2.26,DS
OH=0.45)(これは米国特許出願第12/539,817号に従って調製したものである)を用いて以下の溶液を例11の層Aのために調製した:
総固形分 24g
セルロースエステル 21.6g
可塑剤 2.4g トリフェニルホスフェート
総溶媒 276g
塩化メチレン 240.12g
メタノール 35.88g
【0116】
ランダム(RDS:C
6=0.55,C
3=0.69,C
2=0.68)に置換されたセルロースアセテートプロピオネート(DS
Ac=1.41,DS
Pr=0.61,DS
OH=0.98)を用いて以下の溶液を例11の層Bのために調製した:
総固形分 24g
セルロースエステル 21.6g
可塑剤 2.4g トリフェニルホスフェート
総溶媒 176g
塩化メチレン 153.12g
メタノール 22.88g
【0117】
溶液調製の一般的な手順に従い、層AおよびBのための溶液を独立に調製した。層Aのための溶液をまずガラス板上にドクターブレードで所定厚みでキャストし、パンで4分間カバーした。次いで層Bのための溶液を層Aの上にキャストして、パンで4分間カバーした。次いで第3の層を溶液Aを用いて層Bの上にキャストし、パンで45分間カバーした。カバーパンを取り除き、3層フィルムをガラス板上に更に15分間置いた。フィルムをガラス板から剥がし、次いで100℃および120℃でそれぞれ10分間アニールした。この方法で形成したフィルムを種々の延伸条件下で一軸延伸または同時二軸延伸した。これらのフィルムの延伸条件ならびに光学およびフィルムのデータを表11に列挙する。
【表11】
【0118】
この例の層Bで用いたセルロースエステルは例10で用いたのと同じであり、これは、単層フィルムとしての点で例1のセルロースエステルと同様であり、該セルロースエステルは大きい正の値をR
eについて、および大きい負の値をR
thについて示したが、フィルムはフラット分散を示した。例3に示すように、単層フィルムとして、層Aを形成するのに用いたセルロースエステルは負のR
e値を示し、そして正または負のR
thの値を延伸条件に応じて示し、そしてフィルムは正常分散を示した。例7および10と同様に、ここで2種のセルロースエステルを用いて3層光学波長板を構成した場合、2種のセルロースエステルのR
eおよびR
thの値は相加的であった。
【0119】
表11のデータを表10のものと比べ、より大きいR
th値がこの例で得られたことが分かる。この例における、A
ReおよびB
Reについて、更にA
RthおよびB
Rthについての値は、光学波長板が、例10で見出されたものとは異なるスロープを有する逆分散を示したことを示す。この例は、各層のセルロースエステルが光学波長板の構成における因子であることを示す。
【0120】
例12
この例は、溶媒共キャストで得た3層光学波長板の光学レタデーションおよび光学分散を示す。
【0121】
ランダム(RDS:C
6=0.92,C
3=1.00,C
2=0.96)に置換されたセルロースアセテートプロピオネート(DS
Ac=1.49,DS
Pr=1.44,DS
OH=0.07)を用いて以下の溶液を例12の層Aのために調製した:
総固形分 24g
セルロースエステル 21.6g
可塑剤 2.4g キシリトールペンタアセテート
総溶媒 276g
塩化メチレン 240.12g
メタノール 35.88g
【0122】
ランダム(RDS:C
6=0.61,C
3=0.72,C
2=0.74)に置換されたセルロースアセテートプロピオネート(DS
Ac=1.24,DS
Pr=0.95,DS
OH=0.81)を用いて以下の溶液を例12の層Bのために調製した:
総固形分 24g
セルロースエステル 21.6g
可塑剤 2.4g トリフェニルホスフェート
総溶媒 176g
塩化メチレン 153.12g
メタノール 22.88g
【0123】
溶液調製のための一般的な手順に従って、層AおよびBのための溶液を独立に調製した。層Aのための溶液をまずガラス板上にドクターブレードで所定厚みでキャストし、パンで4分間カバーした。次いで層Bのための溶液を層Aの上にキャストして、パンで4分間カバーした。次いで溶液Aを用いた第3の層を層Bの上にキャストし、パンで45分間カバーした。カバーパンを取り除き、3層フィルムをガラス板上に更に15分間置いた。フィルムをガラス板から剥がし、次いで100℃および120℃でそれぞれ10分間アニールした。この方法で形成したフィルムを種々の延伸条件下で一軸延伸または同時二軸延伸した。これらのフィルムの延伸条件ならびに光学およびフィルムのデータを表12に列挙する。
【表12】
【0124】
この例の層Bで用いたセルロースエステルは、単層フィルムとして、セルロースエステルは大きい正の値をR
eについて、および大きい負の値をR
thについて示したが、フィルムはフラット分散を示した点で、例1で用いたのと同様であった。例2に示すように、単層フィルムとして、層Aを形成するのに用いたセルロースエステルは負のR
e値、そして正のR
thの値を示し、そしてフィルムは正常分散を示した。この例における層Aは例10で用いたのと同じであった。例10と同様に、ここでセルロースエステルを用いて3層光学波長板を構成した場合、2種のセルロースエステルのR
eおよびR
thの値は相加的であった。
【0125】
この例において、3層光学波長板は同時に高い光学レタデーションと逆分散とを示した。表12のデータを表10のものと比べ、この例でのA
ReおよびB
Reについての値は、分散が例10と比べてより逆分散であったことを示す。この例は、各層のセルロースエステルが、所望の光学レタデーションおよび逆分散を有する光学波長板の構成における因子であることを示す。
【0126】
例13
この例は、溶媒共キャストで得た3層光学波長板の光学レタデーションおよび光学分散を示す。
【0127】
位置選択的(RDS:C
6=1.00,C
3=0.68,C
2=0.84)に置換されたセルロースベンゾエートプロピオネート(ここでベンゾエートは主にC
2およびC
3に位置する)(DS
Bz=0.29,DS
Pr=2.26,DS
OH=0.45),米国特許出願第12/539,817号に従って調製したもの,を用いて以下の溶液を例13の層Aのために調製した:
総固形分 24g
セルロースエステル 21.6g
可塑剤 2.4g トリフェニルホスフェート
総溶媒 276g
塩化メチレン 240.12g
メタノール 35.88g
【0128】
ランダム(RDS:C
6=0.61,C
3=0.72,C
2=0.74)に置換されたセルロースアセテートプロピオネート(DS
Ac=1.24,DS
Pr=0.95,DS
OH=0.81)を用いて以下の溶液を例13の層Bのために調製した:
総固形分 24g
セルロースエステル 21.6g
可塑剤 2.4g トリフェニルホスフェート
総溶媒 176g
塩化メチレン 153.12g
メタノール 22.88g
【0129】
溶液調製のための一般的な手順に従って、層AおよびBのための溶液を独立に調製した。層Aのための溶液をまずガラス板上にドクターブレードで所定厚みでキャストし、パンで4分間カバーした。次いで層Bのための溶液を層Aの上にキャストして、パンで4分間カバーした。次いで溶液Aを用いた第3の層を層Bの上にキャストし、パンで45分間カバーした。カバーパンを取り除き、3層フィルムをガラス板上に更に15分間置いた。フィルムをガラス板から剥がし、次いで100℃および120℃でそれぞれ10分間アニールした。この方法で形成したフィルムを種々の延伸条件下で一軸延伸または同時二軸延伸した。これらのフィルムの延伸条件ならびに光学およびフィルムのデータを表13に列挙する。
【表13】
【0130】
この例の層Bで用いたセルロースエステルは、例12で用いたセルロースエステルと同じであり、例1のセルロースエステルと同様であった(単層フィルムとして、セルロースエステルは大きい正の値をR
eについて、および大きい負の値をR
thについて示したが、フィルムはフラット分散を示した点で)。例3に示すように、単層フィルムとして、層Aを形成するのに用いたセルロースエステルは負のR
e値、そして正または負のR
thの値を、延伸条件に応じて示し、そしてフィルムは正常分散を示した。例12と同様に、ここでセルロースエステルを用いて3層光学波長板を構成した場合、2種のセルロースエステルのR
eおよびR
thの値は相加的であった。
【0131】
表13のデータを表12のものと比べ、より大きい絶対値のR
th値がこの例で得られた。この例でのA
ReおよびB
Reについての値は、光学波長板が、理想アクロマート波長板(A
Re=A
Rth=0.818およびB
Re=B
Rth=1.182)のものと極めて近接する逆分散を示したことを示す。この例は、各層のセルロースエステルが、光学波長板の構成における因子であることを示す。この場合、例12のランダムに置換されたCAPについての、層Aにおける位置選択的に置換されたセルロースベンゾエートプロピオネートの置換は、R
th、A
Re、およびB
Reの値を顕著に変えた。
【0132】
本発明をその好ましい態様に特に関して詳細に説明してきたが、変形および改変を本発明の精神および範囲の中で行うことができることが理解されよう。
本開示は以下も包含する。
[1] (a)ヒドロキシル基の置換度(DSOH)0〜0.5を有するセルロースエステルを含む層(A);および
(b)DSOH0.5〜1.3を有するセルロースエステルを含む層(B);
を含む、多層フィルムであって、
層(A)および層(B)のDSOHが両者とも0.5であるとき、層(A)のセルロースエステルが層(B)のセルロースエステルと異なり、そして該フィルムが逆光学分散を有する、多層フィルム。
[2] 溶媒共キャスト法、溶融共押出法、またはコーティング法によって形成される、上記態様1に記載の多層フィルム。
[3] 1つの層(A)および1つの層(B)をA−B構成で含む、上記態様1に記載の多層フィルム。
[4] 2つの層(A)および1つの層(B)をA−B−A構成で含む、上記態様1に記載の多層フィルム。
[5] アニールおよび少なくとも1方向に延伸されている、上記態様1に記載の多層フィルム。
[6] フィルム厚み30〜120μmおよび光波長550nmで測定したときに、層(A)および層(B)が各々、面内光学レタデーション値(Re)0〜280nmおよび面外光学レタデーション値(Rth)−400〜+200nmを有する、上記態様1に記載の多層フィルム。
[7] 層(A)もしくは層(B)または両者におけるセルロースエステルがランダムに置換されている、上記態様1に記載の多層フィルム。
[8] 層(A)もしくは層(B)または両者におけるセルロースエステルが位置選択的に置換されている、上記態様1に記載の多層フィルム。
[9] 少なくとも1方向での延伸後、フィルム厚み30〜120μmで測定したときに、Re(550)10〜300nm、Rth(550)−50〜−300nm、AReおよびARth 0.95〜1.0、ならびにBReおよびBRth 1.0〜1.06を有する、上記態様1に記載の多層フィルム。
[10] 少なくとも1方向での延伸後、フィルム厚み30〜120μmで測定したときに、Re(550)55〜250nm、Rth(550)−70〜−280nm、AReおよびARth 0.82〜0.95、ならびにBReおよびBRth 1.06〜1.18を有する、上記態様1に記載の多層フィルム。
[11] 逆光学分散を有し、かつ上記態様1に記載の多層フィルムを含む、液晶ディスプレイ用の光学波長板。
[12] 上記態様11に記載の光学波長板を含む、液晶ディスプレイ。