特許第6408229号(P6408229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三工機器株式会社の特許一覧 ▶ アイチエレック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6408229-ステータ用コイルの傷検出装置 図000003
  • 特許6408229-ステータ用コイルの傷検出装置 図000004
  • 特許6408229-ステータ用コイルの傷検出装置 図000005
  • 特許6408229-ステータ用コイルの傷検出装置 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408229
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】ステータ用コイルの傷検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/34 20060101AFI20181004BHJP
   H02K 15/04 20060101ALI20181004BHJP
   H02K 11/20 20160101ALI20181004BHJP
   G01R 31/12 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   G01R31/34 B
   H02K15/04 B
   H02K11/20
   G01R31/12 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-49964(P2014-49964)
(22)【出願日】2014年3月13日
(65)【公開番号】特開2015-175625(P2015-175625A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】390020031
【氏名又は名称】三工機器株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000100872
【氏名又は名称】アイチエレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】服部 哲治
(72)【発明者】
【氏名】真野 鐘治
【審査官】 山崎 仁之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−136070(JP,A)
【文献】 特開昭63−265516(JP,A)
【文献】 実開昭56−030572(JP,U)
【文献】 実開平07−026788(JP,U)
【文献】 特開2005−016958(JP,A)
【文献】 米国特許第04716487(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/34
G01R 31/12
H02K 11/20
H02K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドイミド系樹脂で被覆した被覆電線を用いて、ステータ用のコイルを形成する巻線装置又は巻線されたコイルをステータコアに挿入するコイル挿入装置に適用されるコイルの傷検出装置において、
電圧印加端子と、短絡電流検出端子と、前記電圧印加端子と前記短絡電流検出端子との間に電圧を印加して短絡電流を検出する短絡検出回路とを有し、
前記電圧印加端子の一端は、前記巻線装置又は前記コイル挿入装置の、前記被覆電線に接触する部分に導通するように接続されると共にアース端子をなし、
前記短絡電流検出端子の一端は、リレーを経由して、前記被覆電線の一部に接続され、
短絡検出回路は、前記電圧印加端子と前記短絡電流検出端子との間に24V〜48Vの電圧を印加する直流電源と、短絡電流を検出して所定の条件で警報信号を発生させる手段とを備えており、
前記電圧印加端子の他端は、前記直流電源のプラス端子に接続され、
前記短絡電流検出端子の他端は、前記傷検出装置の内部で、直列に接続された電流制限抵抗とフォトカプラーを経由して、前記直流電源のマイナス端子に接続され、
前記電流制限抵抗と前記フォトカプラーの中点はフィルタ容量を経由して、前記直流電源のマイナス端子に接続されて、前記短絡検出回路が構成されており、
前記警報信号を発生させる手段は、前記フォトカプラーの出力側に設けられた、前記被覆電線の短絡によって発生する電圧パルスの発生回数を計数するカウンターと、前記電圧パルスの発生回数が、予め設定された許容回数を超えると、前記警報信号を発生する論理回路とを備えていることを特徴とするステータ用コイルの傷検出装置。
【請求項2】
前記警報信号を発生させる手段は、前記被覆電線の短絡によって発生する電圧パルスの先頭の立ち上がりをトリガーにして、前記警報を発生する論理回路を備えている請求項に記載のステータ用コイルの傷検出装置。
【請求項3】
前記論理回路に接続された制御装置が、前記警報信号を受信したときには、前記リレーが開いて、前記短絡検出回路の電流経路を遮断し、
同時に前記巻線装置又は前記コイル挿入装置の操作を停止する、
請求項1又は2に記載のステータ用コイルの傷検出装置。
【請求項4】
前記巻線装置又は前記コイル挿入装置の操作が終了したときには、前記制御装置に操作終了信号が送られて、前記リレーが開いて、前記短絡検出回路の電流経路を遮断する請求に記載のステータ用コイルの傷検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆電線を用いて、ステータ用のコイルを形成する巻線装置又は巻線されたコイルをステータコアに挿入するコイル挿入装置に適用されるステータ用コイルの傷検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータにおけるステータは、電磁石としてロータと磁気相互作用し、回転モーメントを発生させる部品である。ステータには、巻線装置やコイル挿入装置によって、被覆電線が巻かれたコイルが装着されている。ステータに被覆電線を巻線する際や、巻線されたコイルをステータコアに挿入する際に、被覆電線が巻線装置のノズルやコイル挿入装置の挿入治具と擦れ合って、絶縁被覆が傷つくと、モータ運転中に、傷のある隣接電線間で、もしくは、傷のある電線とステータコアの間で、局所的に短絡し、異常電流が流れて、モータが焼損する危険性がある。
【0003】
従来、ステータ巻線の絶縁状態を検査する方法として、下記の技術が知られている。特許文献1には、真空容器内で、被覆電線を巻き終えたコイルに500〜1500Vのサージ電圧を印加し、コイルの絶縁不良部でグロー放電を発生させ、コイル端子電圧の振動波形を観測して、コイルの絶縁不良を検知する方法が開示されている。特許文献2には、被覆電線を巻き終えた巻線コイルと鉄芯の間に、800〜1100Vの電圧を印加し、コイルの絶縁不良部でコロナ放電を発生させ、コロナ測定器によってコイルの絶縁不良を検知する方法が開示されている。特許文献3には、コイル巻線装置に、被覆電線の傷を検知する電極を取付け、該電極と被覆電線の間に100〜2000V印加し、被覆電線の傷が前記電極を通過する際に生じるパルス状の放電電流を検出して、被覆電線の傷を検出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−361415号公報
【特許文献2】特許2975039号公報
【特許文献3】特開2008−42147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された方法では、放電現象を利用して絶縁状態を検査するため、検出部に100〜2000Vの高電圧を印加しなければならず、電気安全性を確保するためにコスト高となり、技術的にも下記の問題があった。
【0006】
例えば、ステータ用コイルの直巻線装置では、ボビンから引き出された被覆電線は、複数箇所で、電線ガイド筒又は巻線ノズルより走行方向を変えられ、ステータの内歯に巻き付けられる。被覆電線は、走行方向が変わる場所で、ガイド筒や巻線ノズルと強く摩擦して擦れ合うことになり、被覆電線の絶縁被膜に傷が形成されることがある。
【0007】
このため、直巻線装置においては、傷検出器は巻線ノズルよりも下流に置くことが望ましいが、ここに高電圧を印加する傷検出器を設置すると、機械運動が大きな制約を受けるうえ、安全上も好ましくなかった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、人体に影響のない低電圧で、被覆電線の傷を検出できるようにしたステータ用コイルの傷検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のステータ用コイルの傷検出装置は、被覆電線を用いて、ステータ用のコイルを形成する巻線装置又は巻線されたコイルをステータコアに挿入するコイル挿入装置に適用されるコイルの傷検出装置において、
電圧印加端子と、短絡電流検出端子と、前記電圧印加端子と前記短絡電流検出端子との間に電圧を印加して短絡電流を検出する短絡検出回路とを有し、
前記電圧印加端子は、前記巻線装置又は前記コイル挿入装置の、前記被覆電線に接触する部分に導通するように接続され、
前記短絡電流検出端子は、リレーを経由して、前記被覆電線の一部に接続され、
短絡検出回路は、前記電圧印加端子と前記短絡電流検出端子との間に24V〜48Vの電圧を印加する直流電源と、短絡電流を検出して所定の条件で警報信号を発生させる手段とを備えていることを特徴とする。
【0010】
本発明のステータ用コイルの傷検出装置において、前記電圧印加端子はアース端子をなし、前記直流電源は、前記電圧印加端子の電位を基準にして前記短絡電流検出端子に24〜48Vの負電圧を印加することが好ましい。
【0011】
また、前記傷検出装置の電圧印加端子は、前記直流電源のプラス端子に接続され、前記短絡電流検出端子は、前記傷検出装置の内部で、直列に接続された電流制限抵抗とフォトカプラーを経由して、前記直流電源のマイナス端子に接続され、前記電流制限抵抗と前記フォトカプラーの中点はフィルタ容量を経由して、前記直流電源のマイナス端子に接続されて、前記短絡検出回路が構成されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明のステータ用コイルの傷検出装置において、前記警報信号を発生させる手段は、前記フォトカプラーの出力側に設けられた、前記被覆電線の短絡によって発生する電圧パルスの発生回数を計数するカウンターと、前記電圧パルスの発生回数が、予め設定された許容回数を超えると、前記警報信号を発生する論理回路とを備えていることが好ましい。
【0013】
また、本発明のステータ用コイルの傷検出装置の別の態様として、前記警報信号を発生させる手段は、前記被覆電線の短絡によって発生する電圧パルスの先頭の立ち上がりをトリガーにして、前記警報を発生する論理回路を備えていることが好ましい。
【0014】
また、本発明のステータ用コイルの傷検出装置は、前記論理回路に接続された制御装置が、前記警報信号を受信したときには、前記リレーが開いて、前記短絡検出回路の電流経路を遮断し、同時に前記巻線装置又は前記コイル挿入装置の操作を停止することが好ましい。
【0015】
また、本発明のステータ用コイルの傷検出装置は、前記巻線装置又は前記コイル挿入装置の操作が終了したときには、前記制御装置に操作終了信号が送られて、前記リレーが開いて、前記短絡検出回路の電流経路を遮断することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ステータ用のコイルを形成する巻線装置又は巻線されたコイルをステータコアに挿入するコイル挿入装置の操作時において、人体に影響のない低電圧で、かつ、精度よく、被覆電線の傷を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ステータ用コイル巻線装置の傷検出装置に適用した本発明の一実施形態の回路構成を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施例における巻線ノズルの断面構造を示す模式図である。
図3】ステータ用コイル挿入装置の傷検出装置に適用した本発明の他の実施形態の回路構成を示すブロック図である。
図4】ステータ用コイル巻線装置の傷検出装置に適用した本発明の更に他の実施形態の回路構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明によるステータ用コイルの傷検出装置の実施形態を説明する。図1,2には、本発明をステータ用コイルの巻線装置における傷検出装置に適用した一実施形態が示されている。図1において、100は傷検出装置、300は巻線装置、200は巻線装置300の制御装置を示している。
【0019】
巻線装置300は、巻線装置本体301と、該巻線装置本体301の上方に延出された電線ガイド筒302と、電線ガイド筒302上端に取付けられた巻線ノズル303とを有している。電線ガイド筒302の上端部外周には、ホルダー304を介して、ステータコアSが保持されている。巻線装置本体301の外側には、複数のボビン307が配置され、各ボビン307から被覆電線Wが導出されて、巻線装置本体301内に導入され、更に、電線ガイド筒302の下端から同ガイド筒302内に導入されて、巻線ノズル303から導出されるようになっている。電線ガイド筒302は、図示しない駆動機構により、軸方向に往復スライドすると共に所定角度で往復揺動して、ステータコアSの内歯の回りを周回し、内歯の回りに被覆電線Wを巻付けてコイルCを形成するようになっている。
【0020】
傷検出装置100は、電圧印加端子102と、短絡電流検出端子101と、警報信号出力端子103と、リセット信号入力端子104を備える。傷検出装置100の内部回路は、フォトカプラー105によって、短絡電流を検出するアナログ回路と、検出信号を処理するディジタル回路に分離されている。
【0021】
傷検出装置100において、短絡電流を検出するアナログ回路は、フォトカプラー105と、電流制限抵抗106と、フィルタ容量107と、直流電源108によって構成されている。
【0022】
上記直流電源108は、入力と出力が電気的に絶縁された、DC−DCコンバータを使用することが好ましい。そして、短絡時のサージ電圧から保護するために、直流電源108の出力側のプラス端子とマイナス端子は、図1に示していないが、ツェナーダイオードと電流制限抵抗によって、電圧クランプされていることが好ましい。
【0023】
上記電流制限抵抗106は、1.0kΩ〜3.3kΩであることが好ましい。印加電圧の上限値を48Vとすると、電流値は7.3mA〜14.0mAに制限され、短絡時に電流制限抵抗106で消費される電力は、1.0Wより低く抑えられ、焼損を防ぐことができる。
【0024】
上記フィルタ容量107は、270pF〜470pFであることが好ましい。時定数0.5μs〜1.0μsのノイズを除去し、傷検出装置100の誤動作を防止することができる。
【0025】
上記フォトカプラー105の信号応答特性は、出力遅延時間が3.0μs以下であることが好ましい。
【0026】
傷検出装置100において、検出信号を演算処理するディジタル回路は、フォトカプラー105と、電流制限抵抗109と、NAND回路110と、カウンター111と、論理回路112で構成されている。
【0027】
制御装置200は、警報信号入力端子201と、停止信号出力端子202及びリセット信号出力端子203を備え、コイルの巻取りが終了した時、もしくは被覆電線の傷を検出した時に、巻線装置300を安全に停止させることができる。また、運転再開する時は、傷検出装置100を初期状態にリセットすることができる。
【0028】
次に、装置の相互接続について説明する。
【0029】
傷検出装置100の電圧印加端子102は、巻線装置300の筐体アース端子305と共に、大地に接地されている。この実施形態では、直流電源108に、DC−DCコンバータを用いているため、入力側のマイナス端子を大地に接地し、出力側のプラス端子を大地に接地することによって、出力側のマイナス端子の電位を接地電位に対して、負電圧にすることができる。
【0030】
傷検出装置100の短絡電流検出端子101は、リレー308を経由して、ボビン307に巻かれた被覆電線Wの一端に接続されている。
【0031】
傷検出装置100の警報信号出力端子103は、制御装置200の警報信号入力端子201に接続されている。制御装置200の停止信号出力端子202は、巻線装置300の停止信号入力端子306に接続されている。制御装置200のリセット信号出力端子203は、傷検出装置100のリセット信号入力端子104に接続されている。また、信号線は図示していないが、制御装置200はリレー308を開閉することができる。
【0032】
図2には、巻線装置300の巻線ノズル303の拡大断面図が示されている。被覆電線Wが巻線ノズル303から導出されるとき、図2に示すように、被覆電線Wは、電線ガイド筒302内から90°方向を変えて、水平方向に導出され、更に、ステータコアのスロットに沿って曲げられるため、その曲がり角部において、大きな摩擦抵抗がかかり、被覆電線Wが損傷することがある。被覆電線Wが損傷し、被覆電線Wの芯線が巻線ノズル303に直接接触すると、巻線ノズル303から被覆電線Wの芯線に短絡電流が流れる。仮に、被覆電線Wの最大線速度5m/sに対し、長さ1mmの傷が走行すると、1パルスあたりパルス幅200μsのパルス電流が流れる計算になる。そして、被覆電線Wの傷が、連続して巻線ノズル303を通過すると、短絡電流は繰り返しパルス波形になる。
【0033】
次に、傷検出装置100、制御装置200及び巻線装置300の動作について説明する。
【0034】
巻線作業開始前に、制御装置200のリセット信号によって、傷検出装置100のカウンター111を初期化し、リレー308を閉じる。
【0035】
直流電源108を起動し、短絡電流検出端子101と電圧印加端子102の間に電圧を印加する。傷検出装置の電圧印加端子102は大地に設置されているので、電流検出端子101は負電位になり、巻線装置本体301は筐体アース端子305を経由して大地に設置されているため、巻線装置本体301は大地と同電位になる。直流電源108によって短絡電流検出端子101に印加する電圧は、24V〜48Vであることが好ましい。電圧が24Vよりも低いと傷検出感度が低下し、電圧が48Vよりも高いと感電によって人体が影響を受ける可能性あるので、好ましくない。短絡電流検出端子101に負電圧を印加した時に、短絡電流検出端子101に電流が流れなければ、被覆電線Wに異常はないとして、巻線作業を開始することができる。
【0036】
被覆電線Wの絶縁被覆に傷がなければ、被覆電線Wの芯線と巻線装置本体301は、良好に絶縁されており、フォトカプラー105の入力側に電流が流れないので、フォトカプラー105の出力側にも電流は流れない。よって、論理回路112は警報信号を出力しない。
【0037】
巻線装置300の運転中に巻線装置本体301に付属する治具(例えば、巻線ノズル303)と被覆電線Wが摩擦して被覆電線Wの絶縁被覆が損傷し、被覆電線Wの芯線が、巻線装置本体301と電気的に導通すると、巻線装置本体301から、被覆電線W、リレー308、短絡電流検出端子101、電流制限抵抗106、フォトカプラー105を経て、直流電源108のマイナス端子に短絡電流が流れる。この短絡電流は、過大にならないように、電流制限抵抗106によって制限され、フォトカプラー105と直流電源108は保護されている。
【0038】
フォトカプラー105の入力側に電流が流れると、フォトカプラー105の出力側にも電流が流れ、NAND回路110の入力電圧がHighレベルからLowレベルに変化し、NAND回路110の出力はLowレベルからHighレベルに切替わる。カウンター111は、NAND回路110の出力信号の立下りを検出して、信号のパルス数を計数し、4ビット信号を論理回路112に出力する。論理回路112には、許容パルス数がプリセットされており、許容回数を超えると論理回路112が警報信号を出力し、制御装置200が該警報信号を受けて停止信号を出力し、該停止信号を受けて巻線装置300が停止する。同時にリレー308が開き、被覆電線Wへの電圧印加経路も遮断される。
【0039】
NAND回路110の出力は、論理回路112に直接入力することもできる。この場合、論理回路112は先頭パルスの立ち上がりを検出して、警報を出力する。誤動作を防止するため、デジタルフィルタを用いて、予め設定された所定時間は、入力信号をマスクしてもよい。
【0040】
本発明による傷検出装置100を備えたステータ用コイル巻線装置300は、正常運転時において、巻線装置本体301は大地にアースされ、接地電位に保持されている。一方、被覆電線Wの芯線は、被覆されているため、人体が直接触れる機会はない。被覆電線Wが傷つき、被覆電線Wと巻線装置本体301が短絡した場合、短絡検出回路の閉ループに電流が流れるが、高抵抗の電流制限抵抗106を挿入しているため、電流制限抵抗106よりも上流の巻線装置側は、ほぼ接地電位に保持されたままとなる。本発明による傷検出装置100は、短絡電流検出端子101からボビン307に至るまでの電流経路上にリレー308を備え、傷を検出した時に出力される警報信号によって、リレー308が開いて、回路が緊急遮断され、被覆電線Wに電圧が印加されない、安全停止状態になる。よって、本発明による傷検出装置を備えたステータ用コイル巻線装置300は、感電事故が起こらない、安全設計になっている。
【0041】
そして、ステータ用コイル巻線装置300の操作が終了したときには、前記制御装置200に操作終了信号が送られて、前記リレー308が開いて、前記短絡検出回路の電流経路を遮断する。
【0042】
次に、図3を参照して、本発明をコイル挿入装置の傷検出装置に適用した他の実施形態を説明する。
【0043】
コイル挿入装置400は、ステータコアSの図示しない内歯に対応して環状に配列されたブレード402と、ブレード402の外側に配置されたウェッジガイド403とで構成されるコイル挿入治具401を有する。図示しない巻線装置により、予め巻線されたコイルCは、ブレード402の所定の間隙に挿入されて保持されている。ブレード402の内側にはストリッパ404が配置され、駆動軸405を押し上げることにより、ストリッパ404を上昇させ、ブレード402に引き掛けられたコイルCを、ステータコアSのスロットの所定の間隙に挿入すると共に、ウェッジガイド403の間隙を通して、図示しないウェッジをステータコアSのスロットの開口部内周に挿入するようになっている。
【0044】
そして、傷検出装置100の電圧印加端子102は、コイル挿入装置400の筐体アース端子406と共に、大地に接地されている。また、傷検出装置100の短絡電流検出端子101は、リレー308を経由して、挿入すべきコイルCのリード線の端部に接続されている。制御装置200の停止信号出力端子202は、コイル挿入装置400の停止信号入力端子407に接続されている。また、信号線は図示していないが、制御装置200はリレー308を開閉することができる。その他の構成は、前記実施形態と同様であるので、その説明を省略することにする。
【0045】
この傷検出装置100では、コイル挿入装置400によるコイル挿入時に、例えばストリッパ404でブレード402の間隙を通してコイルCをステータコアSのスロットに挿入する際、コイルCの被覆電線が損傷して傷が発生し、その傷がコイル挿入治具401等に接触してコイル挿入装置400の本体と電気的に導通すると、コイル挿入装置400の本体を通して、被覆電線W、リレー308、短絡電流検出端子101、電流制限抵抗106、フォトカプラー105を経て、直流電源108のマイナス端子に短絡電流が流れる。
【0046】
その結果、前記実施形態と同様にして、論理回路112が警報信号を出力し、制御装置200が該警報信号を受けて停止信号を出力し、該停止信号を受けてコイル挿入装置400が停止する。同時にリレー308が開き、被覆電線Wへの電圧印加経路も遮断される。
【0047】
なお、前記各実施形態では、直流電源108のプラス端子側を大地に接地し、マイナス端子側を、電流制限抵抗106と、フォトカプラー105とを介して、短絡電流検出端子101に接続したが、図4に示すように、直流電源108のマイナス端子側を大地に接地し、プラス端子側を、電流制限抵抗106と、フォトカプラー105とを介して、短絡電流検出端子101に接続してもよい。ただし、この場合には、短絡電流検出端子101がプラス電位をもつため、静電気により、被覆電線Wとの接続部等に、埃が付着しやすくなるというデメリットがある。
<実施例>
図1に示される本発明による傷検出装置を用いて、その傷検出感度を、ステータ用コイル巻線装置(三工機器製FLOW−01)を用いて評価した。傷検出装置100の直流電源108は和泉電気製のDC−DCコンバータ(PSR−BD03048−24)を、フォトカプラー105は東芝製のTLP521−4を使用した。
【0048】
実施例1では、ポリアミドイミド系樹脂で被覆した外径0.90mmの被覆電線を使用した。前記被覆電線は、重量換算200kg相当が、ボビンに巻かれ、一端から他端までの電気抵抗は0.97kΩになる。被覆電線は、あらかじめ、一箇所で、全周に亘って被覆を剥ぎ、人為的に傷を作りこんでいる。本実施例では、被膜が剥ぎ取られ、露出した芯材の長さを、傷長さと定義する。傷検出評価は、傷長さ10mmについて、各5回、実施した。なお、装置側では、電流制限抵抗106において1kΩ、2kΩ、3.3kΩの3水準と、直流電源108の印加電圧において、48V、36V、24V、12Vの4水準を組み合わせた、合計12条件を評価した。この評価結果を表1に示す。表1中、○は、傷を検出したこと、×は、傷を検出しなかったことを表す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示されるように、印加電圧が12Vでは、ほとんど傷が検出できず、24V以上にすることによって、ある程度の精度で傷検出が可能となることがわかる。そして、印加電圧を48Vにすることにより、ほぼ100%の精度で傷が検出できることがわかる。
【符号の説明】
【0051】
100:傷検出装置
101:短絡電流検出端子
102:電圧印加端子
103:警報信号出力端子
104:リセット信号入力端子
105:フォトカプラー
106:電流制限抵抗
107:フィルタ容量
108:直流電源
109:電流制限抵抗
110:NAND回路
111:カウンター
112:論理回路
200:制御装置
201:警報信号入力端子
202:停止信号出力端子
203:リセット信号出力端子
300:巻線装置
301:巻線装置本体
302:電線ガイド筒
303:巻線ノズル
304:ホルダー
305:筐体アース端子
306:停止信号入力端子
307:ボビン
308:リレー
400:コイル挿入装置
401:コイル挿入治具
402:ブレード
403:ウェッジガイド
404:ストリッパ
405:駆動軸
406:筐体アース端子
407:停止信号入力端子
C:コイル
S:ステータコア
W:被覆電線
図1
図2
図3
図4